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墓場と白。  作者: 劣
16/40

?.愛情


徐々に手に力が入らなくなっていく。

陽司ハルジが我が子を抱いて走り去って行った。

どうやら上手く逃げれた様だ。

もうあの可愛い2人の成長を見る事が出来ないと思うと

凄く悔しくて、悲しくなる。

目の前にいる最愛の人すら、もう俺は助けてやれない。


ユウ、くん。』


『あぁ、ここに。ここに、いるよ。』


麗子レイコは、ぐっと目を閉じて痛みに耐えている。

俺の手を握っている手が震えていた。

俺はもう、痛みすらよく分からなくなってきた。

近くで足音がする。

あの2人組はまだいるのか?


ハルくん、なら。大、丈夫だよね…。』


『…あぁ。陽司ハルジには、迷惑ばっか、かけたなぁ。

いっぱ、い、背負わ、せて…。あいつは、俺なんかより。

ずっと、ずっと、強いから。』


麗子レイコに微笑みかけると、微かに口角が上がる。

あぁ、本当なら俺らの手で。

我がの子を育てていくはずだったのに。

今まで年上のくせにぎゃーぎゃー騒ぐ俺らを

なだめたり、呆れながら付き合ってくれた陽司ハルジ


やっと、自立して。仕事も安定して。

新しい家族が出来て。

家族の温かさを一緒に感じれたらって。

幸せにして、やれるって。


『ほんっ、とに、上手くいかねぇなぁ…』


まだ温かい涙が流れてくる。

まだ全部、これからなのに。

後悔してもしても、しきれないほど。

きっといつか。近い将来。

俺らの子供が陽司ハルジを苦しめてしまうかもしれない。


今日の苦しい記憶を、呼び起す引き金になるだろう。

それでも俺らは陽司ハルジに縋るしかない。

俺らじゃ、可愛い我が子のそばにすら居てやれないから。

すると焦げ臭い匂いが鼻をかすめた。


『俺、らは、きっと良い人生とは、言えなかったかもしれない。けど。

…他人から、はそうでも。俺にとっては。』


『……。』


ゆっくり話す俺の手を握ってくれる。

嫌な事は沢山あった。生きる事が苦痛な日々もあった。

それでも麗子レイコと出会って。

陽司ハルジと出会って。新しい家族が出来た。


『…お前らと出会った事だけで、充分。幸せだったよ。

麗子レイコ、ごめんな。もっと、もっと。

幸せにしてやりたかった。』


『…そんな事ない。私だって、些細な事ばかり、だったかも

しれないけど。…確かに、幸せだったよ。』


不意に視界が麗子レイコと炎に包まれた。

あの2人組が自分たちの痕跡を消すために火をつけたのか。

これだとあの2人組の思うツボだろう。

最期くらいは、抗いたい。


『…どうか、見つけてくれっ!!』


崩れいく研究所。

壁が剥がれて少し外の景色が見えた。

その隙間に向かって、近くに落ちていた“あの資料”を投げた。

いつか誰かが、見つけてくれる事を。…願う事しか出来ないけれど。

静かに、あの子らの幸せを願いながら。

ゆっくりと目を閉じた。


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