宿屋にて
第一章 奇妙な収納物 〜strange storage〜
「冒険に出よう!」
宿屋の食堂で朝飯を食べていると、勇者エロムニスがそう言い出した。
「なんで?」
「えっと、実績が無いと王様からの援助が止まってしまうので…」
割と切実だった。
「あ、レプ、ソースとってくれ」
「うむ」
レプは頷くと醤油を渡してきた。
「この世界、醤油とかある世界観なのか…」
面倒なので醤油を掛けながら、レプの様子が昨日と少し違うことに気が付いた。
「あれ、お前眼鏡とか掛けてたっけ?」
眼鏡を装着したレプは勇者の方をちらりと見る。
「ああ、私がお願いしたの。
眼鏡を掛けとけば賢く見えるかと思って…
賢者と呼ばれるレプロプロギスの知能が低いことがバレてしまうと、最悪王様からの援助が止まってしまうかもしれないの」
割と切実だった。
「つか、なんでこいつが賢者なんだ」
「私も伝え聞いただけだけど、賢者にしか開けられない筈の扉を開けたからとか」
「そうなのか?」
俺がレプの方を見ると、レプは笑顔で答える。
「なんか、殴ったら開いた!」
「あ、このベーコン美味しいです」
「ホントだ。美味しいな」
ベーコンを美味しそうに頬張るリアムに同意して、朝食を食べ進める。
「あ、話を逸らさないで!
冒険に行こう!」
話を逸らされていることに気付いた勇者が、再度冒険を提案してくる。
面倒だ。
いや、逆にチャンスか。
物理攻撃しかできないこいつらに相性の悪い場所に行って、こんなパーティーに居られるか!って言って抜け出そう。
「まあ、良いぞ。
ただし俺にも目的があることは話したよな。
俺は海の向こうの最北の地、ニヴルヘイムに行って、やりたいことがあるんだ。
付いてこれないと言うのなら、俺はこのパーティーを抜ける」
「ニヴルヘイムなら全然オッケーだよ。
私たちの最終目的の魔王もそこにいるしね。
ちなみに、何しに行くの?」
耳聡くエロ勇者が目的について追求するしてくる。
「あるものを捨てに行く」
「あるものって?」
「あるものだ」
「あるものって?」
「…黒歴史ノートだ」
根負けした俺がそう言うと、勇者は何やら慈愛に満ちた目で俺を見てくる。
「そう…。
まあ、そういう時期は誰にでもあるもの。
恥ずかしがらなくて大丈夫」
鬱陶しいことこの上ない。
「と、いう訳で俺はこれから幽玄の森を通ってこの国を出て行く。
付いてくるなら好きにしろ」
「分かった。
二人もそれで大丈夫だよね」
「うむ」
「了解です」
結局付いてくるようだ。
まあ、あの森は物理攻撃が効かないゴースト系のモンスターが多い。
こいつらは音を上げて途中で引き返すだろうから、俺は先に進むとしよう。
ここは南半球にある世界最大の大陸、テラ・アウストラリス。
国土は南半球の半分を占めるとも言われ、大陸の西は砂漠が広がり、東は高高度の山々が連なる。
南端は南極圏にも達して氷に覆われており、北部は赤道直下の亜熱帯気候となっている。
大陸の中心に世界最大の内陸海が存在し、今俺たちが居るところはその内陸海の真下辺り。
南極圏から少し距離はあるものの、厚着をしなければ寒いくらいの国、モロニア。
内陸海の港町として栄えたこの国は、大陸東部のムーン山脈、大陸西部のカンミ砂漠へと繋がる経路を持つ重要位置にある。
内陸海は巨大なモンスターが出るので海路としては使えない以上、北へ行くには山か砂漠のどちらかを通って行かねばならない。
幽玄の森はモロニアとムーン山脈の間に広がる森で、ゴースト系モンスターが非常に多く出てくる。
あの勇者連中を撒くには丁度いいだろう。
部屋に戻って旅支度を整えながら、これからの算段を考えていく。