終わりの始まりと始まりの終わり
「足りないものが多すぎる…」
「そうだな」
腕を組んだ状態のレプレプロギスさんがうんうんと頷く。
この人なんだか魔法使いなのに知能が低そうな気がするんだけど。
「ちなみに、レプレプロギスさんは何が足りないと思う?」
「前衛が足りない!」
輝くような笑顔で元気良く言い放つレプレプロギス。
「いや、前衛は足りてるよ…」
あまりにも自信満々なので、間違っているのはこっちなんじゃないかと一瞬思ってしまったのが悔しい。
めっちゃ悔しい。
「そうか。あと名前なんか長いからレプでいいぞ
長いので私もたまに間違えるし」
「お、おう」
レプはちょっと駄目かもしれない。
「ち、ちなみに勇者は何が足りないと思うんだ?」
「私的には荷物持ちの人が居てくれればそれで」
死んだ目でそう呟く勇者。
こ、こいつ、疲れている…。
考えることを辞めている。
「じゃあ、リアム?だっけ?
このパーティーに何が足りないと思う?」
「うーん?」
金髪少女は眉を寄せるようにして懸命に考える。
きっと何が足りないかは分からないだろうが、考えることの大切さはわすれないで成長して欲しいものだ。
「……ちのう?」
「ちが…いや、うん?
合ってるか?
合ってるような気がしてきた」
どうせ間違えるだろうと思って構えていたが、俺が想定していた答えよりも更に真理に近いところを突いてきた。
この少女、侮れないかもしれない。
「知能ではないのですね。
リアム、ちょっぴり間違えてしまいました」
「いや、もう少し自信を持って良いと思うぞ」
「やはり前衛か…」「やはり荷物持ち…」
「お前らは謙虚にな」
何だか無性にこのパーティーから逃げたくなってきた。
理由は俺にも分からない。
しかし、これ以上このパーティーに居てはいけないと俺の第六感が警鐘を鳴らしている。
逃げよう。
「あ、ごめん。ちょっと用事思い出したんで俺ちょっと行くわ…」
「待って」
俺が踵を返し、そそくさとその場を退散しようとすると、呼び止められた。
「貴方の名前は?」
「そんなん指名手配されてんだから知ってるだろ。
俺はトルス。
トルス・レーギャルンだ。
趣味は蒐集、特技は収納。じゃあまたな」
「指名手配されてるんだから一緒に来ればいいのに」
「お前ら以外からなら余裕で逃げられるから大丈夫さ」
そう言ってその場を後にした。
勇者達はアホだから気付いてなかったようだが、この世界では連絡手段が限られているので、一度別れてしまえば再会は困難なのだ。
今日のところは宿屋に泊まって、明日にでもこの国を出るとしよう。
俺は顔を隠すようにローブを深く被り、宿屋にチェックインする。
勇者パーティーとはこれで金輪際おさらばだ。
おっぱいを揉めなかったなのは残念だが仕方がない。
翌朝。
鼻腔を甘い香りがくすぐる。
目を開ければ宿屋の天井が視界に入る
…はずだったのに目前に広がったのは、俺の寝顔を覗き込んでいた少女勇者の顔だった。
「なんで…?」
「私の追跡スキルで居場所が分かる」
えぇ…?
こわっ。
勇者こわっ。
こいつめっちゃスキル持ってんな。
町でこいつらを振り切れなかったはそのせいか。
「そもそも何で部屋の中に…?」
寝起きで働かない頭を総動員して考える。
分からん。
「勇者特権の一つ」
かつての伝説の勇者の中に、民家のタンスを漁っていた勇者がいたという。
それにより、勇者は他人の家屋に入りタンスを漁る権利を有しているのだそうだ。
勇者というのは、犯罪者の隠語か何かではないのだろうか。
何はともあれ、これで俺は勇者パーティーから逃げられなくなってしまった訳だ。