はじまり
「見つけた!指名手配犯!」
煌びやかだが実用性のあるプレートメイルをガチャガチャと鳴らしながら、勇者の名を冠する年端も行かぬ少女がお尋ね者を追っている。
銀色の長髪を揺らしながら疾走する勇者に追随するように、ローブを着込み杖を持った長髪の魔法使いと思しき女性と、ミニスカに魔改造されたシスター服の金髪少女が駆ける。
勇者と呼ばれる少女の赤い瞳が、前方を逃走する人物の背中を捉えた。
「うおおおおお」
そして勇者、魔法使い、シスターの3人の女から追われる男。
オレだ。
年甲斐もなく情けない叫び声をあげながら、俺は夜の街を逃げ回る。
女性に追いかけられるというシチュエーションは悪くないが、出来ればもっとお淑やかな女性を希望する!
しかし聞いて欲しい。
俺が国のお偉いさんから指名手配されて、こうして追っかけ回されてるのには訳があるのだ。
あれは確か5年前──、
「相手が回想に入ろうとしている!今だ!」
俺は背後から弾丸のように跳んできた少女の勇者タックルを食らい、地面を転がった。
「ぐっ、回想中に攻撃するのは反則だろ!」
「回想に入る前だったからセーフだよ」
少女勇者がそう宣言すると、彼女と一緒にいた魔法使いと思しき女性とシスターもどきの少女に取り抑えられた。
こいつらも後衛職なはずなのに足速え…。
「誤解だ。聞いてくれ」
「聴く」
意外にも、少女は素直に聞く姿勢を見せる。
勇者ってのはもっと融通効かなそうなイメージが有ったが、今は有り難い。
「何年か前に、俺は凄く悪い奴を懲らしめる為にあるものを盗ん……拝借したんだ。
そしたら、国の大臣の一人がその悪い奴と繋がってたみたいでな。
適当に罪をでっち上げられて指名手配になってしまったのだ」
自分でもちょっと苦しいと感じる言い訳を言う。
ちょっとぼかしたが、嘘は言っていない。
「ふむ」
少女勇者は顎に指を当てて何かを考え込むように唸る。
「嘘は言っていないみたい」
「そうか。では放してやろう」
「了解です」
3人は各々そんなことを呟くと、俺を拘束していた手をぱっと放した。
信じるのか…。
本当のことだけども。
「良いのか?」
俺の問いかけに、勇者は少し困ったような表情を作る。
「残念ながら今の私達では大臣並みの発言力は無いから、貴方の冤罪を取り消してあげることは出来ない。
なので、貴方の濡れ衣が晴れるまで私達のパーティに加入して貰いたい」
勇者パーティへの加入。
それは勇者へ与えられたとある特権により、とても魅力的に思えた。
勇者特権。
かつて重罪人を引き連れて魔王を倒した実績を持つ勇者が居た。
その故事来歴より、如何なる重犯罪者であろうとも勇者のパーティメンバーである限りはその罪を問われないという特権が存在するのだ。
「折角の誘いだが、俺は行かなければならない所が有るんだ」
「その場合、私達は貴方を見逃すことは出来なくなる」
「構わない」
俺は鋼の意志で勇者からの誘いを断った。
なあに、逃げる算段ならある。
その時、長髪の魔法使いと思われるお姉さんが一言呟いた。
「私達のパーティで荷物持ちをやってくれるなら、私の胸を揉んで良いぞ」
「入ります!!!」
魔法使いのふくよかな胸を寄せての発言に、俺の鋼の意志は惜しくも僅差でギリギリのところで敗れ去った。
「むー」
少女勇者が自らの平野と魔法使いの山脈を見比べながら、ジト目で俺のことを睨む。
知らんし。
かくして俺は魔王を倒すという正義の心から、勇者パーティに荷物持ちとして参加することになった。