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序章~運命の出逢い~

 4月の雨上がりの朝、爽やかな風を受け銀髪の紳士が軽く汗をかいているのか、ダンヒルのグレージャケットを手に持ち歩いている。ベストの胸元は筋肉で盛り上がり、彼の強い体躯を物語っている。イングランドサッカー・フットボールリーグ・チャンピオンシップ所属『ロンドン・ユナイテッド FC』会長に就任した、原澤 徹は若干脚を重たげに母国の日本サッカー協会へ向かっていた。久し振りの日本、生きて故郷の地に脚を踏み入れることなど、考えもしなかった。家族のために心血を注いだ人生が離婚で一遍してしまった。酒に逃げ自堕落な生活を送っていたのだが、彼は自らを鍛え直すべく民間軍事会社『PSC』に入隊することになる。元嫁に怒ることも出来ない気弱な男が、軍隊など務まるとは思っていなかった。ただ、彼を突き動かしていたのは、離ればなれとなった子供への無実を伝える父親としての意地だったのかもしれない。だが、戦場は地獄だった。目の前で知人が、殺される真実。「助けて・・」と言われてもどうすることも出来ず、死を見続ける無念さ。先程まで生きて話していた戦友が、目前で肉片に替わる惨さ。殺さなければ、殺される恐怖。全てが凄惨を極めた。なのに、戦場の中で組み伏した相手を殺すことが快感になることを知ってしまった時、彼は戦場から離れた。殺人者とならないために・・

 そんな荒廃した自分の人生がまさか、花形のサッカークラブチームの会長という仕事に就くなど考えようとしても出来るものではなかった。ただ、導かれるままに彼は日々を送っているだけなのだが、何か得体のしれない運命的なものを感じ始めていた。と、コンビニを見付けておにぎりを購入するため近くに来た時だった、彼は、コンビニに入ろうとする一人の女性を目にし、背中に電撃を受けたような衝撃を感じる。

 透き通るような白い肌に栗色の髪と栗色の大きな瞳、品のある整った高い小ぶりの鼻に情感のこもった張りのある朱い唇の小さな顔は、彼が今まで見て来た女性の中でもズバ抜けている。オフショルダーブラウスのすみれ色のトップスが、清潔感を感じさせた。

徹(凄いな・・モデルか?日本も捨てたもんじゃないな・・)

 一人想像し、彼は彼女に遅れて店内に入った。店内は、出勤時間が重なっていることもあってかなりの混雑で、彼は久しぶりのコンビニに驚き視線を彼方此方へと移す。すると、先程の若い女性が週刊誌のコーナーにいるのが目に入った。直立し真剣に雑誌を探す姿は、何時迄も見ていられる気がした。彼は、鼓動を高めながら女性の背後を擦れ違う、と、ベビードールの甘い香りが彼の鼻腔を擽ってきた。血、汗、排泄物、腐臭等の汚臭に塗れていた人生を一気に塗り潰す、当に破壊力がそこにあった。軽く息を吸い込んでしまい、女性が振り向く。彼は(あ、スミマセン・・)と、慌ててその場を離れた。御茶とおにぎりを選び、店内を回ってレジの長い列に並んだのだが、奇跡的に先程の女性が目前に並んでいた。改めて背後から彼女の全身を見て、溜息が漏れた。括れた足首に踵の高いサンダルを履き白く細い脚がのぞいている。スキニーの白いパンツは、直線的で、O脚でもX脚でもない、そして、括れたウエストの下に、小ぶりで持ち上がったヒップが自信ありげに揺れていた。

徹(この姿勢の良さは、剣道か?)

 彼は、彼女の凛とした姿勢に嘆息する。やがて、彼女の支払いになった時、挙動がおかしいことに気付いた。バック、ポケットを探しているがおかしい、無いのであろうか?

財布が・・後方で並んでいる男性客が「何やってんだよ!」「チッ!」と舌打ちするのさえ聞こえた。女性は、耳朶まで朱に染めて慌てている。彼は、そんな彼女を可憐で愛おしくさえ感じていた。

女性「・・スミマセン、外の車内に財布忘れてきてしまって、支払いを後に・・」

レジの女性「はい、勿論。お預かりします。次の方、どうぞ。」

女性「スミマセン・・」

彼女は、徹に頭を下げると足早に店外へと出て行った。思わずその後ろ姿を目に焼き付ける。

レジの女性「どうぞ。」

徹「あ、失礼。」

彼は、おにぎりとお茶をレジカウンターに置くと、ある事に気付いた。ファッション誌の下に生理用ナプキンがあることに・・

徹「先程の女性の品物も一緒の会計にして下さい。」

レジの女性「えっ?」

徹「そこに置いていると・・ね。それに急いでいると思うよ。あ、ついでに、この温かいミルクティーも入れてあげて。」

レジの女性「・・でも・・」

徹「雑誌の下に隠しているとはいえ、女性としては見られたくない物だろ?混んでるし、さ、早く。」

レジの女性「宜しいのですか?」

徹「ええ。」

会計を済まし、レシートを受け取り店外に出ると目前の黒い車の助手席の開いた扉から、先程の愛らしい小ぶりのヒップが突き出て揺れている。

徹(おやおや、挿れたくなるなぁ。良いケツしている・・)

女性「孝彦さん、そこの財布取ってぇ〜!」

男性「また、忘れたのか舞!」

徹(彼氏付きか・・)

女性は、車に同乗していた彼氏からサイフを受け取ると、店内へと急いだ。店内に入った女性が、レジに並び直そうとした時だった。

レジの女性「お客様、こちらを。」

ビニールに入った品物を渡そうとしている。

女性「あ、でも、並び直しますから・・」

レジの女性「お会計は、先程、後ろの男性が済ませてくれましたよ。」

女性「えっ?」

レジの女性「商品を拝見されてて『急いでいるだろうから』と。」

女性「でも・・」

女性客「ちょっと、早くしてくれない?」

レジの女性「どうぞ。」

女性「あ、はい・・スミマセン。あ、あのう、その男性はどちらに?」

レジの女性「先程、出て行かれましたけど・・」

女性「ありがとうございます。」

彼女は、店員の女性に御礼を言うと店の外に出て、辺りを見回してみた。買い物袋を持ったそれらしい男性は、見当たらなかった。急な生理の予兆に、購入を憚られて雑誌を一緒に購入したのに、それを気にしてくれた男性とは、どんな人なのだろう?

彼氏「早かったね、どうしたの?」

なかなか車内に戻らない彼女を心配して、運転席の彼、間宮 孝彦が迎えに出ていた。

女性「うん、ちょっと・・」

彼氏「で、トイレ大丈夫なのかい?」

女性「あ、そうだ!ちょっと、行ってくるね。」

彼氏「おいおい。」

 孝彦は、呆れ顔で車内へと戻って行く。女性は、店の入り口で再度周りを見回してから店内に入った。レジに近づくと、無言で店員の女性にトイレの方向を案内された。女性は、軽く会釈すると、先程の雑誌コーナーに脚を踏み入れた。とその時、背後で人の気配がしたことを思い出した。

女性(あの時の人かしら?)

 女性は、窓の外の景色に視線を送った。ガラスに写ったその端整な顔の口元右上には、可愛らしいホクロが、女性と同じように控えめに存在していた。

1話へ続く

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