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「気がつきました?」
目を開けると、あの忌々しい牢の中にいた。
鎖も全く同じで、隣には女の子が座っている。
黒髪黒目の女の子。心配そうにこちらを覗き込んでいた。
「あなたは?」
「私はアン・マリー。お父様は宮廷魔法使いのアーガイル。シャルル様との婚約破棄をお断りしたら、ここに入れられたのです」
名前は違う、容姿は黒髪黒目の女の子、最後に見えた顔と同じだった。
「私はリリシア、闇の魔法使い、貴方の国の王に騙されて連れてこられたの。あなたのお父様だと王に騙されて……」
「お父様だとだまして?」
「ええ、あなたのお父さんはどこにいるの?」
「いえこの三日見ていません」
捕らえられているのは本当で、後この子のお父さんが宮廷魔法使いと言うのも本当だった。
真実に嘘を混ぜる。これが一番厄介だ。
真実味があるから騙されてしまう。
「あの王は何を求めているの?」
「シャルル様との婚約を破棄することです」
「婚約?」
「ええ、シャルル様は末の王子、父は隣国の魔法使いでしたが、陛下は父をこの国に招いた時、末の王子をと娘を添わせようと約定を」
「謀られたわけね」
「父はどこに?」
「あなた、名前はアン・マリーよね? お父様はどこにいったか知らないの?」
「ここに閉じ込められてから会っていません」
嘘に真実を混ぜる。この人のお父さんはどうなったのか?
さすがに殺してはいないことを祈りたい。
「シャルル王子との婚約を破棄、というか解消してほしいと?」
「そうですね、私から申し出をしてほしいと」
「シャルル王子は嫌だと言っているのね?」
「はい、陛下を説得するからと、そうこうしているうちに」
「閉じ込められたっけわけ?」
「はい」
しかし鎖付きとは趣味が悪い。
ここは魔力封じの塔だが、牢内の空間に封じがあるようだ。
昔は魔力はこの部屋じたいにかかっていたが……。
いやあの塔と同じとは限らない。
だって記憶によると消えた王国は北の果てだったのだから、ここは西の方角にある。
『逃げようリル』
手を差し伸べたあの人を思い出す。
駄目と首を振ったことも思い出す。
ここにはいたくない気が狂いそうになる。
「食事は与えられますが、シャルル様がどうなったのか気になって」
「私に先ほど何か言ったようだけど覚えてる?」
「いえ? 気を失ってたので」
「そう」
話を整理すると、どうも私をだます為にこの子を捕らえたわけでもなさそうだった。
元々捕らえてから闇の魔女を捕らえることを考えたのかもしれない。
そういえば王からの招致というか、誘いは来ていた、断ったのが半年前。
あの時にきちんと調べていたらよかった。
反省をしても仕方がない。
アン・マリーは元々隣国の下級貴族の令嬢で父と一緒に10年前にここにきて5歳で婚約したらしい。
王には息子が5人いたから、一人位魔法使いを手に入れるためにはいいと考えたのだろう。
「お父様はどうなったのかしら……」
「ここから出ることを考えた方がいいと思う」
鎖がないということはこの子のほうが脱出できる可能性がある。
しかし、前世は出ようとは思わなかった。
今は違う、絶対にここから出ないと何をされるかわからない。
2日たったら精霊クロスが解放される。
解放された状態で願いをかなえさせようと拷問でもされたら……あいつのことだこの王国の人皆殺しにしかねない。
「早計だったか」
「リリシアさん?」
「こっちの話、私も甘いということか」
11歳の時から老いた魔法使いとともにいた。
3年たって魔法使いが殺され、私は一人森で暮らした。
しかし年齢を重ねたものには敵わない、私はどうしても人の姦計を見破れない。
甘すぎるのかなと思ってため息をついた。前世の記憶を思い出し不安に苛まれる。
死にたくない、助けてと思った瞬間、重い扉が開いて知らない人の姿が見えたのだった