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「ここは……」


 私が前世閉じ込められていた塔が目の前にあった。

 暗い塔はらせん階段が続き、最上階には小さな窓だけがあるはずだ。


 こんな建物があったなんて。


「どうした魔女殿?」


「いいえ……」


 塔の上に牢屋に閉じ込められ、絶望の眼差しで愛しいあの人を見た。

 王宮も前世の記憶とほぼ同じ、いやこの国にきたのは1年前でほぼ外には出ていなかった。

 私の生まれた国は遠い東の地にあるからだ。

 お前の運命が魔女の森で待っていると牢魔法使いが言った一年前、私は魔女の森の奥しか知らなかった。


「こんなこんな……」


 魔女の名前はリリシア、愛しいリリーと両親は呼んだ。

 母の先祖はある王族だったらしい、それもまた私は知らないけれど。


「全く同じなんて」


 処刑場はこの王宮の外にあった。

 まさかそれも同じ?

 塔が外れにあって、幼い時シャルル王子と遊んだ庭までも? バラが咲き乱れているのが見える。

 塀は低く、門扉も質素。

 王城というより館といったほうがいいかもしれない。誘い出されたと思う方が正解だった。


「まさか……」


 バラの庭で遊んだ記憶、地下の牢ではなく、塔の上に閉じ込められた記憶。

 暗い中座り、らせん階段から上がってきたあの人が逃げようと囁きかけた記憶。


 蘇る記憶に翻弄されては駄目。


 魔女の森に住みついてから1年、誰とも会いたくないと引きこもっていたのが駄目だったのか?

 どうしてこんな因縁のある所に住みついてしまったの?


 老いた光の魔法使いは闇精霊に殺される前に私に魔女の森に行けといった。

 彼は知っていたの?


「どうして……」


「魔女殿?」


 銀の魔女、闇の娘、塔の上に閉じ込められて世界を呪う。

 闇の魔法使い、イースタンマジックの使い手の王子が魔女を消し去った。


 東に消えた金の王子、どこに消えてしまったの?


 ある文献で私の記録がこうあった。

 私の記憶によると全く違う。


 あの人は私を助けようとして、殺されたはずだ。

 いや殺された?


 泣きながら走ってきて、殺すな! と私に向かって手を伸ばした。


『リル!』


 あの人だけが呼んでくれた。


「魔女殿!」


「……ごめんなさい、とらわれているとしたら多分あの塔よ」


「え?」


「私が思っている通りならね」


 塔の上には銀の魔女、闇の娘はそこにいる。

 魔女を消し去ったのは東方の魔法使い、高名なる彼は……王族の出身。


『リル、逃げよう!』


 彼は王族としての地位をはく奪されていたけど、私に会いに来てくれていた。

 愛していますと言えばよかった。

 貴方だけが愛しいと。


 逃げようといった彼の手を取るのを躊躇したのは、生きていてほしかったからだ。


 ああ私が殺されたとしても、あなただけが生きていてくれれば。


 私が世界を呪う事もなかったでしょうね。


「魔女殿?」


「ほら、迎えがきているわ」


 精霊たちがざわめく、あちらにも魔法使いがいるようで火の精霊が私たちを出迎えた。

 門から入るのではなく、塀から火が現れ扉を作る。


 世界を滅ぼせ、私は殺されるような罪は……。私の中で悪役令嬢と呼ばれた少女が叫ぶ。


 私を殺して笑っていたラティーシャさん、そこまでどうして憎まれていたのか。


 生まれ変わった私にはわからない、永久の牢獄の中。




「……あなたが望むのなら」


「え?」


「全てを消し去ってあげてもいいわ」


 暗い塔の扉を開けると、祈りの間、そして暗い扉が見えてきた。

 元々は教会だったらしい。

 らせん階段が扉を開けると、ほら見えてきた。

 何から何まで同じ。


「……これは何の因果か」


 カインが後ろからついてくる。石のはずの階段がかなり脆くなっていた。

 ああ、暗い中、私は光を掲げ歩く。

 あの人もこんな風に歩いたのかしら?


 衛兵に引き立てられて塔の上の牢にあげられた。

 だけど今は私はよく知らない男と二人きり、懐かしい記憶をたどる。


 そして上に上がると重い黒い扉がある。記憶の通りだった。

 黙り込むカイン、私は扉にかんぬきがかかっていないことを確認する。

 そっと開けると、そこには……牢があり、中には長い黒髪、黒い瞳の娘が座っていた。


 その顔は、前世、悪役令嬢といわれた『私』と寸分たがわぬものだった。


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