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『私を呼んだのはあなたか?』
長い黒髪、古風な衣装を着た人が空中に浮いていた。
体中に呪符が巻いてある。
「あなたは誰?」
『昔クロスと呼ばれる精霊の器だったもの』
ミカエラとよく似ていた。感情がない、淡々とした話し方も良く似ていた。
そういえばあの人が、これは禁忌の呪文だよと言っていた。
闇の闇の深淵。
白い光が黒く染まり、こちらを虚ろに見る女性、いや男性?
見たことがあるような気がする。
東の方の衣装、黒髪は東の証。
『新たな器が現れたので、役目を解かれた。しかしいまだに深淵の中にいるもの』
名前はわからない、だけど前世見たことがあるような? そうだ私に夢で語りかけたのはこの人だった。男性か女性かよくわからない。
声だけを聞くと女性に思えるが……。よく見ると男性にも見えた。
そういえば前世、暗い庭に立っていたのはこの人だ。闇の精霊クロス。
でも今は違う、金の髪、青い瞳、静かに座るあの人が闇に染まり?
染まり? いえこの記憶は?
殺すなと大声で叫び、お前達みんな殺してやると叫んだあの人の髪が黒く染まった?
お日様のような髪を見るのがすきだったのに。
『新たな器に魂が移った。解放されてまた呼び出され……闇はいつまで私を縛る?』
「ここから私たちを出して」
『闇の願いは聞かねばならない』
「あなたは誰?」
『東の地の魔術師、名前は思い出せぬ』
遠い昔、闇の器となりしもの、東の地を滅ぼしぬ。
銀の魔女を愛した東の魔術師。
闇に染まり、闇に消えた。
遠い昔のそれは話だった。でもどうしてこんなことを思い出す?
闇の中にいた魂を召喚する呪文。
闇の精霊にとらわれることがあれば唱えるようにとあの人が教えてくれた。
実際唱えることすらできず殺されたのだけど。
『さぁ、解放しよう』
闇の精霊クロスは人間を器にする。
器を乗り換え現世に降臨する。
ミカエラは精神のみの存在、心すらなく善悪もなく力のみの存在。
白い光が辺りを支配する。
この人は誰? 呪符を体に巻き付けた人はどうしていつも繰り返すのだろうなと寂しげに笑う。
一瞬彼の黒髪が金に見えた。
しかしあの人じゃない。それはわかる。
「あなたはだあれ?」
『もう光に戻ることはない闇』
「あの人では?」
『違う』
早く行けとばかりに外を指さす人、でも懐かしいような気がしないでもない。
繰り返し繰り返し何度でも出会う、でもその魂は同じにして違う存在。
前世と今世はある意味違うとこの人は言う。
『私ではない私』
「え?」
『それはもうすぐ現れる』
「あの人では?」
『私は残った心、闇に取り残された……』
何度も何度も繰り返しめぐり合う、だけどその度に引き離される。
でも愛しい、どうして?
つうっと涙が頬を伝う。
今の世は裏切らないと淡く微笑む闇。
『裏切りの王に気をつけることだ』
長い黒髪が流れ、淡く微笑む。そして私の視界から闇が消えたと思った瞬間……。
私はアンの手を取っていた。視界から全てが消えた。
涙が目から流れる。君を愛している。でも君の心を疑ったという声が聞こえてきた。
私の中の私が信じてという言葉が……聞こえてきたようだった




