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「アン、助けに来たよ」


 茶色の髪に同色の瞳、私達と同い年くらいの少年がそこにはいた。

 青い目じゃない、金の髪じゃない。


 長い金の髪を揺らし、愛しているよと囁いたあの人じゃなかった。


 東方の衣装は魔術師としては異端。

 東にくみすることが異端。

 全てが異端と言われた元王子。

 愛していると囁き、彼は泣いた。

 幼い時からずっと一緒にいたはずなのに、離れた数年で大きく道が外れてしまった。


 君を絶対に助けると彼は言った。

 だけどどうしても私は不義や不貞と疑われることを避けたかった。


 あの人の生命は助けたくて。


「シャルル、あのこの人も助けて!」


「アン、その人は?」


「陛下が無理やり閉じ込めたらしいの、魔法使いだって」


「すぐ開けるよ」


 大きな鍵束を持って、牢の鍵を開けようとする少年。

 でもここは魔法の鍵がかかっているから開くはずがない。

 何度も何度も彼は鍵を試すがどうしても開かない。


「ここは魔法の鍵がかかっているから、普通の鍵じゃだめよ」


「……魔法」


「あなたの属性は?」


「僕は魔力なしです。魔法は使えません」


「……ごめんなさい」


「いえ」


 唇を噛んで悔しがる王子、稀に王族に生まれる魔力なし、だから放っておかれたのにどうして利用価値が出てきたのか?


 そこまでは話を聞いてもわからなかった。


「どうして、光のアイテムが必要だったのかしら?」


「光?」


「光の精霊を呼びだすアイテムを奪い取られたの、あなたの父上に」


「……寿命を対価とするですか?」


「ええ」


「なら僕を対価として王族の血に連なる魔法を展開するのではと思います」


 王族の魔法は特別といった教師の言葉が蘇った。供物は血や髪、威力は血のほうが強い。

 王族のみの最強の魔法。

 だから王族はたくさん子供を作らないとだめだ。


 側室を持つのは当たり前、魔法教師はそういったのだ。


 幸せを求めるなら王族と婚姻してはだめだ。


「どうして自分の子を?」


「妾腹だからだだと思います」


 しかい対価といえどもあるのは破滅。

 血を抜きすぎて死んだ王族も数知れず。


 血を一滴、指にのせてはじく。

 強い威力の魔法が生まれる。しかし違う、一番最強の魔法は……人々が永遠に求めるものだ。


「早くここからあなたは逃げたほうがいい、下手をしたらこの国が亡びるわ」


「え?」


「この子を連れて逃げなさい、魔法のカギは私が解錠の方法を探すわ。私はだめでもこの子だけなら助けられると思うの」


あの人は多分来ない。なら闇の精霊クロスの覚醒まで私は時間稼ぎをするしかない。どうせ光を求めるなら闇の精霊も求めるだろう。

 この2つを手に入れたとき、強い力を手に入れることができるという伝説を私は思い出していた。


「悪役令嬢と呼ばれるだけの人だから、私は大丈夫」


「悪役令嬢?」


「たった一人だけの悪役令嬢、それが私」


 呪いと怨嗟を吐き続けた悪役令嬢。

 眠る度に思い出す闇の世界。


 闇の精霊は私の魂と契約した。

 なら生まれ変わる度に彼が契約者としてついてくる。


 負さえなければ大丈夫だが、人は負の感情なしには生きられないから。


「さぁ、ひとまず逃げて、私がこの子を逃がすから一緒に逃げなさい」


「でも……」


精霊との契約は絶対、対価を必要とする光の精霊ミカエラは多分供物があれば王の願いも叶えるだろう。

 急がないとだめだ。


 まっすぐにみる若者たちが眩しい。

 私は目をつむって解錠の呪文をいくつか試してみる。

 魔法は発動しない。


「アン・マリー、呪文をいくつか教えるから唱えてみて」


「はい、シャルル様、早くしないと陛下が気が付きます。一旦逃げてください」


「でも」


「お願いです」


 あなただけは無事でいて、前世の願いを思い出す。大丈夫ですからと泣き笑いの顔でシャルルにいった時、私は彼女の真意を思いしったのだ。

 自分は逃げないつもりだと、いけないと首を振るとこちらを見てお願いしますと小声で彼女はささやいた。

 彼だけでも生きていてほしいと。

 ダメ元で私が試しているのを知っているんだ。

 でもどれかが……。


「大丈夫ですから」


 アンの言葉にうなずくシャルル。

 ああ、これは何の再現? 私の前世?

 悪夢のような光景に口をはさめず私は黙るしかなかった。

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