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第一章トンカツ 七節目

 またしても心臓をくり抜かれた遺体が、裏庭に棄てられていた。

 今度は、若い男性。これまた夜犬が群がっていたので、発見に至った。手口からして、前の遺体と同一の犯人が行なったと見て間違いない。世間の警戒や道悟の牽制など何処吹く風、嘲笑う様に次の被害者を遺棄してみせたのだ。

 これには、道悟も我慢ならず、ゴドーに姿を変えて市内全域を駆け巡った。同時に火猿も走らせ、隈無く南峰城を探索したものの、下手人を見つける事は叶わなかった。拠点は市外に置き、この街へは狩りにだけ訪れている可能性が高い。だがそうなると、犯行を未然に防ぐのが困難という事になる。市内全域を見張りでもしない限り。

 全ての火猿を街中へ配置しても、やはり死角は生まれてしまう。死角を埋めるべく道悟が駆け回ったところで、次は時間差による死角が生じるだけ、根本的な解決にはならない。運良く下手人が網に掛かり、道悟が現場に急行するくらいしか出来ないのが現状だ。

 下手人を捕捉してくれるレーダーの様なものさえあれば、道悟はそう歯痒さを噛み締めていたその時、ある事柄を思い出した。レーダーとよく似た真似が出来る者の存在を思い出したのである。しかし諸々の事情によって、道悟が直接接触することは出来ない。その為にはまず、仲介者と交渉する必要があった。

 そして何より、仲介者を誘い出すには不本意ながら、この事件をさらに炎上させる必要がある。明日の朝刊やニュースで、南峰城市にて謎の連続怪死事件発生、そんな見出しが躍ることだろう。本当に、不本意である。



 しょうよう営業再開の翌日、放課後を迎えた道悟は逍子に三ノ丸町へと呼び出されていた。

 三ノ丸の駅に降り立つと、改札前には既に制服姿の逍子と遙花が待機していた。

「こんにちは、新田君♪ 呼び出しちゃって、ごめんなさいね?」

「こんにちは・・・呼び出しは別に構わないのですが、姉妹揃ってどうしたんです?」

「こっちは、呼び出した用事とは別件。物騒な事件が続いているから一緒に帰ろうと思ったの、学校も近いし♪」

 腕を組んでそっぽ向く遙花の肩に逍子は手を置き、次いで親指をぐっと立てた。

「お姉ちゃんが心配性なだけ。校門で出待ちされる妹の気持ちを考えてよね・・・まあ、確かに不気味ではあるけど」

 遙花は逍子の手を、そっと肩から退けた。

「なるほど・・・・・・仲良しですね」

「それはもう・・・私達は、今世紀最高の仲良し姉妹と、専らの噂なのよ♪」

「私達が最高だと、だいぶ殺伐とした世紀になりそうだけど・・・ともかく、迂闊な発言は控えてくださいね、新田さん。姉が調子に乗ってしまいますから、無駄に」

「そう、私は今世紀最高の調子だと専らの・・・」

「それで、俺を呼び出した用事というのは?」

 逍子がまた面倒な事を言い出しそうだと察した道悟は、彼女の言葉を遮る様に問いを投げ掛けた。

「買い出しです♪ 3日掛けて消化するはずだった豚肉が、昨日でほとんど溶けてしまったでしょう? スーパーの安売りは明後日だから、商店街の精肉店さんに塊肉を融通してもらったの」

「つまり・・・また荷物持ちですか?」

「10㎏くらいだから、お願いしようかと・・・駄目かしら?」

「乗り気とは言えませんが・・・必需品ですし何より此処まで来てしまっているので、手伝わせて頂きます・・・って10㎏?」

「良かった、ありがとう新田君♪ それでは皆様、商店街へ向かいましょう!」

 はしゃぐ逍子の先導に従い、遙花は渋々、道悟は嘆息を漏らしながら、移動を開始した。

「新田さんのアイデア、大成功だったみたいですね」

 足早な逍子に構わず、自分のペースで歩いていた道悟に遙花が話し掛けた。彼女も姉のペースに付き合う気は微塵も無いようである。

「大成功・・・かどうか定かではありませんが、まあ滑り出しは悪くないかと」

「姉が実益が出たと騒いでいました。誤差程度でしたけど」

「あはは、赤字にならなかっただけ上々ですよ。修行期間を終える事が出来れば、もう少し余裕も出てくるはずです」

「何だか手慣れてますよね、新田さんの実家もお店だったりするんですか?」

「いいえ、違いますよ? ・・・一般的なサラリーマン家庭です、たぶん」

「そうでしたか・・・あの、新田さんは何で姉に協力を?」

「困っていた様なので」

「即答!? ・・・お人好しなんですね」

「知らん顔が出来なかった小心者ってだけですよ・・・」

「・・・・・・本当ですか?」

「おっと、疑われている・・・何だと思っていたんですか?」

「それは・・・お姉ちゃん狙い?」

「・・・・・・はい?」

 道悟はおもむろに、随分と先行してしまっている逍子の陽気そうな後ろ姿に目をやった。

「何と言うか・・・・・・勘弁してください」

「うわぁ、嫌そうな顔・・・もう疑ってませんから、安心してください」

「それは良かった・・・女将は人気者なんですね」

「人気者と言うか、そこそこ綺麗ですし・・・たまに身の程知らずが湧くんです。大抵は癖の強さを知って逃げますけど・・・パクチーみたいな人間ですから姉は」

「あはは、違いない」

 商店街の入り口に行き着いた逍子、意気揚々と振り返ったことで、連れの二人が割りと後方を歩いていた事に気が付き、大きく手を振った。

「ほらほら、急いで! 青春は待ってくれないわよ♪」

 何故青春なのか、謎の煽りを受けた二人は顔を見合わせ、互いに苦笑いを浮かべてから、逍子の元へ駆け出していった。逍子と合流した後は、商店街通りの中程にある豊前精肉店へと歩を進める。シャッター街がスタンダードなご時世ながら、この商店街に空きは無く、人通りも程よい塩梅だ。

 道悟がもの珍しそうに各店舗を見回していると、気付けば豊前精肉店と書かれた看板の前に辿り着いていた。身近では無かったのに、懐かしいと感じさせてくれるショーケース越しの店内には、割烹着姿の年配の女性が独り佇んでいる。彫像の如く余りにも微動だにしないので、まさか死んでいるのかと一抹の不安を抱かされたが、逍子が歩み寄ると人感センサーが働いたように顔をあげた。

「いらっしゃっ・・・・・・おやおや、波多野の嬢ちゃんか。約束の品を取りに来たんだね?」

「そうですよ、豊前のお婆ちゃん♪ 例の物を、お願いします」

「あいよ、ちょっと待ってな・・・」

 豊前の婆はそう言い残して奥へと消えていき、程無くして自身の頭部くらいはある塊肉を肩に担いで戻ってきた。もちろん、肉自体は包装紙で巻かれている。

「ほら、豚肩ロース10㎏だよ」

「わぁ、大きくて重そうなお肉ですね♪」

「北関東産だが、品質は保証するよ。こいつが必要なんだろう?」

「ええ、ストックが切れてしまって・・・無理なお願いを聞いて頂いて、ありがとうございます」

「なに、多少の無理が利くのが個人商店の強みだからね・・・だが、無理は無理だ。こいつを買うという事は、あの条件を呑んだという事で良いだね?」

「ええ、まとめてお引き受けします♪」

「ふん、良い度胸だね・・・そこの坊主、あんたがこいつを担いで行きな!」

「え、あ、はい!」

 未だ事態を呑み込めていない道悟だったが、豊前の婆から圧強めに促され、塊肉を受け取った。軽々と渡されたのだが本当に軽い訳も無く、そのギャップに不覚にもよろめいてしまう。

「だらしないねぇ、シャキッとしな! ・・・ほら、ちっこい嬢ちゃんはこっちを持ちな」

 そう言って豊前の婆が取り出したのは、何かがぎっしりと詰まったビニール袋だった。透けて見えないので正体は定かではないが、おそらくは何かの肉だ。本当にパンパンである。

「支払いは月末で良いからね、しっかり稼いで来な」

「はい、合点だ♪」

「ふっ、良い返事だね・・・こいつはオマケだよ、持っていきな」

 すると、豊前の婆はまたもパンパンのビニール袋を取り出し、逍子にそれを手渡した。

「まあ、何かしら? 何から何までありがとうございます。では、月末に♪」

 逍子は豊前の婆に敬礼すると、踵を返して外へと出ていってしまった。道悟と遙花の二人が、それを呆然と見送ってしまっていると、商いの邪魔だと豊前の婆に追い払われてしまう。二人が逃げる様に外へ飛び出すと、待っていた逍子がクスクスと笑っていた。

「うふふ、お婆ちゃんは用件の終わった人には厳しいの。すぐに逃げなきゃ駄目よ?」

「そんな馬鹿な・・・というか、説明してください。条件って、どんなものだったんですか?」

「それは・・・その・・・えへへ」

 何やら口ごもる逍子、そのらしく無い挙動に道悟は眉をひそめた。

「周りには言えない様な内容なんですか?」

「そういうわけでは無いのだけど・・・その・・・言ったら怒られそうで?」

「怒られる、とは?」

「豚肉を用意して頂く代わりに、鳥手羽元の買い取りをお願いされていたの」

「鳥手羽元・・・なるほど、若女将が手渡されたビニールの中身がそれなんですね? それにしても何故、こんなに沢山?」

「それがね、豊前のおばあちゃんが誤発注しちゃったらしいの」

「誤発注!? ・・・あの人、誤発注とかするんですね、意外だ」

「最近、割とやらかすそうよ?」

「はぁ・・・ちなみに、女将は何をもらったんですか?」

「覗いてみたら、大量の挽き肉だったわ♪」

「大量の鳥手羽元に、大量の挽き肉・・・・・・それって、いきなり抱え込み過ぎではないですか!?」

「きっと、大丈夫♪ さあ、野菜も買って帰りましょう?」

「まだ買うつもりなんですか!?」

「だって・・・肉だけじゃあ、料理は作れないでしょう?」

「それはそうですが・・・」

「なら、大丈夫♪」

 逍子はサンタクロースばりに挽き肉の詰まったビニール袋を肩に掛け、親指を立てると目の前の八百屋へと歩み寄っていった。

「大丈夫、なのだろうか・・・」

「姉はいつもあんな感じですから、頑張ってください」

 遙花はもう慣れたと言わんばかりの淋しい笑みを浮かべながら、道悟の肩に手を置いた。

「・・・Oh」

 道悟は眉間にしわを寄せ、口をへの字に曲げて、僅かに首を左右に振った。

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