英雄転生編 07
今回はかなり短めです。
ジザ爺さん達が朝に訪れた日から、この街に来てあっという間に二ヶ月を過ぎようとしていた。
この世界……明確には森の中で目を覚ましてから、もうそれだけの時間が経っていた。その間も、何故かギルドでの依頼が受けられず、お世話になりっぱなしな子豚の尻尾亭でお手伝いをしたり、職人連中が朝から呼びに来ては大分減った素材(それでもまだ数で言えば数千もの数があるが)を取り出し、その報酬の相談と作る物への要望などを話し合う日々だった。
特によく呼びに来たのがやはりと言うか、結局イココの奴で、魔石の量が少ないことや突拍子もないが案外使えそうな発想を思いつくと必ず俺に素材を強請りに来るのだ。その都度、俺はイココにこっちが考えたアイディア……元いた世界にあった便利な家電などの形状や用途を簡単に伝えると、「す、スゲー!?お前、オレっちの次に天才じゃね?」とか言っては毎回テンションマックスで作業に取り掛かるのが平常運転だったよ。
その為、俺は特に仕事という仕事をしておらず、毎日をのんびりと過ごす日々だった。
あ、そうそう、ジザ爺さん達が来た次の日は約束通りに双子の店に行って来た。
その日は弟のメーズが外で靴の仕立てで居なかったが、双子妖精の皮具店で店番をしていた兄のゴーズが快く店の奥に招き入れてくれたよ。
奥に入って直ぐにあった作業台の上には俺が注文した品物が綺麗に並べられた状態で置かれていた。
因みに、俺が注文した物の内容がこうなってる。
・刺繍とかが入っていない無地のシャツとズボン。それと上下のインナー
・大きな荷物での詰め込めるような、登山用のリュックのような鞄
・とにかく硬くて丈夫なブーツと、軽くて歩きやすそうな革靴
・もし余裕があれば、渡したジャケットに似た上着を一着
と、いう内容で頼んでいたのだが……この双子は俺の要望通り、いやそれ以上の品質で仕上げてきたのだ!
普段着用に頼んだシャツもズボンも、俺が前の世界の物も含めてもダントツで肌触りが良いし、靴も始めて履いたとは思えないくらいの履き心地とピッタリのサイズなのだ!これは、もし前の世界で頼んだら、いったいどれくらいの金額になるのかも想像が出来ないくらいに素晴らしい物だ。
リュックの方も皮で出来ているため、かなりの重量はありそうだが、刃物で軽く切られても破けそうにない程にしっかりと、それでいてかなりデザインの凝った形で作られている。
最後に、作業台のすぐ傍に置かれたハンガーラックにかけられた俺のジャケットと、淡い灰色をしたポンチョに、丈を長くして作られた艶のある紺色のジャケットが並べられている。
それらを最初見た際に、隣で俺が服を確認している間、黙って見ていたゴーズに確認したところ
「あぁ、そいつはタイキから貰ったミストキャットで作った外套に、イービルディアーのジャケットだ。どっちもお前もんだから、気にせず持ってけ」
どうやらこの灰色のポンチョは霧を発生させるミストキャットの毛皮で出来ているらしい。そして、もう一つの紺色に染められたジャケットの方は『イービルディアー』、あの肉食で凶暴な大鹿の毛皮を使ったジャケットだという。このイービルディアー、鹿のくせして口に肉食獣顔負けの鋭い牙が生えそろっていて、その牙と肉と骨を何の抵抗もなく噛み砕く強靭な顎で食い散らかす悍ましい魔物だ。
それに加えて、そいつの毛や皮がやたらと硬くて、剣で斬っても歯が立たなかったから、諦めて首にしがみ付いて首の骨をへし折って倒したのを覚えている。あの時、首をこっちに捻って噛みつこうとした時は肝が冷えたよ……
目の前にある二着を興味深く見ていると、ゴーズからとんでもないことが告げられた。
何とこの二着、魔法がかけられていると言うじゃないか!
なんでも、イココが俺から素材を貰ったことを知った双子が直接あいつの家でこの上着を持って付与魔法と、素材の持つ特集な効果を使えるように出来ないかと相談した結果
「面白そうだな!よし、それなら任せろ! ついでに、他のバカ共にも何か付与して欲しい物があったら持って来いって言っとけ!」
直ぐに二つ返事で返し、ポンチョには《隠蔽:中》に《視界強化》、ジャケットには《斬撃・刺突耐性》と《筋力強化》の付与までした上で、《自動調整》なる着た服のサイズを自動で合わせてくれるという便利魔法のおまけ付きだ!
そんな凄い服や頼んだ物を【無限収納】にしまい、他に頼んでいた冒険者用の服や靴に期待をしているとゴーズに礼とメーズへの伝言を頼み、その日は上機嫌だった。
その後も双子から始まり、ダルガスとゴッタズの鍛冶バカ二人に短剣や投げナイフのことを色々と話したり、いきなり現れて自分の店に連れて行くや否や、試作品のはずなのに上等な弓(長弓から短弓まで色々)の試し撃ちに付き合わされ、素材が足りないと喚き散らすイココには無理難題な内容の物を作るように言ってから素材を押し付け、たまにふらっと来たジザ爺さんの頼みで練習用の薬草を卸したり……
子豚の尻尾亭でバイトみたいなことをしながらも、俺は慌ただしくも楽しく、そして充実した生活を送っていた。そして、ついに__
今日この日、俺の冒険者としての装備品を受け取る日がやって来たのだ!
「おぉ~い、ダルガスー、いるかー?」
今現在、俺はダルガス達この街で服から装備品。果ては魔導具まで、その全てをダルガスが営んでいる武器屋の倉庫と、ゴッタズの防具屋の倉庫に分けて納品していると昨日の朝に大声で言われ、今日その受け取りに来たのだ。まぁ、言いに来た時にうるさいせいで、ネーアさんから拳骨と蹴りを貰ったのは仕方がなかったな、ありゃ……
そんなこんなで、店先で気の抜けた感じで店の中に呼びかけると
「おうタイキ、漸く来よったか!もう儂や他のバカ共も待ちくたびれとったぞ。ほれ、早く行くぞ!」
「わ、分かったから、そう毎回引っ張るなよ?! けど、それだと店はいいのかよ?」
「む?」
実は素材を渡してから、職人連中とはタメで話すようになった。まぁ、何人かは最初からタメ口だったが、連中(ダルガス、ゴッタズの鍛冶バカコンビ)から「敬語はやめろ。聞いてて気持ち悪い」と言われて何発かネイツの様に脳天にチョップを喰らわせてやったのはいい思い出だ。……俺だけは、だろうがな!
そんな俺からの言葉を聞いたダルガスは、朝早くから店に来て武器を新調しようと来ていた冒険者たちに視線を向けると
「別にいいじゃろ。もし問題があるなら、今日は店を閉めれば問題ないだろ」
「「「「ええぇぇぇ?!」」」」
「おいおい、流石にそれはないだろ?」
「うるさいわ! こっちの方が大事なんだ、邪魔するなら儂が叩きだすぞ!?」
店内にいた冒険者達からのブーイングが始めると、ダルガスは近くに立て掛けてあった大振りの戦鎚を片手で取ると、冒険者の方に振り回して追い出してしまった。商売人がそれでいいのかよ?
「ふん、根性のない奴らだな。ほれ、早く行くぞ!」
「へいへい、分かったよ……」
俺はダルガスの冒険者達に対する言い分に、呆れておざなりな返事を返しながら後をついて行く。
この通路もここ二ヶ月で何度も通っているせいか、工房で仕事をしていたお弟子さん達とも顔見知りになってしまっている。目的地に向う道中に「おい、今日はもう仕事は無しだ。店を閉めとけ!」というダルガスの言葉を聞いたお弟子さん達も慣れたあもので、何人かが店の方に向って行く。そんな彼らに頭を下げながら謝ると、「いやいや、気にしないでいいですよ」と乾いた笑い声で返してくれた。うん、マジでごめんなさい。
そんなことがありなが、こっちも何度も行き来した倉庫の前では腕を組んで立っているフィーリムと、何か手元にある物をいじっているイココの奴が倉庫の扉の前で待っていた。
そうやら、こっちの武器がメインな連中が集まっているようだな。
「遅いぞタイキ。この私を待たせるとは、どういうことだ?」
「遅すぎるぜ、タイキ!早くオレっち達が手掛けた最高作を見てくれよ!」
「悪い悪い、身支度に手間取っちまってな。それとイココ、あの洗濯機、スゲー役立ってるぜ? モミがお前にお礼を言っとてくれってよ」
「おう!あれくらい、簡単なもんだったぜ!」
俺が二人に軽く謝罪をし、朝からイココ達に会うことをモミに教えたら、そう伝えるように頼まれたのだ。
そう、こいつは俺が提案した「便利で使い勝手いい魔導具」の案でだした冷蔵庫に洗濯機、子豚の尻尾亭で使えそうな食器洗浄機についての用途を身振り手振りで伝えただけで全て造り上げてしまったのだ。
そのお陰で、今では朝から大変な洗濯が楽になり、今まで保存が大変だった食材の保存、料理をしながらの洗い物の手間まで軽減することに成功させた。
その便利さを聞いた他の料理を提供する店からも、それらを作って貰えないか連日訪れる人達が訪れて臨時収入になっているらしい。これなら、また腹を空かせて倒れることもないだろ。……多分。
「おい、早く中に入れ。今まででの中でも最高傑作達を見せてやろうではないか!」
「おう!儂らもお前さんが言ったような物を用意してあるぞ!」
俺とイココが話していると、もう待っていられないと言いたげに、早く倉庫の方に入れと言ってくる。そんな二人に賛同するように、イココが二人が入って開かれたままの扉の中に駆け込んでいく。
そんな三人の指示に素直に従って倉庫の扉をくぐり、中に入って見ると……
「お、おぉ~……これは、すごいなぁ……」
俺は思わずそんな感嘆な声が零れていた。
入ってすぐ目の前に入って来たのは、倉庫を埋め尽くす様に置かれた武器、武器、武器の山だった。まるで武器の博覧会でも観に来たかのような錯覚を覚えるほどにそこら中に武器が置かれていたのだ。
中央に置かれたテーブルには、俺が提案した投擲に適した短剣からダガーから始まって、全体が金属で出来た菱形の刃が特徴的な苦無、四枚から六枚の刃が円状に付いたの物や棒状の物まである手裏剣。
ただ投げだけじゃなくて、他に付随的な使い方ができそうな形状ありとあらゆる剣の数々が置かれているのだ。これは見ているだけでも楽しい。
「ほれ、どれか持ってみろ。しっかり要望通りに出来とるはずだ」
「あぁ、そうだな」
ダルガスに言われ、俺はテーブルの上に置かれた短剣を三本、ダガーを二本を手に取って直ぐに上に投げる。その行動に三人は息を呑んだが、俺はそれらを一旦【無限収納】に入れたから、片手でジャグリング感覚で一本ずつ取り出して回し、空いている手の方で他の短剣もどんどんジャグリングの中に加えていく。その間に持った感触から、一本一本の重さをしっかり確認していく。
うん、流石はダルガスだ。どれも文句のつけようがないくらいの完成度だ。
最後には回していた合計50本の短剣を【無限収納】に納める。
「うん、まだ短剣や他にも残っているけど、どれもこれも最高の出来だよ」
「……本当に、お前には何度も驚かされてばっかりだな」
「「同意だ(だぜ)」」
三人から何だか呆れの混じった返答が帰ってくる。おい、失礼じゃないか、こいつら?
その後は、倉庫内にあったダルガスが手掛け、まさかのイココが付与魔法をかけた物が含まれた長剣と短剣に始まり、大剣、長・短・投擲槍、戦・手投げ斧、戦鎚、大鎌、どう見ても俺一人じゃ待てそうにない馬鹿でかい大剣や大槍までありとあらゆる武器を手に触れて【無限収納】に入れていく。
それら近接・中距離用の武器を全て入れ終えると、次に紹介されるのはフィーリムが手掛けた弓だ。
先程まで近接が置かれていた場所から離れていた壁に立て掛けられていた弓と、その近く置かれた30を超える矢筒(矢を入れておく筒状の入れ物)が中身いっぱいに入れられているの物があった。弓はどれも綺麗な色合いと形状をしていて、長弓が二つと短弓が三つある中で、一つだけ特に目を引かれる物があった。
「フフフ……ようやく私の作品達の番だな。さぁ、刮目せよ!これが、私が造り上げた最高傑作だ!」
そう言って、フィーリムが壁に立て掛けていた五つの弓の中から、一際目を引く美しい長弓を手に取る。それは、俺が惹かれていた弓だった。
「これはお前から提供されたイービルディアーとブラッドタイガー、それとオーガなどの各種骨をそこに居るダルガスにミスリルと粉末にしたそれらを混ぜて鍛えさせた物に、魔素が充満した場所で成長した木に私が幾つもの付与を加えた物とを魔術で合成させてた後に、更に鍛え上げて造り上げた至高の逸品だ。
またこれ程の物を作るとなれば、聖銀級のパーティーを複数雇ったとしても難しいだろう……故に、この弓はそこらの凡人には勿体ない、英雄が持つと云われる『英弓』に勝るとも劣らない一弓なのだ!」
「お、おう……」
フィーリムのいような異様なテンションの高さに、俺とダルガス、普段いらないくらいに噛みついていくイココですらも引くくらいだ。
その弓に対する熱意に当てられながらも、俺はもう一度フィーリムが手に持っている弓に視線を向ける。
弓は長弓で、さっきの説明にあった通り木材と金属が混ざり合ったかのような材質になっていて、翡翠色に年輪が見て取れる白が混ざったような不思議な弓だ。その見た目はどこか日本の弓を思わせるようで、俺自身は触ったことはないはずなのにまったく違和感を感じなかった。
「ではタイキ、この弓を引け。そうすれば、この弓の素晴らしさが判るだろう」
「そ、そうだな。じゃあ……」
俺は差し出されたその弓を両手で受け取り、その軽さに驚かされた。木以外に金属が混ざっているはずなのに、手の中にある弓はまるで新品の羽毛布団でも持っている様な信じられない軽さだ。
そしてよく見ると、弦がまるで無いかのように透き通っている糸で張られていることにようやく気付く程に、その弓には人の目を引き付ける何かがあるみたいだ。
最後の確認に、弓を左手に持って腕を伸ばし、見えるか見えないかギリギリ確認が出来る弦を右手で掴んで引く。その抵抗は何度も試作品で経験して染みつきかけているものだ。淀みのない動きで、弓を最大まで引いて、右手から弦を離す。
普段なら、弦楽器ような音が鳴るのだが、この弓から微かに聴こえたのは、まるで鈴を鳴らしたような澄んだ音色だけだった。俺は思わず目を閉じてその音に聞き入ってしまってしまうくらいにその弦から聴こえた音は素晴らしい物に感じた。
「これは……なんて言えばいいのか、俺にはこれを言い表す言葉が思い浮かばないや……」
「そうだな。これ程とはな……」
「これ、本当に弓か? 楽器の間違いじゃねぇのか?」
「フフフ。一流の弓とは、それ自体が一つの楽器と言っても過言ではないのだ!」
俺らはそのフィーリムの自信に満ちたその言葉に頷くことしか出来なかった。
その後は、他の弓も同じように試し、最初の弓と比べると数段落ちるが、どれもこれも今までの物とは全く違う手ごたえに関心と感謝をしながら【無限収納】の中に入れていく。いつか、これらの弓の出番が来るのだろうか?
俺とフィーリムがお互いに手を差し出して握手を交わして称賛している間、テールの上で何かを取り出しているイココが視界の端に見ると同時に、その光景にまたしても驚かされた。
「お、おい、イココ。そ、その鞄はいったい……?」
「へへへ、こいつか?」
困惑気味な俺の声を聞いたイココは、悪戯が成功した子供のような笑顔を向けながら、手元にある鞄からどう見ても鞄の大きさから入りきれない量の魔道具と思われる道具からアクセサリーなどをテールの上に乗せていくのだ、驚かないはずがない。
それはどう見ても、俺が使っている【無限収納】と同じなのだ。
「この鞄は魔導具で《マジックバック》って物でな。これもかなり高価ではあるが、タイキのSkillみたく中に入れた物の時間を止めることが出来ねぇんだわ。だがその分容量は大きいから、持ち運びが楽だったぜ!」
なるほど、そういう仕組みなのか。確かに重さと容積以上の物が運べるとなれば、かなり色々なことに使えるだろうし、時間停止されてなくても十分に有用だな。
それと、何故イココが俺のSkillに時間停止が付いて知っているのかというと、俺自身が職人連中に教えてやったからだ。
何故教えたかといえば、なんだかんだで色々いい物を作ってくれようとしている奴らに、俺なりの誠意のつもりで教えた。それを聞いた奴らは一様に素材の状態の良さに納得し、このことも口外しないと確約してくれたよ。ただ、その中で偶然一緒に聞いていたジザ爺さんからの言葉には気を付けている。
「この時間停止の効力……もしこれが王族の耳にでも入れば、間違いなくタイキ君を手に入れようとあの手この手で君に接触してくるやもしれないな」
その時のことを思い出している間も、イココは小さな鞄からは想像も出来ない数と大きさの魔道具を次々と取り出している。どれくらい入ってるんだ、あの鞄?
「なぁ、イココ? その鞄、いったい幾らぐらいするんだ? さっき高価なものだって言ってただろ?」
「これか? そうだなぁ……鞄はもとから持ってたのだし、素材はお前から貰った物で流用して出来ちまったからな。金で言えば、この魔法の術式を映したスクロールを買った金額の白金貨が5枚くらいだ」
「は、白金貨を5枚って……」
「心配すんな。その金額はお前から提供された発想で出来た物の売上で買えた。だからお前が心配するようなことはねぇよ」
ケラケラと笑いながらも、イココは鞄から魔道具を取り出す作業を止めずに答える。まぁ、こいつがそう言うなら大丈夫なんだろ。
俺の心配が外れて内心で安堵していると、イココは作業の手を止めていた。どうやら渡す魔道具を出し切ったようだ。
「よし、これで全部だぜ!んじゃ、一つずつ説明したいが、後があるから簡潔に説明するぜ? まずはこれだが__」
その後はイココの説明が始まる。
内容は俺の魔力を補うための物が大半で、それらは身に着ける物から使い捨てまで様々で、これについてはしっかり用途について質問している。使用方が分からないとか、何のために道具なのか判らなくなってしまうからな。
次に多かったのは、俺個人で使う小型の冷蔵庫や洗濯機などの便利道具達だ。これは言うまでもなく、俺の生活を豊かなものにする為に頼んだものだ。頼んだ際に、イココの奴から呆れられてしまったが……
他にも、魔物除けの杭に魔力で灯りをつけるランプ。飲み水を生み出すポット、魔石を燃料に使うコンロ、双子と共同で造り上げたテント等々。俺がこれから必要とする物の数々がそこにあった。
ただ、何故か魔物をおびき寄せる物や、投げつけて使うスタンガンのような物騒な物が混ざっていたのには、俺だけじゃなくてダルガスとフィーリムも顔を引き攣らせていたよ。まったく、最後まで何かとんでもない物を渡してくるとは思っていたが、ここまでとは……流石はイココだな。
そんな便利な物から危険な物まで全ての魔道具を俺が【無限収納】にしまい切ると、三人は次の目的地……隣に隣接しているゴッタズの防具屋がある方に向って行き、その後ろに俺もついて行く。
歩いて数分の距離にあるごったゴッタズの営む防具屋、その裏にある倉庫に俺達四人が到着すると、倉庫の扉の前では持ち主のゴッタズと、その左右を挟むように立っている双子のゴーズとメーズが笑顔で出迎えてくれた。
「ようやく来たか、タイキ!待っておったぞ!」
「今日が来る日を待ってたぜ。俺ら二人も渾身の出来だ、なぁメーズ?」
「おうよ!タイキがどんな反応するか、楽しみだなゴーズ」
元気なゴッタズと双子反応に、軽く手を挙げて返すと、ゴーズとメーズは扉に手をかけ左右に開く。その開けられた扉に向って行くゴッタズは、こちらに振り返り「ほれ、早う入れ!」と上機嫌で倉庫の中に入っていく。その場に残った面々も直ぐに扉を潜って中に入ると、視界にはダルガスの所と同じように多くの盾と何着もの鎧が並んでいた。ずらりと左右一列で並べられた各種の鎧はどれも目移りしそうなくらいに材質から形状まで様々だ。
それは盾も同じで、小さな盾から大盾まであり、形状また様々。中には組み合わせて使えそうな形状をした者があり、男心を擽るギミックが施されているように見える。これは凄いな……
だが、そんな圧巻の光景よりも気になることがあった。それは……
「どうして、ジザ爺さんがここに?」
「やぁ、タイキ君。待っていたよ」
そう、何故かジザ爺さんが作業台に近くに置かれた椅子に腰かけ、そこに居たのだ。
今日の予定では、武器防具の職人連中が集まり、それらを渡す為に集まったのだ。それなのに、薬草を卸したくらいしかしていなかったはずのジザ爺さんが居ることに、俺は首を傾げてしまう。
そんな俺が何を考えているのかわかっているようなジザ爺さんは、自身の足元に置かれていた木の箱に手を添え、ここにいる理由を話し始めた。
「タイキ君。今日ここで君はダルガスの達から頼んでいた物を受け取りに来ている場に、何も渡す物が無いはずの私が居ることに驚いているのだろう?」
「は、はい、そうです」
「ふむ、素直でよろしい。その答えは、コレだよ。この箱には、殆どが中級だがヒールポーションとマナポーションが入っている。コレを君に渡しに来た、そういうことさ」
「い、いや、でも俺はジザ爺さんのところでは何も__」
「これはね、タイキ君。私の弟子達が、是非君に渡して欲しいと言われて持って来た物なんだよ。彼らはね、君に感謝していた。普段は余り余裕がなかった練習も、君が薬草を提供してくれたお陰で気兼ねなく出来ていたんだ。そんな彼らは練習で出来た中で一番いい物だけを集めて、君にお礼として渡したがっていてね……どうか、弟子達からの感謝の気持ちを受け取っては貰えんかね?」
「……」
……どうやら、俺がやっていたことは、彼らにとって感謝されるようなことだったよだ。俺は別に、何かが欲しくて薬草を提供したわけじゃ無かったんだけどな……
「分かりました、その感謝気持ち、有難く受け取らせていただきます」
「あぁ、ありがとうタイキ君。弟子達も君にお礼が出来て喜ぶことだろう」
ジザ爺さんに確認を取り、俺はお弟子さん達からのお礼品を【無限収納】にしまっていく。箱は全部で10箱もあって中を直ぐにリストで確認すると、確かに大半は中級と出ていたが、中には上級が三本ずつ入っていて俺は思わず頬が綻んでしまっていた。
そんな予想外なことがあった後、昼になって俺が子豚の尻尾亭でグレイツさんに頼んで作って貰ったサンドイッチをみんなで食べ、午後からはゴッタズ達三人が防具や冒険者用の装備について説明された。
鎧は皮から始まって、部分鎧、軽装鎧、騎士鎧、重装鎧などに加え、それに付随するベルトやインナーについての説明が続けられた。
どの鎧も頑丈で重厚そうなのだが、どれも例外なく軽くて動きを阻害していないことに驚かされた。しかも、皮鎧に至ってはゴッタズのお弟子さん達に造らせたらしいのだ。
そんな彼らの作り出した鎧はどれも文句なしのいい出来だった。
鎧の説明の合間に、双子からもそれぞれ服と靴についての説明があった。
服を手掛けたゴーズからは、これも動きを阻害しないような工夫をされた特殊な縫い方で作られている上に、魔法が付与されている糸で刺繍を施してあるらしく、滅多なことでは破けないという嬉しい効果付きだという。これ、間違えたら今後服買わなくてよくなってしまうかも……?
靴を作ったメーズも、兄のゴーズに負けないくらいに自分の作品を熱く語ってくれた。
なんでも、皮を鞣す際に特殊な液体に数日付け込み、それを丹念に鞣した後に靴の形にしているという。それをすることによって、魔物が本来持っていた肉体的な性能の一部を装備者にも使えるようになっているらしい。例で挙げれば、サンダーパンサーの皮で出来た靴を履けば、その分AGIを上げる効果が付与されるというものだ。
ただ、本来であればここで靴に魔力を流すことが必要なのだが、そこはイココという頼れる錬金術師という同業者で知り合いがいる。イココによって、その魔力を空気中の魔素を集めて代用できるよう術式が施されている為、俺でも使えるようになっているのだ!
これはメーズの靴だけではなく、ゴーズの服にも同じものを施してあるという。イココ、マジでいい仕事してるな!
そんな三人の説明を聞き、時に着心地や異常が無いかの点検をするというのを夕方まで続け、今は倉庫に所狭しと並べられていた全ての鎧と盾、服と靴は【無限収納】にしまい終えた。
倉庫の中ではダルガスを始めとした職人連中がお互いに労いの言葉と、これまでのことを思い出して興奮気味に話していた。
「いや~、今回の仕事は今までにないくらいに血が滾ったなゴッタズよ!」
「おう!こんな仕事は初めてじゃったわい!」
「俺らいい経験したよなぁ~。あんな上物の素材をあれだけ触れることなんて、これからあんのかな?」
「それは言わないでくれよ、ゴーズ。あの充実感を味わうと仕方ないけどよー……」
「フフフ……この経験で、私は更に高みを目指せる……!」
「本当に楽しかったよなぁ~。オレっちは更に仕事まで舞い込んできたし、もうウハウハだぜ!」
「ははは!確かに、ここ最近は充実した日々だったよ。特に弟子たちの成長が嬉しいのなんの__」
みんな今回のことが相当楽しかったようで、互いにその成果や今後の店での方針や弟子達をどのように指導していくかについて話し合っている。
俺が出会ってから、こんな風に喜んでいるのを見ていると、彼らに素材を渡して武器や防具をなどの制作を頼んだのは間違いではなかったことを感じさせてくれる。うん、こいつらに会えて良かった。
だが、そんな明るい話も、ジザ爺さんの一言で一気に変わってしまうことになった。
「……じゃが、タイキ君が街から出るのは、やはり寂しくなるね」
「「「「……」」」」
そう、俺はこの街……アーバイルの街から数日後に旅立つのだ。