英雄転生編 02
はてさて、今回はどんな理不尽なことにあうことやらW
どうも皆さん、お久しぶりです(俺の体感で)。
今現在、俺は物凄い達成勘に打ち震えている。何故かって? それはな……
「うっしゃーーー! 道に出たぞぉーーー!!」
そう、今俺の目の前には道があるのだ。無論、日本のよな整備されたあの綺麗な道路みたいなものではなく、田舎の方や海外の整備されていない道路のような地面はむき出し、ところどころ石転がっていたり、草が好き勝手生えている状態だ。
だが、そこには人の行き来があることを明確に示す様に、多くの人が通ったとしか思えないくらいに踏み固められた地面がそこに存在している。
このことだけでも俺にとっては感動ものだ。
何故、俺が道を見つけただけでこんなに騒げるのか不思議だって?
あぁ、聞いてくれるか?
そう、それはあの池を見つけてからのことだった……
俺は池での解体と討伐をした翌日から、池を一時的な拠点代わりにして森の中を散策しまっくた。
流石に無暗に行動して体力と精神を消耗するのも得策じゃないと今更ながら感じ、森からの脱出成功率上げるべく、池から半径5kmを散策(Levelが上昇したお陰か、このくらいの距離を走り続けてもあまり疲れなくなっている)し、人の存在の有無を数日掛けて調べ、あわよくばこの森から出ようとしたんだが……
「やっぱり、そう上手くはいってくれないよなぁー……」
俺のほんの少しの希望も、散策するにつれ気分が落ち込んでいくのがわかった。
何せ、解ったのは散策した範囲にいる魔物の生息比率と、この森が異常に広大で、いくら人の形跡だけでもと探しても見つからなかったのだ。どんだけ広いんだよ、この森!?
それで俺は直ぐにアプローチの仕方を変え、一度高い所に登ってからこの森の全様でも見てみようと考えた。お誂え向きにも、池に水を勢いよく流し続けている滝、それを作り上げる崖が存在するのだ。こいつの天辺委登り切れば、絶対に色々なことが判明すると感じ、散策を終えた翌日の朝からロッククライミングを始めることに。
崖を道具もなしに登るなんて、それも命綱すらなしに行うなんて自殺行為じみたことをしながら俺は天辺を目指し、これまた信じられない速さで崖を登って行った。
何度か崖の岩が剥がれ、体制がヤバイ時もあったが、どうにかしがみ付こうとした際に、勢い余って指が岩にめり込んだ時には俺の中の大切な何かに傷がついた気がしたが、それを感じないふりをして登りだし、または飛行能力がある魔物を空中殺法よろしく、崖から飛び上がったてそいつらを叩き落とし、その際に生じた衝撃を利用して上に向って跳び、もう半ば諦めと自棄で登ってもいた。
そして、昼になる少し前は崖の天辺にたどり着き、そこから森の全様を見たのだが……
「ははは…………マジか……」
そこから見えたのは、散策した範囲よりもずっと向こう側にやっと森の切れ目があるかな?くらいの信じられないくらいに長い距離があった。ついでに後ろの方も確認したが、そこからも少し森が存在するが、その後ろに聳える山々の連なり(多分、あそこの雪解け水がここに流れているのだろう)が見て取れた。あれに軽装で挑むとか、自殺以外なんでもないぞ。
何にせよ、この森からの脱出の目星がついたと感じ、俺は苦労して登って来た崖を降り始める。だって、このまま此処に居ても意味無いし、後ろの山に向かうなんて、それこそ論外だわあ。
んで、それから天辺から戻ってきた時には既に夕方。
朝飯も昼飯も食わずにいたせいか、かなりの空腹に襲われ、すぐさま飯の支度を始めた。
そうそう、この時から俺の食生活が改善されたんだ!
初日から2,3日はアプエの実や他にも多種多様な果実で飢えを凌いでいたが、解体をした翌々日くらいから魔物の肉(主にオークの肉)を焼いて食うようになった。
だが、肉を食うにも、生で食う訳にはいかない。寄生虫が混入してる可能性だってあるし、まず生であのフォルムの肉を食いたいかと聞かれたら、速攻で拒否る自信がある。
なので、俺はどうにかして火を起こそうと決めたのだが……
「……うん、父さんには本当に感謝しないとな」
何の苦労もなく、特に悩むことすらなく直ぐに準備が出来た。
これも小学校低学年の時に父さんに連れられた「一日縄文体験」なる日帰り体験学習に連れていかれ、そこで火の熾し方についても教わていたため、それを手持ちの道具で準備し、これまた信じられない速さで用意してしまったのだ。
毎度同じような流れが出来てしまっていて、もうこれは必然だろうと割り切って黙々と夕食の準備をしたさ。え?それでいいのかって? そう割り切らないと、俺のメンタルがズタズタになるからな。
あぁ、因みにオークの肉だけど、これは見た目通りの豚肉の味だったわ。まぁ、以前食ってたのよりは少しだけいい肉かな?ってくらいだったと広言しておこう。
でもな、この焼いて食うまでにも何度もこの森の奴らには苦渋を舐めさせられた。
火に木を櫛状に研いだ物に刺した肉を焼くと、その匂いに釣られて魔物が襲って来やがるんだよ!それも、いい具合に焼けて食べごろのタイミングで!
そればかりか、その襲ってきた奴らを蹴散らしてる間に、コッソリと近づいて焼けた肉を猿の魔物が全部奪って逃げていきやがる! 何度もそいつらを追ったり、石を投げつけて倒そうとしたが、その悉くをかわされ肉を奪われたのだ。
これには俺も頭にきてな、焼く肉の半分以上に色んな毒物の木の実や薬草なんかを磨り潰した物を塗り付けた奴を食わせてやったぜ! フフフッ、食い物の恨みは恐ろしいんだよ、糞猿め!
ま、その後は肉を奪いに来ることも減ったからいいんだけどな。流石に「テメエらは一匹残さず駆逐してやらぁ!」なんて物騒なことは思わなかったがな。……この猿に関しては、だ。
そんなことを思い出しながら、火で焙っていたオーク肉を食いながら、あの悍ましい生き物のことを思い出してしまっていた……
そいつは、森の散策の時に出会った。出会ってしまった。
姿形はイモリのような外見なのだが、全身が派手なピンクで所々に紫色のまるでハート型のような模様がある変わった魔物だった。ここまでならちょっと派手な色をしていて、今まであった魔物とそう変わらないのだが……
そいつはあろうことか、肉泥棒のすばしっこい猿の魔物を生け捕り(弛緩性の麻痺毒持ちなのだろう)にし、そいつの尻を掘っていたのだ! それに加え、掘られていた猿の魔物の腹が異常に膨れていて何かを入れ込まれていることに気付き、すぐさま俺はその場から逃げ出そうと来た道に戻ろうと動いたのだが、その際に足元に落ちていた木の枝を踏んでしまいパキッと軽い音を立ててしまった。
そこから先は、思い出したくもない……
だが次会う時があったならば、確実に殲滅しないと、多くの男の貞操が危険に晒されかねない!
そんなことを心の中で誓いながら、夕食を終えて就寝。
その翌日からの行動が常軌を逸した苛烈さだった。
もう池に戻ってこれないことを覚悟し、午前中に池に溜まっていた水をありったけ【無限収納】に入れ、それから森の中でのサバイバルが始まる。
道中は必ずと言っていい程に魔物に襲われ、それらを四苦八苦しながら討伐していき、初見の魔物に関してはその場で直ぐに解体して経験し、後の行動の邪魔にならないようにしておく。
他にも使えそうな薬草もしくは毒草、木の実を取り過ぎない程度に採取していた。
そんなことを続け、魔物の討伐数が300をになってからは数えるのを止め、睡眠時間も三日で3時間あるかないかの過酷な生活を繰り返し、そしておおよそ二ヶ月後、やっと森から出ることが出来たのだ。
そう、それから不十分な休憩と食事、加えて精神的ダメージが蓄積し、道を見た瞬間にそれらの溜まりに溜まった感情が爆発したのだよ!
この世界に来てから周囲には会話のできる存在はおらず、歩けばこっちを食おうと魔物に襲われ、休憩しようにも魔物が何時襲てくるかという恐怖に怯え、追われるせいで真っ直ぐに森の外に向かえずに彼方此方を彷徨う羽目になり、そんな苦労をしてやっと森から出たのだ。
今ここで声を上げて小躍りしたいほどに感動しているが、このままでは森から魔物が出てくるとも限らない。俺は直ぐにその場から移動し始める。
街がありそうな方向が解らなっかので、とりあえず左側に向って行くことにした。
そういえば、森の中を移動している最中に一度だけStatusを確認した時にLevelが400一歩手前になっていたのを見たが、森を出るまで一ヶ月くらい見てないかったことを思い出し、俺は歩きながらStatusを開いてみる。
名前:タイキ・カミザキ
Level:537
種族:人間種(転生者、女神の祝福を受けた者)
職種:なし
HP:84236510/117682000
MP:8/8
STP:不明
DEX:不明
VIT:不明
INT:不明
MND:不明
AGI:不明
LUK:81
一般、固有Skill:なし
特殊Skill:
【無限収納】
【完全適応】
【状態異常完全無効】
【女神の虚偽隠蔽】
うん、何時も通りでバグってやがるなぁ……
【無限収納】には大量の、それも尋常じゃない量の魔物の肉に素材と、森の中で自生してた各種薬草と毒草、食っても美味くて薬の原料になる木の実や果実等々、これは当分の間は魔物との戦闘や食料調達しなくても一年は余裕で食っていけるくらいに余裕があるな。
てか、これら売ったら幾らくらいになるんだ? そもそも、この世界って、貨幣経済が成り立ってるのか? もし物々交換が主流なら、米とまでは言わないが、小麦は欲しいな。
小麦さえあれば、パンや麺が造れるし、それに鉄板とか手に入ればお好み焼きやもんじゃ焼きも楽しめる! あぁ、早く人の居る街に行きたい!
そんな食の新たな改善に期待をしながら、軽い足取りで歩き、途中からは知らずに軽く走っていた。
昼前に森から出て既にかなりの時間走り続け、そろそろ陽が沈み始めた時、俺の視線の先に何か灰色の物が見えてきた。それは近づいて行くにつれ、それが何なのかハッキリと観ることができた。
「おぉー、スゲー! でっけー石壁だ!」
そこにあったのは、かなりの高さがありそうな石を四角く切り出し、壁のように積み上げられた物が存在していた。所謂、外壁という奴だろうか? それが見える範囲で大きく中にあるであろう街を覆うくらいに横にも縦にもデカく造られているみたいだ。
そんな壁が徐々に近づいて行くにつれ、俺のテンションは上がっていく。だが、ふと今の俺の状況を思い出して着ている服に視線を向け、先程まで浮かれえていた気分と走るのをやめ、その場で立ち止まり顔を顰める。
森の中で動き回ったことと、異常な回数の戦闘の余波によって今着ている服はいたる所が擦り切れ、あるいは魔物の爪に引っかかれた際に切れたりして殆どボロボロ。ジーンズに至っては、片方が膝から下が無く、上に着ていたTシャツはどうにか原型をとどめているくらいだ。ジャケットだけは収納しておいたから無事だが、こんな状態の俺が走って行ったら確実に怪しい奴だろ、これ。
この世界でどんな服装が一般なのか解らない上に、こんなボロボロの状態の男が近づいて行った日には、警察的な組織の人達に捕まること請け合いだ。
もしこのまま外壁に近付いても、どう俺のことを説明すればいい? 「こんにちは! こんななりですが、異世界から来た一般人です。森で彼此二ヶ月くらいサバイバルしてました!(てへぺろっ)」……うん、完全に頭いかれてるとしか思られないだろな。うわぁ~、今になってこんなことに気づかなかったとか、俺バカだろ?! クソッ!森の中で一人ごととか呟いてるくらいなら、こんな事態を想定してから行動しとけよ、俺!
仕方ない、もうその時になってみないと判らないし、諦めて行くか……はぁ~。
俺は心の中で言い訳みたいな説明について考えながら、外壁に向って歩いて行く。流石に走って行くのは躊躇われたからな。
それから日が完全に落ちきる前に、人の出入りがされている門のような物が視認出来る距離まで来ることが出来た。どうやら既に人の出入りは終わっている様で、門の前には鎧のうな物を着た人が二人立ち、明り取りの為か篝火を焚いているのが判る。多分、警備員みたいなしごとをしているのだろうな。本当にご苦労様です!
そんなことを観察しながら歩いて行くと、相手の方もこちらを視認したのだろう。俺はそんな警備員さん達に手を振ってみる。すると、二人のうち一人がこっちに向って走り寄って来た。
「****、*****?! ***、*******、****!?」
こっちに何かを伝えようとしているようだが、全く何を言っているのか解らない! いや、マジで何語ですか?
頭の中でそんなずれたことを考えていると、その警備員の人(パッと見で40代くらいのゴツイおっさん)が、右手に槍を持って俺に近付いてきた。
「おい君、大丈夫か?! そんなにボロボロで何も持たず、いったい何があったんだい!?」
先程まで何を言っていたのか解らなかった言葉が、俺の前に来たと同時にハッキリと何を言っているのか理解できるようになっていた。いやはや、毎度【完全適応】さんはいい仕事してくれるわ。
目の前に居るおっさんの外見はかなりガッチリとした肉体に、服からでも判るくらいに筋肉が盛り上がり、顔は厳格そうな顔つきをして頭を剃りこんでいる。日本居たら間違いなく「ヤ」の付くご職業についてそうだ。だが、言葉遣いが丁寧なため、ギャップが凄い。
このおっさん、見た目に似合わず親切そうだなぁ。
「君、本当に大丈夫か? どこか怪我でもしているのかい?」
「え? あ、あぁ~……はい、俺は大丈夫です。ところどこで、俺の言ってること解りますか?」
「む? それは、言葉が通じているかと言うことかな? それなら心配ない、君の言っている言葉は私に通じている。なんの問題もないよ」
「そうですか……」
どうやら、言葉を理解したと同時に、俺も普通に話せるようになったらしい。なんて出鱈目な……
「それで、その姿はいったいどうしたんだい? 見たことが無い服装だが……」
「あ、この服は俺のせか……国で作られている物ですよ。この国には流れていない物なんです」
「ほぉ、そうなのかい。だが、先程も言ったが、どうして君はそんなにボロボロの姿なんだい?」
そんな風に質問してくる正面のおっさんの目からは、警戒していることが直ぐに分かる。それもそうだろ、こんな陽が暮れ始めるころになって自分達の警備している所に近付いて来る見たことのない身なりを、それもボロボロの服を着た不審者が居たら警戒するなっての無理だろ。
「えっと……今から説明しますけど、内容を聞いても驚かないで下さいね? それと、別にあなたや街で悪いことをする気も無いので、しょっ引かなくても大丈夫ですからね?」
「……それは、話を聞いてみないことには、私からは何とも言えんな」
「ごもっともです……」
仕方ない、これまでの経緯を「転生した」とかの内容を省いて説明してみるかな。
「そうですね……ここに来るまで俺、あの森の中で二月くらい過ごしてました」
「……は?」
俺が森から来たこと、そこで二ヶ月過ごしたことを告げると、おっさんは「何を言ってんだこいつ?」と言いたげな怪訝そうな顔で返してくる。うん、俺でもいかれてるとしか思えないが、これは真実なのだ。
「俺は知らぬ間に元いた国から、あの森の中で目を覚ましたんですが……それから森を彷徨い続けました。それも魔物に追いかけられながら、ね。森を出たのが今日のことで、これからどうやって生きていくか途方に暮れてながらここまで歩いて来たんですよ」
「……」
「それでこの格好ですよね? これは説明した魔物から逃げる際に転んだり引っかかれたりしたせいですよ」
「……最後に、確認したとがある」
「はい、なんですか? お金なら持ってないですよ?」
おっさんのどこか同情めいた、悲壮な面持ちで俺に質問してきたので、少しおちゃらけて返してしまったが、そのことに特に何も反応せずに
「君には、家族はいるのか……?」
そんな質問を投げかけてくる。どういう意味だ? 確かに家族はいるが、俺が死んで異世界に居るからある意味ではこっちにはいないことになるのか? まぁ、聞かれたことにしっかり答えないと、門を通してもらえないだろうから素直に答えておこう。
「そうですね、家族はいました。両親と妹が」
「……過去形、か」
「はい。死に別れしましたから(俺自身が死んで)」
「そうか……すまない、今の質問は忘れてくれ」
「は、はぁ?」
あれ、おっさんが目頭を押さえて顔を俯かせてしまった。
それから直ぐにおっさんは頭を上げ、「ついて来てくれ…」とだけ言って、俺に背を向けて門に向って歩き出してしまった。よくわからないが、とりあえずは怪しまれずに済んだのかな?
俺はおっさんに言われた通りに、後ろについて門に向って歩いて行く。
徐々に門の方に近付いてみると、そこにはかなり大きな扉が存在していた。鉄製で片方だけでも相当な重量がありそうな扉が、人一人がやっと通れるくらいに開かれていて、すぐ傍では先程遠くから確認したもう一人の俺より頭一つくらい背が高い警備員の人(こっちは20代になるかならないくらいの若い男の人)が、俺に向けておっさんと同じ槍を構えている。うん、かなり警戒されてるな。
「隊長。そいつ、どうするんですか? 衛兵に突き出しますか?」
「いや、問題ない。この青年はどうやらかなり辛い経験をし、この地まで来たようだ。だから、その構えた槍を収めろ」
「……隊長がそう言うのであれば」
隊長と呼ばれたおっさんから注意され、渋々と若い男の警備員は構えていた槍の穂先を俺から離す。
それを見ておっさんは幾つかの指示を出し、若い警備員は門を潜って何処かに行ってしまった。俺はそんな事態をおっさんの後ろから見ていたが、これからいったいどうなるんだ?
ほんの少し不安を感じていると、おっさんが先程とは違い、表情を緩め朗らかにこちらに話しかけてきた。
「すまなかったね。なにぶん、こんな辺境の、それも完全に陽が落ちて門を閉じようとしてい時に君のような姿をした者が近付いてきたからな。こちらも、街の出入りを警備している者としては警戒せざるを得なかったんだ。気分を害してしまっただろうが、どうか理解してはもらえないだろうか?」
「あ、別に気にしてませんから、謝らないで下さい。俺が同じ立場なら、同じか手を拘束してから連れて行くくらいは警戒していたと思いますし、逆にこちらこそすみませんでした。そんな仕事終わりの時間に押しかけてしまって……」
「……驚いた。君は、随分と良識があるようだね。私もこの仕事に就いて長いが、君のような対応をされたのは数えるくらいしかなかったよ」
俺は頭を掻きながら、バツが悪そうに謝ると、それを聞いたおっさんから感心されてしまった。
何でそんな風に思ったのか聞いてみると、大概の人達は自分の損得勘定で動くため、警備兵(要所で街や外壁の警備をしている兵隊さんらしい)に突っかかる者や賄賂を渡して違法物資を持ち込もうとする人が後を絶たないらしい。特に貴族のような傲慢な態度で威張り散らす者達も居り、無理矢理列の割り込みをする為、それらへの対応するのも彼らの業務に入っていることなど、そんな愚痴も交えながら色々なことを親切に教えてくれる。
「そう言えば、先程金銭を持ち合わせていないっと言っていたね? もしよければ、私に君の通行料を払わせてくれないか?」
「うぇっ?!」
それから数分、門の前で雑談をしていると、俺が身分証明書なる物(何処の出身で、何所の国に帰属しているかなどを書いた書類)を持っていいないことに触れ、それを提示しない代わりに通行料を門で払うことで街に入れることをおっさんが説明してくれていると、そんな申し出があったのだ。
まさか、会ってそれ程経ってない、それもこんなボロボロの身なりの奴に金を立て替えてやるなど言われれば、何か良からぬことを考えているのでは?と勘ぐってしまっても仕方がない。
そんな俺の訝しむ視線を受けたおっさんは、苦笑いしながらその理由を教えてくれた。
「そんなに警戒しないでくれ、別に他意は無いよ。君は最初に別の国からこの国に知らないうちに来た、もしくは連れてこられたかもしれないといっていたね?」
「ん? まぁ、あってますね」
……あれ? 俺、何時の間に誘拐されたみたいなことになってるんだ?
「この国のことを何も知らない君に、無理にお金を用意させようと言うのはあまりにも酷だろう。それに、私は個人的に君に好感が持てる。こんな一兵士に過ぎない私に、あんな対応があった後だというのに君はまるで歯牙にもかけず、普通に話しをしてくれている。本来であれば、もっと険悪な雰囲気になってもいいはずなのに、だ」
「べ、別に、どちらか一方が悪いってわけでもないですし、お互いがちょっとした勘違いだったんですし、仕方ないですよ」
「ふふふ、やはり君は善良な若者のようだ。なに、これは私の罪滅ぼし、謝罪の一環だと思ってくれ。ただのおっさんからのお節介だと割り切って、受け取ってくれないか?」
「……分かりました。その申し出、有難く受けさせてもらいます。本当に、ありがとうございます」
「うむ、受っとてもらえて何よりだ。……どうやら、準備が出来たようだ」
おっさんからの好意で通行料を代わりに立て替えてもらうことが決まったと同時に、門の中に入って行ったもう一人の警備兵の人が手に何か持って戻って来た。
「隊長、検証具を持ってきました! この場で検証を行いますか?」
「あぁ、そうしよう。君……っと、そういえばまだ君の名を聞いていなかったね。私はこの門の警備責任者でジードだ」
「そういえば、名乗ってませんでしたね。俺は太輝って言います。よろしくお願いします、ジードさん」
「よろしく、タイキ君。早速で悪いが、この検証具に手を触れてくれないか?」
「……これは?」
隊長のおっさん、ジードさん言われてさっき持ってこられたそれに視線を向ける。
それはいたの上に水晶を半分に割ったような物が乗っていて、その周囲に何かの模様がびっしりと書き込まれている。その見たことの無い物に興味深く見ていると、ジードさんはそれについて簡潔に教えてくれる。
「それは「犯罪検証の魔道具」だよ。その水晶に触れることで、触れた者の魔力から犯罪と判定されることを犯していないかを調べるための道具だ。これのお陰で盗賊や犯罪者を間違って入れないようにしているんだよ」
「へぇ~、便利な道具ですね」
それを聞いて、俺は直ぐに水晶の上に手を乗せてみる。すると、体から何か吸われた様な感覚があり、こっそりとStatusを確認して視るとMPが減っていて「3/8」になっていた。どうやら魔道具とやらはMPを消費することで何かしら発動するようだ。
頭の中でそんなことをまとめているのだが、魔道具からは何も反応がない。え?これ、壊れてないよな?
そんな一抹の不安を感じてジードさんともう一人の警備兵さんの顔色を伺ってみると……
「うん、どうやら問題なさそうだな」
「ええ、みたいですね。隊長、このタイキでしたっけ? こいつ、身分証は持ってたんですか?」
「いや、残念ながら持ってはいないらしい。代わりに銀貨二枚の支払いだが、今回は私が立て替えることにした。なので、無理に今後彼から金銭を徴収しないようにしろ?」
「はぁっ?! しょ、正気ですかジードさん!?」
「ネイツ、私は至って正常だ。それと、今日のところは彼を休憩室に泊めてあげなさい。何も金銭を持ち合わせていない彼では宿に泊まれないからな。これは隊長命令だ」
「……なんでそこまでしてやるんですか?」
「その話は、門を閉じた後に教えてやる……タイキ君、とりあえずそこの男について行きなさい。一晩だけなら、兵士が普段夜勤で使う休憩室で休むことが出来るだろう」
「……何から何まで、本当にありがとうございます、ジードさん」
俺は嘘偽りない素直な気持ちでジードさんに頭を下げる。
ジードさんはそんな俺の姿を微笑みながら何度か頷き、警備兵さん、ネイツさんに俺のことが終わった後、他の警備兵に閉門の準備をするように指示を出す。
それから俺はネイツさんに連れられ、門を潜って行こうとすると……
「おぉ、そうだ。大事なことを伝え忘れてしまっていたな」
そう言ってからジードさんが俺の方に向って
「ようこそ、辺境の街アーバイルへ。この街は君を歓迎するよ」
ジードさんはそれで言うことはないと、近付いてきた警備兵に指示を出し始めた。
俺はそんな彼の背にもう一度感謝を込めて頭を下げ、先に行っていたネイツさんの後を追った。
門からそれほど離れていないところに、ジードさんが言った宿舎が存在した。その外観は木造二階建てで、ぱっと見は「長方形の箱」の様な形をしている。窓枠らしき木枠はおいるが、窓が俺がよく知るガラスの窓ではなく、木の板でふたをして閉じているようだ。
その宿舎の隣、宿舎に比べるとかなり小さな小屋のような建物があった。ネイツさんはそっちに向っており、どうやらその小屋が夜勤で使う休憩室のようだ。
「ほら、着いたぞ。入れ」
「お邪魔します」
ネイツさんが小屋の扉を開き、中に招き入れる。俺はそれに従い中に入ってみると……
「……随分、殺風景ですね、ここ」
そう、入るとそこにあるのは簡易的な木造のベット(木の板に布を敷いただけの物)と、小さな机と椅子が三脚あるだけで他に何も置かれていなかったのだ。そんな俺の言葉に、どこか呆れ顔でネイツさんが返してくる。
「そりゃ当たり前だろ? ここは夜の警備の合間に休む為の場所で、寛ぐ場所じゃねぇ。それに、物を置いたままにしておくと、空き巣が入って物を盗まれるし、流民や難民なんかが勝手に住みつかないように気をつけてんだよ」
「はぁ~、大変なんですね、この国って」
「……お前、一体どんな国で生きてきたんだ?」
素直な返事をしたつもりが、更に呆れられてしまった。どうやら、この世界では防犯に関してはかなり緩いのかもしれない。あまり持ち物は出しっぱなしにしないよう気をつけよう。
「それじゃ、今日はここで寝な。他の奴らにはここを使用しないように伝えておいてやるから、安心して休めよ。あと、水とかは宿舎の裏に井戸があっから、そこで水汲んで飲むなり洗濯するなり好きにしな。何か聞きたいことがありゃ、俺か隊長に聞きにくれば教えてやる」
「ありがとうございます、ネイツさん。ジードさんの指示とはいえ、親切に色々と心配してもらって……いい人なんですね、ネイツさん」
「ば、バカ野郎! べ、別にこれくらい普通だっつーの、普通! いいから早く寝ろ! 明日の朝にまた来るからな、逃げるなよ?!」
ネイツさんは俺がいい人だと褒めると、恥ずかしかったのか、捲し立てるように言いたいことを言い切ると、後頭部を掻きながら小屋から出て行ってしまった。どうやら普段から褒められ慣れていないようだ。
俺は小屋の真ん中に吊るされていたカンテラを目にし、それに外にあった篝火から火を拝借し、カンテラに火を移して灯りをとる。
まだ空いたままの小屋の扉を閉め、近くに置いてあった木製の椅子に座り、背もたれにもたれかかる。その状態で一度深呼吸をし、気分を落ち着かせながら【無限収納】に入れていた手製のコップ(大型の魔物の骨を短剣で加工して出来た自慢の一品)を取り出し、その中に池の冷たい水を満たす程度に出してから一気に飲み干す。
「ふぅー。何とか街の中に入れたか。まさか、あんなに風に接してくれる人たちが居るとは思いもしなかったな。こっちからすればスゲーありがたいことなんだが……」
落ち着いて考えると、この世界での初めての意思疎通が出来た相手だ。出来れば色々と聞きたいことがあったが、あんないい人達を俺の素性を騙していると思うと、何だか気落ちしてしまう。出来るだけあの人たちや、今後関わる人達には迷惑をかけないように気をつけて行動しよう。
「よし、ネイツさんが明日の朝来るとか言ってたし、今日は早く寝てしまうか。いや~、屋根のある部屋、それも堅そうだけどベッドで寝るのも久しぶりだなぁ~」
沈みかけた気分を無理矢理上げ、椅子から立ち上がる。手に持っていたコップをしまい、そのままベッドに倒れこむ。それから瞼を閉じ、あっという間に深い眠りに就いた。
※ここからは会話だけの文章になります。
宿舎の一室での一幕
「隊長、ネイツです」
「入れ」
「は! 失礼します!」
「彼はどうだった? 何か言っていたか?」
「いえ、これと言って何も。ただ、休憩室の中を見た際に、物が少ないこのに首を傾げていましたが、必要事項と、何かしら問題があった場合には、私か隊長に話を通すようにと伝えておきました。問題なかったでしょうか?」
「うむ、問題ない。よくやってくれた、もう今日は上がってくれ」
「……隊長、やはり俺は納得いきません」
「何がだ、ネイツ?」
「何故あいつにここまでしてやるんですか? 確かに酷い目にあって、この街まで来たのは同情します。でも、隊長があいつの代わりに通行料を支払たことや、休憩室を宿代わりに貸し出したことが腑に落ちません!」
「……そうだな、お前の言うことも尤もだ」
「でしたら……!」
「……これは、単なる感傷だよ」
「感傷?」
「あぁ……ネイツ、お前の両親は元気にしているか?」
「え? は、はい、オヤジもお袋も元気にしてますよ。毎日帰ると「嫁はまだか?」と言われています」
「そうか、それは何よりだ」
「隊長、それがいったいなにが……まさか、隊長。あなたは……」
「あぁ、お前の考えている通りだよ。私は……俺は、あの青年に、亡くなった息子の影を重ねてしまったんだ。最後に見たのが、あんな姿でな……」
「確か、隊長の息子は__」
「冒険者だった。息子は亡くなった妻が残してくれた唯一の肉親だった……そんな息子が冷たい体で、ところどころ欠損した状態で森で見つかってな」
「それは、魔物によって、ですか?」
「わからん。だが、俺の愛する家族は皆いなくなってしまった。もう数年たつが、今でも夢にあの子の死に顔を見るんだ……」
「そうだったんですか……」
「実は昨晩もその夢を見ていてな。今日は気分が優れなかったが、そうも言ってられんからな。隊長職なんて就くものではないな」
「では、もしかして……」
「そうだ、俺はあの青年……タイキ君に、我が子の影を重ねたんだ。情けないだろう? 自分の息子と似ても似つかないような相手に縋ってしまったんだ、俺はな」
「……」
「俺の下に帰って来た息子様にボロボロの姿でこちらに歩いて来た時、俺は居てもたってもいられなかった。あの時のような光景をまた目にするのが、俺は恐ろしかったんだ」
「隊長……」
「だからついつい世話を焼きたくなってしまったんだよ。生きている間に息子にしてやれなかったことを、代わりに彼にしてしまったんだ。滑稽だろ? 俺の感傷の為に、俺は彼を……」
「隊長っ!」
「……すまない。今のは聞かなかったことにしてくれ。それと、出来れば彼を気に掛けてくれないか?」
「理由を教えてもらっても?」
「彼はこの国の人間ではない。どうやら、人身売買で誘拐され、この国に連れてこられたのだろう」
「なっ!? そ、それは、国家間の問題になるんじゃ……!」
「そうだな、そのこともあるな。だが、彼の国に肉親や、彼が何処の国に属するか示す明確な証拠が無ければどうかな?」
「っ!?」
「彼の家族は既にこの世にいない、彼はそう答えた。彼は正真正銘、この世で天涯孤独だ」
「そ、そんな……」
「だからネイツ、私が関われない間、お前が彼を気にかけてやってくれないか? 公私混同ですまないが、どうしても彼が気になってしまってな。無論、これに関しては強制はしない、断ってくれて構わん」
「……わかりました。彼の件、受けさせてもらいます」
「……すまない」
「謝らないで下さい、隊長。これは俺が決めたことです」
「……そうか」
「えぇ……隊長、明日休暇をいただいてもよろしいでしょうか? あのタイキの奴にこの街を案内してやろうと思うのですが?」
「ふふ……あぁ、こちらで書類を準備しておく、彼にしっかりこの街の素晴らしさを伝えてきてやってくれ」
「はっ! 了解しました! では、自分はここで失礼いたします!」
「うむ、ゆっくり休んで明日に備えてくれ」
「はい、失礼します!」
「ふぅー……女神よ、どうか、あの青年に幸おおからんことを……」
さぁ、今度は街散策だ!!