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異世界物語  作者: 成成成
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英雄転生編 01

設定がグダグダですが、どうかお楽しみ下さい!


 皆さんこんにちは、俺の名前は神崎かんざき 太輝たいきという元高校二年の平凡な外見の一般人だ。

 ん?なんで「元」が付くのかだって? その理由は……


「プゥギィイイイ!」


 今現在、俺は信じられない程に大きな猪から追いかけまわされている。それも動物園とか見たことがあるヒグマ並みの大きさの巨体で、原付バイクの速度で木々をなぎ倒しながらこちらを食おうと。

 何かの冗談かと思うだろう? 心の底から残念ながら、今言っていることは現実なのだ。


 ことの発端は、俺自身もよくわかっていない。

 今日は学校の振替休日で家でゲームを満喫しようと決め、何故か母さんから夕飯の買い物と、妹からついでにコンビニでプリント期間限定のアイスを(俺の金で)買ってと言われ、休日に買い物に出たことまでは覚えている。

 そして、何時の間にか森の中で目を覚まし、手に手紙を握りしめていた。現状が判らずに、とりあえず手掛かりがなくて手紙を開いて内容を読んでみると、長々と説明が書いてあったが、要約してしまうと


『私はあなたの世界とは違う、異世界の女神です。あなたは前の世界で死に、異世界に以前の姿のまま転生させました。この世界で生きていく力もおまけで付けていますので、どうぞ新しい人生を楽しんで下さい。ただし、世界を壊そうとしたら天罰を下すので注意して下さいね』


 えぇー、自分で言うのもなんだけど、この女神様?は俺を生き返らせてくれたらしいのだ。なので、俺の説明に「元」が付くわけなんだよね。


 さて、そんなこんなで、この森の中にずっと居ても何も始まらないと思って森から出ようと動いたんだけど……その先で何かの生き物の肉を食っていた熊並みに大きな猪(これから熊猪と呼ぼう)に遭遇し、今の現状になる。もうね、幸先が最悪過ぎませんかね女神様?


 遭遇してから彼此二時間くらいの逃走劇の末、前方に居たゲームなどでお馴染みのザコ敵で有名なゴブリンによく似た生き物に熊猪を擦り付け、木の陰で隠れた俺は命の危機を脱することが出来た。

 まぁ、ゴブリン君という尊い犠牲のお陰で何とか熊猪を撒くことが出来たとその時は安心したよ。でも次の瞬間、俺は次の命の危機に遭遇することになった。


 さっき擦り付けたゴブリンを食っていた熊猪を、これまた信じられないくらいに巨大な大蛇が一飲みに熊猪を飲み込んだのだ、しかも目の前で。


 どう軽く見ても三階建てのビルに届きそうな程の大きさの大蛇が一瞬こちらの方に視線を向け、俺はここで食われて終わりかと諦めてしまったが……何故か大蛇はこちらを無視して森の奥の方へと消えていってしまった。

 視界に大蛇の姿が見えなくなったと同時に、俺はその場で木に背にして深く息を吐きだした。

 うへぇ~、この森の中って、あんな化物がうようよしてんのか? 勘弁してくれよ。


 そこからどれくらい経ったのか分からなかったが、息が整ってきたと感じてから、大蛇が消えていった方向とは逆の方に向って森の中を歩き出した。まだ日があるうちに、何処か避難できる場所を見つけるか、人が通る道を探さないと、こんな森で水も食料も無しじゃどうにもならない。

 あぁ、こんな時におじさん(母さんと仲の良かった人の息子さんで、社会人だ)が居てくれたら、何かしらのアドバイスしてくれたんだろうけど、ない物ねだりしても仕方ないか。はぁ~。


 それにしても、一つ不思議なことがある。さっきまで走りずらいことこの上ないような森の中を熊猪に二時間追われ続けたっていうのに、そんなに息が切れていない。それどころか、走っている途中から更に走る速さが上がった気すらする。学校でもそんなに運動が得意では無かったんだけど、なんだこれ?

 そんな風に考えながら歩いていると、木の枝に見たことのない橙色の小さなリンゴみたいな木の実を見つけた。それを見て、走り続けたことによる喉の渇きと、軽い空腹感に襲われ、知らないうちにその実を木からむしり取って口にしていた。

 何となくだが、これは「口にしても大丈夫な物だ」と判る。自分自身でも不思議だ。


「うん、美味い。見た目通り食感はリンゴだけど、味はキュウイみたいだな」


 歯で噛むときにシャリシャリとした歯ごたえだけど、甘みが強く、知っている中で一番近いのがキュウイだと感じた。サイズは小さいが、一つで十分に水分と空腹感を紛らわすことが出来た。まだ木には同じような木の実が生っていたから、着ていた上着を脱いで地面に置いてその上に木のみを7つ程貰うことにした。流石に全部持っていくと、森の生態系に問題が出ないとも言えないからな。

 小さい頃に山に登って栗を拾いに行った時に父さんやおじさんから「自然の物は、そこに住んでいる生き物たちにとって大切な食料だから、そのことも考えて摂り過ぎないように気をつけような」って教わったことがある。こういうことはしっかり覚えてるんだよなぁ。

 そんな昔のことを思い出して苦笑いしながら服で木の実を包み、それを手に持ってからまた歩き出す。


 因みに、服はこの異世界?に来る前に着ていた物そのままだ。

 上はインナーに長袖黒無地のTシャツ、上からおじさんがくれた革製のジャケット(サイズを間違えて買った物らしい)を羽織り、下は無難にジーンズを選び、歩くのに楽だったのでスニーカーを履いている。さて、服は今着ている物しかないからな、大切にしないと。流石に薄着で森の中を歩き回るのはごめんだ。


 それから何時間も森の中を歩き続けた。


 移動しながら周囲の警戒を「自然」に意識しながら慎重に森の中を歩くと、様々な生き物がいた。

 中型犬くらいの大きさのある嘴から牙が生えた鳥、刃物みたいな鈍い光を放つ異常な角を生やした

馬、体から紫電みたいなものを放っている豹、自分の大きさよりの巨大な生物に集団で襲う毛虫、最初にあった熊猪を食った大蛇を引き千切って咀嚼している巨人ets……


 うん、こんな人外魔境に転生させるとか、バカじゃないの?! こんなところに長時間居たら死んでしまうわ!

 こ、ここは速やかにこの森を脱出しなくては、命が幾つあっても足りない。

 

 そんなこんなで、そろそろ陽が完全に暮れそうになったくらいに、木々の隙間から岩肌のような物が見え、そっちの方に向って行くと


「ここって、洞窟、だよな……?」


 今目の前にあるのは、岩山が縦に裂けたように口を開けた洞窟だ。運が良ければこの中でなら一晩過ごせそうだが、もしかすると先客がいて、こちらに襲い掛かってくる可能性がある。ここは慎重にいかないと……


 俺は洞窟の入り口に近付き、そっと中を覗き込む。奥の方は予想道理、暗くてよくわからない。

 次に足元に転がっていた小石を拾い、それを洞窟の中に放り投げる。中から石が岩肌に当たって反響した音が聞こえてきたが、それ以外に何も聞こえてこない。

 最後に意を決して洞窟の中に入ってみると、中には何もおらず、あまり深くない空間がそこにあった。


「……ふぅー。あぁ、緊張したぁー」


 あまりに気を張っていたせいか、俺はそのまま洞窟の奥に進み、岩肌を背もたれにして地面にそのまま座り込んで息をついた。ここまでずっと警戒を続けていたせいで精神的にへとへとだった。

 緊張が解けたと同時に、喉の渇きと空腹が襲ってきた。俺は直ぐに服に包んでいた木の実を取り出して一気に三つを胃に収めてやっと一息つけたと思う。


「さてと……」


 一息ついた俺は、ジーンズのポケットの中に突っ込んでいた起きた時に持っていた手紙を取り出して確認を始めた。手紙の内容は一度目を通しているけど、もう一度確認しないといけない内容があったからだ。


「……やっぱり、気のせいじゃなかった」


 手紙の内容には俺が死んだこと、異世界に転生したことが書かれているのは分かっている。その中に「この世界で生きていくための力」というついてよく目を通してみると、簡単だが以下のことが分かった。



・この世界では「Level」と「Status」によって、大まかな強さが決まる

・「Status」は「open」と唱えることで、個人のものは確認できる

・世界には様々な「Skill」と呼ばれるものが存在し、「一般<固有<特殊」の三種の種類が存在する

・魔法と呼ばれる正にファンタジーの仕様が存在するが、俺自身がそれを習得することが出来ないらしい

・「Level」は一定の経験を積むか、魔物と呼ばれる体内に「魔石」を内包している生物を倒すことで、その魔石に内包された「魔力」の1/10を体内に取り込むことで上げられる(この文章のところに「魔物討伐推奨!」なんてのまであるくらいだ)

・Skillの「熟練度」を最大まで上げると、一つ上のSkillを「習得」することが出来る



 まだ細かいことがつらつらと業務的な感じで書かれているが、ざっと読んだ中で分かるが上記のものだ。さて、まずはこれだけは言いたい。


「なんで、ファンタジーの世界に生まれ変わったのに、魔法が使えないんだよ!」


だってそうだろう?! 普通こんな感じの物語なら、主人公が新たな力に目覚めて色々な冒険をしていくのが定番だろ?

 ……はぁ~。とりあえず、今の俺の現状を見直そう。


 まず俺は一度死んで、異世界の女神によって前の姿のままこの世界に来た。起きた場所が森の中。それも、信じられないような生き物、魔物が跳梁跋扈する異常な森の中で、だ。

 うん、こう冷静に考えると、女神ってバカなのか? 生き返らせたのに、こんな場所に居たら命が幾つあっても足りないだろう。まぁ、何時か直接会える機会があった時にでも文句の一つでも言ってやろう。

 んで、森の中を歩き回ってこの洞窟を見つけて、現在休憩中なわけだが


「今のところは、外から魔物が入ってくる気配はないか。んじゃ、次の確認だな……」


 そう、もう一つの確認。それは「Status」だ。

 この世界で生きていくにも、自分がどの程度の力があるのか確認をしておかないと、いざという時に迅速な行動がとれない可能性が出てくるからな。

 ただ、確認できても、それが高いのか低いのか比較するものが無いのが少し不安ではあるが。


「よし……『open』」


 意を決してStatusを確認するためのキイワードを唱えると、目の前にガラスのような画面が空中に浮かびあがり、そこには何やら文字のようなものが書かれている。最初、日本語で表記されているかと思えば、全く知らない文字で書かれていて読めない。

 まさか、ここまで不親切だとは思はなかった……俺は仕方なしにその画面を見続けていると


「……ん? 読める、か?」


 なんとなくだが、その知らない筈の文字が徐々に読めていくようになった。

 そして、画面の書かれていた内容は



名前:タイキ・カミザキ

Level:1

性別:男

種族:人間種(転生者、女神の祝福を受けた者)

職種:なし


HP:21095/21138

MP:3/3


STP:不明

VIT:不明

DEX:不明

INT:不明

MND:不明

AGI:不明

LUK:55


一般Skill:なし


固有Skill:なし


特殊Skill:

・【無限収納】

・【完全適応】

・【状態異常完全無効】

・【女神の虚偽隠蔽】



「……」


 うん、なんか色々とツッコミどころ満載だが……まず言うべきことがあるとすれば、俺の名前を間違えているところ、かな?

 俺の姓は「カミザキ」では無くて「カンザキ」だ。高校の担任にもよく間違われてたなぁ。

 何となくわかってはいたが、まさかここまでゲームのような表記になるとは……

 だが、問題は名前やそういった仕様の観点ではなく、書かれている内容だ。

 名前から職種までの表記はいい。性別は男だし、種族ってのも読んで字のごとくだ。Levelに至っては、戦闘どころか、これと言って何かした記憶がない。森の中で熊猪に追われはしたが……


 問題は、StatusとSkillの内容だ。

 

 HPとMPの量があまりにアンバランス過ぎるだろ。なんだよ、MPがたったの3って、魔法使わせる気一切ないじゃんか!


 次に問題なのが、他の表記だ。

 「LUK」は何となく無難な数値何だろうと納得できる。だが、他は駄目だろう!?

 なんだよ、「不明」って?! こんなの絶対異常だろう!

 今まで生きてきた(転生する前の世界で)やってきたゲームでも、こんなバグみたいな設定一つも見たことないぞ。これ、絶対他の奴に見られたら大問題になるって、冗談抜きで……


「はぁ~……ここでグダグダ言っても仕方ない、気持ちを切り替えよう。最大の問題がまだ残ってるし」


 そう、まだこれで終わりじゃないんだ。

 下の方に書いてあるSkill。一般と固有は何も無かったが、更に下の特殊にイヤーな文字が書かれたのが一つ混じっているのが気になる。


 そんな不安を覚えながら、俺は宙に浮かんでいる画面に指を近付け、Skillの文字に触れてみる。

 すると、そこから別の画面が浮かび上がり、そこには触れた文字に関する詳細な説明文が書かれていた。勘に頼って試してしたけど、案外うまくいったみたいだ。

 さて、一つ一つ確認していくか。



【無限収納】

・読んで字のごとく、無制限にどんな物でも異空間に収納できます(大きさ、質量等は関係ありません。好きな物を好きなだけ収納できます。なお、収納しても重量は掛かりません)

・中に入れた物の時間を固定、状態の保持が行われます

・収納するには、収納したい対象に触れる必要がありますが、一度触れるか収納したことのある対象は視認しただけの場合でも収納可能です(取り出すには、収納されている物を思い出すことで、意識した場所に出現させることができます)

・魔物の死骸を収納する際、一度でも「解体」の経験のあるものに関しては、自動で解体を空間内で行うことが可能となります

・なお、この空間には生きている物は収納できません(ただし、一時的な生命活動の停止状態のものに関しては収納可能)


【完全適応】

・何時いかなる場合に対し、適切な状態と技能に目覚める

・本来なら長い時間と研鑽を積むことで得ることの出来る技術を、数度経験するか、目視によって動作の工程をを確認するだけで身に付けることが可能になります(例:剣を数度振るだけで、一流の剣士に見合った技術を習得)

・このSkillを習得すると、《魔法適性減退(極)》と《Skill習得不可(一般、固有)》のペナルティーが強制的に付与されます


【状態異常完全無効】

・毒、麻痺、睡眠、混乱、魅了などの外部から受ける状態異常を誘発するものを無効化

・このSkillの保有者は、自身の任意で体液(血液等)を他者に摂取させることで、相手の状態異常を回復、もしくは軽減させることが可能です


【女神の虚偽隠蔽】

・女神から祝福された者を護るためのSkill

・所有者にとって好ましくない状況に際し、《Status偽装》を常時発動。MPを消費し続けることで《偽りの衣》、《存在隠蔽》のどちらかを効果発動できます


《偽りの衣》:髪や瞳の色から、体格、性別までありとあらゆる「外見」に関わるものを改変する

《存在隠蔽》:発動中、世界の全ての事象から乖離でき、一切の干渉を受けない(MNDが低い状態で発動してしまった場合、精神が崩壊し、消滅する可能性がある)



「滅茶苦茶だろ、これ?! てか最後のやつ怖!? どう見てもチートSkillのオンパレードじゃねぇか!」


 思わず叫んでしまったよ。なんでこんなバカみたいなモノを俺に渡すかな?!

 この中で一番穏便なのが【無限収納】って時点でおかしい。いくらでも物が入って、重さも無いって、こんなのインチキだろ。収納した物を入れた状態で劣化しないとか、親切過ぎる!

 更に、触れた物なら何度でもしまうことができて、俺の好きなところに自由に物を出すことができるのもとんでもないなよな。


 だが、他はもっとおかしいし、ぶっ壊れている。


 【完全適応】

 多分だが、これのお陰で熊猪に追われても殺されずに済んだんだろうが……人が一から学ぶことをあっさり身に付けてしまうのは、精神的なダメージと罪悪感で今にも死にそうになるな。

 まぁ、その分でペナルティーがあったのがなによりもの救いか。いや、どう考えてもそのマイナスを大きく上回るくらいのプラスだろうけどさ……


 【状態異常完全無効】

 こいつは非常に有り難い。何せ、これがあれば間違って毒物を食ってしまっても死ぬことがないし、ウイルスなんかの病原菌がこの世界に存在するかはわからないが、そう言ったもので病気にも強くなったと思えば大いに有用だ。ここまではいい。

 問題は、俺の体液を他人に飲ませるってところだ!

 自分の血とか他人に飲ませるとか、どこの変態だよ?! しかも、「体液」だから別に血じゃなくてもいいことになる……うん、このことは忘れよう。無かったことで。


 最後に【女神の虚偽隠蔽】

 またとんでもな内容なんだこれが。

 俺が悩んでいた、他人に自分のStatusを知られたらっていう悩みはこいつのもつ《Status偽装》のお陰で重く考えなくて済んだ。これに関しては感謝してる。

 だがな、その他二つはいただけない。

 まず、《偽りの衣》。これ、「外見」を変えることができるとか書いてあるが、既に引っかかる点がある。髪の色や瞳の色は分かる。前の世界でもそれらを変えただけで、人の印象をガラッと変えるくらい位に効果があるからな。でも、それに「体格」と「性別」が入ると話か変わってくる。

 そんなことが出来るようなれば、そいつは存在自体を好き勝手できて、いくらでも人を騙すことが出来ちまうってことだ。

 どんな酷い悪事をやったとしても、ほとぼりが納まるまで姿や性別を変えてしまえば、何時までも逃げる続けることが出来てしまえる程に凶悪だ。

 次いで《存在隠蔽》。こいつも卑怯以外の何物でもない。

 MNDの数値で危険度の度合いは変わるが、もし死に直結するような外傷を受けそうになっても、これを発動すればそれを回避できてしまう。これも卑怯極まりないくらいに汎用性が高い。


 まぁ、それもMPが潤沢にあればの話だがな。

 使えなくて良かったと安堵するべきか、残念と言うべきか……


 とりあえず、ここまでは分かった。次はどう使うのか実際に検証していこう。


 俺は早速Skillを試すことにした。まずは一番安全に試せそうな【無限収納】を試してみることにした。これもなんとなく(・・・)だが、どんな風にしたら使えるのかが頭と体が理解している。

 試しに森の中で見つけて持ってきた例の木の実を一つ手に取ってみる。そして__


「おぉ~」


 さっき手にした木の実が、手の上から消えた。だが別にそれ自体が無くなったわけではなくて、なんとなく「机の引き出しの中にしまった」っといったような感覚がある。

 今度は、そこから先程しまった木の実を取り出し、「手の上に置く」ようにイメージすると、同じ手の上に音もなく現れた。今度はもう一度しまった木の実を、洞窟の入り口を視界に入れた状態で取り出してしみると、木の実が入り口の地面の上に同じように音もなく現れる。


「……こいつは便利だな」


 それから色々と試してみると、幾つか分かったことがある。


 まず物を出し入れに関しては俺のイメージに反映されているらしく、視界に入った状態じゃないと物を出すことが出来なかった。目を閉じた状態で取り出そうとしたが、何度やっても上手くいかなかった。

 同じ理由で、視界の範囲ならどこでも物を出すことが出来ることも解った。


 こうして色々なことを遊び半分で試していたら、外はすっかり真っ暗になってしまっていた。

 うん、いくら面白いからといって、こんな状況で体調のことを考えないのは問題があるな。


 俺はまだ地面の上に置いたままのジャケットと他の木の実を【無限収納】にしまい、洞窟の岩を背もたれにそのまま寝ることにした。これもなんとなく(・・・)こうすることがいいと直感で感じからだ。

 さて、明日は他のSkillを検証しないとな。

 そんなことを考えながら、俺はゆっくりと瞼を閉じ、意識を落としていった……






 意識が落ちてから、どのくらい経っただろうか?


 そう思いながら、洞窟の外から聴こえてくる小鳥の囀りによって俺は目を覚ました。

 もう外は明るくなっていて、洞窟からでも木々に朝日が照り返しているのが見える。

 ぼんやりしていた意識が徐々にハッキリしてきたところで、固まった体を解きほぐすために立ち上がる。一晩を洞窟の中で、それも岩を背もたれにして座って寝ていたこともあって、体の節々が凝り固まってしまっていた。

 そんな体の凝りを感じながら、俺は洞窟の外に出る。


 外に出ると朝日で目を細めるが、直ぐにそれは心地のいい日差しに感じ、森の澄んだ空気と暖かな日差しを浴びて少し睡魔の誘惑に負けそうになる。

 けど、ここはまだ森の中。あまり悠長にしていると、昨日見てきたような魔物が何時襲って来るとも分からない。眠気を覚ます為にその場で軽く身体を解すように柔軟運動をしていく。

 そんな風に体を動かしている段階でも、やはり今までとの違いをひしひしと感じる。以前はそんなに体を動かすことはしていなかったはずなのだが、かなり関節が柔らかくなっていて、開脚して前屈しても新体操の選手や力士の人達がするように簡単に上半身が地面に着くほど柔軟になっていて驚いた。


 それから十分な運動をした後、喉の渇きと空腹感を感じて【無限収納】から〈アプエの実〉(昨日の段階で頭の中にリストのようなものが浮かんで木の実の名前を知った)を一つ取り出し、それに齧りつく。


「うん、美味い。それに瑞々しいな」


 この実を採って一日は経つはずなのだが、傷んでることも萎れていることもなく十分に美味しく感じる状態だった。Skillの説明にあった通りで時間が経過していないことの検証が出来たことに満足しながら、あっという間にアプエの実を一つ食べきる。


「よし、今日は別のSkillも試していくかな」


 周囲を見渡し、近くに倒れている倒木や小石を幾つかを【無限収納】に収納しながら、今日のこれからについてと、今後の行動指針を考えていく。

 まずは水の確保。いくら森の中にアプエの実のような水分補給手段があるとはいえ、飲み水の確保は急務だ。生き物は水が無いと生きていけないからな。

 それと武器の調達。流石に無手であんな化物みたいな生物たちを相手にしたくない。

 そしてSkillの把握、及び訓練。こんな世界で生きて行かなくちゃならないなら、色々と戦う術を身に付けないとあっという間に魔物の腹の中だ。殺すことに対しては気が引けるが、生きていくためには必要なことだと切り替えないと命が幾つあっても足りない。

 最終目的として、この森からの脱出とこの世界に居る原住民との接触。

 どんなに頑張って生きても、人は一人っきりで生きてはいけないし、魔物と共存とか見た感じ無理だと確信している。目の前に出た瞬間に襲われるは、アレ。


 そんなことで、だいたいの方針が決まったのと、周囲に目ぼしい物が落ちてないことを確認する。


 さて、まずは今の現状で簡単に出来ることから始めますかねぇ~。

 俺はさっきまで拾っていた小石を一つ手の中取り出し、視線の先にある木に向き直る。

 今からどれ程の力が【完全適応】によって上がっているのか検証してみることにした。いきなり素手で木を殴るのは手が痛みそうだったから、間接的にどれくらい力がついているのか遊び半分で試してみようと思ったのだ。


「さて、どんなことが起こることやら」


 そう言いながら、俺は石を持っている方の腕を大きく振りかぶり__投げた!


 カツッ……


 そんな軽い音と共に、石が木に当たったが、木は表面の樹皮が少し傷がついた程度しかなかった。うん、普通だ。実に地味だな、これ。

 少し興ざめしながら、もう一度【無限収納】から小石を取り出し、さっきより少し強めに感じで投げてみる。すると……


 ボスッ。


「ん……?」


 さっきと違った、何か鈍い音がし、気になって木に近付いてみると


「おいおい、マジかよ?」


 その木をよく見てみると、木の樹皮を貫いて小石が木の幹にめり込んでいた。

 いやいや、まさか~……

 そんな思いを抱きながら、俺はもう一度木から距離を取り、小石を取り出す。今度は力の限り思いっきり木に向けて投げてみた。そして__


 バキャッ! バキバキバキバキ……ドスンッ!!


 小石が当たると同時に、木が半ばからへし折れ、倒れた。


「……」


 俺はとりあえず、その倒れた木に近付いてから、そっと手でそれに触れて【無限収納】に収めた。

 まさか、小石を投げて、それもたった三回投げただけで木をへし折るくらいに強くなるとは思いもしなかった……やっぱりバカだろ、この世界の女神?! これ、間違えたら俺自身が化物じゃねぇか!!

 うっわぁ~、何この頭の悪い能力? 俺、こんな状態で人に会っても大丈夫なのか?

 あ、やべ、何か一気に不安になってきたぞ。


「よ、よし。森を出るまでの間に、力加減を覚えよう。うん、そうしよう!」


 俺は目の前の惨状を噛みしめながら、今後行動しようと決めると同時に、森の方から木々がへし折られていく音が徐々に近づいていることに、この時になってようやく気付き、音のする方に方向に視線を向けてみると……


「グラァァ……」


 そこには、人を大きくしたような人型のなにか(・・・)がこちらを見ていた。

 そいつは赤銅色の肌をし、体調は3mは優に超え、凶悪な顔に白目の無い真っ赤な瞳でこっちを見ながら、まるで端が裂けているかのような口から鋭利な歯を覗かせている。

 それから感じるのは、「獲物を見つけた」という咀嚼者の目だ。


(うげ~、あれ、昨日俺が追われてた熊猪を丸のみにした大蛇を食ってた奴じゃねぇか!)


 俺はそいつを見て直ぐにそれが分かったと同時に___その場から逃げた。全速力で。


 クソッ、あんな化物に勝てる訳ない! 今はこの場から逃げないと!

 そうしてあれから逃げるべく、背を向けると__


「グロオオォォォォオオ!!」


 奴は一吠えすると、こっちに向って追いかけってきやがった!

 ああ、分かっていたさ、このんなことくらいな。コンチキショウ!!

 それから、朝っぱらから「大鬼オーガ」との逃走劇おいかけっこの時間が始まった。





「あぁ、もう! しつこいんだよ、この木偶の坊!」


 朝の清々しさは何所へやら、彼此もう三時間以上もの間、後ろから大鬼の野郎はずっと執拗に俺の後を追って来やがる。

 森の中で障害物だらけだというのに、相手さんはそんなのお構いなしに周囲の木々をなぎ倒し、途中で遭遇した熊猪や、馬とか鹿の魔物を右手に持った巨大な大木を削って出来た棍棒を振り回し、あっという間に肉片に変えてしまう。あんなの喰らったら、ひとたまりもない。


 俺は死にもの狂いで森の中を走り続けた。時には急な方向転換をして、視界から消えて逃亡を図ったり、ある時は【無限収納】に入れておいた石ころを奴の顔目掛けて投げてやったりと、色々と試したがどれも奴の気を逸らすのには足りなかった。逆に、石を投げたせいで怒らせてしまったようだった。

 そんなこんなで、もう日が天辺に登ろうという時間になっても、まだ奴を撒くことが出来ないでいた。


「あぁー、いい加減喉が渇いてきたな___ん? あれは……」


 そんな肉体的な疲労とストレスで機嫌が悪くなり始めた時、目の前に見たことのある魔物の集団が居ることに気付く。

 そいつらは、緑色の肌をした子供くらいの身長しかない腰蓑こしみのをした……そう、皆さんお馴染みのあのゴブリンだ。それが前方に十匹くらいの集団でたむろしているではないか。

 しかもよく見てみると、そいつらは剣のような物まで持っているのだ!

 これは……使えるな。フフフッ……


 あること閃いた俺は、疲れ果てている足に更に力を籠め、一気に加速する。

 直ぐに目の前に居たゴブリン達に接近し、その集団の中を突っ切る! その際に、そいつらが持っていた武器になりそうな剣のや短剣みたいな物に軽く触れてから抜けていく。そして__


「悪いな、貰っていくぜ! 収納!」


 すぐさま俺は【無限収納】の力を使い、ゴブリン達が持っていた武器を収納していく。

 後方からゴブリン達が騒ぎ出す声が聞こえたが、直ぐに地面が爆発するような音が聞こえると、後ろからは大鬼の追って来る足音だけが森に響く。どうやら、あのゴブリン達は尊い犠牲になったようだ。ありがとうゴブリン達、君たちのことは……あいつから逃げきるまでは忘れない、かもしれない!


 そんなことを考えて走りながら、先程手に入れた武器を確認する。



・半ばから折れた大剣x1

・錆びた直剣x1

・錆びた短槍x1

・錆びた短剣x2

・刃の掛けなナイフx1

・穴の開いたカイトシールドx1



 以上、これがさっきのゴブリン達かごうだ、ゲフンゲフン! えぇ、譲ってもらった物だ。

 これがあれば、上手く逃げ切れる可能性がグッと上がる。

 俺は後ろから追ってきている大鬼を肩越しに確認し、位置関係を図る。……うし、そろそろこの鬱陶しい鬼ごっこを終わらせるとするかな!


 そうと決めると、俺は出来るだけ大きな幹の木があるか探し、左前方にかなりの太さのある大木を見つけ、そちらに向かって走り出す。もちろん、後ろから大鬼の奴もついて来る。

 そのまま走りながら、丁度大木の陰に隠れるように走り抜け、奴にこちらが見えないよな位置とある程度の距離で後ろを振り返る。

 そして、右手に短槍を取り出したとほぼ同時__


「グゥラアアァァァァアア!」


 大鬼の雄叫びと共に、大木が棍棒の一撃によってなぎ倒される。


(その隙を待ってたぜ!)


 俺は大木が砕かれたと同時に、奴の顔面目掛けて思いっきり投げつける!

 だが奴も直ぐにそれに反応し、空いた左腕で振り払うように投擲した槍を払いのけ……


「ギィガァァァアア!?」



 ___奴の両目に、短剣が突き刺さった。



 フフフッ、バカめ! 最初に投げつけた槍はおとり。本命は、投げたと同時に両手に取り出した短剣を貴様の眼球に叩きつけてやるのが目的だったのさ!

 すぐさまに最初に投げて防がれて地面に落ちている短槍を回収し、即座にまた取り出して投擲する構えをとる。

 そんな俺の意識を感じ取ったのか、奴は見えない筈の両目でこっちを見据え、威圧するように吼える。

 だが残念だったな。俺はそのタイミングを待っていたんだよ!


 奴が大きく開け広げている口、その奥の喉の辺り目掛けて俺は全力で手にした短槍を投げる。

 投げた瞬間に、ヒュンッという風切り音が聴こえ、短槍が大鬼の口の中に吸い込まれていき__


「ゴォ、ギュァァ……」


 最後に苦しそうな呻き声を漏らしながら、右手に持っていた巨大な棍棒が手から滑り落ちる。

 そして徐々に体が横に傾きだし……地響きをたてながら、その巨体を倒れさせた。


 そいつが倒れたことで、これまで蓄積されてきた疲労でその場に座り込みそうになるが、まだ緊張を解くわけにはいかない。奴が完全に絶命しているかしっかり確認しないと、奴の巨体で襲われたら一瞬の隙でさえも致命的過ぎる。

 クタクタな体に鞭を打ちながら、手に朝から拾った中で大きめの石を取り出し、倒れている奴の頭部に向けて投げつける。

 投げた石は、大鬼の額の辺りに命中したが、数分待っても反応しない。そして、そいつの胸の辺りを視線を向け、上下していないことを確認し、俺はやっと緊張の糸を緩める。


「……はぁ~、しんどかったぁ~」


 まさか、相手を撒くつもりが、倒しちまうとは俺自身、思いもしなかったな。

 おっと、とりあえず倒した大鬼から短剣と短槍を回収して、大鬼も収納しとくか。このまま放置してても勿体ないし、こいつから流れてる血の匂いに惹かれて他の魔物が来ないとも限らないしな。


 そうと決めた俺は直ぐに収納をし始め、短剣から順番に収納していく。

 あ、大鬼が持っていた棍棒とへし折られた大木も大事な資源だから回収しとくか。あれだけ大きな大木だ、色々と使いようが絶対にあるだろう。

 でも、流石に疲れたー。もう当分はあんな命がけの鬼ごっこはごめん被りたいなぁ~……


 気怠さを感じながら、へし折られて地面に残った大木の根元に腰を下ろして休むことに。

 【無限収納】にまだ残っている三つのアプエの実を取り出して、直ぐに一つ目に齧り付く。あぁ~、疲れて乾いた体にこの甘みが染み渡る~。うん、何度食べても美味い!

 それからあっという間に三つの全てを食べつくし、やっと一息ついた。だが、流石にこの世界に来て口にしているのがアプエの実だけなのは、ちょっと物足りないかなぁー。

 白いご飯が恋しいな……


 食べ物のことなんかを考えたせいで、空腹を覚えながらものんびりと寛いでいると、なんとなく何処からか視線を感じることに気付く。

 その視線の元を探す為に周囲を見渡すと…………居た。


 見つけてしまった視線を向けてきていた相手の正体を森の中で確認したと同時に、俺はその場から立ち上がり、【無限収納】から刃渡りは短いが、刃の厚みがある折れた大剣を手元に取り出す。

 そうすると、視線を向けてきていた張本人がゆっくりとその姿を現した。


「グルルルル……」

「おいおい、一難去ってまた一難って、勘弁してくれよ。なぁ、ビリビリ豹さんよ?」


 森の中から出てきたのは、これもまた昨日移動中に見た電撃を周囲に放っていた奴だ。

 こいつの外見はまんま豹なんだが、毛の色が淡い紫色で、体から毛と同じ色の電撃を纏っている姿はスゲー綺麗なんだが、目が大鬼と同じ白目まだ真っ赤なのが異常に目に付くな。

 そんな風に観察していると、相手の周囲に紫色の拳くらいの大きさの球体が二つ現れる。その球体から絶え間なく「バチバチッ」と弾けるような音が断続的に聞こえてくる。

 それを直感的にヤバイと感じてその場から真横に跳んだのと、その球体から紫電が放たれたのはほぼ同時、まさに紙一重だった。俺は視線を少し前まで居た場所に向けると、地面が黒焦げに焼かれ、後ろにあった大木の根は火に包まれている。


 あっぶねぇ~! あのままぼさっとしてたら、俺が消し炭になってたわ!


 内心で自分の直感に従ったことに安堵していると、目の前に居る豹は態勢を屈め、突撃でもする気なのかもしれない。それに合わせて、体に纏わせている電撃の勢いが上がっているようにも見える。

 このまま黙って後手に回るのはよろしくないみたいだ……


 俺は相手が動き出すよりも早く、その場から一気に前に飛び出したのだが___


「うぉっ?!」


 信じられないことに、一足踏み込んだだけで俺はさっきまでかなりの距離があった筈の豹の魔物の直ぐ目の前にまで接近していた。あまりのことに、驚いて変な声が出てしまった。

 だが驚いているのは俺だけではなく、相手の方もいきなり目の前に俺が現れたことで、突撃しようとした体制のまま硬直してしまったようだ。大きく目を見開いた状態で、動きが鈍い。


 その隙を逃さないために、俺は手に持っていた大剣を下から掬い上げるように斬り上げる!


「うらぁっ!」


 分厚い刃は、そのままビリビリ豹の首に吸い込まれるように滑り____その首を斬り落とした。


 まさかの手ごたえに無さに、俺は一瞬呆気にとられてしまい、次の動作が遅れてしまう。

 だが、そんな俺とは関係なしに、首を落とされた胴体は力尽きたようにその場で崩れ落ち、直ぐ近くで斬り飛ばされた首が上から落ちて足元に転がる。その顔は驚愕に固まっていた。


 俺はそれを見て、振り上げている状態いた大剣をゆっくり下ろし、直ぐに【無限収納】にしまう。次に足元にあるビリビリ豹の死骸に手を伸ばし、首と胴体の順に収納していく。その際に、胴体に触れた時に静電気が走ったが、特に痛みは感じなかった。



 それからやっと本当の意味で一息つくと、知らぬ間に高揚していた精神が徐々に落ち着いてきた。

 冷静になってくると、あることに思いが向いて行く……


「俺、殺したん、だよな……それも、二回も」


 知らず知らずのうちに、自分の命を護るためとはいえ、この手で命を刈り取ったんだ。生きるために家畜を殺していた前世の世界に居たが、自身の手で殺したことなんて一度もない。小さな虫なんかは殺してはいたが、こんな生々しく生死を感じたことはなかった。


「これから、生きていくためには他の命を奪っていかないといけないのか……あぁ、気が重いぜ、まったく」


 俺は生き延びた。なら、魔物で在れ奪ってしまった相手に恥じないようにもがいてでも生きていかないとな。

 そう新たに決意をし、本来の目的だった水を探す為に歩き始める。






 なんかそれっぽく決意を決めたのはいいのだが……


「なんなんだよ、この森は?!!」


 水がありそうな場所を目指し、森の中を進んでいると、やたらと魔物に襲われるのだ。しかも集団で!


 ビリビリ豹の後に遭遇したのは、豚顔のでっぷりとした体格をした魔物、オークが集団で二十匹が一直線に俺の方に向って襲ってきたのだ!

 ないこいつら、人間を襲うのがテンプレなのか? 「人間だ! 犯せ、殺せ!」が信条の人?達なんですか?!

 

 それを皮切りに、「二首の狼」に「四椀の大猿」、「肉食の鹿」、「大きな蜂or蟻軍団」、「溶解液を吐く大百足」、「異常状態(俺個人では肌がひりっとする程度)にする鱗粉をばら撒く蛾」など、その他にありとあらゆる魔物が容赦なく襲ってくるのだ。こんなに襲われ続けたら、あんな命を尊ぶなんて考えてる余裕なんか一切ないわ!

 ただ殺すだけだと可哀想(うん、この考え方が異常な気がするが)なので、その死骸は今後の俺の糧になってもらうためにしっかり回収している。こんなこと考えてると、某狩ゲーを思い出すなぁ~……


 くだらないことを考えながらも、今目の前で「土を操る熊」の首を刈り取り、直ぐに収納する。

 もうかれこれ五時間くらいぶっ続けで森の中を移動しながら水場を探している。いい加減に見つかってもいいと思うんだがよなぁ。あ、そうそう。この水場を探してる最中、森の中で使えそうな草とか、食えそうな木の実なんかを見つけては【無限収納】に入れまくったお陰で、かなり食料に余裕がでてきたんだわ!

 しかも、なんと今まで倒して来た魔物の中で食える奴もあることが判明したんだよ!特に嬉しかったのは、オークが普通にこの世界だと一般的な食用の肉として定着してるらしい。

 収納されてる魔物の死骸の使いようを調べる方法が無いか試行錯誤していたら、リストに載っている物に意識を傾けると、それの詳細な情報を教えてくれるんだこれが!それで色んな魔物の使いようが知れた上に、食料が増えていって気分はウハウハだな!



 そんなこんなで、森の中で魔物を倒しまくりながら歩いていると、微かに水が流れている音が聴こえてきた。

 よっしゃー! やっとこれで水が飲めるぞぉ!


 俺は意気揚々と水の音がした方向に信じられない速さで駆けて行く。その道中も、何度か魔物に遭遇したが、死角に回り込んで一撃で撃退、即時収納と作業の様に進んでいく。

 そろそろ陽が落ちようとしていた時間帯になり、俺はようやく目的の水場に到着することが出来た。


 目の前に広がるのは、大きな滝のから落ちてくる水を溜め込んだこれまた大きな池がそこにあった。俺はその池に周囲を警戒しながらゆっくりと近づき、池の縁にまで来るとその場でしゃがみ、鏡の様に透き通った水面に夕日で赤く染まっている今の姿が映りこむ。


 まず目に付くのは、日本人らしい黒目黒髪。次に父親譲りの平凡な顔に、今日までに何度もあった逃走劇や戦闘によって汚れた顔や服。俺自身がよく知る、汚れている以外は異世界に来る前の姿そのままだ。

 それを確認した俺は一度安堵し、直ぐにその水に手を差し込む。池の水に手を入れると、肌を斬るような冷たさに、ここまでうごきっぱなしだった火照った体には気持ちよかった。今度はその水を掬い取り、顔の汚れを洗い落とす。何度かそれを繰り返し、波打っていた水面が納まてくると、そこには綺麗に汚れの落ちた俺の顔がそこにある。

 汚れを落としてサッパリすると、今度は急激に喉が渇いてくる。だが、本来こんな風に森で湧いているような水を直接飲むのは、腹を壊す原因になるが、俺には【状態異常完全無効】という有難いSkillを女神から貰っている。何の気兼ねなくこの池の水を飲めるのだ。

 俺はもう一度池に手を入れ、今度掬い上げた水を口元に運び、ゆっくりとその冷え切って澄んだ水を喉に流し込んでいく。


 あぁ~、水ってこんなに美味かったんだな……


 一回目はその冷たさと美味さを味わい、それを呑み切ると、今度は池に直接口を付け、喉と体の渇きを十分に癒すまで飲み続けた。

 そして、体が満足するまで飲み終えて水面から顔を勢いよく上げる!


「ぷっは~! 生き返った~。こんなに水を美味いと思ったの何時いらだろ?」


 いや~、これぞ正に命の水だな。さて、喉の渇きも癒えたことだし……


「飲み水をできうる限り確保しないとな。よし……収納開始!」


 俺は池に片手を突っ込み、【無限収納】のSkillを発動する。そうすると、池の水が徐々に掌のなかに……明確には、異空間の中にどんどん吸い込まれていく。これも検証して分かったことだが、戦闘で流れた血が一面に広がっている時に「これ収納できんのかな?」と、そんなことを思いつきでやってみると、収納できた上に収納後、リストに〈○○の血〉と各魔物ごとに分類で分けられていた。

 血が出来るなら、水だって出来るだろうと思っていたら案の定だったてことだな!


 それから池の水嵩が半分くらいで収納を止め、リストを確認するとしっかりと〈水:1t〉と表記されていた。うん、我ながらちょっと入れ過ぎたか?


「まぁ、別にいいか。今後確実に水を確保できない可能性もあるわけだし」


 少し楽観的に考えながら、そのまま上を見上げる。そこには、満天の星空と、大小の二つの・・・が夜空に浮かんでいた。


 本当に、ここは異世界なんだな……

 再度確認した真実に、少し気分が落ち込みかけたが、今後のことを考えると落ち込んでる暇はない。

 今日はもう完全に日が落ちてしまっているし、朝になってから動くか。そうと決めて、俺は池のすぐ近くにあった岩の上に飛び乗り、その上で寝そべりながら明日に思いを馳せ、そのまま浅い眠りに就ついた。






(…………! ……、……………!)






 ふぁ~……眠。

 俺は岩の上から起き上がり、周囲を見渡す。昨晩は魔物が襲って来ることもなく、目が覚めるまでゆっくり寝ることができた。

 なんだか、聞き覚えのある声を聞いた様な気もするが……ま、多分夢かなんかだろ。


 今はまだ陽が昇る少し前、空が白んでいるのが見てわかる。俺は顔を洗うために岩から降り、昨日見つけた池の縁に近づいて行く。池の嵩は一晩で元に戻っていた。

 その冷え切った水を掬い、顔を洗う。朝の気怠さが、顔を洗うことで引き締まっていく。


 それから水分補給と、ここに来るまでの間に採ったアケビみたいなのを齧りながら、今日の予定を考えている。


「んん~、そろそろしっかりした食事を摂りたいなぁ。俺は別にベジタリアンなわけでもないし。……うっし! 今日はこれまで狩った魔物で解体に挑戦してみるか。確か一回解体したことがあるやつは【無限収納】に入れておけば自動で解体してくれるようになるし、うん、そうしよう!」


 ……なんだ、こっちに来て俺、独り言が多くなった気がするんだが__よし、考えないことにしよう!

 今日の予定は決まったし、太陽も昇っていて周囲も十分に明るい。

 そうと決まれば、早速行動開始……っと、忘れるところだった。あれを先に確認しないとな。


「『open』。どれどれ、どのくらい俺は強く……ん?!」


 そう、俺は昨日からの幾度となく繰り返された魔物との戦闘によって、どれくらい強く……まぁ、「不明」表記のStatusと今後更新されないSkillを除いた俺の今の現状を再確認してみようと考えたんだが___




名前:タイキ・カミザキ

Level:286 (+285up)

種族:人間種(転生者、女神の祝福を受けた者)

職種:なし


HP:17678290/20009580

MP:5/5


LUK:79




 お、落ち着こうぜ、俺……こ、ここ、これは何かの間違いだ。

 うん、Levelがこんなに急上昇してるのは、昨日一日中あんな戦闘を無理にしていたからだろうし、別にもうそこはいい。

 ついでに言うと、MPとLUKに関してももうどうでもいい。MPはLevelの上昇で上がるみたいだが、俺の場合は1/100とスゲー理不尽を感じるし、LUKもこの森で目を覚ましてあんなに戦闘してれば運もあったもんじゃないからいい。


 問題は、HPだ! 初日に見た時より馬鹿みたいに上昇してんですけど、女神様?! いくらSkillで誤魔化せるからって、これはやり過ぎだろう!? 桁が三桁も上昇とか馬鹿ですか? あ、朝からなんでこんなに悩まなきゃならねぇんだよ! 俺の爽やかな朝を返してくれぇーーー!!



 それから俺は頭を抱えながら、地面を転がりながら悶絶すること数分……



 もうこれに関しては諦めることにした。あぁ、もう腹くくるしかねえんだよ、どちくしょう!

 そんな朝から憂鬱になりそうになりながらも、俺は【無限収納】から魔物の解体を始めていく。


 なお、解体は案外なんとかなった。最初は無理だろうなとたかをくくっていたが、まったくそんなことも無く、更にはしたことも無い初めての解体が熟練した職人さんの様に尋常じゃない勢いで終わっていくのには、俺自身が引いたわ。

 ただ問題があった。解体する際に出る魔物の血の匂いに惹かれて、森の中から魔物どもが襲い掛かってくるのだ。まぁ、無論そいつら全員を返り討ちして有難く収納しましたよ。ごちそうさまでした!


「あぁ~、早くこんな森出ていきたいわぁー……」


 そんな風に愚痴りながらも、魔物の解体と討伐をして一日を終えた。









 それから森から出られたのは、二か月後のことになるとは俺は思っていなかった……


う~ん……彼、この後街にたどり着けるのか?

ま、ガンバ!

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