魔王召喚編 03
投稿が遅れ、誠に申し訳ございませんでした!!
玉座の間で双方が名乗った後、アラフォルン王が先に口を開く。
「異界の者よ、楽にするがよい」
「はっ」
王の言葉に、令士はゆっくりと立ち上がる。その動作を見ていた部屋にいた人々や、警備にあたっていた騎士達は内心で感心していた。
彼の動きから男性陣や騎士達は洗練された教育を受けた者特有の気品差を感じ、また女性達は人相とは打って変わった引き締まった肉体と堂々とした男らしさに熱い視線と吐息も漏らしている。
そんな周囲の視線や反応など気にした様子もなく、令士は玉座に座る王に視線を向けたまま右手を胸の高さまで持ち上げる。その動きに、騎士達が腰に下げた剣の柄に手を触れようとしたが、それを王が手で制す。
「国王陛下、私に発言の許可をいただけますでしょうか」
「よい、許可しよう」
「感謝いたします」
令士は王に質問することについての許可を取り、それを無事に貰うと上げていた手を下げ、その場で恭しく頭を下げる。そんな彼からの初手を取られたことに王は内心焦りを覚えたが、直ぐに立て直した。
「して、そなたは何を我に問いたいのだ?」
「では、まず最初に私をどのようにしてここにお呼びしたのか、その方法と、また元の場所に戻る方法の有無と手段をお答えいただきたい」
この後も幾つもの質問があることをさりげなく交えながら、令士はこの場に呼ばれた理由、方法、帰還が可能かについて言及した。その質問している間、頭の中ではこの現状をある程度……それも多分に現実逃避が混じった呆れと現状に失笑を漏らしていた。
(まったく……王様に王女様、周囲はお貴族様ってことか? これじゃ、まるで……あいつならこの状況を逆に楽しむかもな。まさか、そんなことに本当になった上に、俺がそれを体験するとか__)
彼も純粋な日本人である。そんな彼が、日本独自の文化……二次元の創作物について知らない筈がなかった。
たまにその手のことが好きな取引相手もおり、興味があまりなくともそれなりに彼は今の現状をあるテーマを題材にした作風の物が世に出ていること自体も知っている。それは__
『異世界召喚』
どう見ても文明レベルが低いこと、王制という廃れた統治法に格差階級の存在。自身の知る国に該当しない外見に、聞いたこともない国と国旗。最後に理解不能な現象による誘拐と、幾つかのことがパズルのピースのようにはまったことで、この現状の説明がつくのだ。
だがその馬鹿らしい結論に、自身にどうかしていると考えながらも、それが正解であると今までの経験が彼に現実だと訴えてくるのだ。
そんな令士が己の現状に暗澹としていることを知らない王は、彼の問いに答えるべく口を開く。
「うむ、流石にこのようのことになり動揺しているようだな……よかろう。余自ら、そなたの問いに答えようではないか。
まずそなたをここに呼んだ理由であるが、それは我らが国に攻め込む忌まわしき亜人共を根絶やしにしてもらうためだ。あ奴らは我ら人間を怨敵とし、こちらを攻め滅ぼそうと数百年の間争い合っている。
そこで、我らは先々代の王の時代より異界より奴らを一掃する強い力を持つ者を呼び出し、この争いを終わらせ、世界を救うことに決めた。
そしてその呼び出した方法であるが、それは古の時代から残る『召喚の儀』によって行った。
これは膨大な魔力を使い、異界からこちらの条件に副った者を探し、呼び出すことのできる秘術である。であるが、これにも問題があり、その召喚に使う膨大な魔力を補うために多くの犠牲と年月が必要なのだ。此度の召喚も、余の代になるまで百年以上掛かっておる。
そして最後に、そなたの世界に帰還する方法だが……今現在、こちらにそれは存在していない。
我らは方法を知らんが、亜人共の中に魔術に精通している種族もおる。そ奴らの技術を探れば、そなたを元の世界に戻すことも可能であろう。
そなたの質問に対することはこれで全てだ」
「はい。私の質問に答えていただき、感謝いたします」
「うむ」
王の話を聞き終えた令士は、彼に向って感謝の言葉とお辞儀をしながらも、内心では中身のないような話に対して悪態を吐いていた。
(これのどこが説明なんだ? まず敵対している亜人についての説明も、現在の国の状況すら話していない。俺を呼んだ方法に必要という魔力?が何なのかも判らない。最後の帰還方法についても、他力本願にも程があるだろ!なんだよ、「魔術に精通している種族」って?!)
もはやこれ以上ない程にスカスカな内容に怒鳴りたくなるが、そこは堪えて詳しいことを聞くことにした。
「陛下。私の帰還方法を知るやもしれない亜人について、よろしければお教え願えますでしょうか? それとこの国の現状についてもお教えくださいますと、こちらとしても今後の行動に必要になるかと愚考いたします」
「おぉ、そうであったな。
ではまず我が国の現状についてであるが、今この国を覆う様に亜人共の集団が東西と北を取り囲み、我が国を滅ぼそうと頻繁に攻め込んでおる。だがそこは我が国の精鋭たる騎士や兵士達がそれを撃破しているが、現在は硬直状態になっておる。
そしてそなたに敵対する亜人共だが、大きく分けて四つの種族がある。
まず西の森林が広がる土地に住まう獣人。
外見は人に似てはおるが、こやつらは正に獣のごとく我らに牙を剥け、民や家畜を襲い奪う蛮族共だ。
次に北の砂漠に巣くう鱗人。
こやつらもまた人に似通ってはいるが、その身体から鱗を生やし、我らを見るやいなや襲い掛かってくる狂戦士の集まりである。
東にある山岳地に潜む巨人。
こやつらは伝承では我ら人間を優に超える巨体を持ち、こちらを餌としか考えておらぬまさに猛獣。今現在は姿を現さぬが、こやつらもまた滅ぼさねばならん。
そして最後に、これがそなたに申した魔術に精通しておる種族、その名を魔人という。
こやつらはこの世界の果て、そこに住まうとされておる。そこでは世界の崩壊を企み、膨大な魔力を用いて様々な魔術を生み出し、醜悪な怪物どもを飼いならしておると言い伝えられておる。
これらを全て世界から消し去れば、そなたの欲する帰還の方法も見つかるやもしれん」
「……なるほど」
その王の話を聞いていた周囲の人々から賛同する声と、亜人と呼ばれる者達への罵倒と侮蔑の言葉が部屋を埋め尽くす中、令士は深く頭を下げながら話の内容に頭痛を覚えていた。
(おいおい、あの王様はいったい何所の独裁者様だよ……だいたい、技術を持っている人がいなくなったら、その技術を知るすべ事態が無くなることくらい、考えなくても分かるだろうが!馬鹿にもほどがあるぞ)
既に彼の中では、この国の王から人々に至るまでまともな考えが出来ていないと判断した。
それ以前に、彼らはその無意味な争いに令士を巻き込み、こともあろうか人殺しを強要してきているのだ。これが異常と言わず、何が異常というのだろうと令士は周囲の声を聞きながら頭を抱えたくなる。
だが今は頭を抱えて唸るよりも、これからやらされる殺人を回避する方が賢明だと考え、自身に今回のことに適応していないことを進言することにした。
「……陛下。誠に申し上げにくいのですが、そのお話に私はお答えできなかと思われます」
「……それは、なにうえであるか?」
「はい。私は以前の世界では貿易の仕事……交渉を主とした仕事をしておりました。それ以前に、私の世界では殺人は禁忌とされ、忌避されております。それもあり、私には戦う術も力も持ち合わせておりません。ですので、大変申し上げにくいのですが、私では陛下のご期待に副えかねるかと思われます」
令士自身が彼らの思うような戦闘について力もなく、それ以前に戦ったことがないことを伝える。すると王や王女だけではなく、先程まで亜人に対して色々な言葉を使って罵っていた者達が懐疑的な視線を令士に向ける。
部屋にいる者から見ても令士は線は細いが戦士だと言っても通るほどに肉体をしており、決して戦ったことがないなど想像もできない。その中で王女はその言葉が嘘でないと確信していた。
彼女が最初に会った際に、彼から感じたモノからは戦いに関わるような雰囲気が欠片も感じなかったのだ。王はその令士の言葉の審議を判断するため、傍にいる自身の娘に視線だけで確認するも、彼女から肯定するように軽く頷かれたことで、彼もようやく先程の言葉が真実であると受け入れらえた。
(なるほど、な……それでは此度の戦いでは役には立たぬな。だが__)
「そのことであるが、そなたが言うことについては問題ない」
「……どういうことでしょうか?」
王が令士の言葉を聞いてなお、彼に戦う力があると豪語する。
それを聞いた令士は普段から鋭い目を更に鋭利な刃物のように細めて睨むが、その視線を向けられた王は特に気にしたりどうようした様子も見せない。
……だがその直ぐ近くに居た王女と、令士から感じた剣呑な気配を感じた何人かの人達は揃って顔色を青くさせていた。
「なに、そなたをこちらに呼ぶ際、副次的にそなたには戦う力が備わるようになっておった……ただそれだけのことよ」
「副次的に、備わる……?」
「左様。召喚の儀を調べた際に判明したことであるが、この世界に異界の者を呼び出すと同時に、その者にこの世界の神によってこちらの世界にて生きていけるだけの力を授けるらしいのだ。
だがその力は神より賜ったのも。神にとっては大したことは無くとも、この世界に生きる者とは比べようが無い程に強力な力を授かっておるのだ。故に、そなたが懸念しているようなことは何一つ存在しない。よいかな、レイジとやらよ?」
「……ですが、その力がなんなのか……そちらも、そして私自身も判らないのですよ? それでは__」
「そのことも問題ない」
王から理解不能な説明を聞かされ、令士はそれでも最後にそんな力があるかどうかを知る方法がないことについて指摘しようとしたが、それを遮るように王からそのことに問題ないと告げられる。
令士は彼の言葉の意味が理解できず、胡散気な眼差しで王の顔を見る。そんな彼からの視線をものともせず、まるで勝ち誇ったこのように近くに居た黒いローブを頭から被った人物に指示を出す。
声を掛けられた人物は、頭から被っていたフードを脱ぐと、そこにはまるで仙人のような白い髭を蓄えた老人の顔だった。
「その者は我が国随一の魔術師であり、魔術研究の統轄をしておるオウグだ。オウグよ、異界の者に例の物を」
「はい、国王陛下」
老人は王に恭しく頭を下げると、その場から令士の方に歩いて行く。
オウグは徐々に近づき、令士の前に立つ。その背は低く、令士の前に立つ彼の視線が胸元の辺りになるくらいにしかなかった。そんなことを気にした様子もなく、オウグは令士に話しかける。
「始めましてじゃな、異界より来られたお客人よ。ワシの名はオウグ。先程、国王陛下からの紹介にあった通り、この国で魔術の研究をしておる老いぼれじゃ」
「始めまして、オウグさん。私は令士と申します。この国で高名な学者の方とこうしてお会いでき、嬉しく思います」
「ほっほっほっ。なかなかに礼儀正しい吾人のようじゃな。一つ聞きたいんじゃが、お前さんの世界ではどのような魔術が存在するのかの? 是非とも、そのことについて聞いてみたいのじゃが」
「大変申し訳のですが、私の居た世界では魔術は架空のものか、古い文献にそれらしいものだけしか存在しておりません。もしかしたら、私の知らないところで存在していたかもしれませんが、私個人では解りません。ですが、魔術の代わりに科学と呼ばれる様々な現象を研究しております」
「おぉ!その「かがく」とやらには大変興味があるのう!」
「何時か、お時間があった際には、簡単なことでしたらお教えいたします。それで、私は何をすればよろしいのでしょうか?」
「おっと、そうであった。ワシとしたことが、年甲斐もなく燥いでしもうたわ」
オウグは令士との話を楽しみながらケラケラと笑うと、ローブの中から一枚の板を取り出す。
令士はそんな彼が取り出して手にしている板を興味深げに見る。その板は金属の枠組みに、中をこれまた板状のガラスをはめ込んだような物だった。だがそのガラス部分をよく見ると、表面に薄くこの玉座の間に来る前に居た部屋にあった幾何学模様と同じようなものが彫られているのが解る。
「これは?」
「うむ。これは鑑定盤と言っての、これに触れることで触れた者の力の一端を映し出すことが出来る魔道具の一つじゃ。この鑑定盤はこの国が保有する古代遺産で、国宝の一つでもある。因みに、お前さんを呼び出した召喚のあれもある意味ではこの国の秘術の一つじゃな」
「そうなんですね……では、私はこれに触れればいいのですか?」
「そうじゃ。この透明な板の部分に触れてくれればよい」
「分かりました」
令士はオウグの指示通りに彼の持つ板に触れる。すると、令士が触れた板が仄かに光り出した。
「うむ、どうやら魔力反応は問題なさそうじゃな」
「まりょく、反応?」
「そうじゃ。魔力とはその者が持つ魔法を生み出し、操る力じゃ。それをこの鑑定盤は読み取り、そこから読み取った内容を映し出すのじゃ。もう放してよいぞい」
「あ、はい」
彼の言葉に従って板から手を放すと、オウグは板を自分の方に向け「どれどれ…」といいながら、どこか子供のように浮かれながら覗き込む。すると徐々に板の光が落ち着いていき、そこには光る文字が浮かび上がる。オウグは楽しそうにその浮かび上がった文字の一文に目を通し__
___言葉もなく、硬直した。
そんな彼の様子に、令士と王、王女や周囲に居た者達からも反応が無いことに訝しむ。流石にこのままでは話が進まないと考えた王がオウグに声を掛けようとすると……彼が手にしていた鑑定盤が手から滑り落ち、地面に落ちたのだ。
流石の王も、そのことに目を見開く。王だけではなく、この国の者達は一様にその光景に驚き、表情が強張る。先程オウグ本人がこの国の国宝と言った鑑定盤を、あろうことか地面に落としたのだ。
「オ、オウグ!き、貴様なにを__オウグ?」
王は直ぐに彼を叱責しようと声を出したが、その相手の反応がおかしいのだ。
オウグは鑑定盤を落とした後、令士から徐々に距離を取り始め、その身体は後姿を見ている王から見ても震えていることが一目で分かる。
王とは違い、周囲に居る者達は横からオウグの姿を確認できた……出来てしまった。
彼らを見たオウグの姿は、まるで極寒の中を肌着すら身に纏わずに歩く浮浪者のように歯を鳴らし、表情からは血の気が失せ、蒼白を取り越して土気色になっている。だが、それだけならまだいい。彼らの視線の先に映るオウグの表情からは、もはや絶望しか浮かんでいなかったのだ。
オウグは徐々に離れながらも、その視線は一点を___令士の顔に固定されていた。
そんな彼の反応を不安げに見ていた令士は、どうしたのか落ち着いて話を聞こうと手を差し出そうとしたが
「ア、アアァァァァァァ!!!」
オウグは発狂したように叫び出すと、令士から逃げ出すかのように玉座の間かた走り去ってしまった。
彼が歳に似つかわしくない素早さで走り去った後、部屋の中は静寂に包まれた。皆がオウグの行動に反応できずに呆然としていた中で、いち早く意識を取りも出したのは…………メルクリア王女であった。
「っ!カインズ!直ぐに鑑定盤を私の元に持ってきなさい!」
「は、はいっ!」
彼女から出た怒声に一瞬カインズは肩を竦ませたが、直ぐに令士の足元に落ちている鑑定盤の元に向う。その際に令士を一瞥したが、それよりも王女の指示に従って絨毯の上に落ちていた鑑定盤を拾い上げる。拾う際、そこに書かれていた内容を不本意にも見てしまった彼は大きく目を剥き、そこから逃げ出すように令士に背を向けて王女の居る玉座の方に走り出す。
カインズは一気に段差を上り、王女の前で跪くと同時に、手にした鑑定盤を差し出す。
メルクリア王女は労いの言葉もなく、彼からひったくる様にそれを奪い取ると、そこに書かれている内容に目を通す。そこに書かれている内容を見ていくにつれ、その顔から血の気が引いてくのを感じていた。
そんな娘の蛮行に、王は何か言おうと口を開きかけたが、それは彼女の言葉で遮られた。
「騎士達よ!今すぐに、そこの男をこの王城__いいえ!この国から連れ出しなさい!」
その王女の爆弾発言に、王はおろか、部屋にいた者達から、指を刺されている令士本人すら急なことに反応すらできない。だがそんな周囲の反応など気にせず、彼女は更に捲し立てる。
「ただし!その男に剣を向けること、殺そうとすることを王女の名において厳命します!もしこれに触れる者がいた場合、その者の一族全てを死罪に科します!これは決定事項です!
なにをしているのです!早くあの男を拘束し、連行なさい!」
「「は、はっ!」」
普段の優し気な王女からは想像もつかない程の鬼気迫る命令に、惚けていた騎士達が動き出し、呆然としている令士の両脇を掴むと、部屋から連れ出していく。
令士が騎士達に連れていかれ、扉が閉まり、その姿が消えた玉座の間では、急な王女の変貌と展開についていけない者達。いきなりの娘の切羽詰まったあまりにも理不尽な物言いに驚愕し、尊敬と敬愛を持っていた相手の形相に言葉も出ない。
そんな周囲から見れていることなど気にも留めないメルクリア王女は、顔から完全に血の気が失せているが、その表情からは何かに立ち向かう覚悟が窺えたのだった……
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令士が玉座の間から連れ出された後、メルクリア王女は残っていた騎士達に騎士団長と宰相、逃げ出した魔術室長のオウグを王の執務室に連れてくるように指示し、彼女自身は数人の騎士に護衛をさせながら王と共に執務室へ向う。
そうして王城の中を歩き、執務室に入ると、そこには既に呼び出した三人がそれぞれに部屋に置かれたソファーに座っていた。彼らも王女と王が部屋に入ってきたことが解ると、直ぐに立ち上ろうとしたが
「そのままで構いません」
端的にそう告げ、彼女は王を伴い部屋の中に入る。
そんな異様な雰囲気に、立ち上がりかけた二人は直ぐに腰を下ろす。__オウグだけは、頭を抱えたまま立ち上がろうともしていなかったが……
その三人を気にせず、王女は王を執務室にある彼の椅子に座る様に諭す。その娘の言葉に素直に従い、王は設えのいい椅子にようやく腰を下ろす。
「ふぅ……さて、メルクリア。あの場でのことは、いったいどうことだ?」
「陛下、それはこちらをご覧になってからにして下さい。その後であれば、如何様な処罰も甘んじてお受けいたしますので……」
「よかろう。どれ、見せてみよ」
王女は王の言葉を受けてなお、カインズに取りに行かせた鑑定盤に映し出された内容の確認をするように伝える。王も娘からの異様なプレッシャーにたじろぎそうになるが、それをなんとか堪えて彼女から渡された鑑定盤に目を通す。
「な、なんだ、これは……!?」
そして内容を見るやいなや、椅子を倒す程の勢いで立ち上がると、手にした鑑定盤を睨みつける。
その王の反応に、壮年の騎士と疲労の濃い若い宰相の二人が慌てだす。
だがそんな二人のことなどお構いなしに、王は力が抜けたように椅子に腰を落とし、手にしていた鑑定盤を机の上に置き、両の手で顔を覆う。
王のその姿に、二人は同じように頭を抱えているオウグの方に一度視線を向け、次に王のすぐ傍に居て、先程の鑑定盤を渡した王女の方に現状の理由を聞くために視線を向ける。
だが王女は机の上に置かれた鑑定盤を手にし、それを二人に差し出しただけだった。
二人はその王女の行動の意味が解らなかったが、とりあえず宰相が彼女から差し出された鑑定盤を受け取り、二人でそれを見ると
「ば、馬鹿な……」
「そ、そんな……このような……」
内容を見た二人は、騎士団長が目元を手で覆って嘆息し、宰相はその内容が穴が開くほど眺めても一向に変化しなことに焦燥した表情になる。
二人がそれぞれに反応している間に、顔を覆っていた王が顔を上げ、その視線を娘のメルクリア王女に向ける。
「メルクリア……」
「はい、陛下」
「……お前の玉座の間での発言。アレをそこの二人と審議し、余の名で触れを出せ。方法は任せる……」
「分かりました、お父様。必ずや、この国を護ってみせます」
王と王女の短い会話の後、部屋の中に重苦しい沈黙が支配した。
そんな中、先程から頭を抱えたままのオウグの口から、呟くような声が漏れる。
「………………ま、魔王……」
その言葉は、静まり返った部屋によく響き、更に空気が重苦しくなったのは言うまでもなかった。
鑑定盤に書かれいていた内容
【始祖なる魔王】
魔人を統べ、魔物を産み飼いならし、如何なる魔術をも操ることのできる王。
魔族の始まりにして祖。この者に歯向かうことなかれ。一度でも刃を向けたならば、それはその種の終焉である。
【七罪獄蛇の呪縛】
七つの呪詛を宿した者。
その呪いは周囲を巻き込み、狂気を撒き、生者を蝕み、破滅と怨嗟を齎す。
この者の死することで、世界を深淵へと招く。
【言語理解】
如何なる言語を読み、書くことが出来る。