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異世界物語  作者: 成成成
14/21

英雄転生編 13



「まさか、馬が動かない程の悪臭だとは思いもしませんでした」

「うぅ~、クサかった……」

「もうあんなのは二度とごめんです」

「わ、悪かったって……」



 俺達がアーバイルの街を出てから既に陽が沈み、今は野営の準備中だ。



 朝の馬が急に動かなくなった自体から、急遽馬を諦め俺が馬車を引いて移動することなり、そのまま街道を進んでいくと今日一番のハプニングに遭遇することになった。

 それはというと__



「「「クサッ!!」」」



 街道の途中、何処からともなくキツイ悪臭に襲われたのだ。


 それはもう表現の仕様もない程で、その匂いを嗅いでしまった三人は目から涙を流し、手で鼻を抑えて蹲ってしまう程に酷かった。

 そして、その原因が俺であることに俺自身が気付いていた。


 その臭いのする場所が数日前にエリーを襲った盗賊達を拘束して放置し、そこに魔物除けを投げつけた場所だったからだ。まさか、何日も立ってるのにまだここまで強い臭いが残ってるとか……

 しかも今は馬の代わりに俺が馬車を引いている為、その臭いから逃れる方法が無かったのが更にキツかった。



 その後は兎に角悪臭から逃げる為に馬車を引いて爆走しましたよ。

 三人に何処かにしがみ付いていろと言って、普段じゃあまりやらないくらい本気で走ってやったさ。もしかすると時速80㌔くらいは出していたかもしれない。


 足を止めずに走り続け、悪臭を感じなくなったころにはもう昼になっていた。

 馬車に乗っていた三人に昼食を聞いたが、臭いからくるものと、あまりの揺れによって起こった乗り物酔いのダブルパンチにグロッキー状態で「いらない…」と言うのがやっとだった。マジですまん。


 そんな最悪の出だしを切った俺達は、夕方になってようやく野営の準備を始めたという訳だ。

 もうあの魔物除けは二度と使うか!





「三人とも、気分はどうだ? 食べれそうか?」


 とりあえず、【無限収納】からテントを出して張りながら三人に確認を取る。


「僕は大分マシですね。臭いの方はいいんですが、馬車の揺れが酷かったので……」

「わ、悪かったなリック。俺のせいで」

「いえ、兄さんが悪いわけじゃないですから」


 うん、本当にすまんかった。

 因みに、リックとはエリックくんの偽名だ。旅の間は身分を隠し、兄弟で通す為に本名ではなく偽名を使うことになっている。これも変な輩に狙われないための一つだ。


「お兄ちゃん。まだおはながクサイよぉ……」

「ご、ごめんなエリー。テント張ったら直ぐに顔を洗おうな?」

「……うん」


 エリーは完全にご機嫌ななめだよ。

 あんな目に遭えば小さい子供にはキツイよな……


「兄さん。早くテントを張って下さいよ。エリーが可愛そうじゃないですか」

「もう少しで終わるから待っててくれよ」

「もぉー……」


 リュイもあの悪臭の原因が俺だと直ぐに分かったのか、今も非難の視線が背中に刺さる。

 何故リュイがエリーを呼び捨てにしているのかはエリックと同じで、姉妹と見せかけるためにそう呼んでいる。最初のこのことを公爵に言われた時は委縮していたが、命に関わると言われて仕方なく今の様に呼ぶようになっている。何時どこで誰が聞いているか分からないからな、用心に越したことはない。


 そんなリュイからの視線と愚痴を言われながらもどうにかテントを張り終える。

 さて、次はアレを出すかな。フフフ……アレを見たら三人とも驚くぞぉ。


「テントは張り終えたし、そろそろこの臭いをどうにかするか」

「そうですよ。それじゃ、焚火をしてからお湯を作りましょう。兄さん、お鍋と桶、それとお水をお願いしますね」


 リュイも早くこの臭いとおさらばしたいのか、俺に【無限収納】からお湯を沸かすのに必要な物を出して欲しいと言って来る。


「そのことなんだが……三人とも、風呂に入りたくないか?」

「「「お風呂?」」」


 俺の言葉に、三人は首を傾げる。

 そりゃそうだ。こんなところで風呂なんて入れるはずがないと思うのは当然だ。だが、俺にはそれを可能にする素敵アイテムがあるのだよ!


「ま、疑問に思うだろうから、その証拠をお見せしよう……はっ!」


 掛け声と共に、俺はテントのすぐ横にその素敵アイテムを出現させる。それを見た三人からの反応は



「「「大きな……箱?」」」



 首を傾げながら目の前にある物……扉と煙突の様な物が付いた小屋程の大きさの白い箱がそこに現れたのだ。これを見て何故風呂になるのか不思議そうな三人を箱に付いた扉を開いて中に入るようにさとす。

 さぁ、中を見て驚愕するといい!


 まず最初に入ったのは、やはり好奇心旺盛なエリーだ。

 扉の通って中に入ると


「うわー!広ーい!」


 そのエリーの言葉に、リュイとエリックの二人も中を覗き込み、そこ光景を見て驚いている。


「こ、これは……」

「なんで? 外から見た時は、単なる箱だったのに……」


 フフフ、驚いてるな。

 この箱、実は内部空間を拡張する魔法を施してあって、外と中とは別の空間の様になっている……らしい。俺がイココの奴に「外でも安心して風呂に入りたい」と、かなりの我儘なことを言ったことで出来たのがこのお風呂なのだ。


 まず扉を通って目にするのは脱衣所。それも、銭湯でみる籠を乗せてあるタイプの脱衣所だ。

 広さは十人以上は余裕で入れる程に広く、壁際には洗濯機や冷蔵庫、扇風機にマッサージチェアーも置かれているという致せり尽くせりな構造になっている。


 無論、中に入る際には靴を脱ぐことを強く言っておく。汚れた靴で板張りを歩かれるのは勘弁願いたいからな。


 俺が靴を脱いでから入ってすぐのところに置かれている靴箱に入れてから上がると、三人もそれに習って同じようにしてから中に入る。


 三人は中にある物が珍しいようで、特にマッサージチェアーや扇風機に特に食いついていた。それらの説明をしてやると、みんな目を輝かせていたよ。流石は日本のおもてなし。異世界でも通ずるとは恐れ入るな。



 その後も箱の中を案内し、曇りガラスの扉でしきった木の魔物トレントの木材で出来た浴槽がある方を案内した時には、エリーがその場で服を脱ごうとする暴挙を未遂で防いだりしながらも、どうにか一通りの設備の使用法を説明し終えた。


「よし、それじゃまずは女性陣から先に入って、その後に俺ら男性陣が入るとしよう。それでいいか?」

「「異議なし」」


 リュイとエリックは俺の意見に直ぐに賛同し、何故かエリーが「お兄ちゃんも一緒に入ろう」という爆弾発言があったが、問題なく男女に分れて風呂に入りましたとも。




 その後は特に問題もなく、焚火や魔物除けの魔道具の設置などを準備し、風呂から上がって来たエリー達と入れ替わってエリックくんと風呂を堪能した。いやー、久しぶりに湯船に浸かれて気分がいい!


 風呂から上がると、夕食を待っていたエリーとリュイを入れた四人で焚火を囲い、【無限収納】にしまってある屋敷の料理人さんから詰め込むように持たされた料理と、街で買った俺お勧めのサンドイッチも出した。昼食を抜いていたからか、もう凄い勢いで料理が消えて行ったよ。育ち盛りだし、いっぱい食え食え。


 そうしてみんなの腹が膨れ、そのまま就寝することに。ただ、焚火の番をする人が必要なのだが、それを護衛対象にさせるのはどうかと思い、俺が全て引き受けることになってしまっている。これは仕方なくか……


 三人がテントに入り、テントの中が風呂と同じように広いことに驚いた後、特に騒ぐことも無く中に設置されたキングサイズのベッドで仲良く就寝していた。

 俺は初めての野営と、これからのことに思いを膨らませながら、その日の夜は更けていった。







 その翌日。俺達は快晴のなか、のんびりと街道を進んでいる。俺が馬車を引きながら、だが……


 朝なかなか目を覚まさない三人を叩き起こし、顔を洗い、服を着替えさせるなど忙しかったことをここで言っておこう。

 その中でエリーの世話をしていた筈のリュイまでもが寝坊と身支度に手間取るなどしていたのは、見なかったことにしてあげよう。


 そんなこともありながら、三人に風呂でさっぱりしてこいと言いつけ、その間にテントの回収や朝食の準備等をいそいそと行う。準備が終えたと同時に上がって来た三人と朝食を取り、風呂の魔道具も収納してから出発する。



 それから昼になるまで誰ともすれ違うこともなく馬車を引いていると、前方に分かれ道があるのが見える。


「なぁ、リック。分かれ道があるんだが、どっちに行けばいい?」

「もうそこまで付いたんですね。でしたら、右の道に行ってい下さい。そちらなら安全ですから」

「そうなのか?」


 エリックくんから右に行くように言われたが、確認のためにリュイに視線を向けると、彼女もそれに賛成なのか頷いている。


「そうですね。右にある街だったら、左にある街よりも治安がいいと思います」

「そんなに左の方は治安が悪いのか?」


 俺は二人の話から左右道の先を見る。

 左には大きな山々が連なった山岳地帯が見え、右は森が途切れて広い草原が視界の端に微かに見えている。その光景を見ていると、エリックくんが道の先にある街について教えてくれる。


「左にある街は、犯罪を犯した者達を集め、山の中にある鉱山を掘り出す鉱山奴隷を使い発展した街です。そこから出る鉱石や宝石を販売加工をしていますが、犯罪者の巣窟と言われかなり治安に難のある街でもあるんでです。

 逆に右は特にこれと言った生産品はありませんが、アーバイルの街に近いので多くの冒険者が集まる場所として流通もかなり進んでいます。でも、こちらも全く問題が無いわけではありませんが、左に比べれば安全だと言えます」

「なるほどな」


 確かにそんな危ない奴らがうじゃうじゃ居るような場所に行くよりも、特に見る物がない街に行った方がいいってことか。エリックくんの説明を聞いていたリュイはそれに加えてエリーと来る時もその街を通って来たことを付け加える。

 どうやら、行き先は決まったみたいだな。でもなぁ……


「できれば、途中で村とかにもよって見たかったなぁ~」


 そう、この度の間に色々な村に行って交流しながら旅をしていくまさにファンタジーの定番をしながらしたいと三人に言ったのだが



「すみません、兄さん。この道中によれるような村は僕の知る限り無かったと思います……」

「それ以前に、村によって一々村人に宿を頼んだりするよりもあのテントとお風呂があるんですから、そんなことする必要があるようには思えないんだすけど?」

「おふとん、フカフカ~!」



 エリックくんにまさかの事実を知らされ、リュイから村に行くのは不要とバッサリ切り捨てられる。

 エリーはベッドが気に入ったのか、朝起こしに行っても一番手こずっただけにかなりのようだ。

 そんなこんなで、俺は泣く泣く村によることを諦め、エリックくんが言った右の道に向うことになったのだった。あぁ~、憧れのファンタジーの旅が……







 あの分かれ道から進み、今はもう夜。月明かりに照らされながら、焚火の番をしている。


 既に夕食と風呂に入り終えた他の面々は、テントに入って熟睡している。子供に夜更かしは良くないからいいけどね。

 俺は焚火の火にかけていた小鍋の中に入っている紅茶もどき(茶葉をそのまま鍋に入れて煮た物)を木製のカップに入れ、息を吹きかけてから口をつける。紅茶とは言ったが、その味はどちらかと言えば烏龍茶に近い物だったが、これはこれで美味いからいいかな?


 それを口にしながら薪がはぜる音を聴いていると、野営地の端にある茂みから音がこっちに向って近づいて来る。だが、何故かその気配が弱いことに首を傾げながらその音の方に体ごと視線を向けると



「なっ?!」

「……」



 そこに居たのは、この前エリーを狙って襲撃してきた操布がこちらに歩いて来ていた!

 俺はその場から立ち上がり、手に持っていたコップを捨てて【無限収納】から剣を一振り取り出して構える。まさかこいつ、ここまでエリーを追って来たのか?どんだけしつこいんだよ!


 俺が内心で悪態を吐きながら警戒しているのだが、操布はこっちの顔を見ながら徐々に俺のところに歩いて来る。そいつの外見は最後に見た時と同じで、あの最初に見た時のようなゾンビやミイラみたいな姿ではなかった。その薄緑色の瞳からは敵意を感じないし、襲ってきた時の様に布を出さずに手足だけを形成しているようだ。だが、あの状態からでも襲ってくることは既に経験済みだ。どんなことがあってもあの三人は護らないと……


 そう警戒している間も、相手はこちらを特に警戒するでもなく、ただ真っ直ぐに俺の方に歩み寄ってくる。その歩む際に、俺が間違えて着せてしまったミストキャットのポンチョの隙間から、包帯に巻かれた体が視界に入る。特に胸の辺りが……って!そんなこと考えてる場合か!


 僅かに思考がバカな方に向いている間に、あっちは俺の剣の間合いより少し離れたところで立ち止まる。その相手の行動を訝しむように視線を向けると、相手はその場で片膝をつき、頭を深々とこっちに下げてきた。な、何するつもりなんだ、こいつ?


 いきなりの行動にどう対処しようか悩んでいると……



「…………神様」

「……………………はぁ?」



 俺はまさかの相手からの言葉に、思わず警戒と肩の力を抜くことになった。





 いきなり現れた操布から「神様」呼びを受けた後、焚火を間にし対面する形で座っている。


 何でそんなことになっているのかと言うと、俺が相手にここに来た理由を聞いたんだけど


「あなた様に、仕えに参りました……」


 そんなことを何でもないことの様に言って来たのである。

 流石に訝しんで更に質問しよとすると、信用を得るならその首を差し出すと言い出し、布でで来た腕を剣の形にして自身の咽喉に当てそうになったのには驚かされた。


 それから直ぐに色々と聞こうとしていたんだが……


「……(モグモグ)」

「……美味いか?」

「……(コクコク)」

「そ、そうか……」


 話しかけると同時に相手さんの腹から可愛らしい腹の虫が鳴き、それが何度も鳴るせいで話が進まず、サンドイッチと串焼きを一つずつ渡して食わせたが、それでも腹の虫が鳴り止まなかった。

 仕方なくシチューが20人前も入っている鍋を取り出して今現在食わせている段階だ。それも既に鍋の中は空で、最後の一杯を食べているところである。リュイくらいの身長と細身の体のどこにそれだけ入るんだよ。こいつの胃袋はどうなってるんだ?


 内心でくだらない疑問を抱いていると、どうやら食べ終えたようだ。

 そんな相手から皿と匙を回収し、【無限収納】から水の入った大きめの樽を取り出してその中に鍋などを入れてからまた収納する。こうしておいて一気にまとめ洗いした方が手間がかからないからな。

 これでようやく話が出来るか。


「それじゃ、今から質問していくがいいか?」

「ん……」



 それから幾つもの疑問や聞きたいことを質問した。


 名前と出身地。

 誰に雇われ、これまでどんなことをしていたか。

 どうしてエリーを狙ってい、殺そうとしたか。

 ここまで俺達を尾行していたことなど、この旅に出てからのことなども聞いてみたんだが__


「記憶がない」


 この一言で終わてしまうのだ。

 しかも、自身の名前や両親のこと、これまでどうやって生きてきたのかも理解していなかった。

 最近になっての記憶、エリーを襲い、殺そうとしていたことからしかまともな話が聞けなかったことがかなり痛いな。

 最後に何で俺が神様なのかについて聞いてみたところ


「私を、救ってくれた……」


 この言葉の意味がいまいちわからない。俺がこいつと戦ったのか覚えているが、助けた記憶なんてないぞ? そのことにも質問したが、言った本人が首を傾げて最終的には腹がいっぱいになって寝るという……俺にどうしろってんだ?








 旅を始めて三日目。昨夜現れた操布を見張りながら火の番をしていたが、こいつは一向に動くこともなく熟睡していやがる。こいつ、本当にあの襲撃してきた奴と同一人物なのか?


 そんな疑問を抱いていると、眠りこけていた操布がどうやら起きたようだ。


 寝そべっていた状態から上半身を起こし、寝ぼけまなこを布で作った腕で擦りながら周囲を見渡している。その途中で俺のことを視界に入れると


「おはよう、神様……」


 いや、神様違うから。てか、まだ寝ぼけてんじゃないのか、これ?


「あぁ、おはようさん。それと、俺は神様じゃないからな?」

「ん……?」

「理解してんのかな……とりあえず、俺は神様じゃない。俺は冒険者の太輝。それ以外でもそれ以上でもないからな?」

「タイ、キ?」

「そう、太輝だ」

「タイキ……タイキ……」


 なんだ? いきなりブツブツと呟きだしたぞ?

 そんな操布の行動に不審な行動に警戒していると、テントの方から三人が俺の方に歩いて来ていた。


「おはよう! お兄ちゃん!」


 その中から元気に飛びついて来たのは元気なエリーだ。俺は座ったままで何とかエリーを受け止めると、腕の中で彼女は嬉しそうに屈託のない笑顔を向けてくる。


「おはようございます、兄さん。ところで、そちらの方は……?」


 続いて俺に挨拶をしてくるエリックくんは、焚火の傍で座っている操布の姿に首を傾げている。

 その後ろについて来ていたリュイが俺に近づき、耳元で何か囁いて来る。


「タ、タイキさん。あちらの方のあの姿はどういうことなんですか?!」

「あ……」


 そう言われて、俺は目の前の操布の姿を確認する。

 俺のミストキャットのポンチョを羽織っている以外は首から下は包帯でグルグル巻きの状態だ。これを見たら良からぬことを想像してもしょうがないかもしれない。


「そ、そのことなんだが__」

「おねえちゃん、だあれ?」


 俺がリュイの質問に答えようとしていると、腕の中に居たエリーが操布が誰なのか質問してしまっていた。こ、このタイミングでだと?!


 そのエリーの質問によってエリックくんとリュイまでも視線をそっちに向け、質問の答えを待っているのだが__


「名前、ない……」


 端的にそう答える。いや、もうちょっと他に言い方があるだろ?


 その答えに、エリックくんとリュイは二人して眉間に皺を寄せて俺の方に「この女の子は誰」と言いたげな視線を投げてくる。エリーもどう反応していいのか分からず、俺に視線を向けてきている。お、俺だって、この状況をどう説明すればいいか判らないんだよ!


 そんなどう答えていいのか判らない状況で



「タイキ。名前……」

「は?」

「私、名前欲しい……」

「……ま、まさか、お前の名前を俺が付けろってことか?」

「んっ」



 まさかと思いながら確認してくると、どうやら当たっていたらしい。

 その操布の言葉を聞いた他の三人から疑問符が浮かび上がっているが、俺はそんなことを気にしている余裕がまったくない。だって、いきなり自分に名前をつけろとかどんな思考回路してんだよ?!


「……」


 俺が混乱している間、まるで「まだ?」っていうように首を傾げて俺のことを見てきている。こ、これは逃げられないのか?

 と、とりあえず、何か適当な名前を……


 そう思い、操布の外見から何か特徴的ところを探した時、顔にかかる青い髪が視界に入る。そ、そうだ!


「よ、よし、決まった。お前の名前は……ラピスだ!」

「ラピス……?」

「そう、ラピス!ラピスラズリっていうその髪の色と同じ、綺麗な青い鉱石の名前だ。これでどうだ?」

「ラピス……」


 俺の言った適当に思いついた名前を何度も呟いている操布。

 名前のもとになった名前の出所は、某クラフトゲームで採れる鉱石の名前からとった物だ。確か、日本だと「瑠璃」だったかな?

 そんなことを考えていると



「わかった。私の名前は、ラピス。これから、よろしく」

「こ、これから?」



 いや、これからも何も、お前とはここでお別れじゃないのか?

 そんな操布改めラピスの言葉に、三人は更に首を傾げてしまう。俺だってどういうことか訳が分からないよ……


 そんなこっちのことをまったく気にした様子もないラピスは、その場から立ち上がると俺の前まで近づき、その場で昨夜の様に跪くと__



「これより私、ラピスは、タイキに身も心も捧げることを、ここに誓う」

「「なっ?!」」

「「???」」



 まさかのそんな発言をしたのだ。

 それを聞いた俺とリュイはどうゆうことか理解できず慌て、年少組エリーとエリックくんは意味がよくわかっていなかったのか首を傾げている。

 そんな、慌ただしく混乱を呼んだ朝での出来事の後、なんだかんだでラピスが旅に同行することが決まったのだった……



 因みに、移動中にラピスがエリー達に包帯で動物などを作って遊び相手になった時に、その正体を知ったリュイから叱責受けることになるのは、これからそう遅くないことだったよ。






次回は【魔王召喚編】をお送りいたします。どうぞ、ご期待ください!

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