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「やっべぇー!!」
チャリ置き場でアリスに会ったら「もう部活はとっくに終わったよ」と言われた。
どうして今日に限って検査長えんだよ、片桐さん!!
「だぁ、くそっ!」
誰かに言うわけでもなく自分自身に向かって言った。
マフラーが口に入りそうになったのと、まだちゃんと走れない自分に対して……。
「将太さん?」
「雨宮。よっ」
「こんにちわ。どうしたんですか?今日」
「ん、病院に行っててさ。じゃあな」
「あ、はい。さようなら」
雨宮と会って止めた足をまた、動かす。
どうしてあんなに慌ててんだろ、という風に彼に見られたが気にしていられない。
1年の部室を通り過ぎ、ハンド部のコートを通っている時、一久と池田に会った。
「奴は一人で待ってるぜ」
そう言った一久はウインクをしやがった。
そういうのは俺じゃなくて隣の奴にしろっ!
俺は、はいはい、と適当にあしらって2人に「じゃあな」と告げた。
グラウンドを見ると、なるほど、剛は1人でベンチに座りスパイクをしまっている。
ベンチの前まで行くと剛のほうから気付いてくれた。
「将太!お帰り」
朗らかな笑顔に俺はつい、甘えたくなって剛に抱きついた。
「剛!」
「あぶないって」
俺の足を心配して剛はそう言う。
そんな、ちょっとした優しさが俺は嬉しくて
「気にしない」
「でも……」
困らせたくなる。
んー、でも、たまには俺も素直になってみるかってことで、
「部室、いこーぜ。寒い」
「うん」
少しの距離だけど、手を繋いでみた。
2人の温度をたしてやっと1人分の体温になるんじゃないかと思うほど、俺らは冷えていた。
それでも、心のほうはぽかぽかとしてて……変に緊張してて部室に入るまで俺らは黙って手を繋いでいた。
部室に入ると、皆はとっくのとおに帰った後で誰もいなかった。
俺は剛が着替えるのを隣で見ながら座って待っていた。
「剛って細いよなー」
「太らないんだよ」
俺は入院している間に何と3キロも太ったぞ、とは言う変わりに
「ずるいー」
と、言ってわざとまだ冷たい手で剛のわき腹を触った。
「うわっ冷たぁ」
「えへへ」
「えへへ、じゃないよ」
もうちょっと待ってて、と言って剛はシャツに手を伸ばす。
服の中に首を突っ込んでいる間、俺はカバンの中を探った。
ある、プレゼントが。
「将太」
「ん?」
剛は着替えが終わり、俺の隣にストンと座った。
「メリークリスマス」
そう言い、軽いキスをしてくれた。
「メリークリスマス」
俺も剛にならって軽い、触れるだけのキスをした。
唇が離れると、急に真面目臭かったようにお互いの瞳を覗き込む。
2人だけの、無言の会話。
そして、瞼を閉じ、会話を中断してさっきとは全く違うキスをする。
あったかい。
こんな狭い部室で
こんな寒い身体で
こんなあったかいクリスマス
それはそれでいいのかもしれない
「ってか何でお前、俺と同じモン買ってんだよー」
「えー何でだろう」
「バァカ……」
誰もいなくて良かった。
この後、俺らはまた手を繋いで歩いた。