表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/14

第六話(担当:只の鯨)

 なんだ…これは…。

 俺は、閉じ込められているのか?

 そして目の前にいるセレナは?彼女についていた白鳥のような翼は、蝙蝠のように変化していた。何があった?あの瞬間に俺は何をされたんだ?

 思い出す。後ろに突き飛ばされ、赤黒い石に触って、吸い込まれて…ここは、

「石の中…なのか。」

「そうよ。私の作った結界なの。素晴らしい出来でしょ。」

「結界…俺を閉じ込める?」

 なんで。と言う前にセレナは指を鳴らした。

 首が絞まる。突然に見えないロープが俺を縛り上げる。

「ッアア…グァッッ!」

 息が出来ない。気管が締め付けられて、何とか息をしようと喉が痙攣する。

 呼吸が、止まる。

「フフ、辛いでしょ?私があなたをここから調教して、あなたを生物兵器の実験台にするの!そのために作ったんだから。」

 生物兵器…だと…。

「愚かなエンジェルも、あなたみたいな有力な術師を奪われてはさぞかし焦ることでしょうね。フフ、快感だわ。」

 そう言って貴笑うセレナ。

 視界が霞む中でひたすら考える。有力な術師って…?

「ングッ」

 何かが喉から逆流して口の中が鉄の味に変わる。

 いつの間にか吐血していた。息が…苦しい…。

「あら、死にそうね。」

 セレナが俺の様子に気づいて指を鳴らすと首の拘束が解けた。

「ッッァア!」

 息を吸い込むが上手く出来ずに咽せる。

 何度目かの死への恐怖が俺を縛っていた。

 対してセレナはご満悦の様子だった

「良い目だわ。大丈夫、時間はゆっくりあるから。さぁ私と一緒に…。」

 そしてセレナが何かを口走った瞬間、


 天井が崩落した。


「何…!?」

 セレナも困惑している。

 脳に血が回って視界が開けた時に見た洞窟の中は混沌としていた。天井の岩が崩れ落ち、大岩があたかも小石のように飛び回り、マグマが湧き上がって小石に誘爆し、爆風が吹き荒れる。

 …今ばかりはこの結界に助けられた。

 俺が生身だったらこんな場所では適当な岩に当たって鮮血の華が咲いてしまうだろう。命と交換の人間アートとかまっぴらごめんだ。

 爆風は台風のように一点を軸に渦巻いていた。

 その渦巻く風や舞い上がった塵の向こう、風の中心には眩く光る純白の翼。

 …天界からの使い。

 天使、という表現の似合う女性が立っていた。

「はぁ…スラム街みたいなデビル族の世界に探しにきといて良かったわ。やっぱり、あなた達デビル族のせいだったのね。」

「エンジェル族…ッ!」

 やはりセレナはデビル族だったらしい。

 天使は俺の方を見て言った。

「あなたも何でまた悪魔なんかに捕まってるの、ほら早く帰りましょう。」

「ちょっと!ソイツは私のモルモットなの!勝手に連れて行くなんて許さないから。」

 モルモットって…俺をいくら生物兵器の実験台にしたいからってその言い草はなぁ。

「あら、勝手に他族を乱獲しちゃって、所有権を語るなんて失礼なのね。」

 その事にセレナが言葉を返すも天使は気にせず俺を見る。

「あらま、結界なんて閉じ込められちゃって。あなたらしくないわね。」

 あなたらしくないって言うからには、俺の記憶がある前にも親交があったのか。と言われて、思い出す。

 俺は、何者なんだ。

 記憶にあるのは馬車の光景からだ。名前も世界の常識も分からない。じゃあ一体俺は何を知ってる?頭の中からほじくり返すように思い出せ。そうだ。俺は何故モルモットが実験台の象徴だと知っていた?その知識はどこの物なんだ?俺の常識はどこの物だ?俺は何故こいつらの言っている言葉の意味が分かるんだ?俺の頭の中にその言語の聞き覚えは…ッ!

 記憶喪失の矛盾に頭が痛む、思い出そうとすると苦痛が走る。しかし俺には苦痛の先に何かが見えるのだ。

 俺は、何が見えている?

 ピキッ!

 ヒビが入るような雑音と共に俺は意識を現実を戻した。

 本当に俺を囲っていた結界にヒビが入っていた。そのヒビは次第に規模を大きくして割れる。そしてガラスが粉々に割れるように爆散し、俺を覆っていた結界の破片は次第に細かく小さくなって宙に消えた。

「思ったより解くのに時間掛かったわね。」

 天使が解いたらしい。

 とりあえずセレナから離れる。こっちの天使の方セレナより安全だろう。

 未だにセレナは天使に吼えていた。諦めろよ…。

 天使が呆れたように返す。

「はぁ…口の減らない蛮族ね。ここで第四聖魔大戦でも起こしてあげましょうか?」

「上等よ!低俗な種族が誰なのか思い知らせて上げるわ。」

 内容がよく分からないが、とりあえず恐ろしいことを言っている。何だ第四聖魔大戦って…。

 今の内に逃げよう。少なくとも天使の方に行けばセレナからは逃げられる筈だ。

「はぁぁぁあああ!」

「はぁぁああああ!」

 何故か2人とも雄叫びをあげ始めた。

 そしてその周りに光が集まり始めた。光の粒はふわりふわりと浮いて少しずつ二人の体に集まっていく。

 これが…マナ…。

 しかし2人に集まる色は対照的だ。

 眩しいマナが天使の方に集まるのに対して、セレナには黒く嫌悪を覚えるようなマナが集まっていく。嫌でもセレナがデビル族だと実感させられる。

 感傷に耽っていると天使が目配せしていた。見ると確かにセレナはマナを溜めるのに必死なのか目を瞑っている。

 今しかない。

 一気に天使との距離を縮める。

 その瞬間に天使はマナ溜めを止めて俺に高速で近づき、

「なーんてね!」

「んなっ!」

 セレナに舌を出して、俺を抱えて直上に飛び上がった。

 …いや、真上に飛び上がってもそこには天井があるんですけどぉぉぉぉおおおお!?

「プロテクト。」

 その瞬間俺は守られていた。緑色の球体が俺と天使を囲んでいたのだ。

 球体の外では岩がガリガリと削られている。しかし小石一つ降りかからない。

「…この程度の魔法に何で驚いてるの?」

 天使が心底不思議そうな顔をする。

 その瞬間、岩が突然なくなって視界が開けた。

 目の前には紅の月が輝いている。夜になっていたようだ…というか月が何故赤いんだ。

 …というかこれまた手を離したら落下死のパターンじゃないだろうか。

「あぁぁぁぁあああああ!」

「…何を怖がっているの?」

 だって落ちたら死ぬんだぞ!

「まぁいいけど。あの悪魔が来る前に天界の入り口を探さなきゃ…あら、どこだったかしら。」

 というかこんなような言葉をさっきも聞いたな。

 セレナが言ってたのか。しかしセレナには悪魔の印象しか残っていない。

「…というかここは天界じゃないのか?」

「そうね、でも天界の絶境ぜっきょうの方よ。地獄とも呼ばれてるわ。だから私は楽境らっきょうに生きたいのだけれど…。あぁ、ここにあった。」

 見つかったらしい。とりあえず良かった。

 確かにそこには空間を切ったように裂け目のような物が存在していた。天使は真っ直ぐに突撃していく。

 …裂け目の中は色鮮やかに彩られている。道があるのかもあやふやな世界を天使は迷いなく通り抜けていく。

 次はどんな所なのだろうか。とりあえず休みたい。目が覚めてからの怒涛の急展開が俺の貧弱な身体に負担をかけている。体中が悲鳴を上げて、意識だって限界だ。

 ゆっくり休んで、この状況を整理しなければならない。俺が誰で、ここがどこで、何が起こっているのかハッキリさせなければ。

 そして二度目の裂け目が現れる。

 これでケモノ族が待ってたり、地獄みたいな場所だったら俺はもう誰も信じない。

 密かにそう思いながら俺達は裂け目を抜けた。


 …その瞬間。

 俺は助けを求めていた。


 誰か、助けてください。

 俺は今、死にそうです。

おそらく始めまして六話を担当した只の鯨と申します。(後書きが長い人)

この度はニトニクチスチ様の企画に参加させていただき、誠に有り難い限りであります。稚拙な文ながらなんとか纏めましたので読んでいただけると幸いです。

ちょっとした伏線を作りたくてあの辺りの押し問答をしました。その割に押し問答後も生きることに必死な主人公は自分の矛盾に気づいていない感じになってしまいましたが…。ここは人間というのはそういう生き物ということで一つ(笑)

キーになるといいなぁと思ってる次第であります。

そして、この伏線は回収されるのでしょうか(焦)

最後に、思う存分好き勝手させていただいたこの企画に多大なる感謝を。


http://mypage.syosetu.com/772004/

↑只の鯨氏のマイペ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ