第十二話(担当:patchworking)
皆様どーも。僭越ながらこの話を執筆させていただいたpatchworkingと申します。まずは、この企画に参加させていただくことを快諾してくださった運営の皆様にお礼申し上げます。リレー小説本当面白い。一読者としてこれからの展開を楽しみにしています。
そして、この話が読者の皆様のお暇潰しにでもなれば幸いです。
「…分かりました。受けます」
俺はこのときラロックの口角がほんの少しだけ、けれど確実に厭らしくつり上がったのを見逃さなかった。本能が危険を察知してぞわりと鳥肌が立つ。
しかし、もう遅い。
「よし、じゃあ貴様にはしばらく眠っていて貰おう。貴様にはな」
刹那、ラロックと武装集団の質感がぼやけた。後ろに髪を引っ張られた様にふらついた。そうかとおもえば、今度は右斜め前に倒れそうになる。次は左。いや、もうどっちが右でどっちが左かわからない。俺はきっと奇妙な舞を踊っているだろう。
脚に上手く力が入らなくなってきた。まるで自分の脚じゃないみたいだ。乗り物酔いに似た嘔吐感がむせびあがって、頭の隅が不規則に痛みだした。既にラロックと武装集団は色としてしかわからない。多分橙のエリアがラロックで、黒と緑の混ざったような暗い色のエリアが武装集団だ。
くぐもった耳鳴りがしだしたところで、俺はとうとう崩れるように倒れた。誰か何か言った気がしたが、もうわからなかった。
ア。
ぶツん。
***
……………………………………………………。
…あぁ、誰だよ起こしやがったヤツ。
こちとらアイツにマナ使われたから疲れてんだよ。なんであんな一気に大量のマナ使うんだよ。そんな奴隷に誰かとケンカする機会とかあんまりないでしょ普通。俺が寝てる間に何があったのん? …まぁいいや。取り敢えず流れるように二度寝をキメよう。何があったとか知らん。どんな状況とか知らん。そこそこ戦闘力高そうな戦闘集団の気配とか全く感じないし。知らないったら知らない。知らないんだからああああああああ!
え? なにほんとなんなのこのカオス? え? はぁ?
いや、落ち着け。まずは様子みよう。それがいい。そうしよう。
最悪正体バレてなけりゃなんとかなる! と信じたい!
「…やはり見当外れか。おい、こいつを医務室に放り込んでおけ」
「はっ」
よっしゃ、なんとかなりそう!
集団の一人が俺に近づいてきて、腹側に手を通して乱暴に持ち上げ肩に担いだ。
「ぐえっ」
あっ。
オワタ。
これまたゆっくりと一人の気配が近づき、何か硬いもので俺の頬を小突いた。
「おい、こいつを下ろせ」
やはり乱暴な下ろし方だった。俺は仰向けの体勢になったが、その時に頭をぶつけた。
刹那、俺にはあまり馴染みの無い、しかし確実に知っている爆発音がした。それは銃声だった。
左太腿に煙草を押し付けたような熱さを感じて直ぐに激しい痛みが追いかけてきた。ぽっかりと空いた綺麗な丸から生暖かい鮮血が溢れ出てくる。
「グッァァァァァァァァァァァァ…、痛ってえななこんちくしょう…」
「意識がある上に撃たれたのにも関わらずその異常なまでのマナの静けさ…やはり貴様が…!」
「起こすにもやり方ってものがあるだろお前、天使なめてると脛椎ねじ切るよ?」
左腕を支えに左太腿の痛みに耐えながら立ち上がろうとするが、上手くいかない。まるで俺の左腕は空気でできてるみたいだ。不思議に思って元来左腕がぶら下がっているはずのところを視界に映したが、ここで俺は自分の左腕を喪失しているという現実を知ることになった。
…マジかよ。本当に何があったんだよ。せめてアイツと記憶を共有できればいいんだか。
「まさか人格と記憶を改竄して奴隷に紛れ込んでいるとは思わなかったぞーーー『ハル』」
「へぇ、俺のことを知ってんのかよ。いつの間に有名人になっんだ?」
「ぬかせよ、偉業を成し遂げておいて。天界だろうが、下界だろうが、ある程度の地位を持つ人間は血眼になっているぞ。貴様ーーーというよりは『貴様が開発した魔術』にはそれだけの魅力がある。それこそ、喉から手が出るほどに欲しくなる魅力が」
…なんでそこまで知ってんだこいつ。いや、しかしいよいよやべーな。どうせ敵全員魔法耐性抜群の防護服着てるんだろうし。こっちは絶好調の六割位のマナしか回復してねーうえに防御力ゼロみたいなもんだからね。防御魔法使いながら防護服ぶっ壊す高威力の攻撃魔法使うとか割りとキツイんだけど。
「…なんでそこ迄知ってんの? 記録は全部破棄したはずだし、支配欲望に駆られた天界の奴らが下界に情報漏らすとか考えにくいんだけど」
「その質問に答える義理はない。だがまぁ、うちの諜報機関は優秀なのだよとだけ言っておこう。さて、そんな貴様に提案がある。」
「技術提供なら断る。誰が教えるかよヴァーカ。どうせろくなことに使われねぇ」
耳ありの女はもう一発拳銃から弾丸を撃った。それは俺の右太腿を貫く。熱い。痛みに顔が反射的に歪む。
「調子に乗るなよ自ら翼をもいだ愚かな天使。提案と書いて命令と読むことがわからない位愚者でもあるまい。それでも拒否するというならそうだな、いっそ貴様を殺して天界に戦争でも吹っ掛けるか」
「頭ワイてんのかてめぇ」
「ここまでされてその口振りか。ある意味評価に値するが、まあいい。まずは仮に戦争をしたとして、我々の勝利が揺るがないことを教えてやる」耳ありの女は俺の後方に視線をやった。「あれを見ろ」
首を捻って後方を見ると、摩訶不思議な機械がそこにあった。
「あれにはある二つの性質を持つウイルスを蓄えられている。もし起動すれば、半径五キロ圏内に拡散するのが機械の性能だが、末恐ろしいのは蓄えられているウイルスの性質だ。一つ、『マナを吸って増加する性質』。二つ、『空気感染する性質』。これが何を指し示すかわかるか?」
「…ウイルスが生物に感染すれば、マナを吸われ、いずれ宿主は死ぬ。そして死体から数が増えたウイルスが空気感染で他の生物に感染。倍々ゲームでウイルスは増え続け、一帯の生物は全滅。はっ、良い趣味してんじゃねーか」
「ウイルスの品種改良には骨が折れたよ。この生物兵器だけでも十分な位だが、そこに貴様の魔術ーーー相手を完全な操り人形にする訳でもなく、中途半端な催眠術でもない。『設定した目的を達成するような人格を造りだし相手に上書き保存する究極の心理魔法』の技術を手に入れれば、もう敵は居ない。しかもこの魔術、やり方は超絶簡単、使うマナは少なめときた。確かにろくな使われ方はしないだろうな。支配者辺りなら喜んで洗脳に使いそうだ」
「あーあ、何でこんなことになったんかなぁ…」
俺は耳ありの女に視線を戻した。耳ありの女も俺を見て、視線が交差する。
傷口の出血が思っていたより酷い。寒くなってきた。
「さぁ、どうする?」
…マジかよ。
誰か助けて。俺と、ついでに天界が死にそうです。
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