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三人は今日も廻る  作者: さなぎ
第一章 『鈴と鐘』
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第八話 『答え探し』

 振り切った棍棒から、確かな手応えが返ってくる。動かなくなった髭面の男を見下ろして、次の標的に棍棒を振り落とす。鈍い音が響き、もう一人の男も倒れこむ。


「ふぅ……」


 ユウは一息ついて、汗を拭う。裂傷は、ベッドのシーツを使って止血だけはしている。他に、両腕には内出血の痕が浮かび上がっている。それでも、大した怪我はしていないようで、何ら問題ないようだ。


 ユウは、寒空の下考える。ベルは、どこへ攫われたのだろうか。一度、宿の建物の中に戻る。人だけがいなくなった宿屋は、ユウが最後に見た姿そのままだった。


 入って右手に酒場、左手には、二階への階段と受付カウンター。見たところ、何らおかしいものは見当たらない。


 ふと思い当たって、カウンターの中を漁る。中から出てきたのは、お酒などの買い付け表。紙には、値段と物品がひたすら羅列されていた。他に目を引くような内容がなかったため、適当なところに放置する。


 二階へと上がり、他の部屋を見て回る。ユウがいた部屋以外はどこも掃除が行き届いていなかったようで、扉を開けるたびにホコリが舞っていた。


 不審なものはなく、中にあるのはベッドと机と椅子だけ。この宿屋にはもう何もないだろう、と判断してユウは外へと出る。


 次に確認したのは馬小屋だ。宿屋を出てすぐにある小屋の中では、二頭の馬が呑気に草を食んでいた。荷物の方も荒らされた様子はなく、ひと安心する。


 二人を捕らえた後、馬や荷物はそのまま使ってしまえばいい。だから、そのまま放置されていて、それはユウにとっては幸運であった。


 逃げおおせたとしても、足がなければ遠くまではいけなければ、荷物がなければここまで来た意味がなくなるからだ。


 他に人が来る様子もないので、馬と荷物は置いたまま、ベルが捕らえられている場所を探す。


 そこで、いの一番に気になったのは、村の中で唯一明かりが付いている民家だった。あからさま過ぎるのだが、他に手がかりはない。


 ユウは手に棍棒を持ったまま、ゆっくりとその民家へと近づいていく。入り口には見張り番のような者もおらず、民家はシンと静まり返っていた。


 ゆっくりと戸を開けると、意外にもすんなりと開き、拍子抜けしながらも中へと踏み入っていく。


 扉を閉めてから、部屋の中を見渡す。民家の中は、そこまで広くはなく、ユウ達が泊まっていた部屋と同じくらいの大きさであった。一人か二人で暮らすために建てられたものだろう。


 部屋にある戸棚、机の引き出しは共に空っぽで、目ぼしいものなど見当たらなかった。ただ一つの窓の外は、暗い屋外が広がっているだけだった。


 机の上の蝋燭が、風に吹かれて時折揺れる。


「ん……?」


 最初は、隙間風で揺れているものかと思っていたが、どうやら違ったらしい。窓に手を近づけてみても、風が入ってきている様子もなく、壁、扉も同じく隙間など見当たらない。


 机の上の蝋燭台を持って、どこから風が流れてきているのか念入りに調べる。窓、壁、扉は違ったようで、次は戸棚の方に蝋燭を向けてみる。


「ここも違うのか……」


 じゃあどこからだ、と頭を悩ませていると、急に床が軋む音が聞こえる。慌てて床を見ると、木の板の一部分が上がってきている。


 その板が横に除けられ、顔を見せたのはさっきの酒場に板であろう男。

「なんでテメェが!」


 言い切るより早いか、ユウは棍棒をアッパースイングで振るう。部屋に響く鈍い音。男は上半身だけ出したまま、口元から血を出しながら気絶する。そのままだと邪魔なので、気を失った男を引っ張りあげようとする。


「おっと」


 男の首元に巻いてある布を掴んでいたせいか、結び目が解けて落としそうになる。腕を何とか掴んで、男を上に引っ張る。


「これは……なるほど」


 ユウは、男の顕になった首元を見て納得をした。首元に布を巻いていたのは、彼が知っているだけで宿屋にいた面々だ。宿で伸びている男たちも、確か巻いていたはずだ。


「同じ穴のムジナ……でいいのかな? まぁ、いいや」


 一旦考え事を隅において、男が出てきた空洞を見る。空洞はずっと下まで続いていて、終着点は明かりで照らされている通路のようなものだった。


「地下なんて盲点だった。こんなのはさすがに、初めてだ」


 そう呟いて、ユウは空洞へと飛び込んでいく。

次の投稿は三月三十日(月)の予定です。


プロローグはしっくりしたものが書けなかったため、端折りました。

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