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三人は今日も廻る  作者: さなぎ
第一章 『鈴と鐘』
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第四話 『違和感の村』

 夕闇が差し迫る頃、ユウたちは村へとたどり着いた。村の周囲は外敵を阻むかのように、木の柵が張り巡らされている。


 村の入口には一件の小屋が建っており、窓からは光が漏れ出している。誰かいるのだろう。ユウは、そのまま馬を小屋の前まで歩かせる。


「おい、止まれ!」


 小屋の前で、野太い声に呼び止められる。声の主は小屋から出てきて、馬車の前に立ちはだかる。服装は小汚く、無精ひげが顔のほとんどを占めている男だ。手には長槍を持っており、村の自警団か何かだと分かる。


「ここに何をしに来た」


 槍を構え、脅すかのように男は言う。ユウはどうしたものかと頭を悩ますが、ベルはそんなこと知ったことないという風に言う。


「退きなさい、ヒゲダルマ」


「ヒゲッ……! 貴様!」


 男は本当のことを言われて激昂し、ユウに槍の先を向ける。ユウは余計なことを、と思いベルを見るが、さして気にしていない。


「まぁ、落ち着いてください。私はこの村で休息をとりたくやって来た、旅の者です。一晩だけ、泊めてはくれませんか?」


「……少し待っておけ」


 髭面の男は挑発してきた声と、青年の声が違うことに首を傾げながら、村の奥へと走り去っていった。


「今のうちに侵入すればいいんじゃない?」


「面倒事を起こす気はないよ。全く、どうしてあんなことを言ったんだい?」


「本当のことを言っただけなのよ」


 ベルは得意気な顔をし、ユウはげんなりとする。


「付いてこい、宿に案内する」


 髭面の男を先導に、暗くなり始めた村の中をユウたちは進む。村の中も北部とあって、白い雪がチラホラと積もっている。


 民家は七軒ほど建っており、そのうちの一軒にしか明かりは点っていなかった。


 他には荒れ果てた畑、廃屋同然の家畜小屋がある。第一印象としては、廃れた村。次に襲ってきたのは、村への違和感。


 違和感の原因はなんだろうかと考えていると、前の男が止まった。その目の前には、他の民家よりも大きな、二階建ての建物。一階に明かりがついており、騒々しい声が外にまで聴こえてくる。


「ここが宿だ。荷馬車は、脇の小屋に入れとけ。誰かに馬の世話をさせるから、安心しろ」


 ユウは言われたことに従い、馬車を小屋の中に進め、馬から荷車を外す。必需品だけを持って荷馬車から降りる。藁が敷き詰められた小屋の中に二頭の馬を入れ、小屋の外へと出る。


 男はそれを見てから、建物へと黙々と進んでいく。そのまま扉を開けて、ユウに入ってくるように促す。頷いてから、ユウも建物の中に踏み入れる。


 ユウが建物に入った途端、視線が一気に注がれる。建物の中に居たのはほとんどが男性で、女性はカウンターでジョッキを洗っているただ一人だった。そして、男たちも女性も、首もとを覆い隠すように布のようなものを巻いている。


 男たちの視線と似たものを、ユウはこれまでに何度か体験してきた。自分の力量を、価値を推し量られているような、値踏みをされている目だ。


 ユウはその視線を受けながら、カウンターの方に移動する。その間も、視線はねっとりとユウに絡み付いてくる。この村は危険だ、ユウは早々に判断した。


「何か飲むかい、お兄さん?」


 カウンターに居る四十代の女性が、気さくに話しかけてくる。


「水を一杯ください」


「ワタシにもちょうだい」


 ベルが話した途端、男たちの視線が一斉に彼女に向く。そして、眼の色が攻撃的なものに変貌する。


「……あぁ、ちょっと待ってね」


 女性はコップと平皿に冷水をそれぞれ注ぐ。それをユウたちの前に置き、チラチラと男たちに視線をよこしながら、作業に戻る。


「どうも」


 ユウはその水を一気に飲み、周囲を注意深く観察する。男たちは宴会をお開きにして、宿屋からゾロゾロと出て行く。ユウからしてみれば、その行動が疑ってくれと言っているようなものだった。


 ベルは神経を尖らせているユウを尻目に、呑気に水をちびちびと飲んでいる。


「どこの部屋が開いているのですか? 私はもうヘトヘトでして、一刻も早くベッドで眠ってしまいたいのですが」


「それなら、二階の、階段を上がってすぐの部屋を使っておくれ。他の部屋はまだ掃除をしていなくてね、とてもじゃないが使えない状態なんだ」


「分かりました。ほら、ベル、行こう」


「えぇ、わかったわ。お水、ありがとうなのよ」


 淡々とやり取りを済ませて、ユウはカンター脇の階段を上がっていく。言われたとおり、指定された部屋に入り、一息つく。


「どうしたのかしら、そんな疲れたようなため息をして」


「いや、厄介なことになったな、と思ってね」


 ユウはまた、ため息をついて、ベッドと机と椅子しかないシンプルな部屋を見渡す。至って普通の部屋だ。


 ユウは外套を机に置いて、持ち物を確認する。食料に得物、硬貨、必要な物は持っている。窓から見える、明かりが一切見えない村を見て、今日の夜は長くなりそうだと、確信のようなものを抱きながら、パンに齧りつく。


 今日も、月は見えそうにない。

次回更新はしばらく開きます。その間に短編を一本投稿するかもです。予定は、三月十四日です。

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