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 後始末は大変です ~修羅場ったようです~

 防衛戦より五日の時が過ぎる。

 エルフの里の周囲は夥しい魔獣の屍が散乱し、中には目を覆いたくなるような惨状の物も少なくない。

 その屍の山を処分するのも冒険者の役割で、魔力の続く限り焼却処分に明け暮れている。

 穴を掘り埋める者もいれば、その場で解体して素材を回収する剛の者。異臭の漂う中で調理して食べる強者も居る。

 運搬業者を請け負うノーム達にもお裾分けしたが、彼等が運んだ魔獣の数もその一割にも満たない。


 更に問題なのがヴェノムオーガストである。

 あまりに巨体な為に解体担当のエルフ達を総動員し、解体作業に勤しんで入る物の、その作業効率は思わしくない。

 その中に巨大な剣を振るい、嬉々として解体作業に勤しむ銀色の髪の少女の姿が見られる。

 無論、セラその人だ。


「いやぁ~、これは解体が苦労するのも分かるよ。切り分けても切り分けても我が作業、終わる事なし」

「何でお前がそこに居るんだよ……普通はこっちじゃね?」


 当然の事ながら、レイルは魔獣の屍を始末する担当である。

 まぁ、この作業は素材を簡単にかつ、合法的に手に入れる事が可能だからだが、いかんせん同じ事を考える冒険者も多く解体が追い付いていない。

 小型魔獣は魔法で粉々に吹き飛ばし、入念に焼き尽くしているのだが、それでも数が多すぎて人手が足りないのだ。

 そんな中、最大の戦力であるセラはヴェノムオーガストの解体に回っており、彼等の不満は尽きない。

 しかし、事実上セラが倒した物であるからして、優先権はセラにあるのも確かである。

 何より大物過ぎて、寧ろこっちの人出が少なすぎるのが現状だ。


「お肉もたくさん、素材もウハウハ♡ 大量だね☆」

「人の話を聞けよ。こっちも素材はあるんだぞ?」

「そちらの素材は要りませんよ。僕はこの亜種の素材が欲しいんです!」

「はぁっ?! 亜種?! ヴェノムオーガストが?! 聞いてねぇぞ!!」

「皆さんの分も確保しますから、楽しみにしてくださいね♡」

「あ? あぁ……良いのか?」

「お、おぅ……」


 アムナグアの素材の次にヴェノムオーガストの素材を手にれる事が出来る。

 レイルとしては嬉しい所だが、何故か罪悪感を覚えていた。

 だが、希少種として亜種は高値で取引される素材であり、今を逃してはいつ手に入るか分からない事も確かだ。

 結局ライルはセラの行動を黙認する事にする。


「どうでも良いが……お前、アムナグアも解体できたんじゃねぇか?」

「うぅ~ん、あの時は解体作業を見ていただけですし、そもそもどんな体の構造をしているか分からなかったですしね。

 見て覚える時間がどうしても必要だったんですよ。今回は非常時ですし、刃物は山ほど持ってますから」

「凶悪装備のコレクションか……確かに解体できそうな得物ばかりだな」

「これで中々難しいですよ? 甲殻を剥ぎ取るのは結構骨です」

「それを熟している、お前が凄い」


 冒険者も剥ぎ取り出来る者達が存在している。

 その手の者達は依頼は商人から直接引き受けており、旅団ほど出は無いにしろ大人数で行動しては魔獣を狩り続けている。

 狩場に出入りする事はせず、それ以外の開拓されていない森に入って得物を探す彼等は、普通の冒険者よりも危険が多い事で有名だ。

 尤も、収入はそれ以上であり、ギルドの規定に従う必要が無いのが魅力でもある。

 まぁ、そこからあぶれて犯罪者に身を落す者も多い事も確かだが……。


「しかし、今回はエルフ達にとって大儲けのチャンスじゃないか? 災厄級のほかにも中型や大型の魔獣の素材、笑いが止まらないと思うぜ?」

「それはどうでしょうね?」

「どういう事だ?」

「現時点でエルフ達は鎖国状態、此処に来るのは一部の商人のみであって、素材を取引するような懇意の者達は居ないんですよ」

「良く解らん。それが問題……あ?」

「そう、素材を買ってくれる商人が居ない以上、この里や周辺の村々で消費しなくちゃならない。ハッキリ言えば、被害を受けた個所を直す資金が獲得できないんです」

「ロカス村の様には行かない訳か……開拓してはいるが、外部との接触が限りなく低い」

「正解です」


 エルフの里の経済状況は果てしなく悪い。

 所謂鎖国的閉鎖状況の中で彼等は暮らしていた為、外部に信頼できる商人や冒険者を獲得する事を行って来た。

 更にその政治体制が悪影響を及ぼし、偶に来る商人達を高圧的な態度で接する者達が多かった。

 その結果、商人達は余程の事が無い限りこの里には訪れず、それ故に情報を得る機会が減る事により外部の世界との技術格差が生じる事になった。

 其処から政治腐敗が始まり、そして生まれたのが強硬派や穏健派と云った派閥なのである。

 強硬派は飽くまで鎖国状態を続け、いつかは世界を牛耳る為の戦力増強を推進し、穏健派は外部との接触を試み外部に使者を送り情報を集める強攻策をとった。


 他人の目から見れば穏健派の行動が正しい事は明白なのだが、強硬派は何かにつけて足を引っ張り、同時に悪質な手段を使ってでも外部の者達を排除する傾向が続いていたのだ。

 今回のティルクパ討伐作戦も穏健派は外との繋がりを持とうとし、強硬派は去年の被害を鑑み外部の者達を利用してやろうという腹積もりであったが、災厄級魔獣の襲来により強硬派は考えを改めざるを得なくなった。


 辛うじて危機は去ったが、同時に大量の魔獣の素材が埋め尽くし、それを処理する事が出来ない。

 同時に魔獣の素材を加工できるドワーフとも犬猿の仲であり、彼等の装備はあまりに貧弱と言えよう。

 その上商人に嫌がらせをしていた為に、外貨獲得すら出来ない有様なのだ。

 幾ら高額で取引される素材が有っても、それを買い付ける商人が居なければ意味が無く、更にエルフ自身では加工すら出来ない。

 言ってしまえば宝の持ち腐れな状態なのである。


「商人に渡りを付けるにしても、他の村里まで距離が有りますしねぇ~」

「ここからが本当の危機的状況か、俺達には如何する事も出来ねぇな」

「出来るのはミラルカさんだけでしょう。あの団長さんは女の子のお尻を追いかける事に夢中だし」

「あぁ~……それは無いだろ」

「何で? 最近姿が見えないけど、どこかで犯罪を犯してるんじゃないの?」


 件の団長は未だベットの上である。

 セラを殺そうとして散々ボコられ、躰中の関節を引き抜かれた後に三階の高さから捨てられたのだ。

 今も生きている事態不思議な事だが、外された関節を元に戻すのと骨折の治療で酷い痛みを受け続け、彼女は真面に動く事が出来ないのである。

 エーデルワイスの自業自得な為、『お前が再起不能にしたんだろ!!』と言えないレイル君であった。


 何気に空を見上げれば、大型の猛禽類が静かに空を飛んでいた。

 実に長閑な昼下がりである。





「では、私達の知り合いの商人を、この里に招くという事で宜しいですわね?」

「うむ、素材が有っても消費できなければ意味は無い。今は出来るだけ資金を獲得しておきたいのじゃ」

「被害の事を鑑みれば、資材を買うための外貨は必要ですものね」

「よもや災厄級の魔獣が現れようとはな。しかもグラトーの奴はあの夜から行方不明じゃ」


 ミラルカは今後の里との商売ルートの為、長老衆と会議をしていた。

 大まかな理由は先に述べたとおりだが、彼等が出した結論は鎖国を解除して外部との交流を望むものであった。

 今回は歴戦の冒険者が居た為に難を逃れたが、こんな幸運がいつまでも続くとは思っても居ない。

 故にエルグラード皇国との同盟を決意し、その繋ぎをする事になったのがミラルカのいる白百合旅団であった。

 元々彼女は貴族であり、そうした外交的力を持つ有力貴族の家柄であった。

 更に王族との関わりも深く、何より感情論を挟んでこない分信用に置けたのである。


「最長老様は、彼が何かしたのではとお疑いなのですか?」

「うむ、あの襲撃の前日、あ奴が何やら薬の様な物を製作していた所を目撃した者が居る。恐らくは【エビル・パフューム】じゃろう」

「聞いた事が有りませんわね? 香水か何かでしょうか」

「そう、魔獣を引き寄せる香水でのぅ。その効果は恐るべきものじゃ……暴走を引き起こすくらいに…」


 ウォールキンにしてみれば、グラトーは自尊心が強く名誉欲も高い。何よりも他民族を排斥する事を高らかに宣言していたほどの過激的思想家であった。

 同じエルフでも半神族に対しての迫害には落差が有り、彼の行いはあまりに非人道的な事も平気で行う人物だという事だ。

 自分の信奉者以外を皆殺しにするくらい平気で行うと睨んでいる。


「証拠が無い以上はどうする事も出来ませんわね」

「そうじゃな…今は、目の前の問題に集中する事が良いじゃろう」

「問題は山積みですが、何とか乗り越えるよう尽力を尽くしますわ」

「有り難い。こんなに早く商人の重要性が出るとは思わなんだ」

「何事も思い通りには行かない物です」


 ロカス村の様に近場に街は無い。

 そうなると、里を往復するのにもなにかと入用であり、交通の便が悪いために山賊などの標的にされる事も多くなる。

 護衛を雇うにしても、白百合旅団の様な各方面に顔が効き信頼されている冒険者など少ない。

 例え団長に人格的問題があっても、世間から得た信頼度は高いのである。

 尤も、それはミラルカ自身の手腕によるものであるが……。

 エーデルワイスが必要なのか疑問が尽きない。


 これより数か月後、この里はエルグラード皇国と同盟し、新たな冒険者の活動拠点として発展して行く事になる。

 今回の教訓から要塞化が始まり、100年後には難攻不落の防衛拠点として有名になる。

 ダンジョンも無く発展した街としては珍しく栄華を誇る事になる。この会談はその始まりであった。


 余談だが、白百合旅団はこの里で歴史に名を残し、後世にまで偉業を語られる事となる。

 だが、其処にセラの名は存在しない。

 本来の歴史ではセラ・トレントと言う人物が名を語られるのは、ローカストの街であるからだ。

 そして、今回の戦いに彼女は参加してすらいない。

 歴史が正しく修正されるかどうかは、今後の優樹の活動に掛かっていた。

 思いっきり逸脱している気もするが、多少つじつまが合えば暇神が何とかするだろう。




 さて、解体作業をしていたセラなのだが、今一仕事を終え一息入れている所であった。

 何分処理する魔獣の数が多すぎる為、中々捗らないのが悩みの種である。

 それでも魔獣の心臓は確保しており、更に【ソウル・ジェム】や各種素材も充分に回収していた。

 更に肉なども持てる限り詰込み、現在何を作るか考察中。

 しかも焼き肉を焼いている当たり、中々に図太い神経をしている。


「うん、やっぱり災厄級クラスになると肉のグレードも高いね」

「良いのか? 皆こっちを見てるんだが……」

「構わないでしょ。準備は自分の道具で賄ってるし、僕はきっちり働いています」

「そうなんだが……こんな生臭い状況で、しかも周りは屍だらけ。良く肉が食えるな?」

「何なら焼き払いますよ? ディストラクション・バーストで……」

「止めんか!!」


 確かにディストラクション・バーストで焼き払えば、この目の前の惨状も綺麗に片付くだろう。

 しかし、それ以上に被害が出るから勧めたくは無い。

 朝から死に物狂いで魔獣の死骸を焼き払って来たので、既にこの状況に慣れてしまったレイルであった。


 そんな無茶を平然と言ってのけるセラの周りには、当然いつものメンバーが集い、小皿に焼けた肉を移して貪り食っていた。

 ルーチェとクレイルは、残念な事にアムナグアの肉を食べた事が無い。

 その為、この機会を逃すまいとセラを朝からマークしていた。


「この肉は少し癖が有りますね?」

「でも美味しいわ。流石極上のお肉……ムグムグ……」

「あぁ……里の食事よりこっちが美味しい♡ 料理とはこういう事を言うのね」


 ミシェルとファイの傍らに、何故かフレアローゼの姿もある。

 彼女は完全に餌付けされてしまった様だ。


「姉さん。野菜は何処から持って来たんですか?」

「えっ? そこらへんに転がってたけど?」

「それ……使っても良かったんでしょうか?」

「大丈夫、所詮は戦闘で吹き飛んだものだし、誰も食べようとは思わないよ☆」

「そう……だと良いですね」


 野菜は戦闘中に吹き飛んだ畑の物で、それを回収して勝手に食べてるようだ。

 これは野菜泥棒と言っていのか微妙な所である。


「お母さん、お肉焼けたよ? ハイ♡」

「ありがとう、フィオ♡ ほんと…良い子に育ったわねぇ~……」

「・・・・私には・・・?」


 ラック一家はアットホームだった。

 フィオが肉を焼き、それをルーチェとクレイルの皿に盛りつけている。

 実に微笑ましい家族の姿だ。


「・・・・・おいじい・・・」

「・・・泣くな・・・セニア・・・くっ・・・」

「・・・・・無理・・・僕・・・もう、死んでもいい・・・」


 一方で、半神族の新弟子達は涙ぐみながら肉を食う。

 今までの悲惨な食生活から解放され、人並みの食事が取れる事に感動していた。

 見ている方が泣きたくなって来る。


 焼肉一つだけで、様々な食事模様が展開していた。


「所で、セラはこれからどうするんだ? ロカスの村に戻る頃合だろ?」

「戻りますよ? その前に素材を回収しておかないと……皆さんの分がまだ足りないんです」

「逞しくも有り難いな……。里はこのまま放置して良いのかよ?」

「そこはもう、僕達の手から離れてますよ。政治の問題ですからね」

「成程……この里で出来る事はもう無いと云う訳か」


 そもそもこの里に来た理由は毎年大量繁殖する魔獣の撲滅である。

 その仕事が片付いた以上は何時までも里にいる訳には行かない。

 レイルもセラもロカス村の専属冒険者であり、長い事村を離れている事に些か不都合がある。

 更に言えば、これから多くのエルフ達が里を出て外の世界に踏み出すとなると、彼等を受け入れられるだけの地盤を作らねばならない。

 

 今だ種族に対する根強い偏見があるが、其れとて一度里の外から出てしまえば嫌でも身の程を知る事が出来るだろう。

 だが、其処に生じる軋轢は出来る限り少ない方が良いのである。


「お前の存在が完全い決め手になったからな、今後の対応次第で状況は変わるな」

「長老さん達の決断次第ですけどね」

「ファイはどうするんだろうな……」

「それ、本気で言ってるなら凄いですよ?」


 レイルはファイが里に残るのではと思っている。

 だが、全員が知っているがファイはレイルに惚れており、しかも何があったかは知らないが肉体的にも繋がりを持ったと思っている。

 当然レイルと共について来る事が分かっているだけに、彼が呟いた言葉に呆れるしかない。

 

「結局の所、あの二人と何処まで行ったんです?」

「・・・・・・・聞くな・・」


 顔を背けたが僅かに照れている事が解る。

 何だかんだ言って、上手い事宜しくしていたようだ。


「リア充、爆発しろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

「何だ、いきなり!!」

「そうやって朴念仁気取ってれば良いじゃない!! 流されて二人に手を付けて、知らん顔してれば良いじゃないっ!!

 羨ましくないんだからねっ!! いっそ手当たり次第に手を出して、ハーレムでも作りなさいよ!!

 そして修羅場になって、全員に刺されれば良いじゃない!! 天然ジゴロ!!」

「何でそんな事になるんだっ!! つーか、お前は俺を殺したいのかっ?!」

「レイルさんはその内に誰かに刺されますっ!! それはもう、間違いなく!!」

「断言しやがった!?」


 モテる男に対して醜い嫉妬だった。

 だが、この世に男と女しか居ない以上、余程上手くやらなければ本気で刺される事になるだろう。

 小説の様に、複数の女性と関係を持ちながら円満であり続けるなどあり得ない。

 そんな事が許されるのはどこかの原住民か、王族くらいの物であろう。

 

 だが、此処で嫉妬できるという事は、セラはまだ大丈夫という事になる。

 喜ぶべきか泣くべきか、そこが問題であった。

 いや、若干少女化している様な……?


「姉さん、少しお肉が足りない気がします」

「そう? じゃぁ、今から取って来るよ」


 そう言いながら無限バックから馬鹿デカい剣を取り出す。


「待て、何でそこで武器を……まさか、取って来るというのは、今から解体して補充するという意味かっ!?」

「それ以外に、何が?」

「普通に解体し終わった肉じゃねぇ―のかよ!!」

「誰がそんな事を言いましたか? おかしなレイルさんですね?」

「おかしいのは俺か? お前じゃなくて俺なのかっ?!」

「さっきまで解体していた肉は何なんだよ!!」

「ご近所のお土産ですよ? 数は多いほど良いですから」


 ロカスの村から離れても、近所の人達に土産を忘れないセラ。

 中々しっかりと人付き合いをしているようだ。


「セラちゃん、ワイルドよねぇ~……」

「・・・・うむ・・・・逞しい・・・・・」

「アレはそう言うレベルを超えてるわよ。何で解体しに行くの?」

「それはセラさんだからですね」

「フィオさん……その一言で全て済む訳ではありませんよ?」


 見ている方はセラの破天荒な行動に頭を悩ませる。

 半神族トリオは泣きながら肉を貪り続け、この世の幸福を味わっているので気にしていない。

 それ以前にサバイバルで魔獣を解体しているのを見ているのだから、この程度で驚く事は無かった。


「「「「「そう言えば、ヴェルさんは?」」」」」


 何故か食い意地の張ったヴェルさんの姿が見えない。

 本来ならこの場に真っ先に現れるのだが、今だ姿が全く見られないのだ。

 誰もが不審に思う。


「きっと、お風呂に居ますよ」

「「「「「あぁ!! 成程!!」」」」」


 フィオの答えは当たっていた。

 聖魔龍の肩書きを持つヴェルさんは現在風呂場で入念にお肌の手入れ中。

 こう見えて綺麗好きなのである。


「偶にはのんびり風呂に浸かるのも良い物じゃ。いつもパフるだけと思われるのは心外じゃ!」

「誰に説明しているの? それより……あの悪魔は?」

「おらぬ。今日はのんびり湯船につかるのじゃ♡」

「とても幼児とは思えない親父臭さね……」


 しかも一緒にいるのはエルカであった。


「失礼なのじゃ。我は只のんびりするのも好きなだけじゃぞ? 闘いには血が疼くがのぅ」

「私としては、いつ胸を狙われるか心配なんですけど……」

「折角綺麗にしておるのに、穴に埋められるような真似はせん」

「だと良いのですけど……」


 エルカとしては、いつヴェルさんの魔の手が自分に迫ってくるか気が気では無いのだ。

 警戒するのも当然である。


「時にお主、レイルとは何処まで行ったのじゃ?」

「えっ? どこまでって……私はまだそんな関係では……」

「情けないのぅ。周りにはミシェルとファイが居るのじゃぞ? 既成事実を作るくらいの覚悟を見せんでどうする」

「そんな事言われましても……」

「しかもレイルの奴、硬派ぶっておきながら二人を手籠めにしておる」

「嘘っ!?」


 多少曲解はある物の概ね事実である。

 どうも【サイケヒップバッド】の所為だが、レイルの態度から二人を大切にしている事が良く解る。

 それ以降も何らかの接触を試みている様に思われる。

 まぁ、早い話…夜の営みの事だが。


「今更、お主一人が加わっても然程変わりはあるまい? 既成事実を作ってしまうのじゃ」

「ですが……」

「無論、お主の気持ち次第じゃが……これをやろう」

「こ、これは……?」


 ヴェルさんが手渡したのは【サイケヒップバッドEXD】。

 しかも、栄養剤の瓶に偽装された物である。

 エルカはそのまま只の栄養剤と思ったが、中身が別物とは気づく事は無かった。


「差し入れしてやれば一発じゃ。後はお主の心次第じゃぞ?」

「宜しいのですの?」

「構わぬ。我は恋する乙女に野暮な事はせぬ。頑張るのじゃ♡」

「頑張ってみるわ! ファイに後れを取る訳には行かないですし!」

「うむ、その意気じゃ! しっかり励め」


 ……何にだ?


 こうしてやる気を出したエルカは、この栄養剤を持ってレイルの元へと向かう。

 ある意味、エルカの思いは成就するだろうが、レイルは女性関係で悩む事となるのは間違いない。

 恋のキューピッドヴェルさん。

 その恋を実らせる手口は悪辣であった。



 一方で、白百合旅団のメンバーはと言えば……。


「おのれ……銀色悪魔………まさか、あそこまで凶暴だとは……」

「ええ加減、諦めぇ~な。マイアは団長の事などなんとも思ってへんて」

「諦める事も肝心だぞ? 寧ろ、そんな状態にされてまでこだわる理由があるのか?」


 エーデルワイスは包帯で巻かれたミイラ状態である。

 右腕は骨折させられたため、添え木で固定して方から吊るしている。

 全身の関節は戻されたが、未だ激痛が走るほど重傷だった。


「無論だ! あの固くなな態度で私を見るマイアを、私色に染めらる事が出来ると思えば……」

「そんで返り討ち……マイア、段々セラはんに似て来とるな」

「弟子は師の背中を追うもの、似て来るのは当然だろう」

「寧ろ、冷徹に処分を下すマイアが怖いわぁ~……」


 フレイは強くなったマイアに感心するも、その方向性があまりに危険と感じている。

 セティも同様だが、冷徹な笑みを浮かべてエーデルワイスに容赦なく断罪を下す姿に恐怖を覚えた。

 感じている事は異なっていても、同じ結論に至っている。

 人として大事な物を捨てているという事に……。

 それはエーデルワイスも同様なので、マイアに如何こう言う事が出来ない。

 弱いままではマイアがエーデルワイスに捕食されるからだ。

 何が正しいのか分からないのが現状である。


「お姉様、紅茶をお持ちしました」

「ありがとう、レニー……やはり私の気持ちを理解してくれるのは君だけだ」


 ―――ガチャン!


 レミーは紅茶を取り落とした。

 そして、彼女の表情には悲しみと絶望の色が浮かんでいる。


「レニー?」

「お姉さま……またレニーて………何故、その様な他人の呼び方を……」


 彼女の名はレミー・レニー。

 白百合旅団の団長であるエーデルワイスと、副団長であるミラルカを補佐する優秀なスタッフである。

 冒険者としての技量はそこそこだが、サポート全般において信頼できる人物であった。


「……もう………お姉さまの御心に私は居ないんですね……」

「ちょ、レニー? 何を言って……」


 レミーは果物ナイフを手に取り、その切っ先をエーデルワイスに向ける。


「許せない……あのマイアもそうですが………私を忘れたお姉さまが一番許せないっ!!」

「あの……レニーさん? 何でナイフを私に向けるんだ?」

「また……レニーて……殺します……」

「へ?」

「お姉さまを殺して、私も死にますっ!!」


 彼女の愛は本物だった。

 それ故に浮気性のエーデルワイスにも献身的に尽くしてきたのだ。

 だが、それ故に彼女が貯め込んできた感情の重さは凄まじい物である。


「何で私を名前で呼んでくれないんですかっ! 初めて会った時の様にレニーだなんて呼んで!!」

「え? だって君、レニー……」

「私はそんなに影が薄いですか?! お姉さまが忘れてしまうほど、存在感が無いのですか!!」

「いや、そう云う訳じゃないんだけど……アレェ~?」

「最近では作者にまで名前すら忘れられて、『アレ? こいつ、誰だっけ?』て言われてるんですよっ!!」

「作者?! 誰それ、ていうか、何言ってんだか分かんないんだけど?!」


 すみません。忘れていました……


 レミーは震える手でナイフを振り上げると、エーデルワイスに斬りかかる。


「待つんや、レミー!! こんなのを殺して人生を棒に振るんか!!」

「そうだレミー。殺したい気持ちは分かるが、出来れば証拠を残さない方が望ましい」

「何、計画的に殺そうとしてんの?! 私、団長だよね?!」

「二人だって私の名前忘れてたじゃない! 後で修正されたのを知らないと思ってるの?」

「「修正って?!」」 


 彼女の感情は最早誰にも止められない。

 愛する女性に裏切られ続け、浮気の現場を常に直視させられてきたのだ。

 限界を迎えても仕方が無い。

 その結果、彼女はとうとう壊れたのだ。

 若干だが別の恨みもある様だが……。


「殺します……さぁ、お姉さま……私と逝きましょう……」

「何か、文字のニュアンスが怖いんだけど……助けて……」

「団長はん……責任は取らんと…」

「うむ……レミーの行動はエーデル自身が招いた事だ。私達には止められん」

「助けてくれないのっ?! 私、動けないんですけどぉおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 助ける必要が有るのだろうか?

 この愛憎劇を生み出したのは他ならぬエーデルワイス自身であり、その決着も自身でつけなくてはならない。

 他人が止めた所で一時凌ぎにしかならず、再び同じ事が繰り返される。

 身から出た錆であるとは言え、エーデルワイスはあまりに罪作りであった。


「さぁ……一緒に死にましょう……お姉さまが悪いんですよ? うふふふふ……」

「た、助け……うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

「あぁ……♡ これでようやく二人きりになれるんですね……嬉しい♡」

「や、やめ……ぎゅうぎゃああああああああああああああああああああああっ!!」

「大丈夫……先に逝ってください。時期に私も……うふふふふふふふ♡」


 罪は清算しなくてはならない。

 例えそれが、どんな結末を迎えたとしてもだ……。


 エルフの里に、浮気性の変態による断末の叫びが響き渡った。

 尤も、死ぬ事は無かったが……変態はしぶとい。



 この日より二週間後、セラ達はロカス村へと出立する事となる。

 長い時間をかけて戻る彼等と、新たにロカス村の住人になる者を含めた暇な長旅が続くのだった。


 何の騒ぎも起こる事無く、順調に帰路に就けたのだった。


 エルフの里の一幕は、これにて終了する。


 こんな最後で良いのだろうか?

 些か納得が出来ない所が有りますが、これが今の限界。

 自分の未熟さを痛感しています。


 コレ……楽しめるのか? 普通に考えたらヤバい気がする。

 

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