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 防衛戦終了 ~命、狙われました~

 怒り狂ったヴェノムオーガストは手を付けられない状態に突入した。

 やたら意味も無く暴れ、粉塵爆発を無差別に引き起こし、地属性魔法を連続して撃ちまくる。

 こうなると現実でもゲームでも接近する事は容易に不可能となり、遠距離から小技程度の魔法をちまちまと放つしか方法が無い。

 無理をして接近戦に持ち込んでも、無差別に放出されているガスの為に前方を見る事が叶わず、下手をすれば此方が深刻なケガを負う事になり兼ねない。

 だが、逆に言えばこの状態は望む所でもある。

 この様な攻撃を続ければ、どうしても体力と魔力を大幅に消耗する事になるのだ。


 だからと言ってその瞬間が来るまで待ち続ければ、直ぐに里に到達して大規模な破壊を引き起こすだろう。

 それだけに手頃な場所に攻撃を加え、ある程度注意を引き付けておかねばならなかった。

 何よりも、この怒り状態がいつまで続くかが未知数なのだ。


「面倒だね……どうも…」


 正直うんざりして来る。

 此処まで持久戦をやらかすと、流石に思考が鈍り始める。

 ゲーム内でヴェルグガゼルと相対した時は、大体8時間を費やして倒した。

 しかし現実の時間に換算したとして、ヴェノムオーガストをどれくらいの時間で倒せるかなど未だ経験していない。

 実例が無いだけに比較する情報が皆無で、結局は安全策を優先する他なかった。

 しかも、次第に里の距離が縮まってきており、此の侭怒り状態のヴェノムオーガストを連れて行く訳には行かなかった。


「もう少し、弱らせておかないときついでしょ。魔力を奪って於かないと防御力が下がらないし、バリスタの攻撃が通用しない。

 怒り状態が収まるまで粘るしかないか……めんどくさ…」


 流石に疲れて来たのか愚痴も出始める。

 それ程ソロでの長期戦はハードであり、精神力を徐々に削り取って行く。

 そんな中、ヴェノムオーガストの周りに鋭利な形をした岩が無数に浮かんだ。


「ヤバッ!? ロック・カノンだ!! 間に合え、エクスプロード!!」


 槍の如く浮かんだ岩に対し、セラは最大級爆炎魔法を撃ち込む。

 轟音と共に岩石が砕け散り、瓦礫が周辺に飛散する。

 だが、セラの攻撃を免れた岩は射出され、そのいくつかが里に向かっての攻撃となった。

 

 超射程地属性攻撃魔法【ロック・カノン】。

 人が使えば魔力の総量に応じて飛翔距離が変わり、場合によっては超射程での狙撃も可能。

 しかし、その威力は飽くまで貫通ダメージであり、こんな戦艦の主砲の様な射程はと威力は到底不可能であった。


 それを可能にしているのがヴェノムオーガストの尋常ではない魔力である。

 体が大きいという事は、同時に保有魔力量も高い事を意味する。

 巨大な身体を補強する事に普段は魔力を使用しているが、同時に防御力や攻撃にも転用が可能であった。

 そもそも、魔力を保有する人間や多種族に出来る事が、魔獣に出来ない訳が無いのだ。

 何より、セラだけでそれを防ぐなど不可能に近い。


 撃ち出された岩は計三発、その内二発が里に着弾した。

 まるで陸上を進む大型の生きた戦艦である。


「……大丈夫かな? まぁ、知り合いに被害が無ければ良いんだけどね……」


 酷い言い様である。

 だが、ヴェノムオーガストをくい止めているのがセラだけなのだから、こんな身勝手な事を言った所で問題は無いだろう。

 何しろ災厄級をくい止められる存在など他に居ないのだから……。


 しかしながらヴェノムオーガストの動きを止める事は出来ず、徐々にバリスタの射程圏に到達しつつある。

 止むを得ず、本日六度目のディストラクションバーストが炸裂した。




 一方で、ロック・カノンの直撃を受けた里では大騒ぎになっていた。

 所詮は木造建築物なので防御力は乏しく、その威力を軽減する事は無く貫通したのだ。

 幸いにも危険を察知した冒険者は逃げ、予め住人を避難させておいたので死傷者は出ていない。

 問題は冒険者の被害である。


 重傷者は居なかったが怪我人が続出し、治療を担当する者達が忙しく動き回る。


「あぶねぇ……死ぬ所だった」

「バリスタが破壊されたぞ、如何する?」

「使っていない矢を他の所に回せ、後負傷者の退去だ!」

「手を貸してくれっ! 此の侭じゃ、血が止まらない!!」

「急いで止血しろ!! 治療は下に連れて行ってからだ!!」

「瓦礫に埋まってる奴がいるわ!! 早く連れ出さないと!!」

「次にアレが来たらヤバいぞ! 急いで撤去しろ!!」


 まるで砲撃を受けた状況だ。

 辛うじてけがの状態が軽い者達は救護に回り、五体満足の者達は瓦礫から仲間を助ける為に動く。

 中には怖気づいて逃げる者もいるが、殴られて無理矢理働かされた。


 ―――DOGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAN!!


 再び響いた強大な破壊攻撃の爆音。

 際物と言われる砲剣による切り札。

 その一撃による光は、ヴェノムオーガストを見えなくなるまで包み込む。

 時間差を置いて発生した衝撃波が、里に震撼を齎した。


「ディストラクション・バースト……いったいどれだけ予備を持ってんだ?」

「俺が知るか! それよりも移動だ。ここは既に使い物にならん」

「回復薬を持ってきましたぁ~」

「おぉ! ナイスタイミングだ。怪我人達に回してやってくれ」

「ハァ~イ」


 元気に挨拶をした後、フィオはエルフの里より支給された秘薬を彼等に手渡して行く。

 事、拠点防衛に於いて、彼女の様な補助要員は優遇されるのだ。

 故にこうした運搬の邪魔をせず、誰もが協力的に道を開け同時に配給の手伝いをする。

 命の遣り取りをするような危険な仕事の為、彼ら冒険者は何が大事なのかを理解しているのだ。


「此処の配給はこれで最後ですね?」

「あぁ、他の部署に回ってくれ」

「気を付けて行きなさいよ?」

「ハァ~イ」


 最後まで微笑ましく仕事を熟すフィオ。

 彼女は次なる部署に向けて台車を走らせる。

『ぶぅ~ん♡』と可愛い声を上げながら……気の所為か次第に幼児化している気がする。




「あの距離からぶっ放しやがったのか! なんつ~魔力量……」

「桁が違い過ぎますわね。これが災厄級の恐ろしさ……」


 ミラルカ達作戦指揮官役は、ロック・カノンの威力に驚愕していた。

 同じ魔法を使う事は可能だが、彼等の威力は此処まで甚大な被害を齎す威力を出す事は出来ない。

 大型魔獣相手にも然程手傷を与える事は出来ず、牽制程度がやっとなのだ。


「そろそろ、バリスタの準備をした方が良いね。射程内に入った時に一斉攻撃をする」

「お姉様……だから、服を着て下さらないかしら? 流石に全裸は体裁が……」

「私に隠す物など何もない!」


 状況が更に緊迫する中、エーデルワイスだけが全てをぶち壊していた。

 彼女は『この非常時に着替えている暇など無い!』と豪語し、未だに全裸を曝け出していた。

 そう思うならマイアを襲いに行く事を自重すれば良いものなのだが、彼女の辞書に自重の文字は存在しない。

 更に羞恥心と云う言葉も皆無なのだ。

 色々駄目過ぎる。


 其処に襲い来るディストラクション・バーストの衝撃波。


「ふむ……どうやら奴を弱らせる事が目的のようだね。全く……化け物だよ、銀色悪魔は……」

「お姉様……この機に乗じて彼女を葬ろうとか、考えていませんわよね?」

「なっ?! そ、そんな訳無いだろ! 私は其処まで愚かでは無いぞ?!」

わたくしの目を見て仰って下さらない?」


 エーデルワイスの魂胆は見抜かれていた。

 寧ろ、ここにいる全員が疑惑の目をエーデルワイスに向けている。


「彼女はこの防衛の要なのですよ? 馬鹿な真似をしでかしましたら……」

「し、したら……?」

「うふふ♡ とっても酷い事をいたしますわよ?」


 淑女的な微笑みを向けるミラルカに対し、エーデルワイスは戦慄を覚える。

 尤も、その忠告を彼女が聞き届けるとは到底思えないのだが……。


「レイ! もう直ぐ射程圏に到達するわ! どうするの?」

「セラに合図を送れ、射程圏に入ったら一斉にバリスタで攻撃を加える」

「了解! もう少し堪えてよ……」


 前方では、ヴェノムオーガストと熾烈な戦闘を続けているセラの姿が確認されていた。

 有効射程圏を越えるまで、彼等はバリスタの調整にはいる。


「どうでも良いのじゃが、ここ……崩れたりしないじゃろうか?」


 ヴェルさんのいる場所は丁度バリスタが設置されているのだが、つい先ほどのロックカノンによって下にだいぶ被害が出ていた。

 もし支柱の幾つかが破損していたら、ここは倒壊する可能性が高い。


「せやな……じゃぁ、このバリスタは使わへんでもええやろ」

「そうだな。攻撃している最中に崩れたら洒落に為らん」


 安全策を取り、ヴェルさん達はその場を後にする。

 だが、変態はそれを見逃していなかった事に後で気付くのだった。




 セラは必死になって攻撃を避けながらも、ヴェノムオーガストの異変に気付く。

 先ほどから動きが鈍くなりつつあり、同様に攻撃した時にダメージを通し易くなり感触がまるで異なる。

 怒り状態が解除され、魔力とスタミナが完全に消費されたと判断した。


「……とは言え、今度はバリスタの射程内に誘導しなくちゃいけないんだよなぁ~……」


 ここからが本当に面倒なのだ。

 著しく体力を消耗すると、この手の魔獣は直ぐに撤退してしまう。

 何とか誘き寄せてバリスタで攻撃させたいのだが、下手に攻撃を加えると逃げだす確率が早まってしまう。


 釣りの様に目の前をうろつき、攻撃をあえて誘う様にしてヴェノムオーガストを誘導する。

 正直自分自身を遥かに超える咢が迫る様は、セラも恐怖を感じる所だ。

 3Dの映画も真っ青のスリリングな状況が続く。

 何しろ映画は死ぬ事は無いが、此方は下手すれば地獄行き確定で失敗は許されない。

 慎重に冷静に見切るには精神がすり減るほどのストレスを感じる。

 時間が恐ろしく長く感じるのだ。


 焦る心を無理やり押し込み、少しずつ前進を促す。

 ましてや相手は魔獣、どんな攻撃を仕掛けて来るか油断のならない相手である。

 セラの頬を汗が伝い、焦りが次第に膨れ上がって来る。


「もう少し、あと少しだ……」


 威力の低い攻撃魔法を加えながらも、ヴェノムオーガストに倒せる相手だと認識させる必要がある。

 セラの残りの魔力も少なく、此の侭長期戦に持ち込むには魔力を回復させねばならないが、今の段階でその暇は無いに等しい。

 何しろ、少しの隙が直接の死に繋がる重大な場面なのだ。

 回復する余裕は無い。  

 

 ヴェノムオーガストが業を煮やしたのか、考えなしに突進して来た。

 ある意味では生物的な攻撃なのだが、セラにとっては丁度良い事態である。

 寧ろ、この時を待っていたとも言える。


「ソニック・ブースト!! レビュート・フェザー!!」


 全魔力が枯渇しかねない強化魔法と飛行魔法を行使し、ヴェノムオーガストの速度に合わせセラは後退する。

 僅かな差はある物の捕らえる事が出来ず、ヴェノムオーガストの咢はスレスレで通過し、バリスタの射程圏内に連れ込む事が出来た。

 一気に高高度へと上昇し【ハイグレード・マナポーション】を煽り魔力を回復させたセラは、ヴェノムオーガストに向けてエクスプロードを集中的に打ち込む。

 爆炎が噴き上がり、暴虐的破壊力の猛威がヴェノムオーガストに襲い掛かった。


「よし! これで第二段階完了」


 罠に引き込んだ事に成功したセラは、丁度里から打ち上げられたファイアーボールの合図を確認した。

 バリスタを一斉に放つ合図であり、セラに退避を呼びかける物である。

 その合図に従い指定した場所へと移動しようとした時、巨大な矢が猛烈な勢いでこちらに迫って来たのが見えた。


「ちょ、おぉおっとっ!?」


 辛くも避ける事に成功したが、一歩間違えれば串刺しになっていただろう。

 背中に冷たい汗が流れる。


「な、なんだぁ? 誤射かな?」


 兎に角、巻き添えを食わないようにさっさと離脱する。

 その後、ヴェノムオーガストに対し、バリスタの集中攻撃が開始されたのであった。


 

 少し話は戻る。

 セラが必死にヴェノムオーガストを誘導してるのを確認したレイル達は、何時でも矢を放つ事が出来るように入念に準備を整えていた。

 バリスタの矢を番える人員に3人、弦を引くためのレバーを引くのに5人という体制である。

 ただ、崩落の恐れのある場所に設置されているバリスタには誰も人員を割いては居なかった。

 そんなバリスタに近付く一人の人物。


 ご存じ、歩く百合製造機、何処でに出しても恥ずかしい変質者。

 更に白百合旅団団長と言う肩書を持つただの変態、エーデルワイスその人である。

 彼女は手回し式のハンドルを操作し、バリスタの照準をセラに合わせる。


「ふふふ…君さえ……君さえいなければマイアを……」


 ……狂っていた。

 彼女はこの機に乗じてセラを事故死させるつもりなのだ。


「死んでくれ……私達の幸せの為に…そして、そしてぇ~~~~っ! 無腐腐腐腐♡」


 それは歪んだ愛の形である。

 いや、そもそも彼女に愛があるかは分からないが、独占欲の強い彼女は狂気に捉われている。

 そして……その狂える牙はセラにも向けられたのだ。

 ……腐ってやがる。


「地獄に落ちろ、銀色悪魔ぁあああああああああああああああああっ!!」


 変態が吼える。

 その狂気が乗移ったかが如く、バリスタから放たれた矢は真っ直ぐにセラに向かって飛ぶ。

 だが、その矢を辛くも避けられ、エーデルワイスは益々狂気的な殺意を燃やす。


「チッ、避けたか……まぁ、良い。矢はまだ此処にある」


 まだ殺る気である。

 それ程までに彼女は嫉妬の炎に燃えていた。

 男で二人がかりで何とか運べそうな矢を一人で設置し、五人がかりで引かねばならない弦を死に物狂いで引いた。

 この熱意をもっと別の方向で燃やしてもらいたい所だ。

 そして再び照準をセラに向ける。


「死ね……私の幸せの為に……マイアはぁあああああああぁ~私の物だぁああああああああああああっ!!」


『物だ…』と言った時点で、既に愛など存在しない。

 完全な逆恨みによる犯行である。

 何より、当人の意思を無視している時点でOUTだろう。

 そう、当人のだ……

 

「……何してるの、変態……」

「ひっ!?」


 背後にはハンマーを担いだ銀髪の少女が、怜悧な視線をエーデルワイスに向けていた。

 背筋が底冷えするほどの冷たい視線である。


「貴女…今、姉さんを殺害しようとしたわよね?」

「いや……私はただ、あの魔獣を……」

「じゃあ、何故一斉掃射の合図を待たずに攻撃したの? 下手をして逃げられたらこの里が危険に曝されるのよ?

 まさか、旅団規模の団長さんがそんな事を知らないとか言わないわよね? それと……」

「そ、それと……?」

「『地獄に落ちろ、銀髪悪魔』……そう、其処まで殺したかったのね……」

「ひぃいいいいいいいいいいいっ!? き、聞かれてたぁああああああああああああっ!!」


 侮蔑ともいうべき冷徹な視線がエーデルワイスを貫く。


 マイアは里からの試供品を運搬するために偶々ここまで来ていた。

 其処で彼女が見た物は、姉と慕う恩人を殺害しようとせん変態の凶行である。

 流石にコレを看過できるほど彼女は優しくは無い。

 寧ろエーデルワイス以上の殺意を持って立塞がっていた。


「死にたいなら貴女一人で死になさい。誰も悲しまないし、寧ろ喜ばしいと思うわよ? 少なくとも私がそう」

「待て、き、君はあの悪魔に誑かされているんだ! でなければ私を受け入れない事など……」

「問答無用」


 マイアは床に向けてハンマーを叩き落す。

 しかも魔力開放状態で威力が倍増されている。

 その衝撃で元から崩落の危険性があったために放置されていたバリスタが、とうとう限界を迎えて落下する。

 エーデルワイスと共に……。


「あああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ………」

「姉さんが言っていた。『人を殺すなら、自分も殺される覚悟が必要』、……貴女もその覚悟があったのでしょ?」


 クールにエーデルワイスを叩き落したマイア。

 次第に情け容赦が無くなってきている。

 変態には制裁を……それがロカス村の常識なのだ。


「お姉様っ!? ちょ、貴女!! お姉様になんて事を!!」

「悪を滅ぼし正義を示す。これがロカス村のルールよ?」

「なっ?!」

「歪んで腐りきった役立たずなど不要、塵は焼却するのが一番……」


 マイアはすっかり危険な方向に染まっていた。寧ろロカス村の常識に完全に感化されている。

 まるでどこかの人物を目の前にしている様で、レミーは眩暈すら覚える。

 そして、淡々のクールに語るマイアに戦慄すらを覚えた。

 エーデルワイスを処分する事に対して、何の感情も抱いていないのだ。

 これはもう、恐怖に近い。


「塵は消えたし、私は仕事に戻るわ…。貴女も今できる仕事をすると良いわよ?」


 そう言葉を残し、台車を転がして去って行く。


「ふ、二人目の……銀色悪魔……」


 レミーの背には薄ら寒い嫌な汗が流れていた。


 程なくしてセラに射撃準備が整った二度目の合図が送られ、バリスタによる一斉射撃が始まった。

 連続して放たれる矢はヴェノムオーガストの甲殻を貫き、更に体力と命の灯火を奪って行く。

 最早勝負は決したも同然であった。

  


 里から放たれる無数の矢は、立て続けにヴェノムオーガストに突き刺さった。

 既に再生が出来ない以上、ヴェノムオーガストは怪我を治す術が無い。

 そして、この好機を逃すほどセラは大人しい性格では無かった。


 迂回する形で里の外環手前まで来ると、無限バックから無数の砲剣を並べ魔力を開放して行く。

 これはセラが最終攻撃をする工程であり、複数の仲間と共に行う必殺攻撃の予備段階である。

 それを目にしたレイルは訝しげに呟く。


「セラの奴、何してんだ?」

「ぬっ? よもや、セラはアレをやる気なのか?」

「「「アレ?」」」

「うむ、我も幾度となくあの攻撃を受けて倒されたのじゃ。正直あれは狡いと思う」

「どのような攻撃なのですか?」

「ミシェル……アレ、全部砲剣よ? となれば……」

「うむ、砲剣による一斉攻撃じゃ。威力が凄まじいから封印していると思ったのじゃが……めんどくさくなったのではないか?」


 全員の顔が一斉に蒼褪める。

 砲剣の威力は一撃必殺であり、一発限りだがどの砲剣の破壊力も凄まじい物がある。

 それを複数以上並べ連続で砲撃したらどのような事になるか想像すらできない。

 ましてや龍王級の装備まで存在し、その威力は他の砲剣を圧倒しているのだ。

 尤も、どこかの村のオネェには通用しなかったが……


「あの数が一気に火を噴いたら……やべぇ、想像できねぇ…」

「里が敵対してたら消し炭すら残らなかったかも……危なかったぁ~…」

「完全に息の根を止める気ですわね。まぁ、この里には必要な事かもしれませんが……」

「せやかて……アレは火力の暴力やん。あの魔獣が不憫に思えるわ」

「だが、倒さねばならん。今の我等では倒す事など不可能なのだからな」


 バリスタも威力は高いが、砲剣に一撃はそれ以上になる。

 だが、一度きりの攻撃なので連続して放つ事が出来ない欠点がある。

 そのために予め開放状態の砲剣を用意し、敵に向けて連続して解き放つのだ。


「我も逃げ場のない岩場で集中砲火を喰らったのじゃ。奴がそれに耐えきれるとは思えん」


 龍王クラスとではそもそも格が違い過ぎる。

 そして、セラの準備が整ったようである。

 


「準備完了! それじゃ、行くよ」


 ―――DOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGOG!!


 両手を使い、一発撃ち放てば別の手の砲剣を向け、その放つ合間に別の砲剣を引き抜く。

 その繰り返しにより集中砲火を可能にする最大級の火力。

 まるで世界の終焉の如く破壊の爪痕は周囲にも現れ、凍結すれば次に焼き尽され、或いは貫通して内部で炸裂するなど巨悪な攻撃が断続して撃ち込まれる。

 これに耐えたのは龍王クラスと、何処かの村の筋肉オネェだけであった。


 ―――GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOO……


 ヴェノムオーガストの断末魔の悲鳴が聞こえる。

 寧ろこの魔獣が哀れに思えて仕方ない。


 だが、弱肉強食の自然界の理に乗っ取れば、これもまた一つの良くある結果に過ぎない。

 弱者は強者の糧となり、死して強者は弱者の糧となる。

 連綿と続く自然界の法則であり、最も古い世界の秩序でもあるのだ。

 故にヴェノムオーガストは強者に敗北した。

 それが如何なる手段によるかなど関係なく、ただ弱いから負けたという事実だけが残るのだ。

 後は倒した強者によって屍は喰らい尽され、新たな命の糧となる事で命は繋がって行く。


「ごめんね、出来れば真っ向勝負で倒してあげたかったけど……君は現れる場所を間違えたんだよ…」


 これが何も弊害の無い森の中であったら、セラも最初から全力で挑んだであろう。

 しかし、自分達の背後に生活する者達がいるとなると手段は選んでいられない。

 卑怯な手段を使ってでも、倒さねばならない状況となった。

 心で詫びを入れつつも、最後の砲剣【聖魔砲剣】の引き金を引く。

 尤も攻撃力のある砲剣が、ヴェノムオーガストに止めを刺す。


 尋常では無い破壊力と、眩いばかりの閃光が周囲を包み込んだ。

 閃光が収まり、そこで多くの者達が見たのは巨大なクレーターと、その中央で横たわる巨大な魔獣の姿であった。

 

『『『『『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』』』』』


 多くの者達が歓喜の声を上げ、この防衛戦が終わりを迎えた事を告げる。

 誰もが里から姿を現し、倒したヴェノムオーガストの元へと駆け寄る。

 冒険者にとって災害級や災厄級を倒すのは最高の名誉なのだ。

 その作戦に参加しただけでも十分自慢になるほどに……。


「疲れた……もう、休みたい」


 しかし、最前線で一人でヴェノムオーガストを相手にしていたセラは、今直ぐ休みたい気分である。

 そんなセラを無視して、多くの冒険者がセラの元へと現れ声を掛けて来る。


 勝利を喜ぶ彼等の宴は、日が昇るまで続いた。




 騒ぎから解放されたセラは、一人部屋で深い眠りに着いていた。

 その部屋に、ひっそり忍び込み影がある。

 ご存知ヴェルさん……では無く、エーデルワイスであった。


 彼女は眼を血走らせ、狂気に取り付かれて此処まで忍び込んだのだ。


「ふふふ……これで、此処で君を始末すれば……マイアも…ヒヒヒヒヒ…」


 最早狂人の域に達していた。

 彼女は手にしたナイフを振り上げると、満面の笑みを浮かべる。


「君には悪いけどさぁ~イヒヒ! 死んで貰うYoOOOOOOOOOOOおぅ!!」


 そう言いながらセラの胸に目掛けてナイフを振り下ろす。

 が……


「!?」


 寝ている筈のセラの手が、エーデルワイスの腕を掴みとめる。

 驚いてる間もなく巻き込まれる形でエーデルワイスは組み敷かれ、ナイフを持った腕に関節技を決められた。


「いっ、イダダダダダダダダダダダ!!」


 激痛が彼女を襲う。

 更に、『ボキッ!』と鈍い音まで耳に響く。

 そう、エーデルワイスは腕を折られたのだ。

 其処から流れるように肩の関節を決められ、『ボゴッ!』と云う音と共に関節を引き抜かれる。


「ひぎゃあああああああああああああああああああああっ!!」


 エーデルワイスは痛みで悲鳴を上げた瞬間、セラに容赦ない蹴りで壁に弾き飛ばされる。

 彼女は知らなかった。

 眠っているセラが、いかに危険な事を……


「わ、私が悪かった! だから、ちょ、待ってくれ……へ? 寝ている?!」


 セラは眠っている。

 だが、それは同時に最悪な事を意味する。


「そうと分かればぁああああああああああああっ!!」


 眠っていると判断した瞬間、冷静に対処できると思ったのだろう。

 エーデルワイスは回り込むように動き、背後からセラを取り押さえようとした。

 だが、鳩尾に痛烈な一撃を受ける。

 一歩間違えれば死ぬ危険があるほどの、容赦無しな肘鉄による一撃だった。

 痛みで蹲ろうとする瞬間に顎に掌底を喰らい宙に浮かび、其処に連続して無数の拳が撃ち込まれ、更に回し蹴りを叩き込まれた倒れた後、昏倒する彼女に膝を叩き込み、マウントポジションで拳を顔面に叩き込まれた。


「やめ……まっ………助け……」


 流れるような攻撃に対処すら出来ず、ましてや命乞いなんて聞こえない。

 エーデルワイスは生まれて初めて恐怖を知った。


 前にも言ったが、セラは眠っている時が最も危険なのだ。

 悪意に異常な過剰反応を見せ、手加減一切抜きにして容赦無しに殺しにかかるのである。

 ヴェルさんが無事なのは異常なまでの耐久力が有るからであり、人間であるエーデルワイスにはそれが無い。

 ましてやセラの技は古流武術、人間を完全に破壊する技なのであった。

 その破壊は、殺意が消えるまで止まる事無く続く。


 まぁ、エーデルワイスは狂っている為、殺意が消える事は無かった。

 その結果、全身の関節が外された後、喉元を掴まれ窓の外から捨てられたのである。


 ―――グチャ!


 窓の外からそんな音が聞こえたが、今のセラには分からない。


『いやあああああああああああああああっ!? お姉様がぁああああああああああああっ!!』

『何をしてるかと思えば……返り討ちに遭ったか。にしても……惨い』

『団長……よう生きてるなぁ~、普通は死んどるで、ほんま……』

『お姉様……いい加減にしてくださいません事? 後始末する私が辛いんですのよ?』

『お……あ…く・・・・・・・しぃ・・・・・・』

『何言ってるかわからへんねん。ちゃんと喋ってくれへんかなぁ~?』


 そんな騒ぎをよそに、セラはそのままベットに横になり静かな寝息を立てていた。


 実に平和そうな、天使の様な寝顔で……。 

 


 

 

 バトルが続かない。

 結果的にグダグダ……ただ、ヴェルさんと普通の変態との差を少し書いて見たかった。

 そして寝ている時のセラの凶悪さも……フィオやマイアが無事なのは邪な感情が無いからです。

 セラは寝ている時にそうした感情を過敏に感知し、迎撃いたします。

 殆どオートで攻撃して来るので、前にヴェルさんが夜這いを掛けた時は必死に堪えていました。

 まぁ、失敗しましたけどね。

 この様な展開になりましたが、楽しんでくだされば幸いです。

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