何かが起ころうとしています。~ヴェルさんは懲りるという言葉を知らない~
グラトーは屈辱に身を苛まれていた。
彼はエルフの中では強硬派と言う派閥の筆頭であり、他の種族は自分達種族に隷属するべきだと考えていた。無論十数年前は全てのエルフがそう考えていた。
しかしながら、その何の根拠も無い歪んだ種族的教義は、時代の流れと共にもはや意味を為さない只の人種差別と呼ばれるものに成り代わりつつある。
エルフの里もその流れに乗り始めてきており、旧時代の信奉者である彼にとって耐え難い物であった。
そんな彼は他者に心は開かず、実の娘であるエルカにすら愛していたが、飽く迄道具のように扱う傲慢性も持っている。
しかし、その娘も最近では人間の男を陰から覗き見る様になり、高貴である筈のエルフが人間に思いを寄せるなど許せるものでは無かった。
何よりも許せぬのが下等なはずの半神族、セラの存在である。
下等な存在でもあった筈なのに、エルフよりも強大な力を持っており、尚且つエルフでは多大な犠牲を払っても倒せないグリードレクスもたった二人で倒している。しかも相方が幼女だ。
更に足枷としてセラに任せた三人の半神族は、たった二週間で信じられない成果を果たすまでに成長を遂げていた。この事実が里に驚愕を齎し、自分達が如何に劣っているのかを見せつけられた形となっている。
今では里の大半が彼ら冒険者の力に憧憬の念を持ち始め、このままではエルグラード王国と同盟を組む事になり兼ねない。同時に穏健派の力が増してきているのが許せなかった。
「ククク……このままでは済まさん。これを使えば奴等ごと……フフフ……」
彼の手には小さな小瓶が握られている。
「どいつもこいつも信用出来ん……私が奴等の愚かさを教えてくれよう。この里は私が指導する事で繁栄するのだ」
何の根拠も無い妄執である。
だが、その妄執に取り付かれている彼は、自分が正常であるかなど判別がつく筈も無い。
祖の狂気的な妄執は、彼を暴走させるのに十分な理由を与えていた。
グラトーは魔術【シャドーウォーク】を使い、人知れず部屋を後にした。
その行動が何を齎すのかも知れずに……。
ウォーキンスは書斎で冒険者の戦果を吟味していた。
彼はこの村の最長老であり、重要な決定事案を決める立場にある。
その最大の重案は、当然里の鎖国状態を解除する物である。
ファイやエルカ等の報告では冒険者は図らずも人間性は最低の部類に入り、戦力としては問題が無い物の素行不良の者が数多くおり、信用できるものの数は限りなく少ないと云うものであった。
無論、白百合旅団やレイルパーティーなどの人格も実力も揃っている冒険者も居るが、実際はならず者が多く犯罪者予備軍と言っても差し障りない程である。
しかし、こうした軍団規模のギルドの中には高い人脈を持つ者が殆どであり、彼等に仕事を要請する事で安全が図れるのではないかと考えていた。
現に白百合旅団の仲介で現時点では里と冒険者との間に問題は起きておらず、口は粗暴だが仕事は必ず果たすプロフェッショナルも大勢この里に来ていた。
この事を感が見て、エルグラード王国の交渉の中に冒険者の選抜も織り込めるのではと思案している。
エルフの秘薬は彼等にも喉から手が出るほど貴重であり、セラの様な非常識が率先して開拓を進めるロカスの村ほど錬金術師がの数がいる訳でも無い。
現時点では優位性があり、今交渉を行わなければ里は完全に滅びる事になる。
「今しか好機は無いか・・・・・・」
「そうね。ロカス村では秘薬の生成に成功しているし、何れレシピは出回る事になると思うわ」
「ファイ、あのセラと云う娘……何者じゃ?」
「知らないわよ。あの子、自分の過去はあまり話さないし、嘗ての仲間はいるみたいな話だけど……どう考えても、あの子並みに非常識な連中みたいだから」
「まるで古の神族のようじゃ……高い知性と強靭な肉体。傲慢ともいうべき奔放さで災厄的破壊を齎す」
「でも、悪い子では無いわよ? 行動が時々過激になるくらいで。敵に回せば容赦ないけど……」
ウォーキンスは椅子の背もたれに身を預け、深い溜息を吐いた。
「儂等はこの森に長く居過ぎたようじゃな。時代は絶えず流れてはいるが、儂らと彼等とでは時の速さが異なる」
「それだけに生きる事に命を費やすのよ。限られた時間を後悔しない様に……」
「レイルとか言ったか? そなた、あの小僧に気があるようじゃの?」
「なっ、何を行き成り!?」
「隠すで無い。短い命をかけて何かを成そうとする生き様に感化されたのじゃろ?」
「・・・・・・・・悪い?」
頬を赤らめて睨む孫娘に、彼は親族として温かみのある笑みを向ける。
「悪いとは言わぬよ……。かつては混血種は忌み嫌われておったが、人族に心を向けたのは生きる事に必死な姿を見たのやもしれぬな」
「レイル達は僅か一日でも自分を鍛える事を忘れていないわ。ただ夢を求めて、その夢の為に足掻いていた……」
「夢……か。彼はどんな夢を持っておるのじゃ?」
「笑わない? 私は最初聞いた時に、笑い飛ばして怒らせた……」
「ふむ……できる限り心に誓おう」
孫の態度に思わず揶揄おうとも思ったが、真剣な表情に何とか我慢する。
「種族を問わず、誰でもを救える大きい男になりたいんだって……子供よね」
「ふふ……確かに。英雄を目指して居るのか、確かに子供のような夢じゃな」
「でも、その夢に一歩でも近付くために真剣なのよ。だからもう笑わないと決めた」
「セラとかいう娘はどうじゃ?」
「アレは……コレクターね」
「こ、コレクター?」
ウォールキンの表情が固まる。
その表情がおかしかったのか、ファイは必死に笑いを堪えた。
「あの子は様々な素材を集めるのが好きなのよ。素材だけじゃない。装備や装飾品、武器に至るまで」
「しゅ、趣味だけで生きておるのか? あの桁外れの強さで?」
「そう、あの子にしてみれば、エルフだろうがドワーフだろうがどうでも良いのよ。邪魔をしない限りね」
「厄介な娘じゃのう。人の下にはつかぬという事ではないか」
「だから自由なのよ。誰にも縛られないから好き勝手な事が出来る……自分が引き起こした責任も、全て一人で受け入れるわね」
「ある意味、高潔な生き様じゃな。真似したくはないが……」
「それは同感。まともじゃ無いもの」
人知れず変態扱いされていたセラ。
だが、これまでの行動から十分に納得できる。
「半神族が力を付けるか……外界世界は其処まで進んでおるのだな」
「そう……だからこそ、今の内に繋がりを作る必要があると思う」
「それが難しいのじゃがな……」
その後、彼は久しぶりに孫と語らい就寝に着いた。
処理しなければならない書類を残したままで……。
次の日、大量に持ち込まれた書類によって忙殺されたことは言うまでもない。
月の無い空の元、森の中をグラトーは走り続けた。
辺りは深淵の闇に包まれ、時折聞こえる獣の声や風で擦りあう木々の葉音しか聞こえない。
狂気に憑りつかれた彼にとって、穏健派のエルフですら粛清の対象となっていた。
彼に同族意識は無く、あるのは異常に高いプライドだけである。
気に入らなかった。
何もかもが気に喰わなかった。
全てを破壊したいほどに憎かった。
自分を認めない同族が、自分達より優位な力を手に入れた多種族が、下等な存在のくせに自分を圧倒した半神族が狂おしいまでに憎らしかった。
「私がエルフの指導者だ……。私が世界を導く王となるのだ!」
何をどう育てばここまで愚かになるかは分からないが、ある意味で彼は純粋と言えなくも無いだろう。
しかし、その狂気が他人に向けられれば、それは只の犯罪である。
そして、これから行うのは狂気に染められた完全な人災であった。
「ククク……これをこの辺りに撒いて、後は時を待つばかりだ」
彼は小瓶の蓋を開け、中の液体を周りに振り撒いた。
魔獣を呼び寄せる禁断の秘薬、【エビル・パフューム】であった。
「フフフ……私をコケにした半神族共、従わない穏健派共に目にモノ見せてくれる」
完全に狂気に狂った彼はミスを犯している事に気付いていない。
この森には数多くの魔獣が生息しており、その全てがこの秘薬の香りに引き寄せられる事を。
周囲が騒然と騒ぎ出す。
「なっ? 何事だ!?」
魔獣は嗅覚が鋭く、その行動も驚くほどに速い。
彼の目の前には中型の魔獣が直ぐに現れる。
臭いを嗅いだ魔獣たちは異常なまでの興奮状態となり、その獰猛な牙を彼に向けたのである。
「ヒッ! な、何をする!!」
魔獣に言葉など分かる筈も無い。
あるのは目の前に自分達を呼ぶエサがあるという事だけである。
グラトーは何度も攻撃魔法を撃ち込むが、興奮状態の魔獣は彼に執拗なまでに迫って来た。
【エビル・パフューム】は言うなれば香水である。
香水である以上、振り撒いた瞬間に風向きで自らの躰に臭いが移り、その香りを魔獣の鋭敏な嗅覚は逃さない。
彼の周りには多くの魔獣が犇き合い、前に進む事が出来なくなっていた。
厄介なのは中型魔獣の後から、集団で獲物を狩る小型の魔獣が大量に現れた事であろう。
群れで行動する以上、幾つかのグループに分かれて森に点在していたのだが、この臭い釣られ全ての群れを招集し、グラトーの退路を完全い塞いでいた。
「く、来るな! 私に近付くなぁ!!」
そして……呼び寄せられるのは何も、小型や中型の魔獣ばかりでは無い。
此処には大型の肉食魔獣がいるのである。
そう、白百合旅団が取り逃がした魔獣【グリードレクス】が……。
―――GYUOOOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAA!!
咆哮が常闇の森の中に木魂する。
地震の如き振動と共に、その巨体が地中から姿を現したのである。
鈍重な地響きと共に、飽く無き食欲の権化がその咢を開く。
「ヒッ! ヒヒヒヒ……あり得ない。私が……こんな所で……」
それが彼の最後の言葉であった。
彼は足だけを残し、暴虐なる食欲の権化の餌食となったのである。
森の異変は野生の生物最強種であるヴェルグガゼルも感知していた。
そこはかとなく漂ってくる異質な香りは、彼女(?)の中にある野生を目覚めさせる。
風に流れて来る僅かな香りでコレなのだから、直接臭いを嗅いだらどうなるのか?
ヴェルグガゼルは精神と本能の間で考える。
しかし、この臭いを嗅いだ以上抑えられない欲求が湧き起こされ、自分自身ではどうする事も出来ない。
辛うじて意思は残っているものの、最早我慢する事など無理だった。
彼女は静かにドアかから出て、ある人物の部屋を目指す。
其処はいわゆる難攻不落の城。
決して敵を通さない最強の防御力を誇る防壁。
いかなる手段による攻撃も弾き返した鉄壁の防衛機構。
そう、幾度となく挑んでは弾き飛ばされた、最大級の超時空要塞。
彼女は静かにドアを開け、湧き起る興奮を必死に抑える。
ヴェルグガゼル事ヴェルさんは、【エビル・パフューム】の影響を良い事に、セラに夜這いを仕掛けたのである。
全ては乳をコンプリートする為に……。
「落ち着くのじゃ……セラの奴は寝ている時が防衛本能が凄まじい。我が煩悩を断ち、心を空にし、剣の如く鋭く攻めるのじゃ……断空我の極致なのじゃ!」
色々間違っている。
「焦って飛び込めば、我はまた袋詰めにされた挙句に肥溜めに沈められ、その上から土を盛られた上に大岩で塞がれてしまうのじゃ」
そこまでやられても諦めないヴェルさんは筋金入りである。
そのヴェルさんは深く静かに潜行中。
まるでGの如く静かに潜み、その動きは本家を凌ぐほどであった。
「ここからじゃ、ここからが困難なのじゃ……落ち着け我が心、まだじゃ、まだその時では無い」
ベットの傍らにうつぶせで潜む幼女。
ある意味、怖い状況である。
静かにシーツをめくり、其処に小さな体を潜り込ませる。
これが最強種だというのだから何かおかしい。
「にょほ♡ 相変わらずスベスベの白い肌なのじゃ、我が脚フェチであったなら我慢が出来ぬ所じゃのう」
どちらにしても、やっている事は似たり寄ったりだ。
変態には違いない。
元が魔獣なだけに夜目が効くのである。
更にヴェルさんは上へと進む。
其処には薄い緑色の、秘密の花園を隠す薄い生地が目に留まる。
「にゅ? 此処も気になる処じゃが、二兎追う者は一兎も得ずじゃ。我慢するのである」
本当に百合では無いのであろうか?
些か疑問が尽きない。
「ふおっ!?」
ヴェルさん、生まれて初めての衝撃であった。
「ぱ、パジャマじゃないじゃと……?! まさか、下着ワイシャツとは……何処まで我を誘惑するのじゃ…セラ、恐ろしい子…」
どこぞの少女漫画風に驚いてはいるが、やっている事は犯罪である。
それ以前に誘惑されている事が問題だろう。
本当に百合では無いのであろうか……。
そこから更に前進……セラは横向きで眠っている様であった。
「こ、これはいかんのじゃ、下手に動かせば感づかれる。しかし、我の本能が……」
魔獣の本能では無く、ケダモノの本能の間違いでは無いのだろうか?
どう見ても生物の欲求以外の物で動いている気がする。
それで良いのか、最強生物。
―――バリィ――――――――ン!!
『うきゃぁああああああああああああああああっ!!』
「ふぐっ!?」
突如となりで起こった悲鳴と、窓ガラスを突き破った音に驚いたヴェルさんは、とっさに自分の口を塞いで抑え込んだ。
やがて『ドスン』と何か重みのある物が落ちた音が聞こえた。
『あ奴め……この大事な時に何と言う真似を! セラが起きたらどうするのじゃ!!』
隣に部屋を取っているのはマイアであり、恐らくエーデルワイスが夜這いを仕掛け返り討ちに遭ったのであろう。
やっている事はヴェルさんも同じである。
『・・・・止めです』
―――ドゴォ――――――ン!!
『ゲフ………』
隣は可成り酷い事になっている様だった。
『マイアめ……あのハンマーを投げて、奴に止めを刺したか。強くなったのじゃな……』
何故か感慨深く涙をぬぐうヴェルさん。
何度も言う様だが、エーデルワイスとヴェルさんは同類である。
だが、襲われて泣いていたマイアと、今冷血に引導を渡すマイア、これを成長したと言っても良い物であろうか?
何か危険な方面に突き進んでいるとしか思えない。
「・・・・ん・・・・んぅ・・・」
「ひゅぐっ!?」
突如寝返りをうったセラに、再び驚くヴェルさん。
必死の声を抑える姿が何とも微笑ましいが、これが夜這いでなければ萌える所であろう。
見た目の可愛らしさとは裏腹に、完全に残念過ぎる。
そんなヴェルさんは何とか堪え、セラの様子を覗き見た。
「こ、これは……!?」
ワイシャツのボタンは胸元まで外れ、豊かとはいえないが均整の取れた胸が目に留まる。
ヴェルさんのボルテージは嫌が追うにも高まり、Max寸前で堪えていた。
「ぬぅ……ブラも下と同色。こやつ、次第に女子化しておるな……」
既にブラジャーを使用する事に違和感を感じていないセラは、最早取り返しのつかない所まで行っているのかも知れない。
だが、ヴェルさんの戦いはここからが本番なのだ。
敵要塞内に踏み込み、何とか中枢まで乗り込んでは来たが、目の前にある動力システムに攻撃するにはあまりに危険だった。
下手に攻撃を加えれば迎撃システムが作動し、侵入者を問答無用で殲滅するからだ。
敵のシステムを掻い潜り、防衛システムを無力化しなければならない。
『焦るな、焦るな我! 此処を乗り越えれば勝利が見えて来るのじゃ』
ヴェルさんの小さな手が、震えながらセラの胸元に伸びる。
まるで慎重に爆弾を解体するような手つきで、薄い緑色のブラの中央へ指を近付ける。
両手が中央のホックに届くと、焦る心に叱咤を飛ばしながら解除に勤しんだ。
ヴェルさんの頬を一滴の汗が伝う。
『か、解除……成功じゃ。後は……』
ホックは外したが、以前として防御システムは健在である。
この両サイドの布をずらし、其処に己を埋める事で完全勝利となるからだ。
ヴェルさんは目指す。
遥か彼方、双丘の楽園へ。
慎重に双丘を覆う緑色の防壁を、宛ら難解な手術を熟すかのように静かに確実にズラし始めた。
セラは未だ眠りの中であり、起きる気配が見られない。
そして……
『おぉ……我は、我はついに……』
胸元を完全に肌蹴た状態で眠るセラの横で、ヴェルさんは感動に打ち震える。
いよいよその時が来たと、暴走する本能を必死に押さえつけ、ヴェルさんは双丘の間へと顔を使づけた。
この情熱を、もっと違う方向に向ける事は出来なかったのだろうか?
『勝った。我はついに勝ったのじゃ!』
ヴェルさんは勝利を確信していた。
しかし……
「へっくちん!」
―――ゴン!
「にゅごっ!?」
何事も予期せぬ事態はある物である。
今にもパフパフを成功させようとしたヴェルさんの頭部に、偶々くしゃみをしたセラの顔面が直撃したのである。
「いっっ・・・・なに・・・なんなの……て、オイ!」
「にょっ?! し、しまったのじゃぁ!!」
ヴェルさん、防衛システムに捕捉される。
「こ、こうなれば……自棄なのじゃぁああああああああああああああっ!!」
今まで抑え込んでいた本能を勢い全開に任せ、己の心に正直に行動した。
だがしかし、こうなってはいつもの展開である。
「いい加減、諦めろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
腕を捻る事により威力を倍増させたセラの拳が、ヴェルさんの顎を直撃して高々と舞い上げる。
見事なコークスクリュー・アッパーだった。
結局ヴェルさんは天上に頭部から突っ込み、宙にぶら下がる事になった。
「本当に懲りないね。ヴェルさん……他にやる事は無いの?」
「此処にはPSPもDSも無いのじゃ、狩り以外は食べる事と寝る事しか無くて、我は暇なのじゃ!」
「採取か調合でもすれば……また有毒ガスを発生させるか…」
「うむ、じゃから我はセラをパフろうかと」
「すんなっ!!」
駄目魔獣ヴェルさん。
頭の殆どが遊ぶ事とピンク色に染まっている。
「時にセラよ……」
「何、変態」
「へ、変……まぁ、良い。今のお主、中々にセクシーじゃぞ? とても男には見えぬ」
「へ?」
セラは頬を赤らめながらも、外れたブラのホックを戻していた。
その姿はとても男の物では無く、世の男共を萌えさせる格好であった。
考えてもみよう。銀髪青い瞳の美少女がベットの上で外れたブラを直している姿を……
「ぼ、僕はまた……大事な物を無くしたんだね…」
気付いたセラは自分の状況を客観的に見て泣いた。
何か、今更な気がしないでも無い。
「お主、元の世界に戻って大丈夫なのか? 今更じゃが心配になって来たぞ?」
「駄目かもしれない。妹に以前、女子力が高くなってると言われた」
「・・・・・・・ヤバいのぅ」
「精神汚染が進んでるよ。あの暇神を殺すだけじゃ足りない……」
「何気に恐ろしい事を言うのぅ……」
神を神と思わない反逆者が此処にいた。
だが、その様な思考に陥っても仕方が無い事だろう。
何しろ神の不始末でセラは此処に召喚され、目的を果たすまで面倒な二重生活を送らねばならないのだ。
精神的にやさぐれても仕方のない事だ。
「そう言えば、先ほどマイアの部屋から痴女が外に放り出されておったぞ?」
「あの人も懲りないね。ヴェルさんと同等だよ」
「人聞きの悪い事は言うなぁあああああああああああああっ!」
「どの口がそうほざくの?」
セラの冷たい視線が痛い。
これ以上追及したら本気で埋められると経験上解っていた。
ヴェルさんも成長しているのだ。
「全く……良くも胸を狙うだけで此処までの事が出来るね? 今日も狩りをして疲れているのに、良くそんな元気がある物だと感心しちゃうよ」
「待つのじゃ、今日は我も静かに寝る積もりだったのじゃ! じゃが、あの匂いを嗅いだら急に欲望が沸き起こって耐えられなんだ」
「匂い?」
「うむ、こう……酸っぱいような、甘いような……我の様な魔獣に対して本能を呼び起こす様な…」
「嘘ならもう少し真面な……アレ? どこかで聞いた事がある様な……」
ヴェルさんの言葉に対して、セラは何か引っかかる様なものを感じた。
それはこの世界とは別の場所であり、見た訳では無く知識で知っている様な感じである。
「ねぇ……それ、魔獣にしか感じないの?」
「うむ、匂いの発生源は遠くじゃから理性は何とか失わずに済んだが、直接嗅いだら我も何をしたか分からぬ」
「・・・・・・【エビル・パフューム】・・・」
ゲーム【ミッドガルド・フロンティア】では、主に経験値稼ぎか素材集めの為に使われ、オンラインでは良くPKに使用されたアイテムである。
その効果はフィールド上の魔物を呼び寄せ、一つのエリアに固定する物であった。
同時に魔物は凶暴化し、戦闘ダメージが上昇する効果が有り使いどころが難しい消費アイテムである。
「アレか……我も知識として知っておるが、実際に嗅いだのはこれが初めてじゃ」
「待って、だとしたら森でアレを使ったって事だよね? 今エルフの里にいるのはボク達冒険者だけだけど、時代的に言ってあのアイテムはまだ存在していない筈だよ?」
「どうかのぅ……セラが持っているのは分かるが、この世界に存在していないというのは些か無理があるのではないか?」
「どういう事さ、少なくとも僕はまだここで見せてはいないし……」
「だとしたら、エルフが製造方法を知っておるのではないか? 秘薬の製造方法を秘匿にしておるのじゃから、他にあったとしても不思議は無かろう?」
ヴェルさが言っている事は正論ではあるが、憶測でもある。
だが、それ以上にセラは衝撃を受けた。
「ヴェ、ヴェルさんが真面な事を言ってる…。 ……これも【エビル・パフューム】の所為か……」
「失礼なのじゃあぁあああああああああああああああああああっ!!」
「おかしいじゃないかっ、何でヴェルさんがそんな真面な事を言うんだ!! あり得ないよ!!」
「我が真面な事を言って、そんなに可笑しいのかっ!!」
「うん、可笑しい!! 絶対に変!! 脳がとうとうやられたのかと思ってる!!」
「畜生なのじゃぁあぁぁぁ……」
人の振り見て我が振り直せ。
普段の行動が禍して、いざと云う時に信じて貰えない。
ヴェルさんはさめざめと泣いた。
自業自得だと思う。
「けど、何のためにあんな物を……効果時間は大体一時間くらいだし、魔獣が暴走したら面倒なだけだよ?」
「そんなの知らぬわ! 撒き散らした奴に言うのじゃ」
ヴェルさんはグレていた。
―――カンカンカンカンカンカンカンカン!!
けたたましい音を立てて警鐘が鳴らされた。
「「!?」」
その音に反応して、二人は互いに顔を見合わせる。
「まさか、魔獣が現れた?」
「それしか無かろうな。こんな田舎では他に来るもの等おらぬじゃろう」
「それ、少し酷いんじゃないかな?」
「田舎なのは変わりはない。ロカス村の方が充分に賑わっておるじゃろ」
取り敢えず二人は急いで着替える事にする。
ヴェルさんは部屋に戻り、セラは無限バックから装備を取り出した。
何が起きているのかは分からないが、少なくとも最善に準備は整えた方が良いと判断したのである。
彼ら冒険者が招集されたのは、それから10分後の事であった。
久しぶりに書いてみました。
予定ではあと数話程度と考えていますが、書けるだろうか?
ネタに困っている今日この頃です。




