そろそろ依頼を果たそうかと思います ~アノ人は一人いればいい そう思いました~
何とか一話書きあがりましたが、次の話が見えてこない。
暫く本屋で立ち読みしてないからなぁ~ ゆっくり行こうかと思っています。
魔獣ティルクパ、極楽怪鳥と言われる鳥型の魔獣である。
嘴はペリカンのような形をしており、捕らえた獲物を逃がさない造りをしている。
基本的に雑食性であり、食べられる物なら何でも食べる。
極彩色の目立つ外見は、同じ鳥型の魔獣であるクラウパと同系統で派手な模様を描いており、とにかく目立つ事この上ないのだが、厄介なのはこの鳥は群れで行動する点にあるだろう。
この魔獣の嘴の外観は確かにペリカンに似ているのだが、先端が肉を啄み易い様に尖っており、内部には肉を噛み千切る為の牙が生え揃っていた。
また、膨らんだ嘴の内部には強酸性の溶解液に満たされており、内部に捕らえた獲物を溶かして栄養に変えるのである。
これは生きた獲物を捕らえる為の進化であるのだが、この嘴の特徴から極楽怪鳥と呼ばれる所以となっていた。
はっきりと言ってしまえば、このティルクパは物凄い間抜け面をしているのだ。
正面からこの怪鳥を見ると、弛んだ眼と間抜けな笑みを浮かべたアホ面にしか見えないのである。
そのため頭の悪い能天気な魔獣と思われていた背景から、この魔獣は極楽怪鳥などと呼ばれる様になったのである。
だが、どれだけ間抜け面を浮かべていようとも、この魔獣は雑食性で群れを成す危険な存在である。
この外見からは想像がつかないほど狡猾であり、多くのエルフたちがこの魔獣の餌食となっている事は事実だ。
さらに言えば作物なども食い荒らし、毎年尋常では無い被害を叩きだしている。
一羽程度なら駆け出しの冒険者でも楽に倒せる魔獣ではある。しかし、この魔獣の真価は群れを成す事で発揮されるのだ。
麻痺毒を仕込んだ爪で動きを封じて捕食し、獲物の大きさによっては強酸性の毒に満たされた嘴内部に捕らえ、巨大な魔獣の屍はハゲワシやハイエナの如く集団で食らい尽くす。
同時に狩りも集団でおこない上空から獲物の動きを常に捉え、仲間と連絡し合いながら効率良く狩りを熟す。
遮る物のない上空から強襲されては、いくら魔力の高いエルフでも倒すまでには至らない。
何せ集団で襲い掛かって来るものだから魔術を放つ暇すら無く、仮に仲間との連携をしようにも空からは丸見えで後手に回りやすい。
前衛が囮になり惹きつけて魔術を使うのが基本のエルフ達は、メインで攻撃する魔術担当の者達が先に襲われ瓦解するのが定番であった。
数の面でも圧倒的に不利な状況に追い込まれるのでは話にならない。
しかも集団で総力を挙げて攻撃して来るのでは、防御と肉弾戦で劣るエルフには荷が重過ぎたのであった。
それでも多少の犠牲だけで集落を守り抜いてる彼等は、その背景に秘薬などの回復面で優れていたからであろう。
それとて万能と言うわけで無く、あまりにも回復薬の消費が激しく生産が追い付かなくなるのが現状であった。
また、ドワーフ達とも交流が無い事から武器や防具も貧弱であり、そのために肉弾戦では常に圧倒され続け、なし崩しに魔術メインの攻撃に偏るのは無理からぬ事だった。
今まで閉鎖的な状況であった里の方針が、自分たちの首を締める事になっていたのである。
ある意味では人災とも言えなくも無い。
今まで高圧的な態度をしてきたツケが、自分たちの集落の存亡につながったのだから自業自得である。
なまじ長生きである事から変化も乏しく、外の世界の拒絶が文明の差を生み出してしまったのである。
そんな彼らが目覚める時が来たのは、ひとえに試しで雇い入れた冒険者たちの活躍と外の世界の半神族の凶悪なまでの強さを見せつけられ、時代の変化を身を持って知ったからだろう。
ドワーフと交流を持つ彼等の武器はエルフの里の者よりもはるかに高性能であり、その武器を用いて戦う冒険者の戦力は圧巻に尽きる。
更に単体でグリードレクスを倒した半神族の存在は、彼らの目を覚まさせるには十分過ぎるほどの目覚ましい活躍を見せたのだ。
同時に里にいた半神族もティルクパを倒すまでに急速に成長している事実は、役立たずと侮蔑していた彼等には信じられない状況であった。
いや、変化を受け入れられないのは半端に長生きした古株のエルフだけであり、若い世代は比較的容易く現実を受け入れつつある。
長命で繁殖力の低い彼等には、新しい時代の到来を受け入れるか否かを選択する時が迫っていた。
だがそれはエルフ達の問題であり、冒険者にとっては割とどうでも良い事であった。
なぜなら冒険者は基本的にはロクデナシの集団であり、政治や国の存亡など本当に気にも留めないからだ。
自由で自分勝手にその日暮らしの生活を送る……それが冒険者である。
「てなわけで、僕はあの魔獣を志○さんと呼んでいる」
「誰だよ、それっ?! てか、どう言う分けだよいきなり!?」
「セラさんは時々訳の分からない事を言いだしますね? どなたなのですか?」
現在セラ達はティルクパの撲滅に精を出していた。
数は多いが囲まれなければやり要はいくらでもあり、現在は他の冒険者も加わり狩りを続けているので比較的に楽な仕事であった。
それでもエルフ達にとっては驚異的な戦果なのだが、彼等にとっては左程自慢する事でも無い。
寧ろティルクパ如きで手古摺っているエルフの方が驚きであり、今までエルフは高圧的な種族と認識していたが、現実には大した事が無いと知られてしまったので彼等の興味は失せていた。
ついでにエルフ達の里は娯楽に乏しく、既に厭きて来た冒険者達はさっさと仕事を終らせ帰る事を重点に置いている。
まぁ、目玉になる特産物が秘薬を含めた回復薬と香辛料しか無いのだから、彼らが厭きるのも無理なからぬ事だろう。
兎にも角にもこの里は戒律が厳しく、娯楽の様な他者を遊ばせる楽しみは一切存在しないのだ。
既に冒険者達はこの里に嫌気がさしていた。
「○村さんのぅ……確かに、そう言われると納得できるのじゃ」
「ヴェルさんっ?! 誰だか知ってるのっ!?」
上空を見上げて妙に納得しているヴェルさんに、ファイは突っ込む。
そんなヴェルさんは、どこか遠い目をして飛び交うティルクパを見上げていた。
―――――アィ~~~~~~ン、アィ~~~~~~ン、ナンダッチミワッテテカッ!!
変な鳴き声を上げて周回して此方を伺うティルクパの群れ。
人の耳には彼等の鳴き声は某元コミックバンドにして芸人、現在はバラエティーで活躍しているあの人を思い起こさせる。
だが、この人を馬鹿にした様な鳴き声は、妙に人の神経を逆なでにするのだ。
この魔獣が人をコケにするような知能を持ち合わせているとは思えないが、複雑な思考を持つ知性体には腹立たしい事この上ない。
群れでこのような鳴き声を立てられたのでは、流石にムカつき暴走する冒険者も後をたたなかった。
結果として間引きが効率良く行われているのは皮肉な事である。
ある意味では不憫としか言えない魔獣であった……
「どうでもいいが……何故私は縛られているのだっ!! これでは狩りが出来ないじゃないかっ!!」
ロープで蓑虫状態にされたエーデルワイスは、抗議を申し立てる。
「そりゃ~、あんたが所構わずマイアに襲い掛かるからだろ?」
「せやなぁ~……うちらは恥ずかしいで、ほんまに……」
「お姉様……時と場所を考えて行動して下さいませんこと? 今は職務の最中なのですよ? 信頼を得るには職務には誠実でないと……」
「お姉様、御労しや……」
「レミー、同情は禁物だ。甘い顔をすれば団長はつけあがる」
隙あらばマイアの貞操を狙うエーデルワイスは、セラ達を含めた一同の合議の結果、簀巻きにされたのである。
狩場の危険性は知り尽くしている筈なのに、所構わずル○ンダイブを敢行する彼女には呆れ果て、このような結末を迎えたのだった。
自業自得とはいえ、彼女の性癖はあまりにも酷かった……
「酷くないっ!? これは人権の侵害だよね?!」
「お主の様に見境のない変態には良い薬じゃろうに……命に係わる狩場で何をしているのじゃ?」
「君に言われたくないよっ!! 貧乳の変態チチスキーがっ!!」
「我は狩場でまで行動を起こすような変態では無いわっ!! 節度は守っておる!!」
「逆に言えば、君の情熱はその程度だと云う事だね。私はいかなる時も愛する事を選ぶ!!」
「その結果、命の危険に晒されるとは思わぬのかっ!! お主の行動はマイアの命を危険にさらしていると何故わからぬ!!」
「愛の為なら共に死ねる覚悟があるっ!! 君の様な軟弱者に言われたく無いな」
「マイアには迷惑この上ないじゃろっ、品性の無いタレチチの癖して何を言うかっ!!
我はパフるチチを選ぶ、お主の様な下品なチチはノー・サンキュウじゃ!!」
「私の美しい躰のどこが下品だっ!! 君の目は節穴かっ!!」
「自意識過剰も甚だしい、お主の躰なぞ美の欠片も無いわっ!!」
不毛な争いを続ける変態二人……
この二人はお互いが決して相容れない存在だと認識した瞬間であった。
どちらにしても変態である事には変わりは無い事をこの二人は気付かない。
他者からすれば二人共にいい迷惑である。
「なんや、えらい仲が悪いんやな……」
「同類故に決して相容れぬのだろう。不毛である事には変わらぬのだが、他者には分からぬ拘りがあるのだろう」
「お姉様に何という暴言を……あの幼女……ゆるせない……」
「返り討ちで胸を揉まれるだけやから、レミーも変なまねは止めときぃ~。アレはあかんて、マジで…」
そんな白百合旅団のメンバーをよそに、セラとマイアは二人でこそこそと何かをしていた。
不審に思ったレイルが覗くと、そこには……
「これ、試してみようか?」
「いいですね、効果がどれほどかが分かりませんけど……」
「このまま仕事を邪魔されては問題だからね、一思いに静かになってもらおう♪」
「前のヤツでは大して効き目がありませんでしたが、これなら・・・・・」
「免疫強そうだからなぁ~あの人……短時間でも大人しくなってくれれば御の字かな?」
「贅沢は言いません。これ以上私達の邪魔をされるよりはマシですよ?」
「それもそうだね♡ それじゃ、さっそく……」
「おい、セラ……その手にした瓶は……まさか・・・・」
「『サイケヒップバッドEXD』ですけど? それが何か?」
「やっぱりかよっ!! お前は奴にそれを使う気かっ!?」
「「当然です、これ以上邪魔はされたくありませんから」」
綺麗にハモった……
半神族シスターズは、エーデルワイスが『サイケヒップバッド』の効果から直ぐに立ち直った事から、さらに強力な魔性の秘薬を使う事を決めた様である。
セラは兎も角、マイアがこのような変化を遂げてしまった事にレイルは戦慄を覚えた。
ある意味でエーデルワイスが追い込んだと言えるのだが、セラの様なぶっ飛んだ存在が増える事に彼は恐怖を感じていた。
まぁ、ティルクパが集団で襲い掛かって来た所にル○ンダイブを仕掛けて来る様な筋金入りである。
これは妥当な処置とも言えよう……
問題は、唯一真面であったフィオやマイアに悪影響が出ている事なのだが、ロカスの村で生活をしている以上は時間の問題だったと悟るには十分であった。
狂気は気づかない内に伝染する様である……
「さて、エーデルワイスさん。美味しい、美味しいお薬の時間ですよ?♡」
「なっ、何故そんな嬉しそうに……また私の人格を破壊する気かっ!?」
「何を今更……貴女の人格など既に壊れているでしょうに……」
「マイアっ!? まて、ソレだけは止めてくれ!! 私が悪かった、もう狩場では迫らないから!!」
「もはや手遅れです。あなたにかける慈悲など欠片も残っていません。いえ、元から無いわね。御覚悟を……」
「ちょ、やめっ、みんな助け…あごっ!?」
「お姉様っ!? 止めなさい、これ以上の狼藉は許さないわよっ!!」
「止めるの、ちょっと遅かったね……もう飲ませたけど?」
セラの手により劇薬を飲まされたエーデルワイスは、まるで糸の切れた人形のように静かだった。
だが、突然何の前触れも無く痙攣しだし、のたうち回り、奇声を上げて狂ったように暴れまわる。
まるでどこかの薬中患者の様である。
もしくは陸で跳ね回る海老であろうか?
「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!!」
「ひぃっ!? お、お姉様っ!?」
「惨い……悪魔の所業や……」
「これで団長の命運も尽きたか……おかしな人を亡くしたものだ……」
「惜しい人ではないんか? フレアはん」
「惜しむ必要があるのか? アレだぞ? 寧ろいい薬だろう」
「せやな……自業自得やし……」
白百合旅団のメンバーも大概に酷かった……
彼女達も団長であるエーデルワイスの性癖に、ほとほと手を焼いていたのだ。
この機に乗じて更生させる事すら念頭に置いているあたり、彼女達も中々いい性格をしていた。
「ワタシハアナタヲアイラブユ!! ダカラパンツヲカギクケコォ―――――――――――ッ!!」
「なんか、どこかで聞いた事があるような気がするのぅ……少し違う気もするが…」
「イロハニコンペイトォ―――――――――――!! チリ…ヌル……ヌル…オ、オカ…マ……」
「あ、静かになってきましたね?」
「次に何を叫ぶんだろ? なんか気になる……どうでも良いけど、ヌルヌルオカマって何?」
「知らぬ、意外と『早く私を殺しにいらっしゃい』かも知れぬのぉ~」
「崖っぷちで叫ばないと意味ないでしょ、それ…… ある意味でこの人、崖っぷちだけど……」
再び沈黙が流れる……長い静寂であった。
「……あ…」
「「「 あ? 」」」
「アイダホポテトォ――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!!」
「「 なぜに、ジャガイモ? 」」
エーデルワイスの絶叫が狩場へと響き渡る。
そして、次にこの場にいる全員が見た物は、以前の様などこか某劇場の男役を彷彿させる様な彼女では無く、まるで戦場で生きる事が全ての様な覚悟を決めた表情の彼女であった。
あまりに凛々しく、そして美しい。
他者を率いる事の出来るカリスマ性が滲み出すどころか、溢れ撒くって威圧感すら感じられる聖女であった。
戦乙女がここに降臨したのである。
「私は今まで何を……この様な事をしている間にも、無辜の民達が苦しんでいるというのに……」
「お姉様……大丈夫ですか?」
「案ずるな、今はまるで闇が払われたかのように清々しい。だが、今までの自分の行いを顧みると何と云う無様な姿だったのだ…
私は恥ずかしい……あの様な真似、誇りある貴族のする事では無い!!」
「なんか、えらい頼もしくなったみたいやな…」
「今のエーデルなら私は喜んで剣を捧げるだろう……わずかな時間である事が残念だ」
「今は無駄口をたたいている暇は無い!! こうしている間にも多くの者達が犠牲になるのだ。一刻の猶予は無い、直ちにあの魔獣どもを蹴散らすぞっ!!
総員戦闘準備に掛かれ、一時間でアノ薄汚い下品な鳥を駆逐する!!」
ロープを解かれたエーデルワイスは毅然と立ち上がり、他のメンバーに激を飛ばす。
今の彼女には既に成すべき事が見えていた。
さながら民衆を率いる女神の如く、率先して指揮を執り始めたのだ。
「あの様な凛々しいお姉様を私は見た事がありませんわ……常にあのような姿であれば宜しいのに……」
「す…ス・テ・キ…♡ とても凛々しいです、お姉様♡」
「レミーは他の者達と連絡を取り、情報を集めよ!! 他の者達は私とこの場所にいる下品な鳥を撃ち落とすぞ、弓を持つものは良く狙え!! 魔導士は惹きつけてから狙い撃つ!!
上位冒険者は囮を頼みたい、現在我が旅団はは中級者が殆どで心許ないからな」
「よっしゃ、出番が回って来たぜ!」
「最早別人よね、アレ・・・・・・」
「私は後方支援に回ります。レイル、ファイ、気を付けてください」
戦乙女と化したエーデルワイスに触発され、狩場はあわたただしく動き出す。
冒険者たちはギラついた目で獲物を睨み据え、最大の打撃を与える瞬間に備えた。
「んじゃ、僕たちも行こうか、ヴェルさん」
「うむ、相手が弱いのが些か不満じゃが……徹底的に潰させてもらおう」
「先生、僕たちはどうすれば……」
「君たちは援護に回って、フィオちゃんやマイアちゃんはチャンスが来たら切り込んでいいから。ルーチェさんに指揮は任せるよ」
「私も上級者なんだけど、セラちゃんの言うとおりにするわね。フィオ達はまだまだ駆け出しだから」
「お願いしまーす」
半神族の三人にはまだ荷が重いため援護側に回し、指揮は上級者であるルーチェに任せる。
フィオとマイアは遊撃部隊に加わる事になるが、武器の面では問題は無いと判断しての事だ。
セラとヴェルさん・レイルとファイは囮役に加わる事で打撃力が上がる形となる。
囮役は一か所に集まり、静かに出番が来るのを待つ。
後衛の冒険者たちは幻影の魔術を行使して姿を隠し、上空のティルクパの目を欺き各自が取り囲むように包囲網を敷いて行く。
木の陰や草むらにひそみ息を殺し待ちに入る。彼等は幾度も狩りをしてきた経験豊富な冒険者達だ、白百合旅団だけでは無い他の冒険者も、まるで一つの部隊の様に連携して動いていた。
彼等は今何をするべきなのかを経験で知っているのである。そこには油断も傲りも無く、歴戦の戦士を彷彿させるような凄味が備わっていた。
魔獣を狩る事に関しては中級の冒険者たちはプロと言っても過言ではない。しかし、災害指定級を相手取るにしては些か実力が落ちる。
しかし、ティルクパ程度であるなら油断する事無く楽に狩れるほどの実力は備わっている。
彼等も狩りの危険は十分に理解している狩り人達であった。
「にょ? セラはガンナーで行くのか?」
「まぁね、どの道目隠しで『フラッシュ』を使うだろうから、目つぶしを受けた獲物は任せるよ」
「おう、そうなるとお前は目つぶしから免れた奴を狙うんだな?」
「そゆこと」
「あたし達に当てないでよね? アンタ、時々変な真似するから……」
「なるべく善処しますよ? 成るべくね……」
「その間は何っ!? 本当に当てないでよ? お願いだから……」
「善処はします……善処はね………んふふふふふふ…」
「怖いわよっ!! 止めてよね、人の不安をあおるの……」
セラを含む上級冒険者は、既に準備が整ていた。
その彼等の姿を見ていたエーデルワイスは、高らかに進軍を命ずる。
「皆の者、進軍せよっ!! 敵を全て打ち滅ぼし、力無き者達に安寧をもたらすのだ!!
たかが知性の低い鳥如きに我らの進軍を止めるなど不可能、蹂躙せよ、殲滅せよ、我らの肩には多くの者達の未来が掛かっていると思え!!
総員進撃開始!! 立ちふさがる者は全て蹴散らせぇっ!!」
作戦は決行された。
セラ達を含む囮部隊がゆっくりとエリア内に歩きながら進む。
他の者達は其々姿を隠し、獲物を包囲するための罠となるべく移動を開始した。
ティルクパは知能は低い、それゆえに囮部隊の姿を確認すると周りを飛び交い、襲うタイミングを計ろうとする。
だが、エリア中央まで行くために隙は見せず、できるだけ惹きつけるように周りを警戒しながらも進軍した。それに釣られるかのようにティルクパは鬱陶しい位にに回りを飛び交い、囮部隊の周りを旋回し始めていた。
隙を見せれば、そこから瓦解させるために集団で襲い掛かる。それがこの魔獣のいやらしい所なのだが、自然界においては弱肉強食、卑怯もへったくれも無い生き抜くための手段なのだ。
食うか食われるかの戦いこそが自然界においては重要であり、人間の様な誇りだの信念などの言葉が挟む余地は無い。
生きている事が強者、これが真理の世界なのである。
ティルクパは獲物を発見すると囮部隊の周りを周回し始めていた。
だが、これまでの狩りから、ここにいる者がただの獲物でないことを学習しており、迂闊に襲い掛かる様な真似はせずに周回を繰り返している。
「えらく警戒しておるのぅ・・・・・・」
「ここの所、仲間が散々狩られてるからなぁ~警戒もすんだろ」
「何かいい方法は無いの? この辺りの奴らを狩れば、あたし等も楽なんだけど……」
「方法が無いわけではありませんが、下手をするとこちらが瓦解しますよ? それでもやりますか?」
「方法があんならやるしかねぇだろ、取り合ず教えろや、嬢ちゃん」
「では方法を教えますが、個人の能力が左右されますからね? 殆ど乱戦状態になりますから仲間の同士討ちに気を付けてください」
「なんか……ヤバそうな気がすんだが……」
セラは囮役の他の冒険者に作戦内容を備に話す。
彼等はそれを承諾すると、作戦に合わせて役割を直ぐに決めていった。
包囲役の冒険者たちが焦れる最中に彼等は迅速に動き出す。
囮役の中から、セラ・レイル・ヴェルさんの三人が集団から離れる様に動きだしたのだ。
それを見ていたティルクパは一斉に動き出す。
元々群れで行動する以上は弱点から攻めるのが野生動物の基本である。
群れから離れている個体や、比較的に力の弱い若い獲物を狙うのが定石だ。
本能で動く以上は、その本能を揺さぶるように行動して惹きつけ、他は囮役を補佐するために動くのがこの作戦であった。言わば二重の包囲網である。
案の定、ティルクパはセラやヴェルさん達に殺到するように動き出した。
それぞれが三方向に分かれティルクパを誘き寄せ、突如放たれた『フラッシュ』により目潰しを受け地面に叩きつけられる。
それを狙い三方向に分かれた囮役の冒険者達は、ティルクパに殺到して息の根を確実に止めていった。
的確に確実に一撃で仕留めるよう、頭部を直接集中的に狙い、重量級の武器保有者がメインとなって打倒して行く。
なまじ囮役が上位の冒険者であるため、駆け出しでも倒せるようなティルクパ如きでは歯が立たないが、いかんせん数が多過ぎる。
だが、その数を予め包囲陣を組んでいた他の冒険者達が一斉に動き出し、空中を飛び交うティルクパを次々と撃ち落して行った。
本能的にこれが罠である事を知っても、もはや手遅れの状態である。
「ハッハァ―――――ッ!! すげぇな嬢ちゃん、今度狩りに行かねぇか?」
「暇だったらいいです、よっと!」
飛び交うティルクパを巧みに避け、確実にボウガンの矢を叩き込むセラに、他の冒険者は感嘆の息を漏らしていた。
ヴェルさんは小柄でありながら戦斧を自在に振りかざし、一撃のもとに確実に獲物を仕留めている。
レイルはセラ達ほど派手では無いが、基本に忠実であり安定した攻撃でティルクパを捌ききり、乱戦においては大剣で確実に倒す姿が印象に残った。
「レイっ、危ないっ!!」
ファイが叫び、気づいた時にはティルクパの爪が迫っていた。
しかし、セラの放った矢が頭部に直撃し、バランスを崩したティルクパをレイルは一刀両断にする。
「助かったぜ、セラ」
「油断大敵ですよ、この乱戦状態じゃネッ!!」
再び放った矢がティルクパの翼の付け根に直撃すると凍り付き、飛行が出来なくなり自重で落下すると、待ち構えていたヴェルさんが戦斧で脳天を一撃で叩き割った。
更にはその勢いを利用し、後方から迫るティルクパを薙ぎ払う。中々に豪快な戦い方である。
「にょほほほほほ、じゃんじゃん持ってこいや!! なのじゃ」
「ノリノリだな、ヴェルさん……少しは遠慮しろよ」
「断る、今夜は焼き鳥にするのじゃ! これだけおれば、我はたらふく食えるからのぅ」
「ちょ、料理するの僕なんだけどっ!?」
「ミシェルやファイもおるから大丈夫じゃろ♡ 今夜は鶏肉パーティーじゃ!」
「ミシェルは兎も角ファイがなぁ~……」
「それ、どういう意味よっ!? ちょ、レイ、後で酷いからね!!」
どうやらファイは料理が苦手の様である。
レイルの様子からかなり不味い調理をすると判断したセラであった。
「悪い意味でヴェルさんとどっちが上だろ?」
「アタシは死人が出そうな料理は作らないわよっ!!」
余裕綽々で軽愚痴を叩きながら討伐をしてゆくセラ達、そこには一切の危なげな様子も無く、乱戦の中に在る筈なのに確実に獲物をしとめる姿があった。
そんな状況を見計らい、エーデルワイスは最後の一手を切る事にする。
「斬り込み隊、出番だっ!! 総員、我に続け、ケリをつけるぞ!!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」」」
別働隊が大挙として押し寄せ、不意を突かれたティルクパは瞬く間に駆逐されていった。
エルフの里に脅威をもたらしていた魔獣達は、こうして殲滅されていったのである。
余談
鋭い拳に一撃がティルクパの顎を直撃した。
のけぞった所に蹴りが叩き込まれ、苦悶の呻き声を上げる。
だが、それだけでは終わらず、連続して繰り出されるパンチの応酬がティルクパの骨を情け容赦無く粉砕していった。
絶命した魔獣の屍を無視し、新たな獲物を求めて動き出すビキニパンツのガチムチマッチョ。
ご存じエルフの里のナイスガイ、エルフを超えた超エルフ。
筋肉の伝道師、ロークスである。
非常識な事に、彼はティルクパの討伐をその身一つでやってのけたのである。
今の彼は輝いていた。
躍動する筋肉、外殻に覆われた魔獣すら物ともしない圧倒的なパンチ力。
自分の鍛え上げた肉体が結果を出すたびに、彼は獰猛な笑みを浮かべる。
「いい♡ もっとです。もっと私の筋肉を喜ばせてください、さぁ、さぁ! さぁっ!!」
彼は乱戦の最中にありながら、傷一つ追わずに拳だけで魔獣を倒していたのであった。
だが、魔獣の存在など彼にはどうでも良かった。
鍛え上げた肉体が自分の予想以上の働きを見せつけるたびに、彼は歓喜に打ち震えていた。
「あぁ……素晴らしい、私の筋肉……It・beautiful。完璧です」
彼は戦いながら陶酔していた……
そんなロークスを見つめる同族の二人は、死んだ魚のような眼をしている。
「……アレ……もう、エルフじゃ無いわよね…?」
「ロークス……彼は遠い所へ行ってしまったのね……」
躍動する自分の筋肉に酔いしれる彼に、同族であるエルカとファイのメンタルに重大な致命傷を与えていたなど露とも知らないでいた。
彼は目指す、無限に広がる果てなき筋肉の荒野を……いったい何処まで行くのだろうか?
「志○さんは一人いれば十分だと思うんだ……」
「同感じゃ……数が増えると鬱陶しいからのぅ……」
エルカとファイを余所に、セラとヴェルさんは無表情でティルクパの姿を見つめていた。
どこか別の遠い世界を見ているような眼で・・・・・




