嫌な予感が当たりました ~今回はヤバかったです……マジで……~
風呂は命の洗たくと言ったのは誰であろうか。
立ち上る湯気と温められたお湯が身も心も溶かし、細かい事がどうでも良くなる位にリラックスさせてくれる。
湯船に身を沈めその温かさに包まれると、入浴前に感じていた不穏な気分をお湯の心地良さが全て洗い流し、何も考えられない程に心がゆったりと落ち着いてゆく。
長い日を広大な森の中でサバイバル生活を続けていたセラにとって、先ほど騒いでいたのが嘘の様に至福の時を味わっていた。
「あ~~~……こうして湯船に浸っていると、お風呂の中だけが世界の全てに思えてくるよねぇ~~♡」
「そうですねぇ~~~……お風呂は良いですねぇ~~~……♡」
セラとマイアは仲良く湯船に浸ってお湯を満喫していた。
日本人の魂がそうさせるのか、セラは元の世界でも風呂は割りと長く入る方である。
江戸の頃より日本人は風呂という文化を大切にしていた。
当時は男女混浴であり、社交の場としての役割が強い。
特に結婚においても風呂が男女を引き合わせる重要な役割を果たし、混浴で出会った気に入った男女がお互いに結婚する事が多かった。
俗にいう婚活の場としても用いられ、男女はそれぞれが互いを品定めする見合いの場として機能していたのだ。
無論、衛生面でも貢献し体の汚れを洗い流し汚れを落とすことで健康維持に役立ち、湯を楽しむ娯楽の場としても広く愛され続けた歴史ある文化である。
古代ローマで生まれた文化は様々なルートから広がり、はるか海の先の島国まで伝わり根付いたのだから、その歴史的観点から見ても素晴らしい物なのであろう。
それは異なる世界でも同様であった。
時代や世界が異なろうとも人の営みは変わらない、似た様な文化は必ず生まれてくるものなのだろう。
「フィオ、お風呂で泳ぐのはやめなさい! はしたないわよ?」
「でも気持ちいいよ? お母さん」
「気持ちはわかるけど、他の人たちに迷惑がかかるから」
「むぅ~~~……」
誰もが一度は体験する風呂での遊泳。
湯船が広かろうが、狭かろうが、一度はこの遊びをやるだろう。
フィオも広い湯船で泳ぐのが大好きであった。
どれだけ普段がしっかりしていても、フィオはまだ幼さを残す少女であった。
そんなフィオを窘めるルーチェも、内心は母親としての役割を果たせて喜んでいたりする。
現に口元が少し上がっていた。
「あぁ~~極楽、極楽・・・・・・・・ハッ!?」
セラは気づいた。またしても同じ過ちを犯していることを……
『……また…女湯に何の疑問も持たずに入っていた……しかも湯船でくつろいで……』
温かい筈の湯船が絶対零度の氷の様に感じた。
魂は肉体に依存する。ラノベで良くある理論であるが、まさか自分がそれを経験しているとは思わなかった。
ましてやこの【セラ・トレント】と云う肉体は、【瀬良優樹】という少年と同一体。
魂が違和感なく定着するのは十分な肉体であった。
その事実を知るたびに、セラは何か大事なものを落としている事に愕然となるのだった。
翌々見れば、周りは女性だらけの肌色の世界。
健全な少年には目のやり場に困る状況な筈なのに、最近は違和感無く溶け込んでいる自分がいる。
今回に至っては湯船でくつろぐまで気付かなかった事は致命的である。
何しろ周りの女性たちを見ても何とも思わなくなっていたのだ。これは精神的にヤバい気がした。
『不味い……早くここから出ないと、僕のメンタルは死ぬ……』
メンタルブレイク寸前だという事実に気づき、次第に焦りを覚えるセラ。
脳裏には暇神が『HEY、YOU!! あきらめて百合っちゃいなYo!!』と踊りながら誘惑する姿が過る。
その姿にあまりにムカつき、セラは自分自身を取り戻した。
「ぼ、僕はそろそろ上がるね……何か色々とヤバい気がするから……」
「そうですね……先ほど感じた悪寒も気になりますし……」
「マイアぁあああああああああああああああああああああああああああああっ♡!!」
時、既に遅し……
悪寒の正体である存在は、既にこの浴場へと足を踏み入れていた。
究極のヤンデレ変態団長エーデルワイスは、マイアを発見した瞬間光速を超え、すさまじい情熱と変質的な愛をもってダイブして来たのであった。
―――――ゴインッ!!
「ヘブリャッ?!」
鈍い音が響くと同時に、エーデルワイスは変なうめき声を上げ、元来た方向へと弾き飛ばされた。
マイアの手には禍々しい装飾のハンマーが握られている。
「そ、それは僕が貸した【ケダモノ殴殺撲殺粉殺圧殺100tハンマー】っ!? 持って来てたんだ!!」
「姉さんを見習って護身用に……使う事になるとは思ってもいませんでしたが……」
「ナイスな判断だよ、マイアちゃん。変態は撲滅しないとね♡ 僕もスコップを持って来てるし」」
「はいっ♡」
実にいい返事でセラに返すマイア、彼女もどこか吹っ切れたようである。
最早以前のように恐怖に怯える事は無く、むしろ堂々と変態を撲滅する意思を見せていた。
ちなみにセラがスコップを持ち込んでいるのは、当然対ヴェルさん様装備だからである。
「お姉様ぁああああああああああああああああああああああっ?!」
「団長も懲りへんなぁ~……ええ加減に諦めればええのに……」
「全くだ……」
「アホですね……まぁ、私は団長がどうなろうと関係ありませんが……」
そこには久しぶりにエルカの姿があった。
彼女は旅団規模の殲滅戦で地理に疎い団員のサポートを行っていた。
主に狩場の状況を伝え、時に案内役をしていたので他のメンバーとは別行動であった。
「おや? エルカさん、今日は皆さんと一緒なんですね?」
「私も自分の務めは果たします! 貴女の犠牲者を増えないようにするのが、あの地獄を見た私の使命です」
「酷い……僕はただ…世間の広さを優しく教えてあげただけなのに……」
「アレのどこが優しくなのっ?! トラウマ物の悪夢よ!!」
「命の保証はあったじゃないですか……そんな僕の真心を……」
「アレを真心と言える貴女は悪魔よ……ロカスの村でも酷い目に遭っている方がいるではないですか!!」
「それが何か?」
「うわぁ~~……ホンマ、怖いお人やわぁ~…開き直っとるで……」
ブッチに始まり、ロカスの村では変態に対して情け容赦が無くなっている。
その過剰ともいえる折檻の背景には必ずセラの影があるのだ。
キレたイーネに関しては別問題だが……
「変質者は撲滅するべきだと思うんですよ……実害のある存在は徹底的に……」
「恐ろしいな……だが、その意見に対しては頷けるものがある…特にアレに関しては……」
フレイの視線の先には殴り飛ばされたエーデルワイスの姿があった。
ハンマーで殴られたというのによろめきながらも起き上がる姿は、Gの付く生命体の如くしぶとかった。
「……チッ…生きてやがる…しぶとい」
「「「 悪魔だ……銀色の… 」」」
そんな悪辣な一言を吐きつけるセラを熱い視線で見つめる者がいた。
白百合旅団副団長のミラルカである。
「……美しい………」
「「「「 えっ!? 」」」」
ミラルカの恍惚とした表情がやけに色っぽく、場違いな一言が呟かれた。
「悪に対して雄々しくも気高く立ち向かう勇気、美しくしなやかに躍動する完成された自然の造形美…
まるで戦乙女の如き神々しくも、あどけなさと其処に潜む残酷さを内包する幼い子供の様な純粋さ、美しい……」
熱にほだされ静かにセラに近づくミラルカ。
何故かそこに危険な匂いが感じられ、セラは思わず後ろに下がる。
「…あ、あの……ミラルカさん……?」
「貴女こそ白百合旅団にふさわしい方はおりませんわ……ぜひ、我が旅団に来てくださいませんこと?」
「……い、いえ……好き勝手に動くのが好きなものなので……旅団は遠慮したいんですけど…」
「貴女の自由は保障致します…その美しさは私達の下でこそ輝くものなのです」
「え、遠慮しておきます……野生児ですから……」
「……残念ですわ、ですが決して諦めませんわよ?」
「………諦めてください……お願いですから……」
「嫌です」
「即答っ!?」
一見淑やかな令嬢に見えて、彼女の眼には危険な光が宿っていることをセラは見逃さない。
ミラルカは草食系のようで、実は肉食系である事を直感しているのだ。
『此の儘では食われる……』この時セラはそう思った。
「ここでお会いましたのも何かのお導き、湯船に浸る前に背中を流してくださいませんこと?」
「い、いや、僕はこれから上がる所なんですけど……」
「良いではありませんか、女同士のお付き合いですわ」
「ちょ、僕の意思は? 何で手を引っ張り……待って、心の準備がぁ~~!?」
強引にミラルカに連行されて行くセラ。
退路は既に塞がれていた……どうでもいいが、心の準備は必要か? 逃げればいいのに……
「ふふふ……ミラルカは邪魔者を連れて行ったようだね。さぁ、マイア……私の愛を受け取ってくれ」
「嫌」
「そんな連れない事を言っても私にはわかる。本当は私を求めていることを」
「勘違い、自意識過剰、厚顔無恥、いい加減に消えて」
「ふふ……そんな冷たい事を言って私を焦らすんだね。どこまでもツンデレなのだから……でも其処がが良い♡」
「やはり殲滅するべきなのね……まぁ、心は痛まないから別にいいけど……」
禍々しいハンマーを構え、マイアは殺す覚悟を速攻で決めた。
見えない所でデンジャーに成長していた様である。
「マイアの気持ちはわかっている……さぁ、そのハンマーで私を思う存分痛めつけるがいい♡」
・
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・
・
・
「「「「「………………はあっ?!」」」」」
一瞬エーデルワイスが何を言ったのかが分からなかった。
他の団員達も思考が凍り付き、現実を見失う何とも言えない沈黙が流れた……
「……エーデルはん……あんた…今、なんて言うたんや……?」
「自分を痛めつけろと聞こえたのだが……聞き間違いか?」
「お、お姉様……御冗談ですよね? 本気ではありません……よね………?」
「私は常に本気だ! 前にマイアに責められて私は悟ったのだ、時には愛の痛みを受け入れることも至高の悦楽であると!!」
「「 ドМに目覚めやがりましたよ、こいつっ!! 」」
「嫌ぁ――――――――――――――――っ!! お姉様が……お姉様がおかしく……衛生兵、衛生兵っ!!」
「元々おかしいでしょ、この人……何を今更……」
フレイとセティが突っ込み、レミーがショックで錯乱した。
ただ一人マイアだけは冷静に辛辣な一言を告げる。
そう、元からエーデルワイスはおかしいのだ。当然、このアホなカミングアウトにも裏がある。
『殴られても喜ぶだけだと思わせればマイアに為す術は無い。そうなれば、後は私の培ってきたこの手業でマイアを……ふふふ……』
姑息にも自分がМに目覚めたとカミングアウトする事により、マイアの攻撃を無力化しようとする心理作戦だった。
殴られても喜ぶだけなら、その行為自体がご褒美になる訳であり、マイアがハンマーを振り下ろす意味が無い。
そう思わせることでマイアの攻撃を封じ込めれば良し、失敗しても別に失う物が無く撲殺は免れるのだから御得で有効な手段だと彼女は思ったのだ。
だが、その考え自体が甘かった……
「……分かった………望み通りに死ぬまで殴り続けてあげる…」
「えっ……?」
予想外に…いや、これは想定内だろうか? マイアは殲滅する方を選んだ。
こうなるとエーデルワイスにとって、奇策が最大のピンチになる事になる。
「そうだな……こんなのが団長だと知れたら旅団の恥だ……ここで一思いに……」
「ちょ、フレイ? 一思いにどうする気……?」
「……流石に庇い切れんて……百合だけでなくドМ……最悪や…始末はどこかに埋めて……」
「セティ? 何故か、最後の後始末の仕方まで考えてるよね?」
「気のせいやて、後腐れ無く人気のない森深くに埋めておけば、魔獣が始末してくれるなんて全然思ってへんよ?」
「思ってるじゃないかぁっ?! 今、口で言ってるんだけどぉ!?」
「うちは正直やから嘘はつけへんねん。迷わず昇天したってや、悪い意味でやけど……」
「私はマイアの上で昇天したい!!」
「死ね……」
勢いよく真下から振るわれたハンマーがエーデルワイスを直撃し、彼女は天高く打ちあがる。
エーデルワイスはその時、一瞬の滞空時間の中に永遠を感じた。
―――――グワシャアアアアアアアアアアアアアアッ!!
そのままタイル張りの床に頭部からモロに落下した。
さらに追い打ちを掛けるべくマイアは猛然と走り、無表情でハンマーを振りまくる。
情け容赦の無い徹底的な殲滅であった……嫌な音が浴場に響き渡る……
エーデルワイスに追い掛け回されていた当時のマイアとは思えない凄く好戦的な変貌ぶりに、当時を知るフレイとセティは頭を抱えつつも、心のどこかで拍手喝采を送っていた。
有効な策を思いついた所で其れを実行したとしても、その策が必ず上手く行くとは限らないのだ。
阿呆な変態はエルフの集落の浴場、湯煙の中で無残に散ったのだった……
マイアが暴虐の化身と化している頃、セラはミラルカに背中を洗われていた。
湯船に入る前にすでに洗い流していたのに、何故か彼女と背中を流し合う破目になったのだ。
これが男女同士であれば嬉しい展開なのだが、今のセラには恐怖でしかない。
何故なら、ミラルカはセラを狙っているからだ。
幸いミラルカに前を洗って欲しいと言われ、それを拒否することには成功したが、代わりに自分が背中を洗われる事になったのだ。
全裸のミラルカを直視する事は無いが、背後に自分を狙うミラルカがいると云うだけで何をされるか分からず警戒を続けている。
「綺麗な肌ですわね、羨ましいですわ♡」
「それ程でも……無いかと…」
「女同士でそこまで照れる事は無いですのに……意外に奥ゆかしいのですね?」
「女同士でも恥ずかしい事は恥ずかしいと思うよ? それより、あの団長さんは放っておいて良いの?」
「構いません、お姉様にはいい薬です。いつも後始末をさせられる私の身にもなって欲しいものです……」
「苦労してるんだねぇ~……アレで……」
あんな無差別ユリ発情した変態が実の姉だと思うと、如何にセラでも気の毒に思えた。
身内にいたら間違い無く始末して埋める自信がある。
「よく団長なんてやってるよね? どう考えても危険人物でしょ、あの人……」
「少しは自重して欲しいのですが、残念ながら効果がないのです。何か良い方法は無いでしょうか?」
「僕に言われてもねぇ~……薬を使ったら?」
「短時間しか効果はありませんし、ああ見えて冒険者としては優秀なのですよ、お姉様は……」
「能力と人格は別物か……まま為らないもんなんだね…」
会話をしながらもミラルカはセラの背中をタオルでこすっている。
いや、その筈であった。
「ちょっ、ミラルカさんっ!?」
「うふふ、前も綺麗にして差し上げますわ♡」
いきなりミラルカがセラに抱き付くと、巨乳と言えるほど大きくはないが豊かな胸を背中に押し付け、両腕を回してセラが逃れられない様にした。
「た、タオル、持っていませんけどっ!?」
「あら? ならば私の手をタオルの代わりに……」
「なりませんっ!! てか、なにしてるんですかっ!?」
「ただのスキンシップですわ♡ 女同士、これくらいは当り前ですわよ?」
そう言いつつ、ミラルカはしっかりとセラに密着し、人差し指の先ででセラの脇腹辺りをゆっくりと撫でる。
セラはこの時…いや、もっと早くに気づくべきだったのだ。
喩え一見、真面そうに見えても、ミラルカはあのエーデルワイスの妹である事を……
「は、離れてもらえませんかね……何か…嫌な予感しかしないんですが……?」
「嫌です♡」
「何故にっ?! てか、この状態で体を洗うのなんて無理だよねっ!?」
「私がこうしていたいだけですわ。それ以外に………特に意味はありませんことよ?」
「今の間は何っ?! 有るよね? 凄く嫌な方向で意味があるよね?!」
「ただのスキンシップですわ♡ えぇ、本当にただの……」
「ひょわっ!? じゃあぁ、何で僕の胸をもんでいるのさ・・・・・んんぅっ!」
「スキンシップです♡ 女同士でこれくらいは当り前ですわよ?」
その言葉を鵜呑みにするほどセラは愚かでは無いが、座った状態で背後から抱き着かれているので、逃げ出そうにも立ち上がる事が出来ない。
さらに言えば、ミラルカの撫でる指の動きが次第に脇腹の辺りから下がってきていた。
ついでに胸を揉む事を止めないあたり、明らかにそれ以上の事をしようとしている事がわかる。
しかも、女性ばかりだが多くの衆人観衆の目の前でだ。
「ヤバい…逃げられないっ!? ピンチだ、マジで貞操の危機だぁっ!!」
「乙女がはしたないですわよ? もっと慎みを待たないといけませんわ」
「公衆の面前で人を襲っている人に言われたくなぁ――――――――――――いっ!!」
逃れようともがくも、背中には豊かな胸を押し付けられ動けない。
程よい弾力を持つ膨らみの感触がセラに警鐘を鳴らし続けている。
男であったならこのシュチュエーションは嬉しいご褒美なのだが、今は正真正銘の女であり、しかもミラルカの手の動きが次第に怪しくなってきている。
腹部辺りをまさぐる手が次第に太腿辺りへと移動し、次第に禁断エリアへと向かって来ているのだ。
ヤバいどころか、此の侭ではめくりめく百合の花園への扉を強制的に開いてしまうだろう。
「どこを触っているんですかっ!! これ以上はデンジャーエリアですよっ!?」
「ただのスキンシップですわ♡ わたくしに任せてくだされば大丈夫ですわよ?」
「うそだぁあああああああああああああああああああああああっ!!」
神は決して人の味方ではない。
もし味方であるというのであれば、今のこの状況を許すはずが無いからだ。
むしろ、あの神はこの状況を喜ぶだろう……渡る世間は敵ばかりであった。
ミラルカの指先がセラの禁断エリアへと次第に向かって行く。
―――――きゃぁああああああああああああっ!!
突如浴場に響いた女性の叫び、そして走り抜ける黒い影。
影は縦横無尽に高速で動き回り、浴場にいるエルフの女性に飛びついては胸を揉んで離脱する。
「な、何ですの?!」
「あ、アレはまさか……」
「お姉様の三倍は早いですわ、まるで黒い彗星……」
「チチスキーさんかっ!?」
こんな真似をする奴は一人しかいない。
ご存じロカスの村のエロリスト、元聖魔龍のヴェルさんである。
幸か不幸か、セラはヴェルさんの強襲で救われたのであった。
「にょほほほほっ♡ 大量の乳なのじゃ、パフリストの血が騒ぐのじゃ!!」
「……ヴェルさん……ここまで来て、まだそれをやるんだ……」
「当然じゃ、そこに乳が在るのなら、揉んで見せよう百合の花なのじゃ!!」
「ヴェルさんもそっちの趣味なわけ?」
「別に女性同性愛主義者という訳ではないが、存在を否定する程でも……ぬおっ!?」
ヴェルさんは見た……目の前にある信じがたい光景を……
ミラルカの手はセラの胸と微妙な禁断の場所近くに添えられている・・・・・
それを見た瞬間にヴェルさんは言いようの無い嫉妬の念に囚われた。
「ず、狡いのじゃぁ!! 我には揉ませようとせぬくせに、美乳の娘には乳を揉ませるというのかっ!?」
「何言ってんのっ?!」
「しかも秘密の花園まで許すというのかっ!? 我も混ぜるのじゃあああああああああああああっ!!」
とち狂ったヴェルさんがセラの胸めがけてダイブする。
―――――ゴリュ!!
セラの右ストレートがヴェルさんの顔面に突き刺さった。
そのまま一気に振りぬき、褐色の変態幼女が飛ばされる。
またもヴェルさんは、自分とセラのリーチの差を忘れていたのだった。
「にょおぉおお……」
「本当に懲りないね……ヴェルさん………今日の拳は貴女の為に♡」
「拳だけでは無いのじゃ!! その手にしたスコップは……」
「暴力という名のプレゼント♡」
「はっきりと暴力と断言しおった!? い、いかん……逃げねば……」
「逃すかぁあああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
セラが思いっきりぶん投げた禍々しいスコップが、高速でヴェルさんの後頭部に直撃する。
そこから先はいつもの展開であった。
唯一違う点を上げるのなら、セラがヴェルさんに感謝していた事だろうか?
ヴェルさんが現れなければ、セラは百合の花園の扉を開いていた事であろう。
ありがとうヴェルさん、そしてさようなら……
セラは目に涙を浮かべ、感謝をしながらチチスキーさんを地獄へと送るのであった……
その日、二人の変態がエルフの集落近くの畑に、首だけ出して仲良く埋められたのだった。
浴場から無事貞操を守りきり生還したセラは、食事の支度に精をを出していた。
その場には何故かフレアローゼも同席し、料理が出来る頃合いを今か今かと待ちわびている。
「フレアローゼさんもこの集落に来てたんですねぇ~」
「ロカスの村の食事を食べた後だと、里の料理は香辛料がキツ過ぎて不味いのよ……以前はこんな事思わなかったのに……」
「わかるわぁ~……セラちゃんの料理が美味し過ぎて、つい食べ過ぎちゃうのよねぇ~……」
「僕のせいにされても困るんですけどね……普通の料理ですよ?」
フレアローゼはすっかり餌付けされてしまっていた。
最早、里の食事は香辛料で味を誤魔化しただけの手抜き料理に過ぎず、食材の味を活かしたセラの料理が至高に思えて仕方がないのだ。
エルフの里は調味料の幅は広いが、同時にその調味料を生かすことを考えていなかった。
新鮮な生肉は捌いて直ぐだと味も悪く、旨味も左程では無い。
肉を熟成させると云う概念が未だに存在しないこの世界の常識と、数日肉を保存して置いてから調理するセラの料理とでは味に差が出るのも仕方の無い事だろう。
ちなみに今日の献立はカレーライスであった。
サポートは新弟子の半神族三人組である。
「良い香りですわ……色合いは少し不思議ですけど、食欲がそそられます」
「二日目に食べるのが美味しいんだけどね。じっくり煮込むには調理時間が掛かり過ぎるから殆ど即席だね」
「これで即席なんですの?! 十分に店でも売れるレベルではありませんかっ!!」
「これで生活する気はないよ? だって、めんどいし……」
家庭で料理をするのと、店で客に出す料理とでは調理の仕方が違う。
あらかじめ想定した人数に合わせて調理するのは同じだが、店の場合は売れ残っては困るのだ。
そのうえ量も異なり、煮込み料理の場合に措いては、その煮込み時間も念頭に入れて調理せねばならない。
三食を大量に作り置きするには人手が足りないだけで無く、売れ残った時の出費の事も考えねばならないので、料理人をする気にはなれないのだった。
「煮込みはこんな物で良いのでしょうか、先生」
「もう少しでいい感じになるよ。ライスの方はどう?」
「こちらはもう出来てますよ?」
「ライスウッドの実が食べれるなんて思わなかったわ……しかも甘みがあって美味しいし」
ライスウッドは赤い花を咲かせ、頻繁に拳大の実を生らせる木である。
実の中には果肉の内部にぎっしりと詰まった種が存在し、この種を乾燥させ精米する事で米として食べる事が出来るのだ。
無論果肉ごと食べる事もでき、独特の甘みを持つためにお菓子として使われることが多い。
米として使えるので色々と応用が利く食材であった。
付け合わせに野菜とティルクパの肉を包んだ生春巻きがあるが、あまり量は多くない。
「これは一人二個づつね。あとはお皿に盛りつけてと……」
「あたし達も食べていいの? 一応あんた達の食事でしょ?」
「構いませんよ? 幸い大飯食らいがいませんからね、十分に間に合います」
「あ~~……いつもの騒ぎか、また埋めたのか?」
「ヴェルさんも懲りませんね……以前、村の浴場で襲われました……AAの90と言っていましたけど、どう云う意味なのでしょう?」
「ミシェルさんも襲われていたんですかっ!? そろそろ埋めるのも生易しくなってきましたね……今度は沈めるか……」
「「「 どこにだよっ!? 」」」
ヴェルさんのお仕置きは次第に酷い事になりそうである。
それでも乳に挑み続けるヴェルさんは、ある意味で探究者と言えなくもない。
「ヴェルさんの事は放って措いていいから、今は食事にしましょう」
「「「「「「「「「「「 異議無し!! 」」」」」」」」」」」
罪深いヴェルさんと美味い食事とで秤に掛ければ、軍配は当然美味い食事に上がる。
彼等も中々酷い方向に慣れてきたようだ……生き埋めの晒し首になったヴェルさんは、美味いカレーの前に忘れ去られたのであった。
その頃……ヴェルさんはどうしているかと言えば……
「……この匂い…カレーか? 何という拷問を強いるのじゃ、セラの奴……」
「全くだ……私は愛に生きているだけだと云うのに、この仕打ち……」
「お主は、無理矢理に娘を手籠めにしているからじゃろう? 自業自得じゃ」
「君は無差別に胸を揉みしだいているだけではないか、愛に生きる私とでは比べられる事すら不本意だ」
「ただの強姦魔を正当化する出ない!! 我は胸にだけ並々ならぬ関心があるだけじゃ、協力してくれるならあのように襲う事は無いっ!!」
「愛の無い変質的趣味を満足させたいだけじゃないのかい? 君は下品だよ?」
「お主の様なストーカーに品位を問われたくないのじゃ!! この性犯罪者めっ!!」
変態同志は仲が悪かった……
どれだけ綺麗事を言ったところで、他人を襲っている以上は性犯罪者である。
その事を互いに自覚していない二人は、いつまでも不毛な言い争を続けていたという。
この二人は互いを敵と認識したようである。誰もいない集落の畑に、変態同志の罵り合いがいつまでも響いていた……
書き終わった……暫く何も書けない気がする。
この後どうすべ……ネタはあるけど、話にするのがむずいっス




