修行と言えばサバイバルでしょう ~三人は頑張って強くなっています~
連続投稿二話目
セニアは森を走り抜ける。
強化魔法で体力を上げたとはいえ所詮は人並み程度である。
其れでも走り続けなければ為らない。何故なら、後方から嘴がやけに大きな魔獣が群れを為して追いかけて来るからだ。
彼女は何とか木々の隙間を潜り抜け、この魔獣の追跡を掻い潜ってはいるが、いずれ追い付かれるのも時間の問題であろう。
だが、其処に焦りの色は見えない。彼女にとって、これは想定内の範疇だからである。
この嘴の大きな魔獣、通称【ティルクパ】は図体は大きいが、決して防御力が高い訳では無い。
其れなりの威力があれば魔術だけで倒せるし、ひ弱な体力の半神族でも戦い方次第では十分に対応できる。
何より彼女は囮なのである。
この魔獣を引きつけ、然るべき場所に誘導して一網打尽にするのがこの作戦であった。
其れでも十羽近くいた事は想定外であったが、誘導できれば勝機は十分にあるのだ。
「もう少し……もう少しで……」
セニアは森を抜け、岩場のある狭く閉ざされた場所に出た。
其処にはアベルとイクスが岩場に待機しており、彼女を確認できたのか直ぐに魔術を放つ態勢をとった。
セニアの後から現れたティルクパは、これが罠だとも知らずに、まんまと死地に誘き出されたのだ。
十羽近くいたティルクパが狭い場所に殺到する。
「フラッシュ!!」
閃光が走り、ティルクパの死角を奪うと続け様にアベルが氷結系の魔術を放つ。
「少し数が多いが……フリージング・ストーム!!」
この辺りは温暖な気候であるために、氷結系の魔術が弱い魔獣が多数生息している。
ティルクパもその典型的な魔獣であり、寒さには極端に弱いのである。
基本的に渡り鳥のように暖かい場所へ移動する性質で、繁殖期には比較的安全なこの地方へと飛来してくるのだ。
だが、繁殖期なのはこの魔獣だけでは無く、他にも複数の強力な魔獣が居たりするが、現時点では見掛けてはいなかった。
フリージング・ストームにより急激に冷やされたこの入り組んだ岩場は、ティルクパの体温を急激に奪い去り、動きを阻害する効果を発揮する。
「ガイア・ラース!!」
セニアが唱えた大地系の範囲魔法が発動し、岩の槍が無数にティルクパに襲い掛かる。
怪鳥種であるティルクパは、当然空を飛ぶことも可能である。
これが罠であると悟ったのか、一斉に飛び立とうとするがソレを狩人達が許すはずも無い。
「「 ダウンバースト!! 」」
突き刺さる岩の槍から飛んで逃れようとした所を、突然襲う降下気流により体勢を崩され、再び岩の槍に叩き落とされた。
最早この場所から逃れる事は出来ない。
突き刺さる岩の槍で絶命するか、或は瀕死の重傷を負うかのどちらかしか無い。
運よく生き延びても攻撃系の魔術が叩き込まれ、ティルクパはその命を散らす事と為った。
「うん、上出来だね。十二羽か……大猟大猟♡」
「暇じゃのぉ~我の出番が無いのが実に不満じゃ……」
「腐らない、あと数日もしたら、彼等も三人だけで狩りが出来るように為るよ?」
「まさか、たった二週間でこれ程実力を着けるとはのぅ~……」
「危機的状況は生物の本能を呼び起こすものだからね、その分彼等も真剣にもなるよ」
セラを含む五人はここ二週間近く里には戻っていなかった。
最初の一週間は魔術の基礎と錬金術、弱い状況下での戦い方を徹底的に叩き込んだのであった。
彼等はエルフベースの半神族であり、魔力の高さと素早さでは他の種族を圧倒できるが、防御面と力強さではセラの様な人間ベースの半神族より劣る。
その為、覚醒前はどうしても身を守りながらの戦略に頼らざるを得ない状況であり、現時点では魔術を前面に出した戦略を優先していた。
言うなれば、釣りである。
自分達の有利な場所へおびき寄せ、そこで一気に叩く戦法を続けているのである。
無論体力的な不安はあるが、覚醒してしまえばエルフよりはマシに為るから問題では無い。
要は、如何にして生き残る確率を高めるかであり、このサバイバル生活は彼等の能力を飛躍的に高める結果と為った。
更に言えば、行き成り上位の魔獣細胞を取り込んだため、覚醒が飛躍的に早まったのも原因の一つである。
グラーケロンの心臓の細胞同化効果は、彼等の身体能力を人並み程度に底上げし続けているのである。
虐げられて来た為に、痩せ細っていた事も細胞同化の効果を早める結果と為っていた。
だがエルフ達はそんな事は知らないが故に、彼等が覚醒段階に入るなど夢にも思っていないのだろう。
その無知な所に付け入るスキがあると踏んだセラは、初日にグラーケロンの心臓を彼等に与えたのだ。
こう言うとセラが腹黒に見えるが、彼等が泣きながら朝食を貪るように食べている所を見た時、あまりに不憫で少し泣いていた事をつけたしておこう。
セラも人並みの感情を持ち合わせているのだ。普段が如何に非常識であっても……
「見事にティルクパを倒したのぉ~」
「この程度なら何とかなるでしょ。覚醒するまではサポート優先だけど、ティルクパくらいは狩れないといとねぇ。
取り敢えず第一関門は通過したかな? 今迄は小型の魔獣ばかりだったから」
「次はどうするのじゃ?」
「毒や痺れ効果に耐性のある魔獣は食べさせたから抵抗力は付けたし、次は魔術を混ぜた接近戦なんだけど……今は無理かな」
「では、数日は様子見かのぅ」
「そうなるね。後、二・三か月は無理し無いで行こうと思う。無茶した処でどうしようもないし、今は彼等の力を安定させないとね」
「しかし……魔獣の細胞と相性が良いと云うが…此処までとはのぉ~」
「一週間で人並みの体力が付いたからね、これは脅威的だよ……エルフの長老じゃなくても驚きたくなる」
半神族は魔獣の細胞を取り込む事で、本来ある能力を強化して行く。
これは言わば魔獣の天敵と言えるのだが、其処まで成長するには本来時間が掛かる筈なのである。
だが、上位の魔獣の肉を食べる事により、その能力は異常な速さで成長して行くのであった。
これはセラで無くても流石に驚くであろう。
当初は魔力以外は特筆する物が無い半神族が異常な速さで成長しているのだから、その速度は他の生物の成長速度と比べても驚異的なのは確かだ。
尤も、魔獣の細胞を取り込まない半神族は何時までたっても其のままなのだが……
何にしてもこの三人は異常な速さで進化をしているのであった。
「…あ…もうケリが付いたね…」
「うむ、では下へ行こうかのぉ~♪」
セラ達は崖を飛び下りながら、彼等のいる地上へと降りて行く。
彼等の出した結果に満足をしながら……
アベル・イクス・セニアの三人は、自分が成し遂げた結果に信じられないでいた。
確かにティルクパ単体では大して脅威にはなり得ない。
しかし、集団戦となると部類の強さを発揮する魔獣なのである。
その魔獣をいとも簡単にあっさりと倒した事に、彼等は実感が湧かないでいた。
無論これは虐げられてきた彼等が、自分自身を過小評価している事に起因しているが、其れでもここまで巧く行くとは思ってもみなかったのである。
彼等も手古摺る事は覚悟していたが、そんな暇も無く短時間であっさりとカタが着いたのだ。
其れが彼等を困惑させる原因となっている。
「……こうも簡単に倒せるモノなのか?」
「………僕も信じられないよ…この魔獣は里でも手古摺る存在の筈だよ?」
「信じられない……戦い方次第では私達でも簡単に倒せるんだ……」
半ば現実感が薄い彼等だが、其れだけに今起きている目の前の惨状が信じられない。
脆弱だの役立たずと言われてきた彼等にとって、自分達の可能性を信じ切れるほどの自信が無いのである。
今もこれが夢では無いかと錯覚する程に視野狭窄を起こしていた。
「うんうん、中々良い連携だったよ。この調子でガンガン行ってみよう」
「……セ、先生……」
「なに?」
「これ…僕達が倒したんですよね……?」
「これくらいは出来るでしょ。いくら半神族でも戦い方次第じゃこの程度の魔獣くらい倒せるよ?」
「夢じゃ……無いよね……」
「魔力ではエルフを上回るんだから、この程度で驚いてたらそのうち心労で倒れるよ?」
「私達は……役立たずなんかじゃ無いんだ……」
「単にエルフ族が無知なだけじゃ、一歩間違えばセラのような化け物になる」
「ヴェルさん……充分に化け物のヴェルさんにだけは言われたくないんだけど……」
腐っても龍王であるヴェルさんに、化け物呼ばわりなんかされたくないだろう。
しかしエルフや覚醒前の半神族にとっては何方も規格外である。
充分に化け物で通るのだ。
「それじゃ、拠点に戻ろうか。この魔獣は里に運んでくれるだろうし、回復アイテムを作って補充しないとね」
「どうでも良いがセラよ……お主は何故サバイバル技術がこれ程得意なのじゃ? 魔獣顔負けの適応力じゃぞ?」
「昔、爺ちゃんに叩き込まれた。山で修業をする時は、一月くらいは生活出来なければ意味ないと…」
「お主の祖父は化け物か……世界が滅んでも生きて行けるぞ……」
「腕白でも良い、逞しく育ってほしいが口癖だった…」
「逞し過ぎる!!」
何だかんだ言い合いをしながらも、セラ達は拠点にしている即席のアジトへと向かうのであった。
グラトーを含む長老衆は、各集落から齎される冒険者達の動向を記された書類を読み耽っている。
彼等は外の世界の冒険者達の実力を驚嘆の思いで見つめ、その度に深い溜息を吐いていた。
冒険者の戦力は途轍もないほど強力であり、最早エルフの一族の身では太刀打ち出来ない程の強さを見せつけていたのである。
隙あらば彼等の不備を突いて厭味でも言おうかと思っていても、彼等の戦力はこの里の何倍もの結果を叩き出している事から強く言えない。
ついでに言えば、装備や卓越した戦略により、倒すべき魔獣を速やかに処理している。
倒した魔獣も各集落に届けられ、その効果はあまりにも絶大であった。
他の集落の生活が魔獣の肉や素材で安定し、エルフ族が教義としていた愚かしさなど微塵も感じられないのだ。
その結果、長老衆の命令でエルフだけで狩りをするよりも、遥かに高い評価を得ているのが忌々しく思えたのである。
未だ他種族を敵視している強硬派にとって、彼等が受け入れられる事は非常に好ましくない。
自分達が優れていると云うエゴが捨てきれない以上、彼等が敵意を捨てる事は出来ないだろう。
そして、結果が既に出ているにも係わらず、未だに現実を受け入れず下等な種族だと云う妄執が渦巻いていた。
その為、自分達の考えが既に時代遅れだと云う事に気づきながらも、それを否定し続けるしか出来ないもどかしさがグラトーを含む強硬派を苛立たせていた。
早い話が悪い意味での石頭なのであった。
「ふむ……他種族と協力し合うと、これ程の結果になるとは……」
「我等が毎年行う大規模な間引きよりも効果が有る様ですね。最早、里の考え方は時代遅れなのでしょう」
「でしょうな……ここまで結果を出されると、認めざるを得ません」
「秘薬の生成方法の拡大も時間の問題と為れば、我等の優位性は著しく低いと思われます」
「待て、白百合旅団の報酬は秘薬と香辛料であろう? 奴等が秘薬を作れるという保証は何処にも在るまい!」
「いつ出回るか分からぬから、優位性が有る内に手に入れると申しておったではないか。既に時間の問題なのであろう」
「ぬぅ……」
ミラルカの交渉で話をした折、秘薬はまだ出回ってはいないが、ある村で既に作り始めている事が判明している。
ましてや生成方法が迷宮で手に入る以上、どちらにしても時間の問題であった。
下等な種族が自分達の優位性を知らない所で奪ってゆく現実は、グラトーにとっては許しがたい大罪に感じている。
技術は常に磨かれ進化するモノなのであるが、奢り固まった石頭には事実を認めるだけの柔軟さは持ち得なかった。
こうなると子供が駄々を捏ねているのと同じである。グラトーの拘りは、既に見苦しい悪足掻きにしか見えないでいた。
「そう言えば、半神族の娘が大人しいのぅ……もっと派手に暴れるかと思っておったのじゃが、ここ二週間ほど何の騒ぎも起こしておらん」
「下等な小娘には足枷を着けましたからな、以外と手古摺っているんかもしれませんな」
「足枷?」
ヴォールキンは怪訝な表情でグラトーを見詰めた。
「同族を三人ほど共につけただけですよ。下等な半神族に、好き勝手に掻き回されたくは在りませんからな」
「……それが裏目に出ねば良いがな…ふむ…これが最後の書類か、どれ………ブッ!?」
紅茶を啜りながら書類を読み始めたヴォールキンは、そこの書かれた内容を見て噴き出した。
そこに書かれた内容は、この里に居る三人の半神族が怪鳥ティルクパを十二羽も倒したという事実であった。
半神族は魔力以外を除けば、体力はエルフにすら劣るひ弱な種族の筈である。
其れなのに十二羽も魔獣を倒す事が出来たという現実は、常識を遥かに超えた異常事態であった。
それどころか、僅か二週間でそこまで成長する進化速度は、彼等の理性を崩壊させるに十分な威力を持っていたのである。
「ゲホッ! ぐ、グラトー……ゴホッ…コレを……読んでみよ……ゲホ、ゴホッ!」
「なんです、仮にもエルフの最長老なのですから少しは優雅に………ブフッ!?」
嫌味を言いながらも読んだその内容は、グラトーにとっては予想外のモノであった。
下等と蔑んでいた筈の半神族が齎したその戦果は、足を引っ張る筈が最悪な戦力として目覚め始めた事を意味する内容であった。
同時に、覚醒には時間が掛かると踏んでいた彼にとっては予想以上に早い成長速度を持って、グラトーの思惑をアッサリと打ち砕いた事実を知らせる内容でもあったのだ。
どうやら此方の意図を見抜き、それを打ち砕く方向に行動を開始していたと思われる。
だからこそ二週間もの間大人しくしていたのだと悟ったが、時すでに遅し。
この里の半神族は、覚醒へと確実に突き進んでいた。
「ば…馬鹿な……早過ぎる……」
「お主の行動は裏目に出た様じゃのぅ……何もせぬ方がマシであったのではないか?」
「これ以上力をつける前に呼び戻さねば……しかし、何処に居るかが判らぬ…」
「呼び戻すのは良いが、彼等がはたして言う事を聞くかのぅ…」
「どういう意味です? 最長老…」
「方や自分達を導いてくれた恩人、方や自分達を蔑んだ者達……彼等は何方の言う事を聞くじゃろうな?」
「それは当然、我等……」
「本気で言っておるなら、お主の才を疑わざるを得んな……」
ヴォールキンは、老人とは思えぬ鋭い眼光でグラトーを射抜く。
老いたとは云え、長く生きて来たエルフである威厳の篭った眼光にグラトーは射竦められた。
今まで陰口を叩いていた相手が、未だ現役のキレ者である事を改めて思い知らされるのだった。
「最早、彼等は我等の命を聞かぬであろう。自分達の力を知ってしまったのだからのぅ」
「ぐっ・・・・・・」
「お主は自分の能力を過信するあまり、彼等の力を過小評価していたのが敗因じゃよ。
知らぬワケではあるまい? 半神族の娘が同族の少女を弟子にしている事を……」
「それは……ですがまだ未覚醒と云う話では……」
「あの少女は巨大な槌を振り回しておったそうだ。つまり覚醒を始めておると云う事じゃのぅ」
「・・・・・・・」
「一人を弟子にしておるのじゃから、後から三人加わった所で大して手間は変わるまいて」
グラトーは自分の浅はかさを指摘され、言葉を失いながらも屈辱に打ち震えていた。
「半神族の娘はその隙を突いて行動したのじゃろう。同時に自分の戦力に加える事も計算の内でな」
「何と言う小賢しい……下等な半神族の分際で……」
「下等のぅ……儂から見れば、お主の方が下等な人種に見えるぞ? 何せ知恵比べで完全敗北したのじゃからな」
「なっ!? わたしは負けて等……」
「負けたじゃろ? 足枷を填めた積もりが、逆に同族と云う武器を作り出したのじゃからな。
お主の慢心と傲慢さの隙を突いた見事なまでの策じゃな、矢張りこのままでは里は滅びる事に為るのは間違いない。
多少痛手を被ろうとも、同盟に加わる事を検討せねばいかんな」
ヴォールキンはそう言うと静かに席を発ちあがり、自分の住むエリアへと続く扉から出て行った。
残る長老達も同じように出て行く中、グラトーだけ一人取り残されたのであった。
「このままでは済まさぬぞ……下等種族め……」
現実を受けれられない愚か者の呟きが、誰も居なくなった広間に響いていた。
セラ達の拠点は森の中に在る崖をくり抜いて作られていた。
地属性魔術の応用で横穴を掘り、数か所に小さな窓と小部屋を作った原始的な物である。
ロカス村で覚えた魔術の応用をいかんなく発揮し、短時間で作り上げた臨時の拠点であった。
外部から魔獣が侵入しない様に入口は狭く、入り口の周りには木々で隠す事によりカモフラージュしている当り、サバイバル生活に慣れているゲリラとしか思えない様なアジトの様相であった。
何せ外側からは決して此方を発見できない様にしており、安全を考えての拠点を隠す事に力の入れ具合がハンパでは無い。
周りが野生の王国なのだから仕方は無いだろうが、自分達でさえ見失うほどの完璧な迷彩効果を発揮していた。
そんなアジトの中には解体された魔獣の肉が吊るされている当り、このサバイバル生活に慣れて来ているどころか、寧ろ野生に適応している感じがする。
今のセラ達は可成り原始的な生活を送っているのだが、そんな穴倉生活も美味い食事があると快適に思えるのが不思議である。
「まだかのぉ~……まだかのぉ~…」
「直ぐに煮込み終る訳じゃ無いからね? 鍋を見ていた所で掛かる時間は同じなんだから」
ヴェルさんは火にくべられた鍋を凝視し、涎を垂らしながら肉が煮えるのを待っていた。
他の三人もそれぞれが森で取れる香草や山菜などを下処理し、根菜を焼いて皮をむき其れを練る事で即席のパンを作っていたりする。
奴隷よりも酷い扱いを受けていた彼等だが家事能力は優れており、直ぐに食事の準備に取り掛かれる程に手馴れていた。
その結果として、今の彼等の生活は里に居る時よりも遥かの充実していたりする。
住めば都とも言うが、今の彼等の生活は里と比べても天と地の差がり過ぎた。
三人の半神族は凄く幸せそうである。
「ティルクパの肉団子は、こんな物でいいでしょうか?」
「うん、出来たら直ぐに鍋に入れて。野菜の方はどうなってる?」
「【べノム草】の根は切り落としましたけど、毒のある根の方はどうするんですかぁ?」
「毒矢に使うから取って置いて、狩りに使えるから便利だよね」
「パンも、もうじき焼けそうです。いい匂いがしてきましたよぉ~♡」
サバイバル生活が里の生活よりも快適なのは如何な物であろう?
今の彼等は、この穴倉が実に最適な生活の場となっていた。
人の適応力とはこれ程逞しい等と誰が知り得ただろうか? 恐らくは、辺境の村人達よりも良い生活を送っている。
貧弱と言われた半神族だが、今の彼等にそんな言葉は適さないだろう。
彼等はこの二週間で、どこでも生活できる技術を死に物狂いで手に入れたのであった。
「決めた。私は冒険者達と共にロカスの村へ行く事にする」
「えぇ~狡い、僕も行くよ!」
「あたしも行く。里に居た所で嫌な目に遭うだけだし」
「良い判断じゃ、人生とは自分の意思で決め責任を持つ事が重要じゃ」
「そうだね……犯罪に関してもそうだよね? チチスキーさん……」
「たとえ罪と分かっていても……迸る熱いパトスは止められぬのじゃ……」
「神話にしてあげようか? ヴェルさん……」
藪を突けば蛇が出る。
ヴェルさんが良い事を言えば、それを逆手に鬼が出た様である。
嘗ての聖魔竜は、セラの報復を恐れ震え上がっていた。
他愛も無い会話をしながらも、三人の半神族は自分達の装備の手入れを入念に行っている。
この装備はセラが与えた物であり、この世界に再構築されたゲーム内の武具や武器であった。
その中でレア装備でありながら、幾つかダブっている物を彼等に使わせているのである。
装備自体はエルフの里の物より格段に上であり、初心者が装備するには破格な性能を誇っている。
彼等はそんな装備を無償で提供してくれたセラに対して、憧憬と感謝の念が堪えないのだ。
「そろそろ煮えたみたいだし、ご飯にしようか」
「「「 さんせぇ~い♡ 」」」
「美味そうな匂いがしていると思えば……お前等、こんな所にアジトを作ってたのかよ」
「「「 !? 」」」
「おや? レイルさんではないですか、狩りの帰りですか?」
入り口から現れたのはレイルパーティであった。
「此の侭だと暗くなりそうだからな、今日は泊めてくんねぇか?」
「構いませんけど、狭いですよ?」
「別に良いさ、あの秘境に比べたら天国みたいなもんだろう」
「お邪魔しますね? セラさん」
「まさか…こんな所に拠点を作っていたなんて……どこまで規格外なのよアンタ…」
ファイは既に慣れてしまったのか、拠点を見つけても驚く様な事は無かった。
寧ろセラなら納得と言わんばかりに深い溜息を吐く。
「狩りをするなら拠点くらいは作るでしょ?」
「作らないわよ、村か里に向かえば良いんだから……どんたけ逞しいのよ、アンタ…」
「凄く快適そうですね……秘境での生活は何だったのでしょう……ハァ…」
食料の確保すら困難な極寒の地では、この深緑地帯と比べれば正に天国と地獄。
ファイやミシェルが不憫に思えて来た。
「この人数だと量が足りなくなるかもしれませんから、其の時は料理を手伝ってくださいよ?」
「あぁ、それ位はさせて貰う。悪いな、食事時に押し掛けちまって」
「全くじゃ、我の食べる分が減るではないか」
「見た目がそんなにちっこいのに、何処に山盛りの食いもんが入るんだよ」
ヴェルさんは人一倍どころか、十人前は軽く食べるのである。
本当に何処に入るのか謎であった。
「そう言えば…この先にティルクパを解体したような跡が在ったんだが……」
「それは僕達です。今の夕食の食材ですよ? ここに戻る途中で見つけたので始末しました」
「「「 お前等…逞し過ぎんだろ…… 」」」
「誰もが持っている原始の力ですよ? 無論レイルさんでも出来ます。一緒にどうです?」
「やらねぇよ!? お前等、完全に野生に目覚めてんじゃん!!」
「冒険者なんて、大概は原始人みたいなものじゃ無いですか。獲物を求めて武器を振り回してるんですから」
「いや、全然違うから…な?……多分…」
否定はするものの、レイルには自信を持って違うとは言えなかった。
野性的な本能は時として、狩りには重要な役割を果たすのである。
レイルもその本能的な直観に幾度も助けられている覚えが有り、面と向かって完全に否定する事は出来ないのだ。
悩むレイル達と共に食事を済ませ、その後セラ達は直ぐに就寝したのである。
木々の生い茂る森の中は、夜が訪れると暗いどころでは無い。
穴倉から外に出るには危険であり、朝が来るまでは大人しくしているしかないのだ。
無論、夜行性の魔獣が入り込めない様に入口を丁寧に塞ぎ、寝冷えしない様に暖を取りつつ朝が来るのを待つのである。
見張りは交代制で、最初はアベル達が請け負う事に為った。
三交代で見張りをしながら休む事に、彼等は慣れて来たようである。
セラ達が就寝し、辺りから獣のが鳴声しか聞こえない深夜に其れは起こった。
―――――ズン……ズズン……
何か途轍もない重量が在る物が、地響きをたてて歩いている様な振動に彼等は一斉に目を覚ましたのである。
各々が武器を手に取り、警戒の色を強める。
「……何だ? この振動は……」
「……魔獣だとは思うけど…凄く嫌な予感がするわ……」
エルフであるファイには危機察知能力が優れている。
其れだけに、今地響きを立てて動いている存在の強さを逸早く察知していた。
小窓を塞いでいる枝を退かし、彼等は周囲を見渡す。
月明かりに照らされながらも木々を揺らし蠢く巨体。
二足歩行型の恐竜を思わせるような外観に、濃緑色や茶色の迷彩模様の体毛。
鉄板すらも噛み千切る様な頑丈な顎と鋭い牙を持つ魔獣。
「……何だ……あの魔獣は……」
「グリードレクスですね。この辺りで最強の魔獣ですよ……」
「ここ、大丈夫なの? 襲われたらひとたまりも無いんだけど……」
「魔術が通用しないのですよね。……上位クラスが複数の部隊で倒す魔獣……」
「まぁ、そうなんですけど……ヴェルさん……」
「うむ……」
セラとヴェルさんが武器と回復薬の点検を始める。
嫌な予感がするレイルは、何と無くやろうとすることは分かるが、念の為セラに聞いた。
「おい……どうする気だ?」
「狩りますよ? 僕はこの為に来たんですから」
「ティルクパの方は良いのかよっ!?」
「アレは誰でも狩れるでしょ……僕達は大物を狙います」
「うむ、アレの肉も美味いからのぅ。美味しく頂いてやるのじゃ♡」
最早この二人は止められない。
既にやる気である。
「……俺も出ようか?」
「レイルさんは念のために、近くの村まで三人を避難させておいてください。ここは戦場に為ります」
「それが良かろう。戻ったら奴の肉でパーティーでもしよう……」
「ヴェルさん……それ、死亡フラグ」
全く緊張感の無い二人。
準備を調えた二人は、嬉々として入口へと向かう。
「パーティーしようぜ、〇ンヘッド!」
「誰が、ガン〇ッドじゃ!! 古いわっ!!」
狩る愚痴を叩きながら出て行く二人を、レイル達は無言で見送った。
其処にはある種の悟りが開けた表情をしていたと云う。
其れから数分後、グリードレクスの咆哮と斬撃がぶつかり合う音が森に木魂した。
狩りの時間が始まった合図である。
レイル達が三人を連れ、近くの村へと非難を開始するのは、派手な爆発音を聞いた後であった。




