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 なんか、押し付けられました ~期待には応えてあげたいと思います~

 三話連続投稿です。

 エルフ達の集落は、各家々が連結しておりドーナツ状の構造をしている。

 中央の大樹が天高くそびえ青々とした葉を茂らせ、木漏れ日が枝や葉の隙間から差し込んで来ていた。

 見ている分には中々に壮観なのだが、そこに住む者達は決してそうでは無い。

 里を守る為に選ばれ雇い入れた冒険者達を、最初は敵意の篭った眼で見ていたが、セラの放ったディストラクションバーストにより、その眼は怯えに変わったのである。


 威力の程度に差は有れど、里の外の世界では当たり前に為りつつある武器であり、然程珍しい物でも無いが、この里の中以外の世界を知らない彼等にとっては未知の武器であった。

 その圧倒的な威力の前に彼等は驚愕し、村で培われてきた傲慢とも奢りとも云える価値観は、見事なまでに徹底的に完膚なきまでに打ち砕かれたのだった。

 言わば、セラはエルフの里に襲来した黒船であった。


『あ……あいつ等がさっきの爆発を?』

『あんな物が里に打ち込まれたら……』

『あれ……半神族よね!? 何で、あんな巨大な武器を持てるのよ!?』

『この村にる半神族じゃ持つ事すら出来ない筈だ……それを片手で軽々と……』

『半魔族に…獣人………ドワーフまで居るぞ……』

『奴等が共存している話は本当だったのか……』

『もし……戦いにでもなったら……』


 彼等は身を顰めながらも口々に冒険者達の噂話で持ちきりであった。

 なまじ最初のインパクトが凄過ぎた為、怯えた彼等は声を潜めて話し合っている。

 今や未知なる集団と化した他種族同盟軍と勘違いされている冒険者達。

 国の軍隊とは一切関係は無いのだが、彼等の目からすれば侵略者の手先にしか見えないのだ。


「返って注目されてますわね……其れだけ脅威に感じたのでしょう」

「また何かやりそうで、うち怖いわぁ~……あの娘、ホンマぶっ飛んでおるで……」

「正直、エルフで無くても怖ろしいな……何を仕出かすか分からないと云う意味では……」

「ですが、これであからさまな敵対行動はしなくなりますね。本当に出鼻を挫きましたよ?」


 白百合旅団のエルカを除く四人はそう言いながらも、行き成りとんでもない真似を仕出かした張本人を眺めながら歩いて行く。

 その注目のセラはと云うと何故か無限バックに手を突っ込み、中からもう一振りの砲剣を取り出した。


「何か期待されているみたいだから、もう一発花火を……」

「「「「「「 やめんかぁ――――――――――――――――――――――――――っ!! 」」」」」」

「えぇ~~~~~!?」

「「「「「「 何で残念そうなんだよっ!! 」」」」」」

「アンコールに応えてこそ、真のエンターテイナー……」

「「「「「「 誰がだよっ!? 良いから大人しくしてろっ!! 何もするなっ!! 」」」」」」

「酷い……僕はただ…皆さんの期待に応えようとしただけなのに……」

「「「「「「 してねーからなっ!? お前はここに何しに来たんだよッ!!  」」」」」」

「……デストロイ?」

「「「「「「 魔獣をなっ!! 間違ってもエルフじゃねぇからな!! 」」」」」」

「せめて後一回、特大な花火を……」

「「「「「「 すんなぁ――――――――――――――――っ!! 」」」」」」


 セラが何処まで本気なのかが判らない。

 ただ解る事は、ここで再び特大な花火を上げればエルフの里は大混乱にへと陥るだろう。

 下手をすれば何かの間違いで交戦状態になる可能性が有る以上、セラには大人しくしていて欲しかったのである。

 

「怖ろしい子だ…何故マイアはあんな非常識な子を姉と慕うんだ……」

「力の面では確かに非常識だが、お前に言われたくは無いと思うぞ? エーデル……」

「私は、あそこまで非常識では無い!!」

「「「「 いや、ある意味では彼女よりも最低の非常識だから…… 」」」」


 幾らセラでも、気に入った少女を見かけたら速攻で手を出す変質者と同列にされたくは無いであろう。

 エーデルワイスは仲間から総ツッコミを受けるのだった。





 セラ達は其々に部屋を割り当てられ、その部屋が今日から拠点となる。

 セラ達の部屋は数人の家族が住むような部屋であり、厨房や各個別の部屋が内部で仕切られている。

 フィオとマイア、セラとヴェルさんが同室と為り、ラック夫妻が残りの部屋に泊まる事と為った。


「う~~ん……まるでアパートかマンションみたいな作りだね。火事になったらどうするんだろ?」

「其処で魔術の出番じゃろ? 水や氷系統の魔術で消すのではないか?」

「なるほど……所でヴェルさん……」

「何じゃ?」

「寝ている時に襲ったら殺すからね♡ 其れはもう……惨たらしく……」

「我をそんなにも信用できぬのかっ!?」

「逆に聞くけど…信用出来るような事をした時が有ったっけ?」


 ジト目で睨むセラの顔を直視できず、ヴェルさんはそっぽを向いて吹けもしない口笛を吹いていた。

 自覚が有る様で何よりである。

 尤も、其れで大人しくしているヴェルさんでは無いが……


「取り敢えず、荷物はこの場に……置いておく必要も無いか……」

「じゃのぉ~無限バッグが有る以上は、荷物を残しておく意味が無いからのぉ~」


 今日の所はセラ達冒険者は何もする事は無く、旅の疲れを癒す為に宛がわれた部屋で休む事に為っている。

 明日から本格的な狩りをする事に為るのだが、冒険者達の代表的な存在であるエーデルワイスとミラルカは長老衆と話し合うために途中で別れる事と為った。

 依頼の内容がティルクパの討伐と、間引きによる生態系の制御で有る以上、狩る魔獣の数も限られている故に入念な話し合いが必要なのである。

 一部の魔獣を殲滅してしまうと、今度は別の魔獣が大量繁殖してしまうのだ。

 そうなれば生態系は大幅に狂い、最悪災害指定級の魔獣を呼び寄せてしまう事に為りかねない。


 冒険者はただ魔獣を狩ればいい訳では無く、時折生態系の調査や魔獣の繁殖具合を調べる仕事を請け負う事が有る。

 そうした情報を元に各冒険者に依頼が降りるように為るのだが、其れだと緊急時に後手に回り易く時には臨機応変に対応する機転も必要になる。

 更に地質調査なども加えると相応の知識が要求される事に為り、その知識の深さが冒険者のレベルになるのである。

 つまり早い話、馬鹿では上位には上がれないと云う事だ。

 生活圏を広げるために生まれたこのシステムは、確かに優秀な人材を育成する貢献はしているが、同時に使い物にならないゴロツキを大量生産している。

 その結果治安の悪化を招いているのだから、悩ましい問題でもあった。



 セラ達が部屋で寛いでいる頃、エーデルワイスとミラルカは長老衆と対面を果たしていた。

 ミラルカの交渉手腕により、互いの交渉は恙無く進んでいた。

 彼女の交渉術は見事なものであり、敵意剥き出しの強硬派すら丸め込み話をスムーズに進めて行く。

 そうなると暇なのがエーデルワイスであり、彼女は欠伸を噛み殺しながら退屈な時間を耐えねばならなかった。

 だが、一旅団の団長が欠伸をするなど失礼であたり、ましてや大事な交渉の最中である。

 余計な荒波をたてる訳には行かないと、地獄のような時間を耐え抜くのだった。

 一応良識と云うものを持っていた様である。


「討伐するティルクパの数と、依頼の金額はこれで良いですわね」

「うむ……足りない料金は秘薬を格安で購入すると云う事で良いのだな?」

「えぇ、あと香辛料なども欲しい所ですわね。この里原産の香辛料は素晴らしい物ですから」

「ふむ、依頼料は其方たち旅団では無く他の冒険者に、お主達には秘薬と香辛料で払う。

 ……此方の資金的には有り難いのじゃが……本当にそれで良いのか?」

「構いません。香辛料も、やり方次第では依頼金に匹敵する売り上げを出す事ができますから」


 優雅に微笑みながら、長老達にそう告げるミラルカ。

 白百合旅団には懇意にしている商人がおり、その商人と香辛料を取り引きすれば充分に依頼金を確保する事が可能なのである。

 勿論懇意にしているのは同じ白百合旅団のメンバーである獣人族、セティの実家である商団である。

 エルフ族の香辛料は品質や味の面でも優れており、何処の高級な料理店でも引く手あまたで買おうとするだろう。

 仮に同盟の仲間入りをする事に為れば、街道は新たに切り開かれ、多くの商人達が取引に訪れる事は間違いない。

 それ程までに価値のある物なのである。


「……それよりも、本当に大丈夫なのか? お前達の連れて来た半神族……」

「敵対しなければ危害は加えませんよ? 余計な事をすればエルカさんの二の舞になりますから」

「エルカは一体何をされたのだ……この里の半神族を見ても酷く怯えるほどに……」

「伝説級の戦斧で追い掛け回され、魔術で徹底的に攻められた挙句に、瀕死になったら強制的に回復させられてまた追い駆け廻されるの繰り返しでしたわ」

「……お前達は……それを黙って見ていたのか……?」


 グラトーはエルカの父親であり、一人娘である彼女をこよなく愛していた。

 そんな娘が、能力面では魔力以外が全て劣る半神族に、決して癒える事の無い心の傷を負わされた事に激しい憤りを感じていた。

 それは、傍で見ていた彼女達に対しても同罪である。

 彼にとっては許しがたい蛮行であった。


「それは仕方が無いでしょう。わたくし達は彼女を我が旅団に招き入れる為に、かの村を訪れたのです。

 そこでこの里の常識を持ち出し、彼女の怒りに触れたのであればエルカさんの自業自得。

 冒険者とは、常に自己責任の精神で行動しておりますので、私達にとっては与り知らぬ事ですわ」

「止めようと思えば止められたであろう。何故、何もしなかったと聞いておるのだ!!」


 グラトーの憤る姿を見て、ミラルカは溜息を吐いて合われそうな眼差しを向ける。

 そして彼女は告げる。


「無理ですわね。彼女を止められるほど私たちは強くありません。

 下手をすれば巻き添えになりかねない状況でしたから……彼女を止められる方なんて同族の覚醒者か、若しくは半魔族の余程の手練れでないと無理ですわね。

 あの殺意の前では如何なる者とて太刀打ち出来ないでしょう……単独でアムナグアと戦う方は並ではありませんでしたわ…」

「しかし……」

「よさぬか、グラトー!!」


 感情的に為りつつあるグラトーを止めたのは、最古老のヴォールキンであった。

 困り果てた表情を見せながら長く伸ばした髭を摩り、深い溜息を吐く。


「下手をすれば、ファイも同じ目に遭っていたかと思うと他人事では無いのじゃが、ここは控えよグラトー……」

「どう云う事ですか……?」

「何でも、最初にその半神族を見かけた時に殺そうとしたらしいのじゃが、連れの者達に止められたらしい」

「……」

「儂もエルカの実力は知っておるつもりじゃが、里で1・2を争う実力者を徹底的に追い詰めたのじゃぞ?

 並みの相手では無い事は確かであろう……恐らく、お主でも返り討ちは間違いあるまいて…」

「ですが、其の者は我等に宣戦布告をしたのですぞ!! 何を悠長な事を言っているのです!!」

「アレは只の威嚇じゃろう。半神族ゆえに里に入る事の意味を十分に理解しておる……故に先手を取ったのじゃ……

 仕掛けて来るなら受けて起つ、しかし覚悟は決めろとな……最早、半神族では無いな、古の神族の様じゃわい」

「……まさか…覚醒とは………」

「限り無く神族に近付く事なのじゃろう……ましてや覚醒しているのじゃから、如何程の力を持っておるのか計り知れん」


 旧神族はその圧倒的な魔力で奇跡を起こし、強靭な肉体で敵対する者達を蹴散らしたと云う伝承が有る。

 仮に存在していたのだとすれば、恐らくはセラの様な存在であるとヴォールキンは推測していた。

 そして、敵地に堂々と姿を見せている事から、返り討ちにする自信があると思われた。

 推測すればするほど、覚醒者が底知れない化け物に思え震えがくる。


「御話中、申訳ありませんが…彼女はそこまで考えているとは思えませんわよ?」

「何故そう言い切れるのじゃ、エルカ殿?」

「彼女は単に、〝注目されていたから花火を上げてみた〟そう仰っておりましたわ……」

「「「「「「 ハァ!? 」」」」」」

「ですから…注目されていたから、つい何か芸を披露したくなっただけらしいのです」

「「「「「「 芸っ!? アレがかぁっ!? 」」」」」」

「本人は花火と仰って居ましたわ……確かに派手ではあるのですが、些か趣に欠けますね」

「「「「「 そんなレベルじゃねぇ―よっ!? 芸どころか、完全に破壊行為じゃん!! 」」」」」」

「ディストラクションバーストを放ち終えた彼女は、実に良い笑顔でしたわ」

「「「「「 ただの愉快犯かよっ!! 人騒がせにも程が有るッ!! 」」」」」」


 長老達は別の意味でも頭を抱える事に為った。

 ミラルカは最初に放ったディストラクションバーストと、里の中に入った時のセラの会話からそれ程難しい事は考えてはいないと察したのである。

 詰まりは全てが衝動的な行動であり、その行動を裏付ける為の言い訳を並べていただけなのだ。

 セラの性格は意外におちゃめであり、その行動力は突拍子もない。

 更に頭の回転も早く、その場で言い訳を尤もらしい理由で語る物だから、誰もがその言い訳とも屁理屈とも云える話を信じてしまうのだ。

 だが、其れでもエルフ達には驚異的なのは変わりはない。


 性格は兎も角、途轍もなく強い手練れである事は紛れも無い事実なのだ。

 その手練れが何を仕出かすか分からない非常識だと判ると、ただのゴロツキよりも扱い辛い存在となるのである。

 寧ろどんな事を仕出かすか分からない怖さが、彼等長老衆を更に悩ませる事に為る。

 ただでさえ犠牲者は徹底的に心が砕かれるまで追い詰められ、或は魔獣討伐を強制的にさせられ、魔獣に食われる事になったりするのだ。

 何だかんだで命は助かるが、それ以外の行動が酷過ぎるのである。


「半神族の娘二人には手を出さない方向で良いな……何かの間違いで怒らせでもしたら後が怖い」

「「「「 異議なし…… 」」」」


 誰もがセラに手出しをしないと決めた中で、一人だけ敵意の篭った眼で見ているものが居た。

 エルカの父親であるグラトーである。

 

 彼は交渉の席を発つと、逸早く自分の住むエリアに向かって足を速めた。

 この里は円形をした集落の集合であり、其々を六つのエリアに分けてそれぞれの長老が管理していた。

 彼の治めるエリアは最も北にあるエリアで、強硬派でもある彼等の本拠地でもある。

 最愛の娘を凹られた恨みがあるが、真っ向勝負では勝ち目はまず無い。

 ならば如何するか……


「セオン…セオンは居るか!!」

「如何なされました、グラトー様」


 グラトーは部下でもあるエルフの男性を呼びつけた。

 セオンはフレアローゼの父親であり、彼女がクラウパに喰われたと云う事実を知り暫く寝込んでいた。

 まぁ、最愛の娘が魔獣の腹に納まったなど聞きたくも無い話だろう。

 気持ちは分かる……


「至急、村の半神族を集めよ」

「半神族を? 何の為にですか?」

「忌々しい、半神族の小娘の足を引っ張る為に決まっておるだろう!」

「ですが、万が一にこの里の半神族が覚醒でもされたら……」

「数日でそれ程力をつける訳では無かろう。その前に小娘に枷を填めるのだ!」


 グラトーは小賢しい男であった……


「成程……里で好き勝手に出来ない様にするわけですね」

「それも有るが、下等な半神族を始末するのが同族と云うのも面白いではないか。

 小娘には精々苦しんでまラわねばな……其方とて娘にされた仕打ちの恨みも有ろうて」

「確かに……この里に居る半神族は三人…どれも貧弱ですからな、枷にはもってこいでしょう」

「役立たずには、精々足を引っ張って貰う事にしよう……ククク……」


 悪辣な笑みを浮かべるグラトー。

 しかし、彼のこの企みが予想外の結果になるとは、この時は知る由も無かった。



 翌朝、セラは息苦しさを感じて目を覚ますと、左右には何故かフィオとマイアがしがみ付いて眠っていた。

 いつもの事なので気にもしなかったが、よく見ると自分の胸に顔を埋め、だらしの無い笑みを浮かべて寝ているヴェルさんを発見する。

 セラは寝ぼけ眼を擦り、ヴェルさんを片手で掴みそのまま窓辺へと移動すると、ヴェルさんを窓の外に無造作に投げ捨てた。


『おにゃああああああああああああああああああああっ!?』


 何やら激しい物音が聞こえて来たが気にも留めず、セラは何気に着替えを始め、ふと、ある事に気が付いた。

 ベットには未だにキグルミパジャマのフィオと、全裸のマイアが眠っている。

 いつもの事なので気にもしなかったが、翌々考えてみれば可成りヤバいのではと云う考えに思い至ったのだ。

 フィオは兎も角、マイアは全裸なのだ。本来であるなら精神的に宜しくは無い筈なのである。

 しかしながら、それを自然と受け入れて平然としている自分がいる。 

 セラは目の前が真っ暗になる様な錯覚を覚えた。


「……いつの間にかこの状況が日常になってる……マズイ……次第に女の子化してるよ、僕……疑問にすら思わなかった………

 其れより二人共……いつの間に潜り込んだの……? 全然気づかなかった……」


 既にセラの精神は可成り少女化かしている様であった。

 エルフの里での一日目の朝はこうして迎える事と為った。

 爽やかな森の風が、セラの流した冷や汗を更に冷たい物に感じさせるのであった。

 



 

 

「狩るぜぇ~~肉、狩るぜぇ~~~」


 食い意地の張ったヴェルさんは何時にも益してやる気になっている。

 そんなヴェルさんを横目に、セラ達は朝食の準備を始めていた。


「今日はフィオちゃんとマイアちゃんはルーチェさんと組んで、僕とヴェルさんが大物狙いで行こうかと思います」

「ちょ、セラちゃん? ティルクパの討伐はしないの? 一応依頼よ、これ」

「砲剣で殲滅しても良いならやりますけど、森が一気に焦土と化しますが?」

「あぁ~でも他の武器が有るんでしょ? 其れで狩りをすれば良いんじゃないの?」

「僕が出張ると、フィオちゃんやマイアちゃんの修業にならないでしょ? 他の人と組んでの仕事も学ばないといけないと思いますし」

「……なるほど…セラちゃんが居ては安心感から真剣に為りきれないのね」


 いつかは独り立ちする以上、其処に絶対的な安全など有り得無い。

 セラと云う守護者が後方で控えていれば、それが安心感に変わり、本気で教えられた事を実践出来るとは思えないのだ。

 時に他の冒険者と組む事が有る以上、出来る限り実戦に近い方が修業になるのである。


「そう言う事です。いつかは独り立ちしなければいけませんから、経験を積ませようと云う訳です」

「そう言う事なら了解よ。フィオがどれだけの腕なのか見てあげるわ」

「マイアちゃんの方もお願いしますよ?」

「任せておいて、だてに上級冒険者の位に居る訳じゃ無いから。新人はきちんと面倒見てあげる♡」


 ルーチェは何故かテンションが上がっていた。

 娘と狩りをするのが余程嬉しいのであろう。可成り舞い上がっている。

  

「セラとヴェルさんはコンビで行くのか? 何か、余計な大物を倒しそうな気がすんだが……」

「その期待に応えましょう! 目標はグリードレクスです」

「お願いだから、ティルクパも狩ってちょうだい! あいつ等には迷惑してんだから」

「気が向いたら倒します。目標は大物、それ以外は眼中に有りません」

「セラさんは強い魔獣しか興味が無いのですね……依頼など如何でもよいのですか?」

「邪魔だったら倒しますよ? どうせ数は多いのだから嫌でも戦う事に為りますよ」


 レイル達は既に諦めた。

 何を言った所で、セラ達が片手間でティルクパを倒し、大型魔獣を仕留めるのは保々間違いないだろう。

 序で倒されるティルクパが寧ろ哀れに思えて来る、レイル達のであった。


「所で、レイルさん達は朝食は済ませたんだすか?」

「いや、これからだな。その前にお前等の予定を聞いておこうかと思ってな」

「じゃあ、序で用意しますので手伝ってください」

「俺は良いが…ファイがな……」

「何か問題でも?」

「あたし、苦手なのよ……料理が……」


 ファイはこう見えて良い所のお嬢である。

 当然ながら料理などした事も無く、もっぱら同胞を守る為に狩りの腕を磨いて来たのであった。

 以外に料理が得意なのはレイルである。ミシェルに至っては普通で、不味くは無いが美味と言えるほど洗練されている訳でも無い。


「むぅ……料理上手なイケメンですか…ポイントが高いですね…」

「何の話だ? で、何を作るんだ?」

「普通にサラダとスープにパンですよ? 味付けには其れなりに拘りますが」

「あのマヨネーズだったか? 作り方を教えてくんねぇか? あの味は結構好みだ」

「良いですよ? 以外に長持ちしますからね、旅のお供には最適です」

「作って置いて損はねぇな、味もさることながら他の香辛料とも相性がいい」

「みんな持ち歩いてますよ? Myマヨネーズ。休息の時に食事に一掛けするんです」

「いいね、其れだけでも飯が美味くなる」


 長期間保存の効くマヨネーズは、冒険者にとって必需品となりそうである。

 やがてそれが広がり、多くの旅人が持ち歩くように為る等、この時はセラ達も知る由も無い。

 便利な物はこうして何時の間にか、自然に受け入れられて行くのだろう。


 朝食の準備中、レイルは疑問に思った事が有る。

 作っているのは朝食な筈なのに、何故かその量がハンパでは無いのだ。

 とても今の人数で食べきれる量では無い。

 マヨネーズをかき混ぜながら、レイルはその事をセラに聞く。


「なぁ、何か朝食にしては量が多くね?」

「うちには大飯食らいが居ますからね、その分量が増えるんですよ…めんどくさい……」


 チラリと視線を送る先には、ヴェルさんが吊し上げられ木にぶら下がっている。

 無論、余計な真似をさせないための安全策である。


「何で木に吊るされてんだ?」

「ヴェルさんが手伝うと毒物が精製されますからね、何もさせない為に何時もああして吊るしてるんです」

「村で話に聞いた有毒ガスの事か? アレの原因はヴェルさんだったのか……」

「アレは痛ましい事件でした……多くの犠牲者が出ましたからね。

 犯人はその後も何度か余計な事をしたり、つまみ食いをしたりと邪魔なので、結果としてああした処置を取らざるを得ないんです」

「良かった……あたしより酷い人が居てくれて……」

「ファイさんの料理はそんなに不味いんですか?」

「うっ!?」


 ファイの料理はハッキリ言えば不味い。

 味に統一性が無いのはまだ良いが、マイナス方面で味付けされる為に食べるのが困難なのだ。

 それでも死人が出そうな程ではないので幾分マシだが、毎日食べ続けるにはあまりに酷い味なのである。

 言い換えれば食べられるだけマシと云う事であり、ヴェルさん程にデンジャラスでは無いが、レイルやミシェルには耐えがたい程の味であった。

 そんなファイはヴェルさんの吊るされた木の傍まで行くと、膝を抱え蹲って拗ねる。

 

「ファイは、味付けが悪い方で適当なんだよなぁ~塩一摘みが、手で一掴みになるし……」

「……ふつうは間違えないと思いますが?」

「何でか、そんな間違いを頻繁におかすんだよ……」

「・・・・・・・・」


 其処はレイルに良い所を見せたい乙女心だと言いたい所だが、人の恋路に口出しするほどセラは野暮では無かった。

 ただ、ファイの背中が少し可哀想に見えていた事は言うまでも無い。

 張り切ると何故か悪い方向に行ってしまう、何とも不憫な恋する乙女なのであった。


 朝食も作り終え、配膳の準備を始めようとしたその最中、ロークスが衝撃波を撒き散らし、筋肉を強調するポーズを取りながら此方へとやって来た。

 何故か数名の冒険者が御後に続き、シンクロしたかのようにポーズを決めている姿は、見ていて実に暑苦しい。

 一糸乱れぬそのポージングは、彼等マッスルメイトの絆の深さを物語っていた。

 まぁ、どうでも良い事なのだが……


 其れより気になるのが、彼等の後ろにいる三人の半神族である。

 一人は青年、後の二人は少年少女であった。

 彼等はエルフ特有の長い耳を持っているが、セラと同様に銀の髪と蒼い瞳を持っている。

 何か在りそうだと思えるが、今は相手の出方を見る事にする。


「ふんっ!! セラさん、ふぬおっ!! 少し宜しいですか? ふんぐっ!!」

「構いませんが……話をする時はポーズを取るのを止めてください……」

「失礼。実はですね、折り入って頼みたい事が有るのですが」

「なんでしょう?」

「この里の半神族を鍛えて欲しいと云う事なのですが、引き受けて貰えませんか?」

「ふぅ~~ん……強硬派辺りからの嫌がらせかな? 使い物にならない覚醒前の同族で足を引っ張る。

 何か、やりそうだなぁ………其処まで期待されると、応えたくなるけど……」


 セラの呟きに薄ら寒い物を感じたロークス。

 覚醒者でもあるセラに、他の半神族を会わせるのは危険な予感がしたのだ。

 だが、長老衆の命令だけに逆らう事は出来ない。

 どれだけエルフ離れしようとも、彼はエルフ族なのだから……


「良いですよ? 其処の三人ですよね? ひと月で里を制圧出来るまで鍛えてあげましょう」

「其処までしなくても良いのですが、お願いします。責任は全てグラトー様に有りますから」

「誰ですか、その人?」

「エルカさんの父親ですよ……相当に怨んでるみたいですが?」

「怨まれる様な事したかなぁ~…まぁ、エルフの大半は半神族を目の敵にしてますから、今更か…」


 セラの頭には既にエルカにした事など消えていた。

 苛めっ子は、苛めた相手の事など忘れてしまう物である。

 セラも同様であった……被害者は何時までも覚えているのだが……


「で、この三人の名前は何て言うんです? 因みに僕は、セラ・トレント、貴方方と同類です」

「わ、私はアベルと云います……」

「ぼ…僕はイクス…」

「あたしは……セニア……」

「歓迎しますよ。如何やら貴方方を強くしてくれとの依頼の様ですから、期待に添えてあげようと思いますが……

 その前に食事でもどうですか? 装備は売り物から適当に見繕うとして、腹ごしらえは基本ですからね♡」


 余程酷い生活を送っていたのだろう。彼等は痩せ細り、とても健康的には思えない。

 更に言えば着ている服も彼方此方が破れ、それを他の布で継接ぎをして着ている。

 真面な待遇では無い事は確かだろう。

 彼等三人は、目の前の朝食に目が奪われ餓えた様に腹を鳴らせていた。

 予備の皿を用意して、セラは彼等に朝食を分けてあげる。


「ヴェルさんの分が少なくなるけど……まぁ、いいか。どうせ自分じゃ作れないんだし……」

「酷いのじゃ!!」

「難民の救斉は国際常識だよ、ヴェルさん……」

「ぬぅ……」

「ついでだ、グラーケロンの心臓もあげちゃおう♡」


 無限バッグから取り出した巨大な心臓、それを切り分けて彼等三人の皿の上に乗せた。

 彼等にしてみれば、魔獣の心臓など一生食べる事の無い御馳走だと思っていた。

 それを無造作に目の前に出され、驚愕する。

 しかも一塊のブロックで……


「こ、コレを食べても良いのですか……?」

「幾らでも……下手すると最後の食事になりかねませんからね、これから暫くサバイバルしますから」

「「「 サバイバル!? 」」」

「君達に戦い方を教えてあげるよ。心配はいらない、僕の弟子の一人は同族だから君達が増えた所で教える事に大して変わらない」

「「「 ・・・・・・・・ 」」」


 嫌な予感が彼等に過る。


「所詮この世は弱肉強食、強く為る方法を徹底的に教えてあげるから死ぬ気で覚えてね♡」

「サバイバルて…セラさんも同行するのですよね?」


 恐る恐る聞きだすロークス。


「当然でしょ? 僕が教えなきゃ誰が教えるのさ。悲劇に酔った軟弱な精神を叩き直して、タフで狡猾な冒険者にして見せますよ!」


 天使の様な笑みで、とんでもない事を言い放つセラ。

 だが、この非常識さがグラトー思惑を覆すとローカスは直感する。 

 最早賽は投げられているのだ、後はどう転がるかは結果が教えてくれるだろう。


「……で、では、三人の事を宜しく頼みます」

「はい、は~~い♡ 任せちゃってください」


 元気な少女の声が、ロークスには悪魔の笑い声に聞こえていた。

 背中を向けた彼は知らない。


 この時、セラが酷く悪辣な笑みを浮かべていた事に……


 




 


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