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 エルフの里から依頼がi来ました?  ~百合の方々にも話が行っているみたいです~  

 彼はエルフの里では1・2を争うほどのインテリであった。

 しかし生まれながらに病弱であり、外に出る事など滅多になく日々部屋に篭り本を読みふけっていた。

 そんなある日、彼を含む十数名が里の外の世界を調べるための調査をするために、長老衆の一族内から選ばれる事に為る。

 最初は何故自分がとも思ったが、本から得られる知識と実際に在る物を検証できると、少し期待に胸を膨らませていたのである。


 だが、実際に外の世界に向かった時にそれは起きた。

 元々仲の良くない穏健派と強硬派の一族である、当然ながら意見の食い違いで衝突は起きたのである。

 結局彼等は二つに分かれ、別々の道を行く事に為ったのである。

 更に効率を重視して彼等は個々として動く事にしたため、ロークスは一人で行動せねばならなかった。


 仕方が無くその日は宿に泊まり明日からの方針を考えねばと思っていた矢先に、彼はゴロツキに襲われ有り金全てを奪われたのである。

 そんな彼を助けたのが、黒光りガチムチな一人の男である。

 そして、これが彼の筋肉への道へ誘う運命の出会いでもあった。

 彼は宿を経営していたが、その裏では筋肉の道を探究するボディービルダーだったのである。

 元々健康な体に憧れていた彼は、直ぐその道に進む事に躊躇いは無かった。


 当初は体を動かす度に動けなくなっていたのだが、次第にその苦しみは快感となり、目に見えて自分の体に効果が表れ始めると、彼は感無量な昂揚感に包まれ鍛える事にのみ全力を捧げるようになって行く。

 いつしか彼は美しい筋肉を追い求める探究者へと変貌していったのであった。

 そして現在に至る……


「……何か……間違っているわ…」

「お金を奪われた事に関しては同情できるのですが……」

「助けた相手が最悪だ……ここの主人と同類じゃねぇか……」


 ある意味で、人生を踏み外した様な物である。

 彼は人生を斜め上に突き進んでいた。


「お恥ずかしい限りです。所詮知識は知識、現実と書物からの知識を混同していた私は、世間知らずだったのですよ」

「「「 いや、問題はそこじゃねぇからっ‼‼‼‼ 」」」


 ビキニパンツ一丁のガチムチエルフにツッコむ三人。

 ロークスもどこか感性がズレていた。


「あのぉ~…何で僕は貧弱エルフのガチムチへの道の話を聞かされてるんです? 話があると聞いて来たんですけど……」


何故かこの宿に呼ばれたセラからしてみれば困惑するしかないだろう。


「失礼、話が脱線してしまいましたね。むんっ!!」

「その格好が既に失礼に当たるレベルなんですが……それで要件と云うのは?」

「そうですね、単刀直入に言えば魔獣討伐の依頼を受けて欲しいのですよ。ふんぬっ!!」

「魔獣……あぁ、丁度その時期なんですか、里の戦力ではもう防ぐのは困難だと云う訳ですね?」

「話が早くて助かります。Oh~イェ~ス!!」


 ロークスはガチムチだが、少なくともまだ真面であった。

 彼の話によれば、エルフの里はこれ以上閉鎖的な状態を維持するには困難な状況と判断したのだ。

 既に他種族が同盟を組んでいる今、彼らだけが取り残されている事は孰れ破滅すると結論が出たのだ。

 そんな矢先に魔獣ティルクパの繁殖期が来てしまっていた。

 既に戦力差や技術面での差が開いてしまっている以上、此の侭孤立し続ければ魔獣に滅ぼされるだけになってしまう。

 以前同盟の話を蹴っているだけに皇国に援軍を頼む訳にもいかず、里の内部に至っては選民志向が強く根付いているために混乱は避けられない。


 そこで同盟を組む前に一時期の間外部から討伐者を雇い入れ、外の他種族との偏見を少しでも削ごうと考えたのだ。

 幸か不幸か、ティルクパの繁殖期に入った為に戦力を集めねばならず、同時進行の一石二鳥を考えたのだ。

 とは言え、只のゴロツキ風情を里の内部に入れる訳にもいかず、同族と交流のある冒険者達を優先的に選ぶ事にしたのだ。

 詰る所、ファイの知り合いだからと云う理由である。


「依頼金は出るんですか? ただ働きはしませんよ、僕達は?」

「その辺は大丈夫です。問題は……Oh~It、Beautiful」

「強硬派が未だに渋ってるんですね? 〝怪鳥種など、自分達だけで十分だ!!〟とか言って……」

「その通りです。話以上にキレ者ですね、中々理解が早くて助かります。ふんっ!!」

「少し考えれば分かる事ですよ? ついでに言えば、〝下等な人種共に払う金など無い、呼ぶだけ呼んで使い潰せばいいんだ!!〟とかも言ってない?」

「仰る通りです。愚かな事です……里の危機だと云うのに……カモン、カモン!!」

「傲慢でも理知的でなくては権力者は務まらないのに……馬鹿なんですかね?」


 ロークスには目の前の少女の存在が信じられなかった。

 セラから放たれている気配からして、相当危険な存在である事は分かる。

 だがそれ以上に怖ろしいのは、その情報と知識の豊かさにあった。

 彼女は既にエルフの内情を怖ろしく深く理解している。ロークスにそう思わせるだけの事をセラは僅かな会話の中で話していた。

 味方に為るなら頼もしいが、敵に回せば危険すぎる相手だと判断するに足りるほど、セラは異質な存在に思えたのだ。

 エルカが言っていた里を滅ぼすと云うのも、なまじ誇張で無い事が実感できてしまう。


「どうでも良いんですけど……」

「何です?」

「なんで話しながらポーズをキメるんです? しかもダンベルまで持ってるし……」

「HAーHAーHA!! 肉体の探究者は常に体を鍛えて居るモノですよ? It、Perfect♡」

「そうですか……」


 正直鬱陶しい等と口が裂けても言えないセラ。

 この時セラは、ロークスがジョブよりはマシだが矢張り変人なのだと認識したのである。

 まぁ、話の通じないマッチョよりは、話の通じるマッチョであるが……其れでも同類でる事には変わりはない。


「所で、ロークスさん……」

「何でしょう? ふんぬっ!!」

「【グリードレクス】は今迄に現れた事は?」

「!?」


 グリードレクスはティルクパの繁殖期になると、稀に現れる暴食の魔獣である。

 手当たり次第に獲物に襲い掛かり、飽くなき食欲で他の魔獣を捕食する最悪の魔獣。

 更に厄介な事に、この魔獣には魔術が一切通用しないのだ。

 無論限界値は存在するが、成長の度合いによりその効果は個体事に差が在り、人間やエルフ程度の魔術は全て無効化されるのである。

 また、グラーケロン並みの巨体を誇り、倒す為には接近戦しかないと云う極めて厄介な存在であった。

 無論、エルフの身体的能力では勝つことは不可能であり、この魔獣が現れれば滅びる以外に道は無いに等しいのだ。


「……その魔獣の名を出すなんて……その名はある意味で禁忌ですよ?」

「繁殖期なら出てくる可能性もあるでしょ? 幸いこの辺りには生息していませんが、万が一に現れたらどうするんです?」

「・・・・・・・・」

「冒険者の大半はまず逃げるでしょう。当然ですね、魔術が通じないんですから……

 しかも依頼がティルクパの討伐です。それ以外の魔獣を狩る事はしませんよ、きっと……」


 グリードレクスは、会いたくない魔獣のベスト4に数えられるほどの厄介さなのだ。

 この魔獣が現れたら、当然冒険者達は逃げる事を選ぶのは間違いない。

 そうなると平気でエルフ族を見捨てる可能性が高いのである。

 何事も命あっての物種なのだ。


「今のエルフ族には勝てる見込みは無いですよね? 当然、半端な冒険者では太刀打ち不可能……

 大体、二十年周期で里の近くに出没すると聞いていますが?」

「良く御存じで……実際にあの魔獣に襲われ幾つもの集落が壊滅しました。我等では勝てる見込みは無いですね」

「そして丁度その周期の年なんでしょ? 準備は怠らない方が得策と思うんですけど」

「嘘っ!? アレが出没する周期なのっ!! 最悪、里が滅びるじゃない!!」

「まだ現れると決った訳では無いですけど……」

「そいつが現れたらヤバくねぇか? 準備は念入りに整えておくのが冒険者の鉄則だからな」

「そうですね……ですが私達に倒せる相手なのでしょうか?」


 流石にレイル達もグリードレクスとは戦った事は無い。

 魔術が通じないとなれば接近戦で仕留めなければならないが、大型の肉食魔獣なのである。

 其れが容易に行く等とは思えなかった。


「二足歩行型の魔獣なので足を潰せば何とか勝てるんですが、生半端な武器では固すぎて刃が通らないんですよねぇ~」

「……お前……まさか、倒したのか?」

「装備も作ってますよ? 流石に一対一では手古摺りましたけど」

「もぅ、驚き様が在りませんね……」

「今更、アンタが規格外だと云う事を再認識してもねぇ~、妙に納得できるわ……馬鹿でしょ?」

「何てこと言うんですか!? 僕でも手古摺ったんですよ? 魔術が効かないから長期戦で挑まなければならないんですし!!

 オマケに執念深いし……休憩してる所を追いかけて来るんですよ? 行き成り地中から現れるんです」

「そんな生態、エルフでも知らないわよ……逃げる事しか出来ないんだから……」


 ロークスは呆然としていた。

 グリードレクスはエルフの里では最悪の悪魔である。

 勝てる要素など皆無に等しく、逃げる事しか出来ない厄介な魔獣であった。

 周期内で稀に現れたこの魔獣は、尋常では無い被害を里にもたらすのだ。

 そんな化け物を倒せる存在がいる等とは夢にも思わないだろう。


「ブレスも厄介ですね。首を上げた時に懐を目指すのが有効、薙ぎ払われない様に注意しましょう」

「無茶な事を言いやがる。だが行動で攻撃の瞬間が分かるだけでも救いか……行き成りガチで戦うのは遠慮してぇがな…」

「ティルクパを狩っていると、何故か頻繁に出没するんですよ……その厄介な奴が現れる可能性が今年は非常に高いんです」

「まさか、グリードレクスも繁殖期なのですか?」

「エルフ並みに長命ですからね、その分繁殖力が低いんですけど……ほぼ同時進行です」

「マジかよ…俺はファイの仲間だからこの依頼は受ける事に為るが、お前はどうすんだ? セラ…」

「難しい問題ですね、立場的には……」


 里では未だに半神族の迫害が続いている。

 そんな中に規格外の半神族が現れたらどうなるか、当然ながら彼等の価値観は崩壊し騒ぎになるのは間違いは無い。

 そんな場所に態々乗り込むのも避けたい所である。


「あたしの住む集落ならまだマシな方よ? 迫害と言っても暴力的な真似はしてないから」

「その分、裏で陰険な苛めをしてそうですね……意思ある者の偏った思考なんて、大概は似たり寄ったりですし」

「……否定できないわ……馬鹿な真似をした経験があるから…」


 以前セラを一方的な理由で始末しようとした件である。

 まぁ、未遂に終わったのだが、同じ事を他のエルフがやる可能性は充分に考えられるのだ。


「外から来る冒険者達には危害を加えない約定でも書かせますか? 最長老なら書いてくれるだろうし、馬鹿な真似も防げるでしょう」

「ロークスだっけ、そんな真似できんのか? 下手したらティルクパにでは無く、セラに里を滅ぼされんぞ?」

「セラさんなら遣りそうですね……エルカさんの時も有りますし、フレアローゼさんにもかなり酷い事をしてますから」

「……一体何をしたんです?」

「「「 口じゃ言えない酷い事をです 」」」

「酷い……フレちゃんに関してはファイさんも同罪ですよ……」


 三人の意見が一致する。

 セラにしても身に覚えが在り過ぎて、強く出る事が出来ない。

 そして、それは今も続いている。

 まぁ、彼女に関していえばファイが嗾けた部分も大きいのだが。


「結局どれ程の冒険者が集まるか次第ですね。問題を起こしそうな冒険者は、可成りの数いますからね」

「確かエルカさんがお世話になった旅団の方を連れて来るとか、戦力的にも申し分ない程の実力者らしいですし」

「「「「 え? 白百合旅団!? 」」」」


 その名を聞いた時に、嫌な予感が脳裏を過る。

 白百合旅団は、ゴロツキ冒険者とは別の意味で問題を起こしそうな連中である。

 エルフの半分、主に女性がが毒牙に掛かる連想が出来てしまう四人であった。


 エルフの里は別の意味で危機が迫る事に為るかもしれない。

 旅団の実態を知らないエルフの里は、ある意味で幸せだった。

 やがて他人ごとでは無くなるのだが……





 ラアルファバ山より東に位置した場所に、港町ヴェスリが在る。

 此処は貴族や商人の様な比較的裕福層が邸宅を持つ、別荘地であった。

 また、海運業が盛んな土地であり、多くの物資や様々な品物が集まる事からこの街の経済は比較的に潤っている。

 そんな街に白百合旅団の本拠地は存在した。


 団員の数は千を越え、依頼に応じて人数や戦略、装備を変える事により如何なる戦局にも対応できる上位の冒険者集団である。

 また、団員全てが女性であり、冒険者として生業にするのに難しい性別でありながら数多くの功績を残している異例の集団でもある。

 団員の中には色々と訳有の素性も多いのだが、この旅団はその辺りは無関心であった。

 性別が女性であるなら誰でも入団できる、女性だけの魔獣討伐を目的とした狩り人であるのだが、別の意味でも狩り人であるのは有名な話である。

 

 そんな旅団の団長は、現在ベットの中で腐っていた。

 理由は単純明快で、単にマイアにフラれたのが原因である。

 団長の名はエーデルワイス・ヴァン・アクエル。

 年下の少女をこよなく愛する白百合の狩人である。


「団長……まだ立ち直っていなかったんですの?」

「本気で気に入っていたようですからね、私は気に入りませんでしたけど……」

「同感ね、けど……あの化け物側に付いたとなると、その子も化け物になる可能性は充分にあるわね」

「セラはんやなぁ? あの子、怖すぎるわぁ~敵には情け容赦ないやん」

「まぁ、マイアを追い詰めたのは団長自身だ。自業自得だろう」


 エルカとしてはこの旅団に協力して貰わねばならない事態が起きている。

 ティルクパの殲滅は戦力が足りず、外部の協力が必要不可欠なのだ。

 だが、その協力を仰ぐべき人物が現在再起不能なのである。


 顔には隈が出来、顔は痩せ幽鬼のような薄気味悪さを醸し出し、目は虚ろで窓に向かい薄ら笑いを浮かべている。

 しかも頭部にはマイアのパンツを被って………

 見方を変えればヤバイ薬の中毒患者の様である。

 正直、近付きたくも無い。


「……私の何処が悪いと云うのだ………あれ程情熱的に愛をささやいたと云うのに……」

「エーデル…アレは執拗に彼女を追い掛け回して、彼女に恐怖を刻み込んだだけであろう?

 そこに、どうしたら愛なんて言葉が入るのだ? 傍から見れば、ただの異常者だ」

「…私の愛が受け入れられないと云うなら……いっその事、この手で……ふふふ……」


 ヤバい精神状態であった。

 明らかに重度の精神異常をきたした末期患者的発想である。


「お姉様……御労しや……」

「なんでやねん! どう考えても団長が悪いやん、あんなストーキングされたら誰でも嫌うわ!!」

「お姉様の愛を分からないあの子が悪いのよ!! よりによって、あんな化け物を姉なんて呼ぶなんて…」

「マイアにしてみれば同族だ。其れも自分の求めていた強さを手に入れた…憧れるのも無理は無い」

「レミーも大概やなぁ~これの何処がええんや? 何処からどう見ても変態や」


 獣人族のセティにでも、団長のエーデルワイスは異常者にしか見えない。

 いや、異常者以外の何者でもないのだが、そんな団長に傾倒するレミーの気が知れない。 


「確かにお姉様のアプローチには問題があると思います。でも、本当はとてもお優しい方なんですよ!!」

「其処にベットの中ではと云う言葉が入らなければな……エルカ殿の様に、一度痛い目を見れば目が覚めると思うのだが…」

「何故そこで私を引き合いに出すのです? それと……思い出させないでください……」 


 団長がこの調子では纏まる話も纏まらない。

 フレイはどうしたものかと腕を組み悩む。

 今日に限って副団長でもあるミラルカが外出中であり、タイミング悪くエルカが戻って来たのである。

 しかも重要な仕事の話を持ってだ、これは一団員には決める事は出来ない話である。

 なにせ、種族間の問題に発展しかねない案件であるのだから。


「他にどんな冒険者を集めるんや? うちらだけに声を掛けている訳やないんやろ?」

「ファイさんの所にも一人行きましたわ……彼は最早エルフではありません…ある意味化け物です…」

「どんな奴があの村に行ったんだ? そうなると、エルカ殿の意中の相手とあの半神族も出て来る事に為るだろう」

「誰の事ですか!? そんな、私は別に……」

「ふ、ふふふふふ・・・・・・」

「「「「 団長!? 」」」」


 フレイの言葉を聞いたエーデルワイスは、突如不気味な笑をあげ始めた。

 ヤバイ位にどす黒い気配を漂わせ、陰鬱に暗い情念を込めた笑である。


「そうだ……殺そう…私のマイアを誑かす害悪を………ふふふ……」

「無理だな……」

「返り討ちに合うのが目に見えてるわぁ~……」

「死ぬわね……確実に…」

「お姉様!? 無謀な真似は止めてください!! アムナグアを一人で倒すような化け物なんですよっ!?」


 だが、エーデルワイスの無謀な発言は他の団員達に完全否定された。

 敵に回すにはあまりに怖ろしい相手なのだ。

 下手をすればこの旅団が壊滅しかねない程の異常な実力者を敵に回す事は、何が何でも避けねばならない緊急事態なのである。


「何故だっ!! 私はただ恋敵と決着をつけたいだけなのに!!」

「団長は、セラはんの倒したアムナグアの大きさを知らんから言えるんや!!」

「アレはどう考えても過去最大級です!! それを一人で倒したんですよ? お姉様が返り討ちに合うだけです!!」

「生身でも可成りの実力者だろう……動きに隙が一つも無かった…」

「身を以て経験した私から言わせて貰えば、アレに手を出すのは無謀以外の何者でも有りませんよ?」

「女には……例え負けると判っていても戦わねばならない時が有るっ!!」

「それで団長が死ぬ事に為れば、喜ぶのはマイアだけだがな……」

「そんな筈は無い!! きっと涙を流して悲しんでくれるはず!!」

「何でそう自信を持って言えるんや……自分のした事を自覚しておらんのかいな……」

「お姉様死ぬときは私も死にます!!」

「団長に命を賭けるほどの価値が在るとは思えないのですが?」


 白百合旅団の内部はこの話で暫く揉める事に為る。

 何せ、敵に回そうとしている相手がアムナグアを一人で葬る様な最上位の冒険者なのだ。

 話を聞きつけた他の団員達も一丸となって団長を取り押さえ、何とかエーデルワイスを拘束する事に成功した。

 現在団長は簀巻きにされ、床に芋虫の様に転がっている。

 目を離せば最悪の相手に戦いを挑みかねないのだから当然の処置とも云えよう。


 ミラルカが戻って来た時には団長が芋虫の様に這いずりながらも、恋敵を殺しに行こうとしている無様な姿を晒していた。


「……お姉様…いい加減に感情で動くのは止めてくださらない? これでは他の団員に示しがつきませんわ」

「そうは言うが……マイアが他の女の毒牙に……」

「お姉様? そんな調子だから彼女に逃げられたのですわ。少しは自覚してくださらないかしら?」

「……うぅ……」

「まぁ、私としてもマイアさんが旅団に加わってくれなかった事は、実に残念で仕方が在りません。

 ですが、それを最悪な形にしたのが、お姉様自身の行動である事を忘れないでくださらないかしら?

 あのような異常な行動をされれば、マイアさんで無くても心に深い傷を負いかねないのですよ?

 いつも忠告しているのに理解してくださらないなんて……正直恥ずかしくて外を歩けません」

「心の傷は私が癒せば……」

「お姉様!」

「うっ!?」


 エーデルワイスは妹のミラルカに弱かった。

 はっきり言ってしまえば、この旅団はミラルカで維持している様な物なのだ。

 そもそも、ストーカー行為をする様な精神異常者が信頼出来る筈も無い。

 ミラルカの手腕と巧みな交渉術、そして彼女の頭脳が導き出す戦略がこの旅団を瞬く間に強力な集団に成長させたのだ。

 言わば彼女は軍師である。


 そんな彼女は組織の頂点に立つことを嫌っていた。

 そんな妹に為り替わり団長を務めるのがエーデルワイスなのだが、彼女は精神的に問題が在り過ぎる。

 気に入った少女にはその溢れんばかりの好意が相まってストーキング行為に発展し、フラれれば厄介な事に殺意に代わる。

 独占欲が強いが、それ以上に移り気であり、次々と幼気な少女に手を出す始末なのである。

 中にはマイアの様に精神的に追い詰められる不憫な者もおり、最悪な事に彼女自身が悪いと思っていないのが大問題であった。

 この性癖さえ無ければリーダー気質に溢れた人物なのだが、其れが彼女の性格なのだから残念過ぎる。

 ミラルカも頭を悩ます程の変態であるのだ。


「それで、エルフの里の依頼は受けるのですか? 確か強硬派と穏健派が対立しているのですわよね」

「う~~ん、私としては受けても良いんだが、現時点でのエルフの里の民族性が問題だね」

「確かに…他種族を見下すような社会性は少し問題ですわね。

 私達の応対も陰湿な物になりかねませんし、そんな場所に行くのも少し気が引けますわ」

「団員達を危険な所に送る訳にもいかないし、問題は強硬派の対応だなぁ~

 最悪、使い捨ての駒にさせられる気がするんだけどね」

「その可能性は充分に考えられますわ。その陰謀を防ぐためには、彼等の常識を打ち壊す様な存在が必要でしょう」

「来ると思うかい? ミラルカお気に入りの非常識が……」

「来るでしょうね、ファイさんとも懇意の様子でしたし」


 二人の話題はセラである。

 エルフの常識から逸脱した非常識の塊。

 その存在は、良い意味でも悪い意味でも影響を及ぼす事には間違いないだろう。

 エルフの里の長老衆を圧倒できる存在は、ある意味では切り札になり得るのだ。

 

「隙あらば……マイアも………ふふふふふ・・・・・・」

「お姉様…余計な真似をしたら許しませんよ? まぁ、お姉様が返り討ちになるだけの話なのでしょうが……」

「ミラルカもそんな事を言うのか? 私が負ける等と……」

「今回ばかりは相手が悪すぎますわよ? 毒などが通じる相手では無いようですし……」

「私はそこまで陰湿では無い!!」

「どうだか……以前にも気に入った子の恋人に嫉妬して、毒を盛った事が在るではないですか」

「うっ……」


 既に前歴が在りました。

 エーデルワイスは性癖の方面に走ると、かなり陰湿な真似をするようである。

 最悪なくらいにヤンデレであった。


「事前に言って置きますが、彼女を敵に回すのだけは止めてください。最悪、旅団が滅びかねませんから」

「そんな真似の出来る存在がいるワケ……」

「お姉様はアムナグアとの交戦した場所をご覧になっていませんでしたね……あれは酷いモノでしたわ」

「……そんなに凄かったのか…?」

「地獄のような光景でしたわ。それをたった一人の冒険者と魔獣が引き起こしたのですから、怖ろしい限りです」

「だが、私も引き下がる訳には行かない」

「でしたら遺書を残してくださいましね? 自分が死んでも一切の責任は旅団には無いと記して」

「それって、ちょっと冷たくないかなぁ!?」

「お姉様の馬鹿な真似で団員を危険に晒す訳には参りませんの。諦めてください」


 ミラルカは姉には厳しかった。


「あと、葬儀は出しませんわよ? 散々忠告をいたしましたのに、聞き入れないのはお姉様なのですから。

 無謀な事をして返り討ちに合うお姉様の葬儀代に使う余計な予算は有りませんの」

「酷くないっ!? 完全に私が死ぬ事前提だよね!?」

「其れだけの相手を敵にすると御理解ください。巻き添えには為りたくありませんので……」

「酷過ぎる……」

「自業自得ですわ」


 姉の無謀をミラルカは冷徹に切り捨てる。

 エーデルワイスがセラを襲う事に関して、ミラルカは一切の援護はしない方針を断言した。

 この件に関してだけはエーデルワイスは孤立無援となったのである。


 何方にしても、セラが迷惑を被る事は確かである。

 数日後、白百合旅団はエルフの里に行く準備を始めたのであった。 






「ひっくしょん!!」

「風邪ですか? 姉さん」

「何か突然悪寒が……何だろね?」


 結局レイル達と共にエルフの里に行く事にしたセラ。

 白百合旅団の団長、エーデルワイスと邂逅するのはそれから半月後の話である。


 今は取り敢えず、里に行く準備に追われているセラ達一行。


 色んな意味で危険が近づいている事を、この時はまだ知る由も無かった。

  

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