そして筋肉は出会った ~マッスル亭は熱いくらい燃えている~
フレアローゼは現在単独で狩りをさせられていた。
無論セラ達の姿はあるも、目標の魔獣を倒すまではある程度のサポートはするが、決して手出しはしない。
ただ後方で待機し、危険と判断した時に限り手助けをする体制であった。
故にセラの装備はガンナーであるが、フレアローゼからしてみれば剣士だろうが狙撃手であろうがセラの腕は尋常な物ではなかった 。
危険と判断した時に、何処からともなく狙撃して注意を引きつけてくれるのである。
不本意ではあるが、これ程頼もしい護衛などエルフの里にすら存在していない。
最近ではセラの評価を改める傾向になって来ているなどと、フレアローゼ自身は気付いていなかった。
因みにではあるが、フィオとマイアに至っては彼女のサポート役に徹している。
フィオ自身は自分の腕を磨くために、マイアは覚醒段階に入り自分の体を慣らす為である。
同年代の友人のいないフレアローゼからしてみれば今の環境はとても新鮮であり、最近では良くマイアとすら話をする様になって来ている。
セラはそれを良い傾向だとばかりに暖かい目で見ているのだった。
「何処に居るんですの? 魔力の反応はこの辺りから感じられるのに……」
「ドドモスは周りの風景に溶け込む能力が在りますよぉ~焦らずに居場所を把握する事が重要ですぅ」
「冷静に周りを把握する様にするといいわ、居場所は空間が歪んで見えるから…」
ドドモスは猪型の魔獣ドモスの成長した個体である。
この自然界の中では比較的弱い部類に入る魔獣であるため、身を守る手段として光を屈折させて身を隠す能力を手に入れたのである。
攻撃手段は鋭い牙を利用した突撃のみであり、駆け出しの冒険者が狩る魔獣で、初めて戦う大型種でもあった。
また、この魔獣も【ソウル・ジェム】を持っており、多くの冒険者はこの魔獣から装備の強化を始めるのである。
「居ましたわ……良く見ると確かに歪んで見えますわね」
「休んでいると云う事は、残りの体力が底を尽きかけてる証拠……」
「チャンスですよ? フレアローゼさん」
「分かってる……」
フレアローゼは地系統魔法【ピット・フォール】で穴を掘り、其処に網を変えて周りを草木で覆い隠す。
こうした作業は何故か手馴れているのが不思議である。
「落とし穴は得意ですのよ……これで終わりにして差し上げますわ」
「なんでそんなに上手いの? 妙に手馴れてるし……」
「良く、ファイさん達に罠を仕掛けて遊んでいましたわ。彼女が引っ掛かる時は本当に面白かったですわよ?」
「……何度も同じ事をしたのね。……それで怨まれていた…納得……」
「階段にワックスを仕掛けた事も有りますわ。転げ落ちる彼女の姿ときたら……プッ♡」
「その結果が今のあなたの状況なんだけど……相当に恨まれてるわよ?」
「正直……少しやり過ぎたと反省していますわ。まさか同族を見捨てる様な真似をするなんて……」
「自業自得…殺されてもおかしくないと思う」
ファイのフレアローゼに対しての恨みは可成り根深そうである。
恐らく今カミングアウトした以上の事もしているだろうとマイアは予測していた。
世間知らずで甘やかされて育ったために、自分が仕出かした事が如何に危険な物かを自覚していないのであろう。
その結果が奴隷落ちであるのだから、いろんな意味で転落人生である。
「さて、準備は整いましたわ。後はあのでかぶつを落とすだけ」
そう言いつつ、フレアローゼは手にした弓を構える。
彼女は基本的な体力が乏しく、使えるのは魔力のみであった。
そうなると基本的に戦い方は決まって来る。
腕力でも劣り、体力面でも劣る以上は飛び道具に頼るしかないのだ。
魔術もそこそこに使えるが、基本的に嫌がらせにしか使って来なかった為に戦闘向きでは無い。
しかし其処は創意工夫の見せ所であり、フレアローゼの狩りの仕方は罠一辺倒に向いて行く事は自然の成り行きであろう。
現にドドモスを追い詰めているのだから、決して頭が悪い訳では無い。
彼女の本質はサポート職に向いていた。
「行きますわよ……」
駆け出しの装備はどうしても威力面で劣る。
フレアローゼの放った矢はドドモスに突き刺さるが、致命傷を負わせる程の威力は無い。
だが、それで充分であった。
ドドモスが起き上がると、敵の存在を確認できたのか行き成り全力で突進して来た。
そして仕掛けられた落とし穴にまんまと引っかかる。
フレアローゼは其処に徹底的に矢を撃ち込んで行った。
ハリネズミのように矢を撃ち込まれ続けたドドモスは、ついに息絶えその巨体を地面に沈めたのである。
「……やりましたの………?」
「お疲れ様、これで駆け出し冒険者の仲間入りだね」
「随分と手古摺っておったのぅ~まぁ、上出来じゃろう」
この日、フレアローゼは冒険者の扉を開いたのだった。
「さて、次は僕とヴェルさんとの仕事だよ?」
「手強い奴が良いのじゃ、ドドモスなどでは話にならん」
「ま、まだ狩りを続けますの!?」
「僕達はね。ヴェルさんも暇そうだし、ここは一つ大物狙いで行こうかな?」
「……何でそんなに嬉しそうに……」
「所詮この世は焼肉定食じゃ♡ 強い者が弱い者を美味しく調理するのじゃ♡」
「ヴェルさん、ワザとでしょ? 焼肉がしたいんだね……けど調理するのは僕なんだけど?」
ジト目でヴェルさんを睨むセラ。
「じゃから我が肉を調達するのじゃ、セラはその肉で料理を作れば良い」
「……コイツ……開き直りやがった……死人が出るよりはマシだけど…」
最近のヴェルさんの行動はエロに走るか、食い気に走るかのどちらかしか無い。
行動が単純で判り易い。
これではフィオやマイアに考えている事を読まれても仕方が無いだろう。
聖魔竜様はとことん堕ちる所まで堕ちてゆく。
「セラさんは、何を狩るつもりなんですか?」
「そうだねぇ~ちょうど近くに大物がいる事だし、そいつを狩ろうかと……」
「「「大物?」」」
―――――ベキッ!! バギバギバギ……
木々を薙ぎ倒し現れるその巨体。
ドドモスと比べたら、この魔獣の大きさは大人と赤子ほどの差が在るだろう。
巨大な甲羅を背負い、四足歩行で現れたその魔獣の名は……
「「「グ……グラーケロン!?」」」
前に現れたアムナグアを除けば、飛竜種に並ぶ巨体を誇る最大級の魔獣である。
圧倒的な防御力と力を備えた獰猛な肉食魔獣であった。
恐らく主食にしているドモスの臭いに釣られて現れたのであろう。
以前追い掛け回された個体よりも二回りほど大きい。
「んじゃ、行きますか? ヴェルさん」
「ぬふふふ……食い応えの有りそうな奴じゃ♡」
セラとヴェルさんは嬉々としてグラーケロンに挑んで行った。
二人の背中を呆然と見送る三人の弟子達。
この三時間後、グラーケロンはロカス村の解体場へと届けられたのであった。
この二人はチート過ぎた……
「ヒャハハハハハハハハ……大物だ…また大物だぁ!! ヒヘへへへへへへへ♡」
「アムナグア程では無いが……また、とんでもねぇのが持ち込まれたもんだぜ……ハハハ……」
「また暫くは肉に困らねぇな……解体する方はきついが……チクショウ……」
解体作業をする職人達は既におかしくなって来ていた。
人手不足は何とか解消の兆しを迎えて居るとは言え、流石に今回の大物には技術不足で頭を悩ませる結果と為っていたのである。
人手不足と解体作業がはかどる事は決して同異議では無い。
まだ作業に慣れていない者達もおり、解体作業も覚束ない程の素人も大勢いるのである。
幸い狩りをする冒険者はまだおらず、大半が迷宮へと足を向けているのがせめてもの救いでであった。
その間に職人育成に力を入れ始めた矢先に、このグラーケロンである。
また暫くは徹夜が続くのかと思うと頭が痛い思いであった。
「……セラちゃん……もう少し遠慮してくれないかしら……」
「この間のワイヴァ―ンも可成り面倒だったんだぜ? 少しは自重してくれよ…」
「先生……人手が育ってねぇんだぜ…?」
「経験を積まないと腕は上がりませんよ? 大物であるなら尚の事だと思いますけど?」
「それでも、もう少し小型にしてくれないかしら? 大物は手間がかかるのよ……ハァ……」
解体場はちょっとした混乱に包まれている。
大物の解体には作業員が其々の部位に合わせて解体を始める。
しかし、なまじ素人同然の職人だと時間が掛かり、その分だけ肉の質も落ちて行く。
出来るだけ早く解体するには、熟練者の数を揃えなければならないのだ。
しかしながら、この村の熟練者は数が少ないのが現状であり、多少慣れてきたとはいえ駆け出しの職人を使うのは足手纏いであった。
「まぁ、高値で売れるから良いけど……今度からは自重してね」
「心に留めておきます」
「ぬぅ……解体するまでは肉はお預けか……焼肉は無理かのぅ~……」
「何で、たった二人であんなのを倒せるのです……おかしいですわ」
「セラさんとヴェルさんですから♡」
「あの二人が組んだらほぼ無敵…考えるだけ無駄」
最早向かうところ敵無しの二人。
しかし、周囲はそれに追いついていなかった。
彼等はこれから地獄の解体作業が待っているのである。
「ドドモスの解体作業は直ぐに終わるけど…これは無理ね、二・三日は掛かるわ」
「一応依頼を受けての仕事だったんですけどね。お肉の依頼はこれで足りますかね?」
「ドドモスを一日で三頭も狩るなんて…しかもグラーケロンも……正直、少し甘く見ていたわ」
「運良く三頭いたんで、僕とフィオちゃん・フレちゃんとマイアちゃん、そしてヴェルさんで狩りました。
まぁ、フレちゃんは初めての大物で時間が掛かりましたけどね」
「その後グラーケロンと交戦……三時間で倒すなんて正気じゃないわよ?」
「武器と実力が違いますから、これでも手古摺ったんですよ?」
「マジで!?」
漂々としているセラとヴェルさんを見て、とても苦戦したようには見えない。
しかも、ついでで大型魔獣を倒しているのだ、冗談のような存在である。
「それじゃ、僕達はギルドに行って依頼達成報告をして来ますね?」
「そうね……早く解体しないと売り物に為らなくなるし…ハァ………」
解体職人達はこれからが本格的な仕事を始める事に為る。
時間に追われた過酷な解体作業に……
その甲斐も有ってグラーケロンは僅か三日で解体されるが、職人達は全員数日動けなくなる事態となった。
ロカス村が完全に安定するにはまだ先の話である。
鉄板で焼かれた肉をトングで取り、タレに漬けて口へと運ぶフレアローゼ。
口の中に広がる肉の旨味と、タレの甘辛さが相まって絶妙な美味となって口の中で溶けて行く。
辛味のある野菜の漬物と合わせ、葉野菜に包み込んで食べるとまた一段と味が変わる事に驚きつつ、肉を取る手が止まらない。
此処の食事はエルフの里よりも美味であり、いつまでもこの時間が続けば良いと思ってしまう。
「……ハッ!?」
幸福に包まれている中で、フレアローゼはある事に気付いてしまった。
「……私………食事のみが人生の全てになっている!?」
「すっかりこちら側に染まって来たのぉ~もぎゅもぎゅ…」
「食事は生きる上で必要な糧、それは悪い事では無いよ? 少し柔らかく焼いた方が良いかな……?」
「美味しいご飯は幸せの証拠ですよ? フレアローゼさん。 丁度良いと思いますけど?」
「これ以上の贅沢は無いと思うのだけど? 姉さん、タレが足りません」
「日々の糧を稼ぐのは大変なのよ? フレアローゼちゃんは、もう少し世間を知った方が良いわ」
「……生きる事は戦いだ……その中でも食事は最も重要……」
フィオの両親、ラック夫妻も焼肉に舌鼓をしていた。
この所、錬金術を覚えるために最近出来た錬成所でポーションの製作から始めていた。
ただこの村の住人は異常に向上心が高く、怖ろしい速さで技術を吸収し応用しているのだ。
元から何もない村であったために、村にある道具を全て自分達の手で作り出さねばならず、その御蔭で手先や応用面での能力が鍛えられていたのである。
そんな連中が一つの事に集団で挑めばどうなるか?
彼等は僅かな時間で、村に居た唯一の錬金術師、ブッチを瞬く間に越えて行ったのである。
しかも一部の職人達を除き村人全員で作業をするのだから、作業効率も効率も異様に早かった。
十年の時間を掛けて錬金術を学んできたブッチの人生は何だったのであろうか?
素人同然の村人達に追い抜かれ、彼の存在価値は最早無いに等しい。
尤も同情は出来ないのだが……
「育ちが良いのは分かるけど、其れだけで生きて行ける程世界は甘くないのよ?」
「うむ……裕福な貴族が次の日には没落している話など良く有る事だ……」
「そんな時に何も出来ないでいると、フレちゃんみたいに奴隷になるしか生き延びる事が出来ないんだよ。
良い人の買われればマシだけど、中には変態的な性癖の人も居るから……」
「な、何で我を見るのじゃ?」
セラ達がヴェルさんに視線を送る、物凄い説得力があるのをフレアローゼは感じた。
無論、ヴェルさんが変態的趣味の持ち主だからだ。
だが、皆は声に出す事は無かった。
既にヴェルさんは立派な変態として認識されている。
これで本当に良いのか? 元聖魔竜……
「知らない事ばかりですのね……色々と考えさせられますわ」
「知らない事を知る事は良い事だよ? 里の長老衆……強硬派の連中なんか知ろうともしないんだから。
人の上に立つ心算なら、無知でいる事は周りを不幸にすると思った方が良い」
「……何故、エルフの内情をそんなに詳しいのだ?」
「そうよねぇ~エルフの里の出身と云う訳では無いのでしょ?」
なまじ外に出稼ぎに行っていた為に、セラの情報は異常だとラック夫妻は思っている。
旅先で得た情報より、セラの情報の方が正確なのだから無理は無いだろう。
だが、当のセラは言えば……
「情報源は教えられませぇ~ん、そう云った情報源を確保するのも冒険者の腕の見せ所でしょ?」
と、暖簾に腕押し、襷に長しであった。
尤も、情報源が【神】だなんて言える訳が無い。
そんな事を言えば、現代なら電波の人か、若しくはイカレタ人種にしか思われないのである。
そんな訳で、セラは手頃な回答をあらかじめ選んで応えているのだ。
其れでも平然と嘘をつける当り、詐欺師の才能があるのかも知れない。
怖ろしい事だ……
「所でこのお肉、いったい何なの? 少し歯応えはあるけど、柔らかくておいしい♡」
「この間のワイヴァ―ンですよ? 太腿とお腹、それと内蔵かな? 意外に美味しく出来たと思います」
「……臭みが無いのは何故だ? 気のせいか少し甘味が在るのだが……」
「数日、日陰で干して熟成させました。お肉は少し時間を置いた方が美味しい時期が在るんですよ。
目測を間違えたら腐る一方なんですけどねぇ~大体三日から、五日の間が食べごろかな?」
「伊達に〇の匙は読んでは居らぬと云う事か……何が役に立つのか分からぬのぉ~」
「ヴェルさん……まさか、それを知っていると云う事は……」
「深夜枠で放映されていたのを見たのじゃ、中々為になりおる」
某農業漫画は偉大だった。
得られる知識は異世界でも通用する様である。
まぁ、魔法大系以外の物理法則は同じなのだから当然かもしれないが……
第一次産業を知り尽くすと云う事は、異世界でも生きて行けることの証明でもある。
農業とは素晴らしい。
「次はべーコンか、ソーセージが食いたいのぉ~チーズも捨てがたい……」
「作れるとは思うけど、材料がねぇ~…幾つかは作ったけど……」
「何故この場に出さぬのじゃ!?」
「保存食だから、アムナグアの生ハムなんかは絶品だったよ?」
「食ったのか? アムナグアの生ハムを食ったのか!? 狡いのじゃ!!」
「まだ若いから熟成が必要でね、毎日朝早くに塩を塗しているんだよ? ヴェルさんは鼾掻いて寝てるけど……」
「ぬぅ………」
働かざるもの食うべからず。
セラはこの辺は厳しかった。
ヴェルさんは一生、アムナグアの生ハムが食べれそうになさそうである。
何せ食っちゃ寝の生活なのだから……
「まだ、未知の美味が在るんですの……?……ゴクッ…」
まだ味わった事の無い美味が在ると知り、フレアローゼは生唾を飲み込む。
此処に一人、食い気に目覚めた残念エルフが生まれた。
後に彼女はエルフの食生活を変える存在となるのだが、それは当分先の事である。
ロカス村の夜は賑やかに更けて行った。
翌日、ロカスの村に一人の旅人が辿り着いた。
旅人が使うフード付きのマントを身に纏い、全身を覆い尽してはいるが長身の男性だと云う事はハッキリと判る。
彼の目的は自分の同胞と会うためにこの地へと足を運んだのである。
無論、他にも用事はあるが、取り敢えずは彼女に会う事が最優先課題であった。
だが、それ以外にも彼はこの村の事は知っていた。
そして、彼が目指すべき場所はそこに在る事も……
彼は数名の村人達に話を聞き、その場所の位置を把握した。
逸る気持ちが抑えられない。
その場所は彼にとっては聖地に等しい場所の一つなのだ。
彼の目指す場所は【マッスル亭】
筋肉の探究者が憧れる知られざる聖地の一つであった。
彼は入り口のドアを開き、薄暗い宿の室内に足を踏み入れる。
其処にはスキンヘッドタンクトップの男が静かにグラスを磨いていた。
彼はおもむろにカウンターに座り、その秘密の言葉を告げる。
「マスター……マッスル・パッションを一つ……」
「!? ……待ってな…」
彼は定められた手順でカクテルを作り、彼の前に差し出す。
そして男……もとい、ジョブは行き成り現れた客に語りかける。
「お前さん……キレてるな……」
「ガチムチです」
「魅せてくれるか?」
「お望みならば……」
客はカウンターから立ち上ると、全身に力を入れる。
「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!!」
――――――ズバァアァン!!
内側から漲るパワーが彼の衣服を弾き飛ばし、彼はビキニパンツ一丁の黒光りガチムチボディーを惜しげも無く曝け出した。
長い耳からして辛うじてエルフで在る事は分かるが、ジョブの知るエルフの特徴とはあまりに掛け離れた存在である。
キレていた。
素敵な程にガチムチであった。
力に漲る筋肉が、迸らんばかりの圧倒的な力強さをこれでもかと言わんばかりに強調して来る。
弾ける程にダイナマイッ!!
「ぬぅ!?」
「如何ですか? 私の美しき筋肉は?」
「良く鍛えられている……だが、勝ち誇るのはこれを見てからにして貰おう。ふんぬっ!!」
――――――ブバババババァアァン!!
ジョブもまたタンクトップを弾き飛ばし、その鍛えられた筋肉を曝け出す。
「!!!?」
彼は今日もキレまくっていた。
全身から迸る筋肉の胎動が、熱い程に周囲に撒き散らされる。
完璧な程に黒光ムキムキのガチムチボディー
滾り吼える程にバーニング・ヒートッ!!
マッスルたちの熱い戦いが始まる。
「マッスル・ファイト!!」
「LADY……」
「「GO!!」」
彼等は互いに向合いポーズを取りまくる。
力強く筋肉を動かす事により衝撃波が発生し、相手よりも早く力尽きない事がこの勝負のルールであった。
無論相手に直接の攻撃をしてはならず、飽く迄筋肉の力を競い合うのである。
エルグラード皇国の歴史の裏に消えた幻の競技であり、互いの鍛え抜かれた筋肉を信じて持てる限りの力を振り絞るのだ。
伝承では七日七晩もの間競い合ったという記録が残されているのだから驚きである。
これは皇国の民間伝承、《筋肉演舞伝 あぁ美しき我が筋肉》記載されていた。
冗談の様だが、マジである……頭痛い…
二人の放つ筋肉ウェーブが、古びた宿を震撼させる。
一体どれだけの力を秘めていると云うのだろうか?
畏るべし、筋肉!!
「何だよ昼間から……騒がしい…げっ!?」
「この振動は何事なのです……ヒッ!?」
「何なのよこれは……ゲゲッ!?」
レイル達は見た……美しき筋肉の饗宴を…
迸る汗が輝き、鍛え抜かれた筋肉が躍動し、二人の男達が競い合う姿を…
彼等は筋肉のみで互いの力強さと、筋肉の美しさを競い合っているのである。
其処に部外者が立ち入る事は許されない。
これはマッスルメイト達の誇りを掛けた真剣勝負なのだ。
熱い程にマッスルな男達の勝負は続いた。
「なんでポーズだけで衝撃波が発生するんだよ……?」
「アタシが知る訳無いでしょ!?」
「あの方……エルフ族の様なのですが…ファイの知り合いでは何のですか?」
「「エルフ!? マジでっ!?」」
確かに特徴的な耳なのでエルフで在る事は分かる。
しかし、ファイの記憶にはこんなガチムチのエルフなど存在しなかった。
いや、良く見ると彼の顔には何処となく見覚えがあるのだが、残念な事に思い出せないでいる。
そうこうしている内に勝負は付きそうであった。
「ハァ、ハァ……素晴らしい筋肉です…私はまだ鍛え方が足りないようですね」
「いや、俺について来れるほど鍛えているだけでも驚嘆に値する。素晴らしい」
息絶え絶えのガチムチエルフと、ジョブが見つめ合う。
互いに何か通じたのであろうか、実に良い笑みを浮かべていた。
そして……
――――――ガシィッ!!
互いに力強く握手をすると、その場でお互いの健闘を称えるかのように抱き合う。
見たくも無い、実に暑苦しい光景であった。
そして二人は、その場に呆然と見ている冒険者三人に気付いた。
「おや? ファイではないですか、久しぶりですね」
「な、あんた誰よ……」
「知り合いの様だぞ?」
「本当に見覚えが無いのですか? ファイ」
「ん~~何処となく見覚えはあるんだけど……記憶に繋がらないのよ」
「まぁ、今の私の姿では思い出せないのも仕方ありませんね。ロークスですよ、あなた達と里を出た」
「ロークスっ!? うそでしょ、完全に別人じゃ無いっ!!」
ファイの記憶にある彼の姿は、エルフにしては可哀想なくらいガリ痩せの青年であった。
たった三年で、何を如何したら此処までガチムチになるのか理解出来ない。
そしてこれが、セラ達をエルフの里に行く切っ掛けとなる出来事であった。
最早マッスルズは色んな意味で種族を越えました。
ポーズを取るだけで衝撃波……超越し過ぎです。
集団で現れたら恐ろしい……
「震えるぞ筋肉、滾るほどにヒート!! マッスル・バイブレーション・ウェーブ!!」
震える筋肉が振動波を発生させる。
喰らいたく無い技です……汗が飛んで来ますから。
何処まで人間を捨てる気だこいつ等……
マジな話が長く続かないヤスキヨです。
此処まで読んでくれた方、ありがとうございます。




