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 知らない間に化け物認定をされている様です ~エルフの里の内情はこんな感じで進んでいました~

 エルフの里――通称【ユグドラシル】

 この里は六つの家系を頂点に、其々が治める土地を管理していた。

 皇国から比べればさほど広くない土地ではあるが、それでも生活するには適した環境が整えられている。


 エルフの一族は人族や獣人族、その他の種族とは異なり安全な土地を確保する事は出来なかった。

 その為、魔獣が徘徊する危険な領域で生きねばならず、種族としての纏まりが最重要視され独特な民族体系を作り上げる事と為った。

 

 エルフの中で最も魔力の高い一族を頂点に添え、自らを【ハイエルフ】と名乗り、彼等を筆頭に団結して生活圏を広げていったのだ。

 しかし、その過程は決して楽なモノでは無く、当然不満や争いも絶えない事もある。

 そうした不満解消に生まれて来た半神族を標的にしたのも、ある意味では仕方の無い事なのかも知れない。

 当時はまだ生き残る事こそが優先され、生活圏を広げる事には成功しても生活そのものは豊かでは無かった。

 彼等の憤りは頂点に位置する【ハイエルフ】の一族に向かうのも時間の問題であったのである。

 そんな中で、魔力は高いが身体的に自分達よりも劣る半神族に、彼らの不満を擦り付ける事は彼らの社会性を維持するのには必要な事であった。

 早い話が地球でいう所の魔女狩りである。


 半神族にとって最悪な事は、エルフは長命であるが故に変化に乏しかったことであろう。

 彼等の時間の感覚は短命種族よりも極端に掛離れており、里とその外の世界の変化が追い付いていないのである。

 それ故に未だに彼等の迫害は続いているし、同時にエルフ族自身も自分達が優れた種族であると自負し続けていた。


 確かに一時期はエルフの方が優れていたかもしれない。

 しかし、技術や文化と云うものは常に変化し続けて行くものなのである。

 彼等にとっての誤算は、種族としての団結力を守る為に行った鎖国状態が、自らの種族の存命を左右する程の最悪な政策に替わってしまった事であろう。

 種族としての特性と自ら行った政策が悪手となり、同時に首を絞める事に為る等とは思っても居なかったのである。

 その結果、半魔族と人族の同盟を知ると同時に、エルフの里には三つの派閥が誕生する切っ掛けとなったのである。

 穏健派と強硬派、そして中立派である。


 そんな各派閥の代表者が、現在一堂に会して今後の協議をしていた。

 今回彼等が集まった理由は、毎年恒例で災厄を撒き散らす魔獣、【ティルクパ】の対策であった。

 この魔獣は繁殖能力に優れ、しかも悪食である。

 集団で襲い掛かって来る為、毎年エルフの集落が襲われては多大な犠牲者を出しているのだ。

 そして今年も其の繁殖期が訪れようとしていた。


「……今年は、今迄のように水際で食い止める事など出来ぬじゃろう……」


 高齢の最古老の一人であるエルフ、ヴォールキンが静かに告げた。


「確かに……昨年、三つの集落が壊滅的な被害を受けたのが痛いな」

「怪鳥風情が忌々しい……あの繁殖力は厄介すぎる…」

「奴等は群れで行動しますからな……一羽程度なら大した事は無いのですが、苦戦は免れぬでしょう」

「これ以上の犠牲は出す訳には行きませんよ? 此方の戦力も限りが在るのですし……」

「ここ数年で奴等の数は増えてきています……何とか打開策を練らねば為りませんな」


 ティルクパは比較的弱い魔獣なのだが、集団で襲って来るのである。

 魔力と素早さに長けたエルフであっても、肉弾戦ともなると決定打になり得ないのだ。

 武器に関しても弓と槍が主流だが、ドワーフの様な職人が鍛えた訳では無いので性能も今一なのである。

 鎖国状態の弊害が、今になってじわじわと真綿で首を締めるが如く押し寄せていた。


「矢張り……同盟の事を考えんと行かぬか……」

「最古老のお言葉とは思えませぬな、人族の様な下等な連中に何が出来ると云うのだ?」

「本当にそうなのであろうか? 奴等はここ最近、里の直ぐ近くまで進出してきているのですよ?」

「魔獣との戦闘に長けた連中が、かなりの数要ると云う……」

「ドワーフとの和睦が決定的でしょうな。彼等の武器は我等以上の性能を持っている」

「目の前の魔獣、後方には他種族の同盟軍……我等には逃げ場は有りませぬぞ?」


 ヴォ―ルキンにとっては今直ぐにでも同盟をしたい所だが、強硬派が首を縦に振らず中立派に至っては静観を決め込んでいた。

 それ故にこの話は平行線をたどり続け、魔獣討伐にすら影響を与えているのが現状である。


「孫達が帰還するまでてばよいのじゃがな……」

「我らの一族の者も中々帰還いたしておりません……せめてエルグラード皇国の内情が分かれば手の打ちようも有るのですが……」

「最早、手遅れなのでは無いですか? 我らがこうしている間にも、かの国は力を蓄え続けていると思った方が良いでしょう」

「商人達の話では、そんな事一言も言っておらなんだぞ?」

「意図的に情報を隠していたと云うのかっ!? 無能な連中がそこまで考えつくとは思えん」

「彼等は我等とは違います。短命故にその成長速度が速いのではと考えただけですよ?

 私達に伝わる情報など、貴方方とさほど変わりは無いのですから……そこが怪しく思えますけど」


 状況に甘んじて居る者も居れば、聡い者もいる。

 それは人であろうがエルフで在ろうが変わりは無かった。

 問題は聡い物の忠言に聞く耳を傾けるか否かである。


「送り出した者達が帰還するまではどうにもならぬのぉ~……頭の痛い事じゃ……」


『失礼します』


 ヴォールキンが呟いたそのタイミングを見計らった様に、警備を担当していた衛兵が会議室に入った来た。


「報告します。先程、エルカ様とロークス様が帰還いたしました」

「何と!? これは何とも良い所に……今直ぐここに呼べるかぉ~?」

「ここにですか? 長旅で疲れているとは思うのですが……」

「今は一刻も早く話を聞きたい所なのだ!! 直ぐに連れてまいれっ!!」

「は、ハッ!!」


 衛兵は直ぐに扉の外に向かい、帰還した二人を迎えに行く。


「グラトー……あのような言い方は無いのではないか?」

「愚図愚図している無能者など同胞とは思わぬ!」

「これで事態が好転すればよいのですが……」

「まったく……」 


 程無くして帰還した二人が扉から現れた時に、彼等は驚愕する事に為った。

 エルカ、ファイ、ロークスを含む他十数名は、三年ほど前に外の世界の情報を得るために送り出した諜報員である。

 彼らの役割は各地に散り、人族を含む他種族の中に溶け込み里の知らない情報を持ち帰る事である。

 その為ある程度の教養のある者達が選ばれたのだが、その大半が長老衆の血縁者であった。

 だが……


「「「「「「 誰っ!? 」」」」」」


 エルカはこの里を出た時とあまり変わりはない。

 寧ろ、問題はもう一人のロークスである。

 彼が里を出て行くときは、何処か顔色の悪い病的な印象を持った青年であった。

 しかし、今の彼は全くの別人のように変わり果てていたのである。

 病的なまでに痩せていた腕は太く逞しくより筋肉質に、胸板は分厚く体格もまたがっしりとした健康体に。

 と云うか……黒光りガチムチマッチョマンに変貌を遂げていたのだ。

 辛うじて長い耳でエルフで在ると判るが、全くの別人と思われても仕方が無い変貌ぶりである。

 彼が出て行ったのは三年前、その間に何が在ったのだろうか?


「「「「「「 おかしいだろっ、この三年の間に変わり過ぎだっ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼ 」」」」」」

「素晴らしいでしょう? この肉体。最早、貧弱とは言わせませんよ? フンッ!!(ムキッ)」


 鍛え上げられた逞しい肉体を誇示するかのように、彼は筋肉を強調するポーズを目の前で繰り広げている。


 キレていた。

 それ以上に黒光りしていた。

 そして誰よりも彼は輝いていた…主に肌が……


「唸る上腕二頭筋、猛る私の大胸筋、漲る美しき三角筋……どうです? 素晴らしくはち切れんばかりに美しい肉体でしょう?」

「「「「「「 この三年の間に何が在った―――――――――――――っ‼‼‼‼‼‼ 」」」」」」

「エルフの貧弱な肉体を美しく鍛え上げていただけですよ? 最後にモノを言うのは鍛え上げられたこの肉体!!

 そう、筋肉です!! 迸れ、むぅん、マッスルパワー―――――――――――――――ッ!!」

「ビルドアップし過ぎだ……全くの別人ではないか……」

「一体何が……どうすれば、あの様になるのでしょう?」

「性格も変わっているぞ……以前は内向的な奴であったのに……」


 ロークスは筋肉の暗黒面に堕ちていた……

 まるで何処かの宿の主人が言いそうな言葉である。

 彼は三年もの間、肉体改造を徹底的に施していたようであった。

 今の彼は、ある意味でエルフを越えてしまっていると言えよう。


「・・・・・・筋肉は取り敢えず置いておくとして……エルカよ、外の世界はどのような様子であった」


 頭を抱えながらヴォールキンはエルカに尋ねた。

 気持ちは分かる……


「そうですわね……率直に申し上げれば、このままでは里は滅ぶ事に為るのは間違いなさそうですわ……」

「何だと!? エルカ、我らが下等な連中に敗れると云うのかっ!!」

「彼等は既に我らの事等どうでも良いのです。私達一族以外の種族と手を組んだ以上、彼等にはエルフ族に固執する理由は有りませんから」

『ふんっ!! むぅうぅん!! Oh~YES~』

「ほぅ……しかし、其れだけで我らが滅びる事に繋がるとは思えん…お主は何を見たのじゃ……」

「……彼等の成長速度は私達が想像している以上に早く、技術も目まぐるしく向上してきています。

 そう言った面では、既に私たち以上の力を持っていると言えるでしょう」


 エルカの報告に長老衆は言葉を無くす。

 考えてみれば既に他種族と同盟している以上、エルフだけに固執する意味は既に無い。

 敵対すれば戦力では既に圧倒的に有利であるし、武装や食料面でもエルフの里よりも遥かに裕福なのだ。

 彼等はただエルフだけを監視し続ければいいだけであり、仮に戦になれば戦力に物を云わせて叩き潰す事が可能なのである。

 閉鎖的な環境が、最早手の届かない所まで差をつけてしまっていたのである。

 エルフ族は、今更ながらに相手を侮り過ぎていた事を突き付けられてしまったのだ。


「其処まで変化を遂げているというのか……これでは我等は圧倒的に不利だ」

「奴等からしてみれば我らが滅びるのを待つだけでいい。どこが下等な種族だと云うのだ、怖ろしいまでに狡猾ではないか」

『フンヌッ!! ふぬりゃ!! OK、OK、YES!! Perfect♡』

「待つがいい、我等には秘薬の製法が在る。これは奴等には真似出来る物では無かろう?」

「それも意味は有りませんわ、お父様……」

「な、何だと……」

「彼等は既に、【エテルナの霊薬】も【ハイマナ・ブロシア液】も生成できるのです。我らの優位性は失われました」

「ば、馬鹿な……下等な連中にそのような真似が……」

「私は見ましたわよ……生成していたのは半神族でしたが……他の者達にも教えていましたし…」


 驚愕すべき現実が突き付けられる。

 半神族は魔力だけの貧弱な種族と云うのがエルフの中では常識であった。

 その半神族がエルフの秘薬を生成し、既に技術を他の者に伝えているという事が彼等には受け入れ難い。

 仮にエルカの話が真実であるならば、今迫害している半神族の待遇すら考え直さねばならないのだ。


「その半神族は……単独でアムナグアと戦い…勝利しました………」

「馬鹿な事を言うなっ!! 其れは最早化け物ではないか、それを証明できるのかっ!!」

『OHーYES……YES! YES!! My 筋肉♡ Beautiful!!』

「ファイさんがその場に居合わせていましたわよ? もっとも、彼女は足止めすら出来なかったらしいですけど……」

「それは本当に半神族なのですか? 全く別の種族なのでは……」

「半神族は特定の条件下で急激に成長するらしいですわ……私達を遥かに凌駕する程に……」

『カモン! カモン!! カモン!!! オーケイ!! いい、実に良い♡』


「「「「「「 ウルセェ――――――――よっ‼‼‼‼‼‼ さっきからぁっ‼‼‼‼‼‼ 」」」」」」

「プロテイン飲料、飲みますか? 美しい肉体になりますよ?」

「「「「「「 要らんわぁ――――――――――――――――っ‼‼‼‼‼‼ 」」」」」」


 真面目な話の背後で、筋肉の暗黒面に堕ちたエルフが一人でポーズを決め込んでいた。

 彼は実にいい笑顔で、自分の筋肉に酔いしれていたのである。

 彼は最早エルフでは無い……超エルフであった。


「その特定の条件下と云うのは……判明しておるのか?」

「それを聞きだす前に……爆発が……」

「「「「「「 爆発っ!? 」」」」」」


 以前エルカたちがセラに会うためにフィオの家に訪れた際、感情的になったエルカは【ハイマナ・ブロシア液】を溢し、そこからセラに追い掛け回される事態へと発展していった。

 何度攻撃してもあっさりと躱され、痛烈な一撃がエルカを吹き飛ばした。

 瀕死に陥っても強制的に回復させられ、再び追い掛け回されては半殺しの憂目に合う。

 何度も、何度も、何度も何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も……


 いつ終わるともしれないエンドレスな報復は、エルカの心に多大な傷を刻み付けたのだ。

 圧倒的な強さと凶悪的な暴力の応酬に、彼女の心が根元から圧し折られたのは記憶に新しい事である。


「何故に爆発?」

「一体何が在ったと云うのだ?」

「その半神族はどれ程の化け物と云うのですか……」

「おい、エルカ……?」

「何故に貴女はそんなに震えているのです?」


 エルカは震えていた……

 あの時の地獄を思い出し、表情は蒼褪め、この世の終わりを目撃したかのような深い絶望を味わっているかのよだ。


「エルカ殿……どうしたと云う…」

「いぃ~~~~やぁ―――――――――――――――――――――――――ぁっ!!」

「「「「「「 !? 」」」」」」


 突然狂乱するエルカ。

 誰もが言葉を失い、呆然とその様子を見ていた。


「御免なさい御免なさい御免なさいもうしません赦して下さい何ですかその斧は?まさかそれで私を……」


 セラの行った報復は、予想以上にエルカに刻まれていたようである。

 まさか発狂する程まで精神的に追い込まれて居る等とは、当のセラ本人すら予想だにしていない事だろう。

 あのとき刻まれた恐怖は、エルカ本人にとって最悪な程の悪夢であった。


 このエルカの狂乱振りで、一時会議が中断したのであった。

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

「失礼しました……あの時の事を思い出すだけで、私はあの様に取り乱してしまう様になってしまいまして……」

「「「「「「 其処まで追いつめられたのか……半神族に…… 」」」」」」


 エルカの状態から見て相当に酷い事をされた事が判明した。

 しかも、それを行ったのがアムナグアと真っ向勝負が出来る強さを持った半神族なのである。

 この里に居る事しか出来ない彼等には俄に信じがたい事だが、エルフとしての誇りを持っていた実力者でもあるエルカが徹底的に追い詰められたのだ。

 その非常識さは計り知れない物が在る。


「ま、待って下さい……そんな半神族が、里の外に何名も居ると云う事ですか……?」

「「「「「「 !? 」」」」」」


 その驚愕的な発言は、場を凍らせるのに十分な効果を発揮した。

 覚醒した半神族がいると云う事は、当然その手段を教えた存在がいて、その存在も覚醒した半神族である可能性が高い。

 しかも、完全覚醒した半神族の強さは災害指定級の魔獣にすら匹敵する事に為るのだ。

 もしそんな存在が数名で里に現れる事に為れば、この里は完全に滅びかねないのである。

 最悪な事にエルフの里は半神族の迫害を未だに続けている。

 仮に同胞を救うなどと名目をたてられ攻め込まれでもすれば、たった数名で殲滅されかねない。

 彼等の背筋に戦慄が走る。


「怖ろしい事だ……まさか半神族にかような秘密が隠されていたとは……」

「弱小の役立たずだと思っていたのに……まさか此処に来て厄介な問題を引き起こすのか……」

「万が一、この里で半神族が覚醒などしたら……」

「……里は間違いなく滅ぶ……災害規模の魔獣と戦えるなど化け物ではないか……」

「更に言えば、その様な非常識な存在を皇国は受け入れている……これでは勝ち目など有りませんね」


 目の前には魔獣の脅威、後方には大国の脅威、ここに来て内部に半神族の脅威を背負い込んでしまったのだ。

 これでは常に脅威にさらされ続け、気の休まる暇すら無い。

 だが、エルカの報告は其れだけでは終わらなかった……


「その半神族なのですが……彼女は数多くの伝説級の装備を所有しています……龍王すら倒したとか……」

「「「「「「 嘘だろぉ――――――――――――っ‼‼‼‼‼‼‼‼ 」」」」」」」


 最早、生ける伝説である。

 龍王クラスの魔獣は最早手の付けられない最悪の象徴なのである。

 そんな桁外れの魔獣を倒す様であれば、エルフ族総動員した処で勝ち目など無いに等しかった。


「龍王なんて倒せる訳無かろう!!」

「情報を集めてみると、数名の仲間と挑んで倒したのだとか……中には一騎打ちで死闘をしたとも…

 彼女の装備は龍王の素材から作られている様です……信じられませんが、この目で確かめて来ました……」


 文字通り身を以てだが……


「仲間って……化け物半神族に匹敵する猛者がおると言うのかっ!?」

「どんな化け物なのだ、そいつらはっ!? 正気の沙汰とは思えんっ!!」

「我らが閉鎖的な環境に居る中で、外ではそこまで変化していたと云うのか……」

「それよりも彼女って、女なのかっ!? どれ程の化け物なのだ!!」


 会議は纏まるどころか混迷の一途を辿る事に為った。

 そんな彼等の背後で一人、鏡の前でポーズを取り自分に酔っている男がいる。

 ロークスだけは平和であった……



 それから数ヶ月後、エルグラード皇国にエルフ族からの使者が訪れ同盟を結ぶ事と為った。

 こうして全前種族が同盟に加わり、数十年後には本格的な開拓時代を迎える事と為る。


 だがそれは、もう少し先の話であった。






 

 フィオとマイアは狩るべき対象の魔獣を見つけ、手で合図を送り攻撃のタイミングを計る。

 獣は仲間の危機を泣声で伝えるように発達したが、人は言葉だけで無く手振り素振りで意思を伝える事を発見した。

 これは狩場では非常に有効であり、声を上げずに獲物に知られる事無く意思を伝えられるのだ。

 多くの冒険者はこの手法を独自に開発し、仲間との連携で良く使われる技法となっていた。

 二人は今日一日を掛けて魔獣を追いかけ、交戦している。

 そろそろ体力的にも限界であり、ここで決着をつけなければ逃げられ兼ねない。

 そうなれば依頼は失敗に終わり、報酬も手に入らずに泣きを見る事に為る。

 冒険者の仕事は結構シビアであった。


「のぉ~我等は何もせぬで良いのか?」

「依頼は熟しているでしょ? 採取だけれど」

「つまらぬのじゃ~~……」

「新人育成も仕事の内だよ? さっき、オマケでワイヴァ―ンを倒したでしょ」

「弱かったのじゃ…フィオやマイアには良い素材となるじゃろうが、我はもっと大物を狙いたいのじゃ」

「フレちゃんの教育も有るんだから無茶はしないよ」

「どの口で言うのじゃ? ワイヴァ―ンとの戦闘で援護をさせておったのに……」

「死なない様に支援はしているよ?」


 狩場では何が起きるか分からない。

 時として予想だにしない魔獣が乱入して来る事もある。

 そんな咄嗟の状況で、冷静に行動出来るようになるには経験を積むしかないのだ。

 そのフレアローゼは現在疲れ果て、魔力も使い果たし動けないでいた。


「マイアよりも体力が無いとは……軟弱じゃのぅ」

「現実を知るには経験しかないんだよ。フレちゃんも、自分がどれだけ甘やかされて来たか十分に理解できたんじゃない?」

「今更じゃのぅ……とっくに気付いていると思うが……お? そろそろ動くか?」


 フィオとマイアが狙っているのは、背中に剣のような突起物がある二足歩行型肉食魔獣、【ヴェイグロポス】である。

【ヴェイグポス】と同じ種の親戚関係的魔獣であり、この魔獣は毒を吐く器官が口内に仕込まれている。

 獲物に近付き、毒霧を吐きかける事で相手を弱らせ捕食する魔獣である。

 また、剣状の突起物から放電して相手を麻痺させる特殊能力も所持している極めて厄介な魔獣でもあった。

 もっとも、今日一日を掛けて交戦し続け弱っているのだが、獣は追いつめられた時が最も手強いのだ。


 マイアが走る。

 続いてフィオがヴェイグロポスの注意を引く。

 挟み撃ちと時間差を掛けてマイアが足元に踏み込み、連続して斬り付けた。

 マイアに気付き飛び跳ねて距離を取ろう起矢先に、フィオが放った氷の矢が連続して直撃し、逃れるタイミングを逃してしまう。

 其処をマイアが更に踏み込んで、厄介な跳躍力を生み出す足を重点的に攻撃し続けた。

 フィオが好機とばかりに合流し、もう片方の足に深々とヴェイグシザーを突き刺す。


 ―――――ギョアアァァァァァ!?


 苦痛の雄叫びを上げつつ、ヴェイグロポスの頬が膨らみ、それにマイアは気付いた。


「フィオ、下がって!!」

「!? は、ハイッ!!」


 毒々しいまでに紫色の毒霧が周囲を染めんばかりに吐き出された。

 いち早く気付いた二人は全力で退避し、風属性の魔術を持って毒霧ごと攻撃を開始する。

 風で毒霧が吹き飛び、真空の刃がヴェイグロポスを切り刻んで行く。


「スタンプラズマを出す余力は無い様だね」

「今日一日追い掛け回されたのじゃ、既に魔力も尽きていようて」

「貴女も非常識な強さですけど……彼女も他の半神族とは違いますわね……」

「そうなの?」

「あれ程動けるような半神族は里には居りませんわ……覚醒段階に入ると、こうも変わるモノなんですの?」

「僕の場合は気付いたらこうなっていたから、覚醒前の事なんて覚えてないよ?」


 しれっと嘘を平気な顔で吐くセラ。

 そもそもセラは覚醒段階をすっ飛ばしているのだから、覚醒段階の半神族を見るのは初めての事なのだ。

 聞かれた所で答える事など出来る筈も無い。


「貴女はどうやって生活して来たのですか……」

「狩って、採取して稼いでの繰り返しだけど?」

「戦い続けてこうなったのですわね……信じられません……」

「信じようが信じまいが、これが現実なんだよ? 受け入れるしかないね」

「世界は驚愕に満ちていますわ・・・・・・」

「そうだねぇ~……そろそろ決着が着くかな?」


 三人は安全圏から武器を構え、フィオ達の元に移動を開始した。


 マイアの剣がヴェイグロポスの腹に突き刺さる。

 同時にフィオが左足の腱を切断する事に成功し、ヴェイグロポスは倒れる。

 其処に勢いを付けて頭部に痛烈な一撃をマイアは与え、魔獣は僅かに唸りながら倒れ伏したのだった。


「やりました♡」

「姉さんから借りた装備が無いと、ここまで手古摺るのね……もっと精進しないと……」

「マイアちゃん、危ないっ!!」

「「!?」」


 セラの声に反応して振り向くと、ヴェイグロポスは今にもマイアに襲い掛かる所であった。

 このヴェイグロポスは、時折敵を油断させる為に死んだ振りをするのである。

 二人はまんまとこの罠に掛かってしまっていた。


「間に合えっ!!」

「にょっ!?」


 セラは傍にいたヴェルさんを掴むと、ヴェイグロポスに思いっ切り投げ付けた。


「にょおぉ~~~~~~~~~~~~~~っ!?」

『ギョバッ!?』


 そのヴェルさんはヴェイグロポスの頭部に直撃し、一瞬ではあるが僅かな隙が生まれる。

 その隙を突いて、マイアは剣をヴェイグロポスの喉元に突き刺し抉る。

 大量の鮮血が吹き出し、ヴェイグロポスは今度こそ息絶えたのであった。


「ふぅ~危ない所だった……」

「……酷い…同情はしませんが…」

「何故じゃぁ~~~~~!? 我は酷い目に合されたのじゃぞっ!?」

「普段の行いが悪いからだよ…」


 ヴェルさんに関しては最早手荒いどころの騒ぎでは無い扱いになっていた。

 しかし、なまじ頑丈であるからこそ、ぞんざいに扱われがちなのもまた事実。

 更に言えば、次第にエスカレートしてきている変態行為が拍車をかけているのだ。

 聖魔竜の二つ名は何処へ消えたのやら……

 今や立派なエロリストである。


「助かりました。姉さん……」

「油断大敵、でも無事で何よりだね」

「ヴェルさんも大丈夫ですか?」

「おぉ~……天使がおる…我を心配してくれるのはお主だけじゃ、フィオ……」

「こんなの心配しなくても大丈夫だよ、フィオちゃん。殺しても死なないから」

「セラの冷徹っ!? ドSじゃな? お主の本性はドSなのじゃな!!」

「人聞きの悪い……僕は新撰組のつもりだよ?」

「悪・即・斬!? 鬼じゃ、鬼がここに居る!!」

「悪がそこに居るなら、僕は喜んで鬼にでもなるよ?」


 そう言いながらヴェルさんにアイアンクローを決めるセラ。


「にょおぉぉぉ!? 食い込む、指が頭蓋に食い込むぅ~~~~~!?」

「さて、それじゃ日が暮れる前に帰るとしますか」

「はい」

「は~い、ご飯の準備もしないといけませんからね♡」


 セラを含む5人はロカス村の帰路に着く。


「……狂ってますわ…………」


 フレアローゼだけは未だにこの非常識な連中に付いて行けなかった。

 だがそれも時間の問題であろう。

 朱に交われば赤くなるものなのだから……


 一行が移動を開始した後方で、ノーム達が魔獣の回収作業に勤しんでいた。

 

 セラ達の一日が今日も終わりを告げる。


 

 

 新たなマッスルが現れた どうする? 

                     

 何書いてんだ……俺…… 

 このネタ、セラムンが放映していた時に気に思い付いたんですよねぇ~

 貧弱な少年がプロテインを一気飲みして、

 「むぅん!! マッスルパワー ビルドアップ!!」

 そして変身するガチムチのヒーロー……思えばアホでした……

 まさか使う事に為ろうとは…… 


 人生何が何処で役立つか分かりません。

 何か疲れた……


 ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。

 

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