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 世間知らずの我が儘エルフを教育しよう ~ヴェルさんは上機嫌で帰ってきました~

 暗黒神の轟戦斧は禍々しい気配を発し、フレアローゼを威圧していた。

 だが、予想に反してそのフレアローゼは戦斧のデザインに気圧され、この武器の放つ禍々しい気配を感じる事は無かった。

 エルフ族は危機感知に優れ、普通ならこの戦斧の危険性をいち早く察知するはずなのだが、残念な事にフレアローゼはこの察知能力に関しては途轍もなく鈍感だったのだ。

 これはつまり、彼女自身が危険な場所に身を置いた経験が無い事を意味し、本来在るべきエルフとしての能力が開花せずに成長して来た事に為る。

 要するに甘やかされて育ったために、肝心の生存本能が可愛そうなくらいに低いのだ。

 早い話、残念エルフであったのである……


「……あ、貴女、その厳めしい武器で私をどうする気っ!? まさかそれで私を殺そうと云うの?

 アハハハハハ、たかが半神族の家畜にすら劣る貧弱な貴女にそれが出来るっているの? 私を笑わせないでくださいな、アハハハハハハ……」

「……ファイさん…あの子は本当にエルフなんでしょうか? 物凄く弱いみたいなんですけど……」

「……残念ながらエルフよ……まさか此処まで鈍感だなんて……相当、甘やかされていたみたいだから」

「良く今まで生きて来れましたね、寧ろそこが不思議ですよ。毎年恒例の魔獣襲撃が在るんでしょ?」

「私やエルカが魔獣の相手をしている時に、あの子は安全な場所でぬくぬくとお茶を飲んでたのよ」

「身の程知らずの世間知らず、おまけに戦場すら知らないんですか? 甘やかされ過ぎでしょ……」

「正直、アレが同族だと思うと恥ずかしくて……」

「陰険で執念深くて、ついでに役立たず……この村には要りませんね」

「使えない子でごめんなさい、本当に役立たずなのよ。口先だけは一人前なんだけど……」

「アレならエルカさんの方が遥かにマシですね、彼女はお願いすれば引き受けてくれそうですし」

「アタシには、その〝お願い〟が怖いわ……あの子に何をする気なのよ……」

「色々ですよ? 物理的に……」

「こわっ!!」


 覚醒した半神族は半魔族の能力を凌駕しかねない程なのだ。

 そんな化け物が物理的に何をすると云うのか、想像するだけでも怖ろしいモノが在った。

 実際にアムナグアとの戦闘を見ているだけに、セラが全力で戦えばどんな災厄になるか分かった物では無い。

 だが、そんな事を知らないお馬鹿な少女が一人、ここに居た……


「ちょっと、失礼では無くて!! たかが半神族の分際で、随分と上から目線です事。

 あなた達の方が余程役立たずじゃないっ、汚らわしい混ざり物の分際で!!」

「……どうも彼女から見れば、この村もエルフの里と同じように見えてるみたいですよ?」

「恥ずかしい子でしょ? 自分達以外の種族は皆傅く者だと思っているのよ……」

「身の程を知らない我が儘娘なんですね? これは少し手荒くなりますよ?」

「死なない程度にお願い……生きてさえいれば良いから…」

「了解、これを使うのも久しぶりだなぁ~」


 重量級の巨大な戦斧を片手で持ち上げるセラ。

 それを見たフレアローゼは一瞬にして青褪める。

 彼女の知る半神族は、例え成長していて大人に為っても、重量級の武器を持ち上げる事が出来ない程に体力が無いのである。

 しかし、目の前にいる半神族の少女は、自分の背丈ほどもある巨大な戦斧を軽々と扱っているのだ。

 この時、初めてフレアローゼは身の危険を感じたのだった。


「軽く振ってみるか……」


 ―――――


 戦斧が空気を斬る音がしなかった。


「なっ!? 早いっ!!」


 レイルが驚くのも無理は無い。

 セラが軽く振るっただけなのに、戦斧の軌跡が僅かにしか見えなかったのだ。

 それどころか他の人々には、いつ戦斧を振りかざしたのかすらわからなかった。

 本気で振るえば目に映る事無く斬り裂かれる事に為るのは間違いない。


 ―――――ヴゥオオォン!!


 僅かに遅れて音が響き、地面に一筋の亀裂が生まれると次の瞬間には其の亀裂に沿って地面が大きく抉れたのである。

 まるで獣の牙に裂かれたような傷跡が地面に刻まれ、発生した衝撃波が辺りに旋風を巻き起こす。

 軽く振るっただけでもこの威力である。

 本気であったならどれ程の威力なのであろうか……


「暫く使ってなかったから馴染まないけど……まぁ、いいか……」

「ちょ、あ、貴女、半神族では無いのっ!?」

「脆弱な半神族ですよ? アムナグアとタイマンはれるだけの只の貧弱な…」

「アムッ!? う、嘘よっ!! そんなの半神族では無いわ!!」

「残念ながら…正真正銘、真ごう事無き、完全完璧に半神族よ? ただし……〝最強の〟と付くけど……」


 ファイがフレアローゼの言葉を一刀両断に否定した。


「エルカもセラを怒らせて、地獄のような拷問に遭って再起不能にされたのよ……少し、スッカッとしたわ」

「な、エルカ様がっ!? 一体何をされたのですか!!」

「聞きたいの? でも、それを知ったらあんたは正気でいられるかしら? エルカですらトラウマを刻まれて逆らえなくなったと云うのに?」

「……一つ聞いてもいいかしら……」

「なに?」

「本当に……半神族よね、彼女………」

「そうよ? 最初からそう言ってるじゃない」

「私………何されるの……………?」

「……………………骨は拾ってあげるわ………同じ里の生まれのよしみで……」

「…………助けてくれる気は……」

「あははははははははははは!! そんなの、有る訳無いじゃない!! 何でアンタを助けなきゃいけないの? 親友でも無いのに♡」


 ファイは凄く良い笑顔であった。

 これまで観た事の無い、実に爽やかな……

 因果応報、天網恢恢疎にして漏らさず……フレアローゼは、普段の行いがそっくり其の儘自分に降り掛かる事に為ったようである。

 日頃の自分の行いが、いざと云う時にどれ程影響を及ぼすかが実に判り易い。


「そんな……酷い、私達・・・」

「只の赤の他人よね? アンタ、さっき自分でそう言ったじゃない。奇遇よね? あたしもそう思っていたのよ?」

「大丈夫、命には問題は無いから♡ ただ……『一思いに殺して』と言いたくなるぐらいに、ちょっと追い詰めるだけだからね♡」

「そ、それの何処が大丈夫なんですの!?」

「「少なくとも、命の保証はあるよ(わよ)?」」


 ファイも如何やらこの村に馴染んで来ていたようである。

 すっかりダークなエルフになり下がっていた。

 それ以上に、山のように積りに積もった恨みが彼女をそうさせているのだが……

 普段の行いは、ある時突然自分に降り掛かるのである。

 其れは善行なら恩で、悪行なら報復で返って来るのだから世間と云うのは恐ろしいモノである。

 それを理解できないフレアローゼにも問題が在るのだが、結局は選択をしたのは彼女自身なのだから仕方が無い。

 自業自得であろう。

 だが、ファイの意見に意気投合するセラも酷い。

 やはり本質はドSなのだろうか?


「待ってくれ」

「私を助けるのですわね? 流石優秀な下僕ですわ」

「この娘は一応は奴隷なんだ、三百ゴルタで買わないか?」

「へ?」


 奴隷呼ばわりの上、自分を売りに出す奴隷商に一瞬現実を忘れた。


「こんな我が儘で世間知らずで使えない。ましてや陰湿で執念深くて世間を嘗めきっている様な小娘が三百ゴルダですか?」

「実を言うと、この小娘を引き取ってくれるならタダでも良いんだ……だが、俺達にも家族がいるんだよっ!!」」

「安い命ねアンタ……粗悪品のポーション二個分の値段なんて……」


 冷めた目でフレアローズを見るファイと、その視線に耐えられず目を背けるフレアローズ。

 奴隷商も何やら耐えかねているのだろう、肩がやけに震えていた。


「出来る事なら俺達もこの、世間知らずで我が儘で何の役にも立たない、こいつ本当にエルフなのか?と疑問すら浮かぶ、メイドにも娼婦にもなれないゴミ以下の、陰険で人を顎で扱使う事に慣れた、チビで無い乳でチンクシャで、色気のイの字すら存在しない駄目エルフがどうなろうと知った事では無いが、俺達も商人なんだよっ!」

「……お察しします……はい、三百ゴルタ……苦労に同情して、一万ゴルタ上乗せしてあげます」


 奴隷商の目から涙が滝の様に溢れた……


「あ……ありがてぇ……救いの天使はいたんだ………」

「何やらかしたんです? この子……」

「最初は無銭飲食だったらしい……」

「食い逃げ!? エルフの里のお嬢が!? 落ちれば無様に落ちる物なんですねぇ~」

「フレアローゼ……アンタ………エルフの尊厳を果てし無く貶めてるわよ?」

「なんで愚民共にお金を払わなければなんらないのです!! この者達は私達の家畜な筈でしょう?」


 聞けば、無銭飲食を何度も繰り返し奴隷に堕ちたまでは良いが、罪状から家政婦奴隷として売りに出される事に為ったらしい。

 そして買い入れた人達から相次いで苦情が届き、賠償金を支払わなければならなくなったのが始まりであった。

 最悪な事に、お茶を出す様に進めれば雑巾の搾り汁で入れたお茶を出し、掃除をさせれば高価な物を懐に仕舞い込み、バレたら高価な家具を破壊。

 教養が在りそうだから家庭教師代わりにしてみたら、エルフ至上主義を教授し始め洗脳しようとする始末。

 その中にはどうやらかなりの地位に居るやんごとなき御方がいて、そこでも同じような真似を仕出かしてエルフ族の傲慢ぶりを宣伝していたという。

 結局フレアローズを引き取り、その被害を彼ら奴隷商が全て弁償なり謝罪するなりとせねば為らなくなったという。

 ファイにしてみれば、同じエルフとして頭が痛い問題であろう。

 

「ちょ、フレアローゼ!? アンタ、一族を滅ぼすつもり!?」

「愚民共になぜ媚を売らねばならないのです? この者達は私達に支配される事こそが喜びなのですよ?」

「本気で言ってるならタチが悪いわよっ!! 今の段階で戦争になれば、エルフは間違い無く滅びるわよ!!」

「魔力の低い下等な人族に何が出来ると云うのです?」

「魔力だけで戦争に勝てる訳無いじゃない!! 彼等は他の種族と同盟を組んでいるのよ? アンタの仕出かした事を口実に攻め込まれたら、半日で里は滅びるわよ!!」

「そんな筈は無いではありませんか……私達は最も優れた種族なのですよ?」

「だったらそこに居るセラを一人で倒してみたら? アタシは嫌よ、命が惜しいし」


 ファイに言われフレアローズがセラを見ると、その本人は勢い良く戦斧を振るい、衝撃波を辺りに撒き散らしていた。

 とてもでは無いが、勝てる気がしない……て言うか、無理!!

 小柄な少女が、自分の背丈以上の戦斧を振り回す事など事実上不可能に近い。

 ましてや、暗黒神の轟戦斧は超重量級なのである。

 威力もさることながら、扱い辛さもレジェンド級なのだ。

 そんな桁外れの武器を、まるで小枝のように扱っているのだから怖ろしい。


「・・・・・・・・・・」

「あんな化け物が、里の外にはゴロゴロといるのよ? そんなのが里に攻めて来てみなさい。

 辺り一面がエルフの屍で埋め尽くされるわよ……アンタの所為で…」

「何故、私の所為なんですのっ!?」

「…あんた…里の常識を外の世界に持ち込んで好き勝手にしたのよね?

 アンタの仕出かした所業でエルフの評判はガタ落ち……周りに敵を量産したのよ……」

「それが何だと言うのです?」

「アンタに関わった所為で、エルフが全てアンタみたいな馬鹿だと思われたら、当然滅ぼしてしまおうと考える奴も出て来るという事よ?」

「その様な所業が出来る訳……」

「出来るわよ!! アンタの仕出かしてくれた悪行の御蔭でね…それ以前に他の種族を嘗め過ぎよ!!」


 無知とは愚かである。

 自分の周りの常識にとらわれ、外の世界を見ようとしない事は罪である。

 他者の痛みを知ろうともせず、自分の我が儘を押し通す事は大罪である。

 そのツケが、今最悪な形で来てしまったのであった。

 セラはヤル気である。


「ついでに、あんたは脆弱と蔑んだ子の奴隷になったのよ? 今後生かすも殺すもあの子次第、逃げたら間違いなく殲滅されるからそのつもりで」

「な、助けなさいファイ!! 同じエルフでしょ!?」

「無理♡ 外の世界はアンタの常識が通用しない事を思い知るといいわ」


 実に晴れやかな笑みを浮かべて、ファイはそう断言した。

 その後ろでセラが戦斧を振り回している。


「今宵の轟戦斧は血に飢えておるわ……」

「セラさん、今は朝ですよ?」

「のぅ、セラよ……」

「なにヴェルさん? 今はこの戦斧が血を求めて喜んでるみたいだから後にして……フフフ…どんな声で泣くのか楽しみだねぇ~…」

「さりげなく自分の欲望を口に出しおった……怖ろしい奴……」

「ヴェルさんの事ですから、多分パフパフとやらをしてもいいのか聞きたいのだと思いますよ? 姉さん」

「マイアに思考を読まれたっ!? 我はそれほど判り易いのか!?」

「「「うん、はっきりと!!」」」


 あっさりと思考が読まれている……フィオにさえもだ…


「……まぁ、良い……で、どうなのじゃ?」

「揉むなり吸うなり、しゃぶるなりしても良いよ? 僕に実害が無ければね」

「にょほほ♡ ツルペタはまだ手を出しておらぬからのぅ。存分に堪能させて貰うぞよ?」

「御好きなように」


 フレアローゼ、あっさりヴェルさんに売られる。

 セラは奴隷にしたが、それ以外はどうでも良いようである。

 貧乳・巨乳を問わないヴェルさんの照準は、フレアローゼに向けられたのであった。


「……フレアローゼ………遠くに行ってしまったのね……」

「なにされるんですのっ!? わたし、何をされてしまうんですのっ!?」

「……あたしには何も言えないわ……目覚めてもあたしを襲わないでね? 其の時は容赦なく始末してあげるから」

「なにに目覚めると言うのですかっ!? 教えなさい!!」


 人に物を尋ねる態度では無かった。

 しかもこの場には空気を読まない処か、自分のペースに巻き込むイカレタ人種が多くいるのである。

 その代表的な存在が、フレアローズの肩を叩いた。


「さぁ、行こうかフレちゃん♡」

「ちょ、何処に!? 何で腕を絡めているんですの!?」

「大丈夫さ、フレちゃん! 怖くない、怖くないよ? 多分……」

「十分に怖いですわよっ!! 其れよりも、多分てっ!? 私をどうするおつもりなのっ!?」

「地獄がそこで待っているぅ~~~~♪♡」

「いぃ~~~~やぁ~~~~~~~~っ!! 助けて、お父様ぁ~~~~~~~!!」


 誰も助ける者などいない。

 使えない奴は鍛えれば良い、それがロカス村の掟だった。

 そしてセラ達は、これを口実にまんまとギルドの仕事をさぼったのである。

 そして場所は狩場へと移す事に為る……

 ・

 ・

 ・

「納得いかんのじゃ……」

「何がですか? ヴェルさん」

「セラのデッキ構成では十回デュエルすれば、必ず我が勝利するはずなのじゃ」


 どうやら、昨夜カードゲームで負けたことを根に持っている様である。


『きゃぁ~~~~~~~!! いぃやぁ~~~~~~~~~~!!』


「そうなの?」

「そうなのじゃ……なのに、パフパフを賭けの対象にすると必ずディスティニー・ドローを連発して来るのじゃ……」

「何ですか? そのディスティニー・ドローて…」

「ピンチになると、ほぼ百パーセントの確率で相手を倒せるカードを引き当てる事を言うのじゃ」

「それを連発ですか?」

「うむ……同じ相手に九回負けて、後の一回がワン・ターン・キルじゃった……」

「何もしない内に負けたんですか?」

「アレはどう考えてもおかしい……まさか…ゼ〇ルか?」


『ひぃ~~~~~!! 食べられちゃう!! 私、食べらちゃうぅ~~~~~~~~~っ!!』


 フレアローゼの悲鳴が響く中、ヴェルさんとマイアはカードゲームで負けた時の事を分析していた。

 普通に遊ぶ程度ならヴェルさんは連勝しているのだが、いざパフリを賭けの対象にすると、途端に勝率が激減低下するのである。

 流石にこれは納得できる物では無いだろう。

 しかも、女性の下着を被ったヒーローに連続して敗北に追い込まれるのだ。


「いつも良い所であ奴に邪魔をされるのじゃ、クレイジー・マスクマン……忌々しい……」

「それは…ヴェルさんが悪だからじゃないの?」

「!?」


 考えてみれば、ヴェルさんのデッキのユニットは殆どが性犯罪者関連である。

 悪の前には必ず正義が立ち塞がり、撲滅させられるのが世の慣わしであった。

 当然そんなデッキを使っている時点で、ヴェルさんは邪悪以外の何者でも無い。


「……気付かなかったのじゃ……恐らくそれが原因じゃろう……」

「あ…悪と認めた……」

「誰が悪かっ!!」


『ひゃ~~~~~食べられてるぅ~~~~~~っ!! 私、食べられてるぅ~~~~~~~!?』


 何やら命の係わる様な問題が発生している様だが、ヴェルさん達はいたっていつも通りであった。


「喧しいのぅ……あの程度の雑魚など、さっさと倒せば良かろうに……」

「既に体の半分がクラウパに飲み込まれそうになっているけど……てか、なんか凄く大きいわね」

「キングサイズですね……フレちゃん……本当に弱いんだねぇ……」

「同じエルフとして恥ずかしいわ……」

「どうでもいいが、あの娘……丸呑みにされるぞ? 助けなくていいのか?」

「助けなくてもよろしいのですか? セラさん……」


 聖女の如く腹黒エルフを心配するミシェル。

 しかし、銀色悪魔は冷酷だった。


「助ける? 何で? 僕は脆弱な半神族ですよ? お偉いエルフ様なら、あの程度どうとでも出来るでしょ?」


『こいつだけは絶対に敵には廻すまい……』誰もが皆そう思った。

 決して手出しをせず、何もせずに彼女がどう行動するかを眺めているだけで、助けようとする素振りすら見せないのだ。

 天使の様な悪魔の笑みを浮かべて……怖ろしい……


 ――――――ゴクン!!


「「「「「「あっ……飲まれた……」」」」」」


 クラウパは首を上にあげて、フレアローゼを丸呑みにした。

 喉元を通る彼女の存在が、僅かな膨らみとして外から確認が出来る。

 事件は村で無く……狩場で起きているのだ。


「文字通り、喉越しで味わっていますねぇ~」

「いや、ビールじゃねぇんだから!?」

「フレアローゼ……長いようで短い付き合いだったけど……迷わず昇天してね…ぷっ…アハハハハ」

「ファイ……それ程までに怨んでいるのですか?」

「セラもじゃが……こやつも酷いのぅ……」

「私はどうでも良いですけどね……所で、アレ倒しても良いの?」

「あんな大きいサイズは初めてですよぉ~?」 

 

 だらだらと言いあいながらもそれぞれが自分の武器を構え、特大サイズのクラウパを包囲して行く。

 そして、本格的な狩りが始まった。

 狩り人と化した彼等の脳裏からフレアローゼの存在は消え去り、只目の前の獲物を倒す事に飲み集中して行く。

 誰かが死んだからと言って狩りを中断する程彼等は愚かでは無いし、戦意を喪失するどころか増々集中して行くように自然にそうなったのだ。

 冒険者で有る以上は、命の殺り取りは常に行われている日常であるが故に、彼等も自分が死ぬ事すら覚悟は出来ているのである。

 其れから数分後、クラウパは断末の声を上げる事に為った。






「……長い事解体作業をして来たけど……倒した魔獣からエルフが出て来たのは初めてだわ……」

「予想以上にショボかったですよ……まさか此処まで弱いとは思いませんでした……」


 倒されたクラウパから九死に一生を得たフレアローゼは、今自分が生きて居られる事の喜びを噛み締めていた。

 同時にそれはセラへの恐怖の裏返しであり、彼女はセラの顔を見た瞬間には硬直し、蛇に睨まれた蛙常態になってしまう。

 まぁ、実際に魔獣その者に喰われた訳であり、死の恐怖を存分に味わったのだから無理も無いが、流石に素人に魔獣を嗾けるのは如何なものかと思わずにはいられない。

 実際にフレアローゼは半泣き状態である。

 其れでも平然としているセラに、イーネは呆れるしか出来ないでいた。


「クラウパごときに食われるエルフと云うのもどうかと思うのじゃが……それ以上に、弱過ぎるのぅ」

「セラちゃん……幾ら何でも酷過ぎない?」

「僕が酷いと云うのなら、同じ事を覚醒前の半神族に強要しているエルフ族の方がよっぽど酷いですよ?」

「魔獣の囮にしてるの!? なにそれ、どっちが野蛮な種族なのよ……」

「何でアンタ…エルフの内情に詳しいのよ……まぁ、強硬派に属している連中が良くやっているらしいわ……」

「例え狩りに出た事が無いとしても、知っていて黙認しているなら有罪です。僕は容赦なく行きますよ?」

「脆弱と思われた種族が実は化け物だった……フレアローゼも身をもって知ったわね…プッ……」


 そのフレアローゼは、クラウパの体液塗れでさめざめと泣いていた。

 まぁ、実際に魔獣に喰われたのだから無理も無いが……


「この甘えきった根性を叩き直さないと駄目ですね。クラウパ程度に負けるような駄目エルフなら覚醒前の半神族の方が遥かに使えますよ」

「其処まで弱いの? ……フレアローゼ、アンタ…自分が貶めていた半神族以下だって……」

「半神族は、例え体力が低くても魔力は高いですからね。やり方次第では効率良く狩りを進められますし……」

「うぅぅぅ……屈辱ですわ………こんな…絶対に報復してみせます…」


 厳しい現実を、未だ受け入れられないでいるフレアローゼ。

 だがそんな彼女を見逃すほどセラは甘くなかった。

 

 ――――――ドゴスッ!!


 背後から響いて来た、何やら途轍もない重量が地面に落とされるような音。

 恐る恐る振り返ると、セラが轟戦斧を地面に突き立て満面の笑みを浮かべている。


「まだ元気そうだね? 運動したいなら幾らでも相手になるよ?」

「ひっ、ひぃいぃぃ!? け、結構ですわ!!」

「遠慮しなくてもいいのに……精々、思い出す度にのた打ち回り、奇声を上げて壁に頭を何度も打ち付け、最後には踊り狂って発狂するまで追い込むだけだからね♡」

「それはもう狂っていますわ!! 貴女は悪魔よ!!」

「この村じゃ、銀色悪魔と言われているよ? 今更だね☆(キラリ)」


 今更悪魔と言われたところであまり意味など無い。

 既に変態からそう言われているのだ。

 寧ろセラにとっては名声に近い。


『このぉ~~~見てなさい!! 夜になったら貴女の寝首を掻いて……』

「ねぇセラ。この子夜になれば襲って来るわよ? ほぼ確実に……」

『余計な事を言わないでっ!! 警戒されたらどうするのよっ!!』


 悪だくみを企んでいた矢先に、ファイにその道を断たれてしまう。

 だが、其れだけでは終わらないのがセラである。


「あ~~夜襲を受けても返り討ちじゃろう…寧ろ手加減しない分、小娘の命に係わると思うのじゃ」

「ヴェルさん……どゆこと?」

「ファイさん達は知らないでしょうから説明すると、ヴェルさんは以前、夜に姉さんの寝こみを襲った事が在るんです」

「……返り討ちに合ったのね」


 ヴェルさんは筋金入りのエロリストである。

 当然ながら夜襲も敢行していたのだ。

 だが……


「抱き付こうとダイブした瞬間に、喉元に拳を受け床に倒れた瞬間、腹に膝を叩き込まれた挙句にマウントポジションで殴られ続け、とどめに窓から放り出されたのじゃ……」

「……なら安心ね…襲い掛かった瞬間に、この子の息の根が止まる事に為るみたい。安心したわ」

「しかも眠った状態でじゃぞ? 手加減なしの本気の拳を何度も叩き込まれるのじゃ……

 泣こうが、わめこうが本人には聞こえず……延々と殴られ続けるのじゃぞ? あんな恐怖は初めての経験じゃった……」


 セラは寝ている状態が一番危険である様だ。


「セラ……あんた…何でそんな真似が出来るのよ…」

「お爺ちゃんが言っていた。武術を嗜む者は、如何なる時でも隙を見せてはいけないと」

「要するに、鍛えられたんだな……その上、覚醒までしてんだから始末に負えねぇな……」

「フレアローゼさんが、知らずに夜に襲っていたりしたら……」

「当然、殺されてるわね……良かったわね、襲う前に間違いが正されて……」

「普段どれだけ非常識にしていても、手加減はしてくれているみたいだな」


 フレアローゼは、目の前が真っ暗闇に閉ざされた気がしていた。

 報復すれば返り討ちは必至、かと言って奴隷生活などはしたくは無い。

 しかも相手は半神族、歪んだプライドがそれを良しとしないのである。


「あ、そうそう。炊事洗濯も自分で出来るように為って貰うよ? 変なモノを作ったら、それが君の食事になるから馬鹿な真似はしないでね?」

「!?」


 何時もの様に嫌がらせをして追い出されようと考えていたフレアローゼは、その考えを読まれ先に逃げ道を塞がれてしまう。

 最早自分に自由など無いのだと悟り、力なく項垂れるのであった。


「どの道村の外は魔獣の巣窟。逃げても餌になるだけだだけど、死にたいなら別に逃げても良いよ?」

「そ…そんなぁ~……」


 ロカスの村は辺境であるが故に、常に魔獣の襲撃に警戒している。

 例え周りからは変人たちの巣窟に見えようとも、彼等は常に基本的な事は抑えているのだ。

 仮にフレアローゼが一人で村の外に逃げ出そうものなら、間違いなく餌にされる事に間違いは無い。

 此処では、自分の身を守れるのは自分自身だけだと、全ての住人が自覚しているのだ。

 それ故に村の住人達は冒険者の経験を積んでおるのである。


 だが、フレアローゼはその経験が無い。

 危険な事は他人任せ、親に甘やかされ自分がどんな危険な世界に生きているかも知らない。

 ただ与えられる物に満足し、自分から何かを変えようと動く事すら出来ない無力な存在なのだ。

 いや、その考えすら浮かばない哀れな愚か者なのである。

 

 そんな無力な小娘が、行き成り世間の荒波に投げ出されても何も出来る事なんて無いのである。

 その結果、自分の常識を基準に外の世界でも我が儘を通し、最後に奴隷となったのだ。

 これは親の教育の課程で教えられた事が偏っていた為であり、彼女の行動原理はその教えを基準に行動する事に為るため、考えようによってはフレアローゼも被害者なのかも知れない。

 一概に彼女を責める事は出来ない話であろう。


「絶望した? でもね、其れは君自身が外の世界を知ろうともせず、親の教えを疑いもせずに鵜呑みにしたからこうなったんだよ?

 エルフが高貴? 自分達がこの世界を統べる優れた種族? そんな訳無いでしょ?

 だって、君はあまりに弱過ぎる。半神族の僕よりも遥かにね、どこが優れているのさ?」

「な……嘘よっ!! お父様に間違いは無いわ!!」

「現実を見なよ……現に君は外の世界で奴隷にまで落ちて、ついでに助ける者も居ない。

 第一、君の親の言っている事が正しいなんて誰が決めるのさ?

 現実なんて残酷なんだよ? この世界はね、弱い奴は真っ先に死んで逝く弱肉強食の世界なんだよ?

 其処で生き残るには強くならなくちゃならいけない。

 そして君は無力だ。半神族の僕でさえ強く為らなければ生きて行けない、地獄のような世界だという事を知りなよ」

「認めない!! こんなの認められる訳無いじゃない!!」

「認めようと、認めなかろうと現実は変わらないよ? 君はあまりに無力で弱い、魔獣の餌に過ぎないんだから。

 君が本当に優れているのなら、何でクラウパ如きに食われたのさ?

 現実を受け入れられないなら死ぬよ? この村から出て行くだけで直ぐに死ねるよ? 多少苦しむ事に為るけどね。

 この世界は君が思っているような優しい世界じゃないんだよ。

 君がのうのうとお茶をしている間に、命がけで戦っている同胞がいる事を忘れちゃ駄目だよ?

 少なくともエルカさんは君よりはマシだったかな、其れなりの実力が在ったし戦闘経験も在った」

「・・・・・・・・・・・」

「同じ強硬派なのに方や同胞の為に戦い、方やそんな事すら知らずに優雅にお茶を飲んで戦場で戦う苦しさを知ろうともしない。

 君とエルカさん、どちらが優れていると聞かれたら、僕は間違いなくエルカさんを支持するね」


 セラは決して糾弾する訳でも無く、ありのままを淡々と話しているだけである。

 だが、半神族で有る筈なのに魔獣と対等に戦える事が、嫌でも現実を突き付けて来るのだ。

 そして、自分がこの世界でどれ程弱い存在なのかを思い知ったのである。


「まぁ、今日はこの辺にして置いて、公衆浴場に行って来なよ。

 クラウパの体液で臭くなって来てるから、着替えは……フィオちゃん、サイズが同じ位だから貸してあげて」

「いいですよ? じゃぁ、着替えはお風呂屋さんに持って行きますね」

「お願い……えぇ~~子やわぁ~~ほんま……」

「何故そこで関西弁? まぁ良いじゃろう。では我が浴場に案内して進ぜよう」

「ごゆっくりぃ~~~~♡」


 自分の無力さに打ちひしがれているフレアローゼの手を引き、ヴェルさんは公衆浴場へと連れて行く。


「良いんですか? 姉さん。ヴェルさんは、アレをする気ですよ?」

「僕に実害が無ければ良いんだよ、あの子には生贄になって貰うよ」

「哀れですね……あぁは成りたくないモノです」


 マイアもフレアローゼをあっさりと見捨てる分、かなりドライであった。

 二人の脳裏には、体中をヴェルさんに弄られるフレアローゼの姿がハッキリと浮かんでいた。


「それじゃ、夕食の準備をするとしますか♡」

「そうですね、私はお風呂を沸かします」

「ん~~お願い」


 セラとマイアは二人して仲良く帰路に着く。


「……あの子も…セラの犠牲者になるのか……」

「…自業自得とはいえ……不憫ですね…………」

「あははははははははは♡ いい気味、セラに任せて正解だったわね♡ ぷっ! くふふふふふふふ……」

「「・・・・・・・・・・・・」」


 一人、フレアローゼの不幸を喜ぶ者が居た……

 ファイの奥底にある恨みの念は、相当に深いようである……






「ひょあぁっ!? な、なにをするんですのっ!?」

「同じ女同士なのだから良いではないか♡」

「どこをさわっ!? ちょ、何故その様な所をっ!?」

「自分で体を洗った事が無いのじゃろ? 我が手伝ってやるのじゃ♡」

「ひゃん!? そこは……りゃめれすわぁ~~!!」

「ここか? ここがえぇ~~のんかぁ~?」

「やっ!? らめぇ、りゃめぇ~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」


 公衆浴場の女湯で、ピンク色の空気が溢れていた……

 如何なる、フレアローゼ。

 君も百合の道へと堕ちてしまうのか?

 どちらにしても、彼女の不幸は始まったばかりなのであった。


 そして、彼女を連れて帰って来たヴェルさんは……何故かつやつやであったと云う……


 その日、ヴェルさんは上機嫌で飯をたらふく食べていた。

 三杯目にはそっと出すのを忘れない程に……


 今まで観た事の無い、実に良い満足気な笑顔で……  


 何故こうなった……こんな話になる筈じゃなかったのに…

 結局脱線して行く運命なのか……いい年して、何書いてるんだろうと自問自答しています。

 真面目な話が書けねぇ~~!! 

 すまんアムナグア、お前の死は無駄だった……

 

 本来なら真面目な話が七割、残りがギャグ路線の筈だったのに……

 今では立派なギャグ一直線、ど~~なんだろ…コレ……

 まぁ、何とか書けているのですが、偶に真剣に今を考えてしまいます。


 どうしてこうなったと……


 此処まで読んでくれた方、ありがとうございます。

  

 


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