そして二人は 会いたくも無いのに再会した。 ~ヴェルさんには某乳龍を超える事は出来ないと思います~
ロカスの村は今迄以上に多くの人々の賑わいを見せていた。
しかし、人が多き為ればそれに対応する人材見必要となり、現時点では人手が足りない事に等しい。
セラを含めた一行は当然運営側に廻され、現在に措いては接客業を余儀なくされていた。
別に仕事自体は文句を言う必要は無いのだが、困った事に対応する人材が不足しているだけに食事を摂る暇すらないのである。
更に言えば、耳聡い者達がこの村を拠点にしようと押掛け、ボイルも対応に追われている。
その為この村を代表する主要メンバーが分断され、会議する暇すらないのが現状である。
これでは改善しようにも動く事すら叶わず、ただ流れるままに作業を熟し続けねばならないのだ。
流石にこう毎日続いては働いている者達も参って来るのは否めないだろう。
ギルド内の職員達は流石に疲労困憊であった。
そんな彼等は無理を承知で深夜に集まり、今後の話をすべくギルドホールの食堂に集っていた。
「……不味いですね……このままでは過労死する人が続出するかもしれません」
「ローテーション組んでも次から次へと人が来るから、あまり意味が無いわよねぇ~……」
「迷宮から戻って来ない奴等がいるが……こいつ等全員死亡でいいんじゃね?」
「熟練者は一月近く迷宮に入り込んでいますから、何とも言えないですよ?」
「マジかよ……書類が遅れて如何しようもねぇんだが……」
仕事自体は慣れて来たが、依然予断を許さない微妙な均衡が続いていた。
「やはり人手が足りねぇんだよ……奴隷商は何してやがんだ……」
「無茶を言うもんじゃないわよ、向うも此方の条件に合った人材を探してくれているんだから」
「だが、これ以上今の状況が続くと流石にヤバいぞ。その内、誰かが倒れかねん」
「兄貴、その辺はどう云う話になってんだ? 奴隷商は兄貴が管轄してんだろ?」
皆が一斉にボイルに注目する。
「二大商会の話によれば、もうじき人手の方は何とかできる話が着いている。問題は仕事に使えるかどうかだな」
「人が増えても足手纏いじゃ意味がねぇもんなぁ~」
「何名かが労働希望でこの村に住み着く事にもなるな。ギルド内の余り部屋を使えばいいか……」
「仮設住宅を建てるにしても資金繰りが問題なのよねぇ~」
「廃材はもうねぇし……頭がイテェな……」
結局の所、人員を確保してからでないと手の出しようが無かった。
つまり今の段階では八方塞がりなのである。
「今は地道に稼ぐしかないか……それより先生……」
「何です?」
「あんたら、何してんだ?」
職員の怪訝な顔で見つめるその先には、ヴェルさんとセラがカードを広げて対戦していた。
最近、各町や王都で人気を博しているカードゲームである。
偶然商人達から進められてヴェルさんとルールを手探りで調べながら、漸く遊び方を把握したのである。
騎士や天使、魔物に魔法使いと様々な種類のカードが在り、その他にも罠や魔法・儀式系のカードも存在しかなり複雑なゲームなのであった。
「商人の人に勧められてね、こうした遊びは好きだからヴェルさんとルールを覚えて勝負してるんだ」
「我が勝てばセラの胸を好きに出来るのじゃ♡」
「逆に僕が勝てば、ヴェルさんは荒野に逆さに埋められる事に為るんだけどね」
「賭けじゃねぇかっ!? しかもエロいのとデンジャーな内容なんだが……」
「言いだしたのはヴェルさんなんだけどね…賭けをする以上はハイリスクでないと意味は有りませんよ?」
賭けをしようとしまいと、やっている事はいつもの日課であった。
「にゅふふ…我がアブノーマルデッキは無敵じゃ! 今日こそお主を悶絶させてやろう」
「……今の段階で勝っているのは僕なんだけどね……」
「我の勝利の方程式は既に見えておる。我のターン、ドローッ!!」
ヴェルさんが勢いよく山札のカードを引き、その裏側を見て不敵な笑みを浮かべた。
「儀式カード【変態融合】を発動!! 我の場の【用務員と言う名の外道強姦魔】と【夜の病棟の鬼畜調教師】を融合させ、現れよっ!! 【伝説の変態 腐れオタク・ザ・グレート】!!」
「何か……色々ヤバい内容なんだけど……」
「にゅふふ……セラの場のユニットは全て美少女キャラ。このカードが召喚された時、女性キャラは全て山札に強制送還されるのじゃ!!」
「ですよねぇ~変態…もとい、性犯罪者に好意的な女性なんていないと思うし……そりゃ、逃げるわ…」
「更に、このカードの特殊効果【ドン引き】により、他のユニットカードは攻撃・防御力を三分の一に落とされるのじゃ!!」
「僕だったら見つけ次第、速攻で埋めるんだけどね……」
「場にユニットが居なくなったのじゃ、セラにダイレクトアタックっ!! 残りのライフは300じゃ、我の勝ちは決まった物じゃのう」
無い胸を張り、ドヤ顔するヴェルさん。
このエセ幼女を泣かせる。セラのやる気はMax状態に突入した。
そして……
「僕のターン、ドロー!!」
山札からカードを引き確認すると、ヴェルさんを冷徹な視線で見つめる。
だが、ヴェルさんは既に勝負は着いた物と確信し、余裕の態度を崩す事は無い。
「ヴェルさん…勝負はライフが0になるまでは分からないんだよ?」
「なんじゃ、負け惜しみかのぅ。我の最強のユニットの前では如何なエースカードも無力じゃ!!」
「それはどうかな……僕は場に【うだつの上がらない学生】を特殊召喚!!」
「攻撃防御共に300じゃと? そんな雑魚で如何しろと……」
「このカードが特殊召喚に成功した時、特殊効果が発動!! 【うだつの上がらない学生】はアブノーマルヒーロー【クレイジー・マスクマン】に進化する」
「な、何じゃとぉ―――――――――――――――――っ!!」
セラは山札からカードを1枚取り出すと、場にあるカードの上に重ねるように載せた。
そして山札をシャッフルする。
「このカードが場にある時に特殊効果、『待て、それは私のお稲荷さんだ』が発動。相手の場にある全てのユニットは攻撃力並びに防御力が5分の1に減少する」
「にゅおぉぉぉっ!? 不味いのじゃ、クレイジー・マスクマンの属性はアブノーマル、同じ属性にこちらの効果は効かない!? これでは撃破されてしまう!!」
「これで終わりじゃないよ? 手札から帰還魔法【進化せし英雄の帰還】を発動。僕が帰還させるのは【スコップ・エンジェル】、それが進化して【断罪の女神 ジャッジメント】を進化召喚!!」
「クレイジー・マスクマンの攻撃で残りライフが400……断罪の女神の攻撃が4000……負けた………馬鹿な…」
「悪は滅びる……そしてヴェルさんの命運も尽きる事に為る」
セラは、いつものスコップを取り出して立ち上がる。
「ま、待て、これは遊びじゃろっ!? まさか本気で……」
「賭けを言いだしたのは、ヴェルさんなんだよ? 自分の言葉には責任を持たないとね♡」
「何故こうなった……我はただ……パフパフがしたかっただけなのに……」
「言い残す事は無い? これが最後になるかもしれないからね……【魔力解放】……」
ヴェルさんは胸元からある物を引き摺り出して、セラに突き付けた。
其れは黒い女性用の下着……黒ブラであった……
「こ、このミシェルの黒ブラをレイルに届けてくれ、これは良い物グべリョハアァッ!!」
「この腐れ変態エセ幼女、どさくさに紛れて盗んでいやっがったのか……」
気絶したヴェルさんを足を出した状態で袋に詰め、セラはその場を後にする。
当然埋めに行くのだが、セラが姿を消した後にそれは起こった。
多くの男達がミシェルの下着と聞き目の色が変わり、黒ブラを求めて殺到したのである。
女性達の冷たい視線が突き刺さる中、男達の熱い戦いが始まる。
ミシェルの黒ブラは、独身者の多いこの村では刺激が強過ぎたのだ。
彼等のメンタルはリミッター解除状態に陥り、性欲と云う本能の赴く儘に血で血を洗う暴動へと発展していった。
ギルド内が不憫な男達の血で染まるが、割とどうでも良い話である。
翌日、奴隷商の馬車が平原に足だけを出して埋まっているヴェルさんを発見したが、怖くて誰も近寄る事はしなかった。
どこぞの村の猟奇的な殺人現場の様な様相は、半ば非人道な商売をしている彼等でさえ躊躇うほどの不気味さであったと云う。
その被害者であるヴェルさんも目覚めると直ぐに自力で脱出し、何事も無い様に朝食を貪り食べていた。
ロカスの村は今日も平常運転であった。
最近のセラ達の朝は早い。
ここ数日、セラ達はギルドの職員として働き詰めであり、また暫く続く事に為ることは嫌が追うにも自覚していた。
はっきり言えば辛い。
慣れない事務仕事に受け付け業務、更には時折給仕として動き続け休む暇が無いのである。
偶には休みたいとも思うが、人員不足で人の手が足りない処か明らかに過剰業務な事に精神的に疲れ果てていた。
これが現代の会社だとしたら、どう考えてもブラック企業であろう。
其れでも文句は言いこそすれ仕事を続けているのは、この先に必ず自分達が求めていた物が在ると信じているからだろう。
村人達の思いが分かっているが故に、セラも努力を惜しまずに手伝っているのである。
「……それでもキツイ………ハードだよ…受付嬢がこんなにも大変な仕事だとは思わなかった」
「そうですね……私も給仕だけなんですが…正直休みたいです」
「こんなに忙しくなるなんて思いませんでしたよぉ~……狩りの方が楽ですよねぇ~」
「情けないのぅ……あと数日ぐらい我慢出来ないのか?」
「何もしてないヴェルさんに言われたくはね――ですよ」
「………手伝っても良いのか……………?」
「何もせず、埋まっていてください」
「ひどっ!?」
ヴェルさんに手伝わせたら、村を発展するどころか廃村になりかねない。
そんな危険なリスクを冒すぐらいなら、過労で倒れる覚悟で走り続ける方がマシであった。
「そんな訳で、レイルさん達にも手伝ってもらいましょう」
「いいんでしょうか? レイルさん達も秘境から帰還したばかりなんですよぉ?」
「何もしないでじっとしてたら体力が衰える一方だよ? 少し運動しないと余分なお肉が付きかねないし」
「そうなると……あの筋肉の餌食ですね」
「フィオちゃんは、ガチムチになったファイさんやミシェルさんを見たいのかなぁ?」
「……見たくないです………」
「だよね、そこら辺を理由に口説き落としましょう」
「鬼じゃな………」
立っているなら病人すら扱う。
人手に余裕が無い以上、何処かで帳尻を合わせなくてはならないのだ。
セラ達はマッスル亭に向かうと、ジョブが何時もの日課のマッスル体操をしていた。
いや、何故かその周りには数名のガチムチ・マッスルズが一緒になって体操をしていた。
朝も早くから暑苦しい光景である。
「「「 マッチョが増えてるっ!? 」」」
彼等はジョブが鍛えている【マッスル・メイト】のメンバー達である。
老若男女問わず幅広く筋肉を鍛える、肉体美の探究者達であった。
「……あんなに居たんだ……筋肉の暗黒面に堕ちた人達……」
「しかも皆いい顔をしておる……アドレナリンが出過ぎじゃ……」
「何故か……あのオネェを思い出すのですが………」
「「アレもガチムチだけど、あそこまでは酷くねぇから!」」
穢れたドリルで無差別に男を襲うオネェに比べたら、筋肉軍団の方が遥かにマシである。
見苦し事には変わりはないのだが………
朝から気合を入れて『フンッ‼‼』だの、『ヌリャッ!!』だの筋肉を見せびらかすような体操はどうかと思う。
しばらく呆然としていたが、ヴェルさんは偶然ある事に気付いた。
「のぅ、セラよ……」
「なに、ヴェルさん……」
「さっきから奴等の掛け声……どこかで聞いたようなメロディーなのじゃが……」
「えっ?」
セラは耳を澄ませたくは無いが、少し気になったので取り敢えず良く彼等の掛け声を聞いてみる。
相変わらず、『ふぬぅ!!』だの『ヌフゥ~ン!!』だの聞きたくない声なのだが、やがてそれは複数が交わり、一つの曲を奏でていた。
『ふんっ!!』ぬぅ~ん!!』むむっ!!』むんっ』むん』ぬぅ~~ん!!』ぬぅ~~ん』むぅん』むむ』むぅ~~ん♡』
『むぅんっ!!』ふぅん』むむぅ』ぬぅ~ン』ぬぅん』むぅ~~ん!!』ヌン!!』ムムゥ』フンムゥ』ヌゥ~~ン』
「……認めたくは無いのじゃが……某世界崩壊後の世界を描いた有名作品の回想シーンに使われた……」
「偶然とはいえ……こんな暑苦しい曲調を、僕は今まで聞いた事が無い……最悪だ……」
「聞きたくないのじゃ……あの名作が穢れるのじゃ……」
彼等は実に良い笑顔で何処までも暑苦しく、あの名作の挿入歌を無自覚に奏でている。
迸る汗と鍛えに鍛えた筋肉が朝日に輝き、彼等の顔は実に爽やかで恍惚とした笑みが溢れている。
だが、それを見ている方は流石にキツイ。
ついでに言ってしまえば、彼等が宿の前に陣取られていては邪魔以外の何者でもないのだ。
「この筋肉がぁ~~輝くのはぁ~~いつも~自分を~~鍛えているからぁ~~~♪
たくさんの人がぁ~ガチム~チな~のはぁ~~あの宿の地下深くでぇ~鍛えてるからぁ~~~~~♪」
「いやな歌じゃのぅ……何故そこで対抗する……」
「さぁ、鍛えようぅ~~貧弱な体ぁ~~~食事・飲み物に、プロテイン、混ぜ込んでぇ~~~~~~♪
父さぁ~~んが目指したぁ~~至高の肉体ぃ~~~~母さぁ~~んがぁ~~惚れたぁ~厚い胸板ぁ~~」
「今のあの人達にはぴったりの歌ですね……どこの歌かは知りませんけど……」
しかしこの時、不用意に口ずさんだ替え歌は思わぬ結果を招く事に為る。
マッスル・メイト達が一斉にセラに振り返ったのである。
「……セラか…見ていたのなら声を掛ければいいだろうに……いや、今はそれはどうでも良い……」
「な……何ですかジョブさん……顔が怖いんですけど………」
傍目からは美少女を威圧する上半身裸のビキニパンツガチムチ筋肉漢……美しくない光景である。
そのジョブが何故か凄い形相でセラを睨んでいた。
「なぜ……知っている……」
「な、何がです?」
「この宿の秘密を何故知っている!! 宿の地下の事は誰にも知られていないはずだ!!」
「……この宿に、これだけの人数は生活できませんよ? 地下室でも無ければ……あとみんな見た事無い人達でしたから、もしかして地下で筋肉を鍛えているのではと思っただけなんですけど?」
「……しまった……俺とした事が、うっかり秘密を漏らしてしまっていたのか……」
アホだった……
ジョブの顔には驚愕と、己の過ちに気付いて困惑している表情が綯交ぜになって浮かぶ。
だが、所詮は筋肉バカ。
ここから彼はとんでもない暴挙に出ようとする。
「……仕方が無い……知ってしまったのならお前達にも此方の世界に来てもらう……」
「何でですかっ!! 嫌ですよ、自分のミスを人を巻き込んで帳消しにしようとしないでください!!」
「俺とて無理強いはしたくは無い…しかし、この宿の秘密を知ったからには筋肉の園に踏み込まねばならないのだぁ!!」
「良く言えましたね!? 人にプロテインを強要するような人が!!」
「アレは俺流の親切だ…お前達は、知らないで俺達の世界に足を踏み入れた。
済まないとは思うが、お前達も筋肉の道に来てもらうぞ!! お前達、この四人を捕えろっ!!」
「に、逃げろぉ――――――――――――――――――っ!! ガチムチにされるぞぉ!!」
襲い来る筋肉の精鋭達。
セラ達はなりふり構わず全力で逃げた。
途中何度かフィオとマイアが捕まったが、セラとヴェルさんの活躍により救助される。
しかし、彼等は止まらない。
鍛えているだけに怖ろしくタフだったのである。
しかも、中には高齢の老人達も含まれているのだからタチが悪い。
迂闊に攻撃できず、躊躇いを見せた隙を見て襲い掛かられるのだから逃げる方は災難であった。
彼等は何処までも精強で、並みの冒険者であったら瞬時に捕えられ、筋肉の園に連行されていた事であろう。
セラ達が逃げ切れたのは、セラ自身が覚醒した半神族であった事と、腐っても聖魔竜がいたからである。
ただ鍛えただけの普通の人間では、このチートな存在である二人をどうこうする事は出来なかったのである。
彼等は自分達の鍛え方が甘かったと嘆き、再び地下に篭り筋肉を鍛える鍛錬を始めるのであった。
翌々考えれば、チートな二人を追い詰める事が出来る彼等は、冒険者になればかなりの実力者になれるであろうに、何とも勿体無い話である。
そんな世間的な評価すら気にせず、彼等は地下深くで今日も筋肉を鍛えるのであった。
こいつ等、生活はどうしているのだろうか?
色々と疑問が尽きない……
「……何て事が在りまして………」
「……朝から災難だったな…で? 俺達にギルドの仕事を手伝ってほしいと?」
「正直、人手が足りなさ過ぎなんですよ……客は増える一方なんですが、対応する人材が不足し過ぎです」
「ファイ、ミシェル、如何するよ? 俺達も手伝うか?」
「アタシはいいわよ? 装備を修理するまでの間なら」
「そうですね…【オルクニケ・エテルネム】まで行った代償は高すぎました。装備を修理するにしてもお金が足りませんし……」
受付けや他の業務の職員に関しての給料は均等で、其処に不平等な僅差は存在しない。
安定した収入が得られるなら、彼等も手伝う事には異論は無かった。
「ファイさんもエルフの集落から出てきて冒険しまくりですねぇ~普通なら死んでるか奴隷落ちしてますよ?」
「あの凍土はエルフの里よりも遥かに過酷だったわ……あたし…もう何も怖くない気がする…」
「ファイさん…目が死んでるわ……其処まで過酷な所なの?」
「あの凍土で生き残れなかったら、他の土地じゃ直ぐに死ぬよ? もっと酷い所があるから……」
「アレで序の口だとっ、マジかよ!?」
「セラさん……貴女は何処まで探索したのですか……あの凍土だけでも可成り難易度が高いですのに……」
「怖いわね…コレクターとその仲間達……常軌を逸している…」
エルフであるファイには、セラの放つ気配が常識の埒外である事は知っている。
過酷な場所で生きねばならなかったエルフ達は気配察知能力が必要以上に優れているのだ。
そのセラと共に数々の過酷な場所へと赴いたその仲間達の非常識さは計り知れない物が在った。
無論そんな存在はこの世界には居ないが、それを知らない彼女達には化物のような存在として映るのである。
ましてや龍王の装備を所有しているセラである、そのセラと同等以上に戦える連中がいるとなれば、其れはエルフの種族としても看過できない問題なのだ。
今は仲良くやってはいるが、里の決断次第では敵対する間柄になりかねない。
そうなればセラの様な規格外の存在は、単騎で里一つ滅ぼしかねない災害指定級魔獣と同等の存在なのである。
そんな連中が複数いるとなれば、冷静に世間を見定めないと取り返しの付かない失敗をしかねないのだ。
同時にそれは、エルフの里が一丸となった所でセラを含めた数名で滅ぼされる事を意味する。
龍王と戦える存在とはそれ程の化け物なのである。
「……長老達には冷静な判断をして貰いたいわ……セラ一人だけでも最悪な相手なのに、それと同等の連中がいるとなったら戦争になれば滅びるわ……」
「僕としてはどうでも良いんですがね、ファイさんにとっては複雑ですよねぇ~僕じゃなくても他種族連合を相手にしたら半魔族がいますしねぇ~」
「あいつ等も常識外れの魔力を持っているしね…強硬派が馬鹿な真似をしなければ良いのだけれど」
「エルカさんと遊んだから大丈夫なんじゃないですか? 彼女も強硬派でしょ?」
「あんたの名前を聞いただけでも挙動不審になってたわよ? どんたけ追い詰めたのよ。いい気味だったけど……」
「敵の敵は味方ですか? いざとなったらヴェルさんを本来の姿で嗾けましょう」
「汚い仕事は我任せ!? お主は何処まで鬼なのじゃ!!」
そんな事をのたまうヴェルさんに、セラは悪魔の囁きを吹き込む。
「ヴェルさんが制圧すればエルフの女性達は寄り取り見取、深緑。思う存分に何の遠慮も無く満足がいくまでパフれますよ……?」
「!?」
難色を示していたヴェルさんの表情が一変する。
脳裏に浮かぶのは、巨乳・貧乳を問わないエルフ達に囲まれたピンク色のハーレム。
ヴェルさんのやる気はMaxにまで到達した。
「是が非でもエルフ達には反抗して貰いたいものじゃな、我のパフパフ王国の為にっ!!」
「あんたっ、何て事を吹き込んでくれるのよ!? エルフの里をチチスキーのハーレムにする気っ!!」
「或はその方が幸せかも……如何なる魔獣も手出しは出来なくなりますからね」
「我が王になった暁には、男のエルフは全て追放するのじゃ!」
「数百年は持ちそうだね。安泰じゃないですか」
「どこがよっ、胸を揉まれるだけの奴隷じゃないっ!!」
「いざとなったら僕が始末しますので安心してください……気が向いたらですけど……」
「安心できないわよっ!!」
エルフの里は別の意味で危機的状況に陥りそうである。
どうなるエルフ族、此の侭チチスキーのハーレムになってしまうのか?
少なくとも、ヴェルさんはやる気だ。
「第二の乳龍に、我はなるっ!!」
「…初代は凄く性欲塗れだけど純情だよ? ヴェルさんみたいに無差別じゃないよ?」
「無差別っ!?」
「だからヴェルさんはエロリストなのだっ!!」
どこぞの人型兵器を拳で粉砕するような師匠の如く、セラは腕を組み上から目線でヴェルさんを嘲笑する。
「ヴェルさんは偉大な乳龍にはなれない、何故ならそこに愛情が無いからだ。ヴェルさんはどこに行ってもエロリストなのさ、乳の暗黒面に堕ちたヴェルさんに乳龍を名乗る資格は無いわっ!!」
「ガ―――――――――――ーン!!」
「其処までショックを受ける事なの!? 物凄く不名誉な称号じゃないのっ!?」
某乳龍の偉大さは女には分からない。
力なく項垂れるヴェルさんは、本気で目指していたようである。
何処まで堕ちれば気が済むのであろうか?
ヴェルさんは変態街道を爆進していた。
「あの~セラさん? 乳龍とはいかなるものなのでしょうか、聖魔竜のヴェルさんが目指しているのですから、余程偉大な龍種なのですよね?」
「最弱でありながら愛の為に最強を目指す、ちょっとエッチな龍王様ですよ? 無差別エロリストのヴェルさんでは決して超える事の出来ない、最弱にして最強の龍種です」
「最弱なのに最強なのですか?」
「如何なる苦難も自分を鍛えて乗り越える強さを持っています。この腐れエセ幼女とは雲泥の差ですよ」
「……確かに…話を聞いてるだけでもヴェルさんとは違いますね。ヴェルさんには享楽しかありませんから」
「フングヲッ!? 我は最弱にすら劣るのか……乳の道は険しいのじゃ……」
「乳に囚われている時点ですでにOUTなんだと思うよ? いい加減に気づきなよ……」
乳龍のハードルはヴェルさんには高すぎた。
所詮、享楽しか持ちえない只のエロ幼女に超えられる壁では無いのだ。
身の程を知るには良い期会であっただろう。
「ん? アレは奴隷商か? 何か揉めてる様だが……」
レイルに謂れ視線を向けて見ると、ボイルを含む数名が何やら騒ぎ立てていた。
「だから頼む、半額以下でいいから引き取ってくれ」
「使えない奴なんかうちにはいらねぇ、何処にでも適当に放り込めばいいだろ?」
「何処からも必ず苦情が来るんだ。この辺境なら人知れず始末しても分からないだろ」
「お前等……俺等を売れ残りの後始末役にしてねぇか?」
「そんな積りは無い。しかし、この役立たずがいる限りうちの評判はガタ落ちなんだ!!」
「くそ生意気で尊大で自分じゃ何にも出来ねぇ役立たずは、この村じゃ生きては行けねぇんだよ」
「其処を頼む、他の奴隷達も半額でいいから、こいつだけでも引き取ってくれ!!」
どうやら奴隷商達も手を焼く様な奴隷を引き取って欲しい様だ。
犯罪奴隷は此方から予めお断りしているので、犯罪奴隷では無いようである。
だが、奴隷商が手を焼く存在とはいったい……
「ボイル、如何したんだ?」
「レイルか……いやな、如何にも使い物にならねぇエルフの小娘を引き取って欲しいと、こいつ等がごねてなぁ~」
「エルフ?」
「そう云えば、お前のパーティーにもファイが居たな。お前が買うか?」
「奴隷を買う金はねぇよ……つーか、俺に厄介なモンを押し付けるなよ……」
レイルのパーティーは既に彼の家族も同然である。
無論、別の意味でだが、其処にもう一人少女が加われば二人に何されるか分かった物では無い。
下手すれば二人に刺されかねないので、丁重に断る。
それ以前に金が無くて買えないのだが……
「え!? ファイですって!?」
ファイの名前に反応したのは彼等の予想に反して、奴隷のエルフの少女であった。
そしてファイは彼女の声に聞き覚えが在った。
「……この声………まさか……」
ファイにとっては正直会いたくも無い、エルカ同様敵対関係にある派閥の血筋であるからだ。
だが、彼女達は出会ってしまった。
そしてそれは彼女にとっては厄介事の何者でもないのだ。
「ファイ、矢張りあなたなのね。早くこの私をこの愚物どもから助けなさい!!」
「なんで上から目線なのよ……奴隷に身を落とす様なアホの子を助ける訳が無いでしょ」
「同郷の仲間じゃない、助けるのが当たり前じゃない!!」
「恩を仇で返すどころか、背中からナイフで突き刺してくるような、悪質でご都合主義の自己中に知り合いはいないわ」
「いつそんな事をしたのよ、私の記憶には無いわ」
「昔からやってたでしょ!! 自分に都合の良い事は直ぐに忘れる癖に、執念深くておまけに陰湿。助ける義理なんてこれっぽっちも無いわよ!!」
何とも言えない同情的な視線がファイに向けられる。
「ファイ…彼女とは知り合いなのですか?」
「……不本意だけどね、顔見知りではあるわ。とにかく人に嫌がらせをするのが好きな悪趣味な子よ、私達も何度煮え湯を飲まされたことか……
親が対立関係にあるから尚更執拗で、でも里を内乱状態にする訳には行かないから我慢してたのよ…」
何ともストレスの溜まりそうな話である。
「名前はフレアローゼ、名前の可愛らしさとは裏腹に猛毒を持った子よ。一生奴隷にしておいた方が良いわ……マジで……」
「酷い、貴女親友を見捨てるつもり!?」
「あんたと親友になった覚えは無いわよ!!」
「私もよ? 奇遇ね」
「……こ……このぉ~~~~~!!」
其の時ファイの脳裏にある名案が浮かんだ。
「ねぇ、セラ。この子、殺っちゃてくれない?」
「え? いいんですか?」
―――――ドゴン!!
ファイが言うや否や、セラは途轍もない重量の禍々しい戦斧を取り出した。
嘗てエルカに地獄を見せたその異様は健在で、その途轍もない重量が地面に亀裂を入れる。
【暗黒神の轟戦斧 ダークネス・シュテゥルム・レジェンド】であった。
フレアローゼの顔が引きつる。
セラは是までのファイとエルカの対応から、先ずは力を見せつけて相手の意慾を挫く事を学んだのであった。
その日の朝、やけに冷たい風がロカスの村を吹き抜けたのだった。
さて、これからエルフ達の話が続けられれば良いんですが……
うん、脱線するな……間違いない!
そもそも予定の通りに話が進んだことが今迄に無いのだから、その為タイトルも変わりましたし。
断言できてしまう……てか、何か色々と拙い内容になっている様な……
何処まで自重すればいいのだろう?
そもそも自重なんて出来る余裕が自分にあるのか?
それよりもネタは大丈夫か?
仕事の最中に考えよう……て、其れじゃ駄目だろう!!
こんな調子で執筆しています。
ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。




