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 準備不足ですが ギルド開業しました ~ヴェルさんがあんな風になったのは やはり暇神の所為でした~

 開業間近のギルド本部前には、多くの人だかりが出来ていた。

 彼等は予めこの村に来ていた冒険者であり、噂の真偽を確かめに来た懐に余裕のある冒険者達だろう。

 でなければ辺境の村まで来るような酔狂な者は居ない。

 そして、噂が真実とあらば彼等は皆ハイエナの様に向かって行くのだろう。

 一獲千金の場所、ダンジョンへと……


 冒険者とは基本的にはならず者の集団である。

 中には規律と節度を持つ猟団と言われる者達も居るが、大半が乱暴な荒くれ者である。

 その為各地で様々な問題を起こす者達も居るが、その様な輩は街から指名手配され、やがては国の衛兵から追われる事に為る。

 だが、そんなならず者たちの前に、不敵な笑みを浮かべ堂々と真正面から対峙する男達の姿が在った。


「随分と集まったじゃねぇか、命知らずの糞野郎共」

「あんだと、コラッ!? てめぇ、喧嘩吹っかけてんのかよ!!」

「いや、これなら期待できそうだと思っただけだ」

「あぁん? 期待だぁ~?」


 対峙するのはGABと化したボイルである。

 彼は冒険者達を睥睨すると満足げに大胆不敵な笑みを更につり上げ言い放つ。


「てめぇらはこの村に迷宮が在ると聞いて一攫千金を狙って来たんだろ? その話はマジモンだ、この村には確かに迷宮が存在する」


 ボイルの話を聞いて冒険者達は俄にざわつく。


「だが、覚悟は出来てんだろうな?」

「覚悟だぁ~? 冒険者なら命の殺り取りなら日常だろうが」

「言い答えだ、糞野郎共。そいつを聞きたかった」

「何が言いてぇだよ、テメェ……」

「冒険者は常に自己責任で動かなくちゃなんねぇ、自分が死ぬ事を踏まえてな。その覚悟が合って此処まで来たんだろ?

 めんどくせぇ話は後回しにして、先ずはこれに署名をして貰うぜ」


 其れは自分の命が迷宮で落とす事に為っても、この村には一切の責任を負わせない事を承認させる誓約書であった。

 彼等が迷宮に挑戦する為にはこれに署名し、同意を得てから1ゴルダ支払い迷宮に足を踏み入れる事に為る。

 

「面倒だとは思うが、迷宮に入りたくばこれに署名して貰う。署名しねぇ奴は迷宮を利用出来ないからな、覚悟を決めて挑め」

「それ程までに広い迷宮なのか?」

「あぁ、うちの凄腕が単独で踏破したんだが……かなり厄介な迷宮だ。嘗めてかかれば死ぬぜ?」

「もう、攻略した奴が居るのかよ!?」

「いる、だがそれでも全て調べられた訳じゃねぇ。まだいくらでも稼ぎの好機は有るぜ?」


 冒険者達の目が獣のようにギラつき、まだ見ぬお宝を求め獣のように色めき立つ。

 冒険者達のボルテージは嫌が追うにも上がり続ける。


「まぁ、直ぐにでも迷宮に踏み入れてぇのは分かるが…もう少し我慢してくれや、今準備に追われていてな」


 其の時、ギルドの中から脇職員が出てきてボイルに耳打ちをした。

 ボイルは頷くと、人の悪い笑みを浮かべて冒険者達に告げた。


「待たせたな、糞野郎共っ!! ロカスギルド、今から本格開業だ。気合入れて挑んでこいやっ!!」

「「「「「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ‼‼‼‼‼‼‼‼」」」」」


 冒険者達は足早に、我先にとギルド内へ押し寄せて行く。

 彼等は行く。

 未知の迷宮へと、夢と浪漫、そして富を求めて……

 彼等の行く先には、まだ知られていない数多くのお宝と栄誉が待ち受けている。

 彼ら冒険者にとって、迷宮から得られる装飾品やアイテムの数々は最高の収入源であり稼ぎ場なのだ。

 これで気合が入らなければ冒険者では無い。

 だが、それだけに迷宮は危険な場所でもある。


 この迷宮は前半はふざけた魔物も出現するが、中盤からは恐ろしく厄介な手強い魔物が出現するのだ。

 今居る冒険者の内、どれだけ生き残れるかすら未知数でもある。

 それでも彼等は挑むのである。

 彼等が冒険者である限り……




「いらっしゃいませ。迷宮のご利用の前に、こちらで手続きをお願いします」

「なんでこんな面倒な事しなくちゃなんねぇんだよ?」

「仮に迷宮で命を落とされましても此方では責任は持ちません。ですが、遺族の方には連絡をして差し上げる決まりとなっております。

 その為に身分を確かめておく必要があるので、お手数とは思いますがご了承ください」

「おれ、親父に勘当されてんだけど……」

「それでも必要な事なので…後は犯罪に手を染め、各町から手配されている方を特定する為でもあります。

 その場合、迷宮のご利用どころか、ギルドのスタッフに取り押さえられて衛兵に引き渡される事に為ります。

 失礼ですが、前歴はお持ちでは無いですよね?」

「其処まで腐っちゃいねぇよ、犯罪に染まるくらいなら死んだ方がマシだ」

「結構です。……ランクC-ですか…単独で第十階層から下は行かない事をお勧めします。

 挑むのはご自由ですが、お客様のランクだと命にかかわる危険性が高いですので参考程度に覚えておいてください」

「そんなにヤベェのか?」

「単独ではきついですね……同ランクの方とパーティーを組めば中階層までは進出できるは思いますが、無理をなさらずに引き際を見誤らない事を忠言いたします」

「……覚えとく…パーティーか……誰か良い相手はいねぇかなぁ~」


 冒険者の青年はそう呟きながら受付を後にした。

 そんな彼等を見送りながら、セラは深い溜息をつく。


「なんで僕が受付なんかやらされてるのさ……」

「しょうがないわよ、先生の受付のやり方が的確過ぎるんだもん」

「そうそう、おかげで凄く助かってるわよ?」

「懇切丁寧、レベルに合わせて何処までの階層までが丁度良いかなんて説明、あたし達には無理よねぇ~」

「僕は今日、狩りに行こうとしてたんですけど……」

「人手不足だから諦めて♡」

「しどい……」


 セラ達は結局、人手不足の為に駆り出されていた。

 受付業務の予行練習をしたからと言って不測の事態は常に起きる物であり、そのフォローに何故かセラが抜擢され、地味なメイド服に身を包み客を相手に応対をしている。


 元々現代社会でレジや客相手の応対に慣れ親しんでいたセラには何をすべきかは何と無く分かり、その対応能力はこの世界の住人にとっては親切丁寧で、冒険者としての知識が彼等に忠告するなどの気配りを生み、それが冒険者達に好感を持たせるほどの鮮やかな対応として映るのである。

 マニュアルだけでは客商売が出来ないいい例である。

 その鮮やかな手並みは余計なトラブルを防ぐ役割を果たし、営業スマイルで止めを刺され冒険者達は何故か顔を赤らめ受付を後にして行く。

 完全に男共を悩殺していた。 

 セラの【モェ~~サル・ウェポン】の異名は伊達では無いのだ。

 その破壊力は異世界でも景気良く炸裂していた。


 今も何名かの男共がセラをチラチラと視線を送っている。

 そんな彼等に営業スマイルを見せると……


「「「「「「グ八ァアッ‼‼‼‼‼‼‼♡」」」」」」


 この通り悶絶して突っ伏した。

 寧ろ異世界故にその効果と破壊力は倍増しているのかも知れない。

 最早、精神コマンドの重ね掛けをしたマップ兵器並みの効果であった。




 一方、フィオとマイアはどうしているのかと云えば……


「マイアちゃん、これを七番テーブルまで願い」

「はい、七番テーブルですね」


 マイアはウェイトレスをしていた。

 出来立ての料理をトレイに乗せ、テーブルへと運ぶ。


「お待たせしました。ご注文を確認させていただきます。

【モロモロ鳥の唐揚げ モーニングセット】が二つ、【グラカクトスの生ハムサンドイッチ】が一つで宜しいですか?」

「おぉ、聞いた事も無い料理だが……これは美味そうだ」

「ごゆっくりどうぞ」

「追加注文で【野菜スープ】と食後に【モカ豆のコーヒー】を頼む」

「追加ですね? 注文を確認いたします。【野菜スープ】が御一つ、【モカ豆のコーヒー】が……」

「三人分で頼む」

「承りました。食後に【モカ豆のコーヒー】が三人分ですね?」

「あぁ、しかし本当に美味そうだ……」


 マイアは注文を確認して直ぐに食堂のカウンターへと向かう。

 其の時それが起きた。


「こ、コレは・……!?」

「アツアツに仕上げられた鶏肉が……適度な歯ごたえのある皮を噛み締めた時、中から溢れ出る肉汁が何たる美味っ!?」

「下味の付いた素朴な味わいと、溢れる肉汁の甘みが混然一体となり豊かなハーモニーを奏でるっ!!」

「あぁ……やめられない!! 幾らでも食べられるこの優しい味が、俺を更なる未知の領域へ誘う!!」


 何処かの美食家のような表現を言いだす輩が後を絶たなかった……


「いつも食べていた料理が不味く思えるほどの至高の美味…これは……これわぁあっ‼‼‼‼」

「「「う~~~まぁ~~~~~~い~~~~~~~~~ぞぉ――――――――――――――つ‼‼‼‼」」」

「……また……これで37人目ね…最初は面白かったけど、流石に飽きるわ……」


 口からレーザーを撃ち出すのでは?と言う位のオーバーリアクションが連続して続いていた。

 その後の彼等の行動は決まって涙を流し、貪るように食に没頭するのである。

 更には清算の段階でも彼等は涙を流してカウンターまで行き……


「「「……美味かった……また食いに来る……」」」


 そう言い残して料金を支払うのである。


 彼等が席を発った後がフィオの出番であった。

 フィオは使われた皿などの食器をひとまとめにし、テーブルを布巾で拭いて行く。

 フィオの仕事は片付けの方であった。


「皆さん、沢山食べてくれますね?」

「料金も御手頃だし、あたしだってこの値段なら常連になるわよ?」

「カーラ、喋ってないで手伝って! 人手が足りないんだから」

「りょうか~い。フィオもあまり無理しちゃ駄目よ?」

「はい、でも頑張ります」


 ギルドのホール内は戦場と化していた。

 休む暇も無く次々と人が溢れ、目まぐるしく働き続けるしかない。

 ローテーションを組んではいたが、初日はそんな物など意味を為さないくらいに忙しい。

 こんな混乱が暫く続く事に為る。




「うあぁ~~疲れたぜぇ~~」

「全く……一日中書類整理に追われてキツイ……狩りをしていた方がマシだ」

「あんた等はいいわよ、座って書類を書き写しているだけなんだから……」

「あたし等は休む暇なく動き続けるのよ? それに比べれば楽なもんじゃない」

「一日を通して冒険者の名前やらランクやらを書き写すのもきついぞ? 間違えたらやり直しがきかねぇ」

「どこの部署でも仕事はつらいモノですよ……食事する暇が在りません」


 時間は既に深夜近くなっていた。

 迷宮に潜った冒険者も経験者は既に帰還し、未だ迷宮内に居るのは血の気の多いゴロツキ達である。

 そのうち何人が生き残るかは定かではないが、そう遠くない内に犠牲者は出る事に為るのは疑いようも無い。

 それでも迷宮に挑む連中が後を絶たないのは、其処に命懸けで挑むに値する価値があるからである。

 流石のセラも、すでに動く気力が無い程に疲れ果てていた。


「まさか初日でこれほど集まるなんて……」

「だよなぁ~誰だよ情報を流した奴は……」

「職人連中じゃない? お酒飲んで盛り上がってる時についポロリ……」

「それを冒険者が聞いていて噂が広がったのか……厄介な……」

「ボイルさん……これでは人手が足りませんよ。奴隷商を扱使ってでも人手を集めないと僕らが死にます」

「「「「「「先生……黒い……」」」」」」

「何でっ!?」


 ただ人手不足を補うために奴隷商人を使うだけの話なのに、黒い人と呼ばわりされるのが納得いかないセラだった。

 だがそれは、目的の為なら何でも利用すると云うハングリー精神其の物であり、翌々考えればかなり黒い話なのだ。

 現代社会に措いて大半の国が民主的で奴隷制度は嫌悪されるが、この世界では奴隷商人が認められている。

 其処に疑問も思わずに利用しようと云う時点で、既に人権を無視していると言わざるをえないのだ。

 すなわち奴隷商人を認めているという事であるから、セラの思考はかなり黒い事に為る。

 だが、当の本人はそんな事に気付いてすらいなかった。

 かなり環境に適応してると言えるるのだが、あまり褒められた物では無い。

 それ以前に見た目が幼女とはいえ、問答無用で躊躇なくスコップでぶん殴ってる時点で、充分に腹黒いとしか言わざる負えないだろう。

 自分自身の黒さは本人では気づかないものである。


「人手不足は今のところは保留だな……如何にも奴隷商が人員補充に奔走してくれているが、今のところ碌な奴が居ねぇ」

「犯罪奴隷なんていりませんからねぇ~ 何されるか分かったもんじゃないですし」

「全くだ……さて、夜勤班はギルド内で交代で当たるとして、後の連中は上がっても良いぞ?」

「その前に食事でしょう……このまま帰ったらそのまま寝てしまいそうですし、それだと明日に響きますよ?」

「食事の準備なんてしてねぇぞ?」

「「「「「うげぇ~~~~~~~~~~……」」」」」


 そんな時腹を直撃する様な香ばしい香りが鼻腔を刺戟した。

 誰もが一斉に振り向くと、厨房班が其々トレイを持ち料理を運んで来る所であった。

 誰もが生唾を飲み込む。


「おいおい、良いのかよトモイ……明日の分が無く為るぜ?」

「皆さんは今日一日慣れない仕事をしていましたからね、これは細やかな差し入れです」

「「「「「ふぉおおおおおおおおおおおおおっ‼‼‼‼‼‼ 話が分かるぅ‼‼‼‼‼‼」」」」」」

「あんたも似た様なもんだろうに……しゃあねぇ、差し入れなら遠慮なく頂くか」

「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ‼‼‼‼‼‼」」」」」


 彼等の今の状態は餓えた獣であった。

 そんな所に美味そうな香りを漂わせた料理が運ばれたらどうなるか……

 彼等は死肉に群がる禿鷹の如く、一斉に群がった。

 其処に礼儀作法なんてものは存在しない、彼等はただの獣になり下がったのである。

 そして、肉やスープを口にした途端にそれは起こる。


「「「「「「!?」」」」」」


 彼等が今までに口にした事のい未知なる美味。

 それを口にした途端、彼等の眼はこれまでに無いくらい見開かれる。


「長時間煮込まれて染み出した野菜特有の甘み……」

「……そして、手を取り合うかのように肉の風味が野菜と共に踊る……」

「ハーブや香味野菜が……まるで音楽を奏でるかのように二つの味を引き立て……」

「……まるで舞踏会のように口の中に広がり、そして踊るように主張する……」

「この二つを引き立てるのは僅かに使われたハーブかっ!?」

「……しかも、この味は何処までも優しく……まるで一夜の宴のようにはかなく消えて行く……」

「……他の料理もそうだ……全ての味が混然一体となり……」

「……互いに引き立てながら……更なる高みへとあたし達を誘い招いている」

「トモイはん…あんた……」

「「「「あんた……」」」」

「「「「「「あんたぁ‼‼‼‼‼‼」」」」」


「「「「「「 何ちゅうもんを食わせはるんやぁ―――――――――――っ‼‼‼‼‼‼」」」」」」


 彼等の背にはどこぞの商人が乗り移っていた。

 セラも薄々感づいていた。

 彼等がこうなる事を……


 他の冒険者ですらあまりの美味に酔いしれたのだ、この世界に生きている彼等も同様の結果を招くのは当然である。

 唯一リアクションを取らなかったのは、セラを含めた数人だけであり、それが誰なのかは語る必要は無いであろう。

 彼等は滂沱し、あまりの美味さに言葉すらもう出ない状況だった。

 食堂は最初を除けば、後は無言のまま食事を摂る異様な光景が広がっていた。

 彼等は知ってしまったのだ、料理とは素材の味を生かしてこそ美味なのだと云う事を……


 歓喜の涙を流しながら無言で料理を貪り食う彼等の姿は、ハッキリ言って不気味である。

 それでも彼等の食事は止まる事は無かったのであった。


 彼等の知らない所で料理長のトモイが、『俺様の美味に酔いな…』と言ったかは定かでは無い。

 だが、村の連中は間違いなく美味に酔いしれていた。


 


 そのころヴェルさんが何をしていたかと云うと……


「ぬぅ……セラが来ぬ…読みを間違えたか?」


 公衆浴場の女湯の浴槽に身を顰め、セラをパフる好機を窺っていた……

 しかし、何時までたっても現れないセラに流石に自分の勘が外れた事に気が付いた。


「せっかく疲れて風呂に入る瞬間を狙っておったと云うのに……ぬぅ…手強いのじゃ……

 じゃが、いつか必ず悶絶させてみせるのじゃ! パフリストの名誉にかけて」


 懲りないエロリストである。

 セラとヴェルさんの戦いは続く……








 其処は世界の始まりの場所である。

 全ての世界は此処から始まり、やがて集束してここに還る。

 光も闇も、時間も空間も、命すらもこの場所から始まり無限に拡散していった。

 それ故に虚無であり、虚無の周りには無限とも言える数多の世界が輝いている。

 優樹はこれまで何度もこの場所を往復していた。


「……いつみても凄い場所だなぁ~地球に戻ればこの世界の事忘れちゃうけど……」

「それはしょうがないわよ、この場所は物質世界の人間では認識できないし、情報量だけでも人間の脳が破裂する位膨大だからね」

「あ? いたんですか? 遊び人の神さん」

「あたしはどこかの将軍様でもお奉行でもないわよ……男に姿を変えたら一部が暴れん坊『言わせねぇよっ!?』ど…」


 行き成り下ネタをブチかます見た目は神秘的な美女だが、中身は残念なチアノーゼ女。

 この始まりにして外側の世界から、無限に拡散する世界を監視する存在。

 通称【暇神】である。


「何とかうまくギルドを立ち上げたわね、概ね歴史の通りだけど……細かい所で凄く変な事に為ってるわ……」

「その原因を作った人が言いますか? 多少の逸脱は見逃してください」

「別に構わないけど……セラちゃんが復活したら首を括りたくなるわね……」

「あんたにも原因が在る事を忘れない様に……」

「まぁ、歪みが消滅したらアタシが修正を掛けるから良いけどね…」

「……それって、あの世界での僕の存在を皆が忘れちゃうって事?」

「そうなるわね、優樹君の存在は本来ならあり得ない事だからね。当然君も忘れちゃうけど…」

「ですよね……少し寂しいかな……」


 神の手で歪められた事象の流れはそれ自体が一種の特異点と化している。

 それは神自身の力すら受け付けない非常に厄介な存在であった。

 この歪みが修正されれば事象其の物を元に戻す事が可能になり、歴史を正しい形で修正させる事が可能になる。

 然しそれは、優樹があの世界で出会った人達が優樹の事を忘れてしまう事を意味し、同時に優樹自身も修正され記憶を編纂される事に為る。

 それは忘れる事よりも辛い現実なのだ。


「そう云えば聞きたい事があるんだけど?」

「なに? 解る事なら教えてあげるわよ? これからどんな事が起こるかは教えられないけど」

「それはいいですよ、僕が聞きたいのは半神族の覚醒の事」

「あぁ、アレね…」

「エルフよりも貧弱な半神族はどうしたら覚醒するんです? 僕は既に覚醒状態に修正されてますけど」

「早い話、魔獣の心臓を生のままで食べる事。其れも強力な奴であれば早く覚醒するわね」

「……魔獣の心臓を生で食べる事って意味が有ったんだ…ゲーム内の設定の話と思ってた」

「設定は其の儘あの世界の常識を使っているわよ? 覚醒も其れの延長だから」

「なるほど……パクリか…」

「うっ!?」


 覚醒の話をする前に魔獣の事を先に説明しなければなるまい。

 そもそも魔獣が誕生した原因は異世界の一種族、【神族】が同族同士で戦争を引き起こした事から始まる。

 彼等は高位次元生命体として進化できる可能性を秘めていたが、精神面ではまだ脆弱な生命体の儘であった。

 強力な力を保有しながらも、未熟な精神構造の彼等はたがいに滅ぼし合い、結果絶滅したのだ。

 だが、強力な彼等の力は世界中に拡散し、その影響を受けた生物が異常進化を果たす事に為る。


 魔獣は互いに食い合いながらも、より強力な生物に進化するべく常に戦い続けるようになったのだ。

 無論それは人間を含む他種族も例外では無い。

 強い魔獣を倒し、その心臓を食べると云う事は、魔獣の細胞を自分の体に取り込むと云う行為になるのである。

 これにも意味が有り、魔獣の体の中で最も生命力に溢れている器官が心臓であり、細胞の生存力も異常に強い。

 この心臓を他の魔獣が取り込む事により、その能力を上げる事が可能になるのだ。

 他の生物の細胞を取り込むと云う事は、体の内部で癌細胞になる可能性も有り得るのだが、そこが魔獣の生命力の不思議な所で、臓器器官に入った魔獣の細胞は消化されながらも生き残る事にどん欲になり、僅かな生き残りが他の細胞と融合して生存を果たすのである。

 その細胞が分裂し、やがてほかの細胞と置き換わるようにして全身に広がる事により、強い力を得る事が出来るのである。


 是は他の種族にも言える事で、やがては脳細胞すら魔獣の細胞と一体化する為、体に変調をきたす事が無い。

 それを繰り返す事により、あの世界の人間達は強い魔力や高い身体能力を得る事に為る。


 半神族はその工程が顕著に表れやすい種族とも言える。

 半神族は元が隔世遺伝だが魔獣が内包する力には高い親和性が有り、強力な魔獣の細胞を取り入れる事が出来れば、一気に神族に近い能力を獲得できるのである。

 だが、半神族は生まれながらに体力的に劣る存在であり、これは隔世遺伝で誕生した時に現れる弊害の様な物であった。

 生まれながらに何らかの病気を持ってしまった障碍者の様な物であろう。

 其処で魔獣の心臓を食べ、魔獣の細胞を取り入れる事により、本来有るべき健康な体を取り戻して行くのである。


 覚醒とは、半神族が神族の力を取り戻して行く過程の事を指すのである。

 なまじ魔獣の細胞と親和性が高い為、魔力や体力の向上が異常に早くなるのだ。


「マイアちゃんだっけ? あの子もう直ぐ覚醒段階に入るわよ?」

「マジでっ!?」

「だってあの娘、アムナグアの心臓を食べたじゃない」

「………あっ…」


 アムナグアの心臓は、已然食べ切れなくてお裾分けしていたのを優樹は思い出した。

 しかも、全て無くなるまで皆で分け合って食べたのだ。

 これで覚醒しない訳が無い。


「本来なら弱い魔獣から倒して少しづつ強く為るんだけど、あの子の場合は一気に来る可能性は高いわね」

「アムナグアの心臓は大きかったですからねぇ~その分取り込んだ細胞の数も……」

「そう、しかもアムナグアは災害指定級。優樹君よりも強く為るかもねぇ~」

「それでも、あの世界で生きるのには足りないですけどね」

「まぁね、アムナグアを超える魔獣は、名前の知れてない奴を含めてもかなりの数が棲息してるから」

「もう一つ質問が在るんだけど?」

「なになに? お姉さんが優しく教えて、あ・げ・る♡」

「……ヴェルさんがチチスキーになった原因は…アンタですよね?」


 暇神は物凄い勢いで顔を背けた。

 どうやら自覚が在ったようである。


「あんた……ヴェルさんに何を見せた……」

「…いや……そのぉ~~……まいっちんぐなアニメを少々……」

「それだけじゃないでしょ?」

「……18歳未満はお断りな……エッチなゲームのアニメ版を少々……」

「他には?」

「……そっち系統の単行本やアニメを全て網羅したわ。ヴェルさんは最早どこに出しても恥ずかしいオタクよっ!!

 どう? 凄い変身ぶりでしょ? 聖魔竜の肩書が物凄い勢いで消し飛ぶほどにっ!!」

「何で嬉しそうに言うのさっ!! 御蔭でこっちはいい迷惑だよっ‼‼」

「いいじゃない。どうせ全て忘れるんだからぁ~~百合っちゃいなYO!☆」

「それが目的かぁ!! 腐れ暇神っ!!」

「百合だけでご飯三杯はイケるわ!! 私は寧ろ見て見たい、喘ぐセラちゃんの姿がっ!!」

「死ねっ!!」


 ―――――ゴリュッ!!


 優樹は手にしたスコップで暇神を殴り付けた。


「な、何でそれを持ってるのっ!? この世界には持ち込めないはず……」

「知らない……神様なんていない……幸い明日は日曜日、埋葬するには良い日だね?」

「います、ここにいますっ!! 何で私を埋葬する気なのぉ!?」

「あんたの仕出かした事が原因だぁ!!」


 全ての始まりの世界が、暇神の血で赤く染まった。

 しかし、この神が反省する事は無いだろう。

 神とは大概無責任な存在なのだから……




 優樹が元の世界に戻った後、暇神は何事も無かったように復活していた。


「酷い目に合ったわ……死なないけどマジで痛いのよねぇ~優樹君、容赦なしだし……」

「自業自得ですよ。貴女が人を弄ぶ様な事をするから偶には良い薬です」

「あのスコップ……アンタの仕業ね? メールセイアル」

「えぇ、中々面白い物が見れて満足です♡」


 其処には青い髪の女性が佇んでいた。

 彼女もまた世界を管理する神の一人である。


「何か恨みでもあるの? アンタが寝ている間に色々フォローしてあげたのに……」

「そうですね、でも一つだけ……」

「なに?」

「なぜ、輪廻転生の中に封印していたあの子を目覚めさせたのです? あの子は危険な子なのですよ?」

「大丈夫よ、転生の中で色々と学んでいたみたいだし、それに死にたければ今度はちゃんとお願いして来るわよ」

「だと良いのですが……あの子は自分の守護する世界を滅ぼしているのですよ? 心配です」

「どっちの心配してるのよ…世界? それとも繊細な守護聖獣?」

「両方です……あの子は本当に繊細な子でしたから……」

「同じ事した経験があるから気持ちは分かるけど……過保護過ぎない?」

「私にとっては皆が可愛い子供みたいなものですから。放任主義のあなたとは違います」

「ひでぇ……ひでぇよメーちゃん…あたしも頑張っているのよ?」

「それで世界を崩壊させたのですか? 何の関係も無いあの子を巻き込んで?」

「うっ!? それを言われると弱いわ……」

「貴女は少し反省をした方が良いと思います」

「メーちゃん、きつぅ~~い♡」

「誰がメーちゃんですかっ!!」

「それよりもぉ~~久しぶりに会ったんだからゆっくりしていきなよぉ~~」

「な、何ですか? そのあやしい笑みは……」

「女同士、裸の付き合いも良いと思ってぇ~~其処に温泉が在るしぃ~~♡」

「いつのまにっ!?」


 何も無い空間に何故か忽然とある露天風呂。

 暇神はメールセアルににじり寄って行く。 


「一緒にお風呂には入りましょう。それはとっても気持ちの良い事なのよぉ~~~♡」

「ちょ、やめ、きゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!」

「む? 少し大きくなった? いいわねぇ~性別の有る神は……」

「どこをさわっ、ちょ、其処はシャレになりません!!」


 始まりと終わりの世界で神々が戯れる。

 しかし暇神は気付いているだろうか?

 自分がしている事が、どこぞのオネェと同じと云う事を……


 世界の外側で、女神の悲痛な声が響いていたが誰も助ける者は居なかった。

 ていうか……こんな神に管理されていて大丈夫なのだろうか?


 色々と懸念が尽きない……


 壊れてる……神からして壊れてる……

 ていうか、メールセイアルをこっちに先に出しちまった……

 何してんの、俺っ!?

 けど、先に暇神が出てるし…ど~なんだろコレ……

 書いてる本人が壊れて来てるのだろうか?


 さて、次は地球での話を書こうと思っています。

 Sの悲劇以上の物が書けるか心配です。

 地球も十分壊れてるからぁ~~…いったいどれだけ変態を書けばいいんだろう?

 悩ましい……第三章は少し真面目に生きたいと考えてます。

 みんな暴走し過ぎですので……無理な気がしますが……



 ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。

 来週から仕事が入りましたので、執筆は遅れがちになりますがご了承ください

 ま、予定なので天気次第では早まる事も・・・・・



 

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