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 レイルさんが装備を新調するようです ~この村は 静かに物思いにふける事は出来ないようです~

 集会場は神妙な面持ちで村の若者達が顔を突き合わせていた。

 ギルドの本拠地である建物がもう直ぐ完成する中、彼等には今後の必要と思われる課題について議論を交わすのがこの村の慣わしである。

 これから本格的に動き出す以上、予測されるべき課題は多く皆が真剣に意見を出し合っていた。


「まだ宿が三軒しかない以上、迷宮の入場には制限を設けるべきだ。幾らなんでも野宿は不便だろうし、浴場は有っても食事できる場所は限られている」

「だが、制限などをしたら売り上げの問題が出て来るだろう? 商会の連中も迷宮からの恩恵に期待してここ支店を出して来ているんだぞ、一獲千金を夢見る以上は全ては自己責任な筈だ」

「奴隷を買う方向で人手は何とか足りるとして、受け付けやフロアで給仕する人員はどうする?

 この村の殆どは職人か冒険者だ、解体場の人員もまだ慣れちゃいないんだろ?」

「その辺は大丈夫よ? みんな意外に慣れて来たから、と言ってもまだ手が足りないのが現状ね」

「姉御の方もかよ……現場で使える人員は皆先に買われちまうから、中々こちらに廻って来ねぇ」

「奴隷商も手は尽くして呉れてはいるが……どうも一から鍛えるしかねぇな……」

「暫くは俺達も交代制で現場に廻るしかねぇんじゃね? 素人を使うよりは幾分マシだろ」


 彼等の話し合いは以外にも真面なモノであった。

 これからこの村に訪れる冒険者の数を考えると足りないものが多過ぎるだけでなく、人員やその職で使える人材が明らかに不足していた。

 人手と云う面では何とか数は足りる、しかし仕事を熟せるかと言えば如何にも心許無いのが現状である。

 駆け出しで仕事をして来た者達は多く入るが、自立出来るほどの技量を持つ職人が明らかに少ないのだ。

 奴隷商達もその辺は何とか工面してくれるようだが、職人の奴隷は需要が高く真っ先に取引されてしまう。

 後は娼婦館などに売られる女性が多いのだが、幸いにもこの村にその手の店は無かった。


「娼婦館も作らなきゃなんねぇな……」

「ボイルっ!? あんた、何言っているのよっ!?」

「冒険者って奴等は俺達を含め血の気が多い。その手の店が無いと今度は村の中で暴れんぞ?」

「……酒に酔って暴れる奴も居るからな……少しでも被害を下げるには仕方が無いか……」

「あんた達がお世話になりたいだけじゃないの? 嫁不足も深刻よ? この村……」

「「「「「「確かに……碌な女居ねぇし……」」」」」」

「「「「「「喧嘩なら買うわよっ!? 糞野郎共っ‼‼‼‼‼」」」」」」


 憐れむ目を女性陣に向ける男達と、いきり立つ女性陣。

 だが実際にこの村の殆どが妻帯者の家庭持ちであり、独身者は外から婿なり嫁を娶らなければならない。

 奴隷として買われた者達は、使い物になるまでは手出しは出来ない様に誓いを立てていた彼等は、ここに来て別の意味で深刻な事態に直面していた。

 要するに独身者は男女問共に恋人が欲しいのだ。


「俺が娼婦館を作るのは、何も血の気の多い連中を諌める為だけじゃねぇ、あの手の店には情報が集まる。

 寝床で冒険者の野郎共はいろんな話をするだろ? 他の町や、国の情勢なんかもだ」

「「「「「「おぉ――――――――――――――――――っ‼‼‼‼‼ 成程っ‼‼‼‼」」」」」

「中には後ろぐれぇ奴等も居るが、そんな奴等は娼婦の前では調子こむのが定石だ。逸早く警備を固める事が出来る」

「警備の面でも人手不足だよな……俺達だけじゃ手が足りん」

「だからこそ必要なんだよ……おまけに結構な金を落とすからな。どの道遅いか早いかの違いなら俺らが運営しても構わんだろ?」

「確かにそうだが、誰が娼婦館の管理をすんだよ? 人手が足りねぇんだろ?」

「決まってんだろ、この際だからお前らの半分は冒険者を止めて貰う。そんで村の経営の一翼を担ってもらうぜ?」

「「「「「「「 マジでっ‼‼‼‼‼‼‼‼‼ 」」」」」」」

「これから冒険者は掃いて棄てるほど来るだろうからな、お前等が冒険者を続ける必要は無い」


 今日のボイルはいつもに増して一段とキレていた。

 ダークである。

 限りなくダークな漢になっているのである。

 しかも無駄にダンディズムに溢れていた。


「た、確かにそうなんだが……」

「異論は言わせん、これは決定事項だ。お前等も覚悟を決めろ……俺がルールだ」

「「「「「「 うっ!? 」」」」」」」


 有無を言わせない迫力がそこに在った。

 意味も無く反対すれば何されるか分からない危険な香りがする。

 ボイルはとうとう本格的に危険な漢に進化してしまったのだ。


「仕方が無い……だが今はまだ無理だから、ある程度人が来る……」

「何言ってんだ? 明日からでも仕事の準備をするに決まってんだろ、寝言は寝て言え」

「「「「「「 マジでかっ‼‼‼‼‼‼‼ 」」」」」」」


 頼れる兄貴は既にドンであった。

 彼等は危険でタフな、そしてクールでダークなカリスマのあるリーダーを目覚めさせてしまったのである。

 この日、半数の冒険者が運営側に廻り、冒険者家業から足を洗ったのだった。

 そして、そんな彼等を他所にGABと化したボイルを、イーネは恋する乙女のような熱い視線を送っていた。



「……次の議題だが……受付やフロア担当など給仕専用の制服のデザインについて……」

「それについては俺から提案が在る。給仕とは常に動き続けなければ為らない、更に言えばこれから来るであろう冒険者達にも快適なサービスを提供する事も義務付けられる」

「当然だな、ゴロツキしか居ない酒場になんか女性冒険者は寄りつかんしのぅ」

「しかるに、見た目と動き易さ、更にはサービス精神を込めたデザインを用意した。これがそれだっ!!」

「「「「「「 ふざけんじゃねぇ――――――わよっ‼‼‼‼‼ 」」」」」」


 女性陣が激昂する。

 彼の出したデザインは良く言えばウェスタン風。

 カウボーイ・ハットにへそが見える様なシャツ、しかも胸元が谷間が見えるほど強調。

 下着が見えるか見えないかのギリギリラインのミニスカートと、ジーンズ風のショートパンツ二種類。

 何と言えばいいか、某国でハンバーガーを乗せたトレイをローラースケートで運んで来るようなそんなデザインだ。

 しかも際どい程にギリギリだった。

 しかし現在のこの国の風習ではこの様な格好は下品とされ、反発されても仕方が無いのが常識である。

 女性陣が怒るのも無理も無い。


「冗談じゃ無いわよ、何のサービスをさせる気よっ!!」

「上は胸元が丸見え、しかも下はお尻が見えそうだし……」

「前も後ろもギリギリで見えないだけの服なんて……体に余程自信ないと無理!!」

「男共がケダモノになるだけじゃないっ!! 治安問題がさっき出てたでしょっ!!」

「んじゃ、お前等はどうなんだよ?」

「あたし達が考えたデザインはこれよっ!!」

「「「「「「そっちこそ、ふざけんじゃねぇ――――――――――――――っ‼‼‼‼‼」」」」」」」


 彼女達のデザインはゴスロリだった……

 やけにフリフリのファンシーさで、とても大人の女性が着れる様なデザインでは無い。

 幼い少女なら似合いそうでもあるが、いい歳こいたおばさんや歳の行った老婆が着るには少し問題が在る。

 しかも、男の制服は着ぐるみだった。


「お前ら歳を考えろよっ!! んなもん、おばさん達が着れんのか?」

「返って動き辛いだろ、実用性がねぇ!!」

「太った奴や婆さんがが着たら吐くぞ、マジで!!」

「こんな恰好で仕事は出来んだろっ!! 姫袖なんか邪魔じゃねぇか!!」

「なんで傘があんだよ、要らねぇだろっ!!」

「色気に狂ったアンタ等よりはマシよっ!!」

「こっちは露出を押さえればどうとでも為るが、そっちは完全にOUTじゃねぇか!!」

「じゃあ、最初からそうしなさいよっ!! 女を馬鹿にしてんのっ!!」


 結局この会議は十二時間ほど続き、決まったデザインは何の飾り気も無い地味なメイド服と為った。

 彼等のデザインの中には、何故かスク水や巫女さん、世紀末に居そうなパンクファッション、シスターに果てはボンテージや首輪とパンツのみと、意味不明な程カオスな状況だったという。

 彼等はいったい何を目指しているのだろうか? 理解に苦しむところである。

 こうしてロカスのギルドは本格的始動に向けて動き始めたのだった。

 




「……最近…親父の奴が変なんだ……」

「そうなの?」

「何て言うか……普段よりもダークになって怖い……あの薬の所為だ……」


 フィオに相談しているのはロイル。

 ボイルとイーネの一人息子であり、この間まで厨二病を患っていた少年である。

 彼は普段から『鎮まれ魔剣……まだだ、まだお前の力は必要ない…』だの『疼く…俺の魔眼が…』等と言っては周囲から可哀そうな眼で見られていた。

 其れもボイルが買って来てくれた本の小説から影響を受け、かっこいい男はこれだと勘違いした事から始まったのだ。

 と云うのも、彼はフィオの事が好きで何とか自分の事を見て欲しかっただけなのだ。

 こう説明すれば年相応で可愛げがある話だが、フィオは何故か変な病気に罹っておかしくなったのではといたる所で相談し、ある意味では当たっているが不憫な事に周囲からイタイ奴に認定されたのである。

 その結果、あまりの恥ずかしさから引き籠りになり、最近まで姿を見せなかった。

 父親が変な方向におかしくならなければ、今も引きこもりの儘であっただろうと思うと皮肉な話である。


「母さんが隙を見て頻繁に飲ませるんだよ……あの薬……母さんもなんか変だし……」

「え? いつもちゃんと仕事してますよ?」

「家の中だと親父に引っ付いてんだよ……何処かのヤバい人の愛人みたいに……」

「仲が良いんですねぇ~」


 どうもフィオに相談しても会話が成立しないようだった。


「アレ? 誰その子、何処かで見た事が在る気がするんだけど……?」

「あっ、セラさん。こちらはロイル君です」

「あぁ、ボイルさんとイーネさんとこの…暫く見てなかったね? 厨二病は治ったの?」

「グ八ッ!? 古傷を……アンタの所為で親父が変になっちまったよっ、どうしてくれんだっ!!」

「ボイルさん? 元から変でしょ、あの人……」


 酷い言い草である。


「確かにそうだけど、毎日が異様なまでにハードボイルドなんだよっ!!」

「どんな風にじゃ? 面白そうな話じゃのぉ~」

「お前、誰だよっ!? まぁ、いい……朝起きると親父は酒の入ったグラスを煽り、射し込む朝日を見詰めながら、『ロイル、男はタフじゃ無きゃ生きては行けん。しかし優しくなければ男じゃねぇ』とか、『表の世界だけでは世界は見えん、時には裏に墜ちてでも何かをせねば為らない時が必ず来る。その時お前はどうする?』とか、何か意味深な事を言う様に為りやがった」

「かっこいいじゃん。何が悪いのさ?」

「そうじゃのぉ~馬車に乗ってヒャッハァ――――よりはマシなのではないか?」

「そう言えば、こいつ等も変だった……」


 元々おかしな住人しか居ないのだから、文句を言った所であまり意味は無いのだ。

 彼は相談する相手を間違えている。


「その原因があの薬なんだよっ!! アンタが広めたっ!!」

「アレは頭のおかしい人が飲めばマトモになるみたいだよ?」

「今の親父がマトモかっ!?」

「「うん、物凄く頼りになる!!」」

「……ダメだ……こいつ等頭が腐ってやがる……」


 皮肉な事に、元厨二病がこの村で一番マトモであった。

 何だかんだでフィオ達も変な方向に突き進んでいる事に気付いていないのである。


「そう言えば…君は狩りに行かないの? あまり見掛けなかったけど……」

「明日にでも行くよ、最近コンビを組んだ奴が居るんだ」

「そうなんだ。じゃぁ、今度フィオちゃん達と組んで狩りに行かない?」

「へ?」


 予想外の展開に思考が停止した。

 元々ロイルはフィオに振り向いて欲しくて変な真似をしていたのだ。

 彼にとっては願ってもない好機である。


「そ、そうだなぁ~…最近狩りに出ていないし、鍛えなおすには丁度良いかも知れねぇ」

「決まりだね、少し体を慣らして調子が出て来た時に言ってよ、都合つけるから」

「みんなで狩りですか? 楽しそうです」

「何を倒しに行くのじゃ?」

「何にしようかなぁ~手頃な奴を選んでみるよ」


 ロイルにはセラ達の声は聞こえていなかった。

 フィオと狩りに出られる事だけが頭の中で反芻し、その瞬間に父親の事など頭の中から消し飛んだのである。

 何だかんだ言った所で年頃の少年である。

 親父の事より好きな女の子なのであった。

 彼は、内心ではかなり浮れていた。

 そしてこの瞬間にボイルの事は頭から綺麗サッパリと,完全に欠片も残さずに消え去ったのである。


「そう言えば…名前に〝イル〟が付く人が多いよね?」

「そうじゃのぉ~レイルにクレイル…ボイル…ロイル……何故じゃ?」

「そうですねぇ~パイルさんも居ますし……弟さんはダーウォンさんと云うんですけどね」

「……パイル?」

「ダーウォン……?」


 セラとヴェルさんの脳裏に浮かぶのは鉄の城、頭部が弱点のスーパーな人型兵器。

 飛行型の操縦席が頭部に納まる所であった。


「でも、ブレスさんとかトファさんとか、イーアさんとかいますからそれ程でも無いのでは?」

「……ブレス?……トファ?」

「イーア……? 最初の一人は兎も角、残りの二人は女性では?」


 何故か黒いボディの鋼の巨人が両腕を上げ、胸から熱光線を放っている姿が浮かんだ。


「あと、サン君にダーヴゥ君、レイク君……」

「「グレートな奴がキタァ―――――――――ッ‼‼‼」」

「フェイ君に…ドゥインさん……」

「「何でそこから、神秘の古代巨人に!?」」

「ダンさんに…クゥちゃん……ヴゥーアくん……」

「「アグレッシブな奴も来た!? その内〝やってやるぜっ!!〟とか言いそう!!」」

「マイちゃんに…ティンク君……」

「「今放送したら問題視されそうな名前だ……その子、成長したらセクハラされそう…生徒に……」」

「気のせいですよ、偶々です♡」

「「ソウダネェ~~ソウダトイイネェ~~……」」


 フィオが態と言っているのではと勘繰るが、とてもその様には見えない。

 セラとヴェルさんの目はどこか遠い所を見ていた……

 三人は気付かない……途中から会話がかみ合っていなかった事を……


「おい、嬢ちゃん達……手伝う気が無いなら出て行ってくんねぇか?」

「あっ!? すみません親方さん、向こうのカウンターのニス塗りは終わりました」

「事務所の等の窓枠はどうなってんだ? もう一人いただろ?」

「土木関係の方たちがスカウトに来て仕事になりません。あの子は逃げました……」


 無論マイアの事である。

 彼女は魔術の応用力が高く、その技量の高さから何度もスカウトの来るほどであった。

 そんなセラ達が何をしているかと言えば、もう直ぐ完成するギルド本部の内装工事の手伝いであった。

 何でも内装を仕上げる職人たちの乗った馬車が魔獣の襲撃を受け、死人こそ出なかったが怪我や骨折などの重軽症者が続出。

 人員を呼ぼうにも距離的な問題から難しく、また職人も居なかった。

 そんな工事関係の職人たちをサポートするべく、暇な冒険者や村人が手を貸しに来ていたのだ。


「あいつ等……工期が遅れてんだ、今度スカウトしてたら殴り倒して俺の所に運んできてくれ」

「殴るのはいいですけど、失敗したら埋めるなり森に捨てるなりしていいですかね?」

「……見かけによらずこえぇ~な……死なない程度に頼む……」

「努力はしてみますよ、努力は……」

「殺すなよっ!? 本当に殺すなよっ!? 骨の十本や二十本は構わんが……」

「…それ、軽く重体ですよ? 親方さんも容赦ないですね……」 


 中々に豪快な棟梁だった。

 まぁ、ドワーフのようだから当然とも云えるが。


「嬢ちゃんも中々に器用だな、うちに欲しいくらいだ」

「もう直ぐ完成ですか……楽しみですね」

「あぁ、いい仕事をさせて貰ったぜ。あと数日でここの仕事も終わりだ」

「おかげで忙しくなりそうですよ。村の人達が……」

「おいおい、嬢ちゃんは手伝わねぇのかよ?」

「手伝いますよ? 冒険者としてね。それにしても……楽しみですね」


 セラはギルドの本拠地となる広いフロアを見渡した。

 後、数日後にはここに人が溢れかえる事に為る。

 そうなるとセラの役割は半分は果たした事に為るのだ。

 後はこの村の人達が独自に行動し、村を更に発展させて行く事に為るだろう。

 そうなれば……


「僕は……いつまでこの世界に居られるのだろう………」


 不意に胸を詰まらせるような寂しさが襲う。

 自分が思っていたよりもこの世界を気に入っていた事実に、今更ながらに気が付いたのであった。

 同時に自分が異邦人である事も…… 


 だが、この村で物思いにふける事は許されなかった。


「いたぞっ!! 至急連行しろっ!!」

「被疑者確保っ!!」

「縛り上げろっ!!」

「おっ!? 結構デカい……」

「な、なにっ!? 何事っ!? てか、どこ触って、あ―――――――――!!」


 突如乱入して来た男達に、セラは強制連行されていったのである。

 ロカスの村は油断できない程に、今日も騒がしいのであった。





 時間は少し戻る。

【マッスル亭】で安静にしていた端のレイルが、鍛冶師達の職場に来ていた。


「ロックさん、いるか……?」

「うぅ~~む……鍛え方の問題では無いな、やはり素材との結合を緻密なくらいに念い入りに……」

「その前に金属の方が冷めちまう……そうなれば結合させる事が出来ねぇ……」

「それを同時にやるしかないと云う事だな……これは技術がいる…レジェンド級とはこれ程の物か…」

「大胆さと緻密さ、その両方が見事にかみ合っていやがる。其れも絶妙な匙加減でな……」

「一歩間違えればただの廃棄物になり下がるぞ? これは素材を知り尽くしていないと無理だな」


 レイルが鍛冶師の工房を訪れると、二人のドワーフがセラの装備をしきりに調べていた。

 金属の鍛え具合から素材との癒着に至るまで念入りに調べ、互いに議論を交わしている。

 彼等の横では見習いの鍛冶師達が熱せられた金属と格闘し、冒険者達の装備を一つ一つ丹念に創り上げて行く。

 この工房は人手不足から何とか脱したが、依然予断は許されない状況だった。

 しかし男達はこの熱い工房の中で懸命に槌を振るっている。

 村を支える冒険者達の為に。


「何しきりに話……それ、セラの奴の装備か?」

「ん? おぉ、レイルじゃねぇか! 躰の調子はいいのか?」

「何とか歩く分には問題ねぇよ。ところでこっちは誰なんだ? 新しい鍛冶師の様だが……」

「アイゼンだ。ロックとは腐れ縁でな、面白い仕事があると聞いて呼ばれた……中々楽しそうな現場で嬉しいぜ」


 アイゼンは上機嫌で答えると、直ぐにセラの装備【ヴェルグガゼル・レジェンド】を調べ始める。

 其れは職人としての興味と、新しい物を作る情熱に燃えた真剣な目をしていた。


「で、何の用だ…愚問だな、装備の強化か製作しかねぇか」

「あぁ、あんた等に作って欲しい装備があんだよ」

「成程な、オメェ等は装備を作る為に素材を集めに行ってたのか……で、モノは何だ?」

「こいつだ……素材を集めるのに苦労したがな」

「!? こ、こいつは……アムナグアじゃねぇか…」

「何っ!?」


 二人の目の色が変わる。

 アムナグアは龍王を除けば最硬度の防御力を誇る素材である。

 加工も難しく、扱いにくい事から鍛冶師の力量が如実に表れる難物である。

 その難物で装備を作って欲しいと言われれば、これは鍛冶師にとって最高の誉れなのだ。

 故に二人の鍛冶師は怖いまでに真剣であった。


「アムナグアか……まだ扱った事は無いが、この素材を触れただけで厄介な難物だと云うのが分かる」

「あぁ……これはデカい仕事になるな……マイアの装備ももうじき完成するし、願っても無い好機だぜ」

「問題は支払える金が無くてな、こいつで何とか頼めねぇか?」


 そこで見せられた物は、ロック達にとっては驚愕すべき物であった。

 成人男性の頭ほどの大きさを持つ独特の光沢を放つ鉱物。

【オリハルコン】であった。


「なっ!? デカい……とんでもないデカさだ……」

「これは相当の値が付く代物だぞ? コレを金の代わりにくれると云うのか?」

「あぁ、今の俺達には其れでしか支払えねぇ…無茶な願いだとは思うが頼むっ!!」

「ククク……面白れぇじゃねぇか……まさかこんなスゲェもんを持ち込むとはな」

「腕の振るい甲斐が在るな、職人冥利に尽きる。こんな仕事を待っていた」


 二人の鍛冶師は上機嫌であった。

 何より、オリハルコンを扱う機会など滅多には無いのだ、彼等の職人魂に爆薬が放り込まれた。

 この村に来て一世一代の仕事が舞い込んだのである。

 無論目指すはレジェンド級だが、その頂に上り詰めるには避けては通れない登竜門である。

 更に言えば、代金代わりに手に入るオリハルコンは魅力的な物である。

 鍛冶師でも手に入れる事は出来ない最高の素材なのである、彼等がこの仕事を受けない訳が無かった。


「ついでに他の二人の装備も頼む。今はまだ寝込んでいて動くのが辛いらしいからな、俺が代わりに頼まれてんだ」

「このオリハルコンで十分に作れるぜ、問題は……」

「あぁ、素材を生かすには実際に作られた装備を参考にしたい所だが……」

「難しいな、アムナグアの装備など持っている奴なんかこの村には居ねぇ……」

「セラが持っているんじゃないのか……?」

「「なにっ!?」」


 二人の鍛冶師が一斉にレイルを振り返る。


「アムナグアの装備だろ? セラが所有している可能性は十分にあるぞ?」

「本当かっ!?」

「こうしては居れん、お前等っ、手が空いてる奴はセラの奴を連行して来てくれっ!! 大至急だっ!!」

「「「「「アラ・ホラ・サッサーッ!!」」」」」


 工房をまるでスクランブルが掛かった空軍兵の様に慌ただしく動き出す。

 暫くして何故かロープで縛られたセラが連行されて来た。

 教育上よろしくない、いかがわしい縛り方で……




「……で、僕の装備を参考にしたいと……?」

「あぁ、俺等には少しばかり手を焼かれる素材でな、参考になる現物を見てぇんだよ」

「良いですけど…その前に……」

「「その前に?」」


 セラは天使のような笑みで見習いの職人を睥睨する。


「僕を連行した時に胸を掴んだ奴と、縛った奴は埋めておいてください」

「「マジでっ!?」」

「マジです……十時間ほど首だけ出した状態で……断るならもぎります、この場で……」

「「「「「捥ぎるって…何処を……?」」」」」

「どこがいいですか? 去勢するのも良いですね?」

「「「「直ちに埋めて来ますっ、サ―――――っ!!」」」」


 職人たちは直ちに実行に移した。

 その間、『や、やめろ、俺は無実だっ!!』とか『出来心だったんだぁ~つい試したくなって……』とか聞こえたが、セラの耳には届いては居なかった。

 二人の若い職人は出来心で犯罪に手を染めた若者の如く、哀れ警さ…もとい同僚の職人達に強制連行されたのだった。


「……で、装備の方ですが…待って下さい?……あれ? 何か引っかかってる……」


【無限バッグ】に手を突っ込み装備を取り出そうとするのだが、何故か思う様に取り出せない。

 仕方なく取り出せる物から順番に取り出す事にした。

 テーブルの上に置かれて行くアイテムの数々、最初はロック達も驚いていたのだが、その顔はやがて青褪めた物へと変わって行った。

 

「おっ? ありました。ここからがアムナグアを素材とした装備ですね……て、どうしたんです?」

「おい…セラ……何なんだよこの装備の数は……有り得ねぇ……」

「どれも、とんでも無く上等な代物じゃねぇか……こんなに装備をどうすんだ?」

「作りから見ても、同一の職人の物が数多くみられるが……他の職人の物も有るな…」


 職人二人は武器や防具を見て唸っていた。

 レイルに関してはもう既に何かを諦めたような顔をしている。


「見てみろロック。これはアーブガフの様だが…あのレジェンド級と同じ職人によるものだろう」

「むぅ……何と言う丁寧な作りだ…素晴らしい出来だぜ…」

「……コレクションも良いが…これは幾ら何でもやり過ぎだろ……」


 テーブルの上は素材や消費アイテムが山積みにされ、周りは夥しい武器や防具の数々に埋め尽くされた。

 明らかに異常な物量である。


「これは少し整理する必要がありそうですね……集めすぎたようです」

「そんなレベルじゃねぇよ!? 下手すりゃ国一つが買えるじゃねぇかっ!!」

「大袈裟ですよ、只の装備と消費アイテムなだけじゃないですか」

「商人としてやって行けるぞっ、どんだけ溜め込んでんだっ!!」

「さぁ~最近、整理はしてなかったですからねぇ~」


 セラの装備や素材に目を奪われたロック達は、既に自分達の世界に入り込んでいた。

 その精巧な作りに驚嘆し、そこへ至るまでの過程を議論し始めている。

 まるで子供が宝物を見つけたような純粋な笑みを浮かべ、実に楽しそうであった。


「これがアムナグアの装備になります。一通りそろえてありますから参考にしてください」

「おぉ、すまねぇ……成程な……強硬な部分は敢て残し、無駄に削る事無く生かす方向だったか」

「目から鱗だな。素材をどう加工するかに囚われていた……基礎は大事だと云う事か……」

「しかし、防具から武器に至るまで無駄が無ぇ……加工してある部分も僅かでありながらこの美しさ」

「素晴らしい……これはいい参考になるな。創作意欲が抑えられん」


 鍛冶師達の目は燃えていた。

 理想とする手本を見せられ、そこから自分達のアレンジをどう加えるかを頭の中で組み立てて行く。

 そんな彼等の横で、山積みのアイテムを整理しながら回収して行くセラ。


「ちょっと、かさばって来てるかな? ロックさん、試作用に幾つか素材を置いて行きましょうか?」

「ん? そいつはありがてぇが…いいのか?」

「竜種の素材が必要以上に余っていまして……【竜魂石】を得るために結構倒しましたからね……」

「金属に混ぜると素材との結合をより強固にするとか云うあれか? 竜種からも僅かにしか取れない希少な物質だったな」

「ある意味ではオリハルコンより希少ですよ? なかなか取れませんから」

「どんだけ狩れば装備に必要なのかが分からねぇな、なんせ使った事がねぇ」

「大体、胴体部分に一つの割合でしょうか? 防具を作るには二個ほど有れば足りますよ?」

「どれくらいの竜種を倒せば手に入るんだ? 鍛冶師には興味深い話だ」

「最低でも中級クラスの竜種……ワイヴァ―ン十頭に対して一個でしょうか?」


 鍛冶師の二人は神妙な顔で唸る。


「それは希少だな……余程でも無い限り手に入らん」

「アムナグアには無かったのか?」

「真っ先に売りに出されましたよ、親指サイズのオリハルコンと同額ですから」

「……成程…約二百万ゴルダか、こればかりは今後に期待したい所だな」

「待て、セラ。そいつが在ればアムナグアの装備も頑丈になるのか?」

「そうですね……ドラゴンの尻尾の一撃を受けても暫くは破損はしないでしょう」


 アイテムを回収しながらセラは応える。


「竜種か……最低でもワイヴァ―ン……」

「レイルさん…無茶は駄目ですよ? 装備品は何時でも強化は可能ですが、人間はそうはいきません」

「わかってる、今後の目標が出来ただけだ」

「いざと為れば手伝いますから、今は大人しくしていてください」

「あぁ……幾ら俺でも今直ぐ仕事をする気はねぇよ……」

「あ………」

「なんだよ?」


 何かを思い出したかの様なセラを、レイルは訝しげに聞いた。


「ティルクパからも取れましたね…【竜魂石】……」

「マジかっ!?」

「けどなぁ~~生息地はエルフの集落地の近くですから、迂闊に行けば攻撃されますよ?」

「……何とかなんねぇか? こっそり狩るとか……」

「ノームがエルフの里に持ち込みますよ……近くに集落は無いし……」

「……こればかりはエルフの長老衆次第か……セラ、ちょっくら行って殲滅してきてくんね?」

「何てこと言うんですかっ!? ファイさんに怨まれますよっ!! 殺ってもいいですけど……」

「良いのかよっ!? 冗談だ、やるなよっ、絶対に殺るなよっ!?」

「エルフの長老衆は凄くムカつきますからね、この機に乗じてデストロイ……

 幸い依頼人はレイルさんですし、遠慮する事無くハルマゲドン……先ずは人口の少ない村からラグナロク……」

「頼むからやめてくれっ!? つーか、なに計画練ってんだよッ!!」

「えっ? 狩りの計画ですよ?」

「エルフを狩る者っ!? ヤベェ奴を焚き付けちまった……」

「僕はエルフを脱がす趣味は無いですよ? 脱がしたのはレイルさんの方じゃないですか」

「何の話だぁっ!?」

「「「「「なぁにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ‼‼‼‼‼‼」」」」」


 仕事中の見習い職人が一斉にレイルに振り返る。

 彼等は互いに顔を見合わせると無言で頷き、各々が獲物を手にレイルに静かに近寄って行く。

 彼等の眼には嫉妬の炎が燃え上がっていた。

 ここの連中は大半が独身者だったのである。

 嫉妬に狂った彼等は止められない。いや、止まらない。


 こうして、レイルは久しぶりに追い掛け回されるのである。

 セラの不用意なボケの所為で……

 

 追い駆けられるレイルの背を見送りながら、セラは何事も無かったかの様にアイテムを整理し続けていた。

 

 さて、何とかギルド本格始動させるところまで持ってこれました。

 まぁ、殆どが悪乗りで動いているので、そこいら辺が詳しく書けていないのですが。

 出来ればもう少し詳しく書けたらと思っています。


 基本がお馬鹿な連中がアホに進化する的な物ですから、只経営の話とか苦手なんですよねぇ~

 面倒なの所も有りますし、詳しく書くにしても知識が……

 調べる? 駄目です…好きな事以外は頭に入りません。

 こんな調子で大丈夫か? う~~む……

 予定ではもう直ぐ第二部が終わります。

 第三部では、エルフの里で暴れさせようかと思っています。

 そう云えば……五大龍王と言いながらヴェルさんしか今のところ設定が無い。

 良いのか? こんな調子で……

 何処かで出すべきではと思っているこの頃です。


 ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。

 

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