Sの悲劇 ~僕は男です、何でみんな分かってくれない!!(魂の叫び)~
AM06:00 瀬良優樹、起床
十五分の時間を掛けて身だしなみを整えた後に、母親同伴で朝食の準備に取り掛かる。
AM07:00
家族とともに朝食、会話の内容は定かではないが、普段通りの仲のいい家族の会話が行われた模様。
AM08:15
着替えて登校……残念ながら着替えはカーテンで遮られ見えなかったが、学生服に着替えた後に妹の【瀬良真奈】と共に家を出る。
五分後、幼馴染【安藤俊之】と合流、共に登校する模様。許すまじ……安藤!!
AM08:24
無事に登校……下駄箱に大量のラブレターを確認…焼却処分に帰す。
ハイエナどもには死を……抜け駆けする物には制裁を!!
「……何してる景山…いや、同志【シャドー】……」
「何時もの日課だ……我らの天使に近付く不届きモノの魔の手が届かぬ様にしている」
「そうか……ぬっ?」
彼等の崇める天使の傍に、同級生である少年が近付いて来た。
彼もまた同士の一人であり、厳しい戒律の元に天使を見守る志士の一人であった。
そう、今日までは……
「瀬良…頼みがあるんだが……」
「どうしたの鴨志田君? 目が何か怖いよ?」
「これはお前にしか頼めない事なんだ、もしこれをして貰えるなら……俺は死んでもいい」
「何事っ!? 命を賭ける様な事なのぉ!?」
鴨志田少年は今にも〝お義父さん、娘さんを僕に下さい〟と言わんばかりの真剣な表情で、優樹を見詰めていた。
彼の手には紙袋が在り、それを彼は大事そうに持っている。
一体何が入っているのか気になる所ではあるが、景山ともう一人の少年は鴨志田を憤怒の形相で影から
監視していた。
一体彼等は何者なのか…それはもう少し後に語るとしよう。
「瀬良…何も言わずこれを着けてみてくれ、頼むっ!!」
「何この紙袋? ……ゲッ……鴨志田君……君…そっちの人だったの?」
「軽蔑してくれても構わない……だが、俺は自分に嘘はつきたくないんだ……」
「こんな所でコレを? ……ちょっと恥ずかしいんだけど…良く持ってこれたね……」
「俺はこの瞬間に命を賭ける!! 今後、後ろ指さされながら生きる事に為ろうとも悔いは無い!!」
「それ程のモノなのぉ!? コレがぁ!?」
優樹が紙袋から取り出したのは猫耳のカチューシャであった。
鴨志田少年は何処に出しても恥ずかしいケモナーであったのだ。
取分け彼はケモミミをこよなく愛していた。
「何で僕なのさ!? て言うか……普通こんな場所で渡すぅ?」
「仕方が無かった……もしバレたら明日の太陽は見れないかも知れん。其れでも……俺は…」
「其処までの覚悟っ!? て言うか…君、裏で何してんの!?」
「瀬良は知らない方が良い…俺の最後の頼みと思って聞いてくれ……」
凄まじい程の熱意であった。
一体何が彼を其処までさせるのか……
今の彼は死を覚悟した正にサムライであった。
「まぁ…着けるだけならいいけど…写メは撮らないでよ? ハズイから……」
「約束しよう、俺も漢だ…多少残念ではあるが、致し方あるまい」
「撮る気だったのぉ!? 殺すよ、ワリと本気でぇ!!」
「それを着けてくれたなら殺してくれても良い……覚悟は出来ている・・…」
「………良く分からないけど…じゃあ…」
鴨志田少年の熱意に絆され、優樹は照れながらも猫耳を装着した。
「「「「「「「グハァアァッ‼‼‼‼‼‼‼‼」」」」」」」
「何事っ!?」
その場で事の成り行きを見守っていた登校してきた学生達が、男女問わず誰もが吐血をしながら悶死した。
凄まじい破壊力である。
恐るべきは萌えの破壊力、倒れた彼等は皆、幸福感に酔いしれた様な良い笑顔で倒れている。
其れも其の筈、優樹は性別の事を抜きにすれば十分美少女で通る顔立ちである。
そんな優樹が頬を染め、恥ずかしながらも猫耳を装着した事でその破壊力は何倍にも増幅され、周囲で固唾を飲んで見守っていた生徒たちに炸裂したのだ。
畏るべし瀬良優樹。
今の優樹は正にリーサル・ウェポンであった。
そんなメンタルブレイカーの優樹は硬直した鴨志田少年に声をかける。
「これで良いの鴨志田君……鴨志田君?」
上目使いで心配そうに見上げる優樹、しかし……
「わ……我が生涯に一片の悔いなぁ――――――――――――――――――――――――しっ!!」
どこぞの世紀末覇王の如く彼は腕を力強く掲げ、凄くいい笑顔を浮かべながら涙を滂沱していた。
彼は今人生で最高の瞬間を味わっている。
最早死んでも悔いは無かった。
「……そうか……悔いは無いか鴨志田……」
「…お前の所業……万死に値する…覚悟はいいか?」
「景山…大園……満足だ、もう俺は悔いは無い……覚悟は出来ている…」
「………そうか…では行こうか……」
「ちょっと? 景山君? 大園君? ホームルームはどうするの?」
鴨志田少年を両サイドから固め、何処かへ連れて行こうとする二人の同級生。
刑事ドラマさながらの様子で手錠まで掛ける。
鴨志田少年からは男の哀愁の様なモノが滲みだしていた。
「すまない瀬良……ホームルームは遅れそうだ……」
「・・・・・・先生には所要と言えば判る筈だ……」
「そ、そう……なんだ…」
「一時限目の授業には必ず戻る……」
「何時もの事だから心配は無い」
「……いつも何してんの君ら、偶に揃って遅れる事が在るけど?」
「「気にするな……何時もの事だ…」」
彼等は三人は廊下の先へと消えて行った。
猫耳の優樹と俊之、未だ幸せそうな表情で悶絶している生徒たちを残して……
「何だったんだろうね?」
「さぁ…どうでも良いがソレは外さないのか?」
「あ、忘れてた……」
彼等には未だに何が起きたのかが分かっていなかった。
そんな優樹と俊之は、さっさと自分達の教室へと向かった。
矢張り、悶死している生徒たちを残して………この高校は何かがおかしい……
「さて同士ケモナーよ……もう分かっているな?」
「あぁ……覚悟は出来ている…殺せ…」
「いい覚悟だ…貴様は戒律を破った…どうなるかはもう知っていよう」
何処とも知れない暗い密室に、十数名の者達が鴨志田少年を取り囲んでいた。
黒い三角形のマスクを被り、誰が誰だか分からないが制服を着ている事から個々の生徒である事は理解出来る。
しかし、どこぞの人種差別を目的とした団体の様に、彼等は全員同じマスクで顔を隠していた。
「貴様は誓いを破り、己の欲望を満たす事にのみ囚われ、剰え我らが天使を穢した罪は万死に値する」
「俺はそうは思わん、ケモミミの何処が穢れだと言うんだ。お前等だって萌えた筈だっ!!」
「黙れ、確かにあれは至高の美とも云えるだろう。ではなぜ貴様は我らに相談を持ち掛けなかった」
「言ったさ、だがお前等は取り合おうとはしなかった。下賤な妄執だと言ったんだっ!! 俺は如何してもソレが許せなかった、ケモミミは最高の美だと証明したかったんだ、俺に後悔は無い!!」
何処までも信念を貫く鴨志田。
彼は今、一つの古い壁を破壊しようとするレジスタンスであった。
「き、貴様…まさか【優樹ちゃんにコスプレを有志の会】に下ったのかっ!?」
「あぁ、そうだ…あいつ等は俺と同じ道を志す真の同士、お前等みたいな偏執的懐古主義者とは違う」
「貴様ぁ!! 我等【ユウちゃんを温かく見守る会】を裏切る気かっ!!」
「既に愛想は尽き果てた、お前等はもう俺達の敵だっ!!」
「おのれ、邪道の道に落ちたか……洗礼が必要だな…」
「無駄だ、俺には確固たる信念が、溢れんばかりの情熱がある。決してお前らには屈しない!!」
彼等は優樹のファンクラブの会員だった。
それぞれの派閥に別れ、水面下では熾烈な抗争と妄想を繰り広げている集団。
早い話が阿呆共の寄合である。
「邪道、邪道と言うが、お前等はあの猫耳を見て何も感じなかったか!! 胸に迫る熱い滾りを感じなかったと言うのかっ!! お前等は自分の夢と情熱を抑え込み、傷をなめ合う意気地なしの集まりだっ!!」
「ぐっ!? き、貴様…我らがどれだけ苦しんでると知って言っているのか!!」
「無論承知の上だ、そして俺は間違ってはいなかった事を先程確認した。俺に最早迷いは無い!!」
「おのれ悪魔に魂を売り渡しおって……確かに猫耳には萌えた、それは認めよう。しかし、貴様が新たに所属した組織はコスプレの為ならどんな汚い手段も行使する下種な集団、見過ごす訳には行かん」
「下種か…果たしてそうかな?」
「なにっ!?」
包囲され、今や自分の身が危険な状況であるのに不敵な笑みを浮かべる鴨志田。
彼は懐から一枚の写真を取り出した。
いや、写真では無くCGで作られた画像をプリントアウトした物である。
其処には銀の髪の少女が巨大な大剣とも大砲ともつかない武器で、モンスターを撫で斬りにしている。
そのキャラクターは彼等が知る人物とよく酷似していた。
「こ、コレは……」
「某ゲームで瀬良が使っているアバターのスクショをプリントアウトした物だ。どうだ、これでもまだ俺達が間違っているとでもいうのか?」
「「「「「「なぁにぃ―――――――――――――――――――――っ!!!」」」」」」
「コレを見た時確信した。瀬良は女の子として生まれたかったのだとっ!!」
「ば、馬鹿な……」
「では聞こう、何故瀬良はこんなアバターを使っている? 態々自分に似せてまで……アイツは自分の性別に苦しんでいる。俺はそれを解放してやりたい!! 俺の愛するケモミミでっ!!」
勘違いである……
優樹のアバターはセカンドキャラであり、女性キャラ限定の装備やアイテムをコンプリートする為の物であった。
見た目を自分に似せたのは面倒であっただけであり、キャラが精巧に作られているのは元来凝り性な性格なためであって、決して女性への憧れや変身願望が有るわけでは無い。
だが、彼等はここから盛大な勘違いをして行く事に為る。
「ここまで凝ったキャラを作るのは何故だ? 今の自分から解放されたいからだ、この苦しみを一人で抱え俺達には笑顔を向けているんだぞ? お前等は何とも思わないのかっ!!」
「お、俺達が間違っていると言うのか……」
「まさか、其処まで苦しんでいたなんて……」
「水臭い事を……相談してくれてもいいのに………クッ…」
「確かに見守るのも良いだろう。しかし、時には強引に踏み込み、望むべき姿にしてやっても良いのではないか? 例え嫌われようとも、瀬良が笑ってくれるなら俺は悪にでもなる覚悟があるっ!!」
大いに勘違いである。
しかし、決定的な証拠が有る以上、彼等は否定できる要素は無かった。
この日から、鴨志田を中心としたファンクラブが暗躍する事に為るのだが、優樹は卒業するまで知る事は無かった。
果てしなく続く暴走は、異世界だけで無く此方の世界でも同様の様であった。
「鴨志田……俺達が間違っていた」
「瀬良の為なら俺達は悪魔に魂さえも売り渡す」
「お前の覚悟見せて貰った……漢だったぜ…」
ここに新たな教祖が誕生した。
だがそれは、決して優樹に知る事無く水面下でのみの話である。
この日以降、盛大に勘違いしたクラスメイトが優樹に女装を強要する事に為るとは、当の本人には知り様も無かったのである。
「うっ?……何か寒気がした…風邪かな?」
「気を付けろよ? 今年の風邪は結構酷いらしいぞ?」
「そうなの? う~~ん……帰りに風邪薬でも買っていこうかな?」
何も知らない優樹は平穏な生活を送っていた。
勘違いをしたアホが暴走し始めた事を知らずに……
授業も終わり、ホームルームの時間に担任教師は爆弾を落とした。
それは普通であるなら何でもない日常であり、毎年どこの学校でも行われる些細な事であった。
しかし、この高校では今年から異常事態となる。
それは一人の人物から始まり、やがてクラスを巻き込む騒動に発展して行く事に為った。
「あ~~中間考査も終わった所で、残る行事もプールと期末試験のみとなった」
「修学旅行は行ったっけ?」
「この高校…修学旅行がねぇんだよ、知らんかったか?」
「マジで、何でだよ!?」
「以前、教師の一人が旅行の積立資金を盗んでフィリピン辺りに逃げたらしいわよ?」
「まさか、その所為で俺達がとばっちり受けてんのか?」
「そのまさかだ、俺達に旅行は無い……」
「その分、学費は安いけどね…それは其れで有り難いわよ?」
一人の教師の愚かな行為が全体に影響を及ぼしている様だ。
彼等の思い出に旅行の記憶は残らないようである。
ある意味、損な学生生活だった。
「んでだ、プール開きに関してなんだが、全員水着は用意してあるか?」
「「「「「「水着ぃ!?」」」」」」
「何で皆、僕の事を一斉に見るの!?」
彼等には重要な問題であった。
優樹は男であるが、見た目が美少女である。
そんな彼が更衣室で着替えるとなると色々と問題が出て来るのである。
「先生、質問!! 瀬良は何方の更衣室で着替えたらいいんですか?」
「そりゃ、男子生徒なんだから男の更衣室だろ?」
「「「「「「異議あり!!」」」」」
「何で? 僕男だよ? 男子更衣室は当然じゃないの?」
女子生徒全員が異議を申し立てる。
「瀬良君の見た目の問題が在ります。下手をしたらケダモノ達に襲われる事に為りかねません!!」
「だが、女子更衣室にする訳にもいかんだろ……教員室で着替えるのか?」
「もっと危険です。男子の体育教師はあのオネェです、2人きりにされたら瀬良君の貞操が危うくなります!!」
「え? あの先生、そっちの人なの? そう言えばやけに僕に触れたがるような……」
「下野先生か…確かに危険だな…最近、同じ体育教師の上原先生が休んでいるし……何か在ったのか?」
「ちょ、先生!? それ初耳なんすけど、上原先生病欠じゃないのか!?」
「教員の飲み会の後、酔った上原先生を下野先生が送って行ったきりだな……瀬良、気を付けろ……」
「「「「「「嘘だろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉっ!?」」」」」」
男子生徒全員が驚愕する事実であった。
まさかのウッホな御方が、よもや自分達の直ぐ傍にいるとは思わないだろう。
男子生徒全員が尻を押さえた。
「それって、俺達も危険じゃねぇか!!」
「冗談じゃねぇぞ、油断したらドリルの餌食だっ!!」
「何か怪しいと思っていたんだっ!! この間、『貴方、良い肉のつき方をしてるわね。素敵よ♡』て言われたぞ!?」
「決定的じゃねぇか!! どうすんだよ、プールは措いとくとして俺等ピンチじゃんっ!!」
「それより僕男だよっ!? 皆、僕をどう見てるのさ!!」
「「「「「「我らのアイドル、史上最高の男の娘っ!!!」」」」」」
「泣いていい!? 僕、泣いても良いよねっ!?」
性別は男な筈なのに、何故か疎外感を感じた優樹。
其れより彼等は自分達の貞操の危機に、青褪めていた。
今や体育の時間は最悪な位にデンジャラスな時間となったのである。
「男子の貞操なんかどうでも良いわよ、其れよりも瀬良君の貞操の方が大事よ!!」
「そうね。有象無象がいくら刺されようとも構わないけど、瀬良君だけは守らないと……」
「「「「「よかねぇ―――――――よっ!!!!!!」」」」」
「私は寧ろ、アンタ達が刺される所が見てみたいわ……直で………ふふふ…」
「「「「「「腐った女子まで居やがりましたよっ!! しかもドリルの餌食になる事を望んでるっ!?」」」」」」
優樹以外は見捨てられた男子一同。
今やこの高校は男子のみ危険地帯である。
「まて、本当に上原先生は穢れたドリルの餌食になったのか? 何かの間違いじゃないのか?」
「確かに、ひょっとしたら本当に病欠かも知れん」
「有り得るな、状況証拠のみで決定的なモノが無い……」
「野原先生いますか?」
「どうしたんですか、小町先生?」
男子生徒がしきりに考察する中、古文の教師である小町先生が職員室から小走りでやって来た。
因みに彼女は童顔巨乳で男子生徒からも人気が在り、一部では【遥ちゃん】と呼ばれ親しまれている。
仕草も可愛らしく生徒に親身な事から、優樹と二分する位ファンクラブも存在しているのはどうでも良い事だ。
「上原先生なのですが、急に教師を止めるそうです……」
「何でまた、病気が理由ですか?」
「それが……モロッコに行って性転換するとか・・…」
「ハァアッ!?」
「電話では、『下野先生に伝えてください……新しい世界を見せてくれてありがとう』て、どういう事でしょう?」
「他には何を……」
「何でも『あの日の激しい夜の事は忘れない……あの日は僕の新しい目覚めと為りました』とか、良く分かりません…どうしちゃったんでしょうか?」
「「「「「「決定的な証拠が出ちゃったよ!? 俺達の尻がマジでピンチ‼‼‼‼‼‼‼‼」」」」」」
最悪の展開である。
彼等の貞操の危機は決定的なモノと判明。
更に現在進行形で危機は脱していなかった。
教師二人は何か遣り取りをしていたようだが、今の彼等には最早聴こえてはいない。
彼等は迫りくるオネェ教師の事で絶望に打ち震え、いかにしてこの危機的状況から脱するかを真剣に話し合い始めている。
しかし、結局はいい案が浮かばず、机に伏しさめざめと泣くしかなかった。
「所で優樹君はどちらの水着を着るの?」
「男子用の競泳水着に決まってるよ、女子のなんて着れる訳無いし」
「それは危険よ、男子を出血多量で殺す気!?」
「僕、男子なんだけど……」
「「「「「半裸の瀬良君を見たら、男子が獣に変身するから駄目っ‼‼‼‼‼‼」」」」」
「おかしいでしょっ!?」
至極当たり前の事を言っている筈なのに、その常識が通じない。
ホームルームは最早混沌とした状況に陥っていた。
何が正しくて、何が間違いであるかが既に破綻しているのだ。
その原因が自分の容姿の所為だと気付かない……いや、気付いていても認めたくない優樹であった。
「僕、男だよ!? 男子用の水着は駄目、更衣室も駄目、何処で何に着替えればいいのさっ!!」
「「「「「「大人しく見学していて、私達の精神の壊さないために」」」」」」
「酷いっ、僕に授業は受けるなと!? 僕、ハブられてる? クラスからハブられてる? 苛めっ!?」
「自覚して、瀬良君……貴女は…【モェ~~サル・ウェポン】なのよ!!」
「何、それっ!? いつから僕は変な兵器になったのぉ!? ていうか、一条さん。今、僕を女扱いしたよねっ!?」
「些細な問題よ……」
「僕にとっては大きな問題だよっ!!」
クラスでは男と認識されていない事実を今更ながらに知り、優樹は本気で落ち込んだ。
だが、優樹は少し勘違いをしている。
優樹は男として認識されていないのでは無い、〝男の娘〟として認識されている事実を。
其処から理解の齟齬が生まれ、会話が成立しなくなる事態を招いているのだが、どちらにしても優樹本人には認める訳には行かない物であろう。
男の娘としての自分を認めれば少しはマシな状況になるのだが、優樹はしぶとく足掻いていた。
「待って一条さん」
「何、野々村さん?」
「瀬良君は何も分かっていないわ、自分がどんな破壊的影響を周囲に与えるかを……それを自覚させることが必要だと思う」
「どうするの? 瀬良君は予想以上に頑固…いえ、意固地になっているのよ?」
「私に任せて……瀬良君!!」
「な、なに? 野々村さん……」
優樹は少し気圧されながらも、野々村さんに向合う。
彼女はロングの髪に、ややつり目気味の端正の整った顔立ちで、眼鏡を掛けたこのクラスのクラス委員である。
その彼女が眼鏡を指で上げながら真剣な表情をすると、凄く迫力がある。
何処かのギルドのマスターの様なモノだろう、いざと云う時は凄く頼りになる故に委員長に抜擢された逸材でもあった。
「アナタはどうしても水泳の授業に出たいのね? 其れがどんな悲劇を招く結果と為っても後悔はしないわね……?」
「な、何か怖いよ? 野々村さん……僕が授業を受けるのがそんなにおかしいの……?」
「別におかしくは無いわよ? 要はクラス全員の精神的な問題だから、瀬良君自体は何の関係もないし……そう、何もね………」
「何か、凄い含みと棘があるんですけど…」
「気にしなくていいわ、瀬良君には関係の無い話だし……其れだけにタチが悪いのよ……」
野々村さんは溜息を吐くと、優樹を哀れな者を見るかのような眼差しで話を続ける。
「瀬良君は無自覚に周囲に多大な影響を与えてしまうのよ、望む望まぬ係わらずにね……」
「僕はなんかの能力者ですか? 世界から狙われる誰かですか!?」
「ある意味ではそうよ? 何ならここで服を脱いでみればいいわ、上半身だけでいいから…そうすれば私の言っている意味がわかるでしょう……」
「・・・・・・・・・ハァ?」
「「「「「「何ですとぉ――――――――――――――――――――――――――――――っ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」」」」」」
これには優樹も戸惑いを覚える。
貞操の危機で悲哀に暮れていた男子達も、全員が一斉に顔を上げた・
「野々村、俺達を殺す気かっ!?」
「病院は慢性的な血液不足で頻繁に献血してんだぞっ!? どんな影響が出るか分かってんのか!!」
「無論、理解しているわ。でもその原因の中心が無自覚なのよ、アンタ等には尊い犠牲になって貰う……」
「悪魔かっ!! 俺達に死ねと言うのか……」
「ひでぇ……ひでぇよ、野々村……」
「無謀な事を言っているのは承知の上よ。でも、これ以上の犠牲者が出ない内にやらなくてはならない事だったのよ……あんた達には…死んで貰う事に為るけど……」
「…くっ……薔薇のドリルに刺されるか、瀬良に悶死させられるかの二択か……覚悟は出来た、俺はここで死ぬ事を選ぶ」
「竹内……短い人生だった…だが、俺達には選択の余地は無い…」
「ごめんなさい……アンタ等を助ける事は出来そうにないわ……」
「良いさ、野々村……お前は俺達に死に場所を与えてくれただけだ……ははは…今日は死ぬには良い日だな」
「おかしいでしょ!? おかしいよね!? 何で戦場に向かう兵士的なノリなのさっ!!」
彼等に選択肢など最初から無かった。
前門のドリル、後門の男の娘…どちらを選ぶとすれば当然後者であろう。
彼等は死を前に実に良い笑みを浮かべていた。
一人、納得できない者も居たが………
「さぁ、瀬良君…やってちょうだい……」
「えっ!? この場でっ!? マジでっ!?」
「マジよ…彼等の悲壮な覚悟を無駄にしないで……一思いに殺って頂戴…」
クラスの視線が一斉に優樹に集中する。
優樹も上半身位なら別に脱いでも構わないと思っていたが、衆人観衆の前でとなると流石に恥ずかしい。
流石に羞恥と云うものを覚えるだろう。
「……何か…ちょっと恥ずかしいんだけど…」
「「「グハァアァッ‼‼‼‼‼‼」」」
「……見なさい、瀬良君のちょっとした仕草でコレなのよ? 脱いだらどうなると思う?」
「おかしいよねっ!? 僕、男だよっ!? この反応は明らかにおかしいよね!?」
優樹自身は少し照れただけなのだ。
しかし、見た目が美少女で頬を赤く染めながら、胸元に手をやり上目遣いなどされたら、彼等の精神は限界に達するのは否めない。
そこに居るのは間違いなく美少女であり、例え性別が男と分かっていても耐えられなかったのである。
ほんの些細な事なのに、教室は赤く染まったのであった。
「認めなさい……コレがあなたの禁忌の力…萌え力なのよ!!」
「そんなの持った憶えないよっ!? 変だよっ!! 変だよねぇ!? 変だと言ってっ!!」
「其処まで抗うなら続けなさい……後悔しないようにね……」
「やってやらぁ!! 僕は男だぁ―――――――――っ!!」
半ば涙目になりながらも、優樹は自棄を起こしてYシャツを脱ぎはじめる
そして・……
――――――ブシャアァアアアアアアアアアアアアアアアアァァァ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼
その日、教室は凄惨な現場へと姿を変えた。
何が起きたかと言うと単純に言えば優樹がYシャツを脱ぎ、下着代わりに着ているTシャツをたくし上げた瞬間に全員が鼻血を吹きだしたのだ。
男子、女子にかかわらず、その萌え力は途轍もない破壊力を見せたのである。
考えてもみよう。
教室で美少女が頬を染めながら涙目で、しかも衆人観衆の目の前でシャツのボタンを一つづつ外して行く姿を……
其処には一種の背徳的かつ倒錯的な雰囲気が生まれ、醸し出された空気が彼等の精神を否が応でも興奮の絶頂へと向かう。
現実的にそんな真似をすれば犯罪だが、その背徳的な非現実を想像しただけでも彼等のメンタルは限界を突破した。
寧ろ限界を超え、天元突破した。
現実には一人の少年が自棄になって上半身のみ肌を晒そうとしただけなのだが、思春期の彼等の精神内では別の映像が想像でき、その所為で鼻血と云う鮮血の花を咲かせる事に為った。
だが、彼等の顔には笑みが浮かび、そこはかとなく満足そうな最後であったと云う。
翌日職員会議でこの事が問題視され、優樹のみが水泳の授業を免除される異例の処置がとられる事に為った。
教師たちも流石にプールを血の海にする訳には行かないと判断したのである。
後に語られる【Sの惨劇】の全容がコレである……
渡る世間はアホばかりであった。
……どうなんだろ、コレ……こんな高校嫌すぎる。
周囲はある意味では理解在る奴等だが、いろんな面で間違っているし……
現実に美少女顔の少年が居てもこんな事は起きんでしょ・・…
寧ろリア充路線に行きそうな気が……それはなんかつまらない…
ハーレム? させませんよ? 何かムカつくし・・…
転暇ではハーレム路線を真っ先に斬り捨てましたから。
非常識なキャラが馬鹿な真似をするのはいいんですが、どうもなぁ~~
異世界に比べ元の世界では優樹は被害者になってるような……
騒ぎの中心にいるのは間違いないのだが、悩ましい……




