表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/77

 奴隷商人が来たようです ~増員の為に裏で頑張ってます~

 ……こっちの話でヴォルフ君の過去話を書くべきなのでしょうか?


 マジ悩んでいます……けど、此方は悪ノリだしなぁ……

 その日、ロカスの村に向かい数台の馬車が街道を進んでいた。

 馬車は後ろの扉以外は木材で囲われており、申し訳程度の窓に格子が填められている。

 誰が見ても普通の馬車では有り得ない。

 其れもそのはず、この馬車が運んでいるのは奴隷達であり、彼等が逃げれないように扉には鍵がかけられ、また窓も小さく格子で塞がれているのだ。

 そんな中に一組の家族が体を寄せ合い、不安に包まれながらもこれから行く場所でどのような事をさせられるのか考えていた。

 奴隷商の話では、一家揃って奴隷落ちした者達を優先的に集めているらしいが、その意図が分からない。

 彼らも不安になっても仕方が無いだろう。

 だが、幸いな事に家族が一緒に居られるのだけがせめてもの救いであった。

 外では奴隷商の話だけが聞こえ、彼ら質奴隷は終始無言のままであった。


『ロカスの村だったか? 聞いた事ねぇんだが……この先に本当に村が在るのかよ』

『何でも、アムナグアを倒して大金が転がり込んだらしいぜ? 人手不足を解消するために奴隷が必要なんだとよ』

『アムナグアだぁ!? 無理だろ、災害指定級じゃねぇか!!』


 奴隷達は静かに奴隷商達の話を聞きいっていた。

 下手に騒げば鞭で打たれ、その後は殴る蹴るの暴行を受けるのだ。

 彼らのいる馬車を所有する奴隷商は、最低の部類に入る人間によって運営されているのだ。

 しかも、彼等を運んでいる荷馬車はどの奴隷商の馬車よりもみすぼらしかった。

 これは奴隷商の商人の方針で、余計なものに金を掛けたくないと言う理由からであり、彼らの食事も人が食べるものとはとても言えないさもしい物である。

 この馬車に居る者達だけが人として扱われていない証拠でもあった。


 因みにこれは明らかに犯罪行為であり、エルグラードの法律では大罪に値する。

 其れでも裁かれないのは役人に賄賂を渡し、御目こぼしに与かっているからであろう。

 いつの時代でも姑息な人間は存在する様だ。

 だが、彼等の命運はこの日から一転して幸運なものへと変わる事を、彼等はまだ知らないでいた。





「はい、オーライ、オーライ…ストップ!!」


 狩りが出来ず暇を持てあました冒険者隊は、新たな住人達が住む仮設住宅の建設に従事していた。

 元々彼等は机の前で作業を熟すのは苦手であり、体を動かすのが性に合っている連中である。

 そのため長い時間錬金術を続けるのは耐え難い苦痛で、こうして稀に住居建設をして気分を紛らわしていた。

 早い話が全員がガテン系であり、体を動かしていないと落ち着かないと云う困った体質になってしまっている。

 これにはロカス村の事情が大いに関係しており、セラが来る以前から死に物狂いで働いていた物だから、、多少生活が良くなったとしても彼らに染み込んだ労働意欲はそう簡単には消えはしない。

 起きたら飯を食い働くという習慣が身に着いてしまっているのだ。

 ある意味では健康的な生活であろう、幕末以前の日本でも畑で働き、合間に家族と過ごすと云う習慣が日常であった。

 近所付き合いもマメで家族ぐるみで互いに交流し、村の団結力も強い。

 同じ家に住みながらも家族がバラバラ何てことは無いのである。

 ある意味、一番平和な光景ではないであろうか?


「・・…ふぅ…これで一段落か? 次はどうする」

「共同の竈でも作るか? 飯を作るには必要だろ?」

「その前に飯にしねぇか? 少し小腹が空いた」

「お茶、持って来たわよ~~」

「ありがてぇ」


 やかんの口を下に其のまま直飲みにして居る姿は、最早冒険者とは思えない。

 今の彼等は工事現場で作業をする工事作業員と何ら変わりはしなかった。

 しかもやたらと同に云った物で、何処から見てもガテン系のあんちゃん達にしか見えなかった。


「か―――うめぇ!」

「冷えたお茶は働いた後には格別だな!」

「しみるぜぇ~~~」

「一応軽い食事が出来るように、〝おにぎり〟だっけ? 作って来たわよ?」

「一つ貰おうか」

「塩味だけだが……うめぇな…」


 ここはいったいどこの飯場だ?

〝冒険者とは思えない〟では無い、〝冒険者では無かった〟の間違いではないだろうか……

 彼等は立派なドカであった…

 これでユンボが在れば完璧であろう。


「作業は順調のようですね」

「先せ…いや、親方!!」

「どうでもいいが、こんな長細い家でいいのか? 部屋割りも大した事無い広さだぞ?」

「仮設住宅ですからね、暫くは共同生活で我慢してもらうほかありませんよ」

「まぁ、俺達もそこまで作れるとは思えねぇからな、妥当な所じゃねぇか?」


 彼等が作っているのは仮設住宅である。

 長細い作りの建物で、簡素ではあるが雨風が防げる分には問題は無い。

 複数の扉が着いており、それぞれが一つの小さな部屋となっている。

 この辺りの気候は温暖であり、夜に凍死する事も無いためこの様な建物が作られたのだが、見た目はどこかの原住民の民家か、悪く言えばただの物置にしか見えない物である。

 所詮はギルド本部の余った廃材を利用したものだが、それを考えれば立派なものには違いない。


「共同の畑の方はどうなってんだ? 薬草の栽培をして貰うんだろ?」

「あっちは順調、マイアちゃん……スゲェわ…」

「あの娘、そんなにできるのか?」

「この間まで建築現場で作業員として働いていたみたいだから、魔術の使い方の応用の幅がパネェスッ。短時間で使える畑を用意したよ…あんな使い方があったんだねぇ~勉強になるわぁ~」


 マイアは畑の拡張に手を貸していた。

 ほとんどが手作業で小石などを除いて行くのだが、マイアは土属性魔術を応用して小石を集め粉々に粉砕。更にはそれをまんべんなく撒いた上に、やはり魔術で土を丹念に混ぜ合わせ、水はけの良い土壌を作り出していった。


 これにはセラも流石に驚いた。

 マイアは教えた事を直ぐに吸収する優秀な子ではあったが、それ以上に応用力が優れていたのである。 冒険者にならなくても、遣り様によっては生活に困らない程度の稼ぎを出す事は簡単に出来そうだった。

 一種の天才の部類に入る事は疑い様が無い。


「あの娘…直ぐに僕を追い抜くかもしれないね。才能も有るし、それ以上に努力もしているから」

「それ程かよっ!? いい人材がこの村に来てくれたもんだ」

「ある意味、白百合旅団の団長に感謝だね。マイアちゃんを追い掛け回してくれた御蔭で、この村に来てくれたんだから」

「……どんな団長なんだよ…嫌な予感しかしねぇんだが……」

「早い話が変態で変人、百合百合の最悪なストーカー……ヤンデレの傾向も有り…」

「最悪じゃねぇかっ!! あの子も苦労してんだなぁ……」


 全員がマイアに同情していた。


「そう言えばフィオとセリス君? あとヴェルちゃんの姿は見えないわね、何をしているの?」

「フィオちゃんはセリス君に錬金術を教えているよ? ヴェルさんは……埋めた……」

「「「「「ハァアッ!?」」」」」

「だから、埋めた…思わずカッとなって殺った。でも後悔はしていない☆」


 実にいい顔でサムズアップ。

 本気で微塵の後悔も無くヴェルさんを埋めた様である。


「…殺った…て…埋めたって……何が在ったのよ…」

「…鬼か…」

「……ひでぇ……あんな幼女を……」

「みんな見た目で勘違いして居るかも知れないけど、アレを幼女と思っちゃいけないなぁ…アレは立派な変態で性犯罪者だよ? ついでに此処に居る全員より年上だよ?」

「「「「「マジでっ!?」」」」」

「因みに……何故埋めたかと云うと…」


 回想入ります。

 それは、今朝の出来事であった。

 解体場の人手不足の影響で狩りに出かけられないセラ達は、事前に他の冒険者との話し合いで今日は仮設住宅の建設に手を貸す事と為っていた。

 もちろん人手不足の影響は解体場だけでなく、他の作業場でも深刻な状況には変わりはない。

 当然ながら仮設住宅建設に措いては、人を廻す余裕など最初から無いに等しい。

 その為手の空いている冒険者達の半分は畑に、残りの半分が仮設住宅の方に手を貸す事と為ったのである。

 人員が増えると判っているなら優先するべきは居住施設であり、そちらを急ピッチで終わらせなければ後が閊えるのである。

 セラも当然現場の方に向かう事に決めていた。


『のぅセラよ……お主、その衣装をどこから持ってきたのじゃ?』

『おかしい? 以前プレイヤーに作って貰ったお遊び装備なんだけど……』

『あ奴……こんな物まで再現したのか…遊んでおるのぉ・・…』


 セラの着ている装備は何と言うか……棟梁だった……

 ニツカに足袋、タンクトップに腹巻、更には半被に安全第一と書かれたヘルメット。

 何処から見ても棟梁である……

 透き通る様な長い銀髪を後ろで三つ編みにし、棟梁姿のセラは以外にも似合っていた。

 ご丁寧に半被に〝め組〟と書いてあるのはご愛嬌だろうか?

 ゲーム内でこんな衣装でモンスターを倒している姿を想像すると、中々にシュールで面白いが現実に存在すると明らかに異様に思える。


『防御力で見るならヴェルさんから作ったもの並みに強力だよ?』

『まさかのレジェンド級じゃと!? 間違っておるっ、これは我に対する冒涜じゃぁ!!』


 レジェンド級に匹敵する防御力を保有していたようだ…何かが間違っている……

 下手すればこの姿のセラにヴェルさんは倒されていたかもしれないと思うと……それは其れで見てみたい。


『これで仮設住宅のお手伝いが出来るね、何なら狩りにでも行こうか? 落ち着いてからだけど……』

『やめるのじゃ、そんな姿で倒されては他の魔獣達も死んでも死に切れぬっ!!』

『因みに武器はハンマー・ツルハシ・スコップ・鎌・火消し纏いだったかな? 揃って無いのが残念…』

『何で土木関係なのじゃ……チェーンソ―もありそうじゃのぉ……』

『あるよ? ツルハシとスコップも』

『あるのかっ!?』

『ヴェルさんを相手にする時も、この装備で行こうか悩んだよねぇ~』

『危なかったのじゃ!! 一瞬の判断に感謝なのじゃ!!』


 本気でこの装備でヴェルグガゼルを相手にする気だったようだ……

 ヴェルさんで無くても嫌すぎる。


『にしても……良く見ると少しエロいのぉ~』

『何が? て、何で僕の胸元ばかり見てるのさ』

『タンクトップの胸のふくらみが我を誘惑するのじゃ……屈んだ時に見える胸の谷間が我を誘うぅ~~』


 ヴェルさんの目が次第にあやしい色を見せ始めていた。

 いつもの病気が発症した様である。


『乳がぁ~呼んでるぜぇ~我を呼んでるぜぇ~~♪ 行くぜ、行くぜ、何処までもパフリの為にぃ~~♪』

『僕のお株が奪われた!? てか、ヴェルさんには其れしか無いのっ!?』

『無い!!』

『断言しやがった!! こいつ最悪だっ、変態街道まっしぐら!?』

『乳大好き♡、チチスキー~~♪』

『まさかのCMネタっ!? こいつ、ヤリよるわ!!』


 胸元を隠し距離を取るセラと、手をワキワキさせながら迫る変態幼女。

 変態は時と場所を選ばない。

 思い立ったら即リミッター解除して、心と本能と欲望の儘に満足するまで暴走するのである。


『い、いい加減にしないと埋めるよ? 本気で十メートルくらいの穴に埋めるよ?』

『埋められるのが怖くてパフリストは務まらぬのじゃ、其処に乳が在るから我はパフるっ!!』

『どこの登山家!? ヤバイ、殺らなきゃ犯られる……』

『お主も覚悟を決めるじゃ……パフパフゥ――――――――――――――――――っ!!』

『正気に戻れ、変態っ!!』


 ―――――ゴン!! ゴスッ!! グチャ!! 


 〇パンダイブして来たヴェルさんを、セラはスコップの様な物で迎撃した。

 と云うかスコップである。

 その名を、お遊び装備【名状し難きスコップの様な大剣】である。

 あやしい迄に禍々しいデザインのスコップであり、お世辞にも趣味の良い装備とは言えない。

 因みにレジェンド級の威力がある。


『殺った……殺っちゃった………はは…アハハハハハハハハハ』


 倒れて動かなくなったヴェルさんを前に、セラは狂った様に笑いだす。

 しばらくした後、セラは動かなくなったヴェルさんを袋に詰め、何処とも知れぬ穴に埋めた。

 見様によってはかなり陰惨な現場であった……… 

 ・

 ・

 ・

「何て事が有ってね……」

「…生きてんのか? ソレ……」

「大丈夫でしょ、ヴェルさんだし……」

「先生のあの子に対する扱い酷過ぎ……でも、残念だけど変態なのよねぇ~~」

「フィオやマイアには見せられない光景だな……教育に悪い…」

「僕は変態は撲滅どころか殲滅するべきだと思っているんだよ…実害が在る分たちが悪い」

「「「「「それは同感」」」」」


 ロカスの村での変態の扱いは酷い。

 其れはブッチや村長などの例からでも分かるであろう……

 この村では変態に人権は無いのである。


「酷いのじゃ、袋詰めにした挙句に口を固く縛って出られなくした上に、十メートルの穴に宣言通りに埋めるなんて人のする事じゃないのじゃ!!」

「「「「「やったのかよっ!?」」」」」

「僕は有言実行の人間だよ? 其れはヴェルさんも知ってると思うけど…やっぱり無事だったね、今度は海に捨てよう……コンクリートに詰めて…」

「ひぃいいいいいいいいぃっ!? 鬼じゃ、鬼がここに居る!!」

「ヴェルさんが気を付ければいいだけの話だよ♡」


 天使の如く微笑む悪魔の笑み。

 戦慄するヴェルさんを他所に、この場に居る全員がセラには逆らうまいと心に誓うのであった。


 ロカスの村は今日も平和である。





 セラ達が仮設住宅の建設現場で遊んでいる間、村では奴隷商人達が到着していた。

 どの荷馬車も頑丈な作りをしている中で、一つだけみすぼらしい荷馬車がやけに目立つ。

 彼等はこの村に商売に来たのだが、村の状況には流石に驚嘆の色が隠せないでいる。


 其れも其のはず、辺境の開拓民の大半は資金不足に陥る中で、この村は比較的に高度に成長した村に見えるのである。

 魔獣の襲撃や、徴収される税金が払えず潰れて行く村が多い中、これ程までに発展した村など数えるほどしかないのだ。

 しかも奴隷を欲しがるほどの発展を遂げるは、如何程の歳月が必要とされるかなど計り知れないのである。

 大概は借金苦で村の住民が奴隷落ちし、人知れず廃村になるパターンが多く、またそれなりに発展したとしても魔獣の討伐に必要な資金が払えずに滅ぼされる事も少なくない。

 ロカス村が知られていないのは辺境にあるだけでなく、奴隷商人達を呼んだ事が無い程に団結力が強い為、奴隷として連れて行かれた人が居ない事も含まれている。

 その為情報として一度も上がった事は無いが、アムナグアの討伐以降実しやかに囁かれるほど名が浸透してきていた。

 其れとて所詮噂話の域を出ず、今の今迄商売としてくる商人は殆どいない。

 こうなると取引をしているボルタク商会とイモンジャ商会の独壇場になり、この二大商会のお墨付きが無いと商売する事すら叶わない。

 それ故にロカス村は特殊な発展を遂げている事になる。


 さて、ロカス村に着いた奴隷商だが、彼等はまず村の代表者と顔を合わせなくてはならない。

 これは今後取引をする上で商売上必要な事であり、心象が良ければ何度も取引を持ち込める大事な儀式とも云えるが、逆に悪ければ取引先を一つフイにする事に為る。

 彼らも利益を求める以上、相手の要望には応えねば為らず、信頼を勝ち取れば今後の利益に大きく関わる。故に奴隷商たちは身なりにも奴隷達の扱いにも細心の注意を払い、代表者との対面には慎重になるのだが、一部セオリーに沿わない一団がいた。

 みすぼらしい荷馬車の奴隷商の一団である。


 彼等はいかにもガラの悪い冒険者達を雇い、何処から見ても堅気とは思えない下品さが醸し出されていた。

 この奴隷商は二大商会に呼ばれた者達では無く、情報を金で買い彼等に便乗してきたオマケの様な連中であった。

 当然そんな事をするような奴等が真っ当な筈も無く、彼等全員が札付きで何処かの町では指名手配されていたりする。

 そうなると一悶着あるのは目に見えていた。


「良く来てくれたな、待っていたぜ」


 誰もが声がする方を一斉に見ると、そこには例の薬で変貌を遂げたタフな漢、【スーパーボイル】が姿を現した。

 身なりの良いスーツを着て、方からコートを羽織り、黒革の靴を履き葉巻を吸う。

 周りには数名の黒服の屈強な男達が囲み、どう見てもマフィアのドンの様な出で立ちである。

 何故かいるドレス姿のイーネがボイルにしな垂れかかっているのが気になるが、概ねこの村の住人達であった。


「早速だが…商品を見せて貰おうか、奴隷達の状態次第では高く買わせて貰うぜ」


 ボイルは行き成り商売のセオリーを無視して来た。

 奴隷商達もこれは難物だと気を引き締める。


「あんたぁ~他の女に目移りしないでよ?」

「馬鹿を言うな。俺にはお前しか居ねぇ、他の女に何か靡く訳ねぇだろ」

「今日のアンタ…最高にクールよ♡ 惚れ直しちまうねぇ~」

「何度でも惚れ直させてやるさ、お前も俺を何度も惚れさせてみろよ?」

「うふふ……素敵…」


 今日のボイルは一味違っていた……

 タフで危険な男では無い、明らかにヤバイ筋の御方に変貌を遂げていたのだ。

 不陰気は最早どこぞの禁酒法時代である。


「わ、我々はボルタク商会の……」

「あぁ、前置きはいい。商品次第では懇意にさせて貰うさ、商売は商品次第で変わるからな」

「で、では早速……」


 奴隷商達は馬車の扉を開き、連れて来た奴隷達を馬車から降ろして行く。

 ボイルはそれを値踏みでもするかの如く見詰め、奴隷商達の評価を決めて行った。


「中々に健康そうだな、期待できそうだ」

「それはもう、我等は奴隷には細心の注意を払い健康状態にも気を使ってます」

「いい扱いをしている様だな…いいだろう、暫く懇意にさせて貰おう」


 奴隷商から見てボイルは不気味な存在であった。

 ボイルは奴隷を見て自分達を値踏みしているのである。

 それは奴隷の扱いが巧ければ信用に値すると言っている物であり、其処に余計なアピ-ルや交渉の挟む余地は無い。

 これでは手札を伏せられたまま取引するのと同義であり、彼らにはやりにくい商売相手だった。

 逆に言えば奴隷の扱いが悪ければ二度と取引はしないと言っている様な物であり、単純ではあるが商売人殺しとも言うべき効果を発揮していた。

 今日のボイルは何かが違う……


 厄介な事態に為ったのが、他の奴隷商から商売相手をかすめ取ろうとしていた奴隷商であった。

 彼らの奴隷達は痩せ細り、下手すれば数日で死ぬ様な衰弱した奴隷達である。

 これでは明らかに商売は成り立たず、辺境まで来たのに無駄足になりかねない。

 最悪奴隷すら買ってもらえず、街に引き返さなければならないと思うと手痛い出費が嵩む事に為る。

 ここに来て自分達の奴隷の扱いが仇と為ったのだ。


(拙いぞ、これでは客を横取りする事すら叶わぬどころか、最悪他の奴隷商に潰され兼ねん)

(ゲドーさん…いっその事、こいつ等殺っちまわねぇか?)

(何だと!?)

(所詮は辺境の連中だぜ? 大した実力なんてねぇだろ、他の奴等も殺して奴隷を確保すりゃいいんじゃね?)

(しかし……)

(今更、汚ねぇ手段だなんて言うなよ? いつもやってんだろ? 他の奴隷商を襲ってよぉ)


 彼等は奴隷商としては真っ当では無い。

 余計な出費を出さないと奴隷の食事をケチり、奴隷を買わずに他の奴隷商から奴隷になった人達を奪う事は日常茶飯事であった。

 その間、身ぐるみを剥いで金目の物を奪う事すら忘れない。

 彼等は盗賊や野盗と何も変わりはしない犯罪集団であった。


(確かに今更だな…頼めるか?)

(任せろよ、こいつ等皆殺しにしてやんぜぇ)


 彼等は気付いていなかった。

 こそこそと話し合う彼等をボイルは一瞥すると、背後の黒服に合図を送る。

 合図を受け取った黒服は、そのまま民家に入って行った。


 商談が次々と決まる中、とうとう最後に彼等の出番が回って来た。

 彼らの奴隷達は痩せ細り、ろくに食事すら与えられていない事が十分に理解できた。

 流石にこれは他の奴隷商も不快感を露わにし、人として許せる類の物では無かった。


「……どう云うつもりだ? アンタ等は商売をする気がねぇ様だな」

「ふん、こんな辺境まで来てやっただけでもありがたく思うんだな。貴様らにはこの程度の奴隷で十分だ」

「ほほぅ、随分と強気な態度じゃねぇか、だが良いのか? これはどう見ても法律上では犯罪だぜ?」


 犯罪奴隷以外は須らく人権が保障されていた。

 これは例え借金を背負っても国民である事の証の様な物であり、奴隷商も法を破れば犯罪者になり下がる。

 今回は彼等が犯罪者である事が露見した事だった。

 しかし、奴隷商の中には裏で犯罪に手を染めている者達も多く、日夜取り締まりのいたちごっこが続いている事実も否めない。

 中には役人に賄賂を流し、目溢しに与かる者達も居るのである。


「それが如何した、目撃者など消せばいいだけの話だ!!」

「ほぅ、殺るのかい? 手加減は出来ねぇぜ、あんた等が仕掛けて来たんだからな」

「田舎モンが粋がってんじゃねぇ!!」


 武器を抜いた護衛の冒険者がボイルに斬りかかる。

 だが、突如何処からともなく飛来した矢が、この男の太ももを貫通した。


「ギャアァアアアアァァッ!?」

「な、矢だと? 何処から……」


 ボイルが手を上げると、民家の屋根には弓を持った冒険者達の姿が、更に民家や街角の影から武器を持った村の住人達が彼等を包囲した。


「な、何だとっ!?」

「何分田舎なんでな、油断すると此方が殺られる。この村の連中は全員が冒険者を経験してんだよ、残念だったな」


 完全に包囲された彼等に逃げ場は無かった。

 徐々に追い詰められ、彼等の顔は蒼褪めて行く。

 この村で武器を振りかざすべきでは無かったのだ。

 ただの田舎者と決め付けていた彼等は、自分達の常識が通じないこの連中に恐怖する。

 この村に来た時から、彼らの運命は決まっていたのかも知れない。


「仕掛けて来たのはあんた等だ、覚悟はして貰うぜ」

「ま、待て、話合おう……」

「おいおい、先程の威勢はどうしたんだ? 声が上ずってるぜ?」

「兄貴ぃ、殺っちまいますかい?」

「死なねぇ程度に程々にな、命がありゃ問題はねぇ……やれ…」


 ボイルの合図と共に一斉に襲い掛かる村人衆。

 自業自得とは言え、その光景はあまりに悲惨なものであった。

 問答無用で叩きのめされる冒険者と奴隷商は、その日自分達の行いを死ぬほど後悔したと云う。

 後に役人に突きだされ、一つの悪質な奴隷商と冒険者達は全員犯罪奴隷に身を落としたのだった。

 更にはこの奴隷商を使っていた商家の会長も警邏隊の家宅捜査が入り、数々の悪事が暴露され同様に捕縛されたのであった。


 余談だが、奴隷商達との交渉は滞り無く順調に行き、今後も贔屓にする事に為った。



「今日のアンタは最高よ、年甲斐も無く熱くなったわ」

「まだまだこんなモンじゃねぇ。夜も長いんだ、楽しませてやるさ」

「嬉しい……素敵よボイル…」


 ボイル夫妻は二人で自宅へと消えて行った……

 残された者達はと云うと…



「今日のボイル…キレッキレだったな……」

「スゲェ威力だな…コレ……さすがは先生だ」

「ねぇ、今度からはこっちを使わない? 今日のボイルは最高に凄かったわ」

「「「「「「賛成!!」」」」」


 彼等の一人の手には瓶詰の錠剤が存在した。

 御存じ【サイケヒップバッドExD】である。

 ボイルの変身の影には、やはりセラの影が見え隠れしていた。


 今後、ボイルはこの薬を頻繁に使われる事に為る。

 彼の悲惨な現状は続く………

 セラとヴォルフの話を書く時は、どうも此方になりそうな気がします。

 ただ、少し真面目な話になりそうな気が…苦手なんですよね。


 シリアスな話もそろそろ書くべきなのでしょうが、次はどうしましょうか?

 元の世界での話も書かないと…悩みの尽きないこの頃です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ