薬物は不用意に混ぜてはいけません ~奴隷を買うための相談をしました~
連続投稿です。
未だ本調子ではありません。
ゆっくり行きたいと思っています。
翌日、セラとボイルは村長の自宅に訪れていた。
ゆっくりと確実に村の改革が進む中、村の働き手である人員の数が不足している事を話し合うためである。
セラの提案により奴隷を買い入れるにしても、村長や村の人達との話し合いをしなければ為らず、手始めとしてセラの提案を報告して村長の意見を聞く事にした。
村に現在建設中のギルド本部は、受付やら書類整理などの業務を行うのに対し、村の人口では農作業や魔獣解体、鍛冶師や他の職業に従事する人員の数が手が圧倒的に足らないのである。
これから村を大きくして街に発展していくにしても、様々な街から多くの住人が増えるとして、治安の面で中核をなすのがこの村の住人達である。
其処で他の村から奴隷落ちした家族を買い、この村で働かせてみようと考えた。
これは別にセラが考えた訳では無く、本来あるべき時間の流れの中でロカス村の住人達が辿り着いた作戦でもあった。しかしこの世界は【神】の仕出かした不始末により、正しい歴史の流れから掛け離れてしまった為、歪みから生じる変動が在るべき歴史を修正させる必要があった。
セラの出した提案は、正しい歴史の流れに導く一手である。
無論、現在この世界で生きているボイル達にはそんな事は分からず、彼等にとっては人手不足を解消する最良の手段であると言えよう。
だが、その決断をするのは彼等自身であり、その為にも話し合う必要があったのである。
「……奴隷を買うか…人としてどうなのかとも思うのじゃが………」
「今の世はそっちこっちで村が出来ては潰れてるんだぜ? 借金まみれで奴隷に身を落とした家族を救うと思えばいいんじゃねぇか? 俺も人が人を買う事に抵抗が無いと言えば嘘になるが、俺達も此の侭じゃ限界だ。人手不足を補うにはコレしか手がねぇ……」
「しかしのぉ~う……金に問題は無いが、新しくも迎え入れた奴隷達が恭順出来るとは限らぬじゃろう? 下手をすれば問題を起こしかね主のぉう」
「借金で首が回らねぇんだ、大丈夫じゃねぇか? 別に利子付けて返せと言っている訳じゃねぇし、職と住む場所を提供してこの村に慣れてもらえばいいんだから」
「ふむ……しかし、どう云った仕事についてもらうかが問題じゃな……畑仕事もあるしのぉ~~」
「それなら一つ、いい方法が有りますよ?」
今まで黙って話を聞いていたセラが、突然提案を出して来た。
「奴隷として買い取った人達にはギルドの受付や運営の方に、あと解体場にも欲しいですね。鍛冶師の方はロックさんが当りを付けるらしいので保留、他の作業現場には其れに適した人たちを廻して、何かしらの仕事に従事していた人達はそれに合わせる様に話を聞きながら配置を考えましょう。
どうせまだ一人も奴隷を買っていないんですから、ここで現場の話をしても後で混乱するだけです」
「試しに何家族か引き取って様子見だな。どっちにしても人手不足は何とかせにゃぁ、俺達の方が参っちまう」
「奴隷商人はあまり奴隷たちの事を人として扱っていないと聞くぞ? 最悪、痩せ細った何の仕事も出来ない病人を連れて来られても困るのじゃが……」
村長も今の現状は自覚しているのだろうが、やはり人を金で買う事に抵抗が有る様だ。
しかし、ボイルやセラもここで引き下がる訳には行かない。
セラとしては【歪み】を修正する為、ボイルとしては人員を何とか獲得しない事にはこれ以上は現場が限界なのだ。何としても村長から許可を取らねばならなかった。
「病人なら安く買えるだろ? 今の村の連中は大半が錬金術師だ、その手の治療薬を作るのなんてわけはねぇ。寧ろ恩を売れる分効率は良くなるんじゃねぇか?」
「黒いのぉう、ボイル……」
「セラの提案を其の儘言っているだけだ。悪党はセラだよ」
「ボイルさん、ひどっ!? 誰も思い付かないから有効と思える手段を提示しただけじゃないですか! 村長の方がもっと酷い事してるじゃないですか、村の人達全員に……」
「うゔぅ!?」
そう、かつて村長はトイレ神を信仰する団体を作るべく村人全員を洗脳し、何だか良く分からない祭壇を作り、崇め奉っていた。
人の尊厳を踏みにじる行為を既にしている癖に、奴隷を買う事に牏著するのはおかしな事である。
「最悪なカルト教団の教祖が、今更人道が如何こうと言うんですか? アレだけの人達を得体の知れない香草と催眠術を使って洗脳した癖に。いや、今もやってますよね? 村の人達では無く外から来ている人たちに。人権その物を踏みにじってまで変な神の教団を作ろうとしたのに、奴隷落ちした可哀想な家族を救う気は無いと?」
「村長っ!? アンタ、まだ懲りてないのかよ!!」
「黙れっ!! 偉大なるカワヤハバカリ神の信仰は死ぬまで捨てぬ、この地に神の国を作り出すまでわなっ!!」
「外道な行為をしてるんです。いまさら奴隷を買う事に躊躇する方がおかしいでしょ?」
「ぬぅうぅ~……」
普段は良い人なのに、自分の信仰心を揺さぶられると途端に性格が一変する。
村長の野望は未だに消えていないのだ。
そんな村長の脳裏に、天啓と思える策が過る。
奴隷を買う≫恩情で感謝され、その折に信仰を教える≫信者獲得≫教団復活!》いずれは世界へ!!
(神は儂を見捨てなかった!! これはまさに天の啓示、カワヤハバカリ神様のお導きに違いない!!)
村長の野望は劫火と為って燃え上がる。
この爺さんは最早駄目かもしれない……救い様の無い狂人であった。
そうと決まれば対応は早い。
「よし……村の為じゃ、思い切ってやってみようぞ。何もせぬまま話だけしても埒が明かぬ、試してみねば分からぬ事も在るじゃろうて……」
「んじゃ、取り敢えず誓約書を書いてくれ。後は両商会に仲介役を頼んでみるか……」
「商人が間に入ってくれると楽ですよね、信用が置ける奴隷商人を廻してくれるかもしれません。奴隷商人が信頼できると言うのもおかしな話ですが・・・」
「確かにな…まぁ、頼んでみない事には何とも言えないが……」
「そうですね」
村長は新たな野望に燃え、その為に誓約書を作成する。
二人はそれを受け取ると、村長の家を後にした。
今度は商会に顔を出さねばならないのだ、行動は迅速に起さなければならない。
「どんな奴隷を先に買うかが問題だな」
「解体作業に従事していた人を優先しましょう。後は大工か土木作業が得意な人でしょうか?」
「そらまた、何でだ?」
「解体作業がはかどらないと資金が稼げませんし、新しく奴隷を買うにしても住む家が無ければ困るでしょ? 最初は簡単な生活できる程度の飯場を作って、彼らにはそこで共同生活をして貰いましょう」
「成程…そんでその間に家や畑を広げて行くんだな」
「住む場所が無いと奴隷達も不憫ですよ……幸いにも資金繰りは何とかなりますし」
「アムナグア様様だな…村長が変な真似をしなけりゃいいが……」
この村で息絶えたアムナグアの恩恵は予想以上に大きかった。
しかしながら、この村には無駄に金を使う狂人がいる。
その所為でいざと云う時の大事な村のヘソクリを、よりにもよって黄金の便器に使われてしまった。
この村は身内にも油断が出来ないのである。
「そう言えば…村長、やけにあっさりと誓約書を書いたな…」
「きっと、新たな信者を獲得できるとでも思ったんじゃないですか? 信者が増えれば後は信仰を広げるだけですし、村長はまだ懲りてないようですね……」
「あの馬鹿騒ぎがまた起こると言うのかよ……勘弁してくれ……」
「村長が一人だけとは限りません・・…第二、第三の村長が現れたりして……」
「怖ろしい事を言うなよ……一人だけでも手に余ると言うのに…」
既に村長はGの付く何かと同類にされていた。
新たな脅威に頭を悩ませながらも、二人はボルタク商会とイモンジャ商会の臨時支店に足を向けたのである。
フィオとマイアはセリスに調合を教えるべく、自宅のリビングで調合素材や道具を広げている。
セリスは真剣な表情で薬草を見詰め、その調合方法を覚えるべく真面目に取り組んでいた。
どこぞの変態の需要が必要なくなったため、この村の問題は一つ解決したのだが、調合は想像以上に難しく同じ回復薬でも作り手が異なればその効果にもバラつきがあった。
所詮は資金不足を補うために覚えた付け焼刃であり、そう云った意味で安定した効能を保持していた変態は、腕だけは良かったと言えよう。
この村の冒険者達は錬金術を極めるべく、日々切磋琢磨しているのだった。
「薬草はこんな感じでいいんですか?」
「そうですねぇ、もう少し磨り潰した方が良いかも知れません……」
「薬草と一口に言っても色々種類はあるわよ? 同じ効能を持つ【クサヨモギ】や【アオジミ草】何かでも同じ薬を作れるし、効果を高めるために入れる【アオドク茸】と【ミジンカズラ】等があるから」
「へぇ~~この村の冒険者は皆錬金術を憶えているんですか?」
「大半が簡単な回復薬を作れるわよ? 中には錬金術にハマって本気で目指す人もいるみたいだけど」
「調合方法なんてどこから……エルグラード王都の学術院でしか学べないと聞いてましたけど、凄いですねぇ」
「錬金術を教えてくれたのはセラさんですよ? それから皆さんが全員で始めて、今では皆さんで色々相談しながら作っています」
「えぇっ!? セラさんが広めたんですか!?」
錬金術は、そもそも特定の機関でなければ覚える事は出来ない。
その最先端の技術を学ぶべくその門戸を叩くのは裕福な家層か、あるいは貴族や王族ぐらいである。
一介の冒険者風情が錬金術を覚えるのはそもそも不可能に近く、仮に錬金術を覚えた者が居ればどの商家からも引く手あまたであり、職にあぶれる事は無く安定した収入を見込める。
そうなるとセラの存在はセリスの目から見ても規格外であり、その凄さに驚嘆するレベルであった。
「凄い人だったんですね……僕達とそんなに歳が違わないのに…」
「凄いんですよ、セラさんて!!」
「凄いと言えば…ヴェルさんて何者なんですか? セラさんの知り合いなの話わかりますけど、見た目以上に非常識な力を持っていますとね? 馬鹿でかい戦斧を振り回していましたし……」
「「・・・・・・・・」」
「どうしたの?」
流石にヴェルさんの事に関しては説明は難しい。
以前はセラが倒してその心臓を食べた事から、同化してしまったと云うあやしい説明を受けていた。
しかも声だけで話をしていた事から、その話が本当の事だと信じていたのだ。
そのヴェルさんが突如として現れ、今では居候を決め込んでいる。
セラも驚いていたようで、このヴェルさんの正体はいまいちよく分からなくなってしまった。
「「セラさん(姉さん)が言うには、〝この世界で最も出鱈目な生き物〟だそうです」」
「出鱈目な生き物って……一応人ですよね?」
「「・・・・・・・・」」
「・・・・・・どうしたんですか? 僕、何かおかしい事言った?」
「人の事をあれこれ詮索するのは、如何なモノかのう」
「おぉうっ!?」
噂をすれば影。
いつの間にかそこに居るヴェルさんにセリスは驚いた。
「あ、ヴェルさん! お早うございます」
「もう直ぐお昼ですけど……良く眠れますね」
「前は洞窟の中で蹲って寝ておったからのぉ~ベットの中は実に快適なのじゃ♡」
「……洞窟?」
「気にするでない。ときにフィオや、朝食は出来ておるのか?」
「今、温めますね」
「すまぬのう」
まるで何処かの御姑さんの様だ。
ヴェルさんはすっかり人間の生活に慣れ、ここでの営みを満喫している。
もともと人間に興味を持ち、人の生活を見てみたいと思っていたヴェルさんは念願が叶い、自由に人との生活を謳歌していた。
最強の魔獣もこれでは只の居候である。
「ヴェルさんは回復薬とかは作らないんですか? 冒険者なら必需品なんですけど」
「作るのはセラに任せておる。我はやった事が無いのでのぅ、変な物を作り出してしまうやもしれん」
「でも、覚えておくと便利ですよ? いざと為れば売れますから」
「其処まで言われると何か作ってみたくなるのぅ……マイア、我に教えて欲しいのじゃが、良いか?」
「いいけど、変な事はしないでよ? ヴェルさんは何仕出かすか分からないから……」
「信用無いのぅ……我とていつも変な事をしている訳ではなおぞ?」
「変な事をしている自覚はあったのね……驚きだわ……」
「失礼なのじゃぁ!!」
セリスに促されやる気を出したヴェルさんは、早速回復薬の製作に挑戦し始めた。
それが悲劇の始まりになるとも知らずに……
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「これを混ぜれば効能が上がるのじゃな?」
「そ、それは違います?! 【ミシバリ草】の粉末は痺れ薬ですよっ!!」
「ならばこれで中和すればよいのじゃ!」
「それは、【ノタウチの木】の皮、猛毒ですよぉ~~」
「じゃぁ、この毒消し薬を混ぜて毒を消すのじゃ!」
「な……なんか………アヤシイまでにヤバい色になっているんだけど……」
ヴェルさんは人の話を聞かなかった。
一応、薬の素材は覚えている様なのだが作業工程が適当で、作り出される薬品はアヤシイまでに毒々しい紫の色合いに変色して行く。
火も使っていないのに何故か泡立ち、熱を持ち始めているのか湯気まで出て来ている。
明らかにヤバい方向で化学反応が起きている証拠である。
「マイアさん……コレ…何かヤバくね?」
「もはや何が出来ているのか分からないわね……逃げるべきだと思うわ……」
「……爆発…しませんよね?」
「ここで、【ハバネロ】投入じゃ! ノッテ来たのじゃ、何が出来るか楽しみじゃのぅ」
「「「!?」」」
変にテンションが上がって来たヴェルさんが、次々にいろんな物を投入し始める。
薬物はもちろんの事、調味料やら狩りに使うアイテムまでもがビーカーに混入されて行く。
もう回復薬では無い、得体の知れない何かが出来上がり始めていた。
「ヴェ、ヴェルさん? それ以上は止めた方が……」
「色が…どぎつい訳の分からない色に変わってます…これ以上は危険……」
「皆さん、逃げましょう! 嫌な予感がしますぅ~~……」
「ここで必殺の【爆魔石】を投入なのじゃあぁっ!!」
「「「何ですとぉ―――――っ!?」」」
結果から言おう。
爆発は起きなかった。
しかし、爆魔石を混入した瞬間に濃緑色の煙が吹き出し、瞬く間にリビングを覆い尽して行く。
得体の知れない煙を吸っては為らないと、マイアはフィオ達に指示を出し、匍匐前進をしながら脱出を測る。
のちに彼女達が目を覚ますのは、【マッスル亭】のベットの上の事であった。
「じゃぁ、頼んだぜ。あんた等の事は信用しているからな…」
「任せてください。少しでも良心的な奴隷商を手配いたします」
「うちは奴隷商と関わった事話無いですが、何とか手配してみましょう」
「すまねぇな、俺達もこんな事に為るとは思わなかったんでなぁ、商人の伝手を頼るしかねぇんだわ」
「いえ、お互いに良い取引をさせて貰ってますからね。これくらいは何てことありませんよ」
ボルタク商会とイモンジャ商会の臨時店舗に向かったボイルとセラは、村の現状とか以前の為に奴隷商と取引するべく、両商会に繋ぎを付けて貰う事にした。
両商会は快く引き受けてくれたようだが、まだどんな人たちが連れて来られるか安心できない物が有る。
村の改革はまだ始まったばかりなのだから。
ここで少しこの世界の事を説明しておこう。
この〝名も無き世界〟はセラこと優樹がハマっていたゲーム【ミッドガルド・フロンティア】のベースとなった世界である。
この世界の殆どが魔獣と呼ばれる獣達の生息する楽園であり、人を含む僅かな人種は限られた土地で細々と生き残っていた。
しかし、この種族の中で人族が国を発展させ、やがて開拓時代に突入したのである。
その後、ドワーフ族や獣人種が加わり、他にも数は少ないが多くの種族が参加し、最近になって古代の血を引いた神族の亜種である半魔族が加わった。(半神族は覚醒遺伝の亜種)
エルフ族は未だに中立を決めているが、彼等が加わるのも時間の問題であるだろう。
この世界は激動の時代の一歩手前に来ているのだった。
開拓事業が進むと、当然ながらそれに失敗する例も出て来る。
多くの開拓者は国の助成金で村を構築し、そこを起点に発展して行くのだが、正直に言えば助成金とは名ばかりであり、実の所は借金を背負わされるのである。
失敗すれば借りた金を返さねばならず、その結果として奴隷商と言われる商売が成り立つようになった。
若い男達は労働力として、女性達の多くは売春婦として身を落とす事に為るのは、何処の世界でも似たような物である。
セラもこの話を【神】から聞いた時に、『現実って、世知辛いんだね……』と呟いた。
そんな訳で、この世界での奴隷の商いは真っ当な物として認識され、その御蔭でこのロカス村は飛躍的に大きくなるきっかけを得る事に為る。
本当に現実は世知辛い……
「これで何とかなりそうですね」
「奴隷商人が来ない事には何とも言えんがな」
「家族全員と云う条件が有りますからね。まぁ、何とかなるでしょう」
「まぁ、始まっちゃいねぇわけだしな……考えても仕方ねぇか」
一仕事を終え、二人は村の集落を直線で過る村道を歩いていた。
「この辺りも建物が増えましたねぇ~」
「ようやく今迄の苦労が実った……長いような短いような変な気分だぜ…」
「これからですよ? 増々忙しくなりますよ」
「そう願いてぇもんだ……」
集落には建物が増え、新たにこの村に移り住んだ家族も何組か存在する。
多少なりとも賑やかになって行く光景はボイルには感慨深く、少しずつ狩って行く村の姿を見詰め無言で歩いている。
セラはその横でやはり無言でついて歩くのだが、そんな彼等を嘲笑うかのように騒ぎは突然起こるのだった。
「…グッ!? グゲェエェエェェッ……」
「・・・く、苦しぃいぃ……助けt………」
「な、なんだぁ!? 何が起きてやがる!!」
「テロっ!? まさか、毒でも撒かれたのぉっ!?」
其処は地獄の様だった。
激しい嘔吐感と呼吸困難に陥り、苦しみ悶える村人達の姿が在った。
僅かに感じた異臭と目の来る刺激から、セラはすかさず【オールガードマスク】を装着し、ボイルに指示を飛ばす。
「ボイルさん、オールガードマスクの所有者を緊急招集!! 直ちに住人の保護を優先させてください!!」
「お、おぅ……」
「あと、マスクを持っていない方は、被害に遭った方の救護を行ってください。早くっ!!」
「わ、わかった。直ぐに手配する!!」
「行動は迅速にっ!! 僕は住民の保護に廻りますからっ!!」
指示を出したセラは再びベイダーさんに為り民家へと駆け込み、住人を救出し始める。
ボイルは直ちに冒険者を集めるために動き出した。
ロカスの村に再び警鐘が鳴り響く。
集まった冒険者達はマスクを保有する者達が直ちに民家に入り、住人を助け出し、他の者は回復薬や解毒薬を駆使して治療に当たって行く。
彼らの行動は迅速であった。
村外れに集められた人達は苦しみ悶え、其処は正に野戦病院の様相となって行く。
「ヒデェな……こりゃ………」
「何が起きてるのよ……」
「知るかっ! それよりも急患がまた運び込まれたぞ……」
「解毒薬が効いているみたいだから、毒を撒かれたようね……」
「誰が・・…なんのために………」
「今は原因よりも救護が先だ。手を動かせ!!」
彼等が覚えた錬金術は、こうした状況に大いに役に立っていた。
一人一人が救護に廻り、自作の解毒剤が効果を表すと安堵の息を吐く。
犠牲者の命を握っているのは今は彼等であった。
冒険者達は必死に治療に当たるのだった。
セラを含む数名は他の犠牲者を探すべく一軒一軒各家を廻り、被害者を運び出して行く。
「粗方救出は成功しているみたいですね」
「後は原因を突き止めるだけか……この悪臭は何処から発生してんだ?」
「さてねぇ・・…嫌な予感はしてるんですけどね………」
セラ達は悪臭の原因を探すべく更に探索を続けた。
幸いこの悪臭の原因である煙には濃緑色の色が着いており、この煙の色が濃い方向に向かえば原因の元に辿り着くと踏んだ彼等は、より色合いの濃い方向に足を進める。
そこでセラは道に倒れている二人の少女を発見する
「フィオちゃん!? マイアちゃん!?」
慌てて二人に駆け寄り、マイアを抱き上げる。
「マイアちゃん!! しっかりして、マイアちゃん!!」
「……うぅ………姉さん…」
「意識が有る、良かった……」
「…うぅぅ……犯人…は……ヤ…ス・……」
「何でそんなネタを知っているのぉっ!? ちょ、マイアちゃん!!」
何やら意味深なネタを呟いたマイアは、そのまま気を失う。
仕方なくセラはマイアを他の冒険者に預け、フィオの様子を調べるために抱き上げる。
「フィオちゃん!! 大丈夫っ!? 意識はあるっ!?」
「……綺麗な川が・……お花畑が見えますぅ~~・………」
「こっちは深刻な事に為ってるぅっ!?」
「…貴女は誰ですか?……えっ? おばぁちゃん?………御婆ちゃんは生まれる前に死んだはず……」
「ヤバイっ!! 死者と対面してるぅっ!?」
「あの川の向こうはもっと綺麗な所なんですか?………行きます!! と言うか、逝ける!!」
「逝くなぁ―――――――ッ!! 帰ってこれなくなるよ、フィオちゃんっ!!」
フィオは黄泉の川を渡ろうとしていた。
かなり危険な兆候である。
「……あちらから眼つきの鋭い男性の方が…えっ? 私、生きてるんですか?」
「………誰と会ってるの? フィオちゃん?」
「……貴方はいったい……裁判官の副官をしているんですか?……凄いですねぇ~……」
「やんごとなき御方と会話してるっ!?」
「帰り道を案内してくれるんですか?…・…ありがとうございます………惜しい………」
「何で残念がるのさっ!? それよりも、ありがとうドS男爵様ぁ――――ッ!!」
フィオも取り敢えず大丈夫そうである。
彼女は何とか戻って来られそうだ……
「先生…こっちにも一人倒れてたんで連れて来たんだが……」
「セリス君っ!?」
「…ガチムチの……ガチムチのオネェが……僕のお尻を狙って………」
「……・・・くっ…」
「何で泣いてんだ? 先生……」
セリスは悪夢に魘されていた。
その心に刻まれたトラウマの深さに、セラは思わず涙ぐむ。
「と、これで全員かな? 命に別状が無くて何よりだけど……」
「いや、先生の連れの小さいのの姿が見えねぇぞ?」
「アレは殺しても死なないから大丈夫。フィオちゃん達を連れて行ってくれますか?」
「……り、了解…先生はどうすんだ?」
「原因の大本を何とかするつもり、後は任せて」
「…わかった。じゃぁ、任せた」
村の冒険者達と別れ、セラは原因を確かめるべく煙の立つ場所へと進む。
矢張りフィオの家から濃緑色の煙が発生していた。
「嫌な予感的中……大本はあのビーカーの中身か…」
セラは皮の袋にビーカーの中身である液体を開け、しっかりと密封すると、袋は次第に膨れ上がり風船のように膨らんで行く。
それを窓から放り投げると、地面に落ちる事無く浮力で空高く浮かび、風に流されて飛んで行った。
「……これで良し…後は換気を良くして…ア…?」
そこで初めて床に倒れ込む幼女の姿を発見した。
心配はしていなかったが、取り敢えず様子を確認する事にする。
「ヴェルさん、死んでる?」
「……うぅ…」
「生きてたか……そう簡単に死ぬはずも無いか……」
何故か心底残念がるセラ……ヴェルさんの扱いが最近酷い。
「…ぱ……」
「ぱ?」
「…パ……〇イオ・ツゥ先生………チチが…乳が揉みたいです……」
「そっちぃ!? 亀の仙人とかじゃないのぉっ!?」
「……死ぬまででよい………思う存分、心の行くまま…乳を・・揉みしだき・・た…かった・……」
「・・・・・・・・・」
無言でヴェルさんを担ぎ、スコップを片手に村の外れへと向かうセラ。
其処で穴を掘り、ヴェルさんを埋葬(生きたまま)するのであった。
こうして【ロカス村異臭事件】は幕を閉じる事と為る。
余談だが、エルグラード王国の王城で原因不明の異臭騒ぎがあった。
幸い死者は出てはいないが、七日間もの間頭痛と吐き気に襲われ、政治中枢は麻痺する事に為る。
その後、何度も調査隊を組まれ汲まなく調査したのだが、結局原因を解明するに至らなかったと言う。
城の中庭で敗れた皮の袋が発見されたのだが、事件との関わり無しとされ、この事件は時代の闇に葬られる事と為る。
遠く離れたロカス村が事件が発端と云う事を知らずに………
狩場を広げる話を書こうとしたのですが、どうも予定が狂いました。
風邪を引いてからと云うもの頭が中々働きません。
じっくり行きたい所です。
あ~マオニンの方が進まねぇ~何書こうとしてたのか忘れてるぅ~~やべぇ……




