瀬良兄妹の日常風景 ~妹は見た 商店街のあやしい人々~
今回は地球での日常です。
瀬良真奈は不機嫌だった。
その原因は視界の先に居る実の兄、瀬良優樹にあった。
優樹は母親と台所に立ち、他愛のない会話を交わしながら調理を手伝っているのである。
別にそれが悪いと云う訳では無い。
家庭が円満である事は良い事だと思うし、日々平穏に過ごせるのであれば其れは幸せな事であろう。
しかし、それでも我慢できない事が有るのだ。
見た目が美少女の兄が母親と料理をしている。
それはつまり、男である優樹に、自分が女子力で負けているという事実だ。
昔からこの兄は、妙にそっち方面を器用にこなすのである。
編み物をやらせれば行き成りセーターを編み上げ、料理を作らせれば凄く美味しい。
掃除や洗濯も自分がやるより遙かにきれいに仕上げるのである。
これで性別を言わなければ、完璧な美少女と言われても疑う事は無いであろう。
それ故に腹ただしいのである。
「・・・・・兄貴・・・・」
「な~にぃ~? 真奈ちゃん・・・・」
「・・・・兄貴、本当に男?」
「そうだよ? 何なら今晩一緒にお風呂に入る?」
「ブッ―――――ッ!?」
まさか、そう切り返してくるとは思わなかった。
最近の優樹はどう云う訳か手強くなってきているのだ。
この間まではムキになって否定するところを、最近ではアッサリ躱される事が多い。
其処が猶更腹が立つのだ。
「あらあら、ユウちゃんてば大胆ねぇ~~半年後には母さん、お婆ちゃんに為ってるかしら?」
「そうなるかどうかは真奈ちゃん次第かなぁ~~ 僕は嫌がる事はしたく無いんだよ?」
「まぁ、ユウちゃんてば紳士なのね♡ マナちゃん、がんばって!」
「何を頑張るのよっ!? 近親相姦なんて冗談じゃ無いわよっ!!」
「大丈夫っ♡ お母さんは理解あるから、かわいい赤ちゃんを産んでね♡」
最近では自分が弄られるようになって来ている。
そうなると心的負担は大きくなり、倫理観の崩壊を招きそうな危険な状態ではないかと思えてならないのだ。兄の優樹はどこ吹く風とばかりに知らない顔をし、真奈はその異常な会話を一身に受ける羽目になる。
ここに来て真奈は、兄をからかい過ぎて逆に敵を作ってしまったのではないかと考えるようになっていた。孤立無援の状況が最近の日常であった。
「朝からにぎやかだな、平和で何よりだ」
「父さん!?」
珍しく父親が家に居た。
何の仕事をしているのかは知らないが、少なくても其れなりに責任のある立場についている事は話に聞いた事が有る。その父親も、世間一般的に少し斜め方向の常識のズレが有り、時々とんでもない論理を熱く語る事が有り、その異常とも言える暴論に頭を悩ませる事も暫しあるのだ。
実の親である筈なのに、なぜか宇宙人と会話している気になるのだった。
「何だ? とうとう優樹と一線を越える事にしたのか? 喜ばしい事だ」
「喜ぶのっ!? いや、おかしいでしょ!! 兄妹なのよ、血が繋がっているのよっ!!」
「それがどうしたと言うのだ? 馬鹿馬鹿しい。以前にも言ったであろう、常識などとは人が作り出したまやかしだと、そんな不確かな物に縛られるなど愚の骨頂と云う物だ」
「兄妹でそんな関係になるのがおかしいて言ってるのよっ!! 結婚できる訳じゃ無いのよっ!?」
「お前こそ何を言っているんだ……」
聞き分けのない子供を諭すかのように首を横に振り、何故か可哀想な者を見る様な目で見られるのが凄くムカついた。そんな真奈の心境を無視して父親は暴論をぶちまける。
「いいか、兄妹で結婚が出来ないのは法律上の問題であり、別に恋愛自体が禁止されている訳では無い。人の感情など法律なんかで割り切れるも筈もなく、また自分の儘為らぬ思いに苦しむ原因の一つになりかねない不完全な代物だ。そんな不確かな物で純粋な愛が穢される事事態間違いであるし、そんな物で燃え盛る様な愛を縛り付ける等とは言語道断! 下らない倫理観など男と女の愛の歴史に比べれば、所詮付け焼刃程度の些末なモノなのだ。人目をはばかる様な後ろめたい禁忌と言う冒涜的表現を生み出した悪因であり、そんな訳の分からない物に振り回されるくらいであるなら、自分の心の儘に生きる事の方が大事なのではないか? 不純だの、背徳だのと蔑むような奴等は、所詮その程度のさもしい心根な連中である証であり、寧ろ下らない倫理観に苦しむ者に理解の手を入れる寛容さのみが人として素晴らしいと私は思う。故にお前も下らない法律などに縛られず、思う様な愛の道を進むがいい」
「……アレ? あたしがおかしいの? 常識的な事を言っている気がするんだけど…あたしが間違っているの?」
「法律で禁止されているのは結婚だけだ、兄妹で愛し合う事事態は禁止されている訳では無いぞ?」
「それが間違ってるって言ってるでしょおっ!?」
「何故だ?」
「そ、それは……交配による遺伝子の異常とか……種族の劣化とか……」
「あくまで繰り返す事で起こる異常であろう? 一度や二度で如何こうなる訳ではあるまい?」
「・・・・・・・・」
異様なまでに理解のある両親。
ある意味では凄く頼もしいのではあるが、一般常識とはかけ離れている事は確かであろう。
少なくともこの親に口で勝てる気はしない。
人間諦めが肝心と、真奈はテーブルに着き朝食を待つ。
程無く母と優樹が朝食を運んでくるのだが、その姿はどう見ても母と娘にしか見えない。
何とも遣る瀬無い気持ちがマナの中で渦巻いていた・・・・・
「所で優樹、避妊はしっかりとしてるのか?」
「「ぷぅー――――――――――――――っ!?」」
「二人とも仲良しさんねぇ~~♡ きっと幸せになれるわよ?」
「母さん、幸せは、なる物では無い。努力する物だ」
「うふふ、でも〝家族そろって幸せ〟って言葉お母さんは好きよ?」
「私もだ、母さん・・・・・・」
「「ゲホッ!・・・・・・ゴホッ!・・・・」」
リビングに両親の放ったピンク色の空気が充満する中、二人は仲好く咳き込む。
「行き成りなにを言うのさ、父さん・・・・・」
「うむ、可愛い娘が何処の馬の骨に付き纏われるかもしれんからな、今の内にお前に手を出してもらおうと思ってな」
「僕は真奈ちゃんを無理やり襲う気はないよ? 万が一そうなっても、出来るだけ優しく行きたいなぁ」
「その心がけは分かるが、真奈もまだ大人には為りきれていまい。世間には碌でも無い男が腐るほどいるからな、騙される可能性も十分に在り得る。ならば兄であるお前に手籠めにして貰った方が百倍安心だ」
「その信頼は嬉しいけど、真奈ちゃんの気持ちも大事だと思うし、無理強いは出来ないよ」
「そうよねぇ~ この子、男の子にはきつく当たりそうだし、無理やりは逆効果かも・・・・・・」
「・・・・・・あたしが彼氏を作るのがそんなにおかしいの?」
「「「いるの(か)? 彼氏」」」
「・・・・・・・・・」
今迄近くで慌てふためいていた実の兄が、最近無性に遠くに感じられる。
真奈は自分が南海の孤島に一人で取り残されている様な錯覚を覚えた。
助けは来ない……今やこの家は宇宙人に侵略されたも同然である。
何処かズレた非常識な人間しか居なかった。
・
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・
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「どうだい優樹ちゃん、この大根は新鮮だぞ?」
「おぉ~~立派ですねぇ、一本貰っても言いだすか?」
「あいよ! 毎度ありぃ~サービスにジャガイモ一袋おまけしとくぜ!」
「ありがとうございます」
現在、真奈と優樹は二人で商店街で買い物中。
八百屋の親父は大根を持つ優樹を見て少し顔を赤らめていた。
何を想像していたのであろうか?
「兄貴・・・・」
「なに?」
「八百屋の親父、何かアブなくない?」
「そう? いつもサービスしてくれるいい人だよ?」
「……ホントにそうなの?」
「人を疑うのは良くないよ?」
「そう、なんだけど……なんか釈然としない物が……」
真奈が後ろを振り返ると、八百屋の親父は顔を背けた。
『……兄貴を見ていた?………まさかね……』
何か不穏な物を感じながらも、真奈は取り敢えず優樹と買い物を続ける。
「……お、おう、優樹ちゃん、どうだい今日は良い肉を仕入れたから美味いから揚げが揚ってるぞ?」
「美味しそうですね、これは試食ですか?」
「あ、ああ、楊枝が此処に在るから使ってくれ!」
「ありがとうございます、どれどれ……あ、美味しい♡」
「・・・・・・・・」
肉屋の兄貴の顔が少し赤いのが真奈は少し気にかかる。
「う~~ん……唐揚げ20個包んでくれますか?」
「お、おう……まいど・・・・」
唐揚げの入った紙袋を受け取ると、エコバックに入れその場を後にする。
肉屋の兄貴の態度が気になり後ろを少し除くように振り返ると、肉屋の兄貴は楊枝を見詰め、それを口にする。
『……アレ…兄貴が使った楊枝じゃないよね? ……偶然よね?……』
背中に悪寒を感じながらも買い物を続ける。
「お、瀬良じゃねぇか、買い物か?」
「見れば分かんでしょ、何か用?」
不意に声を掛けられて見れば、そこには同級生の少年がいた。
昔は良くこの少年に苛められていたのだが、中学生に為ってからは偶に話をする程度には関係を修正出来ていた。とは言え、あまり話したくない相手ではある。
因みに彼の家はこの商店街にあるお好み焼き屋であり、中道からでも商品を買えるような店の構造をしていた。その店の中から真奈に声を掛けて来たのである。
「真奈ちゃん、女の子なんだからそんな言い方はしちゃ駄目だよ?」
「せ、瀬良先輩! お、お久しぶりっス!!」
「久しぶり、あれ? 今日は店番なんだぁ」
「この時間は良く、うちの生徒が来ますから、母さんは奥で仕事中っス!」
「そうなんだぁ~ 忙しい事は良い事だよ♡」
「そ、そうっスね、あ、これ俺が焼いた焼きそばなんスけど、試食してくれませんか?」
「試食?」
「何分初めてっスから、意見が欲しいんス!」
「いいよ、仕事熱心だね」
「は、はいっス!!」
彼が用意した小皿に、少し焼きそばが乗せられていた。
優樹は手渡された割り箸で焼きそばを口に入れ、その味を確かめるように噛み締める。
そんな事より、真奈はこの少年の顔が真っ赤に染まってる方が気に為る。
「……あたしには無いの……?」
「変な味のポテチを食うような味音痴に食わせる焼きそばはねぇ!! 何だ、あの【バハームト・サンゲロス南海の怒り風味、狂気彩るアトランティスのゴゴババ味】てのは、意味分かんねぇよ!!」
「あの味が分からないなんて……子供ねぇ~」
「分かりたくもねぇよっ!? 食った奴等が救急車で運ばれたじゃねぇか!!」
「ええっ!? 真奈ちゃん、あの訳の分からないポテチ、人に食べさせたのぉ!?」
「喰った奴等全員、紫の顔して口から血の泡吹いてた……お前、何で平気なんだよ………」
「……真奈ちゃん………何て事を……」
「ひ、人を犯罪者を見る様な目で見るのはやめてよ、あの六次元の味が分からない方がおかしいのよ!!」
「「〝六次元の味〟て時点で、人が食べる物じゃねぇだろ!!」」
変わった味のポテチを馬鹿にされ、真奈は酷く憤慨していた。
そんな彼女を無視して優樹は焼きそばの感想を述べる。
「ソースの味は良いんだけど、ソバに上手く絡まってないね、味にムラがあるから気をつけて。後、野菜はもう少し火に掛けた方が良いかなぁ~生焼けの野菜が結構あったよ?」
「そ、そうっスか……」
「もう少し経験を積んだ方が良いかな、客商売だから評価は厳しいよ?」
「勉強に為ります。ありがとうございますス、先輩!!」
「じゃ、僕達は行くね? お仕事頑張って!」
「ハ、ハイッ!!」
優樹と真奈達はお好み焼き店を後にする。
嫌な予感がして真奈が振り返ると、少年が割り箸を懐に隠すのが見えた。
『……ア、アンタ、その割り箸をどうする気!?………何に使うつもりなの!?』
未知なる世界を垣間見た気がした真奈の背には、氷点下のブリザードが吹き荒れていた。
「真奈ちゃん、少し本屋に寄って行くけどいい?」
「……良いけど?」
買い物のついでで優樹が書店へと足を延ばす。
変な態度の商店街の住人に辟易しながらも、気分転換には良いのではと思い了承した。
其処はいたって普通の書店であり、おかしなモノは……いた……
店員の様だが、何処か暗い不陰気の気弱そうな青年である。
「・・・・・・・・」
嫌な予感然しなかった。
「あれ? 俊だ、お~い!」
「ん? 優樹か、買い物帰りか?」
「そうだけど、俊は?」
「俺か? こいつを買いに来ただけだ」
優樹の幼馴染【安藤俊之】が手にした本は、【巨人文明 ~巨人は確かに存在した。知られざる神話との関連と検証~】だった。
類は友を呼ぶ、流石に優樹の親友である。
「あ、もう発売してたんだぁ~ 後で感想聞かせてね」
「読み終わったら貸してやるさ、どうせ近所だしな」
「・・・・・・・・・・」
「優樹妹もいたのか、久しぶりだな」
「俊にぃ・・・その言い方やめて・・・・・・」
「そうは言うが、昔からこの言い方だしなぁ、今更遅いとは思うが?」
「名前が有るんだから、そっちで呼んでよ……」
「分かった、真奈、これでいい…どうした?」
名前を突然呼ばれ、真奈の顔は真っ赤に染まる。
「いい、行き成り名前で呼ばないでよ、びっくりするじゃ無い!!」
「名前で呼べと言ったのは真奈の方だが、おかしかったか?優樹」
「おかしくないよ? どうしたの真奈ちゃん」
「な、なな、何でもないわよ!! ほら、さっさと本を探してこい!!」
「ちょ、押さないでよ、真奈ちゃん?」
「?」
残された俊之は、真奈を不思議そうに眺めていた。
優樹は目当ての書籍を手に取り、それを大事そうに抱えるようにしながら棚を見上げていた。
既に七冊近くある本は、抱えるとそれなりの厚みが有り、ちょっとした事で床に落としそうである。
最後の本を取るべく背伸びをしながら、優樹は必死に本を棚から取り出そうとするも、背が低く手が中々届かずに取る事が出来ないでいる。
不本意にも真奈はそれを見て『カワイィ…』等と思ってしまう。
漸く本を取る事が出来たのだが、今度は抱えていた本を床に落としてしまった。
運悪く棚の前に重ねられた書籍も崩してしまい、気まずい空気が流れる。
「……あ…」
「何やってんのよ、ドンくさいわねぇ~……」
先程、カワイイ等と思ってしまった手前、強く出る事は出来ず呆れた振りをして誤魔化していた。
暗そうな青年が慌てて本の回収を手伝ってくれる。
根は良い人の様だ。
「大丈夫ですか? 拾いますね…」
「あ、すみません……僕も拾います!」
慌てて優樹も本を拾い始める。
本の回収の最中、優樹の手に青年の手が重なり合う。
「…あ…」
「す、すみません!え、ええと、此方の本は……」
「あ、それは僕が買う本です」
「え? あ、ああ、そうですか、すみません・・…」
「・・・・・・・・」
真奈が見たその本のタイトルが【必殺 The・刀工 ~これでアナタも必殺鍛冶職人~】である。
何が必殺なのか、そもそも兄が何を目指しているのかが分からない。
彼女から見ても両親に匹敵する謎の人だった。
「すみません、手伝ってもらって」
「い、いえ、仕事ですから……あ? 店長!! レジに廻ってください!!」
彼の先にはレジの前にお客さんが二人ほど並んでいた。
直ぐに店長がレジに入るが、どう見ても本屋の店長には思えない。
ビニール製のエプロンに長靴姿、何処かの魚河岸か鮮魚店の店員にしか見えなかった。
レジでバーコードを読み取る時も『はい。600円、600円、750円、300円……』等と声を上げて金額を並べ立てる。しかも訛声で・・・・・・
そんな店長に呆気に取られる中、本を並べていた店員は店の奥に在るトイレへイソイソと入って行くのを真奈は見ていた。
「……ここ…書店よね………?」
「…間違っても魚河岸で無い事は確かだよ……?」
何か釈然としない物を感じながらも、優樹はレジで支払いを済ませ書店を後にする。
真奈は店員の行動を怪訝に思いながらも書店の奥を見ると、トイレから出て来た青年が実に爽やかな表情で歩いていたのを目撃する。
『…トイレで何が在ったの?……凄い爽やかに為ってますけどぉ!? て云うか、別人じゃん!!』
先程の根暗な青年とは思えないほどの変わりように、真奈は声にならない驚きを感じていた。
しかも美形だった・・・・・・・
『……書店の制服から見ても同じ人よねぇ!?……トイレで何してたのぉ!?………』
青年は優樹が振れた手を眺め、うっとりとした表情を浮かべている。
真奈は今、極寒の南極大陸に全裸で放り込まれたような寒気を味わっていた。
彼はトイレで何をしていたのであろうか……謎である。
「真奈ちゃん? 大丈夫、凄くやつれてるみたいだけど……」
「……聞かないで………何か、色々と変な物を見ちゃっただけだから……」
「そう? 言いたくなったら言ってね、相談くらいなら乗るから」
相談しようにも、全てはこの兄に関わる問題なのだ。
話て良い物なのか憚れる問題でもあり、直ぐにでも忘れたい現実でもある。
・・・・・・実に悩ましかった。
土曜日の昼下がり、二人は近道をするべく公園の中を歩いて行く。
商店街と住宅街を挟むこの公園は意外に広く、きちんと整備され季節の花が彩る比較的きれいな公園であり、春先にはよく近所の住人が花見に来る穴場でもあった。
公園の遊具には幼い子供たちが元気に遊び回り、その周りでは奥様連中が井戸端会議の真っ最中。
あの中の何人がモンスター・ペアレントになるのだろうかと、そんな訳の分からない他愛ない事を考えている真奈であった。
「……もう直ぐ夏よねぇ~」
「そうだね、中間考査と期末テストが近づいて来たねぇ~……真奈ちゃんは大丈夫?」
「嫌な事を思い出させないでよ、馬鹿兄貴!! 考えたくなぁ~~~い!!」
「幻想を抱いちゃ駄目だよ? 現実を直視しないと……」
「……分かっているけど……最近点数が……」
「平均点を出しておかないと補習だよ? 僕は一応余裕が有るけどね!」
「そのドヤ顔がムカつく・・・・・・」
そう、この兄は其れなりに成績が良い。
学内で中の上を常にキープしており、本気で挑めば上位につける実力が有る筈なのに、その気が更々無いのが真奈に取って腹ただしい。
自分が本気を出しても精々中の下なのに対して、この兄の余裕は正直殴り倒したいほどムカついていた。
その余裕が有る時に何をしているのかと思えば、もっぱらひきこもりでオンラインゲームか、ラノベを読み耽っていたりする。偶に意味がわからない様な変な本も読んでいるが、其れさえも余裕の範疇内で収めてるのだから、納得がいかない物がある。
遊んでいる様にしか見えず、いつ宿題なんかをしているのか聞いてみたところ、放課後に俊之と済ませていると回答が帰って来た。
其れもゲームをするためにだけに真剣に取り組んでいるのだ。
知らない所で努力はしている様である。
間違った方向に進んでる気がしないでもないが・・・・・・
公園の長閑な光景に不釣り合いな物を発見し、優樹は困惑していた。
如何にも某ゲームに居そうな行商人が、公園の直ぐ傍の花壇の前で店を開いていた。
時代背景を無視した、良く言えばコスプレ、悪く言えば浮浪者の様ないでたちに、流石に優樹も絶句するしかない。
「あ、今日は来てたんだ、あのオジサン」
「知り合いっ!?」
「ポテチ売りのオジサンよ! ちょっと行って来るわね♡」
「あの危険なポテチ、あの人が売ってたのぉ!? 買うの? あの危険物を買うの!?」
真奈はスキップをしながら、胡散臭い行商人の元へ嬉々として向かう。
広げられたシートの上には複数の鞄が置かれ、その鞄の中には見た事も聞いた事も無いメーカのポテチがギッシリと詰め込まれていた。
「嬢ちゃんか……いいぜ…好きな物を選びな・……」
言葉使いもあやしかった・・・・・・・
「お薦めはなに?」
「……こいつだ、【サイケデリック・エクセレント・ドリーム風 見た事も無い世界へ直行コース あの世界は最高にデンジャラス味】だ。コイツは効くぜぇ……」
「なかなか、おいしそうね? 試食は?」
「ほらよ、試してみな……」
「ポテチの色じゃ無いよねそれ!? 凄く禍々しい紫色なんだけど!?」
「うん、中々珍味♡」
怪しい色のポテチを口にし、しっかり味わう妹。
優樹はただ、得体の知れない何か危険な物を見ているような不安に襲われていた。
「他には?」
「……これだ、【ゲバゲバ百六十分 フィーバー来ないぜ畜生風 有り金スッた上に借金地獄で首吊るしかねぇよ味】これは苦いぜ……」
「確かに苦いよねぇ!? 別の意味で!!」
「この苦味が癖になりそう♡」
「癖になったら拙いでしょ!! 人生お先真っ暗だよっ!?」
「不味くは無いわよ? 結構美味しい♡」
「何処かの芸人さんの過去話!?」
見た目は普通だが、口にするには些か拙い内容のポテチであった。
「最後はこれだ……【異世界転生美少女チート風 何故か女だらけでユリユリ もう男に戻れない泥沼人生味】これは……食えばわかる」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「……これは大味ね、不味くは無いけど……」
「謝れぇ―――――――っ!! それをテーマにしている作家さん達に謝れぇ――――――っ!!」
「なによ? ポテチの味の事よ?」
「狙ってるとしか思えないんだよ、そのポテチ!!」
「兄貴……頭大丈夫?」
「何で可哀想な人を見る目で言うのさっ!!」
「意外と癖になるかもしれないから、全部買うわね♡」
「まいど……」
真奈はアヤシイ味のポテチを購入してご満悦であった。
だが優樹はと云えば意気消沈して『泥沼人生……フフフ・……そうだね…ユリユリ・……フフフ・…』等と俯いたまま呟いていた。
その後自宅に着くと、自室に戻り鍵をかけ、夕食まで出て来る事は無かった。
真奈はリビングでテレビを見ながら首を傾げ、【異世界転生美少女チート風 何故か女だらけでユリユリ もう男には戻れない泥沼人生味】のポテチを口に放り込むのであった。
その日の夜、優樹が異世界に飛んだ事は言うまでもない。
心当たりのある方済みません。
自分の事を書いた積もりが、他方向に飛び火していると思った方
本気で申し訳ありません。
気が付いたらこんな内容になっていました。
しかし・・・・・こんな日常は嫌だ・・・・
親が理解あるのは良いとしても、これはどうかと・・・・・
羨ましいと思う人は居るんでしょうか?
優樹も異世界で精神汚染が進んでいるし……常識人が一人もいない。
レイル? 彼は獲物です……獲物は狩られなければ…
カッコいい彼も書きたいんですが、基本的に主人公気質だし。
リア充は……フフフ……病んでる?
次は狩場を広げるために奮闘するセラを掻きたいと思っています。
予定なのでどうなる事やら……細かい設定で保管できてないですし…
誤字脱字の修正も手付かず……本当にすみません。
お詫び申し上げます。




