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 狩場を拡大する計画が有るそうです ~仕事が暇でも、忙しくとも問題はあるみたいです~

「・・・・・ロックさんが壊れてる・・・・ロックだけに・・・」

「セラよ・・・・それは少しも面白くないぞ? 寧ろオヤジくさいのう」

「ひどっ! でも事実なんだから仕方がなくね?」

「ヒヒヒヒィ~~オチゴトイッパイァ~イ~ウレチィィィィィィ~~~~!!」


 何故こんな状態になったのかは不明だが、既に危険な精神状態になっている事だけは確かである。

 以前とは別の意味でヤバかった。


「ロックさん、楽しそうですねぇ~」

「アレを楽しそうと言えるフィオが羨ましく思えるわ……純粋な事は時として残酷ね……」

「何でそんなに冷静なんですかっ!? アレはどう見てもヤバいでしょ!!!!」

「「「「この村では、あの程度の事は日常茶飯事なんだよ(です)、今更それ程驚いたりしないよ?(せんよ?)」」」」

「僕、何か危険なところに来ちゃったの!? これが日常って、どんな村なのぉ~!?」

「「「変態が多いかな(のう)、でもボルグさん程でも無いから!!」」」

「皆さん良い人たちですよ? そんな言い方失礼ですよぉ~」


 セリスが見てもロックの状態は明らかに異常をきたしている。

 それを平然と受け入れているセラたちの方が余程異常な人種に思えた。

 そんな非常識な人達のいる村に自分が来てしまった事を、今更ながらに戦々恐々するのだった。


「これは…アレを使う他無いかのう……」

「アレかぁ~久しぶりだね、ストックは作ってあるから問題なし!!」

「姉さんは何故あんな薬を作るんですか……?」

「其処にアイテムが有るからさ!」

「アレって何ですか!? 何か、凄く危険な気がするんですけどぉ~!!」


 まるで〝山が有るから登る〟みたいな言い草である。

 セリスの問いかけに応えず、四次元pもとい【無限バック】を漁り、例のアレを探し始めるセラ。

 実に嬉しそうである。


「チャラチャチャン! 【サイケヒップバッドExDエクストラ・デラックス】!!」

「「「パワーアップしてるぅ―――――――――っ!!!????」」」


【サイケヒップバッドExD】

 それは以前使った物を数倍濃縮した危険度MAXのお遊びアイテムである。

 ORGゲーム【ミッドガルド・フロンティア】内においてはその製作レシピは殆ど知られておらず、その効果は瀕死の状態であるユニットをステータスマックス状態で復活させる【エリクサー】並みに強力なアイテムなのだが、その名の示す通り使用すれば80%の確率でユニットが混乱状態で復活する使い道に困るアイテムだ。


 一応回復アイテムの部類に入るのだが、その凶悪なまでの効果とは裏腹に精神崩壊のバッドステータスを与える悪魔の様なアイテムでもあった。

 ゲーム内では主にワザと瀕死状態にして狂ったように踊り狂うユニットを見て愉しんだり、PKを楽しむ連中がマイナスポイントを受けないために使用したりする。(一定のポイントがたまると指名手配される)

 どちらにしても碌な使い道が無いゴミアイテム扱いではあるが、レアな素材をふんだんに使う割に効果が酷過ぎるのだ。一応レア・アイテムである・・・・・(スタッフは何故こんな物を採用したのかは定かではないが、おそらく裏にあの【駄神】が存在している事は確かだろう。)

 因みに錠剤である。


 セラはまるで獲物をしとめるかの如く気配を消し、ロックの背後に回り込むと強制的に彼の口の中に【サイケヒップバッドExD】を放り込み、吐き出さないように口を押さえ、ついでに暴れない様に関節技を掛けて動きを封じた。

 しかも天使の様な満面の笑みを浮かべてである。

 錠剤を飲み込むまで多少もがいたが、やがてロックは口から泡を吐きながら低迷状態で地に伏した。


「ふ~~う♡」

「何でそんな〝いい仕事した〟とばかりに爽やかな笑みを浮かべて汗を拭ってるんですかぁ!! ヤバいでしょコレ、死んだんじゃないんですかっ!?」

「大丈夫だよ、一応回復アイテムだし、死ぬ事なんて無いよ? ……(多分)……」

「今〝ボソッ〟と多分て言いましたよねぇ!? 泡吹いてますよぉ!? 使った事無いんですかぁ!?」

「勿論あるさ、でもその時は同じ場所で一か月踊り狂ってたからなぁ~効果抜群だね☆!」

「メッチャ劇薬じゃないですかぁ――――――――――っ!!!!!」


 セラの行動でようやくセリスは理解した。

 この村の連中は人間的に何処かが壊れている事に。

 セラの行動を止めようとせず、あまつさえ笑いながら見ている時点ですでにフィオ達もおかしい。

 この村に来たことを激しく後悔するセリスだった。


「後悔してる所聞くけどさ……」

「……何です?」

「セリス君。君、ミール村でボルグさんにお尻を狙われるのと、ロカス村で少し頭のおかしい連中と過ごすのと、どっちがいい?」

「うっ!?」


 考えてみればミール村では色んな意味で身の危険が在るが、ロカス村では多少問題が有っても実害が無い分遥かにマシである。仮に在ったとしても精々ジョブの前で筋肉の話をしなければ良いわけであり、これが日常だと言われても自分に火の粉が被らなければ割とどうでも良かった。

【ディストラクション・バースト】の直撃を受けても、平然としている化け物に追いかけられるよりは遥かに天国に思えて来たのだ。何だかんだで非常識なセラに感化されてきていたりする。


「そうですね…あそこに比べれば随分とマシでした……」

「でしょ? 気にするだけ無駄なんだから、そんなに思いつめなくてもいいんだよ。気にしたらそこで人生終了だよ?」 

「……セラさん…僕、何か強く為れそうな気がします……」

「頑張れセリス君、僕は君を応援しているよ……色んな意味で……」

「はい、頑張ります!!」


 ボルグの事を例えで言われ、セリスはアッサリと陥落する。

 あのオネェの存在は、彼に良い意味でも悪い意味でも多大な影響を与えている。

 そんな彼の後ろで倒れていた筈のロックが目を覚ました。

 そして…


「ヒヘへへへへへ……ボクチャンネェ~~ベンキショクニンニナッチャッタァ~ヒヘ、ヒヘへへ……」


 奇声を上げて笑いながら、ロックは涙を流し意味不明な事を言いだす。


「……ぬぅ、これは失敗だったのではないか?……」

「うーん……そうみたいだねぇ~でも……何で〝便器職人〟?」


 困惑する一同を他所に、ロックはただ狂った様に話を続ける。


「ソンチョウガネェ~ボクチンニベンキヲツクッテクレッテ……イヤダッタンダヨォ~~デモサァ~オカシナカオリトロウソクデサァ~キモチヨクナッチャッテぇ~~・・・・・・・」

「これってまさか・・・・・」

「間違いないのう、洗脳された時の話じゃな……」

「洗脳っ!?」


 どうやら【サイケヒップバッドExD】は自白剤の効果を表したようだ。

 ロックの潜在意識の中に隠された語りたくない記憶を呼び起こしたようである。


「ソレデネェ~ボクチンノリノリデェ~キンノベンキヲツクッチャッタ~ウへへへへへ……」

「やっぱりアレ……ロックさんが作ってたんだ……」

「職人気質の男が、よもやあんな物を………辛かったであろうに……クゥ……」

「そのトラウマであんな変な人形を……何て不憫な………」

「ロックさん・・・可哀想・・・・・・」

「僕には意味が分かんないんだけど……この人が悲惨な目に会ったのは分かるよ・・・・・」


 セラを含む全員が涙ぐんでロックに同情している。


「ひへ、ヒヘへ……へへ・・・ん?……俺は・・・何をしていた?……」

「あ、戻った」

「何だお前等、何時の間に作業場に入ったんだ?」

「それはこっちの台詞ですよ、ロックさん変な精神状態になってたんですよ?」

「む、そうなのか? なんか最近忙しくてなぁ~つい嬉しくなって張り切って仕事してたんだが…途中から記憶が無いのは何故なんだ?」

「僕らに聞かれても知りませんよ・・・そんなに忙しかったんですか?」

「あぁ、最近村の連中がこぞって装備を持ち込んでな、休む暇がねぇくらいだ」

「なるほど・・・・・」


 ロックの工房は以前は開店休業状態で、その仕事も農機具の整備以外にする事が無かった。

 しかし、アムナグアの襲撃以降資金面で少しずつ余裕が出来て来た村の冒険者達が素材を持ち込むようになり、やがて一人では手が回らないほど忙しくなっていった。

 だがそれはロックが以前から待ち焦がれた物であり、自分の腕を存分に振るえる状況が嬉しくて仕方が無かった。そのため寝る時間や食事さえも手を抜き、鍛冶作業に全てを燃やして挑んでいたのだ。

 その結果栄養失調や精神の低迷を招き、セラ達が見たあの状態になった。

 暇なら暇で問題が有り、忙しくなった今でも問題が有り、喜ぶべきことな筈なのに喜べない。

 それ程までにロカス村の極貧生活は、著しく由々しきモノだったと言えるだろう。

 現在多少マシには為ったが、それでも人手不足は深刻である。


「あと数人くらいは鍛冶師が欲しい所ですね・・・・・」

「一応知り合いに会ったんで、何人か都合がつくか頼んでみたんだが……先が思いやられるな・・・」

「今日明日如何こうできる問題じゃないですからね、少し休んだ方が良いですよ? 倒れられたら僕らが困りますし・・・・」

「そうしてぇんだが・・・どうも体が疼いちまってなぁ~つい槌を握っちまうんだよ、ガハハハハ!!」

「笑い事じゃねぇ―でしょ・・・・・けど、どうしよ・・・・」

「なんだ、持ち込みか? 別に良いぞ、今なら幾らでも仕事ができそうな気分だ!」

「「「「「お願いだから、休んでください!!」」」」」

「お、おぅ?」


 復活すればしたで直ぐに仕事を始めようとするロック。

 その後何とか言いくるめ、少なくとも二日ほど休養させることに成功した。

 職人魂は今燦然と燃え盛っている。


「んで? 何を持ち込んだんだ?」

「主に、フィオちゃんとマイアちゃんの装備の方でお願いします」

「コレなんですけど・・・・・武器と防具の両方でお願いします……今の儘では装備面で負担になりかねないし」


 マイアの出した素材にロックの目は獰猛な光を宿した。


「アーブガフだとぉ!? お前らが倒し……セラがいるなら当然か・・・・・了解した!」

「あとクラウパです・・・・・私は武器の製作の方でお願いしますぅ。防具は今のままで十分ですから」

「ククク…フィオは武器か…良いモン持って来たじゃねぇか!! たぎってきやがるぜぇ!! 今から仕事にかかるっ、作業場から出て行きなっ!!!!!」

「「「「「その前に休めやぁ、コラァッ!!!!!」」」」」


 鍛冶師のロック。

 ロカス村の職人気質な拘りある職人。

 その燃え盛る職人魂は、自らを燃やし尽くすかの如く熱い。

 武器や防具を作る為なら、我が身すら犠牲にするほど職人としての信念を貫く漢である。

 二日ほど休んだ彼は、結局またノイローゼ状態に陥り、あの危険な薬の世話になるのであった。


 


 

 ロックの工房を後にしたセラ達は、ついでに解体場に足を向ける事にした。

 昨夜なし崩しに討伐したグラカクトスの状況を知る為でもある。

 少なくとも上級者が複数で相手にする様な魔獣である、その素材で作られる装備は駆け出しにとっては破格の防御力を誇る物になるだろう。

 当然売り捌いても相応の金額になる事は分かっているため、駆け出し三人にとっては途方もない資金が舞い込む事も可能である。少なくとも駆け出しが手にするには有り余る金額である事は間違いでは無い。

 売って良し、使って良し、ついでに食って良しの魔獣なのだ。

 

「あらためて見ると凄く大きいですね・・・・・僕らよく無事だったなぁ~」

「そう? アムナグアよりは小さいけどねぇ~」

「アムナグア!? 見た事在るんですかぁ!? どこで・・・」

「何処も何も・・・この村に襲撃して来たのを姉さんが倒したのよ、凄く大きかったわ・・・・・」

「セラさんが倒したんですか!?」

「凄かったですよぉ~一対一で魔法をバンバン撃って……綺麗でしたねぇ~」

「無茶苦茶ヤバい状況じゃないですか!! 何でそんなに暢気なの!? 災害指定級ですよぉ!!!!」

「勝ったんだから良いじゃん。いまさら何言ってんの? 僕もこうして生きてるし、何の問題が有るのさ」

「中々骨の在る奴じゃった……良い思い出じゃのう……美味かったし」

「僕がおかしいの!? 普通じゃないでしょ、どうなてんのこの村ぁ!!」

「「「「気にしたら負けだよ、セリス君。無事なんだから良いじゃん☆」」」」


 声を揃えて言われては何も言えないセリス。

 確かに終わった事であり、既にアムナグアの姿は無い。

 それでも納得できない物が有るが、この村では全く気にも留めていない事だけは確実である。

 ゆえに騒いだだけでは馬鹿を見ると悟るセリス君であった。

 こうしてまた一人、常識人がおかしくなって行く。


「セラちゃん、来てたんだ。夕べはまた凄いモノ持って来たわねぇ~アムナグア程じゃないけど」

「何度も災害指定級なんて戦いませんよ、それでも十分良い獲物でしょ?」

「ほんと、セラちゃんには足を向けて寝れないわねぇ~ いい仕事してるわぁ~」


 解体作業中のイーネが気軽に声を掛けて来る。

 見た目が美人なのだが、体に着いた血液が別の意味の凄惨な現場を想像させる。

 担いだ解体庖丁から血が滴り落ちているのが怖い。


『ひはははは、大物じゃあ~! 久しぶりの大物じゃぁ~~』

『先生は良いモン持って来てくれるぜぇ~! 実に美味そうだぁ~~へへへ・・・・・』

『にく、肉、にぃいいぃぃくぅうぅぅぅぅぅっ!!!!!』

『良い艶してやがんぜぇ~~へへへ……涎が止まらねぇ・・・・・』

『待ってろよぉ~す~ぐにしゃぶり尽くしてやるぜぇ~~ゲヒャヒャヒャヒャヒャ』

「・・・・・・あの人達・・・・・アブナクアリマセンカ・・・・?」


 解体作業をしている職人たちのテンションはあやしかった。

 

「あ~ 何時もの事だから気にしないで、普段からあんなモノよ?」

「普段からあんなんですか!? 怖いですよ!!」

「気にしたら負けよ・・・て、見ない顔が二人いるわね、美少女が二人・・・」

「セリス君とヴェルさんですか?」

「ありゃ? 男の娘だったのかい? そいつは失礼な事を言ちゃったわね」

「なんか、ニュアンス的におかしかった気が・・・・」

「強く生きろ、セリス君・・・・・」

「うわぁ~ん、やっぱり男の娘って言われたんだぁ―――――っ!!」

「良いではないか、男の娘。需要は幾らでもあるのじゃぞ?」

「何の需要!? 僕をそんなジャンルに入れないでぇ――――――――!!びえぇええぇぇぇぇぇん!!」


 セリス魂の叫び。そして号泣。


「・・・・・何だろね、懐かしい物を見た気がするのは・・・・」

「デジャブ―と云うやつでは無いかのう・・・・お主も元は男の娘・・・・」

「ガ――ーン!! 今の状況に慣れちゃってるぅ!?」

「お主も染まって来たのう……フフフフフ・・・・・・・」

「僕のメンタル、ピ――――ンチッ!!」

「ついでにSAN値もピンチじゃのぅ・・・・・早く乙女おとこの子になるのじゃ…ふふふ。僕娘も需要が有るのじゃよ?」

「漢の娘!? ヴェルさん、僕に何を求めてるの!?」

「字が違うのじゃあぁ――――――――!!」

「どちらにしても嫌だぁ――――――――――――っ!! うわぁああぁぁぁぁん!!」


 セラ、魂の叫び。そして慟哭。

 どちらにしても大して変りはない気がするが、セラとセリスはその場で落ち込んだ。


「この子は誰なの? セラちゃんとは親しそうだけど?」

「セラと同郷のヴェルじゃ! 宜しくのう」

「・・・・・・僕より遙かに年上、見た目以上のロリババァです……」

「うそ!? こんなに小さいのにぃ!?」

「……乳をこよなく愛する変態さんでもあります……イーネさんも気をつけて……」

「なぁ!? そんな趣味を持ってるの!? ブッチ以上の色物・……」

「色物言うなぁ―――――――っ!! 我はごく普通の『変態・・・』じゃ!! て、セラ? 何、言葉を被せるのじゃ!!」 

「……見た目は兎も角…変態なのね……セラちゃんも大変ねぇ~~」

「違うのじゃ!! 誤解なのじゃ!! 我はただ『同性とユリユリ』して……別に女子同士で『めくりめく愛のハーレムでお姉様と呼ばれ』たいだけじゃ…て、セラぁ、いい加減に・・・・」

「そう……体が幼女みたいに小さいから、お姉様に憧れてるのね……不憫な子……」

「変な納得されてるぅ!? 誤解なのじゃぁ――――――――っ!! むえぇええぇぇぇん!!」


 ヴェルさん魂の叫び。そして悲哀。

 変態確定され、落ち込むヴェルさん。

 三者三様、心にクリティカルヒットが直撃した。

 事実は小説により奇なり、突き付けられた現実に彼女(?)達のHPは既に0であった。


「お? お前ら丁度いいとこ……イーネ、こいつ等何で泣いてんだ………?」


 解体場に来たボイルがセラに声を掛けようとしたのだが、思い留まりイーネに今の状況を聞く。


「あら? あんた如何したんだい。今日は何時もの会議に出てる筈じゃ?」

「レイルの奴が戻ってこないんでな、代わりにセラを探してたんだが……どうしたんだ?」

「男の子と男の娘と、漢の娘と百合の狭間で苦しんでるのよ……そっとして置いてあげて」

「? 良く分からんが・・・分かった・・・」

「「「そんな纏め方は止めてぇ――――――――――!!!!!」」」


 イーネに止めを刺された三人であった・・・・・・

 彼女達が立ち直るまでには、もう少し時間が必要である。

 ・

 ・

 ・

 ・

「……それで、ボイルさんは僕に何の用ですか?」

「実はなぁ~村の周りにある狩場を広げようと思うんだが……そうなると色々と問題がな……」

「魔獣の移動が始まるから、何処まで広げればいいのか分からないと?」

「まぁな、弱い草食魔獣が棲息する分にはいいんだが、下手に広げると大型の魔獣までも移動してくんだろ? 生態系の変動が怖くてなぁ~」

「無暗に広げたら大型肉食魔獣が村を襲いかねませんからねぇ~難しい問題です」

「そこでだ、取り敢えず何処まで拡大すればいいのか調べて欲しいんだが……頼めるか?」


 狩場はその時の流れで徐々に拡大して行く物であり、下手に広げれば生態系のバランスを崩しかねない。そのため予め手練れの冒険者を探索に雇い、長期間を掛けて季節の移り変わりによって魔獣の動向を調べる必要が有る。

 一年中その地域に生息する種も有れば、繁殖期に合わせ他の地方から移動してくる種も有り、その変化を調べ上げるには膨大な時間と年季が必要となる。樹木を斬り倒し狩場を無造作に広げれば、その間に逃げ惑う魔獣が他の地域に移動し、それを追って捕食関係にある魔獣も移動するので最悪他の村や町が壊滅する事も暫しある。この作業は予想以上にデリケートな問題を孕み、緻密な観察眼が常に要求される難易度の高い仕事なのである。以前に迂闊にも狩場を広げて、都市の一つが滅んだ例も実際に在るのだ。


 だが、100年後なら兎も角、現時点で調査専門の冒険者は存在せず、この様な作業は他の村や町も自分達で行わなければならない。

 例え辺境だが国の中に在るとはいえ、貴族や王族が動く事など先ず無いのである。

 故にその役割は非常に重く、責任を常に背負わねばならないのだ。

 セラは流石に重荷を背負う気には為れなかった。


「無責任に思われますけど、僕は狩り専門の冒険者で探索には向いてないんですよ。遺跡関係なら得意なんですけど、生物は自分の知る範囲でしか分かりませんよ? 何せ倒した事の無い魔獣が、未だにこの世界を数多く闊歩してるんですから」

「分かる範囲でいいんだよ。少しでも狩場を広げられりゃぁ御の字だ、高望みはしねぇよ」

「一定範囲内なら魔獣の事は知っていますけど、季節に合わせての魔獣の分布を調べるには僕だけじゃ無理ですよ」

「そんなに時間が掛かるもんなのか?」

「専門の職が存在しないのが不思議なくらいです」

「それじゃ、お前の知ってる魔獣がどこら辺に生息しているかだけでも調べてくれ。それに合わせて拡大する範囲を決めてみる」

「・・・・・分かりました。出来る範囲でやってみます」

「頼むぜ、こればかりは冒険者に頼まねぇと如何しようもねぇ・・・・・」


 帰って来てそうそう厄介事を抱え込み、セラはただ溜息を吐いた。

 こうした調査依頼など受けた事が無く、未知の領域に足を踏み込む気分であった。


「素材と心臓はもう少し待ってね、予想以上の大物で手が廻らないのよ」

「そう言う事なら仕方が有りませんね、明日にでも又来ます」

「そうしてくれると有り難いわ。じゃぁ、あたしは仕事に戻るわね?」

「「「御世話様で~す」」」


 イーネはそう言いながら持ち場に戻って行った。


「これからお前らはどうすんだ?」

「僕は休みます。何か疲れました、精神的に・・・・・」

「我はもう少し散策するのじゃ!! 今はいろいろ見て回りたいのじゃ♡」

「私も今日はゆっくりと休みますぅ……何か、体が重いんです」

「それは疲れているのよ……あたしも休んで回復薬でも作る事にするわ…森に出かける気分じゃないし」

「僕は宿を探します。明日には依頼を受けようかと思ってます」

「そうか、んじゃ今日はゆっくりしてくれ。無茶はするんじゃねぇぞ」

「「「「「は~~~~い」」」」」


 まるで小学生の引率の様である。

 その後セリスとは途中で別れ、セラ達はフィオの家に戻るのだった。



 フィオの家に戻り、セラは慣れ親しんだベットに横になると、【無限バッグ】から【異界パスポート】を取り出す。


「こっちの世界に馴染みすぎてるからなぁ~久しぶりに戻りますか……まぁ、向こうでは時間なんて流れてないんだけどね」


 異界パスポートは本来ある時間軸を記録して、精神だけをこの世界に転移させるアイテムである。

 その為肉体を転移させる為の次元ホールを生成する必要も無く、そのエネルギーも必要最小限に抑えられていた。精神のみの転移はそれだけリスクが少なく、また時間軸によるズレさえも殆どない。

 故にセラはこの世界で何か月過ごそうとも、地球の時間軸に置いてはせいぜい一分くらいのズレしか起こらない。(無論こちらに来るときも同じで、時間軸のズレは変わりない)更には元の体がポータルの役割を果たし、精神が次元の狭間を彷徨う事も無いのだ。ましてやセラと優樹は同一体であり、例え次元の壁で離れていようとも、魂は繋がっている。それ故に時空移動が可能であった。(他人の魂ではまず不可能)


 因みに優樹が此方の世界に来ている時は、セラ本人の魂は優樹の体に封印している。

 これはセラの傷ついた魂を癒す為の方法であり、同時に灯台の役割を果たす為である。セラの肉体に優樹が魂の力を注ぎこみ、帰還の折に魂を入れ替えその力で傷ついた魂を治療するのである。その間セラの魂は優樹の肉体の中で残された魂の力を吸収して治療する。二重の再生治療であった。(同一体の魂でも優樹の魂の方が強大で、セラはその魂の力を分けて貰う形で治療を行う)

 

 ついでに【神】が優樹を直接召喚しないのは、この世界においては【セラ・トレント】は女性であるのに対し、【瀬良優樹】は男性であるため事象改変が起きてしまい、【歪み】を直すどころの騒ぎでは無くなる為である。更に言えば召喚用の次元ホールを生成するには、時空に穴を開けるのに莫大なエネルギーが必要となる。しかし其れは繋げるための穴であり、自浄作用によってすぐに塞がれてしまう。

 そうなると今度は呼び出す世界からも同等のエネルギーが必要と為り、最悪地球が消滅する可能性もある。どれだけのエネルギーが必要になるのかは定かではないが、魔力の無い世界では当然それに代わるエネルギーが必要に為り、最も最適なエネルギー源が質量なのだ。

 これにより新たな【歪み】が生まれる可能性も高くなる為、この手の召喚は使用不可能であった。

 これが精神のみを召喚する理由の一つである。

 ふざけた性格であるのだが、一応に世界の事を考えている様である。




「さて、帰るか……みんな元気かなぁ~…あ、こっちはまだ午前中だけど……まぁ、いいか」


 セラは帰還する。

 本来あるべき世界に……

 次に来るときは、元の世界で一週間後であった。 


 二重生活と言いながら何故か異世界の話だけ…


 地球での話を書きたいのですが……ネタが少ない……


 またタイトルを変えるように為るのだろうかと、怯えています。

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