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 気がつけばマッスル亭 ~もう直ぐ風呂が出来るってさ~ところでロックさんどうした?~

 セラが目を覚ますとそこには薄汚れた古い木材の天井と、その隅に巣を粘着質の糸で編まれた蜘蛛の巣が張っていた。

 壁も亀裂や剥がれ落ちた所が目立ち、お世辞にも衛星上良くないその部屋に何故自分がこんな所で寝ているのか疑問が沸き起こる。

 だが取り敢えずセラがした事と云えば……


「……汚い天井だ……」


 事実を込めた辛辣な一声であった。

 シーツは取り敢えず綺麗なモノの様だが、部屋の汚さだけは看過できない問題である。

 いっそ起きて掃除でもするかと考えるも、どこの誰の家なのか分からない以上余計な真似をする訳には行かない。取り敢えずなぜこんな場所に居るのかを思い出してみようとする。


「・・・・・確か……ミールの村から帰って来る途中でグラカクトスに襲われて……その後馬車でチェイスしながらロカスに戻ったんだっけ……その後……」


 そこで思い出したのが馬車が横転して投げ出された自分と、迫り来る麦藁の山。

 見事に頭から突っ込んで、その後の記憶が全くない。

 原因はハッキリした。


「そうなると……ここはロカス村の誰かの家と云う事に為るんだけど………」


 場所を特定するために、セラは窓辺に近付き、おもむろにカーテンを開けた。

 だがそこに在るのは木製の板で覆われた民家の壁であり、現在位置の特定に繋がりそうな物は見当たらない。と言うか見えない。日差しも入らない薄暗い部屋で、セラはこの後どうするべきかを思案する。

 結論は直ぐにでた。


「何も分からないなら部屋を出ればいいんだ。うん、そうしよう」


 考えるまでも無くそれしか方法が無い。

 幸いにも装備はベット横の棚に置かれており、直ぐに着替えて薄暗い部屋を出る事にした。

 廊下に出るとまるで闇に包まれているような暗い状態で、目が慣れて来ると複数の部屋の扉が一定の間隔で並んでいるのが見えるように為った。


「この構造……どこかで見たような……」


 廊下の突当りに見える階段で下の階に降りれそうだと判り、慎重に階段を降りて行く。暗過ぎて足元が見えないのだから慎重にならざるを得ないのだ。そこでセラが見た物は・・・・・・


「ヌフン、フンヌ……ヌリャァ!」


 鏡の前でポーズをキメるスキンヘッドの黒光りマッチョメン……ロカス村のボディービルダージョブであった。

 彼の朝は鏡の前でポーズをキメる所から始まる。

 暇な時には一日中ポーズをキメているか、後は筋肉を鍛えるかのどちらかしか無く、本気で宿を続ける気が有るのか甚だ疑問の尽きない【マッスル亭】の主である。

早朝から見たくも無い暑苦しいガチムチ半裸エプロンの黒光り大男の姿を目の当たりにし、セラの精神は一気に憔悴状態に陥った。何よりも彼の従兄弟の姿を思い出し、その状態異常効果は倍増した。

 流石に非常識の塊であるセラもその場でへたり込む。


「ムゥ~ン? おぉ、どうやら無事に目覚めたようだな! セラよ。プロテインを摂るか?(食事をするか?)」

「ジョブさんの中ではプロテイン=食事なんですか?……それと、お早うございます……朝から見たくも無い物を見ました……」

「? それの何処が問題なのだ? 食事とプロテインを効率よく摂取する事により、ムゥン!! 狩りに出かけ良い運動をする事で美しい筋肉が作られる。一石二鳥では無いのか? ヌゥウン!! 筋肉無くして筋肉(魔獣)に勝てず、筋肉こそ至高!! 筋肉こそ真理!! 筋肉こそ永遠の存在なのだぁ!! フヌリャッ!!」


 いちいちポーズをとりながらも話を続けるジョブ。

 彼を見ているとボルグが血縁者なんだと十分理解できた。

 特に強引なところと、人の話を受け付けずに自分の趣味を他人に押し付ける傍迷惑なところがそっくりである。いくらセラでも頭を抱えたくなる。


「限りなく間違いだらけの暴論は兎も角……ジョブさんは宿の掃除をしているんですか? 天井に蜘蛛の巣が張っていましたよ?」

「そうか? まぁ死にはしないだろ。ヌゥウウゥン!! 寝床のシーツぐらいは毎日取り換えているし、問題ないと思うが? フンヴゥウン!! 筋肉さえあればどこでも生きて行ける。健康で健やかなる逞しき肉体を持つ事で、病など向うから逃げてゆくだろう。燃え上がれ筋肉、素晴らしきは筋肉!! 尊きは筋肉!!! 目指せ神の筋肉!!!! マッスル・ファイアァ――――――――ッ!!!!!」

「……ジョブさん…前から聞こうとは思っていた事なんですけど・・・・・」

「なんだ?」

「アンタ……宿を続ける気があんの?」

「俺が宿屋をやっているのはただの趣味だ! 本職は筋肉一本に絞っている。それが如何かしたのか?」

「……宿が趣味なんだぁ~……その割には大事にしていないようですが、生活ができなく成りますよ?」


 煤けて蜘蛛の巣が張り壁すら剥がれ落ちた客室、薄暗く危険な廊下と足元が見えない階段、辛うじて床が磨かれている所と、シーツを毎日取り換えている所を除けば他は全てアウトな宿屋である。そんな宿に泊まる様な客など、そう多くはいないだろう。(いたとしても訳ありな碌でもない人間に違いない。)

 客が来なければ収益が滞り生活費の捻出も儘為らなくなる。それ故に出会った当初にはあんなにやつれていたのでは? と思わぬでも無かったが、相手はジョブである。そんな事などお構いなしにとんでもない暴論が飛び出した。


「筋肉さえあればどうとでも為る。金? 生活? くだらん!!!! そんな物に拘るくらいなら筋肉を鍛えていた方がマシだ!!!!! 美しき筋肉さえあれば空腹など物の数では無い、食事など無くても生きてゆけるわっ!!!!!! この未熟者めがぁ!!!!!!!!!!!!」

「アンタ、さっきなんて言ったぁ!!!! 効率よく食事を摂るのが大事とか言ただろぉ!!!!!」

「食事では無いっ!! プロテインだぁああぁ―――――――――つ!!!!!!」

「朝食は飾りっ? まさかメインがプロテインとは思わなかった!!!!!!」


 生きて行くうえで必要な三大欲求の一つを必要なしと言い切ったジョブ。

 肉体を鍛えるには栄養を摂取する事は必要不可欠であり、それを必要なしと言い切る彼の筋肉理論は既に根本的なところから破綻している。しかしながら、その暴論を押し通し実行しているのがジョブと云う漢なのだ。

 セラは忘れている。

 ジョブにとって必要なのはプロテインであり、食事など下から数えた方が早いくらいに些末な事なのだという事を……故にジョブは人に食わせようとするのだ、大量に盛られたプロテインをおまけの料理と共に。


 ジョブと話を続けていて頭が痛くなってきたセラは、話題を反らすべくフィオ達の安否を確かめる事にした。考えてみれば共に馬車から投げ出されたのだ、無事であって欲しいと思わずにはいられない。


「ハァ……所で僕が此処に居ると云う事は、フィオちゃんやマイアちゃんはどうしたんですか? 一緒に馬車から投げ出された筈なんですけど・・・・・」

「まだ寝てるんじゃないか? フィオの家に運ぼうとしたんだが、鍵はホレ…フィオの【亜空間バック】の中に在るみたいだからな、仕方なくここの部屋に運び込まれたんだ。一応全員無事だ」

「それは良かった。クラウパやアーブガフの素材が手に入りましたからね、二人の装備を強化したいと思っていたんですよ。そうなるとロックさんの所に行かないといけませんが、暫く会っていませんね~同じ村に居る筈なのに・・・・・?」

「奴は基本的にひきこもりだからな、食いもんを調達する以外は工房にこもっている。あいつも実に良い筋肉をしている、職人独特の無駄のない筋肉だ」

「筋肉以外はどうでもいいんですね……それじゃ、皆が起きるまで散歩でもしてきますよ」

「うむ、筋肉を鍛える事も忘れるなよ?」

「・・・・・勘弁してください・・・」


 最後の最後まで筋肉を忘れないジョブであった。

 



 マッスル亭を出て暫くの間村の周りを散策していたセラ。

 この世界での生活を始めて一月あまり、ロカスの村はアムナグア襲来以降大きく様変わりした。


 先ずはボルタク商会とイモンジャ商会の臨時的な店が建てられたことに始まり、ギルドホールを建造するべく多くの職人がなだれ込み、生活面で大きな収益を上げる。

 村の冒険者達も狩りを本格的に始め、素材などを商会の臨時支店で売る事により資金を稼ぐことが可能となった。そのため彼等の装備はその実力に見合う物に姿を変え、以前の様ないかにも駆け出しと云った武器や防具を装備している物は誰もいない。フィオやマイアも同じであり、資金稼ぎが可能となった現在においてそれなりの貯金や素材を貯めており、次なるステップアップの為の準備に余念がない。

 

 更にセラが売り渡した【スペル・スクロール】や【レシピ】の御蔭で他の職人たちが奮起し、今では他の街からの注文も入る様になっていた。

 宿泊施設も、他の村から移住してきた職人や農民たちの手を借り次々と建てられ、今では村の人口が二倍にまで膨れ上がっている。それでも人手不足や資金面でのやりくりに難儀しているのだが、以前の村に比べれれば遥かに過ごしやすい成長を遂げている。


「変われば変わるもんだ~ねぇ~」


 暢気にそう呟くセラであったが、この村の変化にはセラの貢献が大きく、一部の人達には天使扱いされている事を本人は知らない。

 

「おぉ? 公衆浴場がもう直ぐ完成するんだ・・・ドワーフの職人さん達は仕事が早いねぇ~」


 ミール村に向かう前はいまだ骨組みの状態であった建物は、既に壁や屋根が綺麗に仕上げられ、内装関係の職人たちが現在作業中である。この浴場が完成すれば職人たちの疲れを癒す事が可能となり、職人たちが仕事を終えて他の街に戻って行ったとしても、ロカス村の住人が利用する分には問題は無い。

 作って置いて損の無い有効な施設であった。

 無論公衆浴場の提案をしたのはセラである。


 元の世界では昔ローマ帝国がこぞって浴場建設をしていた。

 浴場は娯楽の一つであり、情報の溢れる場所であり、親交を深めるための場所でもある。更に身体を清潔に保つためには十分効果が有り、実に健康的だ。

 しかしそんな場所もキリスト教徒が台頭して来た折に取り潰され、現在においては遺跡か他の宗教が席巻する地方でしか残ってはいない。テルマエ文化の崩壊は返って質の悪い病を蔓延させる手助けをしたのではないかとセラは思う。しかしコスト面で多額の費用が掛かり、あまり実用的には思えない。


 だが、そこで魔法が使えるこの世界では、お湯を沸かす為の薪は必要無いのではと考え、実際に大量の水の中に火属性魔法を投げ込めば十分にお湯が沸かせられるだろうかと実験をしてみた。

 現に一度森の中で水蒸気爆発を起こしたのだ、決して不可能ではないと確信していた為、驚くほど速くボイルやロックに相談を持ち掛け実証する手筈を整えた。


 この世界でも風呂は貴族か王族、庶民でも裕福な商人しか入る事は出来ないでいた。

 理由は当然ながらお湯を沸かす為の薪の確保であり、資金面での問題から貧しい人たちには手の届かない物なのだ。薪を集めるにも一々冒険者を護衛に雇わねばならず、その分費用が掛かる為に自然に金額が上がるのは仕方が無い。街では一般家庭では炭団が利用されており、この辺境では乾燥させた家畜の糞(炭を混ぜる事により炭団を作れる)さえ街で売る事が出来る。しかし風呂に措いては入る必要性が分からず作ろうとする者は居なかった。その為、魔術を使い湯を沸かすなどとは誰も思い付かなかったのである。

 だがロカス村では、フィオの両親が家の中に風呂を作った事からその良さが周囲に伝わり、村の人達も偶に風呂を借りにやって来ていたようであった。

 それでも薪代が生活を圧迫させる故に誰も作るとはせず、薪を確保するために森に踏み込むには魔獣に襲われる危険が在り過ぎる。何よりも村を発展させるために全力を尽くしていた為、贅沢をしない様に節約生活を送っていたのだ。

 

 しかし魔法で代用できると判れば話は変わって来る。例え僅かな威力の魔法でも、数が揃えばお湯は沸かせるのだ。薪を使わない分コスト面でも安く済み、その上エコである。浸透しない訳が無い。もっと言えばセラの手によって錬金術を使える者達が増え、魔力枯渇を起こしたとしてもアイテムで何とかなる。

 試しに小型の風呂を試作して評価を聞いたところ、思いの外好評で直ぐに採用されたのだった。


「……そう言えば、フィオちゃんの家には小さいけどお風呂が在ったなぁ~……この村一番の大富豪?」


 考えてみればその疑問に何故気付かなかったのかと頭を抱えたくなるが、フィオの家庭の事情に他人が土足で踏み入る訳にもいかない。そのうち分かるだろうと疑問を取り敢えず頭の隅に追いやり、散歩の続きを再開した。


 建設ラッシュに沸くロカスの村は今日も平和そうである。

 因みに解体小屋では、昨夜に運び込まれたグラカクトスの解体作業で忙しかった。






「「「お早うございます! セラさん(姉さん)」」」

「おはよ~~う、昨日は散々だったねぇ~~」


 マッスル亭に戻ってみると、フィオとマイア、そしてセリスがセラを見て挨拶を躱して来た。

 どうやら本当に深刻な怪我も無く、元気そうで安心する。


「所でセラさん・・…あの人………大丈夫なんですか?」


 セリスがそう言いながら指を指した先には、鏡の前でポーズをキメるジョブの姿が在った。


「……半日以上鏡の前に居たって話は本当の様だね……大丈夫、筋肉の話をしない限り実害はないから!」

「……筋肉って? まさか其方そちらの趣味の人なんですか!?」

「ウッホな人じゃ無いだけ…お尻は狙わないから安心して良いよ? 別の意味では近づきたくないけど」

「別の意味?」

「セリス君・・・・・君はガチムチに為りたいかね……」


 何処かの地下都市に居る司令官の様に、テーブルの上で手を組みセリスに真剣に聞き返す。

 

「・・…男らしくは為りたいですけど……マッチョは一寸ちょっと遠慮したいです……」

「間違ってもあの人の前で〝男らしくなりたい〟等と言わない様に……その時点で筋肉への道に足を踏み入れる事に為る・・・・・」

「・・・・・あの化け物と同類なんですね・・・・・・」

「……理解が早くて助かる・・・・・・」


 セリスにとって、ジョブの従兄弟に当たるボルグに襲われた記憶は、彼の精神にトラウマとして残っている。方向性は違うが同類と知り、彼のブラック・リストにジョブの名は保存されたのだ。

 

「所で、朝食はどうするんですか? レイルさんの話では朝食もプロテインて、聞きましたよ?」

「マイアちゃん、取り敢えずパンが有るから魔獣の心臓をスライスして野菜と挿もう。味付けは……そうだねぇ~……マヨネーズと塩コショウを振りかけるだけでいいんじゃない?」

「それは、それで美味しそうですねぇ~セラさん♡」

「クラウパの心臓ですか……一人で食べきれるんでしょうか…僕は小食なんですよ」

「セリス君でも大丈夫です! 私が食べきれたんですよ?」

「フィオちゃんがどんどんワイルドに為って行く気がするのは、僕だけ?」


 当初に出会った時に比べ、フィオは随分と逞しくなっていた。

 それが経験によるモノか、はたまたセラの悪影響かは知らないが、良くも悪くも成長している事は確かだろう。出来れば素直な天使さんのままでいて欲しいと願うセラであった。


 その後朝食を済ませ、彼女達は其々次の予定を立てていた。

 マイアは武器や防具の製作、フィオは装備強化のために資金を稼いでいたのだ。一方セリスは資金的にはまだ無理が在り、武器製作を断念せざるを得なかった。今回は鍛冶師のいる工房を見学するだけにして、後はこのマッスル亭以外の宿に泊まる予定である。

 幸いな事に新しく営業を始めた宿は二軒ほどあり、いくら実害が無いとは云えボルグの血縁者のいる宿は遠慮したかったのだ。セラにはその気持ちが痛いほど理解して涙ぐむ。

 

「それじゃ、一旦フィオちゃんの家に戻ってからロックさんの所に行こう」

「マッスル亭で朝食を作る必要があったんですか?」

「それは言わないでよ、マイアちゃん……荷物をこの宿に置きっぱなしだったし、昨日の疲れも残っているのに無理をさせたくなかったんだよ……でなければこの宿には近づかない。僕はマッチョに為りたい訳じゃ無いから」

「其処まで苦手なんですか? 見た目以外はいい人に見えますけど?」

「あの人は……ボルグさんの親戚なんだよ・・・・・」

「・・・・・何故か凄く納得できました。説得力が半端ではありません」

「でしょ? 自分の主観を他人に強制さえる所は血筋なんだと思うよ……マイアちゃんも気をつけてね」

「そうします・・・・・私も筋肉質には為りたくありませんから……」


 マイアは自分がガチムチに為る姿を想像し、その恐ろしさに身震いした。

 見た目が非常識なだけで比較的にましな部類に入ると思っていただけに、ボルグ並みの逸材と判明し、彼女も出来るだけこの宿には近づかないでおこうと固く誓うのだった。


「そう云えばヴェルさんの姿が見えませんけど、セラさんは知りませんか……?」

「言われてみれば……どこ行ったんだろうね? 腹が空けば出没すると思っていたんだけど・・・・・」

「忘れていたんですか? 姉さんのパートナーじゃ無かったんですか?」

「僕の知り合いに性犯罪者はいません。勘違いだよ!」

「セラさん? なんか目が怖いんだけど……僕には聞いたところで教えてはくれないんですよね」

「人の心の傷に、無暗に踏み込んではいけないのだよ、セリス君…… 最悪……死ぬぜぇ~……」

「それ程の事なんですかっ!?」


 ヴェルさんにパフられたトラウマは未だに根深く残っていた。

 一方そのヴェルさんが何処に居るかと云えば……


「にゅふっ♡ 来るのじゃ~ 我の時代が来るのじゃ~~!」


 そう言いながら彼女の見詰める先には、もう直ぐ完成予定の共同浴場が在った。

 聖魔竜ヴェルグガゼルは挑む、飽く無き乳の探究を!

 ヴェルさんのパフマスターへの道は、今始まったばかりなのだ。


 


「良く考えてみれば僕もマイアちゃんも居候なんだよねぇ~ そろそろフィオちゃんに家賃を払う方が良いのかな? それとも別に宿を取るとか?」

「何だかんだでフィオに甘えていますからね、家賃ぐらいは払わないと人としてどうかと……」

「僕は兎も角、マイアちゃんは難しい所だねぇ~もう少し収入を安定させないと・・・」

「そうですね、もっと依頼を受けないとランクも上がらないですし・・・・・」

「ランクを上げてもその分危険が増すし、ここは慎重にね?」

「急いては事を仕損じると言いますからね、出来る範囲で家賃を貯めるべきでしょうね」


 いつの間にかフィオの家が拠点となっていたが、よくよく考えてみれば一人暮らしとはいえ、人様の家に間借りしているのはおかしいと今更ながらに気付いたので、何気なしに相談し合うセラとマイア。 


「良いんですよぉ~ 毎日が楽しいですし、両親もどこで何をしているのか分からないですから」

「・・・・・フィオちゃん? 僕が言うのもなんだけど、笑って言う事じゃないと思う……」


 セリスは同じ貧しい村に生まれた故にその苦労は十分わかるのだが、フィオはどうも両親を蔑ろにしている様な気がすると感じた。


「一人で広い家に居ると凄く寂しいんですよ? 今はとっても楽しいから良いんです。それなのに家賃なんて貰ったらばちが当たりますぅ」

「それくらいで罰を下す神はいないと思うけど……フィオ…アナタって、本当に天使……」

「出来ればそのままの君で居てね……そのためなら全ての悪を滅ぼしてあげるから…グスッ……」

「何をする気なんですかっ、セラさん!!?」

「どうして二人とも泣いてるんです?」


 不穏なセリフにツッコむセリスと、何故泣いているのかが分からないフィオ。

 境遇から人を信じ切れないマイアにとってフィオは初めての友人であり、セラは今迄フィオの好意に甘えて其の儘ズルズルと来てしまった故に後ろめたい。

 そんな二人に〝家賃なんていりません〟と言えるフィオは、正に天使であった。

 情けが心にしみる二人だった。

 そんな事は知らないセリスは、セラが凄く危険な人物なのではと疑い始めている。

 まぁ、その予感は事実なのだが… 


「待つのじゃ!!」

「「「「?」」」」


 突如声を掛けられ振り向けば、そこには腕を組み涙目のヴェルさんがセラ達を睨んでいた。


「みんな酷いのじゃ!! 宿に戻ればいつの間にかいなくなっておるし、フィオの家に行けば鍵がかかっていて入れぬし、我を除け者にして楽しくしているなどと狡いのじゃ!! 実に許しがたいのじゃ!!」

「そう云えばどこ行ってたのさ、起きた時には見掛けなかったし、散歩でもしてるのかと思ったけど?」

「その散歩から戻って来てみれば皆いなくなっておったのじゃろ!! 我を見捨てて楽しい事をしてるなどと、実にけしからんのじゃ!!」


 意外に寂しがり屋なヴェルさん。

 どうもこの聖魔竜様は、人に姿を変えられるようになって以降、見た目通りに幼児化が進んでいるように思える。ゲームの最終局面で戦った時の威厳が微塵も無い。

 今やただの我が儘な幼女だった。


「ヴェルさんだし別に良いかなって、どうせ碌でも無い事考えてると思ったからね」

「酷い偏見なのじゃ!! 我は人の生活を満喫したいだけなのじゃ!!」

「そうなんだ……で?何処に行ってたの?」

「無論、共同浴場の工事が何処まで進んでいるか見て置く為に、現場まで足を運んだのじゃ!」

「……共同浴場? まさかヴェルさん……パフるために態々(わざわざ)下見をして来たとか言わないよね? もしそうなら……捥ぎるよ?」


 ヴェルさんの答えにセラの表情は冷徹な物に代わり、正にその通りなだけにさしもの聖魔竜様もたじろぐ。


「そ、そんな訳無かろう……我は風呂が気に入っておるのじゃ、リリンが生み出した最高の文化なのじゃ! デカルチャーなのじゃ……」

「フゥ~ン……ソウナンダァ~……ジャァ、ツギニパフッタラ、モギッテモイイヨネ?」

「何故に片言? そしてどこを捥ぎる気じゃ?・……」

「ドコデモイイヨ? トニカクモギルカラ……ブチットネ! フフフフフ・・・・・・・」

「邪神じゃ!! 邪神がここにるぅうぅ――――――――っ!!」

「シュウハガカワレバ、ドンナカミサマモミンナジャシンダヨ? フフフフフ・・・・・・・」

「わ、我は……とんでもない者を目覚めさせてしまった……」

「ダイジョウブ、チャントオイシクタベテアゲルカラ……アンシンシテジゴクニイコウネ♡」

「怖いのじゃぁ―――――――――――――つ!!!!!!!!」


 ヴェルさんはセラにとって最早倒すべき獲物でしかなかった。

 ロカスの村にヴェルさんの恐怖に怯えた叫びがこだまする。

 自業自得、因果応報、天網恢恢、死して屍拾うもの無し……南無~~!

 ・

 ・

 ・

「うぅ…怖かったのじゃ……生まれて初めて恐怖を味わったのじゃ…本気でちびりそうになったのじゃ……」

「姉さんを怒らせたら死を覚悟した方が良さそうね・・・・・・」

「僕はセラさんが怖い……ボルグさんとは別の意味で・・・・・・」

「そうですか? いつも通りだと思いますけど?」

「フィオちゃん……? 君は僕をどう云う目で見てるのかなぁ? 凄く気になるんだけど……」


 色々在ったが一行はロックの工房まで着いた。

 其処で見た物は、嘗て並んでいた木造製等身大美少女フィギュアの姿は無く、味気のない質素な作業小屋が目の前に在った。

 一瞬目を疑ったのだが、その建物自体見覚えが有り、そこが鍛冶工房だという事は分かる。

 何が在ったのかは分からないが、少なくとも嘗ての異様さは存在しなくなっていた。

 

「あれ? 随分片付いてるね?」

「そうですね、これだとただの小屋にしか見えないですけど……」

「ロックさん、どうしちゃったんでしょうか?」

「おかしいのう……これはどうしたのじゃ??」

「良くわかないですけど、これがおかしな事なんですか?」

「「「「うん(うむ)、おかしい!!」」」」

「ええぇ――――???」


 セリスには分からないだろうが、この鍛冶場の主は小屋の前に自分が作ったフィギュアを大量に並べていた。それが無くなった事でロックの身に何かよからぬ事が起きたのではと勘繰っているのだ。

 既に異様な佇まいが当たり前に認識され、元に戻っただけで要らぬ心配をされている事事態、この村が常識から掛け離れていた事だけは分かる。

 されどセリスは外部から来た人間であり、普通に見えるこの小屋をおかしいと言うセラ達の方が余程理解に苦しむ人種に思えた。

 どんなに異常に思える事でも、それが当たり前と認識されれば常識となる良い例である。


「兎も角入ってみよう……アレ?」

『フヒヒヒヒヒ……ヒヘへへへへ・……』


 ドアを開けようとした時、中からやけに陽気な笑い声が聞こえて来た。

 五人は顔を見合わせ不審に思う。

 考えても埒が明かず慎重に土話を開けると、そこで見た物は・・・・・・・・・


「たのちぃいぃ~~たのちぃ~なぁ~ひへははははは~~うひょほほほほ~~ぉおぅ~~♪」


 可愛そうなぐらい痩せ細った髭面のドワーフが、ふらつきながらハンマーを陽気に振り回して歌い、踊り狂う異様な光景だった。


「「「「「・・・・・・・・・・・」」」」」


 その光景を目の当たりにした五人は言葉を失い、ただ茫然と立ち竦むのだった。  



 書ききれなかった。


 未だに何処で区切ればいいのかが分かりません。


 日々精進……そう思う今日この頃です。

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