表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/77

 知らない所でこんな事が起きてたそうです ~あれ? 今回僕出番なし?~

 ――――――《鍛冶師ロックの災難》――――――


 セラがロカス村に来る二年ほど前の事である。

 この村唯一の鍛冶師であるロックは、何時もの様に農機具の手入れ作業をしていた。

 ロカス村の財政はいまだ良くならず、村の冒険者達も狩りに出かけはするが、その獲物の殆どが小型の魔獣であり、需要はあっても取引ではさして実入りが良くない。

 さらに深刻なのが、この村では生活そのものがギリギリであり、冒険者達も武器や防具を作る余裕が無い。魔導士や錬金術師、薬剤師などの専門職も無く、外部から仕入れるしか手立てが無い故に、冒険者達も大物を狙う事が出来ずにいた。

 錬金術師も一人いるのだが、最近調子に乗り始めて良い話を聞いてない。

 そして、この村唯一の鍛冶師もまた現状の不満を募らせている一人であった。

 そんな彼も槌を振るっている時だけは真摯であり、機嫌が良くなる。

 彼は職人気質の男であった。

 

 カンッ!! カンッ!!


 槌を振るうたびに金属特有の甲高い音が響く。

 熱せられた金属を叩き、思う形へと形状をけて行く姿にロックは笑みを浮かべる。

 彼が今手がけているのは何処にでもある草刈用の鎌ではあるが、道具を作る時が至福の時である職人気質の彼にとって、例えそれが望んでいない仕事でも楽しい一時なのだ。

 

 ロックは熱を持つ鎌の刃を工具で掴み、傍にある水槽に浸す。

 高温の金属が水で冷やされ、〝ジュワッ!!〟と音を立て水槽の水が泡立つ。

 この沸き立つ音を聞き分け、最適な金属の状態を知る事こそ鍛冶師として求められる資質である。ただ冷やせば良いと云う訳では何のだ。

 何年も修行をして身に付けた技術は、その最適な頃合いの瞬間を見逃さない。

 素早く水から刃を引き上げると、それを真剣に見つめる。

 時には角度をかえ入念に、僅かな歪みすら見落とす訳には行かない。

 そして満足した出来栄えのか、出来た鎌の刃に柄の部分を取り付ける。

 後は砥石で研げば完成と為る。

  

「んあぁ~~っ! 少し休憩を入れるか・・・・・」


 ロックは凝り固まった体を解きほぐす様なしぐさをしながら、厨房へと足を向ける。

 水瓶に湛えた水を柄杓で掬い、その水を一気に飲み乾す。

 冷たい水が咽喉を潤し、漸く一息つけたことを実感した。

 彼はこの瞬間が最も好きな時間であった。

 そんな時間も長くは続かなかった。


「ロック、るか? 頼みたい事が有るのじゃが・・・」

「何でぇ~村長、俺になんか用か?」

「ふむ、仕事中じゃったか?」

「なぁ~に、大した仕事じゃねぇよ。モモクの奴に鎌を直してくれって頼まれてなぁ~」

「忙しいなら後にするがのう」

「構わねぇよ、どうせ砥いだら終わりだ。しかし何だなぁ~偶には剣でも鍛えて見てぇ、いつになったら本職が出来るのやら・・・・」

「今少し何とか堪えねばのう・・・・儂等としても何とかしたいのじゃが・・・・」


 現在の状況では村に居る冒険者達も生活するので手一杯の状態であり、とてもでは無いが武器や防具に予算を回す余裕が無い。彼らも頑張ってはいるが、それでも大物を倒すには力も、予算も、素材すら足りないのである。

 そんな状況を打開すべく、日夜真剣な会議が開かれている事をロックは知っていた。

 ついでに決定的な打開策が無い事も……


「で? 村長は俺に何の用だ? 頼みたい事と言っていたが・・・・・」

「うむ、実はな、この村に名所を作る案が出ていてのぉ~お主にその目玉を作って欲しいのじゃ」

「村長……俺は鍛冶屋で芸術家じゃねぇんだ、んなもん作れる分けねぇだろ!」

「なぁ~に、お主の腕なら造作も無い物じゃよ。おい、お主達っ!! アレを持ってくるのじゃ!!」


 村長の鼻息が荒いのが少し気になるが、何を作らせる気なのかは興味がある。

 そして、村長の呼び声に応え、数人の村の男衆が筒状の紙を携え工場に入って来た。

 ロックはこの時、気付くべきであった。

 入り口のドアから入って来た男達の眼つきがおかしい事に……


「これが、お主に作って貰いたい物じゃ!!」


 村長より受け取った紙の筒を広げると、そこには・・・・・


「何じゃ、こりゃぁ――――――――!? おいっ、村長っ!!、あんた・・・・正気かっ!?」

「無論正気じゃとも」

「是の何処が名物だよっ!! ヘタすりゃ笑い者も良いとこだぞっ!!」

「なぁ~に、直ぐに皆賛同する様になる。お主は言われた通りにコレを作れば良いのじゃ」

「断るっ!! 武器専門の鍛冶師である俺が、何でこんな物を作らなきゃなんねぇんだよ!!」

「是も偉大なるカワヤハバカリ神のお導きじゃ、お主の矜持など如何でも良いわっ!!」

「あんた、何つ――神を信奉してんだっ!! んな事より、何で俺に〝便器〟を作らせようとすんだよっ!!」

「偉大なる神の御坐を便器など呼ぶでないわっ!! この罰当たりがっ!!」


 村長が作らせようとしているのは、純金製の便器であった。

 しかもご丁寧にウォッシュ機能搭載型だった。

 何でこんな物を作らせようとするのか訳が分からない。

 それ以上にこんな物を作るなど彼のプライドが許さなかった。


「何処からどう見ても便器だろっ!! つーか、これを作れるような大量の金が何処に在んだよっ!!」

「先代からコツコツ貯めていた非常時の為の金で作る。これで我が村も安泰じゃ」

「そんな大事なヘソクリを下らねぇ事に使うんじゃねぇ!! 先代が聞いたら本気で泣くぞっ!!」

「否、断じて否じゃ!! 父上もきっとお喜びになるに違いない、何故なら偉大なる神の御加護が有るからじゃっ!!」

「その自信が何処からでんダァ―――――!! 断るっ、断じてそんなモンは作らねぇ!!」

「ほほぉ~う・・・・儂の頼みを断るか・・・・・」


 何かに取りつかれたような怪しい光を湛えた目で、村長はロックを見詰め乍ら指を『パチンッ!!』と弾くと、男達が一斉にロックを取り押さえた。

 彼らの目は虚ろで、とても正気とは思えない。

 ロックの背に言い様の無い怖気が走る。


「残念じゃが、お主は断る事は出来ぬのじゃ……今日ここで同士になるのじゃからのぉう。ククク…」

「あ、アンタ……こいつ等に何をした・・・・・?」

「ちょいと気持ち良くなる香を嗅いでもらって、その後儂の情熱を聞いてもらっただけじゃよ? 別に大した事はしておらぬわい・・・・・」

「明らかに正気を無くしてんじゃねぇかっ!! 何をしやがったぁ――――!!」

「直ぐに分かるじゃろうよ・・・・そう、直ぐにのう・・・・・・・クククク……」


 そう言いながら香炉を取り出すと、中の炭に火をつけ乾燥させた香草を炭の上に散らす。

 次第に甘い香りが充満して行き、ロックの意識が朦朧としてくる。


『ヤベェ!? こいつはマジでヤベェ・・・村長は俺に何かをする気だっ!!』


 逃げようにも押さえつけられており、逃げ出す事は叶わない。

 そんなロックを他所に村長は、燭台のローソクに火を燈す。


「さぁ・・・ロックよ……このローソクの火を見るのじゃ……」

「クッ・・・・断るっ!! そう思い通りにさせてたまるかっ!!」

「強情じゃのう・・・お前達、ロックの首を押さえつけよ! ついでに瞼ものう」

「や、やめろ・・・・・」


 首を反らさないように押さえつけられ、しかも瞼がとじないように指で引き上げられ如何する事も出来ない。しかも香の効果によって意識が次第に奪われていく。


「さぁ、片意地張らずに落ち着くのじゃ。お主は次第に気分が良くなる……心を落ち着け、その身を偉大なるカワヤハバカリ神に委ねたくなる・・・・・そう・・・お主はこの世界の罪から綺麗に洗い流されるのじゃ・・・・・」

「お、オオオ・・・・・オオオ・・・・カワヤハバカリ神様・・・・・」

「見えるじゃろ? 黄金に輝く御坐におわす偉大なる神の御姿が・・・・・」

「見える・・・・・何と神々しい・・・・・これが神・・・・・」

「そうじゃ、今よりお主は神の子となるのじゃ・・・・・さぁ、偉大なる神を崇めるがよい・・・・」

「・・・偉大なる神、カワヤハバカリ神様・・・・ばんざ~い・・・・・」


 得体の知れない香の力と、村長の催眠術によりロックは落ちた。


「さぁ、無心に作るがいい・・・偉大なる神の御坐を・・・・・・」

「作る・・・・俺が・・・神の御坐を・・・・・・」

「そうじゃ、材料はもう此処に在る。お前達、アレを運んでくるのじゃ」

「「「「分かりました教主様・・・・・」」」」


 虚ろな目の男達が一旦外に出ると、次々と大きな革袋を運び入れる。

 その袋の中の金を手に取ると、ロックは村長の命じるままに神の御坐である便器制作に取り掛かった。

 狂気に満ちた笑みを浮かべて……


 ・

 ・

 ・

 ロックの意識は深層意識の奥底に沈んでいた。

 まるで夢でも見ているような感覚で、闇の中を浮いているような感じである。

 どれくらい闇の中を漂っているのか、その時間の感覚でさえも曖昧であった。

 ただ解る事は、自分がどこかに流されて行く、その事だけははっきりと判る。

 その先に僅かな光が灯っていた。


『・・・・アレは・・・?』


 光の先には何かが動いていた。

 その先をよく見ようとすると、自分が次第に光の方に引き寄せられていく。

 そしてその光の中に見えたのは、槌を持つ武骨な手が何かを叩いている所だった。


『・・・何だ?・・・何をしている光景だ?…』


 今だ朦朧としている意識が少しづつ目覚めて行く。

 感覚が戻ってくると同時に金属を叩く音と、誰かが何かを話している声が聞こえて来た。


『・・・だい・・・ばりしん・・・ザイ・・・』

『・・・だ・・・ロックよ…なら…だろう・・・』


 ほんの少しではあるが、何をしているかが分かって来た。

 誰かが何か部品の様な物を鍛えているのだ。

 そして何を作っているのかもハッキリした。

 それは信じたくない物であり、それを作っているのが誰なのか迄も……


『う、嘘だ・・・・こんな馬鹿な事が有るモノか・・・・・・』


 認める訳には行かない。

 まさか自分が便座を鍛えているなどと・・・・・・・・

 しかし現実とは残酷な物であり、どう取り繕った所で事実が変わる事は無い。

 便座が完成した時、深層意識の中でロックは見てしまった。

 鏡に映った自分が狂気的な喜びの笑みを浮かべて完成した便座を持っている姿を・・・・・


『うあぁあぁあああああああああああああああああああああぁぁぁっ!!!!!!』


 鍛冶師としての誇りを持つロックにとって、これは耐えられるモノでは無かった。

 その慟哭は深層意識より現実に引き戻され、自分自身の体を取り戻したのだが彼は其の儘気を失う。

 そして、倒れたロックの傍で村長はこうつぶやいた・・・


「ご苦労じゃったな、ロックよ。お主の役目はこれで終わりじゃ、神の御坐が完成したのはお主の御蔭じゃて、感謝するぞ・・・・・ククク……」


 この日、一人の鍛冶師が心に深い傷を負い、一人の教祖の野望が動き出した。

 ロックはこの日以降何かを思い出しそうになると、まるで忘れようとするが如く無心に木造製等身大美少女フィギュアを作るようになった。



 そして二年後・・・・


「やめろ……やめるのじゃ!!!!」


 椅子に縛り付けられた村長の目の前で、嘗て黄金の便器であった物は高熱に曝され赤々と燃え滾っている。

 ロックはそれに向かい、傍にあるハンマーを両手で持ち構えた。


「ロックッ!! 貴様それで何をする気じゃ!!!! そんな非道な真似が許されると思っておるのかっ!!!? 罰が当たるぞっ、それでも良いのかっ!!!!!」


 ロックは村長の声に耳をかさず、高々とハンマーを振り上げる。


「やめろ……やめろぉおおぉ―――――――――――――――――――――!!!!!!!!!」


 振りかざしたハンマーが容赦なく便器を叩き潰す。

 それでも足りぬとばかりに、何度も何度も繰り返し叩き潰した。


「あ・・・アァァ・・・・アァァァァ……」


 目の前で潰され形を変えて行く便器に、村長は涙を流し悲しみに打ち震えている。

 そんな村長とは裏腹に、ロックは何かを成し遂げたかのような満足そうな素敵な笑みを浮かべていた。


 まるで憑き物が落ちたかのように・・・・・・

  

 ――――――《鍛冶師ロックの災難 完》――――――






 ――――――《マイアの受難》――――――


 話は一年ほど前に遡る。

 当時のマイアはお世辞にも真面な生活を送っているとは言えないすさんだ日々を過ごしていた。

 具体的に言えば、彼女は冒険者と云うには致命的な欠点が有り、その所為で他の冒険者達から嘗められていた。


 それと言うのも、彼女は人種的に特殊な部類に入り、彼女が他の人種より上位に上がるには其れなりの過程を熟さなければならない。

 マイアは【半神族】と呼ばれる覚醒遺伝型種族であり、体力は人間にも劣り最弱と言われるほどの身体能力であった。しかし保有魔力の多さと魔力感知能力の高さでは他の種族を圧倒し、やり様によっては他の冒険者を簡単に追い抜いて行く存在でもある。

 しかしながら現在の彼女は魔術一本で魔獣を倒すのは困難を極め、また戦い方を教えてくれるような熟練者もいない。

 結局彼女の選択肢は限られ、他の冒険者達のサポートを引き受ける便利屋として生計を立てる他なかったのである。


 このサポート職は冒険者達のパーティーの人数が足りない時に臨時として雇われ、彼等の依頼を手助けする手間職なのだが中には質の悪い冒険者が居り、仕事だけさせておきながら金を払わない連中もいたりする。

 現在のギルド運営において質の悪い冒険者を取り締まる法は無く、このサポート職についている冒険者達は無きを見る事が多かった。

 だが、マイアはそんな悪質な冒険者を裏で魔術を使い眠らせ、その隙に金品を強奪する盗賊紛いの事を行っていた。


 無論彼女にも言い分はある。

 依頼を受けて仕事をしたのに金を払わずイチャモンをつけ、文句の一言を言えば暴力を行使するような相手に遠慮する必要性は無いと思っている。

 ましてや半神族である彼女には日常茶飯事の事であり、暴力を行使した者にはそれ相応の罰を受けて貰うと決めている。十四歳の少女が一人で生きて行くには、其れなりのリスクと覚悟が必要なのだ。

 目には目を、刃には刃をである。


 そんな彼女は現在ある冒険者達のサポートについていた。

 メンバー全員が女性だけのパーティー、【白百合旅団】である。

 仕事自体は簡単であった。

 メンバー全員が上級~中級者レベルであり彼女達の実力も高く、然程手古摺る事も無く魔獣を討伐していった。

 幸いな事にマイア自身も魔獣を倒す機会に恵まれ、実際に何頭か倒す事にも成功している。

 しかもこの白百合旅団は金銭の支払いにも誠実で、他のサポート職からの評判も上々。

 今日の仕事は良い金額になると、マイアは内心ホクホクであった。


「粗方片付いたな、全員警戒を怠るなっ!! 万が一の事もある、周囲を警戒しつつキャンプまで撤退する!!」

「「「「「了解しました、団長っ!!♡」」」」」


 目的の魔獣を倒し、彼女達はようやく安堵の笑みを浮かべる。

 今回の依頼は連続狩猟であり、大量繁殖した魔獣を間引く仕事であった。

 常に緊張を強いられるこの依頼は冒険者達には不評であり、【旅団】のような大規模攻勢の集団しか受ける事は無い。今回マイアが参加できたのは幸運と呼ぶべき事だった。

 団員たちを纏め撤収を始めるのを見計らい、団長でもある女性【エーデルワイス・ヴァン・アクエル】は機嫌良くマイアの元に近寄って来た。


「良いフォローだったよマイア、フリーで行動しないでうちに来ないか? 優秀なサポートは幾らいても足りない位だからね」

「それは断ったはず、私は一人の方がいい」

「そんな事言わないでうちに来なよ、その方が君の為にもなると思うんだ」

「しばらくは一人で続けるわ。あなた達の空気に染まりたくないの・・・・・」

「つれないねぇ~でもそんな所が……ぃぃ♡……」


 マイアはこの団長、エーデルワイスが苦手だった。

 初めて会った時に行き成り抱き付かれ、モフられ、挙句に『私の妹にならないか?』等と言われたのだ。当初行き成りの事で動揺していたのだが、ここ数日行動を共にして彼女達がどこか異常なところがあると判って来た。

 何と云えばいいのか言葉に困るが、常にピンクの空気が取り巻いている様な気がしていた。

 しかもこの団長に関しては、時折もの凄く身の危険を感じる時が有る。

 まるで獰猛な魔獣が近くに潜んでいるような感じだった。

 その為マイアは出来る限りこの団長の近くに寄らない事にしたのだが、距離を取っても団長自らが近寄って来るから質が悪い。

 その度に抱き付かれ体をまさぐられるのは遠慮したい。

 そんな訳でマイアは近く街を離れることを決心した。


 悶え狂う団長を其の儘に、マイアは狩場を後にする。

 ・

 ・

 ・

「これが今回の報酬ですわ、良いサポートの方と巡り合えて本当に幸運でした。今後も仕事を頼みたい所ですが、マイアさんはこの後のご予定は?」

「数日たったらこの街を出るわ。他の街の事も知りたいし、半神族が強く為る方法も見付けたいから」

「上を目指していらっしゃるのですわね、でしたら私達の旅団に身を置いた方が効率的では?」

「……あの団長が怖いから嫌っ! 何されるか分かったものじゃ無い」

「嫌われましたわね、お姉様・・・・・」


 団長の実の妹であるミラルカは、頬に手を当て困ったように溜息を吐いた。

 マイアはこのミラルカは信用していたが、団長であるエーデルワイスに関しては別だった。

 現在エーデルワイスは雑務を熟しておりここにはいないが、いつ現れ体をもてあそばれるのかと思うと気が気でならない。

 マイアは話はこれまでと自分の部屋に戻ろうとした。


「待ってください、マイアさん」

「・・・なに?」

「お姉様にはくれぐれも気をつけてくださいまし、これから何をするのかと思うと……ハァ…」

「? わかった・・・」


 何か釈然としない物があったが、取り敢えず自分の部屋に戻る事にする。

 階段を上がり三つめのドアを開け、マイアは直ぐに自分が来ている防具を脱ぎはじめる。

 部屋には常にぬるめのお湯を称える水瓶が用意してあり、マイアはそのお湯を柄杓で桶に移しタオルを浸す。

 無造作にい服を脱ぎ捨て、絞ったタオルで体を拭い汗を拭きとる。

 風呂のある宿は滅多に見つからず、また在ったとしても高級なためにマイアでは止まる事が出来ない。大半の宿がこうした水瓶が用意されており、旅人や冒険者達はこうしてからだの汚れを落とすのが通例だった。


 狩りでの疲れも有るため、直ぐにでもベットで横になりたかったマイアは、体をふき終えると其のままベットに倒れ込む。

 しかし、マイアはその瞬間違和感を感じた。

 シーツの下に何やら柔らかい感触が有るのだ。

 恐る恐るシーツを捲るとそこには・・・・・・


「やぁ、行き成り大胆だね。まさか其処まで私に抱き付きたいと思っていたなんて……」

「!!?〇●▲■☓$ωσεxx◆▲!!?」


 エーデルワイスが下着姿でベットの中で寛いでいた。


「な・・・ななな……何であなたがあたしの部屋に居るのよっ!!」

「何でって・・・宿の主人にお願いしたら鍵を開けてくれたんだけど?」

「そんな訳無いでしょっ!! どうやって部屋に侵入したのよっ!!」

「少し金色の円盤形で金属で出来た小物をプレゼントしただけさ、宿の主人は喜んで鍵を開けてくれたけど?」

「賄賂を渡したのっ!?」

「賄賂なんて・・・ただのプレゼントだよ、ただの・・・ね☆」


 裏金を渡してまで部屋に侵入してくるエーデルワイスの気が知れない。

 彼女の行動はマイアの常識では計り知れないモノがあった。


「それにしても……随分と素敵な格好だね、そんな姿で誘惑されたら私も我慢できなくなるじゃないか♡

これでも結構押さえているんだよ?」

「!?」


 ここに来てマイアは自分が全裸であるという事に気が付いた。

 元々マイアは寝る時に下着は着けない派である。

 だが今回それが裏目に出てしまう。


「大丈夫……私はこう見えて少女には優しい方なんだよ? 其れも君みたいな綺麗な子には猶更ね……ハァ、ハァ……ゴクリッ!」

「ヒィッ!!」


 言葉に出来ない怖気と危険を知らせるシグナルが同時に走る。

 

「…マイア……君を初めて見た時から私の心は君に奪われてしまったんだ………もう、自分を抑える事なんて出来ない。……ハァハァハァ…そんな……蔑んだ目で見ないでほしい、そんな目で見られたら……私は……私はぁあああああっ!! アァ、アァアアァァァァァァッ!!!!!!♡」


 マイアの目の前で悩ましげに悶える美女一人。

 煽情的で怪しく悶える彼女の姿に、マイアは生まれて初めて最大級の危険を感じた。

〝殺らなければ犯られる〟そう本能的に悟ったマイアは『スリープ・ミスト!!』の魔術でエーデルワイスを眠らせ他の団員に彼女を引き渡す。しかしエーデルワイスもただでは倒れず、意識が眠りに着く最中にマイアが無造作に脱ぎ捨てていたパンツをしっかり回収していた。

 その後彼女は三日ほど監禁され、その間にマイアは他の街へと向かった。

 その筈だったのだが・・・・・・

 ・

 ・

 ・

「何故貴女がここに居るのよっ!!」

「大した事じゃないさ、君がどのルートを出て行ったのかを調べて、後は飛龍便に乗って此処まで先回りしただけさ☆ 酷いじゃないか、私を捨てて他の街に行くなんて……おかげで君の残したコレで寂しさを紛らわすしか無かったよ・・・・・・」


 そう言って取り出したのは、マイアの〝Pants〟であった。


「君が消えて私は……このような物で埋め様の無い寂しさを……クンクン・・・・・・」

「!!!!!!!(言葉に出来ない絶叫)」

「……アァ……何て素敵な香りなんだ……下着でさえコレなんだから、マイア自身を味わってしまったら私はどうなってしまうのだろう……ハァハァハァハァ・・・・♡」


 薄々気づいてはいたが〝ヤバイ〟人だった。

 危険なんてモノじゃ無い。

 これなら魔獣の方が百倍マシだった。

 ここでもマイアは『フラッシュ!!』目暗ましを喰らわせ、他の街に移動をする事に為る。

 この変態から逃げなくては、自分の精神がおかしくなるのは明白だ。

 途中何度も偽装をしたり、変装で街に侵入したり、偽名で宿に宿泊したり、途中路銀が尽きて日雇いの土木作業に従事する事も在ったが、マイアは辺境へと次第に遠ざかって行く。

 それでもエーデルワイスは執拗に追いかけて来た。

 そして・・・・・・

 ・

 ・

 ・

 その日は雨が降り注いでいた。

 幸いにも昨日仕事を終え、マイアは一日宿の部屋に引きこもっている。

 エーデルワイスの追跡を振り切り、マイアは久しぶりの安息の時間を満喫していた。

 下着姿でベットの上で静かな時間を過ごしていた彼女は、何と無く外を見ようと窓辺に近付く。

 雨脚が強く為ったのか、十数メートル先が見る事が出来ない程灰色に染まっている。


 だが、其処でマイアは見てしまった・・・・・


 宿の前に建つ酒場の角に、豪雨の中レインコートを被らずにたたずむ人影を・・・・・


 その人物は頬が扱ける程やせ細り、しかし眼には獣を思わせるような危険な色を湛え、何より頭にはマイアの見覚えの有るモノを被っている。

 かつては旅団の団長として多くの僭称をほしいままにしていた人物とは思えない位に変り果て、マイアのパンツを被り〝ギラ〟ついた眼で窓を見上げているエーデルワイスその人だった。


 変わり果てた彼女は飛行魔術で窓辺に飛びつき、侵入しようと硝子を素手で何度も叩き付けながら不気味な声でマイアを責めたてる。


『ナァ~ンデェェ~ワ・タ・シ・ノアイヲウケイレテクレナイィイィィ……コンナニモォキミヲオモゥテイルノニィィィッ……ヒ、ヒヒヒヒヒヒィィィ~~~!!!……」


 あまりの恐怖でマイアは粗相をしてしまうほど怯え、その恐怖故に悲鳴すら上げる事は出来なかった。

 そんなマイアを悍ましい笑みを浮かべ、エーデルワイスは窓ガラスを割る事に成功する。

 窓の鍵を開け、中に侵入しようとするエーデルワイス。

 マイアは年相応の少女の様に恐怖に怯え泣きじゃくる。

 そんな彼女をこの世界の神(いるのかどうかは定かでは無い)は見捨てなかった。

 突如落ちた雷がエーデルワイスに直撃し、彼女は宿前の通りに落下した。

 

 マイアは自分が助かった事を暫く自覚できないでいたが、落ち着きを取り戻すと一目散に着替えこの街から出て行った。

 

 その後如何にかコルカの街に辿り着き、そこで一人の男と出会う事と為る。

 その男の話によれば自分と同じ半神族でありながら、災害指定魔獣【アムナグア】を倒したという。

 マイアは運命に導かれるようにロカスの村へと向かう。

 最強の半神族に会うために・・・・・・


 ――――――《マイアの受難 完》――――――







 ――――――《秘密のマッスル亭》――――――


 アムナグア解体作業も一段落終わり、ロカスの村に訪れていた人たちが目に見えて少なくなったこの時期、一人の若者がこの村に訪れた。

 彼は見た目が貧弱と言って良いほど痩せており、人によっては病人だと勘違いしそうなほど肌の色が白かった。

 そんな若者は村の住人に話を聞き、この村唯一の宿マッスル亭に向かう。

 青年がその宿を見た時、その寂れ具合に絶句した。

 しかし彼には目的が有り、ここで引き下がる訳には行かない。

 例え見た目が寂れていようと、彼が目指すべきモノがこの宿にしかないのだ。

 意を決して宿の中に入る。


 其処は簡素な酒場であった。

 恐らく二階から上が宿として使われているのだろうが、彼の目的はこの宿に泊まる事では無い。

 彼はカウンターの前の椅子に座る。

 身体構造のおかしな三人組が酒を飲んでいる様だが、彼には如何でも良かった。

 暫くカウンターで水を飲みながら過ごしていると、奥からスキンへッドのガチムチマッチョの大男が姿を現す。彼が待ち望んでいた時が来た。


「お? 客か・・・・・注文は何だ?」

「酒をくれ・・・・」

「酒だとぉ~・・・いいわけぇモンが昼間から酒か?」

「飲みたい気分なんだ・・・・・・」

「チッ! んで? 何を飲むんだ?」


 〝来たっ!!〟彼はついに待ち望んでいた時が来たことに歓喜するも、顔には出さずに教えて貰ったものを注文する。


「・・・・・【マッスル・パッション】」


 男のまゆが僅かに動いた事を若者は見逃さなかった。


「少し待ちな」


 男はシェイカーに僅かな粉末を入れると、二種類の酒を交互に注ぎ込み、シェイカーを勢い良く振る。

 その間に客の三人組は宿から出て行き、今は若者と男二人きりになった。

 男はカクテルグラスを取ると、シェイカーから出来立てのカクテルをグラスに注ぎ、若者の前に差し出した。

 若者は其のカクテルを一気に飲み干し、男に向かって話しかける。


「……マスター…〝キレ〟てるな」

「〝ガチムチです〟」

「〝憧れちまうなぁ〟」

「〝鍛えてみるかい?〟」


 男は『ついてきな…』と一言いうと、若者を宿の奥の地下酒蔵に案内した。


「お前、ここの事は誰から聞いた?」

「ボビーと云う筋肉お化けに・・・・・」

「・・・・・懐かしい名前を聞いたな・・・・酒は俺のおごりだ、金はとらねぇ」


 どこか遠くを見つめながら男はそう言った。


 酒蔵の一郭、ワインを置く棚であろうか? 其処を軽く押すと其の棚は静かに後ろに下がり、やがて左にスライドした。

 その奥には階段が有り、暗い地下に何処までも続いている。

 先導する男の後に続いて長い階段をひたすら降りて行く。

 やがて小さな部屋へと辿り着く。

 其処には鉄の扉が一つだけ在り、それ以外の物は何もない。


「引き返すなら今の内だ、ここから先は覚悟がいる」

「覚悟はもうできている。俺を連れて行ってくれ・・・・・・」


 若者がそう呟くと、男は『ニヤリ』と笑みを浮かべ一言『入れ』と言った。

 鉄の扉を開くと、その先に見た物は想像以上のモノだった。


 最新の肉体強化機材の数々、二十人を超す肉体の美を追求する探究者、四角いマットのジャングルまである。


「お前ら、集まれっ!!」

「マスターお疲れっス、どうですか?俺の筋肉は・・・・」


 巨大な岩を担ぎスクワットをしていた男が声を掛けて来る。


「応用力の有る良い筋肉だ! この調子なら合格だ」

「ありがとうございます!!」

「私はどうですか?マスター・・・」


 今度は十代の美少女だ、しかし身長が二メートル近くあり、体は殆ど筋肉である。


「素晴らしいぞキャシー!! セクシーだ・・・限りなくセクシーだ」

「儂等はどうかのう?」

「狡いよお爺ちゃん、僕は? ねぇ、僕は?」

「ハッハッハ、今日もキレてるぞ? マイ・サン」

「アンタには聞いてねぇだろ・・・・・俺は如何ですか?」


 老夫妻から親子連れ、老若男女訪わず誰もが肉体を鍛え上げていた。

 若者は感動に打ち震える。


「ボビーの紹介で新たな仲間となる者を連れて来た」

「宜しくお願いします!!」


 探究者達は彼を見ると、こぞって握手をしてくる。


「中々鍛えがいの有りそうな若者じゃのう」

「辛いだろうけど頑張りましょう」

「最初は誰も苦しむが、気が付けば快感に為って来る。癖になるぞぉ~!」


 この日、若者は多くの仲間を手に入れた。

 そんな彼をねぎらうかのように男は肩に手を置き、『今日からお前も仲間、【マッスル・メイト】だっ!』といい笑顔でサムズアップする。

 若者は多くの仲間に支えられ、筋肉の美を追求する果て無き旅へと歩き出した。

 この人知れず存在する【マッスル・サンクチュアリ】で・・・・・・


 ここはマッスル亭・・・・・

 筋肉を愛する者達が集う肉の聖地。

 今日もまた誰かがこの聖地を訪れる。

 果て無き肉の美を追求するために・・・・・・


 ――――――《秘密のマッスル亭 完》――――――


 ロックさん、久しぶりに出してみました。

 こんな理由でオカシクなったんですよこの人・・・そろそろ本編にも出さないと忘れ去られてしまいそうです。

 え? 誰ですかって? 済みません自分も忘れてました。


 エーデルワイス・・・ナマエとは違いイカレテマス・・・・・

 見た目はボーイッシュな長身の美女です。

 普段はサッパリとした面倒見のいいお姉さんなんですよ・・・たぶん・・・


 ジョブの交友関係って一体…… 何と無く書いてみたんですけど、どうでしょうか? 筋肉だけで一本話を書こうと思ったのですが・・・・無理!!


 次は本編頑張って書きたいと思います。

 感想ありがとうございます。

 感謝です!!


 しかし・・・他の話の方が間に合わない・・・・・ヤバイ!! 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ