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 幼女になったヴェルさん ~セラはパフリ倒されました~

「起きろ、セラ・・・」

「ん・・んん・・・・・」

「起きぬか、我が戻って来たのざじゃぞ?」

「んん・・・・・青酸系の毒は足が着きやすい・・・・やはりふぐ毒で・・・・」

「何の夢を見ているのじゃ? それよりも起きるのじゃぁ!!」

「御免よぉパト〇ッシュ・・・・僕、そっちには行けない・・・・・」

「まさか生きる心算なのか? 何の為に聖堂まで行ったのじゃ?」

「〇ーヴェンスの絵は其処には無いよ・・・・行くなら美術館さ・・・・・」

「時代設定と当時の史実で名作をぶち壊しおった・・・・いい加減に起きぬかっ!!」

「んごっ!?」


 腹部に衝撃を受け目を覚ましたセラの上に、何故か見知らぬ幼女が馬乗りになっていた。


「・・・・・・えっと・・・どちらさん?・・・」

「んふふふ、驚いたかセラよ? 我はもう以前の精神だけの存在では無いのじゃ!」

「・・・・・ロりはもう間に合っています・・・お休み・・・・・」

「我の苦労をスルー!? 酷いのじゃぁ!! フィオとマイアだけでは微妙なのじゃぁ、我にも需要が有る所を見せたいのじゃぁ!! 起きろセラぁ、我を見てハァハァするのじゃぁ!!」

「そんな倒錯的な趣味は御座いません・・・お引き取りを・・・・・・・ぐぅ・・・・」

「寝るなぁ!! ここは驚く所なのじゃぁ、やり直しを要求するっ!!」


 幼女は涙目でセラを起こそうとするも、二度寝に入ったセラが起きるのは二時間後だった。

 幼女こと、ヴェルさんの苦労は報われない。

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 セラが目を覚ました時、部屋の隅でいじけたヴェルさんが涙でネズミを描いていた。

 其れも電気鼠の方、しかも進化したバージョンである。

 流石にセラも悪いと思ったのか、何度もなだめすかし機嫌を取る。


「ほら、もうそんなに落ち込まないで、昨日の化け物のインパクトが強過ぎて驚く感覚が麻痺してたんだよ、たぶん・・・・・きっと・・・・」

「我はオネェに負けるのか・・・所詮勇者には勝てぬと言うのじゃな・・・竜族なんて美味しい経験値なのじゃな・・・幼女ではホモにインパクトで負けるか・・・」

「アレが相手じゃ誰も勝てないよ。ところで、勇者って何?」

「あのオカマの事じゃ。歪みを修復する存在の筈なのに、何故か歪みを酷くさせるバグになっておるらしい。あ奴でも修復が不可能な究極のチートじゃ・・・・・」

「嫌な勇者もいたもんだ、それで? 何故にヴェルさんが幼女に?」

「我も狩りがしたいのじゃ、ダンジョンに入ってPKしたり、民家でアイテムを家探ししたり、盗賊から金品を強奪したり、・・・・グス、必死で訓練したのに・・・リアクションが薄かったのじゃぁ・・」

「それ、普通に泥棒だからね? 犯罪だからね? やっちゃ駄目だからね? 其れにボルグさんのインパクトに勝てるやつなんているの? ガチムチオネェだよ? 勝てる?無理でしょ~」

「アレは卑怯じゃ・・・アレの所為で我の影が薄く・・・やはりキモグロブームには勝てぬのか・・・」

「ブームじゃねぇからっ!! あんなのに人気が出る訳無いでしょ、ヴェルさんもプロデュース次第ではアイドルになれるって、きっと・・・・」

「なら直ぐにでも仕事を持ってくるのじゃぁ!! 我のアイドルの道はマネージャーの手腕に掛かっているのじゃぁ!! ボタン入力でトップに上り詰めるのじゃぁ!!」

「誰がマネージャー? その内戦艦の中で歌う気ですか?」

「我の歌を聞け―――――――――――っ!!」

 

 ヴェルさんはただ、人の生活を純粋に体験したかっただけだった。

 精神体では感覚の共有は出来ても自分で思う様に動く事は出来ない。

 フィオ達とも触れ合いたかったし、ロカス村の村人達とも話をしたり仕事を手伝ったりと色々体験したかったようだ。その為【神】に頼み込み、この世界の負担にならない様な魔導の神髄を、高位次元で5年もかけて覚えたという。見たいアニメを山積みにしてまで訓練に明け暮れ、やっとの思いで取得して戻って来てみれば、その努力はセラはアッサリ無視されたのだ。その落ち込み様は半端では無かった。 


「それにしても・・・・・」


 ヴェルさんは美幼女だった。

 赤い髪、褐色の肌、ややつり目気味の金色の瞳、何処かエキゾチックな雰囲気を醸し出している。

 だが、セラが一番目についたのがヴェルさんが着ている装備であった。見た目がメイド服、それを無理やり鎧にデザインした意匠はゲーム内でも観た事無い。

 似たような物は確かに存在はしているが、明らかに素材が違う。あえて言うのであれば【ヴェルグガゼル・レジェンドシリーズ】に近いのだが、それよりもシンプルなデザインに、アイテムマニアの血が騒ぐ。


「その装備観た事無いんだけど、シークレットかイベントで手に入れる装備なの?」

「食い付くのはそっちか・・・これは我専用にあ奴が用意した物じゃ、装備名は知らぬ」

「・・・・・あの【神】、歪みとやらを直す気が有るの? 思いっ切り干渉してるんだけど」

「この世界の法則の範囲内で、干渉を出来るだけ小さくしてバックアップをしてくれるそうじゃ、流石にあのオカマをどうにかする事は出来ぬらしいがの」

「幼女化は範囲内なんだ・・・」

「我ら古き竜種の特性らしいのじゃ、もう少し早く知っておればのう・・・・・」


 ヴェルさんにも色々と思う所はあるらしい。

 

「それよりも冒険者の仕事をしたいの? ヴェルさん」

「うむ、そのために色々と用意したのじゃ、あ奴がじゃが・・・・・」

「ギルドカードは?」

「あるのじゃ!!」


 そう言って力一杯ギルドカードを見せるヴェルさんは見ていて微笑ましい。


「ちょっと見せてね」


 冒険者名 ヴェル

 出身地  ロカス

 ランク   F

 種族   竜人種

 犯罪歴   0

 他職業   無し


「・・・・・出身地がロカス村になってるけど?」

「ここに来る前に手続して置いたのじゃ」

「竜人族て? 聞いた事ないよ?」

「人化できる竜種の事じゃ、今は我以外に数える程度しかおらぬらしい」

「絶滅危惧種!? レッドデータ・アニマル? て言うか他にも居るんだぁ!?」

「この世界はゲームでは無いからのう、セラの知らぬ種族もまだおるぞ?」

「ゲームよりロマン溢れる世界だったか、興味深いね」

「世界は広いからのう、我も楽しみなのじゃ♡」

「・・・それじゃ、早速依頼を受けてみる? 一応僕がパーティー組むよ?」

「うむっ!! 受けるのじゃ!!」


 ヴェルさんアッサリ立ち直る・・・・おこちゃまだった。

 こうして最強の竜種の冒険者生活が始まった。

 はからずもセラとヴェルさんの最強チートコンビが誕生した瞬間である。

 

「・・・・・ヤベェ、ボイルさんに何て説明しよう・・・・」


 だが、その前にまだ問題が残っている事に頭を悩ませるセラであった。

 ・

 ・

 ・

 ・

「えっ? ヴェルさんなんですか?」

「うむっ!」

「今迄声だけだったから何か違和感が・・・・・」


 宿の一室で弟子コンビに事情を話したら、多少戸惑いは有るもの意外に簡単に受け入れられた。

 しかもヴェルさんは得意げに胸を張っている。

 見た目が幼女だけに微笑ましさが先に来て、細かい事情は省略されたのだ。

 セラにとっては面倒が無くて助かったが、ボイルにどう説明した物か悩みは尽きない。

 まぁ、いちいち考えても仕方が無いので取り敢えずは先送りにする事にした。


「そんな訳で、今日からヴェルさんも交えて狩りをしたいと思うんだけど、僕とヴェルさんはクラウパの連続狩猟を受けるけど二人はどうする? 別の依頼を受けても良いし、一緒にクラウパを殲め・・コホンっ、討伐に参加しても良いよ?」

「姉さん、何気に殲滅と言いかけませんでしたか?」

「気のせいだよ、あまり狩り過ぎても生態系が壊れるから程々にね」

「やりますぅ!! やらせてくださいっ!! 昨日は失敗してしまいましたから」

「・・・そうね、今日こそは巧く狩って見せます」

「決まりだね、それじゃぁ下で朝食をとって依頼を受けよっかぁ」

「楽しみじゃのう、飛び散る肉片、血で染まる大地、弱者の苦しむ姿が目に浮かぶ・・・・」

「ヴェルさん、怖いよ? それに悪役じゃん・・・・・」

「所詮この世は焼肉定食なのじゃ」

「ワザと言ってるでしょ、つっこまないからね?」

「イケズなのじゃぁ・・・・・・」


 他人のベタギャグには厳しいセラであった。

 一同は朝食をとるべく部屋を出ると、そこには昨日の被害者と丁度対面した。

 これから彼も依頼を受けるのだろうと思ったが、ふとあの化け物の姿が脳裏を横切る。

 嫌な予感しかしない。


「あ、昨日はありがとうございました。御蔭で命拾いしました・・・・うぅ・・・」

「思い出さない方が良いよ? アレはさすがに酷い存在だから・・・蓋をしてゴミと一緒に捨てる気持ちでいた方が良い・・・そしてできるだけ近づかない事だよ・・・・クッ・・・」

「何故セラさんが泣くんです?」


 セラにとっても他人事では無かった。

 自分がもし、元の世界の姿でこの世界に来ていたら、まず間違いなくあの際物に襲われていた事が目に浮かぶ。セリスの身に起きた事は、ある意味では自分自身に起きる事と言っても過言では無い。

 セラは彼を他人とはどうしても思えなかった。


「君も依頼を受けるの? 見たところ駆け出しみたいだし、一緒に依頼を受けてみる?」

「えっ? いいんですか? でも、僕じゃあまり皆さんの役に立つとは・・・・・」

「数は力だよ? それに一人でいると奴に・・・・・・・・」

「お世話になりますっ!!」


 即決だった。

 余程トラウマと為ったのだろう、彼の目は猛獣に追われた草食動物の様に怯えきっている。

 化けボルグには格好の獲物だろう、それを知っているのか彼はセラと同行する事に迷いは無かった。何せ、この村はボルグの狩場(主に男)なのだから・・・・・


「あっ、僕はセリスと言います」

「僕はセラ、それとフィオちゃんとマイアちゃん、ついでにヴェルさん」

「我はついでなのかぁっ!? 酷いのじゃぁ!!」

「フィオです、よろしくお願いしますね、セリス・・くん?」

「よ、よろしくね、フィオさん」

「マイアよ・・・(姉さんに手を出したら殺す)」

「よ・・・よろしく・・・・(こ、こわい)・・・」

「聖魔竜ヴェルグガゼルのヴェルじゃ、我を崇めるのじゃド新人っ!!『ゴンッ!!』イタぁっ!!」

「りゅう?・・・よろしく・・・・(変な子キタ―――――――ッ!!)・・」

「それじゃぁ、朝食を済ませて依頼を受けようか。二人は昨日の失敗が無い様に、ヴェルさんとセリスは今日が初仕事だからあまり力まずに行こう」

「「「「はいっ!!(分かったのじゃ!!)」」」」


 今日の予定が決まり、皆で階段を降り一階に行くと、ボイルのズボンを下ろそうとするボルグの姿が在った。オネェの狂気は止められない

 一悶着あったが、セラ達は宿を出て村で朝食を済ませ、ギルドの受付へと向かい依頼を受ける。

 そして再び狩場へと足を踏み入れたのだった。


 余談ではあるが、セリスとボイルはこの日から村長の家に泊まる事と為った。

 これ以上ボルグの被害者を増やさないための最善の処置である。

 そして何より、セリスとボイルに村人達が同情してくれた事で二人の貞操は守られたのだった。

 絶えて久しい人情が熱い。

 ボルグがハンカチを咬み乍ら泣いたのは、本当にどうでもいい事である。





「こっちは僕が引き受ける、セリス君はフィオちゃん達と連携してっ!! ヴェルさんもそっちをお願い。」

「は、はいっ!!」「任せるのじゃぁ!!」


 セラがクラウパを引きつけている間に、フィオ、マイア、セリス、ヴェルさんはもう一羽のクラウパを仕留めるべく一斉に攻撃を仕掛けた。

 フィオとセリスが足元に斬り込み、マイアがそれを援護する。そこにヴェルさんが無骨な戦斧で息の根を止めるべく間合いを詰めて行った。


「往生するのじゃぁああああああぁつ!!!!」

 ―――――ゴパッ!!


 飛び散る鮮血と肉片が、狩場の草木や大地を深紅に染め上げた。


「「「またですか・・・・・」」」


 彼是狩場で4時間、十羽近くクラウパを倒しているがその内三羽がヴェルさんの手でミンチにされていた。ヴェルさんの手にする正体不明の戦斧はインパクトの瞬間に強力な力場を発生させ、クラウパを木っ端微塵に粉砕した。首だけが消し飛ばされたのはマシな部類で、残りの二羽は全て肉片へと姿を変えた。

 そして今が四度目である。

 魔力解放状態では無いのに威力が桁外れなのだ、物理攻撃力は【聖魔砲剣】を越えている。

 中級クエストで使う様な武器では無い、明らかに超大型魔獣専用武器である。


「ぬぅ・・・何故じゃ? これでは素材が取れぬではないか、この武器は威力が有り過ぎるのう」

「ノームさんが泣いてましたよ? 回収に時間が掛かるって」

「ヴェルさん、少し手加減してください」

「凄い威力・・・・・こんなの初めて見た・・・・・」


 ヴェルさんは無双するつもりは無いのだが、見た目以上の体力と正体不明の高威力の武器でどうしてもひき肉を量産してしまう。そのため損壊が少ないクラウパはセラが仕留めた物だけとなってしまう、それではせっかく多く倒したとしても素材の方での売り上げが落ち、ミンチに為ったモノは殆んど値がつかない。

 連続狩猟は数多く魔獣を倒し、その魔獣の素材の売り上げを含めて依頼金が増減する。

 倒した魔獣の状態を含めて評価されるので受け取る金額には波が有り、プラスマイナスの増減が激しい依頼なのだ。ただ闇雲に魔獣を倒し続けても、素材の状態や売り上げ予想金額次第で報酬の差の開きで、良くもめる事が多い依頼なのである。

 いかに効率よく状態の良い獲物を多く狩る事が出来るかでランクを上げる事が出来るので、今迄多くの冒険者が挑んで来たが、最後に物を言うのは装備と技量である。

 セラ以外は技量が不足していた。


「オカシイのぉ~ぅ、何故に一撃でミンチに? 我が強過ぎるのかえ?」

「身体的にヴェルさんが強いのは分かるけど、その武器の威力がパネェ~スッ、僕がボウガンを使ってる意味がわかった?」

「出来るだけ損傷の少ない状態でクラウパを倒す為ですか?」

「まぁ~ね、連続狩猟って金額的にも素材確保でも美味しいからね、素材の方は僕が狩るから皆は出来るだけ多くクラウパを倒してね」


 軽い口調で簡単な指示を出すセラだが、フィオとマイア、セリスは神妙な顔で考え込んでいた。


「僕の武器ではクラウパの相手は無理です、フィオさんやマイアさんほど魔法を使えないし、正直足手纏いですね・・・・・」

「ぬ~~逆に我は威力が有り過ぎるのじゃ、ミンチ製造機は無様じゃから早く抜け出さねば・・・・」

「ヴェルさんとセリス君の武器を取り換えてみたら?」

「「おおっ!!」」


 セラの放ったいい加減な提案はアッサリと受け入れられた。

 そして・・・・・


「よいぞ、よいぞっ!! ジャンジャンかかってこいなのじゃぁ!! ウハハハハハハ」

「凄いよこれ、一撃でクラウパに大ダメージ!! この戦斧欲しい」

「やらぬぞ、それは我のモノじゃ!!」

「分かってますよっ!!」


 彼是二人で三羽、連続で倒していた。

 フィオ、マイアコンビもセラの援護を受け二羽ほど倒し、セラも単独でクラウパを四羽倒していた。

 武器の交換は意外にも安定した戦力で狩りをスムーズに運び、群がるクラウパを問答無用で狩り続ける。入れ食いの無双状態である。

 

「姉さん、そろそろ休憩を入れないと魔力が底を尽きそうです」

「フィオちゃんはどう? ヴェルさんは無事そうだけど、セリス君はきついみたいだね」

「私もそろそろ休みたいです、流石にこの数はちょっと・・・・・・」

「流石にセラは慣れておるのう。我らよりも倒しまくっておる。向かうところ敵無しじゃな」


 繁殖期で増えたクラウパは、倒しても倒しても襲って来る。

 一定数まで間引くのがこの依頼の内容なのだが、どれくらい間引けば良いのかが未定なのだ。

 ギルドの観測班が調べて条件に達したかを提示しない限りこの依頼は続く事に為る。

 依頼内容では二羽以上倒せば依頼をクリアーした事に為るのだが、セラがそう簡単に引き下がるつもりは無い事は明白であり、休憩を終えた後も暫く狩り続ける気満々なのだ。

 駆け出しの地獄の訓練は続く・・・・・





 岩場に囲まれた安全なキャンプ場で昼食を取ったセラ達は、動き続けて疲労がたまった体を回復アイテムで回復させ、つかの間の休息を取っていた。


「冒険者登録をして一日目、初めての仕事が中級者の依頼なんて・・・・死にそう・・・」

「セラさんの援護が有っても大変ですぅ・・・・・この後もまだ続くんですね・・・・・」

「あたしも武器は弓に変えようかしら・・・・・体力的に辛いし・・・・」

「デメリットばかりではあるまいて、この分なら我らにも装備一式作れる素材が手に入るのじゃ! 資金的には厳しいが何とかなろうて、ウハウハじゃ!!」


 セラは受けた依頼を今日一日を掛けて出来る限り果たす積りであった。

 クラウパの大量繁殖は生態系を大きく崩し、村の生活を圧迫する最悪の事態を招きかねない。

 下手をすれば村人にまで被害が拡大し、更に言えばこのミール村が地図の上から消える事にもなる。

 セリスにとっても他人ごとでは無く、この繁殖が自分の故郷の村に広がる恐れがあるのだから引く訳にはいかなかった。


「クラウパの大量繁殖は毎年酷い有様なんですよ、畑や家畜は荒されるし村も襲われるし・・・知り合いのおじさんが喰われた事も有ります。減らさないと大変な事に為るんですよ」

「分かってはいるけど・・・数が多過ぎるわ・・・・」

「そうですねぇ・・・・・セラさんとヴェルさんの武器で何とか持ちこたえているのが現状ですし・・」

「どの道逃げる事は出来ぬぞ? アレを見るが良い・・・・」


 弾倉に矢を込める危険な目のセラ。

 そばには幾つかのマガジンが重なっており、矢を込め終えると【ゴルド・ドラグーン】を入念に整備し始める。まるで何処かの戦場のスナイパーの如く、その表情は危険な香りに満ちている。

 近づく勇気が湧いてこない。

 そこに居るのは紛れも無いプロのハンターであった。


「・・・・・僕、回復薬持ってないんですけど・・・使い切って・・・・」

「あたし達のを分けるわ、結構残ってるからフィオの分も分けて貰えば、今日一日位は持つと思うわ」

「どれ位要りますか? この間まで作っていたから余裕が有りますよ?」

「作ったって・・・錬金術師なの? 其れとも薬師?」

「セラさんに教えて貰ったんです! 覚えると便利ですよ?」

「凄い人なんだね・・・どこかオカシイけど・・・・」

「それがセラじゃ!! 頭のネジが全てぶっ飛んで『ヒュッ!!』ひょあぁ!?」


 何かがヴェルさんを翳め背後に突き刺さった。

 振り返ると背後の岩にボウガンの矢が深々と刺さっている。

 恐る恐るその射線の先を見ると・・・・・セラがボウガンを構えていた。

『狩られるっ!?』この時ヴェルさんはそう思ったと後に語る。


「さて、大分休めたしそろそろお仕事しますか」

「待てセラ、お主、今我を狙わなかったか!?」

「日が暮れるまでに出来るだけクラウパの数を減らしてお開きにするよ、武器の手入れは済んだ? 砥石で切れ味を戻した? トイレは『聞くのじゃぁ!! ギリギリで翳めて行ったぞっ!!』準備ができ次第狩りに行くよ」  

「話を聞けぇ!! 何で無視するのじゃ、我を殺す気じゃったのかっ!?」


 喚く幼女をスルーしてセラは【ゴルド・ドラグーン】を背中に背負う。

 

「そろそろ行くよ、準備はいーい?」

「「「はい、出来てますっ!! サー!!」」」

「我の質問に応えぬかっ!! 酷いぞっセラぁ!!」   

 

 暫く会わない内に、適当な扱いを受けるようになったヴェルさんだった。

 その後されらに十羽ほどクラウパを倒し、ミール村の村民を驚愕させる事に為ったが、セラとヴェルさん以外は疲労で満身創痍の状態で帰還する事に為った。

 ・

 ・

 ・

 ・

「また大量に狩ってきやがったな・・・まぁ、俺達にとっては助かるが・・・・・」


 二十羽以上持ち込まれたクラウパに、解体場のオヤジも驚きを通り越し呆れていた。

 ミール村の解体場に居る作業員はロカス村よりも多いが、それでもこれほど大量に持ち込まれる事は初めての事であった。しかしながら素材や肉、骨にすら使い道が有り村の収益になる為、これは嬉しい珍事である。作業が一時混乱する事には為るが、得られる利益を考えれば喜ばしい事なのだ。

 何よりもクラウパによる被害が激減する事で、村人は安全に農作業に勤しむ事が出来る。

 出来ればもっと狩り尽くして欲しい所である。


「すみませんね、つい熱くなっちゃって・・・・・」

「気にすんねぇ、被害の事を考えりゃぁ寧ろありがてぇ」

「解体は何時頃終わりますか?」

「この数からいって大体三日ってところか? 出来るだけ早めに終わらせてやんよ」

「お願いします」

「素材の受け取りはどうすんだ?」

「僕の分は売り捌いていいですよ、お金の方が良いですから、あと装備を作れるだけの量は僕の仲間に渡してください。骨は各自一頭分、肉は全て売りです」

「あいよ、取り敢えず昨日の【アーブガフ】の素材は受け取っといてくれや! 昨日のクラウパは、言うまでもないか」

「早いですね? まぁ、あのクラウパは素材と呼べるところはありませんからねぇ~」

「まったくだ・・・長い事この仕事をして来たが、あんなヒデェ状態は見た事ねぇ・・・・・」

「お恥ずかしい限りです・・・・」


 セラとオヤジの会話を後ろで聞いていたフィオとマイアは、顔を赤らめて俯いていた。

 昨日の失敗を蒸し返されて恥ずかしいのである。


「昨日何をしたんです?」

「「聞かないで(ください)・・・・・」」


 セリスの素朴な質問に、二人はそう答えるしかなかった。

 黒歴史は何時までも語り継がれるものである。




【ゲイ・ボルグ亭】に戻ったセラ達は、狩りの疲れを癒すために風呂に入っていた。

 湯船に肩まで浸かったセラは、何処か幸せそうにお湯に身を委ねている。


「風呂はいいねぇ~ローマ人が生み出した最高の悦楽だよ~♡」

「フィオ、石鹸とって」

「はい、マイアさん」

「にゅふぅう~~ぅ、実際にはいる風呂とは格別じゃのう、極楽極楽~♡」


 自然に女の子と風呂に入るセラは、自分自身がしている事に疑問すら思わない様になっていた。

 既にどこか壊れ始めているのかも知れない。

 ヴェルさんはお湯の中でプカプカ浮かんでいる。

 暫くお湯の暖かさを満喫していたセラだが、元々長時間風呂に入っている趣味は無くに十分くらいで上がろうとした。


「おぉ、そうじゃセラよ」

「ん~何ヴェルさん?」


 不意にヴェルさんに声を掛けられ、セラは振り返った。


「実はの~う、前からやりたかったことが有るのじゃが・・・」

「やりたかったこと?」

「うむっ、風呂場でしか出来ぬ事じゃ! そんな訳で・・・とうっ!!」

「うにゃあぁああああっ!?」


 突如ヴェルさんはセラに飛びつき、セラの胸にグリグリと顔を押し付けた。


「ちょっ!? ヴェルさん、何してんのぉっ!?」

「にゅふふふ~パフパフじゃ!! パフパフをしたかったのじゃ~~♪ え~のう、えぇ~のう♡」

「やめっ、ひゃん! ダメだって・・・・」

「嫌よ嫌よも好きの内、え~か~これがえ~のんかぁ~?」

「ひやぁあああっ!? なにしてんのぉっ!? そこはっ・・んんっ!・・」


 ヴェルさんはセラの胸を思う存分に満喫する。

 セラにとってはまさかの伏兵であった。


「・・・・・いいなぁ~楽しそうですねぇ~セラさん?」

「・・・・・(あたしもやってみたい)・・」

「フィオちゃん!? マイアちゃん!?」

「お主等も参戦するかのう、ムニムニのパッフパフじゃぞ?」

「「いいんですかぁ!?」」

「セラの胸は皆で堪能するのじゃ♡」

「僕の意思は無視!? やばいからっ!! 本当にこれヤバイからぁああああっ!!」


【ゲイ・ボルグ亭】の風呂場内で百合の花びらが咲き誇る。

 前門はヴェルさんにパフられ、左右からはフィオとマイアに抑えられた。

 最早逃げ場のない獲物に、幼女と少女が迫りくる。

 ・

 ・

 ・

『ふあぁ~~パッフパフ~セラさん凄~い♡』

『次は私です・・・ふぁあ~~柔らか~い♡』

『ら、らめぇ~それひりょうはぁ~りゃめらっれぇ~~』

『にゅふふ~マイアよ、思う存分にセラに甘えるが良いのじゃ!』

『はひ・・・ねぇ・・さん・・』

『アッ、ひゃん! んんぁ~りゃめ、らめぇ~~~~~~っ!!』


 ボルグは宿のカウンターで頬をつき、聞こえて少女達の饗宴に耳を澄ませていた。

 愁いの帯びた表情でカクテルを徐に口につける。


「・・・若いって・・・良いわねぇ~~……」


 野太いオネェ口調でそう呟くと、カクテルを煽りカウンタに倒れ込む。

 少女達の無自覚な秘め事を最悪のオネェだけが聞いていた。

 ミール村の夜は更けてゆく・・・・・

 セラはまた一つ大事なモノを失ったのだった。

 ・・・・・何か駄目な方向にいつてる様な・・・

 暫くはこの調子になるのだろうか? マジな話に持っていくのがキツイ。

 う~~ん 病んでるなぁ~~

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