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 ドアを開けると、そこはデンジャーでした ~オネェに関する怖い話~

 ワルノリしました。

 ここは世界の外側の世界。

 幾つもの世界が個から生まれ、無限に広がり膨張し、最後には儚く消えてゆく始まりにして終焉の世界。

 その広大と言う言葉すら意味を持たない世界の一角に、唯一存在する知的生命体が二柱存在した。

 一柱は御存じ最強の【暇神】、もう一柱は一つの世界に必ず存在する知恵ある獣にして守護者、【聖魔竜ヴェルグガゼル】こと通称ヴェルさんである。

【暇神】もしくは【駄神】は今日も積み上げられたDVDを鑑賞し、ヴェルさんは何故か疲れた表情(見た目がドラゴンなので分かり辛い)で息絶え絶えに消耗していた。


「ふ、ふふふふ・・・ついに極めたのじゃ、これで我も・・・・・」

「よかったねぇ・・・・ぷっ! あはははははははははは」

「何がおかしいのじゃっ!! 我は此処まで頑張ったのじゃぞ、少しは真剣に労おうとは思わんのかっ!?」

「いや~やっぱり奇〇組は面白いわぁ~~単行本も良いけどアニメサイコ――!!」

「・・・・・気持ちは分かるが・・・何か腹立つのじゃ・・・・」


 何やらヴェルさんだけが苦労していたようだが、【駄神】はいつも通りの平常運転。

 最強の竜種も流石にキレそうに為る。


「エンディングも悪くない終わり方だし、これは名作だと思うわけよ」

「それは同意するが、何故に次がウィ〇グマン? 古すぎると思うのじゃが?」

「何となぁ~く見たくなってねぇ、何度も見てたら愛着がわいて」

「お主この間『主人公が男のくせに新体操をやるのはいただけない、レオタードを着せるのも如何よ』と言っておらんかったか?」

「それさえも最近は良いと思えるようになってきたの、道を極めつつあるわね」

「何の道を極めるつもりやら・・・・」


 ヴェルさんもこの世界に来て流石に慣れたのだろう。

 呆れはしても、あまり派手なツッコミはしなくなっていた。


「それよりも、修行が終えたらGガンを見せる約束じゃろう? それと、と〇ちん〇んもじゃ、お主忘れたわけではあるまいな・・・・・」

「え~~じゃぁ、これを観終わったらねぇ~、そう言えば死〇くんドラマ化したよねぇ~~」

「我としては原作の『迎えに来たぜ』のセリフが出なかったのが不満じゃ、それよりも早く見せるのじゃぁ、我がどれだけ我慢したと思っておるのじゃっ!!」

「え~~~や~~だ~~~~~~~!」

「いいから早く見せるのじゃぁっ!! でないとまた世界を滅ぼすのじゃぁ!!」

「そんな理由で世界を滅ぼさないでっ、再生させるのにどんだけ手間がかかると思ってんのっ!!」

「知らぬっ!! 我は自分に正直に生きるのじゃ」

「うわぁ~~~何て身勝手な・・・・・」

「お主に言われとうないっ!!」


 高位次元世界は今日も平和だった、無限に存在する世界は常に危機的状況だが・・・・

 この後キレたヴェルさんによって幾つもの世界が消え、【駄女神】によって再生される事に為ったのは言うまでもない。






 話はセラがミールの村に戻って来る少し前に遡る。

 日も落ち始め辺りが赤く染まるころ、一人の新人冒険者がこの村を訪れた。

 新人特有の安物の武具を纏い、狩りに行くには心許無い剣を腰に差し、数時間かけて歩いて来たのかその顔には疲労の色が浮かんでいた。


 彼の名はセリス。

 ミールの村から徒歩で一日の距離にある、名も無い村から来た少年である。

 栗色の髪と大きな瞳、小柄で童顔な彼は良く少女と間違えられる不憫な、ある方面には需要がある少年だ。

 当然ながら幼い頃から虐めの対象に為り、それ故に冒険者に強い憧れを持つようになった。

 剣を習い、懸命に努力した彼は13歳になり、冒険者の資格を取り、初めての依頼を受けるためにこの村まで来たのである。

 セリスの村にはギルドは無く、冒険者になる手続は出来ても依頼を受ける事は無理であった。そのためミール村のギルドまで足蹴く通わねばならず、一人での依頼を受けるのはこれが初めての事であった。

 

「やっと着いた・・・長い道程だった・・・・・」


 村が近いとは言え一日を掛けて歩いて来たのだ、疲労も溜り休息をしなければ倒れそうなほど弱りきっている。其れなりに経験を積んでいる冒険者なら三日は歩き続けても平気なのだが、彼にはまだその体力が不足していた。


「早く宿を見つけないと日が暮れちゃうよ・・・・・」


 セリスは疲労で重くなった足を引きずるような思いで足を進める。

 村は活気に溢れ、そこかしこに見かける冒険者に目を取られながらも宿を探すがどれが宿屋なのかが判らない。

 大きな町であれば宿の看板は目立つように掲げられているのだが、ミール村の宿には申し訳程度の小さな看板が入り口の横に掲げられているだけで、始めて来る外客には見つけ辛い。

 案の定彼は三軒ほど宿を通り過ぎてしまった。

 仕方なく露天商に話しかけて宿の場所を聞く事にしたのだ、それが悪夢の始まりであった。


「すみません・・・・・・」

「何でぇ嬢ちゃん、何か入用か?」

「いえ、今し方この村に着いたんですが・・・・宿は何処に在るか教えて欲しいんです」

「宿ねぇ・・・今は何処も開いてねぇとおもうぜ、お前さんの様な新人が山ほど来てるからな」

「えぇ!? どうしよう・・・・・野宿はさすがに危ないし・・・・」


 本気で困り果てるセリスに、露天商のオヤジは一軒だけ心当たりのある宿を教える事にした。

 この時オヤジは致命的なミスをした事に気付かない。

 まず一つがこれから教える宿が異常な場所である事、そしてもう一つがセリスの性別を間違えた事である。このオヤジは親切心と女だから大丈夫と云う勘違いから判断を下した。

 其れが悲劇にの幕開けになるとも知らず・・・・・・・。


「この先の道を左に行った外れに宿がある。そこなら泊まれると思うが・・・・いいか、何が合っても気をしっかり持て、あそこは少し・・・いや、かなり変な宿だ」

「え゛? 変? ま、まぁ、宿があるんですよね?」

「ある事にはあるが・・・あまりお勧めしたくない宿なんだよ、まぁ嬢ちゃんなら大丈夫とは思うが・・・念のため、何かあったら全力で逃げろ・・・・」

「は、はぁ・・・? 分かりました・・・宿に泊まれるだけマシと思います・・・・」

「くれぐれも気をつけろよ?」

「はっ、はい、ありがとうございます・・・・・・」


 露天商に別れを告げ、セリスは歩き出す。

 彼は露天商に教えて貰った道を行くと、そこには確かに宿が建っていた。

 宿名は【ゲイ・ボルグ亭】、村外れに建つそれなりに不陰気の良さそうな宿であった。

 そう、見た目だけは・・・・・・。 


『あぁ~ん♡ もう、逃げなくてもいいじゃな~い。ボイルのて・れ・や・さん♡』

『ふざけんなっ!! 半日も追い掛け回しやがって、其れに何でドアが開かねぇ!!』

『良い男は逃がさな~い、乙女の嗜みよぉ~ん。だからボイル~もう観念しなさぁ~い♡』

『鍵に細工してんのかっ!? ヤベェ、セラが戻るまで逃げ切る自信がねぇっ!!』

『早く一つになりましょうよぉ~~気持ち良いわよぉ~~ん♡』

『く、来るな、来るんじゃねぇ――――――――――――っ!!』


 宿から聞こえる怪しい会話にセリスはドアを開けるのを躊躇する。


「な、なに? 何が起きてるの? 何か嫌な予感がする・・・・・」

 

 ここでドアを開けなければ悪夢を見ないで済んだのかも知れない。

 此の侭立ち去れば引き返す事も出来たのだ。

 しかし彼は疲労と僅かな好奇心に負け、目の前の扉を開き人外魔境へと踏み込んでしまう。


 ―――――ガチャ・・・・

「す、すみませ~ん、今晩この宿に泊まりたいんです・・が・・・・・・っ!!」


 そこで彼が見た物は、半裸で無精ひげの体格の良い男を組み伏せ、最後の一枚を脱がそうとするガチムチマッチョのどぎつい化粧をした、角刈り全裸の【オネェ】であった。

 異次元に入り込んでしまったセリスは其のまま硬直し、ボルグはセリスをマジマジと観察している。

 この時ボイルの貞操は守られたのだが、新たな悲劇が幕を開けたのである。


「あらぁ~ん、何て可愛いお客さん♡ これは丁重にお・も・て・な・し・しないといけないわねぇ~ん」


 そう言いながら傍に吊り下げてあるロープを引くボルグの目は、怪しい光を湛えていた。


 ――――――ギィィィィィ・・・・パタン・・・・

「!?」


 セリスが背後を振り返るとドアは勝手に閉まり、何度ノブを廻しても開ける事が出来ない。

 既に退路を断たれ、彼は今新たな獲物に変わったのだと知る。


「大丈夫よ、あたしの可愛いPrettyboy、素敵な快楽を教えてあ・げ・る♡」

「あ・・ああ・・・・」


 優しげな眼で近づいて来るガチムチのオネェに、セリスは言い様の無い怖気を感じた。


「最初は痛いかも知れないけど・・・直ぐに気持ちよくなって来るからねぇ~ん(ペロリ)」

「ひ、ひぃっ!!」


 セリスを前に舌なめずりをする化け物に、凄まじい恐怖が湧き上がる。

 逃げなくては食われる、そう判断したセリスは何度もドアノブを廻すが、彼を嘲笑うかの如くドアが開く事は無かった。

 恐怖におびえる彼を抱きしめ、ボルグはセリスの尻を撫でる。


「ヒィッ!?」

「あら、感じやすいのねぇ~でも大丈夫、怖くないわよぉ~~ん♡」

「ア・アア・・・・・・」


 逃げたくとも逃げられない、恐怖で体が硬直してしまったのだ。

 蛇に睨まれた蛙はこんな心境なのだろうか。


「こんなに怯えて、か・わ・い・い♡ あたしが素敵な事を教えてあ・げ・る♡」

「ア、アアア、アアアアアアアア・・・・・・」

「あたしの愛を受け取って~~~~~~~ん♡」

「ア――――――――――――――――――ッ!!・・・ア・・・アア・・・」


 再び舞い散るバラの花びら。

 夕暮れのミール村に悲壮な少年の叫びが響いた。

 ・

 ・

 ・

 ・

 そして時間は戻る。

 狩猟を終えて戻ったセラの目の前には、全裸のオカマと涙目のセリスの哀れな姿が飛び込んで来た。

 目は虚ろで涙を流し、はた目からは事後に見える。

 最後の一枚だけは辛うじて無事ではあるが、その前に受けた精神的苦痛は如何程のモノか・・・・


 ドアを開けその悍ましき宴を目にし、凍り付いていたセラの思考は何とか復旧、かろううじて現状の把握に努める。

 正直に言えば、ボルグと話などしたくも無い。

 しかし、二人も犠牲者を出したとなれば早急に対処しなければならない。

 何よりフィオとマイアの教育上、決してよろしくない存在であった。

 これを機に二人が腐女子に覚醒でもしたら親御さんに申し訳が立たないのだ。

 セラは恐る恐るボルグに話しかけようとする。


「ぼ、ボルグさん・・・・あんた・・・何を・・・・」

「ああん、もう! もう少しでファイナル・フィニッシュだったのにぃ~残念。空気の読めない子猫ちゃんねぇ~無粋だわぁ~ん」

「・・・ボイルさんも・・・ま、まさか・・・・」

「俺は辛うじて大事なモン守ったぞっ!! その坊主の御蔭で命拾いした・・・・・」

「た、助けなかったんですか・・・・・?」

「・・・・・出来ると思うか?・・・・・」

「・・・・・・・・無理・・」


 愚問だった。

 このイカレタ変態に理屈や実力行使が通用するとは、セラには到底思えなかった。

 ボイルに出来る事は、この悍ましき宴をただ震えながら見守るしか無かったに違いない。

 この少年は運が無かったのだ。

 セラは憐みの篭った眼で、半裸の少年に心底同情した。


「ボルグさん・・・アンタは何も知らない見ず知らずの少年を襲ったんですか?」

「何を言っているのよぉう、彼はもうあ・た・し・の恋人よぉ~ん♡ 部外者に指図される謂れはないと思うのぉ~ん」

「じゃあ、彼の名前は?」

「・・・・・・」


 宿に入って来て間もなく襲ったのだ、名前を知るはずも無い。


「アンタは、名前も知らない少年を恋人だと言い切る心算ですか?」

「・・・・・・・・」

「襲ったんですね?」

「・・・・・・・・」


 セラの尋問に、ボルグは汗を大量に流しながら顔を背け続ける。


「宿に宿泊しようた幼気な少年を同意も無くその場で襲い。あまつさえ、彼の心に治す事すら不可能な傷を刻み、なおかつ自分勝手な趣味を無理矢理押し付けた挙句、恋人だとほざく心算ですか?」

「・・・・・・・・・・・」

「アンタ・・・それは只の強姦・・・犯罪ですよ?」

「う、うううう、うあああああああああああああん!!」


 被害者の少年は漸く助かった事を自覚したのか、その場で泣き崩れた。


「ボルグさん・・・・アンタぁ、コレでも自分は白だと言い切る気ですか? 被害者がいるんですよ、いい加減観念して吐いたらどうなんでぇ」


 セラの口調が段々とべらんめぇに変わって行く。


「おうおう、ボルグさんよぉう、此処まで証拠が出そろってんだぁ、いい加減に白状したら如何なんでぇ。襲ったんだろぉ? 思わずムラッと来て犯っちまったんだろぉ? もう白を切るこたぁできねぇんだよ、さっさと認めろやぁ!!」


 ――――――バンッ!!

 セラは思いっ切り強くテーブルを叩く。


「・・・・・いいじゃない・・・・」

「あぁん?」

「別に良いじゃ無いっ!! 愛さえあれば名前なんか知らなくったって、あたしは自分の愛に正直に生きただけなのよっ!! それのどこがいけないって言うのよぉ!!」

「アンタの考えを無理やり押し付けた挙句に襲った時点で有罪だぁ!! 其処に愛なんてぇ、アンタは自分が快楽に浸りたいだけだろうが、それは只の犯罪だぁ!!」

「それの何処が悪いのよっ、最後は皆気持ちよく為ってくれたわ!! あたしの愛は正しい、あたしの考えを認めない世界が間違っているのよっ!!」

「その結果、アンタはこの宿で独りぼっちか?」

「!?」


 セラのボッチ宣言がボルグに突き刺さる。


「この宿にも従業員が居たんだろぉ、じゃぁなんで今はアンタ一人なんでぇ。アンタの考えが正しいって言うなら、従業員が居なくなる事が無いんじゃねぇのか? ん、オカシイじゃねぇか」

「・・・・そ、それは・・・」

「大方アンタは従業員を襲ったんだろ? そして全員が辞めて行った・・・これが真実だ、アンタのして来た事事態が間違っていた証拠だっ!! 認めろよ、アンタに愛は無いっ!! あるのは快楽を求める歪んだ嗜好だけなんだってなぁ!!」

「ち、ちが・・・」

「じゃぁ、何で名も知らないその子を襲ったんだよ、愛とやらは何処に消えた?」

「!?」


 さめざめと泣く少年を指さし、決定的な証拠を突き付ける。

 セラに追い込まれて行くボルグ、最早言い逃れは効かない。


「アンタはただ快楽が欲しかっただけだ、その中に他人の心を思いやる意思何て欠片も存在しない。如何でもよかったんだよ、ア・ン・タはっ!!」


 刑事ドラマか、はたまた時代劇の御白州か、ボルグは完全に追い込まれた。


「くっ、そうよ、あたしはただ男の体が目当てよ、それの何処が悪いのよ!!」

「「開き直りやがったよっ!!」」


 セラもボイルも呆れ果てた。


「男はみ~んなあたしの恋人、全ての男のお尻はアタシの物よっ!!」

「「しかも最悪だぁ!! 更に最低だぁ!!」」


 ボルグに愛なんて存在しなかった。

 彼はただひたすら、狂おしいまでに純粋に男の尻を求めているだけだった。

 人はそれを狂気と言う。


「そんな訳で美少年く~ん♡」

「ひぃっ!!」

「あたしのドリルを受け止めて~~~~~~~~~~~~んつ♡!!」

「い、いい、いやだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 開き直ったボルグは其のまま一気にル〇ンダイブを敢行する。

 だが・・・・


 ――――――ヒュッ!! ガスっ!!


 風切り音と何かがぶつかる様な音と共に、ボルグは壁際まで弾き飛ばされた。

 少年セリスが目を向けると、そこには【ゴルド・ドラグーン】を構えたセラがいた。

 セラはノーモーションから瞬時に【ゴルド・ドラグーン】をボルグにブッぱなしたのだ、しかも魔力解放状態でだ。

 完全に仕留める気である。


「あぁ~ん、いった~~い♡」

「「ば、馬鹿なっ!?」」


 セラとボイルは驚愕した。

 変態は生きていた。

 如何なる魔獣の外殻にすら貫通する強力な一撃を後頭部に受けてピンピンしていた。

 ついでにドリルもぴんぴんしていた。

 

「・・・・・・・ふ――――――……」

「マイアさんっ!?」


 悍ましきモノを直視し、マイアは気絶してしまう。

 如何やら今迄直視しない様にしていたようだ(というより、誰もバケモノのヌードなど見たくはないだろう)、直ぐにフィオが介抱にはいる。


「マイアちゃんっ!! おのれ化け物め、よくもマイアちゃんに悍ましいモノをっ!!」

「あたしは何もしてないわよぉ~~失礼しちゃうわぁ~~~ん」

「黙れ変態っ!! 死ねおやぁ―――――――――――っ!!」


 連続して矢を放つセラ、しかし・・・・・


「ハッ、ホッ、フンっ」

「ばっ、馬鹿な・・・・・・・」


 セラは唖然とした。

 寄りにも寄ってセラの放った矢が全てボルグの体に弾き返されたのだ、尋常ではない頑丈さだ。


「中々痛いわぁ~ん、でもその痛みがちょっぴり、か・い・か・ん♡」

「・・・・・ボイルさん・・・アレは本当に人間ですか? 何処かの錬金生物じゃないんですか?」

「・・・・昔は人間だったと思うんだがなぁ・・・・見ての通りだ・・・・・」

「・・・・・やはり化け物・・・」

「失礼ねぇ、こんな乙女をを前に何処が化け物よっ!! でも矢は通用しないわよぉ~ん、あたしが礼儀を教えて、あ・げ・る♡」


 一々ポーズをとりながら喋るボルグに、セラの不快値数は限界に達した。

 そしてとうとう奥の手を出す。

 無限バックから取り出した武器、お馴染み【聖魔砲剣ヴェルグガゼル・レジェンド】である。


「お、おいっ!?」

「セラさんっ!?」

「魔力解放・・・・・」

「あらぁ~ん、何かヤバ気なよ・か・ん」


 聖魔砲剣が開放した莫大な魔力の奔流が、狭い宿の中を吹き荒れる。

 その威力は一撃で村を消し飛ばすほどである、危険なんて代物では無い。


「光になれぇ――――――――――――――――つ!!」

 ―――――シュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!


 必殺の【ディストラクション・バースト】が炸裂した。

 莫大な魔力を破壊エネルギーに変換して放つ極大の閃光がボルグを包み、宿の壁を衝撃波と共に粉砕、村の防護柵をブチ抜いた揚句に森の奥深くに着弾。

 それだけでは終わらず、着弾地点を中心に凄まじい爆発が起きた。

 常軌を逸した熱量が周囲を焼き尽くす。


「や、殺ったか・・・・・?」

「ボイルさん、それはフラグです・・・・」


 二人は目の前に生まれた煉獄をただ見つめている。

 だが未だに燃えさかる炎の中に、此方に近づいて来る影を見付けた。


「まさか・・・そんな・・・・」

「嘘だろ・・・アレを喰らってボルグの奴、なんで生きてんだ・・・・・・」


 二人は自分達の常識が崩れる音を確かに聞いた。

 ボルグは灼熱の炎の中をポーズをキメながら悠然と歩いて来たのだ。

 二人は悟る。

 この化け物を滅ぼす事は不可能だと、消滅させる事など出来ない存在だという事を・・・・・

 

『森が・・・森が燃えている・・・・』

『何の騒ぎだよ、て・・・・・ボルグじゃねぇか!? また何かしやがったのかっ!!』

『何であの火の中を歩けんだよっ!! 奴は化け物かっ!!』

『うわぁああああああああああっ!! 来るっ、奴がくるぅ――――――――ッ!!』

『男は全員避難しろっ!! 尻を狙われるぞっ!!』


 砲撃の爆音を聞きつけご近所さんが様子を見に来たようだ。

 だが会話の内容から村人にボルグがどう思われているのかが判明した。

 彼は村人にもその毒牙を向けていたようである。

 一体何人犠牲者を出しているのか・・・・・・・


 さながらどこぞの汎用人型兵器か、はたまた世界を七日間炎で焼き尽くした化け物か、彼のポージングと歩みは止まらない。いや、止められない。


『今のはちょぉ~~と効いたわよぉ~~~ん。お返しにぃ、あたしのスペシャルアタックを教えてあげるぅ』

「・・・・・拙いぞセラッ、奴を倒す決定打が無いっ!!」

「切り札を使ったのに・・・・・どんたけ化け物なんですかっ!! もう人じゃ無いっ!!」


 セラは咄嗟に無限バックから全ての【砲剣】をぶちまける。


「魔力解放っ!!」

「無駄よぉ~~~ん、無駄無駄無駄ぁん♡」


 ガチムチ全裸の【オネェ】が、笑みを浮かべながら乙女チックに走り出す。


「南無三・・・・」

 ―――――DoGOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!!


 天地を揺るがす破壊の猛威。

 セラは全ての【砲剣】をフルバーストしたのだ。

 一定の範囲だけが世界の終末を思わせるような地獄絵図と化した。

 

「アハァ~~~ン、無駄だと言ってるでしょぉ~~~~ん」

「「ナニィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィッ!!」」

 破壊の嵐の中を空中一回転をしながら悩ましげなポーズをキメ、セラ達を上空から襲い掛かる。

 セラは周囲を見渡し、其処にデッキブラシを確認すると直ぐにそれを拾い、ボルグに向かって突き出す。それはただの偶然であった。

 

「アフ~~~ン♡」


 時が一瞬だけ停止する。

 セラの突き出したデッキブラシが、ボルグのドリルに直撃していたのである。

 しかも爆風で加速し空中から勢いよく飛んで来たために、その破壊力は蹴られる時の数十倍。

 男であれば確実に涅槃に旅立つ事間違いなしの威力だった。

 ボルグはそのまま床に叩き付けられ気を失う。


「殺った・・・のか?」

「生きてますよ、人聞きの悪い。しかしとんでもない人ですね・・・・人間とは思えない・・・」

「これが最後のボルグとは思えねぇ、もしかしたら第二、第三のボルグが現れるかも知れない・・・」

「やめてくださいよ、そんな悍ましい想像したくも無いです」

「だな・・・こんなのが何人もいたらたまらん・・・・・」

「この人、何で最後は嬉しそうだったんでしょうねぇ・・・・・」

「知らん・・・知りたくも無い・・・・」


 こうして悪夢は終わった。

 これだけ騒ぎを起こしても、ボルグは次の日には平然と復活していた。

 変態にコレ以上関わりたくないとシミジミと思うセラであった。



 世界の外側、高位次元の一角で、【暇神】モニターの前で突っ伏していた。

 モニターに映るのは悩ましげにポーズをキメるボルグの姿である、流石の【神】もボルグの存在を見て精神崩壊を起こしていた。


「・・・・・のう・・・これは本当に人間かのう?・・・・」

「・・・・うぅ・・・」

「明らかにセラよりもチートなのじゃが・・・・・お主、何かした?」

「・・・・嘘でしょ?・・・信じらんない・・・こんな馬鹿な事って・・・・」

「何か知っておるのか?」

「知ってるも何も、コイツ抗体よ? でも変な方向に狂ってる・・・・」

「抗体とは世界の自浄作用により現れる修復者の事であったな・・・・これがかえ?」

「あたしもビックリよ、抗体その物がバグるなんて・・・・・」

「抗体は確か、もう一つの呼ばれ方をしておったのう・・・・」

「えぇ・・・・【勇者】よ・・・・・」

「あの異常な防御力は?」

「勇者の力によるものよ、しかも過去最高の力を持ってる。優樹君、よく勝てたわね・・・・」

「アレが勇者・・・戦いたくないのぉ・・・負けたら恥じ以外の何者でも無い、おそろしや・・・・」

「こんな勇者、アタシは認めない」

「この勇者が一人だけとは思えぬ、第二、第三の勇者が・・・・・・」

「やめて・・・お願いだから・・・・・」


 神にも予想できない物が存在していた。



 



 ある町の一角、月夜の通りを一人の男が上機嫌で歩いていた。

 彼は冒険者であり、今日は大物を倒しその報酬で懐が温まっていた。

 つい先ほどまで仲間たちと飲み明かし、ほろ酔い加減で宿へと向かう途中である。

 彼は近道をしようと大通り傍の横道を曲がり、狭い裏通りをふら付きながらも歩き続ける。

 ふと、彼は前を見ると、そこには一人の男が立ち塞がっていた。

 いや、背後に二人、彼は挟み込まれる。

 宵闇が月明かりに晒され、裏通りを明るく照らす。


「ひっいぃっ!!」

「はぁ~い、ようこそ薔薇の楽園へ、アタシ達が歓迎するわぁ~ン♡」

「貴方の事、前から見てたのよぉ~~大丈夫、心配いらないわぁん」

「直ぐに気持ちよくして、あ・げ・る・♡」


 彼の前後をガチムチタンクトップ、ビキニパンツのドギツイ化粧をした三人の【オネェ】に挟まれた。

 

「ア・・・アアア・・・・」


 あまりの悍ましさに、彼の体は硬直してしまう。


「震えちゃって、可愛いわねぇ~~ん、アタシ・・・我慢できなくなっちゃうぅ♡」

「カードで決めたでしょ~う、初めてはアタシの物よぉ~~ん♡」

「そんなのぉ~もう関係ないわぁ~~ン♡ あたし、もうビンビンなのぉ~ん♡」

「ア・アア・・アアアアア・・・・アアア――――――――ッ………」

「「「さぁ、お尻愛になりましょぉ~ん♡」」」

 彼に迫る三人の【オネェ】。


「「「いっただきまぁ~~~~~~~す♡」」」  



 ア――――――――――――――――――ッ・・・・・………♂



 その日・・・・一人の男が道を踏み外した。

【ゲイ・ボルグ亭】の元従業員の手によって・・・・・狂気は感染する。 

 哀れな男の末路を満月だけが見ていた・・・・・・・・。

 馬鹿な話は書いていて楽しいのです。

 次はヴェルさんを活躍させたいと思っています。

 いや、セリス君の方が良いかなぁ・・・・悩むぅ・・・

 

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