新人コンビの初狩猟 ~過ぎたる技術は黒歴史を生む、心当たりはありませんか?~
二話連続投稿
二回目
ミッドガルド。
この世界は便宜的にそう呼ばれている。
別に北欧神話の神々がこの世界に居ついたとか、そんな訳では無い。
誰が呼ぶようになったかは定かではないが、いつの間にかこの名が定着していたのだ。
この世界は魔獣と呼ばれる獣達の楽園であり、人や亜人種などの生息領域は限られていた。
その支配者でもある魔獣の中でも最も有名なのが飛龍である。
正確には竜種の亜種であり、知能は其れなりに高いが獣の域を出る事が無い。
だが冒険者達において、この飛龍を倒す事が出来れば一人前とされている。
だが、もし駆け出しの冒険者達が飛龍に出会ってしまったのならば、それは死を覚悟するのと同義である。間違っても挑んで勝てるような獣では無いのだ。
例えそれが下位の飛龍であったとしても、その強さは侮れない物がある。
セラが空を見上げた時、一頭の獣が空より降りて来るのが見えた。
体は鱗に覆われ、長い首と尾を持ち、力強い羽搏きと共に天より現れた。
クラウパとほぼ同じ大きさでありながらも、その力強さで明らかに差が出ている。
濃緑色の鱗は竜種特有のモノで、大型の飛龍とは異なり環境適応力が高い。
飛龍【アーブガフ】
その姿は飛龍特有の長い首と躰よりも大きな翼を持つ姿で、尚且つ長い尾の先には鋭い棘が生えそろっている(しかも毒持ち)。
更にこのアーブガフ、低級ではあるが幾つかの風属性の魔術を行使できるのだ。
クラウパよりも難易度が高い魔獣である。
「フォオちゃん達に相手をさせるにはまだ早いね、こいつは・・・今の内に弱らせておきますかっ!」
そう言いながら、セラは【ゴルド・ドラクーン】を構え、徐々に降下中のアーブガフに狙いをつける。
「セラ・トレント、狙い撃つぜっ!!」
ヒャッハーモードに行き成り突入していた。
ゆっくりと降下してくるアーブガフに、セラは嬉々として魔力解放状態で連続して先制攻撃の矢を放つ。魔力で加速された矢が、未だセラを認識していないアーブガフの腹部に連続して撃ち込まれた。
素早く弾倉を取り換え、再び狙いを定め連続して攻撃を浴びせ続ける。
僅かな間に数十発の矢が放たれ続け、アーブガフは漸く自分が狙われている事に気が付いた。
降下中のアーブガフは其の儘地上には下りず、再び空へと舞い上がり自分を攻撃してきた敵を探し始めた。だがセラを見付ける事は困難であった。
セラは寄りにも寄って自分の体が収まりそうな狭い亀裂に身を潜ませ、ご丁寧に周りの木々を集めて自身を覆いカモフラージュしているのだ。
上空からではそう簡単には見つからない。
しかも滞空中には攻撃をせず、己の気配を隠し続けていた。
アーブガフは視力は高いが嗅覚は並以下で、臭いでセラの居場所を探る事は出来ない。
アーブガフは上空を旋回しながら自分を攻撃してきた敵を探る。
しかし一旦視界から逸れるのを見計らい、再び矢の洗礼を浴びる事と為る。
この時初めて敵が岩場に潜んでいる事に気が付いた。
ギョアアアアアアアアアアアッ!!
「・・・居場所がバレたかな? けど遅いっ!!」
セラの放った矢が、アーブガフの目に吸い込まれる。
再生能力の高い魔獣であっても、目を潰されてはそう簡単には再生させる事は出来ない。
暫くは視界が制限される事に為る。
セラは片目を潰した事を確認すると、偽装を捨て去り岩場から飛び降る。其処に間髪入れずに風の刃が叩き込まれた。
アーブガフが【ウインド・カッター】を使ったのだ。
その間もセラが攻撃を緩める事は無い。
飛び降りながらもゴルド・ドラグーンの銃口はアーブガフに狙いを定め、連続して矢を放ち続けた。
一度リロードすると合計三発放つ事ができ、何度もリロードする事で連続攻撃が可能となるが、動き乍ら狙いを定めるのは至難の業だ。
ゲームとは異なり複雑なボタン操作をしないで済む分、攻撃の手を緩めずに狙いをつけ矢を放つ。
走りながらも其の銃身は、常にアーブガフに向けられている。
「クラウパを討伐するまで、僕と遊んでもらうよ!」
セラは弾倉を交換しつつも不敵な笑みを浮かべていた。
「引っかかってくれるでしょうか?」
「引っかかるように誘導するの。そっち、もう少し草で覆い隠して・・・」
フィオとマイアは大地系統魔術【ピット・ホ-ル】で穴を掘り、その上に網を敷き草で覆い隠す作業に没頭していた。
クラウパを追うにしても、今のフィオ達では侵入できないエリアに逃げ込まれたためにこうしてわなを仕掛けて待つ事しか出来ない。
狩場にはある程度ランクを上げないと侵入できないエリアが存在し、F-8~9がそれに当たる。
中級資格を持つ冒険者であるなら侵入も可能なのだが、駆け出しではそこに至るまでの実績を重ねない事には侵入すると違反を犯す事のになってしまう。
これはごく稀にランク外の魔獣が棲息する可能性の高い場所で、しかも駆け出しが手に入れるには不相応な素材が採取されやすい場所なのだ。
下手に採取されれば鉱物などの物価が変動してしまい、それで生計を立てている者達にとっては手痛い打撃となったしまう。狩場は色々な面で折り合いをつけ乍ら維持されているのだ。
それは兎も角、フィオ達が作っている落とし穴は傍から見ればモロバレの単純な物で、それなりに知能の高い魔獣ではあまり効果が無いような代物である。
特に竜種などは余程馬鹿でも無い限り引っ掛かりはしないのだが、今回は幸いな事にあまり知能の高く無いクラウパである。引っかかる可能性が極めて高い。
フィオとマイアは内心悪戯感覚でこの落とし穴を作成していた。
「何かドキドキするわね・・・こう云った事したことが無かったから・・・爆魔石も設置完了」
「ちょっと楽しいですよねぇ~♪ 引っかかって欲しいです、むふ~」
フィオがやや興奮気味だが、マイアは決して油断はせずに周囲の索敵を忘れなかった。
そしてこのエリアに何かが近づいて来るのを感じた。
「来たっ!!」
「早く隠れましょう、マイアさんっ!!」
二人は急いで近くの茂みに身を顰める。
やがて聞こえてくる羽音に、フィオとマイアは息を忍ばせその時を待った。
クラウパはエリアの外れの方に着陸する。
しかもどう言った訳か、クラウパは罠の仕掛けてある中央よりも外れの茂みの辺りをうろついている。
まるで罠が何処に仕掛けてあるかを認識しているかのようである。
少なくとも二人にはそう思えてならなかった。
「落とし穴の所に行来ませんねぇ・・・」
「もしかいて、既にバレてる?・・・・だとしたらあたし達が誘導しないといけない・・・」
「行きますか?」
「もう少し待ちましょう・・・・・」
其れでもクラウパは落とし穴に近付かない。
次第にイラついて来るマイア、時折暢気に尾羽を振っている姿が腹ただしい。
まるで馬鹿にされている気がしてくるのだ、然し短気に為ればその分好機を失う事を知っている。
逸る心を抑え、罠に掛かるのを待ち続けた。
クラウパは暫くうろついていたが、やがてエリア外れの小道に向かって歩き出す。
完全に罠を避けているとしか思えない。
「拙いわね、此の侭では別のエリアに移動してしまう」
「姿を見せて此方に誘導しますか? セラさんの話でも時々出てましたよ?」
「もうそれしか手は無いかぁ・・・行くわよ、フィオ」
「はいっ!」
二人は意を決し、茂みから飛び出した。
キョパァアアアアアアアアアアアッ!!
突然出てきた二人に驚いたのか、クラウパは飛び跳ね、突如闇雲に走り出す。
ついでに麻痺唾液を撒き散らし、気化した唾液が黄色の煙を立てていた。
このまま放って置けば、麻痺ガスで覆われてしまう。
二人は落とし穴に向かい走り出した。
クラウパの動きに合わせ、落とし穴の周り待機すると、互いに盾を構えて防御態勢をとる。
クラウパはいまだに狂ったように走り続け、丁度落とし穴の方向に向かって来た。
漸く好機が訪れる。
クラウパはマイアに向かって跳躍した。
ギョパッ!?
クラウパはマイアを鋭い爪で捕えようとしたのだろう、だがマイアは攻撃を避け、クラウパは落とし穴に落ちた。
作戦の通りに事が進み、二人はその場を離れると爆魔石を取り出してクラウパに投げつける。
ドドドドドドドオ―――――――――――ンッ!!
連鎖的に続く爆発音が響く。
投げた爆魔石が炸裂し、落とし穴の周りに仕掛けられた爆魔石に誘爆したのだ。
クラウパは連鎖爆発に包まれ、爆風をマトモに受けてしまう。
しかも落とし穴にはまっているために、逃げる事すら叶わない。
エクスプロード並みの衝撃波が二人を襲った。
二人は爆風で吹き飛ばされ、地面を転がされしばらく動けないでいる。
全身が痺れていたが、何とか身を起こし今だ爆煙の立ち込める落とし穴を見る。
「殺った・・・いえ、油断大敵ね。ここは慎重に・・・・」
「倒せていると良いんですけど・・・」
二人は恐る恐る落とし穴へと近付いていて行く。
これで仕留められなければ、一気にたたみかけるより外無い。
しかし爆煙に隠れて中の様子が見えない為、近づくにも慎重ににじり寄る様にゆっくりだった。
・・・ク・・・クケ・・・
瀕死であった。
爆魔石一つの威力は【ファイアーボール】一発の威力と同等で、手傷を負わせることは出来ても瀕死状態に持って行く事は出来ない。
しかしフィオとマイアはその爆魔石を二人合わせて54個使用したのである。
起爆に一個使用したとして計55個、その威力はどれほどのモノであろうか?
そこに在るのは辛うじて息があるだけの生ける屍であった。
穴に落とされ四方から連鎖爆発に巻き込まれ生きている事が不思議なくらいである。
其処には目を覆いたくなるような、無残なクラウパの姿が在った。
「・・・・・・・・爆魔石・・・多過ぎた様ね・・・」
「・・・ごめんなさい、クラウパさん・・・・」
口で言うのもムゴイ悲惨な光景に、二人も口にできる言葉が無い。
あえて言うなら素材として使える所が残っていないと言うべきか・・・・あまりにグロ過ぎた。
スプラッタになっていないだけましと言うべきか、戦場で爆撃を受けた死体を思い浮かべれば判り易いと思う。
「あなた~を~殺して~本当に~~ごめんねぇ~♪」
「セラさんっ!?」「姉さんっ!? いつの間に・・・・・」
いつの間にかそこに居たセラは、何故か変な歌を口ずさんでいた。
流石に二人も驚いてその場を飛びずさる。
「酷~すぎて~非道~過ぎてぇ~~こと・ばに・出来なぁ~~い~♪ ラ~ラ~ラ~・・・・♪」
無表情のセラの目が死んでいた・・・・・
そのあまりにもの凄惨な光景に、現実を受け入れる事が出来ないでいるようだ。
無表情のセラが二人の方を振り向き、クラウパを指さす手が震えていた。
「ち、違うんですセラさんっ!! こんなはずじゃぁ・・・・」
「そうです姉さんっ!! 爆魔石の数を間違えてぇえええええっ!!」
セラに詰め寄り何とか弁解しようとするが、二人に両サイドから揺すられてセラの首がカクカクと揺れるだけだった。
無表情のセラは歌う・・・・・
「私の~お墓の~ま~えでぇ~泣かないでください~~そこに~私は~いません~~眠ってなんかぁ~いません~~♪ 」
「「何でそんな歌を歌うんですかぁっ!?」」
二人の弁明は通じなかった・・・・
無常の歌はさらに続く・・・・・・
「千の欠~片に~千の欠片~になぁあぁぁて~~この広~~い大地に~~散らばぁあぁぁて~います~♪」
「「いやぁああああああああああああっ!!」」
一応、形は残ってはいるのだが・・・セラの無情の歌は容赦なかった。
何気に二人の弟子の心に無情に突き刺さる。
セラとしてもここまで凄惨な結果になるとは予想していなかったのだろう、予想を超えたその現状に思考が追い付いていない。
そしてその凄惨な犯罪現場を生み出してしまった二人を、情け容赦ない無情の歌が責めさいなむ。
二人の弟子たちは地面に突っ伏して泣いてしまっていた・・・・
「・・違うんですぅ・・・・こんな筈じゃなかったんですぅうぅぅぅ・・・・」
「ごめんなさい、ごめんなさい、クラウパさんごめんなさぁああああああああいっ!!」
二人が立ち直るまでに、少し時間が掛かりそうだった・・・・・
新しい技術を知ると使いたくなるのが人の心情である。
それは色々な面でよくある日常の中でも見られる光景だ。
技術にしろ物にしろ、有れば使いそうする事で人の生活は発展して来た。
其れが良い事なのか悪い事なのかは分からないが、それでも生きている以上技術は使われ発展して行く。
それは如何なる面においても変わる事は無く、手に入れてしまえばその結果を生み出すのは人の手によるモノなのだ。
今回に措いてはクラウパは運が無かったと言えるだろう。
技術を扱いきれない未熟な者に使われ、無残な最期を迎えてしまったのだから悲劇としか言えまい。
魔獣と人の間にそんな感傷的な事があるのかと問われれば、無いと言わざるを得まい。
しかし惨劇を引き起こした者にとっては、その現実は受け入れがたい黒歴史と為る。
「・・・ヒデェ・・・コンナ無惨ナ狩リハミタ事ガ無イ・・・・」
「悪魔ノ所業ダナ・・・同情スル・・・・・」
「口ヲ動カスナ・・・体ヲ動カセッ!!」
「素材・・・回収・・・ムズイ・・・・・」
「散ラバリ過ギダ・・・・・メンドイ・・・・」
ノーム達の回収作業は続く。
あちこちに散らばった肉片などを回収する姿は、まるで列車の飛び込み自殺で散らばった遺体を回収すような印象を受ける。そう思うのは現代日本に生きるセラの心境であるのだが、その凄惨な現場を生み出した二人の少女は両膝を抱え地面にのの字を書いていた。
穴があったら入りたいとはこの事を言うのであろう、二人の顔は真っ赤に染まり、薄らと涙を浮かべている。
この日、彼女達は間違いなく黒歴史を刻んだのだった。
「ごめんね、酷い有様で・・・・」
「マッタクダ・・・・コンナ現場、今迄ミタ事ガ無イ・・・・」
「お詫びに僕が狩った【ゲラ】二頭、君達にあげるよ。手を煩わせてしまったからね」
「マジカッ!?」
「「「「ナニイィッ!?」」」」
ノーム達の目の色が変わる。
これはセラの懐柔政策の一つなのだが、極貧生活の彼等にとって天からオリハルコンが落ちてくるような幸運であった。
彼等の回収作業は恐ろしい程の速さで正確におこなわれて行く。
「オンニキル・・・最近・・マトモナ物ヲ食べテイナカッタ・・・・」
「別に良いよ、仕事を増やしたのはこちらだから」
「ソウハイカン・・・吾等ハ義ニ生キル・・・受ケタ恩ハ必ズ返ス・・・」
「律儀だねぇ、そんなに畏まらないでも良いのに・・・・」
ノーム達は戦う力が低いため冷遇されがちだ、だが彼等は義理堅く、受けた恩はどんな事をしても報いる誇り高い種族でもあった。
以前セラは彼等からオリハルコンを受け取っているのだ、彼等の恩返しは時として予想もつかない物を恩人にもたらすのである。
セラとしては弟子の不始末の詫びのつもりなのだが、彼等は仕事と義理は別に分けている様である。
ノーム達はプロの運び屋であった。
彼等の仕事は急ピッチで進む。
単に餌付けされただけかもしれないが・・・・・どこの狩場にノームも同じであった。
「コノ恩、必ズヤ返ス」
「そんなに気にしなくてもいいよ、またねぇ~~♪」
手を振って見送るセラにノームはクラウパを囲み、サムズアップをしながら地面の中へと消えて行った。
実に味のある連中である。
見た目は敵キャラゴブリンなのに、彼等はニクイ程に爽やかであった。
「さてと・・・二人ともいつまでも落ち込んでいないで、宿に戻るまで狩りの時間だよ?」
「・・・・・私は駄目な子ですぅ・・・素材を無駄にするようなヘッポコ冒険者ですぅ・・・」
「いいんです・・・あたしは駄目な落ち零れなんです・・・この儘穴に埋めてください・・・・」
「まだ終わりじゃないよ? 丁度良い獲物がいるから」
「「えっ!?」」
セラの不穏な言葉と同時に上空を黒い影が横切る。
力強い羽音と共に、何かがこの場所に飛来したのである。
二人は呆然とその光景を眺めていたが、セラは背中の【ゴルド・ドラグーン】を構えると同時にリロードし戦闘準備に入った。
「言わなかった? 【アーブガフ】が乱入したって・・・・・」
「「聞いてませんっ!!」」
「心構えがなってないよ、狩場では何が起こるか分からないんだから、ねっ!!」
言葉を言い切る前に、セラは矢を連続で放つ。
矢は力強く風切り音を立ててアーブガフに突き刺さった。
フィオ達も慌てて武器を構え、臨戦態勢に入った。
「奴を倒して汚名挽回だよ」
「「お願いですから返上させてくださいっ!!」」
「起きた現実は消えない・・・・・」
「「ううぅ・・・・」」
お馬鹿な会話中でも魔獣は待ってなどくれない。
アーブガフは地を蹴り此方に向かって突進して来た。
飛龍とは思えないほど意外に早く、途中で翼を広げ滑空して来たのだ。
「避けるわよっ!!」
「左に動きますっ!!」
互いに声を掛け合い自分達が動く方向を定め教え合う。
だが、セラだけは動かない。
「【フラッシュ】」
目暗ましを受けたアーブガフは滑空の途中で体勢を崩し、其の儘地面に落ち地面を滑って来た。
そこで漸くセラは動き、二人に指示を出す。
「フィオちゃんは尻尾を集中攻撃っ!! マイアちゃんは翼を攻撃してっ!!」
「「ハ、ハイッ!!」」
セラの指示通りに動き、フィオはヴェイグシザー改出尻尾を狙い、マイアは翼に連続で斬り付ける。
良く見れば既にアーブガフは重傷を負っており、此の侭行けば確実に倒せるまでに弱っていた。
だが魔法で受けたような損傷は無く、セラがボウガンで攻撃し続けたことが分かった。
『一人で飛龍をここまで追い込んだって言うの? 姉さん、何処まで強いの・・・・』
改めてセラの規格外の強さに驚愕しつつ、マイアのセラに対する憧れは強く為っていく。
何よりセラの援護は正確だった。
フィオとマイアに当たらない様に的確な狙いで確実にアーブガフに攻撃を叩き込んで行く。
実に頼もしい援護射撃に、二人の弟子たちは心強かった。
しかし手負いの獣ほど手強い相手は居ない。
何とか起き上ったアーブガフはその場で長い尾を振り回し、二人を振り払おうとする。
太い尾が高速でフィオに迫った。
「きゃあぁっ!!」
「フィオっ!?」
辛うじて縦で防いだものの、それなりの重量と遠心力の加わった攻撃に、体重の無いフィオは弾き飛ばされる。すかさずマイアは懐に飛び込み、アーブガフの足を執拗に攻撃を加えた。
セラはその間にアーブガフの正面をキープして矢を放ち続ける。
ゴアぁアッ!?
突如アーブガフの動きか止まる。
「これって・・・・」
「麻痺毒の仕込んだ矢だよ、フィオちゃんは今の内に体勢を立て直して、マイアちゃんは其の儘攻撃っ!!」
ボウガンの弾倉に入る矢の数は限りが在る。
矢の威力は殆ど変わりがないが、その分状態異常を与える毒矢を仕込む事が可能であるが、仕込む毒の量には限りが在り即効で効き目を表す事が無い。
セラは弾倉に入る10本の矢の内4本が毒矢で、うち2本が麻痺毒、残り2本が通常毒を仕込んでいた。その分効果が送れるが、こうした危機的状況の中で隙を作るのには有効であった。
短期戦を挑むのであれば魔法の方が有効であるのだが、これはフィオ達を鍛えるための狩りであり、経験を積ませるには掛かる時間は長い方が望ましい。
まさかクラウパを爆殺させるとは思わなかったので、アーブガフの乱入はセラにとって渡りに船であった。
「てやぁああああああああっ!!」
フィオが魔力を開放した状態でアーブガフの尾を斬り飛ばす。
マイアも負けじとアーブガフの足を狙い腱を斬るのに成功し、アーブガフの体勢が崩れる。
その巨体が倒れる前にマイアは離脱し、【ガジェットロット】の魔力を開放すると、そのままアーブガフの喉元に剣を突き刺し、抉るように斬り裂いた。
ゴアァアアアアアアアアァァァァ・・・・・・・
動脈を斬り裂いたのであろう、アーブガフは大量に血液を撒き散らしその場で暴れたが、やがてその動きが弱り静かに息絶えたのだった。
「はい、しゅ~りょ~!! 二人ともお疲れ様」
セラは暢気に二人に声を掛ける。
二人は息も絶え絶えで、セラが声を掛けるまで臨戦態勢を維持したままであった。
暢気な声でようやく狩りが終わった事を自覚すると、二人はその場でへたり込んでしまう。
心の準備も出来ないまま行き成り飛龍と戦う羽目になったのだ、無理もないであろう。
しかし予めセラの手で弱らせていた為に、狩りは短時間で決着が着いた。
本来であればフィオとマイアで狩る事が出来ない魔獣なのだ、ここは褒めておくべきであろう。
緊張が解けた二人は最早動く気力すらなかった。
そんな二人を他所に、セラは血の臭いに誘われてきた魔獣を仕留めていた。
アーブガフはノーム達によってミールの村に運ばれていく。
ついでにノームに御裾分けをする事を忘れないセラであった。
「やっと村に着きましたぁ~ 早くお風呂に入りたいですぅ~・・・・」
「同感・・・血の匂いが酷いし・・・・・」
「今日の僕はガンナーだから返り血は浴びてないよ、こんな時楽だよねぇ~」
暢気なセラの台詞に二人は恨めしそうに睨む。
「宿に戻る前に解体場に挨拶していかないとね、素材の事も在るし・・・」
「「うぅぅ・・・・」」
クラウパを爆殺した手前、解体場に足を踏み入れたくない二人。
しかしながらこれは必要な習慣であり、もし解体場に行かなければ勝手に素材を売られてしまうのである。クラウパは兎も角アーブガフの素材は欲しい二人だったが、その足取りは重い。
狩場へと続く門を潜り、そのすぐそばにある建物に3人は向かう。
ミール村の解体場は、狩場へと続く北門の直ぐ傍に建設されているのだからそれ程疲れる事は無い。
精神的なモノは別なのだが・・・・・
「すみませ~ん」
解体場で作業する年配の男に声を掛ける。
「何でぇ嬢ちゃん、素材の受け取りか?」
「いえ、今日倒した魔獣の素材がいつ受け取る事が出来るか知りたかったもので」
「何を倒したんだ? ふ~む・・・アーブガフか?」
「正解です、ついでにクラウパもですが・・・・・」
「クラウパぁ~~あぁ・・・・アレな・・・・」
不意に男の目が泳いだ。
何とも言い辛そうな不陰気だ。
「なぁ嬢ちゃん、素朴な疑問なんだが・・・どんな仕留め方をしたんだ?」
「何でも爆魔石55個で爆殺したみたいですよ?」
「爆魔石55個ぉ――――!? ヒデェ、それじゃ素材なんか消し飛んじまうじゃねぇかっ!!」
「僕が見た時には手遅れでした」
「嬢ちゃんは何してたんだよ、見た限りじゃ上級者だろ? ガンナーなんて珍しいが・・・・」
「アーブガフとデートしてましたよ?」
「・・・・・するとアレは後ろの二人の仕業か・・・・・」
男がフィオとマイアを見ると、二人はどんどん小さくなっていく気がした。
そんな二人を見て男はため息を吐く。
「俺も長い事こんな仕事をしているが、あんなヒデェ状態の魔獣が持ち込まれるなんて初めてだ」
「「ううううぅぅぅぅ・・・・・」」
「あれじゃ素材何てホンの僅かだし、何より売り物にすらならねぇ」
「「・・・・・・・・・・」」
「幸いソウル・ジェムが無事だっただけが救いだな・・・・・」
辛辣な評価に二人は増々落ち込んで行く。
「やっぱりですか・・・・」
「見りゃ判るだろ・・・クラウパが哀れにすら見えて来る・・・・全員が同じ意見だった」
「アーブガフは如何ですか?」
「ありゃ最高に良い状態だったぜ、素材も最高品質だ、流石上級だな」
「いえいえ、クラウパがあんな状態だったんでこれ幸いに二人に嗾けたんですよ、経験は多いに越した事はありませんし」
「無茶しやがる。だがいい腕だ、うちの村に欲しいくらいだ」
「素材の受け取りは何時頃に為りますか?」
「大体3日あれば十分だな、素材だけ優先するか? 2日ぐらいに短縮できるが」
「お願いします・・・・・出来るだけあの宿から離れたいので・・・・」
「宿って・・・・ま、まさか・・・・・」
男の顔が引きつる。
心当たりが有り過ぎるのだろう。
「多分そのまさかです・・・・【ゲイ・ボルグ亭】・・・・・」
「やっぱりかっ!! 嬢ちゃん達悪い事は言わねえぇから早いとこ宿を引き払え、あそこは魔窟だ」
「十分理解してます・・・・・ですから素材を早めに・・・精神が持ちそうにありませんから・・・」
「分かった、で来るだけ急いでやらぁ! あの宿はこの村の汚物だからなっ!!」
同じ村の住民に汚物呼ばわりされるボルグは如何モノだろう。
セラは物凄く納得できた。
心境としてはさっさと依頼を果たして帰りたいのだ。
そして男はセラ達に同情の目を向けていた。
「それでは2日後に又来ます・・・・素材の解体宜しくお願いします・・・・」
「任せろっ!! 嬢ちゃんも気をしっかり持て、自暴自棄になるんじゃねぇぞ」
「廃人にならない様に頑張ります・・・・・うぅ・・・」
男の人情が痛かった・・・・・
出来る事ならあの不気味な宿に戻りたくないのだ。
思い出したくも無い事を思い出し、セラの心は崩壊寸前である。
例え体が女でも、精神的苦痛は消える事は無い。
3人の足取りは色々な意味で重い・・・・・
「・・・・戻ってきてしまった・・・」
セラは無表情で呟く。
出来る事ならこの場から逃げ出したいのだが、開いている宿がここしかないのだ。
ミール村の汚物、人外魔境の薔薇の魔窟、【ゲイ・ボルグ亭】
こんな宿ならまだ【マッスル亭】の方がマシである。
セラは震える手で扉を開く。
意を決して扉を開いた時、そこで見た光景に思考が凍り付いた。
宿の中では部屋の隅で振るえる半裸のボイルと、テーブルの上に組み伏せられ下着を下ろされようとしている少女(?)らしき被害者。
そして・・・悩ましげにポーズをキメながら下着に手を掛けている全裸のボルグの姿であった。
マジな話ムズイ・・・馬鹿な話を書いてきた弊害でしょうか?
次はやっぱり馬鹿な話です。
お付き合いください。




