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 新人コンビの初狩猟  ~乱入はウエルカムです~

 二話連続投稿です。

 一回目

 狩場には1~7のエリアが存在し、狩りをする領域もA~Fの難易度がある。

 面倒な説明を抜けば、Aが最も難易度が高い魔獣領域の新奥部の狩場であり、Fが最も難易度の低い狩場である。

 魔獣領域つと呼ばれる大森林に周りには幾つもの村が存在し、依頼で狩る魔獣や二次産業で使う様な鉱物や植物の採取には其の難易度よって性質が異なる。

 例えば回復役に使う【薬草】はF、Eで良く採取されるが、グレートポーションに使う【サイセイカヅラ】はA、Bで良く採取されるのだが、其処に生息する魔獣の強さや種類が決定的に異なるのである。

 Fに生息する代表的な魔獣がヴェイポスなら、Aに生息する代表が魔獣が【バーサークレックス】と云った様にその危険度は計り知れない。しかも安全な筈の狩場でも、最悪【アムナグア】が出現する事も在るのだ。

 冒険者達は常に危険と背中合わせに今日も依頼を受けている。


 余談ではあるが魔獣領域の奥深くに魔獣聖域と呼ばれるエリアも存在するのだが、その危険度は計り知れないどころか『あそこに行ったらマジで確実に死ぬ』と言われており、ギルドからも余程の事が無い限り侵入を許さぬ禁断の地と為っていた。

 因みにヴェルグガゼルの生息領域も魔獣聖域であり、セラはその場所を熟知していた。

 それは兎も角、現在彼女達のいる狩場はFランク、ミールの村から直ぐ傍の森林より侵入してはや20分、比較的魔獣の侵入しにくい場所に設置された共同キャンプ地に居た。


 この場にいる者達の多くは採取や小型魔獣の狩猟が目的で、狩猟標的の魔獣には手を出して半らない決まりと為っている。

 仮に他者の依頼標的である魔獣をうっかり倒してしまうと、原則的に罰金が科せられる。

 其れを防ぐためのアイテムが【魔石玉】と呼ばれる魔石を粉末状にして泥や灰で丸めた物を使う。

 使うにはあらかじめ魔石玉に自分の魔力を込め、それを狩るべき獲物に投げつけるのである。

 そもそも魔力は個人によって波長が異なり、誰一人として同じ波長を持つ者は居ないので比較的に判り易い。これに探査魔法【フィールド・サーチ】を使えばたちどころに魔獣の居場所が判明するのである。

 だが中にはこの探知魔法すら覚えようとせずに、横から獲物を盗み取るような小悪党もいたりするのだが、この魔石玉の効力は約24時間、狩りの途中で獲物を奪えば一目瞭然に判明してしまう。

 何しろいたるところに【ノーム】が待機しており狩場に目を光らせているのだ、不正を行えばギルドに報告され直ぐに冒険者資格を剥奪される。

 依頼を受けるにはギルドカードを掲示する事が義務になっており、そこには出身地から所属のギルド、更には倒した魔獣の数などが記録されている。これで不正の大半は防げる事と為っていた。


 余談其の2ではあるが、セラのギルドカードはロカス村で作ったものだが、実はもう一つ辻褄合わせのカードが存在していた。

 そのカードでは、セラの出身地がノーザの街と為っており、この街は約三年も前に災害指定級の魔獣が襲来し壊滅していた。ノーザを襲撃した魔獣の奇妙な特性として自分より弱い魔獣を大量に引き寄せる能力が備わっていた。

 結果は巨大魔獣と大量の大型魔獣によって町の住人は全て食い殺され、生き残ったモノは殆んどが幼い子供であった。しかも乞食紛いの生活を送る孤児である。

 しかもその町は魔獣領域の最前線であったために外部の依頼を受注するような事は無く、腕を上げればエルグラード大国の騎士団に自動的に配属されるために騎士の街と言われていた。

 そんな街が一夜で消滅し、その情報の御蔭でセラのギルドカードは不審にすら思われなかったのだ。

 更にはゲーム内での戦闘データを多少弄り、不審に思われない様な偽装工作が入念に【神】の手で行われた。その手腕を世界管理の為のに惜しみなく使って欲しいとは思うが、あの【神】を見て直ぐに諦める事と為る。

 話がズレたが、ギルドカードの登録地を他の街に変更すると、ランクは其の儘に討伐記録や出身地といった個人情報は初期化されるので、最早だれに疑われる事も無いのである。


 流石に神は自分の不始末を重く受け止めたのであろう、こう云った細かい帳尻合わせを入念に違和感なくこの世界の理の中で偽装し、セラのフォローを見えない所で行っている。

 だが安心できないのもまた【駄神】である。

 その内、何かをやらかすとセラは踏んでいた。


 それは兎も角、狩りである。

 セラも待ち望んでいた狩りである。

 この世界に来て初めて本気で戦ったのが【アムナグア】であり、それ以降は採取やら迷宮での変な生き物やら冒険者としては些か不燃焼気味であったが、漸くギルドとしての第一歩を踏み出した記念すべき初仕事にセラは密かに燃えていた。

 しかし今日の所は引率であり、お楽しみはこれからである。

 だからといってフィオとマイアの初仕事を疎かにしてはいけないと、逸る気持ちを抑え今は彼女達の教師役に徹していた。


「結構人が居ますねぇ、私達は如何すれば良いんでしょうか?」

「あの掲示板に今日ここで仕事をする人たちの依頼を知る事が出来るわ、同じ依頼が鉢合わせにならない様にすることがあの掲示板の役目で、あたし達は他の人の仕事の邪魔をしない様に互いに距離を取りながらクラウパを狩るわけ、フィオも覚えておくと良いわよ?」

「同じ村でもロカス村とは違いますねぇ・・・・如何したんですか? セラさん」

「マイアちゃんの方が先生っぽい・・・僕、自信が無くなりそう・・・・」


 考えてみればマイアもパーティで何度か狩場に来ているのだ、俄仕込みのセラとは違う現場の経験が生きている。セラにしてみれば、所詮情報のみの自分に比べマイアの方が狩場の事を良く知り尽くしているため、早くも師匠として挫折する寸前である。

 

「それじゃあ、フィオちゃん。依頼書のうち一枚をあの受付に持って行ってね、掲示板に張られたらお仕事開始だからね」

「は~~い、行ってきま~す!」

「・・・・・楽しそうですね、あの子・・・・」

「本当の意味で冒険者に為る最初の一歩だからね、やる気になっているんだろうねぇ~」

「ところで、姉さんの装備がいつもと違うようですけど、どうしたんですか?」


 セラの装備はいつもの【レジェンド級 ヴェルグ・レジェンド・シリーズ】では無く、ヴェイポスの亜種【ポイズノス】の素材で作られた【真ポイズシリーズ】の軽装備で、武器はガジェットボウと呼ばれるボウガン、しかもワイバーンの亜種から作られた【ゴルド・ドラクーン】。

 装備で言えば上級者、レジェンド級に比べればまだ大人しい装備である。

 ゴーグルの追加装備を組み込んだヘッドキャップ、少し暗めの赤い鎧、遠目には魔獣の素材で作られたコートを着込んでいるようなデザインは、狩場にしては些か目立つがのだが、その防御能力は駆け出し装備よりは遥かに高い。しかし矢張り重装備の防具に比べれば些か低い。

 その分動き易いのだが、【無限バッグ】とボウガンの弾倉をいくらか装着しているので見た目が少しかさばっている。

 

「装備を変えたのは良いのですが・・・何故ガンナーなんですか?」

「今回はマイアちゃん達がメインだから、僕がやったら直ぐに片付いちゃうでしょ? それに、これでも剣を持つ事は出来るしね」

「それはそうですけど、何も苦手な装備にしなくても・・・・・」

「えっ? 別に苦手じゃないよ、これでも【グランドラス】くらいなら相手に出来るけど?」

「えぇっ!? あの、火山の主にですか?」

「・・・・・流石に何人か援護は欲しいけどね・・・あいつ、やたら固いから・・」


 グランドラスは火山に出没する重厚な装甲を纏った竜種である。

 溶岩の中を平気に移動するために外殻には様々な鉱物が付着し、時折オリハルコン度が採取されたりするが倒すまでが時間が掛かる。怖ろしくタフで強固、剣は弾き返されボウガンの矢も貫通しない。

 こうなると魔術でゴリ押しせねばならず、最後の方になると最早意地の張り合いとなる。

 セラ、と言うか優樹だが、【グランドラス】はゲーム内でも斃すのが困難で、いつもタイムアップで巧く倒せないでいた。

 下手なレイドボスよりも面倒な魔獣なのである。

 しかもこの魔獣、火山以外でも出没し甚大な被害を撒き散らして行くのだ、別名【最悪のお邪魔ムシ】とも呼ばれている。少なくとも十人のパーティで挑むべき存在であった。

 

「外殻の上の鉱物を剥がさなきゃ攻撃が通らないし、遠距離には広範囲で火の雨を降らすブレスを吐くし、魔力は直ぐに底をつくし、その後は延々と攻撃を続けるんだけど、最後には回復薬が無くなるんだよねぇ・・・化け物だよ、アレは・・・・・」

「そんなにきついのですか、大型魔獣ですよね?」

「大型だけど・・・・防御力が半端無いんだよ・・・・正直滅入る」

「そんな魔獣がいるなんて知りませんでした・・・狩れるようになるまで頑張ります!」

「お願いだから引き際もわきまえてね、命あっての物種だから・・・・・」


 マイアのやる気度数は上昇傾向に在った。

 セラの話を聞いて返って火に油を注ぐ様な結果と為ったのだ。

 ただでさえ彼女は【神宮警邏兵の鎧】を手に入れソコソコの防御力が有り、尚且つガジェットロットを手に入れ、採取で手に入れた鉱物で刀身を鍛え取り付けてある。

 彼女にしてみれば、これが本格的な冒険者としての仕事の始まりなのである、今まで利用され続けていたマイアにとっては呪われた人生の脱却を意味しているのだから力も入る筈である。

 其れが吉と出るか凶と為るかはまだ判りかねていた。


「セラさ~ん、手続き済ませて来ましたぁ~」

「そんじゃ、行きますかっ!!」

「はい、必ず成功させて見せます!!」

「今からそんなに力を入れてたら疲れちゃうよ? 力を抜いて、ねっ?」

「無理ですっ!!」


 即答だった・・・・

 こうして師匠と生徒の初めての狩りが幕を上げたのである。





 狩場は意外に拓けていた。

 中型の草食魔獣が草を食べ、それを狙う肉食の魔獣が草食魔獣を狙う。

 幾度となく繰り返されるた連鎖が狩場を開けた土地に変え、セラ達の姿を覆い尽す様な雑草は見当たらない。常に草食魔獣が餌にしているからであろう。

 比較的にかなり視界が良好なのだが、逆を言えば他の魔獣からも自分達の姿は丸見えであり、ここでワイバーンのような大型魔獣に目をつけられれば、逃げる事すら叶わないデメリットが存在する。

 狩場では何が起こるかは分からない、其れだけに不測の事態に備えられる冒険者達が生き残るのだ。

 毎年多くの新人達が魔獣の餌食と為るのだが、それすらこの過酷な世界で生き残る為の命の営みの範疇に治まる。弱肉強食がこの世界の最も判り易い摂理であった。


「クラウパの生息領域は水場の近くとありますけど・・・居ませんねぇ?」

「時間帯によっては餌を探していると思うから・・・・F―5エリアかしら?」

「ご飯を探しているんでしょうか?」

「寧ろ草食魔獣を襲っているかもしれないわね・・・【フィールド・サーチ】で探してみる?」

「魔石玉でマーキングしていないですから、どれがクラウパか分かりませんよ?」

「でも一定の目安になるとは思うわ、取り敢えず使ってみましょう」


 予め説明を受けてはいたが二人は自分達でクラウパ討伐の為の手順を決めており、クラウパをを発見するまでの手順を話し合っていた。

 狩りで面倒なのがこの最初の捜索であり、早めに発見できるかによって狩りの仕方も変わる事がある。

 早期発見が出来る事が冒険者としての資質を決める要素とも言われていたりする。

 狩りをするにしても時間は有限、決められた時間内に狩りを済ませる為には効率よく動く事が重要で、その手際が良ければ早めに依頼を達成させることでギルドに評価されやすい。

 更に討伐した魔獣の数や種類によってランクを上げる評価の対象とみられるのだ。

 マイアはフィオよりも早くに冒険者に為った為に、この手の事には詳しかった。


「ん~~・・・F-6辺りに動かない魔獣さんが居ますねぇ」

「おそらくクラウパが獲物をしとめて食事中なんでしょ、今の内に補足するわよ!」

「はいっ! 行きましょう、マイアさんっ!!」


 二人はお互いに相談しつつ、クラウパを補足するために動き出した。

 そんな二人を眺めながらも、セラは【ゴルド・ドラグーン】に弾倉をセットし、背中に背負う。


 某狩りゲーの様な折り畳み式では無く、無骨な大型ライフルを背中に背負う印象を受ける。

 一応ボウガンなので弓の様なパーツはあるが、見た目は寧ろSFに出て来そうな超電磁砲を無理矢理ファンタジーにした代物だ。

 小型のニードルを弦で飛ばす機構がメインではあるが、魔力を開放する事でその威力も上がり、ついでに弦を使わない。殆どライフルにしか見えない厳つい武器であった。弦の素材によって威力が異なり、兎に角、金が掛かる面倒臭さNo1の武器である。内部機構も幾つもの種類が有り、パーツを変える事で重量や威力が変化する特殊な【ガジェットロット】であった。


 


「さ~て、巧く接触できるかなぁ~♪ 頑張れお二人さん・・・」


 セラは暢気に呟きながら二人の後を追った。 

  

 

 


 F-6エリアは樹木もそこそこに生え、岩場も在る場所であった。

 待ち伏せするにはもってこいの地形なのだが、今回に至っては少しばかり不利と言えるような地形だ。狩りを行う者達が作った道を進むと直ぐ開けた土地が広がってはいるが、片側には岩場が有り、もう片側には木々が群生している。

 魔獣の攻撃を避ける為に木々の中に逃げ込む分には問題は無いが、攻撃するには開けた場所に出なければならず、然し乍ら開けた場所が狭く長い。

 飛行能力のあるクラウパは岩場の上に逃れる事が可能であるが、冒険者はよじ登るしか無く、その場に魔獣が先に居た場合、攻撃態勢を整えるには少しばかり厄介であった。

 ついでにこの場所はクラウパの狩場でもある。


 フィオ達がこの場所に着いた時、クラウパは草食の小型魔獣を捕らえ、その肉を貪っていた。

 クラウパは見た目が禿鷹と駝鳥を合わせたような魔獣である。

 剥げている代わりに鱗の様な甲殻に覆われており、その甲殻は背中まで続いている。

 喉元は蛇腹であり、胸元の羽毛まで一切の毛は存在しない。

 羽毛や羽の色は薄汚れた茶系統、だが翼と尾羽には極彩色で無駄にカラフルであった。

 何と言えばいいか・・・・・統一感が無い。


「居ましたね、クラウパ」

「餌に有り付いてご満悦の様ね、今の内に魔石玉をアイツに使うわ」

「じゃあ、気を逸らしますね」


 フィオは木々の中を迂回するように移動し、マイアは見つからない様に気に身を隠し乍ら接近して行く。互いに視界にとらえるように動き、仕掛ける準備を整えた。

 そんな二人を他所にセラは岩場によじ登り、狙撃に適した岩棚に向かう。

 フィオが指定位置に着くとマイアを見た。

 マイアは静かに頷く。

 フィオが勢いよく飛び出し、それに気づいたクラウパが首を上げた。


 クケッ?


 間抜けな声でフィオに首を向けた隙に、マイアが走り出し魔石玉をクラウパに投げつけた。

 クラウパに当たった魔石玉が砕け、中に押し込められた魔石の粉末がクラウパに付着する。

 これで今日一日はこのクラウパの居場所を把握できるようになる、冒険者の基礎とも云うべき手の一つだ。広大な魔獣領域において得物を見失う事は死活問題と言うより、冒険者としての資質が疑われる。

 基礎的な手段すら熟せない様な冒険者が依頼を熟せるはずも無く、大半の駆け出しがこの辺で躓く。

 地味に困難な試練であったりした。

 まぁ、猟団に所属して居れば教えて貰える簡単な技術なのだが、フリーでは覚えるまでが時間が掛かるのは確かであり、これが巧く行かずに裏街道には知る者達も少なくない。

 何事も基礎は大事という話だったりする。

 フィオとマイアは此処までは基本通りであった。


 コキャキャキャキャキャキャキャ!!


 クラウパは中途半端に羽と尾羽を広げ、奇妙な鳴き声を上げる。

 自分を大きく見せる事で相手を威嚇しているのだ。


「行きますっ!!」


 フィオが注意を引きつけるために正面よりやや左に逸れた位置をキープしつつ、弧を描くように周囲を回る。その間マイアが後方から【ガジェットロット】で斬り付けた。

 いきなり背後から斬り付けられ、クラウパも背後に首を無卿としたが、マイアは足元に入り込み連撃を叩き込む。

 それと同時にフィオも手にした【ヴェイグシザー改】で何度か攻撃をするも、決して無理には飛びこまず直ぐに離脱する。その間もマイアが的確に攻撃を続け、クラウパが翼を広げた隙に離脱を開始した。

 案の定クラウパは後方に飛びのき、その間に発生した風圧が離脱中のマイアの背中を押した。

 其れが功を相し、マイアのいた場所に麻痺効果のある唾液が飛んでくる。


「あぶっ!?」


 間一髪、難を逃れたがクラウパの唾液は気化し、しばらくはこの辺りを漂う。

 あまりこの唾液を吐き続けられると、このエリアが麻痺効果のある毒霧に覆われてしまうだろう。

 

「【アイスランス】」


 氷の槍がクラウパの胸元に直撃した。

 マイアの体勢を立て直すために、フィオはアイスランスでをぶつけてクラウパの気を引きつけようとする。クラウパはフィオに死線を移すと、翼を広げ空中に舞い上がる。

 そのまま高度を上げると、そこから一気に降下して来た。

 足の指を広げ、その鋭い爪をフィオに向ける。


「【フラッシュ】」

 ギャピッイィ!?


 クラウパは目暗ましを受けて落ちた。

 しかし頭から落下はせずに、体勢が崩れないように静かに降り立つ。

 その合間に麻痺唾液を巻き散らかすのを忘れない、辺りに黄色い毒霧が発生しつつあった。

 野生の獣は意外に頭が良かった。

 一時的に逃げるフィオとマイア。

 二人は互いに別方向に距離を取り、クラウパの左右に挟み込むような状況を維持した。

 クラウパの周りは麻痺ガスで覆われ、容易に近付く事が出来ない。


「【ファイアー】」

「【ロック・ブリット】」


 中距離からの魔法攻撃が、ガスの向こうに隠れたクラウパに襲い掛かる。

 的自体が大きいために外す事は無い。

 だが所詮は低級の魔法であり、フィオ達の保有魔力量も大した事は無く、クラウパには牽制程度の役割しか果たさなかった。マイアの攻撃は其れなりに有効だったが、それでも深刻なダメージを与える程でも無い。

 

 ギョパパパパパパパパパパ


 変な鳴き声を上げるクラウパ。

 聞く者によっては馬鹿にされているようにも聞こえるのが不思議だ。

 そしてクラウパは突如闇雲に走り出す。

 しかもまるでマイアを追尾するかのように麻痺唾液を吐きながら急速にでだ。


「きゃぁっ!!」

「マイアさんっ!?」 


 クラウパの突撃を喰らい弾き飛ばされるマイア、運悪くそこには気化した麻痺ガスが漂っている。


「しまっ!?・・・クッ・・・・」


 クラウパの麻痺毒は即効性が有り、迂闊に吸い込んでしまうと瞬く間に行動が封じられてしまう。

 マイアは麻痺で動けなくなってしまった。

 其処に再びクラウパが走りながら戻って来る。このままではマイアが踏み付けにされてしまうと判断したフィオが、盾を構えクラウパの進行方向に立ち塞がった。

 クラウパは標的をフィオに変える。

 其処から一気にジャンプすると、フィオを足の爪で捕えようとする。


「【ロック・ウォール】」

 ギャピィイイイイイッ!?


 一時的に空中に浮いたクラウパは、捕える筈であったフィオの前に出現した岩の壁に直撃し、着地に失敗して地面に倒れ込んだ。そこを見逃さずフィオが魔力を開放した【ヴェイグシザー改】で連撃を叩き込む。

 ソード系統の武器は基本的に一時的に攻撃力を上げるか、斬り付けたと同時に属性効果を叩き込むしかない。フィオの【ヴェグシザー改】は前者であり、保有している魔力を使う事で刃先が当たる瞬間にキレ味が増し、巧く行けば致命傷を与える事も出来る。

 だが保有魔力は少なく直ぐに魔力切れを起こし、その効果は直ぐに消えてしまった。

 クラウパは立ち上がる。

 

 キョゴェエエエエエエエエッ!!


 奇声を上げて再び狂ったように走り出すと、すぐさま翼を羽搏かせてこのエリアから飛び去った。

 何処か他のエリアに移動を開始したのだ。


「ああっ!? 逃げたぁ!!」


 フィオは直ぐ「フィールド・サーチ】を使い、クラウパがどのエリアに向かったのかを調べる。


 バスッ、バスッ、バスッ!!

 ギャンっ!! ギャピッ!!

「!?」


 響く風切り音と断末魔の声。

 フィオはクラウパに気を取られ、麻痺で動けなくなったマイアを忘れていた。

 倒れたままのマイアに、ヴェイグラプターが迫って来ていたのである。

 そのヴェイグラプターを岩場に居たセラが狙撃し、マイアを守り彼女は襲われずに済んだのだ。


「すみません、マイアさん、直ぐにでも解毒します」

「うぅぅ・・・・・不覚・・・し、しびれ・・・うごけ・・・」

「待ってください、今回復しますから・・・・え~と・・・」


 フィオは次元バックから【マヒケシの種】を取り出し、マイアの口に運んだ。

 マイアが口に含み、何とか噛み砕いて麻痺ケシの種を飲み込む。

 この種は噛み砕くともの凄く苦い液体を出すのだが、マイアは顔を顰め乍らも何とか呑み込む。

 程無くして麻痺から解放された彼女は、クラウパの居場所を探すために再び魔法を使った。


「・・・F-9? ずいぶん遠くに逃げたわね・・・・この場所行けるの?・・・無理ね・・・ 」

「あまり手傷を負わせていないんですけどねぇ~今から間に合うのでしょうか?」

「動くのを見極めて余計な体力を使わない方が良いわね・・・少し落ち着いてから追いましょ」


 フィオとマイアは正攻法だけでなく、アイテムを服用する事を視野に入れ乍ら真剣に狩りの手順を話し合う。このままだと意外に手古摺る事が判り、出来る限り有利に事を運ばねばならない。

 次に移動する場所に当りを付け、其処に罠を仕掛ける事にしたのである。

 二人はクラウパの行動を予測し、次なるエリアに向かっていった。


 弟子二人の様子を見ていたセラは『まだまだだね』と、どこぞの王子様のようなセリフを吐き、二人の後を追おうとした。


 バサッ、バサッ・・・・


 羽音を聞いて上を見上げたセラは、上空を見上げ不敵な笑みを浮かべた。


「ははは・・・マジですか? 乱入ですよ、これはフィオちゃん達には少しキツイかな?・・・・」


 セラは【ゴルド・ドラクーン】を構え、嬉々としながらも戦いに身を委ねる。


「さぁて、ショウタイムだ――!!」


 フィオとマイアの知らない所で、静かに戦いの火ぶたが切って落とされたのだった。  


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