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 帰還しても非常識は何処にも在ります ~ヴェルさんが何か企んでいます~

 

 瀬良優樹は近くの県立高校に通う学生である。

 彼の通う高校は偏差値も平均より低く、其れなりに緩い校風でソコソコ成績が良ければ誰でも入学できる普通の高校だった。

 優樹もただ近いからという理由で受験をし、無事に入学出来た所を見ると彼の成績も其れなりなのであろう。普段は割と普通に学生生活を送っている様だ。

 普段が引き篭もりの彼ではあるが、友人の一人や二人くらいは居たりする。

 そんな彼達を一部の腐った女子達は熱い視線を送っていたりするのだが、当の本人は友人とベランダでまったりとしていた。

 現在彼等は昼休みの真っ最中なのである。

 優樹の隣には小学校からの幼馴染、【安藤俊之】がどこか物憂げに空を見上げている。

 彼はここ最近休んでおり、優樹も友人として心配していた。


「・・・・いとこが死んだんだ・・・・」

「行き成りなに!? 重いよ、ちょっと!!」


 突然のカミングアウトに流石の優樹も困惑気味でツッコミを入れた。


「ダンプに轢かれても傷一つ負わなかったアイツが、バナナの皮で滑って頭を打っただけで死んだんだぜ? 笑えるだろ・・・・・人生儘為らないよなぁ・・・・・」

「なにそれ、本当に人間なの!? 此処に三日休んでいたのは忌引きだったんだ!?」

「格闘家のオヤジに幼い頃から扱かれていたのにさぁ、突然あの世に行っちまったんだ・・・バイト先では元気にしていたのにさ・・・・・ダンプに撥ねられ、トレーラーには轢かれたくせにぴんぴんしていたんだ、それがあっさりとだよ、信じられるか?」

「何で? 何で僕に言うのさっ!? 重すぎるってば!! 其れより本当に人間なのっ!? 親に知らない内にサイボーグに造り変えられていた訳じゃ無いの?」


 親友が何を考えているのかが分からない。

 しかも人外の様なリアルチートがいた事実に驚きだった。

 一瞬何処かのフザケタ神の干渉かとも邪推する。


「アイツさぁ、お前と同じで男の娘だったんだぜ。昔は俺も間違えて告白してよく殴られたもんだ」

「僕をそんなジャンルに入れないでくれる!? 不本意なんだけど!!」

「なんでかなぁ、お前見てるとアイツの事を思い出すんだよ。見た目といい、腕っ節の強さといい似てるんだよなぁ、基本的に俺様だったけど・・・・・・」

「似てないじゃん、百歩譲って女の子に間違われるのは良いとして、僕はダンプに轢かれて平気な非常識じゃないよ!!」


 如何やら優樹を見て従兄弟の生前の姿をおも出しているようで、優樹にとっては少々重い話であった。

 何より此処まで落ち込んでいる親友の姿は初めての事だ。

 流石に黙っていろとは言えず、優樹にとっては如何して良いのかが分からない状況に為っている。

 慰めるにも何て言えばいいのかが分からない、人生で初めての経験だった。


「修学旅行の積立をバイトで稼いでいたようなんだが、あいつのオヤジが飲み代欲しさに強引に奪った上に、アイツを殴り飛ばしたらしいぞ? しかも一撃で生垣をぶち抜いて、車道でトラックに跳ね飛ばされたらしい・・・・・・普通ならそこで死んでるよな?」

「僕に聞かれても分からないよ・・・本当に人間なの? それより親父が酷過ぎるっ!!」

「そんな奴がバナナの皮で滑ったくらいで・・・・・・・」

「意外にしょうもない死因・・・・・僕にどうしろと?・・・・」


 彼の思いは分からなくもないが、聞かされる方は如何して良いのかが分からない。

 正直言葉すら浮かんで来ない状況なのだ、優樹は困惑する事しか出来ない。


「・・・・・アイツの夢を見たんだよ・・・・」

「はぁ?」

「何処とも知れない異世界でホムンクルスの女に転生して、女性型人型ロボットを乗り回して無双する夢なんだが・・・・・あいつが死んだなんて気がしないんだよなぁ・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「今頃何処かの世界で楽しくやってんだろうなぁ・・・・・・・」

「・・・正夢だったらいいよね・・・・」

「そうだな・・・・多分正夢なんだと思う・・・いやにリアルな夢だったからなぁ・・・」

「・・・・・そうだといいね・・・」


 どう答えて良いのかが分からない。

 

「・・・悪いな、ただ聞いて欲しかっただけなんだ。お前と似たやつが生きていたって事を・・・」

「・・・・そう・・・・」

「女だったらアイツもお前も好みなんだけどなぁ・・・そこが口惜しい・・・」

「男で良かったよ!! マジで!!」

「女だったら俺もケダモノに為っていたかもな・・・・・・・」

「俺もって・・・男でもケダモノに変身する奴がいるの!?」

「いるぞ・・・・あそこに大勢な・・・・」


 俊之の指さした方向には当然教室が在り、話を盗み聞きしていた男子は一斉に目を背けた。

 本当にいるらしい・・・・・・

 そう言えばファンクラブが有る事を妹から聞いていた事を思い出す。

 何でも妹に自分を紹介してほしいと頼み込んだとか、悍ましい話である。


「病んでる・・・・・・」

「・・・・優樹・・・」

「なに? 俊・・・・・」

「尻には気を付けろよ?・・・・・アイツらに刺されるぞ、別の意味で・・・・」

「いやぁあああああああああああああああぁ!! 俊も同じ事言うのぉ!!」

「女子の奴等も虎視眈々とその瞬間を待ち望んでいる・・・・・・」

「こんな世界、滅んじゃえばいいんだぁあああああああああぁ!!」


 自分の世界でも異世界でも、優樹の貞操の危機はある様だった。

 知りたくも無い現実を知り、優樹は只さめざめと泣くしかなかった。

 強く生きよとしか言えない・・・・・・・

 優樹には安息の地は無いのかも知れない。




 さて、優樹が現実世界に帰還を果たしてはや二週間。

 その間土曜日の夜に異世界での生活を熟し、約ひと月分の時間がながれていたが、その間異世界での二重生活は採取と迷宮探査に費やしながらも何とか慣れて来ていた。

 何分魔獣討伐の依頼が未だに入らず、冒険者達も暇を持て余し集団で錬金術を学ぶものが増えて行く。

【アムナグア】の解体も終わり、忙しかった日々は一先ず終息を迎えたのだが、しばらくは働きたくないというのが村人全員の心境だった。

 溢れ返っていた冒険者達も街へと戻り、のどかな村に戻っていた。

 そんな中、無限の世界の外側から退屈な思いで見つめる世界を見つめている異形の存在がいた。

 ヴェルグガゼルこと、通称ヴェルさんだ。

【セラ・トレント】という媒体の中に意識を移し、第三者の視点で人の生活を観測していたのだが、自分で動く事が出来ずしかも【セラ】の負ったダメージは共有してしまう不便な状態。

 五感共有はこれで便利なのだが、矢張り自分で人の生活を味わいたいと思っていた。

 そんな訳で、ヴェルさんは優樹が元の世界に帰還している間、同じく暇を持て余している【暇神】に頼み込んでいた。


「の~う、いいじゃろう?・・・あれ程世界に干渉して置きながらケチくさいこと言うでない」

「だ~か~ら、これ以上アタシが干渉する訳には行かないのっ! 歪みが酷く為っちゃうじゃない」

「今更ではないか、お主自身が変なちょっかいを出して悪化させたのじゃろ? 自業自得ではないか」

「そうなんだけど、流石にこれ以上は拙いのよ・・・マジで・・・」

「我の世界での魔術で何とかならぬかのう、其れなら歪みにも影響はないのでは?」

「・・・・・そうなんだけど・・・あの子に何されるか・・・・」

「それは我が何とかしよう。契約の範囲内ではないか、アレでは我が不便過ぎるのじゃ」

「う~~ん・・・一寸検索してみるわ」

「うむ、一分遅れる事に世界が一つ消えると思うがよい。早くせよ」

「ちょっとぉ!! お願いだから仕事を増やさないでっ!!」

「さっさとせよっ、我は凄く不機嫌なのじゃ」


 面白半分でヴェルグガゼルを連れて来たのが失敗だった。

 当初は只利用する積もりが怖ろしい速度で学習し、今では脅迫まがいな真似をするように至った。

 前回ヴェルさんの攻撃で幾つもの世界が消滅し、再生させるのに苦労した経緯がる。

 此処で機嫌を損ねたらまた無茶な事をすることが明白であった。

 流石の【神】も何度も世界を再生したら歪が広がる恐れがある、ここは何としても機嫌を損ねないようにしなばならなかった。

 全てに置いて超越した存在ではあるが、自分の未来を見通すことなでゃ出来ないのだから。

 殆ど涙目で検索を開始する。

 采配にもその手段はアッサリと判明したのは救いであった。


「方法はあるわね、ヴェルさんの御先祖様が使っていた古代魔法なんだけど・・・・」

「ほう、意外に早いのう。して、如何様にするのじゃ?」

「方法は・・・・で・・・・・・・して・・・・・・・・・るの・・・・分かったかな?」

「そんな方法が有るのかや? 記憶に無いのう、どうやるのじゃ?」

「それはアタシが何とかするわよ、術式も君の世界のモノだし歪みが広がる恐れは無いわ」

「出来れば自分で覚えたいのう、あまりお主の力に頼る訳には行かぬじゃろ?」

「それじゃ、覚えて貰おうかしら・・・・術式を君の脳に刻むからしっかりモノにして」

「お主の能力は便利そうなのじゃが、頭がにょ~んな状態になりそうな気がするのは気のせいかや?」

「気のせいじゃないわよ。確実ににょ~~~んな状態に耐えられずに死ぬから」

「むう・・・残念なのじゃ・・・・便利そうなのに・・・・」


 ヴェルさんが本気で残念そうにつぶやいた。

 そもそも無限に存在する世界の情報を只の生命体如きが処理できる筈が無い。あまりに膨大な情報を蓄える事が出来るキャパシティが無ければ無理な話なのだ。物質世界の生命体が無理に情報を記録しようとすれば、記録媒体である脳が破壊されてしまう。

 幾ら便利でもそんな真似をする気は更々無いのだが、目の前で行使されると羨ましく思えるモノである。隣の芝生は青いというか、無い物ねだりで身を滅ぼす気には為れなかった。


 余談だが、無限に存在する世界の中には稀にアカシックレコードにアクセスしようとする知的生命体が存在するが、それがうまく成功したためしがない。

 一つの情報を検索するのに膨大な情報を知覚せねばならず、仮にアクセスする事に成功しても検索の段階で破綻するのが落ちであった。

 其れでも未だに知識を求めてアクセスする生命体が存在する事は事実であり、その度にその命を散らして行く。欲望に任せてこんな事を続けるのだから誠に愚かしい事である。

 過ぎたる叡智は身を亡ぼす理は真実なのだ。

 

「見ておれ優樹、我が悩殺してくれるわ」

「それはそれで面白いわね、歪みが広がる恐れも無いし、なんだか楽しそう」

「ふふふ・・・・これで我も楽しく遊べるわ・・・・」

「あたしはこれから仕事があるから楽しく拝見させて貰うからね・・・・・ハァ・・・」

「なんじゃ? またデバックで難儀しておるのか?」

「・・・そうなのよぉ・・・・取っても取ってもバグが後から湧いてきて・・・みんな死にそうなのよ」「大変じゃのう」

「上司は記者会見で大きな事を言って期限まで決めちゃうし・・・人手が足りないのよねぇ・・・」

「その上司を始末すればよいのでは?」

「出来る訳無いでしょ!! 毎日ドリンク漬けで徹夜続きなのよぉ・・・・誰か殺して・・・」

「何も律儀に時間に縛られなくても良いのではないか? お主は時間すらも超越しておるのじゃろ?」

「そうなんだけどねぇ~ やっぱり現地での生活を満喫したいじゃない?」

「ぬう・・・それはそうなのじゃが・・・・・」


 ヴェルさんは【神】の気持ちが良く分かる。

 ただ見ているだけよりも現地での生活を体験する事はなかなか面白いのである。

 現にヴェルさんも【セラ】の中で人々との暮らしを体験するだけでも心が躍る。これで直接人々と触れ合えばどんなに良いかと思ったからこそ、【神】にこうして頭を下げ(脅迫とも言う)、何とか人間の生活を体験しようとしていたのだから。

 しかし【神】には理を無視するチート能力が有るのだ。

 なにも目の下に壮絶な隈を作ってまで人間の生活を体験する必要があるのだろうか? ほんの一秒間の間でもこの世界の外側の世界に一時帰還すれば、物質世界の疑似体を回復させることは容易であろう。

 其れをしない事に拘りが在り、その気持ちはヴェルグガゼルには良く分かる事だった。

 だからといって、異世界の事象に干渉するのは如何モノかとも思うのだが・・・・・・

 その最たる理由が暇つぶしであり、その所為で歪みが生まれてしまったのだから救いようが無い。

 優樹はとんだとばっちりを受けている事に為る。


「・・・そんなにきつい仕事ならこちらで休めばよいのではないか?」

「・・・・気持ちいいのよ・・・・・」

「はあっ?」

「きつい状況を乗り越え、満足のいくものだ出来た時の達成感・・・・これはもう病みつきになるわよ?」

「その仕事の所為で世界崩壊を促すような歪みを生み出した者が何を言うのじゃ? しかもアイデアを捻り出した訳では無く、殆どパクリではないか」

「うぐっ!!」

「そのおかげで連立時空崩壊を引き起こす原因を生み出し、剰え何の関係も無い一人の人間を巻き込むのは如何なモノか・・・・お主無責任過ぎやしないかのう」

「だってしょうがないじゃないっ!! あたしもまさか此処までの大事になるなんて思わなかったんだから、不可抗力よっ!!」

「逆ギレか・・・みっともないのう、言われたくなければ最初からしなければよかったのじゃ。どうせ時間なんか無視できるのじゃから、アイデアの一つくらいは出せるのではないか?」

「・・・・・・・・・」

「限りなく全知全能な筈なのに、何故にそんなに矮小なのかのう・・・理解出来ぬ・・・」

「・・・・・・・・アタシにも制約みたいなものが有るんですけど・・・」

「それすら無視したからこそ、こんな状況に為っているのではないか?」

「・・・・すみません・・・・・」

「能力の無駄じゃのう・・・・歪くらい自分で治せぬのかや?」

「・・・無理です・・・」


【神】が生み出してしまった歪は、本来であれば在り得ないモノであり、【神】本人ですら消す事が出来ない特異点になってしまっていた。 限りなく全知全能であるが故に、己の力で生み出してしまった歪みは最早相反する力場と為って【神】の力すら呑み込んでしまう。

 正常に戻すにはその根幹である事象を修復しなければならないのだが、修復する自称そのものが特異点と為っているので用意に干渉が出来ないのだ。

 元々時空そのものが不安定であり、其処に強大な力が流入すれば歪が大きく為る等よく考えれば分かる事なのだ。

 巨大な力は無意味なものどころか毒に為り、石ころ並みに価値の無い生命体が【神】ですらなし得ない抗体に変貌する。歪みとは事象そのものが逆転する非常識な現象を引き起こすのである。

 其れが強大に為れば混沌が生まれ、全てを巻き込みながら強大に為り、やがて対消滅を引き起こす。

 それが現実に発生すれば本当に何もない空間が生まれ、やがて新たな歪を生み出してしまうのであるから質が悪い。何とか歪を小さい物に抑える事が出来たのは幸いであるが、そこから先が【神】の力を受け付けない為、ゆがみが発生する以前の事象に抗体を送り込まねばならなくなった。

 其れが【瀬良優樹】であり、歪みの原因である【セラ・トレント】の抗体であった。


 まぁ、早い話が無責任な上司に仕事を押し付けられた平社員みたいなものである。

 この例えが全ての原因であり、今置かれた状況を端的に説明できてしまうのが皮肉といえる。

 そんなフザケタ話で滅びる世界が出て来るのは、あまりに理不尽すぎる話であった。


「もう笑うしかないのではないか? あまりに馬鹿げた原因じゃのう・・・・」

「上司に仕事を押し付けられて世界崩壊の危機だからねぇ・・・・笑えないわよ・・・・」

「その仕事を他の世界で補おうとしたのがそもそもの間違いじゃろう? 【神】と云う名の上司に仕事を押し付けられる優樹の身にもなってみよ、不憫すぎるとは思わぬのかや?」

「・・・・思います・・・」

「お主は上司の人間と同じ事を優樹に押し付けておるのじゃ、同類だと思わぬのか?」

「・・・・・メッチャ、思います・・・・」

「お主を見ていると反省しておる様には思えぬのじゃ・・・・多少は苦しんで貰わねば優樹が浮かばれぬ・・・・」

「ヴェルさん、ひどっ!! 優樹君は生きてるわよっ!?」

「死んでいる事象も有るのだから間違いではあるまいて・・・それよりどうあ奴に報いるのじゃ?」

「・・・・・考えてはいませんでした・・・・・」

「本当に無責任じゃのう・・・・・」


 絶対的な筈なのに【神】の姿は可哀想なくらい小さかった。

 自業自得とはいえあまりに情けない【神】に、ヴェルさんは呆れている。

 説教してもすぐに忘れるこの無責任に何を言っても無駄だとは分かっているが、優樹は相棒であり被害者でもあるのだ、ここで反省して貰わねば優樹だけでなく自分も浮かばれない。

 ヴェルさんの説教は時間にして三年くらい続いたという・・・・・・・




「ただいま~~~」


 気の抜けた声で一応帰宅した挨拶を誰もいない玄関でいつもの通りに掛け、愛用の〇ジラの足のスリッパに履き替え、中廊下を気ままに進んで行く。

 その途中フッとリビングを見ると、妹の真奈がソファーに胡坐で座り、特大サイズのポテチを抱え、1.5リットルのコーラを掴むと、そのまま酒でも煽るかのように飲み乾していた。

 肩で揃えた甘栗色の髪に、気の強そうなややつり目気味の目、見た目だけなら勇気とそっくりの美少女なのだが、市立中学のセーラー服姿のままにオヤジを連想させる格好で、撮り溜めしたテレビ番組を馬鹿みたいに笑いながら見ていた。

 とてもでは無いが女の子らしくないその姿に、この子は結婚できるのかと不安に為る。

 

「真奈ちゃん、ただいま~~~早かったね?」

「ん~~~~お帰り・・・・む、結構イケるわね、このハバネロ納豆サルサソース風カレー味、兄貴も食べてみる、以外にイケるわよ?」

「ハバネロ納豆は良いとして、何そのサルサソース風カレー味って、いったいどっちの味なのさ!?」

「食べてみれば分かるわよ、以外に美味いわよ? 癖になるかも・・・・たぶん・・・・・」

「いらない、なんか怪しいし・・・・何処で買って来たの? そんな変なポテチ・・・・」

「道でデカいリュックを背負った、コスプレ行商人から買ったんだけど? 大樽爆弾も売っていたわよ? 半額でだけど」

「マジでッ!? 何処のハンターゲームだよっ!!」

「むっ、まさかこっちのコンソメ風海苔塩バーべキュウタラコイクラタコス味を狙ってる? あげないわよ? これ大好きだから・・・・・・」

「一通り混じってるっ!? どんな味なのさっ、スゲェ気になる!! 後タラコは良いとして、イクラって何っ!?」


 どうやら自分の世界には変な物を売る行商人がうろついているらしいと、冷汗を掻きながらうまそうにポテチを食べる妹を見た。

 この妹は時々変な物を買ってきてはテレビを見乍らつまみにしていた。

 何処で購入してくるかはさておき、優樹は真奈の私生活を知らない。

 時折食べてる変な物に加え、三日前には蝙蝠の羽のような物をフライにした様な何かを口にしていた。

 どこぞの主婦の様に家族の知らない所で狩りでもしているのかも知れない。 


「あげないわよっ!! これはあたしのよっ、兄貴は男からのプレゼントでもいただけばいいじゃない」「いらねぇよぉ~~そんな怪しいポテチ! ついでに男からプレゼントをもらった記憶は一度も無い!!  真奈ちゃん何言ってんのっ!!」

「あるわよ? ついでにこれはラブレター、本当にモテるわね兄貴・・・・氏ね、リア充っ!!」


 真奈が取り出した紙袋の中には、優樹宛てのラブレターが大量に押し込められていた。

 更には何処から取り出したのか山積みのプレゼントが入れられた木箱を、ズドンと効果音が出るくらいの勢いで優樹の目の前でテーブルの上に乗せた。

 『何処から出したっ!!』とか『良く持ってこれたねぇ』とかの言葉以前に、木箱に描かれている危険物を表示するマークが気になる。

 良く見ると、『LEVELA指定危険物』等と書いてあった。

 この箱に何が収められていたのだろうか? 嫌な汗が止まらない。

 そして何よりもこんな物騒なマークが描かれた木箱を、妹は何処から持ってきたのかが気になる。

 

「男からのプレゼントとかは処分するから良いとして・・・・この怪しい箱は何処から?」

「ん? それはバイト先の・・・・・ゲフンッ、ゴホッ!! 拾ったのよ・・・・・・・・」

「何で言い直すのっ!? それよりこんな怪しいマークが描かれた箱を使うバイトってなにっ!!」

「兄貴・・・・・」

「なに?」

「世の中には知らない方が良い事もあるのよ・・・・・・・・・これ以上詮索しない方が見の為・・・」

「何で、そんなに何かを諦めたような表情で僕に迫るの?」

「・・・・・命が惜しければ聞かないで・・・・・・」


 何か踏み込んではいけない世界に真奈は足を踏み込んでしまったようだ。

 

「そんなに言うなら聞かないけど・・・・」

「それでいいのよ・・・・それで・・・・」

「で、何が入っていたの?」

「核爆級豚骨鶏がら竜骨スープ風プルトニュウム毒キノコをふんだんに使った、地中海の風が香る札幌博多ラーメン味のポテチ」

「ネーミングに関しては何も言わないけど、軽く死人が出るよねそれ・・・・・・誰が考えたの?」

「あたし・・・・・結構美味しかったのに、どうして没になるのよ・・・・」

「当然だと思うけど?」

「三十人ほど病院の隔離病棟に送っただけじゃない・・・・究極のポテチなのに・・・・」

「一般的にそれを猛毒と言うんじゃないの?」

「「・・・・・・・・・・・・」」


 会話が止まり沈黙が流れる。

 リビングの中をテレビの音だけが流れている。

 

「謀ったわねっ!! あれ程聞かないでと言ったのにっ!!」

「真奈ちゃんこそ何やってんのっ!! 三十人隔離病棟送りって、どう考えても危険物を作ったとしか思えないんだけどっ!?」

「あたしの料理の腕が悪いって言うのっ!!」

「真奈ちゃんが作ったのっ!? 料理技能が猛毒なんだから無茶な真似はしないでよ、死人が出ても可笑しくないんだからね、犠牲になるのは僕たち家族だけで十分だっ!!」

「あたしは其処まで酷くなぁああああああああいっ!!」

「犠牲者が出てんでしょ、いい加減自覚しなよっ!!」

「兄貴に負け続けるのが嫌なのよっ!!」

「その為なら犠牲者が出ても良いのっ!?」

「覚悟の上よっ!! 有象無象がどうなろうと知ったこっちゃないわっ!!」

「酷いっ!! 典型的な悪役だよっ!!」

「メシマズ少女を脱却したいのよっ!!」

「その前にまずお米をトイレ用の洗剤で洗おうとするのを止めようよ、お味噌汁に硫酸は要らないからね? ついでにお肉を焼く時に火薬を塗すの止めて、人が食べるモノを作ろうよ」

「常識を打ち破ってこそ料理の進歩が有るのよっ!!」

「進歩させる以前に、一般的な料理すら作れないじゃん・・・・常識を憶えてよ」

「あたしは常識人よ、何言ってんのよ」

「常識人はお米を洗う前に有毒ガスなんか熾さないけど?」

「あたしは悪くないわ、世界がおかしいのよっ!!」

「その考え自体が非常識だと知りなよ・・・・」


 何時もの遣り取りとはいえ、優樹は妹の非常識さが不憫でならない。

 成績も運動神経も上位に入る優秀な子なのだが、料理に関しては危険を通り越していた。

 寧ろ国家レベルで監視するべきなのではと深刻に考える程に酷い。

 普段は何でも熟すのに、どうして料理に関してだけ非常識な猛毒料理を作ってしまうのか、優樹には其れが不思議でならない。

 ただ解る事は、真奈は恐らくまともな料理は出来ない事だろう。

 何を作っても犠牲者を生み出してしまうのだ、そろそろ逮捕されても可笑しくないのではと不安になる。そして何時かはバイオハザードを引き起こすのだろう。

 例えそうなったとしても優樹だけは真奈の味方でいようと悲痛な覚悟を決めるのであった。




 夕食を済ませ、風呂にも入り、後は就寝するだけの準備を整えた優樹は、ゲーム筐体のスイッチを入れ起動させた。この世界と異世界の生活リズムを調整させるために、敢て土曜日の深夜に転移する事にしていた。

 画面に映る自分のアバタ-【セラ・トレント】を選択し、アイテム【異界パスポート】を使用する。


『何日くらい滞在しますか?』

『一週間/二週間/三週間/一月以上』


「面倒だから一月以上、取り敢えずはこれで予定は終わりと・・・・・」


『異界転移しますか?』

『行くんだろ? 俺の後ろに乗って行きな!/止めろ、馬鹿な真似はよすんだっ!! 戻れなくなるぞ』

 

「・・・・・・・普通で良いじゃん・・・何で一々余計なセリフ何だろ?」


 まぁ、あのムカつく【神】が作ったモノなのだからしょうがないと諦め、優樹は異世界行を選択する。

 テレビ画面が光り輝き、部屋全体が眩しい閃光に包まれる。


「これ、毎度の事乍ら、明らかに目に悪いよなぁ・・・・・」


 そんな事を呟きながら、優樹は異世界へと旅立っていった。


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