神の気まぐれは唐突に ~迷宮プロレスと咬ませ犬レイル~
『・・・・・ヴェルさん・・・何か知らないけど、怪しいよこれ・・・何で白いマットのジャングルがここに・・・』
『・・・・・本来この世界に在る筈の無いものじゃからのう・・・』
誰にも聞こえない様に、セラとヴェルさんは心の中で会話を交わしていた。
ヴェルさんの言う様に、この世界には在り得ないものが、目の前にスポットライトを浴びて存在している。常識的に考えても偶然じゃ済まされない、怪しい臭いがしてくるのだ。
こんな事が出来るのは、当然世界の理を超越した存在以外に在り得ない。
二人はその事に関して心当りが有り過ぎた。
『・・・・・まさかとは思うんだけど・・・・』
『・・・・・その考えは間違いではあるまいて、あやつの仕業じゃ・・・・』
『『神!!』』
世界に干渉する力が在り、尚且つ世界の理からも気づかれずに改変する究極の生命体。
固有概念を知覚できない人間には存在すら知り得る事すら出来ない、愉快犯にして最強の暇神。
おそらく奴の仕業に違いないと、二人は結論付けていた。
『こんな事して何がしたいんだろう? まさか僕たち弄ばれてる?』
『それは無いじゃろう、只無自覚だけじゃ。なんせ、自分の下僕を不死身の存在に創りだして於いて、その事を忘れ遊び呆けていたら、不死身故に苦しみヤサグレておったらしい。実に無責任な奴じゃ、弄ぶ気なら世界が破壊されても可笑しくないバケモノじゃぞ? こんな小さい真似をする筈は無いのじゃ。恐らくは只の暇つぶしじゃろうて、ストレス解消やもしれぬが・・・・・』
『・・・何て傍迷惑な存在なんだ・・・魔を絶つ剣さんは何をしているんだ・・・早く滅ぼして欲しいよまったく・・・』
『アレは無理じゃ・・・滅ぼす事なぞ出来ぬよ・・・・』
『『ハァ・・・』』
互いに被害者であるが故に、この状況は精神的にもの凄いダメージだった。
ただ解る事は、怒り狂った所で無駄だと云う事だけだ。
帰って寝たい、そんな心境に追い込まれるセラとヴェルさん。
神は無責任に賽を振り捲っている。
『・・・・・セクハラモンスターもまさか・・・・・』
『・・・・・あやつの仕業じゃろうな・・・本当に碌な事をせぬ・・・・』
『・・・・何をしてるんだ・・・・神様・・・・』
「・・・・・さん・・・セラさん・・・・」
袖を引っ張りながら訴えてくるフィオに気付き、慌てて我に返るセラ。
「な、なに? フィオちゃん・・・・・」
「如何したんですか、セラさん? ぼ~~っとしてましたよ?」
「・・・気分でも悪いんですか、姉さん? 心此処に在らずでしたよ?」
「・・・何でも無いよ・・・ただ人生が虚しく為っていただけだから・・・」
「・・・姉さん、悩み事なら聞きます! 力不足かも知れないけれど・・・・・」
「・・あはは・・・ありがと・・・・ハァ・・・・」
フィオとマイアが真剣に心配してくれるのが痛かった。
何と云うか、もう何もかもが虚しくなるような心境に陥り、セラとヴェルさんのメンタルは最悪なくらいに落ち込んでいる。最早、人のレベルで如何こうする事は出来ない様な理不尽な力が働いているのだから、当然と言えよう。
逆らう事すら不可能な事を知っているのだから・・・・・
「おい・・・何か来るぞ?・・・」
レイルが指を指した方向から何者かが猛然と走り、それに合わせてライトが点灯して行く。
それは、虎と人を融合させたような生物であり、一般的には【ワータイガー】と呼ばれる獣人族に似ている。しかしよく見ると、そこには明らかに怪しい特徴がはっきり見えていた。
マントを靡かせた完全なレスラースタイル、虎縞のブーツ、腰に着けたチャンピオンベルト、だが頭部はマスクでは無く虎其の物、額に『虎』の文字が書かれている。パクリにも程が有る。
下手をすると抗議の苦情が殺到しかねない、そんな存在であった。
しかもそいつはライトに照らされた花道を、堂々とマントを翻し勇ましくリングに向かって駈けてくる。
リング前で高々と飛び上がり、王者の威厳をさながらに悠然と着地した。
正体不明の混じり物がリングに立った時、周りから歓声が沸き起こる。
良く見ればそこに居る観客たちは全てが人型の魔物であり、スタンディングして熱狂していた。
「・・・・・何だコレ・・」
『セラよ・・・確か探検家のスキルに鑑定眼が在った筈じゃ、あの魔物を鑑定できぬかのう』
「出来るか分からないし、遣りたくないけど・・・遣ってみる・・・・」
スキル【鑑定眼】は、ゲーム【ミッドガルド・フロンティア】では正体不明のアイテムを鑑定するスキルである。この世界でも使えるかは分からないが、モンスターに使えばアナライズ機能として使えた事で、手抜きスキルとして駄目だしされた機能であった。
どうも開発チームが無茶な制作方針に振り回され、開発中に手直しされなかったスキルの一つなのだ。
だがその制作の陣頭指揮をしているのが『神』本人であり、セラ自身の能力がゲームのアバターを反映させた物であるなら使える可能性が高い。
セラ自身は遣りたくもないが、裏で暗躍している理不尽な存在だけには負ける訳には行かなかった。
セラは魔法を使う要領で、自然体で魔物を見据える。
モンスター名
【タイガー・マッスル】
レプリカント獣人族
ステータス
ひ・み・つ!
備考
フェアプレイ精神の塊のような魔物。
常に堂々と一対一で戦う迷宮のチャンピオン。
武器で戦う事に嫌悪し、肉体で戦う事をこよなく愛する。
迷宮階層のボスであり、冒険者達は一対一で戦わねばならない。
勝てば次の階層への階段が出現する。
偶に【虎のマスク】を落とす事が有る。
レアアイテムとして【王者のベルト】を落とす事も・・・
「・・・・・何これ・・・凄く不愉快なんだけど・・・」
『・・・・・如何しろと云うのじゃ、あ奴は・・・・特にアイテム関係・・・』
再び精神的なダメージを負ってしまう。
完全に遊ばれている事が判明してしまった。
殺意すら湧き起こす気力すらない。
だが、誰かがサシで戦わねばならない事だけは理解する。
「レイルさん・・・どうやらアイツと一対一で勝たないと下の階層に行けないみたいですよ?・・・」
「・・・・何でそんなにやつれているんだ?・・・・」
「・・・・・精神的に疲れました・・・・・僕はカツオノエボシに為りたい・・・・」
『・・・・・何故に毒クラゲなのじゃ?』
「何も考えず海を漂い、そして何時かは陰陽師に被って貰うんです・・・・」
『烏帽子違いじゃ・・・・・キレが無いぞよ?・・・』
「ついでに晴明を倒して、僕が奴を操るんです・・・毒電波で・・・・」
『毒クラゲ違いじゃ、本当にキレが無いのう』
「何時かはエリア88に連れて行かれるでしょう・・・・」
『数字が間違っておるぞ?』
「そして、ヨーデルを聞いて死ぬんです・・・儚い人生ですねぇ・・・」
『それは火星人じゃ・・・・・我からすれば波乱万丈に思えるのう・・・』
「・・・地球か・・・・何もかもが懐かしい・・・・」
『何故に沖田艦長?』
「・・・ワカメと言ってやれ・・・ワカメだ・・・」
『海に戻りおったか・・・本当に疲れている様じゃな・・・気持ちは分かるがのう・・・』
「セラ、お前頭大丈夫か? いろんな意味で・・・・・」
セラの思考は別の意味で腐り果てていた。
レイルの心配を他所に虚ろな目で笑っているのが怖すぎる。
かなり危険な兆候に思える。
「けど、どうするの? あいつを倒さないと下の階層に行けないんでしょ?」
「セラさんはこんな状態ですし、私達で何とかしないといけませんね・・・・・」
「姉さん、しっかりしてください!! 気をしっかり持って、姉さんっ!!」
「これを飲めば、セラさんも復活するんでしょうか?・・・・・」
「「「!?」」」
フィオの手にしているのはあの薬。
その現実がレイル達に強い精神的な衝撃と為って降りかかる。
天使さんが段々と汚れていく。
とうとうフィオにも村人と同じ兆候が表れ始めた事実に三人は戦慄する。
「フィオっ、ソレをやっちゃ、おしまいよっ!?」
「フィオさん、早まった真似は駄目ですっ!! きっと他に方法が有る筈です!!」
「お前までその道に踏み込んだら収取が付かなくなる、考え直せぇっ!!」
「は、はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃいっ!?」
三人が全力を挙げて止めに入るのも無理はない。
セラの影響から暴走を始めた村人達、彼等の様な常識を無視したような人種にするには気が引ける。
せめて、フィオとマイアだけはマトモで居て欲しい三人だった。
何より彼女の両親にどう謝罪すればいいか、下手すれば両親が号泣しかねない。
常識的な三人は、何が何でも過ちを犯させる訳には行かないのだった。
「仕方ねぇ、俺が相手する・・・・・セラにばかり強い奴を押し付ける訳には行かないからな」
「レイル・・・気をつけて・・・・」
「む、無理しないでよ? いざと為ったら強引にでも助けに入るから」
「まだ上の階層だから大丈夫だろ? 楽に倒してきてやらぁ」
レイルが気楽に言いながら、リングへと足を進めて行く。
『・・・アレは死亡フラグでは無いのか? そう甘い奴では無いと思うが・・・』
「・・・・・裏に見え隠れする存在が、何かを仕組んでるのは間違いないしねぇ・・・ハハハ・・・』
セラとベルさんの警戒心はかなり高い。
二人はこの階層が相当ヤバいと踏んでいるのだが、レイルに忠告する気遣いが既に枯渇していた。
それ程までにショックが大きかったと云う事だろう。
此処まで姿を見せずに精神を消耗させる神は、常識では測り知れない存在なのだから仕方ない。
だが、それが後にレイルの命運を決める結果に為る事を、二人はまだ知らない。
レイルがリングに近付こうとすると、女性型の魔物【バンシー】が遮りレイルと何かを話している。
何かを納得したのか彼は【バンシー】に連れられ、その先に在る部屋の中へと消えて行った。
その部屋のドアの上に在る使用中と書かれたランプが点灯する。更にはマイアとセラがリング脇の座席に連行され、フィオ、ファイとミシェルは傍の観客席に座る事と為る。この世界の四人は何が何だか分からないようだが、セラとヴェルさんだけはその意図に気付いていた。
マイアの横に居た【ゴブリン・プロデューサー】がマイアに紙を渡し、其れに目を通したマイアは何故か頭を抱えてしまった。
時間が来たようで、【ゴブリン・プロデューサー】は指を折りながらカウントダウンを始める。
『さ、さあ始まりました、迷宮プロレスタイトルマッチ・・・き、今日この日、あ、新たなるチャレンジャーが王者に挑もうと、し、しています。じ、実況は私、マイアと・・・・解説は・・・』
『皆さん、お元気ですか? 井上よ・・・もとい、【ファンキー・トレント】です。ファンキーと呼んでください』
なぜかアフロでグラサンを掛けたセラが、ノリノリで饒舌に語り出す。
先程のノイローゼ気味な様子はどこへやら、かなり気に入っている様である。
『王者は既にり、リングの上でチャレンジャーを待ち構えています。どど、どう思いますか? おね、いえ、ファンキーさん、今日の予想などは・・・・』
『う~~ん、王者に貫録在り過ぎですねぇ。チャレンジャーは苦戦を余儀なくされるでしょう・・・先ずは力を見極めてから確実に攻めて行くのがベストかと・・・』
『ああ、ありがとうございます。そうこうしている内に、チャレンジャーの入場です』
花道にライトが当てられ、レイルが真剣な表情でリングに歩いて来る。
何故かガウンを羽織り、背中に書かれた【喧嘩上等不羅愚裳上等】の文字が痛々しい。
何か間違っている。
レイルがリングに上がり、ガウンを投げ捨てると、【レフリーゴブリン】が中央へお互いを促す。
【タイガー・マッスル】とレイルが固い握手を交わす、実に紳士的である。
少し距離を置きつつ、互いに真剣に睨み合いながらその時を待つ。
カ―――――――――――――ン!!
今ゴングが高らかに鳴らされた。
「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
レイルは行き成り【タイガー・マッスル】に挑みかかる。
拳を振り上げ勢い任せに殴り付けようとするも、腕を掴み取られ其の儘ロープに勢いよく飛ばされたそして反動で戻って来たレイルの首元に鋭いチョップが叩き込まれ、後ろ向きにマットに倒れる事と為った。更に其処から腹部に肘を落とされ、レイルは苦悶の声を上げる。
「グ八ッ!?」
「いやああああああっ!? レイル――――――――――ッ!!」
「何考え無しに突っ込んでんのよっ!! しっかり相手を見なさ―――――――――――いっ!!」
『こ、これは大丈夫でしょうか、ね、いえ、ファンキーさん!!』
『これは予想以上に厳し戦いですねぇ、レイル選手は対人戦には疎いようです。話に為りません』
解説の通り、レイルの戦いは直線的であり明確な意思を持つ者との戦いは想定外であった。
何とか立ち上り、レイルは再び殴りかかるが拳を掴まれ【タイガー・マッスル】は微動だにしない。
すかさず顔面に蹴りを入れようとするも、蹴り上げた足を絡み取られ、其の儘【タイガー・マッスル】は高々と飛び上がり空中で反転し、レイルは再びマットに叩き付けられる。
頭から叩き付けない分、彼は紳士である。
『拙いですねぇ、動きが直線的で技も無い。喧嘩殺法じゃ、勝ち目は薄いです』
『体勢を立て直すまでチャンピオンは攻撃しませんね、実にフェアです・・・レイルさ、いえ、選手は苦しい状況です。それにしてもチャンピオン、実に紳士ですね・・・・追撃をしません・・・』
「何暢気に実況してんのよ、アンタ等っ!! レイが負けてんのよっ!?」
「お二人とも酷いです・・・レイルが・・・」
最早一方的な展開であった。
レイルには対抗するための技を持っておらず、関節技や打撃技の応酬で次第に消耗して行く。
獣を狩る為の技術は可成りの手練れであるが、こうした対人戦闘に疎いレイルは為す術が無いのだ。
ギブアップをしない限り、【タイガー・マッスル】も引く事は無く、しかも体勢を整えるまで離れて待機するフェアプレイ精神には頭が下がる。しかしレイルは諦めない。
どんなに技を掛けられ傷付いても立ち上がり、【タイガー・マッスル】をしっかり見据え反撃の糸口を見つけようとしていた。
ロープに投げられ再び戻るのを想定した彼は、【タイガー・マッスル】に初めてラリアットを叩き込む事に成功する。
そして倒れた【タイガー・マッスル】の腹に、飛び上がり膝を落とした。
だが追撃はせず、【タイガー・マッスル】が立ち上がるのを待つ。
『レイル選手は温いですね、技でも力でも劣るのですから、ここは腕を極めに行くか更に追撃した方が良かったでしょう。残りの体力もあまり残されていないのですし・・・・・』
『ですがお互いにフェアな戦いぶりです。これは好感が持てますよ?』
『勝負の世界は真剣勝負、殺るか殺られるかです。目的を忘れている気がしますねぇ』
物騒な事を真顔で平然と言い放つファンキーさん。
だが言っている事も一理あり、この【タイガー・マッスル】を倒さないと下の階層には行けないのである。ましてや疑似生命体である魔物に、フェアな戦いを仕掛ける道理は何処にもない。
ハッキリ言えば無意味な時間を使っているのだと云う事を教えているのだが・・・・・
「アンタ悪魔!? なに非道な事言ってんのよっ!!」
「セラさん、そこまで非情な方だったのですか!? 血も涙もない修羅なのですか!?」
「セラさん・・・・・空気を読んでください・・・・・」
『あれぇ~~~~~~!?』
・・・・・・・・不評だった。
傷つきながらも真剣に挑むレイルに、皆が感動していた。
そしてセラは、そんな空気をぶち壊す異物と為り果てていた。
たとえその姿が無様でも、真剣に挑み戦う姿は美しものである。
だが、セラはその事が頭から抜け落ちていた。
「うおおおおおりゃぁあああああああああああぁぁぁっ!!」
レイルが雄たけびを上げながら突進して行く。
まるで試合開始当初に戻ったようだった。
だが最初の頃とは違い、彼は体制を低くし足元を狙いに行くと気付き、【タイガー・マッスル】は其の儘彼をやり過ごし背後に回ると、太い両腕で腰に抱き付き其の儘後方にブリッジでもするかのように投げ飛ばす。ジャーマン・スープレクス・ホルードである。
レイルは頭からマットに叩き付けられ、脳震盪を起こしていた。
【レフリーゴブリン】のカウントを始め、スリーカウントでレイルの敗北が決まったのである。
試合終了のゴンが鳴り響く。
【タイガー・マッスル】は片手を高々と上げ、威風堂々と勝利を宣言した。
「レイル、無事ですか?」
「頭から落とされたわよ、大丈夫なの?」
「・・・・・・まだ・・眩暈がするが・・・大丈夫だ・・・」
レイルは震える体にムチ打ち、よろけ乍らも立ち上がると【タイガー・マッスル】と固い握手を交わしたまま、前のめりに倒れて行った。
その姿は実に清々しくも、フェアプレイ精神に則った男らしいモノであったと云う。
だが、負けた以上下の階層に降りる事は叶わず、悩み所が多い。
取りあえずレイルの回復を優先する事にした。
「・・・・・てっきり、キン〇バスターでも仕掛けてくると思っていたんですけど・・・」
『・・・我もそう思ったのじゃが・・・・・無かったのう、期待外れじゃ』
「次は誰が相手をするんです? 結構手強いですよ彼、上層階層に出て来るような魔物じゃないよね、アレは・・・・・」
『・・・・・このパターンなら決っておろう・・・』
セラを除く全員が一人の人物を目で指していた。
言いたい事は分かるが受け入れたくないセラ、視線を逸らしてもチクチクと凝視されているのが分かる。その場から逃げようとするも、ファイとフィオに腕を無言で掴まれてしまう。
フルフルと首を振り最後の抵抗を試みるが、虚しい足掻きである。
「嫌だぁあああああぁぁっ!! マッチョと取っ組み合うのなんて、いやだぁあああああぁぁっ!!」
「往生際が悪いわよアンタ、レイル以外にアンタしか居ないいんだから、諦めなさい!!」
「横暴だぁああああああああぁっ!!」
「セラさん、フィオさんやマイアさんに彼の相手をさせる気出すか? お嫁に行けなくなってしまいます。責任とれるのですか?」
「僕ならいいのっ!? 二人とも酷い!!」
有無言わさずセラは【バンシー】に連れて行かれて行く。
肉にされる家畜の気持ちが分かった気がした。
使用中のランプが付き、やがて選手部屋からセラの声が聞こえて来る。
『その衣装だけは止めてぇ~~~っ!! 何でそんなに薄い生地なのさっ!! そして何でいい笑顔で僕に迫るのぉっ!? お願いだからそっちの衣装にしてっ、その衣装は破れそうなんですけどっ!! そこっ、何してんの!? スケスケなんて僕着ないからね、何で残念そうなの、君らは僕に何を求め・・・や、ダメだって、シャレんならないっ!! だからそっちでいいってっ!! 何でそんな衣装が有るの? 18未満はお断りの規制がつくよっ!? 妥当な所でいいんだってばさっ!! 君ら訴えるよ、そして勝つよっ!! 慰謝料払えるの? そんなの関係ねぇ!!じゃないよ、カメラは止めてぇ~~~っ!!』
「「「「・・・・・・・・」」」」
何やら色々と危険な様子であったが、如何やら準備が整ったようで使用中のランプが消える。
それに合わせて解説席にはマイアとレイルが、フィオ達は観客席で見守る事に為る。
そして花道にスポットライトが当たると、巫女装束のセラが姿を現した。
「・・・・・セラさん・・・・きれい・・・」
「・・・・・・最早、別人に見えるわね・・・・・」
「・・・どこの国の装束なのでしょうか・・・凄く神秘的です・・・」
花道を静かに進むセラの姿は、フィオ達にとって観た事の無い文化の衣装なのである。
内心セラは『この世界でコスプレするとは・・・・』と嘆いていたりもするのだが、概ね好評を得ていた。しかしセラから迸る気配は恐ろしく冷たく、静かなる殺意が込められている。
その向けられている矛先は【タイガー・マッスル】では無く、こんな変な介入の仕方をしてくる『神』に対してである。『会う事に為ったら、マジで殴る!!』心にそう決めていた。
そんな恐れ多い事を考えていたりするのだが、皮肉な事にセラの着ている衣装は神に仕える巫女の物であった。
セラがリングの前に着くと、まるで浮かび上がるかの様な静かなジャンプでロープを越え、軽やかにマットの上に降り立つ。
対戦相手の【タイガー・マッスル】は、何故か興奮気味に思える。
鼻息が荒々しい。
セラは身の危険をひしひしと感じていた・・・・・




