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 この迷宮変過ぎます ~レイルの不幸と教育問題~

「ちょっと、上の【ゴブリンアーチャー】何とかして! 接近出来ないわよ!!」

「階段前に【ゴブリンソルジャー】が陣取ってやがる!! 突破しないと無理だ!!」

「・・・・・飛行魔法使えばいいんじゃないの?」

「それです、マイアさん!! レイル、ファイ!! 行きましょう」

「「「【レビテーション】」」」


 レイルパーティーは、飛行魔法で踊場まで飛ぶと、そこに居る狙撃担当のゴブリンに襲い掛かる。

 元々単体の能力は低いので一撃で蹴散らせるのだが、如何せん数が多くしかも戦略的に有利な状況を作り襲ってくるのだ。

 並みの冒険者では為す術も無く倒されてしまうだろう。

 だがレイル達は即座に対応し、確実にゴブリン共を倒しまくっていた。

 

「・・・飛行魔法・・・いいなぁ・・・」

「フィオっ!!」


 レイル達を眺めていたフィオに、地上にいた【ゴブリンウォーリァー】が剣で斬り付けようとするも、咄嗟にマイアがフォローに入り返り討ちにする。


「気を抜いては駄目、まだ敵はたくさんいるから・・・」

「ありがとうございますぅ、マイアさん!!」

「・・・き、気にしないで・・・・・・」


 照れるマイアを不謹慎ながらも、かわいいと思うフィオ。

 しかしまだ戦闘は終わっていない。

 雑魚とは云え数では倍はいる【ゴブリン】に、フィオは「【フレイムアロー】!!」炎の矢を浴びせる。

 その隙にマイアが、一気に弱った【ゴブリン】を始末して行く。

 マイアに続きフィオも参戦し、的確にかつ効率よく【ゴブリン】を倒していった。

 所詮は雑魚、数では優位に立とうとも、彼等の前では只蹴散らされる運命に在った。

 油断さえしなければ楽に倒せる魔物なのである。


「わぁ~お、皆やるぅ!! 僕が参加出来ないのが少し残念」


 暢気な事を言いながら、セラは黙々とアイテムを回収して行く。

 セラはあまりに強過ぎる為、レイル達からなるべく後方で見ていて欲しいと言われていた。

 どうもアイテムが絡むとセラは暴走しがちになるので、これではフィオ達の修業にはならないのではと忠告されたのだ。

 考えてみれば思い当たる節も有り、フィオやマイアには実戦経験を積ませようと云う話に為ったのである。

 無論これはフィオやマイアも賛成し、承諾を取った上での事である。

 危険が無いように後方で控え、アイテムの回収やいざと為った時の切り札としての意味合いも大きい。

 強過ぎる故にその力を持て余し、レイル達の鍛錬の邪魔に為ってしまうのだ。

 こうなると強過ぎるのも考え物である。

 若干疎外感を感じつつも、セラは後方で見てるだけで彼らに手助けをしていない。

 一応フィオ達の師匠なのである、二人の成長を阻害する訳には行かなかった。


『何と言うか、暇じゃのう・・・』

「そうだねぇ・・・・でも後ろから見ていると判る事も在るよ?」

『ほう? 例えば?』

「レイルさん達はバランスを重視した戦闘が得意で、それぞれが役割を決めて効率よく動ける陣形を取っている。そこにフィオちゃんやマイアちゃんを加えて、戦略の幅を広げようとしているみたいだよ?」

『しかしのう、あの二人では力不足と思うのじゃが、巧くいっておるのか?』

「予想以上にフィオちゃんたちは強いよ? それに自分で戦い方を模索しては試しているみたい、二人とも優秀過ぎ!」

『・・・・・セラよ、お主が師匠である意味が有るのかのう?』

「・・・・・無いね・・・師匠なんて飾りです、偉い人には其れが分からんのですよ!!」

『サラリと自分を否定しよった・・・・・手ほどきをせぬのかや?』

「今更必要? あの二人自分のスタイルが出来上がってるんだけど・・・・・」

『それ以外の事を教える気は無いのかや?』

「錬金術ぐらいしか無いんだけど・・・・・」

『あの二人が不憫じゃのう』

「ごめん」

『我に謝られてものう・・・・・』


 この階層のボスは【ビークイーン】だった。

 デカい蜂の女王様でフィオとマイアのコンビで倒したのだが、アイテムが蜂蜜だけであった。

 おそらく核と為る素材を破壊してしまった為、残り物が蜂蜜だったのだろう。

 こればかりは運任せなのだが、セラとしては不満だった。

 しかも何もしてはいないのである、欲求不満に為るばかりだ。


「何か森で倒した方が良くね? この女王蜂・・・・」

「そうですねぇ、素材が蜂蜜だけと言うのもいただけません。【ハイ・ポーション】を作ったら直ぐ無くなりますよ?」

「・・・・・しょぼいです。防具の素材すら取れません」


 女王蜂は不評の様だった。

 だがセラ達は勘違いをしている。

 そもそもこの魔物達は、迷宮の防衛システムの暴走により生み出された複製疑似生物なのである。

 森に住むような魔獣や昆虫の様に、素材が複数手に入れられるわけでは無いのだ。

 核が破壊されれば体を構築している物質が崩壊し、チリと為って消えるだけ。

 そして再び迷宮の防衛機構によって再構築されるのである。

 生きているように見えるが、魔獣とは違い存在そのものが希薄で脆弱。

 しかし生き物同様に思考し戦略を立てて襲って来るモノだから、生物と混同し錯覚を引き起こす。

 魔物はどんなに生物的であっても、紛い物に過ぎないのである。

 其れでも採取できるアイテムは良質な物が多いので、決して侮る事も出来ないのだった。


「ゴブちゃん、何故か牙しか手に入らないんだよねぇ。まぁ、金属質だから多少安いけど売れますけどね」

「セラさん、本当に素材の事詳しいですね。凄く勉強に為ります」

「しかし、昨日までとだいぶ違うな・・・・・まるで進化してるみたいじゃねぇか」

「!? レイが進化って言ったわ!! まさかそんな学術的な言葉を知っているなんて・・・・」

「ファイ・・・お前の中で俺はどんだけ馬鹿なんだ・・・・・」


 レイルのボヤキに、すかさず顔を背けるファイ。

 基本的に突撃馬鹿なのだが、仲間を得る事でレイルも色々と考えているが、矢張りどうしても自分のスタイルを変える事は出来ず己を鍛える事に慢心してる。

 前衛、中衛、後衛とバランスが良い為、レイルも安心しきっている所が有る。

 其れが自覚できるため、更なるレベルアップを図っているのだ。

 フィオとマイアが加わる事で、より幅広く同時に責任も増しレイルは適度な緊張を得る事で、実戦経験を稼いでいた。

 それは、そう云った事を冷静に見つめる事が出来る事を意味し、レイルが只の突撃馬鹿で無い事を証明する物でもある。

 普段がどんなに体育会系でも、彼は仲間の事を大切にしているのだ。

 例え仲間の二人がレイルに恋愛感情を抱き、本人がそれに気づかなくとも・・・・


「・・・・・リア充、爆ぜろ!!」

「何で時々お前は俺に敵意を向けるんだ? 納得いかんのだが・・・・・」

「何でも無いですよ!! えぇ、何でもねっ!! 羨ましくなんか無いんだからねっ!! 別に何とも思ってないから、勘違いしないでよねっ!!」

「何でツンデレ?」


 首を傾げるレイル。

 セラの嫉妬は今日も絶好調に炸裂していた。


「・・・・・朴念仁 気づかず立てる フラグかな・・・・・・」

「マイアさん、何ですかそれ?」

「・・・・・何と無く頭に浮かんだ・・・何だろう?」

『的確な表現じゃな・・・朴念仁 思わず沸き立つ 殺意かな とも言うのう』

「ヴェルさんも!?」

『因みにあの二人は、朴念仁 気付いて欲しい 胸の内、と云ったところか』

「・・・・・何と無くわかりました」


 ヴェルさんとマイアの五七五調で、今の現状が理解出来てしまう。

 フィオもファイやミシェルが不憫に思えて来た。

 哀しいけれど、お約束であった。


「そうやってフラグ立て捲ればいいじゃない!! 乙女心を弄べばいいじゃない!! ハーレム要員増やせばいいじゃないっ!! 羨ましくなんて無いんだからっ!! いつか刺されたって気にしないんだからねっ!! 背中には気をつけなさいよ、今も誰かが狙っているんだからねっ!! 特に僕がっ!!」

「わけわかんねぇよっ!! つうか、何気に背後から襲う宣言してんじゃねぇ!!」

「死んじゃえ、バカっ!! うわああああああああああああん!!」

「何で泣きながら走り出す?」


 ・・・・何度も言う様だがセラは元男である。

 レイルの状況は殺したいほど羨ましかった。

 あまりの羨ましさに、『悔しくて涙が出ちゃう、だって男の子だもん』状態である。

 そのうち異端審問をやりかねない勢いである。


「・・・・・あの子、百合は嫌いじゃ無かったの?」

「・・・・・基本的に攻めなのではないでしょうか? そう考えると納得できます」

「でも、それって・・・・・」

「私達がセラさんに狙われている事に為ります・・・・・・」

「・・・・・嘘でしょう!?」

「そう思いたいのですけど・・・・・セラさんを見ていると、そうとしか・・・・・・」

「冗談よね・・・・」

「・・・・・・・・・・そう思いたいです・・・」


 ファイとミシェルの背に悪寒が走り、ブリザードが吹き荒れる。

 第三者の視点で見ればセラは男より女の子が好きで、モテる男を敵視している事に為り、更には百合じゃないと言い張っている。

 其処に矛盾が生じるのは、セラに事情を誰も知らないが故であるのだが、明らかに百合の人にしか見えないのだ。

 その為にセラは、要らぬ誤解を受ける事と相成りし候。

 この時からセラは、【白百合旅団】のミラルカと同類扱いと為った事を本人は知らない。

 どんなに百合じゃないと言い張っても、やっている行動は百合其の物なのだから。

 セラの受難は続く。



 何だかんだで迷宮第五階層まで進撃をしていたセラ一行。

 魔物の強さもアンバランスで、雑魚の中にとんでもなく強い個体も紛れていた。

 現在相手にしているのは、【デミ・トライホーンビートル】

 三本角を持つカブトムシモドキである。

 口には鋭い顎を持ち、目の前の魔物すら捕食する迷宮の防衛ユニットとしては、些か問題が有る狂った魔物であった。

 なにせ、足を斬り落とせば他の魔物を丸呑みにして再生をするのだ。

 しかも他の魔物と連携してくるのが質が悪い。

 周りを固めるのが、【パライズ・ヘッジホッグ】

 鋭い棘を翳めただけで、麻痺状態にされてしまう。

 そうなれば後は蹂躙されるだけであり、確実にハリネズミを先に始末しなければならない。

 しかしこのネズミ、怖ろしく早く動き回るのである。

 レイル達も苦戦を強いられていた。


「このネズミ、小さい癖に厄介だわ」

「小回りも利くようですし、何とかしないとあの虫が突進してきます」

「【ストーム】」


 マイアが竜巻を起こして、【パライズ・ヘッジホッグ】を巻き上げて行く。


「スゲェぜぇ、マイア!! フィオとファイは落ちて来たネズミを殲滅、ミシェルは今の方法でマイアとネズミの対処!! 俺はデカ物を狙う!!」

「「「「了解!!」」」」


 たった一つの出来事で、すかさず対処方法を導き出す。

 レイルは統率者としては優秀なようだ。


「【ウインド・ハリケーン】!!」

「【ストーム】!!」


 高々と巻き上げられたハリネズミ達は、そのまま高硬度から床に叩き付けられダメージを負う。

 すかさずフィオとファイが斬り込み、悉く殲滅していった。


「ごめんなさい!! ゆるしてくださ~~~いっ!!」

「別に謝らなくてもいいんじゃない? どうせ本物の生物じゃないんだし」

「でも何か可哀想ですぅ」

「気持ちは分かるけど、今は倒す事を考えて!! 数を減らさないと危険よこいつ等!!」

「はいっ!! 頑張ります!!」


 地面に叩き付けられたハリネズミは身体にかなりのダメージを負い、フィオ達の手によって駆除されて行く。

 そんな彼女達を横目に、セラはせっせとアイテムの回収に勤しんでいた。

 ハッキリ言えばこれしか役に立っていない。

 ボッチだった・・・・・・


「るるる~~~る~~る~、るるる~~る~~る~~♪」

『なんじゃ、その辛気臭い曲目は?』

「いいんだ・・・みんなで楽しく殺戮の宴を楽しんでいる所で、僕は孤独にアイテム回収・・・強者とは常に孤独なのさぁ~~。るるる~~~~♪」

『・・・・・ひょっとしなくても拗ねておるのか?』

「違うもん、拗ねてなんかいないもん・・・・・最強は孤独なんだもん・・・・・」

『お主が出て行けば直ぐにでも決着が着くじゃろう、しかしそれでは修行に為るまいて・・・』

「分かっているけど、何か納得がいかない・・・・・」

『人生儘為らぬモノじゃな』

「こっちに来てくれてもいいのに・・・魔物さんのバカ・・・・・・」


 そんな事を呟いた矢先に、【トライホーンビートル】がセラの背後から突進して来た。

 そして長い角を持って、勢い任せにセラを投げ飛ばす。


「おにょぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」

『油断大敵じゃな・・・・・如何するのじゃ?』

「デストロイ!!」


 空中で体制を整えると、セラは【トライホーンビートル】に狙いを定める。


「【アイスランサー・ストライク】!!」


 セラの周りに出現した氷槍が、【トライホーンビートル】に向かって無数に襲い掛かる。

 分厚い装甲の外殻を易々と貫き、そのまま一気に凍結させてしまった。

 凍結した【トライホーンビートル】を背にしたように静かに着地し、指先をパチンと鳴らすと、凍り付いた魔物は氷槐と共に霧散した。


「・・・・・一撃かよ・・・」

「ほんと、出鱈目ね・・・・・・」

「・・・・・セラさん強過ぎます・・・・」

「・・・・・姉さん・・・・・かっこいい、素敵過ぎ・・・・」

「・・・・・無敵です! セラさん!!」


 セラの戦いぶりは賛否両論だった。

 年少組には好評なのだが、年長者には呆れを取り越して同でも良くなっていた。

 向かう処敵なしのセラは、ある意味では本当に扱い辛い存在である。

 なんせ、経験を積む前に殲滅してしまうのだ、これでは鍛錬に為りよう筈も無い。

 最強の存在は、厄介者に為りつつある。

 だがまだ戦いが終わった訳では無い。

 セラに気を取られていたレイルが、セラと同様に【トライホーンビートル】に跳ね飛ばされた。


「ぬおぉおおおおおおおおおおおっ!?」

「「レイ(レイル)!!」」

「楽しそうだなぁ~~何処まで飛んでゆくんだろう・・・・・」

『結構高く飛んだのう・・・・・あやつ大丈夫かのう?』

「楽しそうですねぇ、空を飛ぶのって・・・・」

「フィオ・・・何を暢気な事を・・・・・」  


 更にはセラ達の周りを【パライズ・ヘッジホッグ】が動き回りながら取り囲んでいた。

 レイルを助けるどころでは無い、油断すれば自分達が魔物の餌食に為りかねないのだ、ちょっとした事で状況が一変する、これが迷宮の怖さである。

【パライズ・ヘッジホッグ】の麻痺効果は今の状況では危険な物とセラは判断し、セラは咄嗟に魔法を放つ。


「【スパイラル・タイフォーン】」


 セラのは為った魔法は高位風属性魔法である。

 幾つもの竜巻が発生し、片っ端から【パライズ・ヘッジホッグ】を飲み込んで行く。

 流石に重量が有るのか中々浮き上がらず、【デミ・トライホーンビートル】は床に足の爪を食込ませ、何とか飛ばされまいとしがみついていた。

 

「うおぉおおおおおおおっ!?」


 落下途中のレイルは再び空中に吹き飛ばされ、愉しい空の散歩をさせられている。


「・・・・・セラ・・・アンタ、レイになんか恨みでもあるの?・・・・・」

「セラさん・・・・酷過ぎます。まさか其処までレイルの事を嫌っていただなんて・・・」

「何でっ!?」


 レイルが再び空中遊泳する事に為ったのは只の偶然なのだが、ファイとミシェルには意図的に仕組んだとしか思えない状況だった。


「・・・・・本当に楽しそうです、レイルさん」

「・・・・・アレ違うから、楽しんでないわよ? 寧ろ助けないと危険なんじゃないかしら・・・」

『これが、サイクロン方式と云うものか・・・このエリアが綺麗に為りそうじゃ』


 レイルは何とか二階の踊り場にしがみつく事で難を逃れたが、そこで見たモノは怖ろしい威力の高位魔法だった。

 魔物を飲み込みながら、幾つもの竜巻が次第に一つに重なり合って行く。

 高速で回転する魔物を、別の竜巻で巻き上げられた魔物が、一つに合わさる瞬間に互いに激突し、更には竜巻内部で真空の刃が切り刻む。

 複数の竜巻が一つに合わさる事で威力を増し、更なる威力と為って魔物達を蹂躙しているのである。

 そこに在るのは疑似的に生み出された自然の猛威の再現。

 しかしその中に自分が巻き込まれていたかと思うと、流石のレイルも生きた心地がしなかった。

 

「・・・・・セラを後衛に回すのは危険だな・・・本気で殺され兼ねねぇ・・・・・」


 強力過ぎる魔法の威力は時として仲間も巻き込む事がる、前衛に特化しているセラの戦い方は、後衛に移すには余に不向きと悟るレイル。

 せめて中間にして置けば、こんな事に巻き込まれる事には為らなかっただろう。

 レイルはここで重要な事を学んだのであった。



「いやぁ~っ、スッキリしました。やっぱり暴れないと迷宮は面白くないですね」

「・・・・・レイルをどうやって下ろしましょう。このエリア階段が無いのですが・・・」

「飛行魔法が有るから大丈夫よ、それにしても凄い威力ね、同じ魔法をアタシが使ってもここまでは出来ないわよ・・・【スクロール】持ってないけど・・・・」

「売りましょうか? 僕、結構持っていますよ」

「今はお金が無いからいいわ、少しずつ強い魔法を覚えて行くしかないし・・・・・」

「無理して強力な魔法を覚えても、魔力枯渇で鬱に為りますからね。補助魔法を充実させたい所です」

「買いますか? 売りますよ何でも、装備品以外なら」

「装備品借りてるけど、これは?」

「レンタルです!!」

「売る気は更々無いんですね、セラさん・・・・・」


 ファイとマイアは、セラから補助アイテムを借りている。

 しかし飽く迄も借りているだけで、いずれ返さなければならないのだが、レンタルと言いきったセラにいくら請求されるのか怖い所であった。

 事アイテムに関しては妥協を許さぬマニアなのだ。

 可愛らしく微笑んでいるセラの後ろに、不気味な笑みを浮かべる黒い影が見えたような気がした。


「ヒデェ目に会ったぜ、まったく・・・・」

「おっ? 帰ってきましたね、レイルさん」

「・・・・・・お前・・・まさか俺を葬ろうとしたんじゃ無いだろうな?」

「殺る時には正面から行きますよ? 僕は」

「殺る気かよっ!! 堂々と宣言すんな、怖いんだよマジでっ!!」

「・・・・・酷い・・・・こんな美少女に・・・そんな言い方って・・・・・」

「自分で美少女言うなっ!! 後、可愛らしくシナを作るなっ!!」

「グッときましたか? 惚れちゃいましたか? 起っちゃいましたか?」

「起つって、何がですか?」

「「!?」」


 セラとレイルの会話に、素朴な質問を投げかけてきたフィオ。

 しかしこの問題は難易度がかなり高い。

 この天使さんに正しい保健体育の授業をしていいモノか、二人の間に緊張が走る。


『拙い、ここで話すような内容じゃないぞ!! 何とか誤魔化さねば・・・・しかしどうやって? 下手な事を教えて両親が怒鳴り込んできたら事だぞ? どうする、如何するの俺ぇ!!』

『う~~ん、フィオちゃんの年頃だともう授業で習う事だよね? 別に教えてもいいけど、耐えられるかなぁ? 何も知らないで変な人に付いて行っちゃうかもしれないし、けどなぁ、フィオちゃん純真だし・・・・・でも、真っ赤に顔を染めたフィオちゃん・・・見てぇっ!!』


 二人の思考は全く違う事を考えていた。

 方や悩むレイル、方や一部不穏な動機が見え隠れするセラ。

 そして・・・・


「二人とも、どうしたんですか?」

「あのねぇ、フィオちゃん。起つと云うのはね、男の子の・・・・・・」

「言わせねぇよっ!?」


 この後正しい保健体育について、二人の間に激しい議論が展開した。

 しかし決着はつかず平行線のままで終わる事と為った。

 教育と云うのは難しい問題が山積みなのだ。


「何が起つんでしょうかねぇ? マイアさん知りませんか?」

「・・・・・一応知っているけど・・・・・・」

「じゃぁ、教えてください!!」

「えっ!?」

「何が起つんですか? 興味津々です!!」

「・・・・・そ、それは・・・・・~~~~~~~~っ!!」

「何で赤くなるんですか!? そんなに恥ずかしい事なんですか!?」

「・・・・・ある意味では・・・・・凄く恥ずかしい・・・・・・」

「それでも教えてください!! 恥ずかしい何が起つんですかっ!!」

「・・・そ、それは・・・なにが・・・・・~~~~~~~~~~っ!! あたしには恥ずかしくて耐えられない!!」

「そんなに恥ずかしことなんですか!! そんな恥ずかしことをセラさんは言ったんですか!! それは一体どう云う事なんですか!! 教えてください!!」

「お願い許してぇえええええっ!! うわぁあああああああああああああああああぁぁぁんっ!!」

「泣くほど恥ずかしい事なんですかっ!! おしえてくださぁああああああああああああぁぁいっ!!」

「ふえぇええええええええええええええええええぇぇぇぇん!!」


 芸能リポーターの如く、マイアを純真羞恥プレイで追い詰めるフィオ。

 無自覚天然純粋な好奇心が、マイアを泣かせる事と為った。

 下に怖ろしきは天使の無垢さ。

 教育と云うのは大事である。

 頑張れマイア、負けるなマイア、覚醒するその日まで・・・・・・・

 別の意味での覚醒をしない事を祈る。



 色々在ったが、セラ達はエリアボスのいる扉の前に来ていた。

 此処まで来るのに精神的に疲れ果てていた。

 レイルとセラは教育問題で激論をぶつけ合い、マイアは泣きじゃくり、フィオは不機嫌、ファイとミシェルは何とも云えない複雑な表情で扉の前に立っていた。

 意を決し、疲れながらもレイルは扉を開け放つ。

 そこで彼等が見たモノは・・・・・・・


「・・・・・何でこんな物が・・・・・・・」

「・・・・・・セラ・・・アレが何か知っているのか?」

「・・・・何で・・・・・在り得ない・・・・・」

『ぬぅ・・・・これは・・・・・・』

「ヴェルさんも知っているんですか?」 

「何でしょうか? あの四角い舞台の様な物は・・・・・」

「四方にロープが張り巡らされているけど・・・・何なの?」

「うぐっ・・ひっく・・・ふぇええっ・・・」


 そこで彼等が見た物は、白いマットのジャングルであった。

 

「・・・・・この迷宮・・・変だよ絶対・・・・」


 セラはリングを見てぼやいた。

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