表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/77

 村の改革始りました ~裏でイカレタ事態も起きていました~

 気絶したエルカを引き摺り、セラはフィオの家へと戻って来た。

 何処かすっきりした表情で、笑顔で上機嫌なセラに【白百合旅団】の二人は冷や汗をかいている。

 かなり派手に暴れていた事は確かなのだが、流石にそこまで追求する気には為れなかった。

 と云うより、怖くて聞けないの方が正解だろうか。

 見た目は天使、中身は悪魔、怒らせれば破壊神、触らぬ神に祟りなしである。

 エルカの状態から余程酷い目に会ったのだろう事が窺える。

 流石に声を掛けづらい。


「あ、あのう・・・エルカさん大丈夫なんですか? まさか死んで・・・・・」

「僕は地獄を見せる奴ですよ? しごきはしても殺しはしませんよ・・・たぶん・・・」

「生きているなら大丈夫ですわね、エルカさんも良い指導を受けたようですわ」


 彼女も相当良い性格をしている様だ、人前でセラを押し倒そうとする強者である、並みの筈など無いのだ。

 しかも少しづつ間合いを詰めてくるミラルカに、セラは同じように間合いを離す。

 また押し倒されたら今度こそ犯られる。

 色々な意味で危険な少女なのであった。

 セラは貞操を守れるのか、この村にいる限り油断は出来ない。



「一応部屋の片づけはしたが、穴の開いた床やテーブルはどうしようもないぜ?」

「窓も吹き飛んじゃいました、お父さん達が返ってきたらどうしよう・・・・」

「その時はエルカさんに躰で払ってもらいましょう! 危険が在ると知りながら不用意な行動に出たんです、冒険者としては失格です」

「其れは当然の責任ですわね。行動には常に責任がつきものですから、ご自分のした過ちは己が手で償う物ですわ」

「お姉様・・・とてもクールです! 素敵・・・・」

「・・・・・この旅団・・・やっぱり危険だわ・・入団しなくて良かった・・・・」  


 団長に気にいられたマイアは、数日間セラと同じ様な目に会ったのだ。

 初めは余りにしつこい為、姿を消せば諦めると思ったのだが、その団長はまるでストーカーの如くつけ回し宿には先回りをし、彼女から逃げるのに大分精神を病むほどに追い込まれた。

 幸い押し倒されそうには為らなかったが、狙われていた事は確かである。

 その時感じた身の危険は間違いでは無かったと確信した。

 本当に恐ろしい旅団である。


「う、ううっ………ここは・・・」

「あっ、気が付いたわ! ちょっとエルカ、アンタどんな目に会わされたのよ・・・ボロボロじゃない」

「・・・どんなって・・・・ひいいいいいいいいいいっ!!」

「エルカっ!?」


 突然エルカが狂乱しファイは驚きの声を上げる。


「いやああああああああっ!! 許してくださいぃっ!! 何でもしますから殺さないでぇええっ!! 御免なさい、御免なさい、御免なさい!! 私が間違っていましたぁあああああああああぁぁぁぁっ!!二度とこんな事はしません!! 靴を嘗めろと言われればしますから、ゆるしてえぇえええええぇぇぇぇっ!! お願いしますぅ、うわああああああああああああああああぁぁぁぁぁん!!」

「・・・・・・セラ・・・アンタ・・・ナニシタ・・・・」

「僕はちょっと、お仕置きしただけですよ? 現に五体満足で生きているじゃないですか。やだなぁ、ちょっと瀕死に為ったから、エリクサーで直してお仕置きしたくらいで大げさな・・・それを10回くらい続けただけじゃないですか。【ディストラクション・バースト】で消し飛ばさなかっただけでも、かなり良心的でしょ? ですよねぇ皆さん?」

「「「「「お前は悪魔かああああああああああああっ!!」」」」」


 レジェンド級の装備を振り回し、嬉々として迫る冥府の使者。

 徹底的に叩きのめされ、瀕死の重傷を負えば強制的に回復させられ、また追い掛け回される。

 しかもその数10回もだ、トラウマを刻まれるのは当然と言えよう。

 正に悪夢のような時間をエルカは体験し、そして恐怖を叩き込まれたのである。

 見た目は美少女なのにやる事が悪辣すぎる。

 ましてや災害指定級魔獣とタイマン勝負をするような化け物である、その恐怖は尋常ならざる物なのだ。

 そんなセラに喧嘩を吹っ掛けたエルカも悪いが、徹底的に心が折れるまで痛めつけたセラも大概である。

 其処までする動機がアイテム関係なのだから始末に負えない。

 そんなセラは、アフロ姿でサタデーナイトフィーバーのポージングをしていた。

 人一人精神的かつ物理的に追い詰めて置いて、何処か得意げなのが怖ろしい。

 いい運動をした程度の問題なのであろう。

『こいつには逆らうまい』、誰もがそう思った朝の日の出来事だった。




―――――トントントントン・・・・


 金槌で釘を叩く音が、フィオの家のリビングに響いていた。

【ハイマナ・ブロシア液】の爆発により破損した個所の応急処置をしている。

 勿論修理をしているのはエルカであるのだが、流石に甘やかされて育った彼女に日曜大工など出来るはずも無く、結局レイル達も手伝う様になった。

 本当に気の良い連中である。


 セラ達も穴を塞ぐ板材の確保に奔走し、現在、四人で修復作業に勤しんでいた。

 テーブルも新しく新調せねば為らないので、村外れの作業小屋群から仕入れて来なければ為らないので、現在、レイル達が大工仕事担当なのである。

 

「結構破片が飛んだわね、天井にも刺さっているわよ?」

「あれだけの爆発だからな、壁が吹き飛ばなかっただけでも御の字じゃね?」

「寧ろ被害が少ない方ではないでしょうか? かなり頑丈な作りなんですね」

「辺境の村だからな、頑丈にして生存率を上げているんだよ」 

 

 ロカス村の家々は、小型魔獣ぐらいなら手も足も出ないぐらい強固な【イタカ杉】を材質で建築されてをり軟な構造ではないが、如何せんこの建材は実用性が高く入手困難な状態だった。

 その為村にはこの建材のストックが足りず、各家に在るあまりの板などを貰って補修する事にした。

 セラは材料集めに奔走し、男手のレイルが罪人エルカと共に補修作業。

 ファイとミシェルは補佐にあたり、天井や床に刺さったテーブルの破片を引き抜く作業に従事する。

 だが所詮は素人作業、その工程は遅々として進まなかった。


「良く刺さりませんでしたね・・・下手をすれば怪我だけでは済みませんでしたよ・・・」

「運がいいわね、あたし達! ケガ一つ負わなかったんだから!」


 暢気に自分の運の良さに感心しつつ、彼女達は後片づけを続けた。


「エルカ、ちょいと開き窓を抑えてくれ、つがいを釘で固定する。流石に窓は締まる様にしねぇとな」

「こう・・・かしら・・・思ったよりも重いのね・・・この開き窓・・・・」

「【イタカ杉】は他の杉と違い木目が絞まっているからな、見た目より重い。樫や栗の木並みに固いんだよ、少し我慢しててくれ、今打ち付ける」

「・・・・・はやく・・・して・・重いわコレ・・・・」


 外から窓の建具を支え、レイルは手早く釘を打ち付ける。

 意外に手馴れており、直ぐに蝶番を固定した。

 エルカは窓枠を支えながら背伸びした状態なので、足がプルプル震えていたりする。

 しかしサボるとセラの恐怖のお仕置きが待っている為、命がけで従うしか選択肢が無かった。


「外窓は歪んだだけで直すのは楽勝だな、問題は内窓か・・・こりゃあぁ、専門職じゃないと無理だな・・・」

「手を離してもいいのかしら・・・流石にこの体制は疲れるのだけど・・・・・」

「おお、悪い! もう離しても良いぞ」


 支えていた体制が余程辛かったのか、深いため息を吐いてその場に座り込んでしまう。


「外側は大丈夫か?・・・降りて確認でも・・って、うおっ!!」

「きゃぁああぁぁっ!!」 


 窓枠に足が引っ掛かり、レイルは其の儘エルカの上に落ちてしまう。

 

「イツツッ・・・すまない、大丈夫か?・・・・って、ゲゲェッ!?」

「・・・なんとか、気をつけて欲しいわ・・・・全く・・・・・ヒッ!?」


 二人が同時に見たモノ。

 それは、レイルの右手がエルカの豊かな膨らみを思いっ切り、掴んでいた。

 しかも現在、押し倒した状態で人に見られたら体裁が悪い。

 俗に言う、ラッキースケベである。


「うおおおおおっ!? すまないっ、ワザとじゃないんだ!!」

「~~~~~~っ!! ・・・分かっています・・・・・・こ、是は事故よ・・・ええっ!・・」

「・・・すまんっ!! 本当にすまんっ!!」

「そんなに謝らないで・・思い出しただけでも・・・~~~~~~っ!」


 箱入り娘は傲慢だが、初心だった・・・・

 二人の間に何とも言えない微妙な空気が流れる。

 エルカは胸を腕で隠す様にしながらも、頬を染めレイルをチラリチラリと上目使いで覗いて来る。

 何とも気恥ずかしい青臭い状況。

 レイルも硬派気取りだが、女の子に興味のあるお年頃。

 ただ、こう云った経験は少なく如何して良いのか分からない。

 ただ一つ解る事は・・・・・


 ――――――アレ? なんだ? 傲慢エルフが可愛く見える・・・・・


 エルカの意外な行動に、内心レイルは萌えてしまっていた。

 かく云うエルカはと言うと・・・・・


 ――――――むっ、胸を触られてしまったわ!? しかも殿方にっ!! お母様が言っていましたのに、何処とも分からない殿方にぃ!! はっ、肌に触れて良いのは夫に為る人だと教えられましたのに、寄りにも寄って【人間族】のっ、しかもファイの仲間の方なんて・・・でも、是は事故ですしカウントされないのでは?・・・・それに謝ってくれましたし、これ以上引き摺るのも・・・・でもやっぱり恥ずかしい!! 其れに何なの? 心臓の動悸が激しいし、・・・顔が熱く・・・まさか・・これが恋っ!! まって、私はエルフなのよ!? そんな、人間の男に恋なんて・・・(閑話休題)・・・・


 突然のハプニング<激しい羞恥心<混乱<勘違い<恋!?<増々混乱<さらに勘違いのエンドレス

 エルカの思考は混乱からカオス状態へと発展していく。

 一方レイルも湧き上る衝動に戸惑いつつも、如何して良いのか分からず手を拱いている。

 その結果、お見合いのような状況を作り出してしまっていた。


「「あのっ・・・」」

「・・・其方からどうぞ・・・」

「・・いや、アンタから・・・・」

「「・・・・・・・・・・」」


 だが、ここに状況を破壊し、混乱させる遊び人が帰還していた。


「お見合いですか? お見合いですね? いやぁ~~レイルさんも手がお早い! まさかエルカさんまで落とすとは思いませんでした、ハーレムですか? ハーレムを作るんですね!!」

「人聞きの悪い事言うなよっ!? そんな気全然無いからな!?」

「そっ、そうよ!? 誰が人間なんかと・・・・」

「いえ、僕に気にせず! 年寄りは消えますので、HAHAHAHAHA!!」


 床板用の材木板を集め終わり、戻ってきた所でレイル達を発見し、思わずからかいに現れたのだ。

 中々素敵に歪んだ性格である。

 

「変に気を使うなよ!! 余計に恥ずかしいだろっ、これぇっ!!」

「誤解してるわ!! そ、そんなんじゃないから・・・・たぶん・・・」

「いえ、いえ、レイルさんがエルカさんを押し倒している所なんて、僕は見ていませんから、ハイ!」

「見てるじゃねぇかっ!! それと、アレは事故だァッ!!」

「そうよっ!! 何故、私が人間と不適切な関係に為らなければならないの!!」

「二人してツンデレですか? ツンデレですね? ラブコメかよ、リア充爆発しろ!!」

「「なんか、やっかんでる!!」」


 ご存知の通り、セラは元男の子である。

 当然女の子には興味も有る訳だが、今のセラは女の子であるために、恋人をつくるにしても男か百合の道しか無いのである。

 流石に男の恋人なんてつくる気も無いが、だからと言って百合の道は避けたい。

 元の世界に戻って、オカマに為ってしまったら洒落にもならないのだ。

 そんな事に為る位なら、最初からそんな存在など作る必要も無いのだが、レイルの天然たらし振りはセラに嫉妬を掻き立たせるのに十分すぎた。

 そんな不条理な感情から、レイルを徹底的に狙い撃ちする。

 レイルにとっては、理不尽この上ない事なのであった。

 しかし、更なる理不尽がレイルに迫っていたりする。

 それは・・・・・


「レ~~~~イっ! いつまで遊んでいるのかしらねぇ? 人に作業をさせて置いて、アンタはエルカと、イチャイチャ、イチャイチャ・・・・・死にたいの? ねぇ、死にたいのかしらねぇ?」

「・・・・・レイル・・・酷いです、私達はこう云った作業をした事が無いと云うのに、エルカさんとその様な関係に為ろうなんて・・・・・」


 ―――――ゴドン!!


 何やら重い物が落ちた音と共に、ミシェルの傍には何故か【轟懐丸】の姿が見えた。

 戦慄が彼の背中を走る。

 レイルとエルカは只ならぬ恐怖に震えあがり、二人は無意識に抱き付いてしまう。


「・・まて、誤解だ・・・俺はそんな事なんてしてないぞ!?」

「ふ~~~ん、そうなんだ? じゃあ、なんで二人して抱き合ったりしてるのかしらねぇ?」

「・・・・・仲がよろしいのですねぇ・・・・そう云った行為は、出来る事なら慎んでほしいのですが?」

「・・待て・・・は・・話せば分かる・・・・」

「「問・答・無・用」」


 その日、レイルの断末魔の叫びがロカス村に響いたとか・・・・・ 




「だからよう、この周りを囲む様に建てて欲しいんだよ!! 間違って餓鬼共が入らねぇようにしねぇといけねし、ガラの悪い連中に近付いて欲しくねぇからな!」

「無論、この村のギルドで手続きすれば迷宮の利用も出来るようにする。更に素材の買取りなんかもしようと思っているのじゃが、わしらは商売は苦手でのう。そこで其方さんに協力して貰いたいのじゃが・・・」

「確かに良い話ではありますな。ギルドの運営は村で、素材やアイテムなどの買いつけは我ら商会で、実に儲けを考えておる。しかし・・・この村では人手が足りないのでは?」

「ギルドの儲けは運営で何とかなる! 一人1ゴルダでも百人なら? しかも迷宮に入る度に金を払わなければ為らなかったら? 一日置きの金額も莫迦にならねぇ、しかも村全体で運営すんだ! 人を雇う必要が無い!!」

 

 現在、村長とボイルは二大商会と綿密な打ち合わせをしていた。

 流石に会長自らが来る訳には行かず、代理の優秀な商人がこの計画の代理として話を聞く。

 二大商会との打ち合わせはここ数日続けていたが、なかなか首を縦に振らないのである。

 そもそもこの計画は前代未聞であり、一ギルドが迷宮を管理するなんて話は今迄に無いのである。

 

 ギルドが迷宮を管理し、探索人数を管理、更に錬金術で回復薬の売買をし、あまつさえギルドには一定の金額を支払わねばならない。

 僅かな金額でも塵も積もれば山となる、その儲けは可成りのモノと予想されるのだ。

 しかも素材やアイテムの買取りは二大商家に一任する事により、どちらも儲けを出す事が出来る。

 ついでにロカス村でも冒険者達が狩りや護衛の依頼を受けたり、素材の採取なども手掛けるので商家にとっては美味しい話なのだった。


「だからよう、俺達はギルド専用の建物【ギルド会館】を作ってくれと言ってるだけで、アンタ等とはそれなりに商売したいと思ってんだよ、何でわかんねぇかな・・・」

「・・・・・美味い話には裏が在るのが商売の鉄則なので、どうしても慎重に為らざるを得ない」

「・・・我々だけが得をする等、有り得ない事だ! 何か企んでいると思われても仕方が在るまい」

「だったらついでに宿でも作ってくれよ、この村には一つしかない! オタクらが率先してくれるならば、此方としても有りがたい。人員も費用も其方持ちだが、良い商売が出来るだろ」

「「ぬうっ・・・・」」


 兎にも角にも、この代理人たちは優秀なのだが、如何せん頭が固すぎる。

 如何したモノかとボイルは頭を抱える。


「・・・ふむ、ボイル・・・一寸こっちに来るのじゃ・・・・」

「・・・なんだよ・・・このくそ忙しい時に・・・・まぁいい、少し休憩だ」

「良いから来い!! 全く世話が焼けるのう・・・・」


 村長とボイルは扉を挟んだ別の部屋に入って行く。


『なっ? 何だお前ら・・俺を如何する積もりだ…』

『すまねぇ・・・だがこうするしかねぇんだ・・・・』

『や、やめろ・・・・やめてくれえええええええええぇぇぇぇ・・・・・・・』

『くくくっ、ボイル・・・お主にはもう少し役に立ってもらうのじゃ・・・・・』


 何やら物騒な会話が聞こえ、商人たちが顔を見合わせ困惑した。

 暫く静かな時間が流れ、やがてドアの開く音が聞こえる。

 其処にはタフでハードな漢、スーパーボイルの姿が在った。

 ボイルはソファー力強く座り、その獣のような双眸で商人達を睨みつける。

 あまりの迫力に商人達の腰が引ける。

 おもむろに葉巻を咥えると、シガーカッターで先端を斬りライターで火をつける。

 口の中で煙を転がし、その豊かな香りを味わうとゆっくりと煙を吐いた。


「よう、いい加減覚悟を決めろや。お前らのボスにはもう話が着いてんだ、今更お前らが渋った所で如何にも為んねぇんだよ・・・・」

「しかし・・・我らとしてもリスクを背負う訳には・・・・・」

「リスクだぁ? お前らが何を背負うってぇんだ? 言っただろ話は着いてるとよ、これ以上先延ばしにすると首を切られるのはお前らだぜ? 分かってんだろ?」

「だが・・・こんな博打に大金を支払うなどと・・・」

「何言ってんだ? 俺達は【アムナグア】の素材や売り上げの大半をギルドの施設造りに流用するって言ってんだ、其れを渋ると云う事は売上金額を其の儘ピンハネする事だろ? そうなればお前ら商会の信頼も地に落ちるよなぁ? ついでに多額の賠償金を払わなきゃならねぇ・・・お前らの首一つで済めばいいんだがな・・・アンタら家族はいんのかい?」


 商人たちの顔が青ざめる。

 ボイルの言った通り、互いの商家には話は着いていた。

 今日にでも施設建築の工事に入らねば、契約違反に為る事は間違いない。

 其れでも渋っていたのは、前代未聞の迷宮独占を阻止しようとする一個人の思惑があるからである。

 両商家で素材の売買を独占されでもしたら、独立した時に旨みを得る事が出来ないのである。

 何とか話を有耶無耶にし、この独占を阻止しようとするが、既に契約された事であり先延ばしにする事が出来ない。

 商人達は既に詰みの状態である事を自覚されたのだ。

 ここでくびにでもされたら、彼らの家族も路頭に迷う事に為る。

 チェックメイトであった。


「・・・・・分かった・・・直ぐにでも工事を始めさせよう・・・」

「・・・くっ・・・仕方が無い・・・今クビに為る訳にはいかん・・・・」

「最初からそう言えばいいんだ・・・手間を掛けさせてくれる。だが、他にも儲けを出す事は出来る! 例えば食堂や宿なんかまだまだ必要だからな、そこら辺は任せるさ! 後はアンタ等が賭けに出るだけだ、伸るか反るかはアンタ等に任せるぜ」


 のらりくらりと躱す商人を問答無用に言い包め、ボイルの兄貴ぶりには磨きが掛かっていた。

 村長宅のドアの裏では、そのキレのある漢ぶりに惚れ惚れする村の若い衆の姿がある。

 イカレタ秘薬【サイケヒップバッド】効果は凄まじい。

 何度かの服用で、ボイルに人格にも変化があり商談も巧くいく事が多くなる。


 余談だが、同じく変態ブッチにも服用したところ、彼も真人間に近づいている事が判明。

 無用の長物である劇薬が意外な使われ方をしていた。

 のちにこの事が犯罪者の更生に大きく貢献することになるのだが、それは別の話である。

 次第にタフな漢になって行くボイル、しかし一人の人間の人格を薬ひとつで変貌させてしまうのだから、恐ろしい話であった。

 クールで危険な漢ボイルの伝説は、今始まったばかりである。




 日曜大工を一仕事終え、セラ達一行は再び迷宮に挑もうとしていた。

 今度の目的は、迷宮の構造調査だけでなく魔物の変化を調べる事も含まれている。

 別に誰かに依頼されたわけではないのだが、この村の専属冒険者となったレイル達はこれは立派な仕事である。

 この調査の行く末で冒険者達の生死が分かれるのである。

 彼等にとっては重要な命懸けの仕事だった。


「いてて・・・まったく、死ぬかと思ったぜ・・・」

「レイがエルカを口説いているのが悪いのよっ!! 自業自得よ!!」

「してねぇよ!! 何度言えばわかんだよ! ただの事故だっつうの・・・・」

「信じられません! レイルはあの時鼻の下が伸びていました。私達を蔑ろにして酷いです、反省してください」


 温厚なミシェルにまで裏切られ、レイルは困惑するだけである。

 そもそも、二人がなぜ怒って居るのかが分からないのだから救いようが無い。

 いい加減気付きそうなものなのだが、それがレイルという男である。

 美少女二人は報われない、セラだけが満足そうであった。

 どこの世界でもリア充は敵の様だ・・・・・


「まさか、ミシェルがあんなに過激だとは思わなかった・・・死んだ爺さんと再会したぞ、マジで・・」

「言わないでください・・・私もあの時はどうかしていたんです! なぜあのような酷い事を・・・」

「俺に聞かれても困るんだがな・・・・・」

『・・・・・物凄く分かりやすいと思うのじゃが・・・鈍感を超えておるのう・・・』

「それがレイルさんです! 僕としてもこのままリア充になられるとムカつく・・・ゲフン!!」

「姉さん・・・いい加減に教えてあげたら? あたしは二人が不憫に思えるんだけど・・・・・」

「やだ! みんな不幸に・・・ゲフン、ゴホッ!」

『・・・・・セラよ・・そこまで人の幸せが憎いのか・・・鬼じゃな・・・』

「それにしても冒険者さん達増えましたねぇ・・・アレ?」

「如何したのフィオちゃん?」

「あの人・・・何かおかしいですよ? フラフラしてます、気分でも悪いんでしょうか?」


 フィオが指をさした先に、一人の冒険者がふらつきながら歩いて来る。

 どこか焦点の合わない目が宙を彷徨い、何か独り言を喋りながら歩いているのだ、明らかに精神異常者と分かる。

 しかし、この冒険者の症状には見覚えと聞き覚えがある。


『まさか・・ね・・そんな訳無いよね?・・・・』


 漠然とした不安がセラの記憶に甦る。

 正直思い出したくもない現実であり、出来る事なら早く忘れてしまいたい。

 そうこうしてるうちに、異常な状況下にある冒険者の横を通りすぎる。


『・・・ふふ・・フへへへへ・・・黄金に輝く世界が見える・・・あぁ・・偉大なるカワヤハバカリ神様・・・・なんて神々しい御姿・・・光り輝く便器のなんと美しこと・・・フヒッ、フへへへ・・・』

『『『『『村長おぉっ!! またやりやがった!!』』』』』


 どうやら村長のトイレ神信仰は、村の住人ではなく外来の冒険者に標的を変えたようである。

 一体何が村長をそこまで掻き立てるのか、しかも何時の間にか冒険者を洗脳している。

 このまま冒険者達の洗脳が続き、村から他の町にまで被害が拡大するとどうなってしまうのか。

 恐ろしい現実がセラ達に圧し掛かって来た。


「・・・・・あの爺ぃ、始末した方が良くね?」

「何もそこまでしなくても、話せば分かってくれると思います。私が説得してみましょうか?」

「危険よミシェル!! 万が一に洗脳でもされたら、あたしは・・・・・」

「あたしも同感・・・変な宗教の聖女に為りたいの?」

「最悪の結果が待っているでしょうねぇ・・・僕としては始末する方に一票、どうせ老い先短いですし、今居なくなっても誰も困りませんし・・・・」

『本当に鬼じゃなセラよ・・・じゃが、最終的にそれも止む終えぬか・・・』

「皆さん酷いですよ、村長さんは良い人です」

「「「「「アレさえ無ければなぁ・・・・・」」」」」


 村長の異常な宗教観念には誰も付いてはいけないだろう。

 その上、他人を洗脳する悪質な一面のあるのだ。

 いつかは聖戦を起こさねば、今度は自分達の身が危険に曝されるのである。

 邪教には正義の鉄槌を、彼等はそう心に誓うのであった。


 彼等は来るべき聖戦の日に備え、決意を胸に迷宮へと挑んでいった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ