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 百合の方々来ました ~八日目 百合の包囲網とセラの怒り~

 誤字脱字を修正している暇がない!


 親切に教えてくれているのに・・・・

 朝起きるとベッドの中には、矢張りフィオとマイアの姿が在った。

 眠っている時は、なぜかこの二人の侵入に気付かない。

 年端のいかない少女が、ベッドに寝ているのは非常に心臓によろしくない。

 特にマイアが拙い。

 何せ全裸である、健全な男子高校生だったセラには暴走と云う前科がある。

 幸い今回は何とかベッドから出る事が出来そうであり、二人を起こさないように静かに這い出すのであった。


「・・・・・段々状況に慣れてくる自分が怖い・・・・」


 鏡の前で身だしなみを整えながら、そんな事を呟く。

 次第に男としての大切な物を失いつつも、何とか気を引き締め防具以外の装備を着こむ。

 其処に立つのは純白の衣装をまとう可憐な少女であり、とても元男には見えない。

 男としての自分を捨てた訳では無いが、最近それも自信が無くなって来ている。


『いい加減覚悟を決めて、娘に為ったらどうじゃ?』

「なんて事言うのヴェルさんっ!? 僕に百合の道を進めと!?」

『良いのではないか? 其れで幸せなら誰にも迷惑は掛からぬし』

「人として落ちてるよねぇ、それぇ!?」

『寧ろ我は、其れが見たいのじゃ!』

「何処の悪魔ですかあなたは!!」


 最強の【龍王様】はセラを百合の道に落とそうとしている。

 如何やら厄介なものに興味を持ち始めたようで、最後の一線すら壊しかねない。

 神は死んだ、居るのは傍迷惑な邪神軍だけだ。

 しかも導くのが白い花園である、どうしてこんな目に会わされるのか神は何を求めているのだろう、理解に苦しむ問題だった。

 だが今は色気よりも食い気である。

 腹の虫が騒ぎ出さないうちに朝食の準備に向かうのであった。



 朝食を終えこの場には、フィオとマイアがテーブルの上で真剣に薬草を磨り潰していた。

 静かなリビングに只薬草を磨り潰す音だけが静かに響いて行く。

 錬金術の初歩【ポーション】の調合である。

 基本的には【薬草】三枚と【アオニガキノコ】を一つを磨り潰して、粘りが出てきた所で水少量に入れて煮込めば出来上がり。

 単純な工程で造れるのである。

 煮込んでいる時に濃緑色の色合いから、透き通れば完成の印なのだが、頃合いを間違えれば其れだけ効力が落ちるのである。

 単純なようで結構面倒な所があるが、是が出来れば道具屋で買う必要も無くなり、出費も抑えられるのである。

 更に調合素材が一つづつ入る事により、そのランクも上がり売る事も出来る。

 覚えて損なしの技術である。


 大体一つの工程で【ポーション】が三つほど作れるのだから、かなりの安上がりと云えるだろう。

 武器や防具の強化に資金がくうので、少しでも節約出来たら其れに越したことはない。

 その観点から云っても、駆け出しのこの二人には大きな意味を持つのだ。

 資金を節約出来るのであれば、其れだけで冒険者としての幅が広がるのである。


「いざすすめやキッチ~~ン、目指すは薬草~~掴んだぁら、ブチ込ん~~で、ぐりぐりと磨り潰せ~~」

「姉さん・・・何ですか? その歌・・・」

「回復薬製造の歌! 最後には奇天烈外人に為るけど・・・」

「【ポーション】が出来るんじゃないんですか? セラさん」

「何故か奇天烈黒人に為るんだよ」

「さっき外人と言いませんでした? 姉さん」

「えっ? 奇天烈変人て言ったよね?」

「・・・・・また変わってます・・・」

「セラさん・・・奇天烈と言っている時点で変人なのではないのでしょうか?」


 こんな調子で楽しい回復薬教室が進んでゆく。

 自然に冷ました回復薬をスポイトで少しづつ瓶に移し替えて行く。

 テーブルに並ぶ【ポーション】の瓶の数を見て、フィオとマイアは目を輝かせる。

 その数一人当たり三十本、約3000ゴルダの節約に為った。


「瓶の節約にもなるしエコだよね、これ!」

「元値が無料なだけに、良い商いが出来そうね」

「マイアさん、錬金術師を目指すんですか?」

「その前に強く為りたいわ・・・自分の身ぐらい守れるようになりたいから」

「憧れを持つのも良いけど、自分がどうなりたいかはきちんと決めていた方が良いよ? 結局自分自身以外にはなれないんだから、どんな大人に為りたいかはしっかり見極めてね!」


 次にセラ達が取り出したのは、【魔獣油】【スミーイカ樹液】【マナ結晶】【アスファ黒檀】である。

 この素材は【魔導インク】の素材であり製品は1500ゴルダで売れるのだ。

 主に【スクロール】を製作するのに使う。

 比較的に簡単に作れるので初心者の冒険者には良い稼ぎに為るのだ。

 フィオとマイアは迷宮でこれの素材を手に入れていた。


「煮詰めよ~~う、魔獣油! スミーイカ樹液で~~ 混ぜたら~~マナ結晶 アスファ黒檀~~と」

「・・・セラさん、歌詞が変わってませんか? 【ポーション】の歌じゃないんですか?」

「違うよ? 【魔導インク】製造の歌だよ? 最後には変態五人組に為るけど・・・」

「・・・何か顔が光りそうね・・・何と無くだけど・・・」

「奇天烈変態に為るって言わなかったっけ?」

「「変人です!!」」

「どっちも似たような者だから別に良いよね!」

「「・・・・・・・」」


 セラに師事して大丈夫なのかと不安に為る二人。

 そんなセラは楽しそうにアイテム製造に勤しんでいた。

 アイテムさえあれば幸せなセラであった。


 少し時間がたちレイル達も合流し、楽しい錬金術教室が続いていた。

 レイル達も初めて【ポーション】を作り、その余にも簡単に出来る事に驚いていた。

 ファイにしても、『何でこんな簡単なモノを買っていたのよ・・・お金を無駄にしたぁ~~~っ!!』とぼやく始末。

 ミシェルはこう云った作業が好きなのか、聖女の微笑みを浮かべながら作業に没頭し、レイルは不器用ながらも何とか回復薬や製作アイテムを作り唸っていた。

 意外に簡単に作れる物を教えているので全員製作は成功しまくり、その買値だけでもかなりの節約ができる事に感心している。


「こりゃあ、本気で錬金術覚えた方が良いな! 簡単な物でも相当な儲けだぞ? 装備を作る金も稼げる」

「宿に泊まるお金が無くて、苦労していたあの頃は何だったのよ・・・」

「セラさんが楽しんでいるのも判ります。錬金術って本当に楽しいですね」


 そんなセラはフィオやマイアと一緒に、【エテルナの霊薬】と【ハイマナ・ブロシア液】を製作していた。

 流石に是は他のアイテムを混ぜるので、結構慎重に製作工程を進めている。

【エテルナの霊薬】は兎も角【ハイマナ・ブロシア液】は一部危険な工程が有り、其処を慎重に作業しないと爆発するのだ。

 セラは今までに無いほど慎重に作業を進めて行く。


 ―――――カラン! ゴロ~~ン! カラ~~ン!


 玄関先に着けられた呼び鈴が音を奏でる。

 誰か客が来たようで、玄関入口まで行かねば為らないが、今は誰も動けない。

 僅かな振動が命取りになるからである。

 慎重にガラス棒を使い液体をゆっくりと流し込み、最後の一滴さえ息を止めて流す。

 全ての作業を終え、静かにテーブルの上に慎重に置く。

 全員安堵の息を吐いた。


「フィオちゃん出て来ても良いよ、でもゆっくりとね」

「はい、じゃあいってきますね」


 フィオは慎重に歩きながら玄関へと向かい歩いて行く。

 亀の如く低速で・・・・・


「危険な作業も有るんだな・・・俺には荷が重い」

「エルフの錬金術師はこんな慎重な作業をしているんですね、命がけです」

「あたしも知らなかったわ、正直あたしも無理! 【ポーション】くらいが丁度良いわ」


 錬金術の奥深さを知り、レイルとファイは早々に高度な技術を覚えることを放棄した。

 ミシェルは真剣にメモを書きとめ、事細かくその作業工程を記録しては復習していた。

 ミシェルは錬金術に殊の外興味がおありの様である。

 この三人の中では一番筋が良いのはミシェルであった。



 フィオの家の玄関先に三人の来訪者が訪れていた。

【白百合旅団】の副団長、ミラルカと、エルカ、レミーの三人である。

 彼女たちの目的はセラとマイアの勧誘、例えそれが無理でもつながりを持つ事が出来れば其れに越した事は無かった。

 約一名別の目的があるようだが、ミラルカの前では早々おかしな真似はできない。

 それを見越しての人選である。


「・・・・・出て来ませんね・・・留守でしょうか?」

「人の気配があるから、居ますよ・・・どうやらファイも来ているようですけど・・・」

「この村にいる貴方の同族ですわね、色々とお話を伺っていますわ」

「一族の恥さらしよ、いずれは何とかしなければなりませんけど」

「貴方にとっては敵という事ですか、血腥い事は別の場所でしてくださいますわね」

「善処はしますよ? 向う次第ですけれど・・・」


 エルカの事はフレイにお願いして(ベッドに潜り込んで無理やり)聞いているが、如何やらファイも抹殺の対象に為ったようである。

 流石に人目の付くこんな場所で短絡的な行動をするとは思えないが、念には念を入れておく必要がある。

 彼女は気位が高く、傲慢とも云えるべき性格なので何を仕出かすのか分からない。

 ミラルカにとっては問題児でもあるのだ。


 ――――キィィィィィッ!


 入口の扉が開くと、一人の少女が此方を窺うように覗いていた。

 淡い紫の髪の愛くるしい少女が、扉の端から顔を半分ほど出して此方を見ている姿に、ミラルカは思わず萌えてしまった。


 ―――――か、かわいい・・・・


 団長程でも無いが、彼女も其方の趣味があるようであった。

 少しばかり? 顔を赤らめ上気するミラルカを見て、背筋が寒くなるフィオ。

 セラが見たら真っ先に避難させるであろう。

 そんな事とはつゆ知らず、フィオは天使のような声で話しかけた。


「あの~~どちら様でしょうか?」

「申し遅れましたわ、わたくし【白百合旅団】の副団長を務めます、ミラルカと申します。可愛らしい天使さん、セラ・トレント様はご在宅ですか?」

「セラさんですか? 今は動きたくても動けない状態といいますか・・・どうしよう・・・」

「何か問題でもおありなのですか?」


 フィオの困った顔に萌えながらも、ミラルカは少しでも情報を引き出そうとする。


「いま【ハイマナ・ブロシア液】を冷まして、安定させている最中なんです。少しでも衝撃が加わると爆発するらしいので、迂闊に動けないんです」

「まぁ、その様な高度な錬金術を収めているなんて、あなたは優秀なのですね」

「私じゃありません、セラさ・・お師匠様が作っているんです」


 フィオから得た情報はセラの優秀さを如実に語るものであった。

 冒険者として優れ、錬金術でも相当な実力を持つとは聞いていたが、エルフの秘薬までも作れるとなれば、国からも徴用されるほどの傑物である。

 何としても繋ぎを付けなければ為らなくなった。

 尤もこの事実はエルカにとっては、許しがたい大罪であるのだが。


「凄いですね、予想以上の天才ですよ? 本当に【半神族】なのでしょうか?」

「間違いなくセラさんは【半神族】ですよ? 凄く強くて村を守ってくれたんです!」

「そう、尊敬しているのですわね、お師匠様を」

「はい!」


 自分の事のように喜ぶフィオに微笑ましさを感じつつも、セラの存在は次第に大きくなって行く。

 何から何まで桁外れのセラをスカウトする価値が出てきたのである。


「彼女に合わせて貰う事は出来ますでしょうか?」

「ん~~っ、振動を与えなければ大丈夫だと思います」


 家主の許可もおり、三人は家の中へと招かれる。

 この村の住宅事情を鑑みても、フィオの家は比較的に裕福な部類に入る。

 絵画や洒落た花瓶など、宿にすら飾ってなどいないのだから収入も其れなりにある事が分かるのだ。

 フィオに案内されてリビングに招かれると、セラを含む五人の冒険者の姿が在った。


「セラさん、お客さんですよ」

「ん~~っ、どちらさま?」

「えっとぉ~【白百合旅団】の方々です」

「【白百合旅団】ねぇ・・・【紅薔薇旅団】なんて言うのも在りそうだねぇ」

「私達をあの様な穢れた連中と一緒にしないでください!! 迷惑です!!」

「あるんだっ!?」


 レミーの言った発言に驚愕の事実が含まれていた。

 冗談半分に言ったつもりなのだが、まさか本当に存在するなど思わないだろう。

 現実とは小説より奇なり、まさに恐ろしき現実だった。


「男同士の愛なんて悍ましい!! 害悪以外の何者でもありません!! それ比べ私達は崇高なる純なる思いを胸に日々美しさを磨き、慈愛と寛容の精神に則り時に競いながらも愛の名の下に高潔なる意志を貫いているのです!! それを貴女は同列と言うのですか! 許されない冒涜です!! そもそもあの汚らわしい雄猿共は、私達女性を只の性の捌け口程度にしか思っていません! 奴ら屑野郎にどれだけの女性達が泣かされて来たか知っていますか? 知らないでしょう? 奴らが犯した薄汚い大罪は・・・(長い話なんで省略します)・・・・・」


 レミーの話を簡潔に言えば、男同士の愛を貫くホストクラブの様な集団らしい。

 彼らは独自のギルド(仕事斡旋所の方)を持ち、特に女性冒険者限定で開業している。

 基本的に酒場も経営しているので、当然女性冒険者たちはそこで酒を飲んだり食事もする。

 接客をするのは【紅薔薇旅団】の最下級のメンバーで、その接待を受けた多くのマダム達はかなりの金額を貢いでいるらしい。

 だがそうなると矢張り本気になる女性も出てくるわけであり、色々問題も起こしているのだ。(主に女性関係)

 さらに彼らは恋人を作ることが許されず、男同士の背徳の愛に身を焦がしているとの噂だ。

【白百合旅団】とは真逆の存在である。


 息を切らせて話し終えたレミーが正直怖い。

 彼女に何があったのだろうか、聞くのも怖いセラ達はただ呆然とするだけであった。


「一部の腐った女子には人気がありそうですが・・・話を戻して、僕に何の要件でしょう? 旅団の勧誘なら間に合ってますよ、基本的に身軽なのが一番なので。敵対する気もないですけど、味方に為る気もないですね」

「ハア、ハア、それは私達の・・・ハア、お誘いを・・・ハア、ハア・・・蹴ると云う事ね・・・ハア」

「単に興味無いだけです。自由が好きなんですよ、旅団だと制限される事が多いですしね、その前に息を整えてから話しましょうよ・・・」


 呆れるセラは目を移すと、何やら顔を赤らめているブロンド縦ロールの少女に目が留まる。

 身なりの良いどこか気品のある少女なのだが、その熱い眼差しに得体の知れない危険を感じる。

 少女は静かに近付くと、熱に浮かされた様にセラを見つめてくる。


「・・・・・美しい・・」

「・・・・はいぃ?」

「流れるような銀の髪、吸い込まれそうな澄んだ青い瞳、幼い少年の様な純粋さを湛えたその面立ち、少女でありながらも相反する性質を持つ自然が生み出した至高の美! 貴女は美しい! そう、譬えるならば風。自由で気ままで誰の手にも捕まえることのない、ただ吹き抜けながらも、そこに居る者達に大きな影響を与える。時に優しく、時に嵐の如く暴力的に・・・・・これが真なる【半神族】の姿ですのね! なんて美しい! わたくし、この様な心を揺さぶられる激しい経験初めてですわ!!」

「お姉様っ!?」

「・・・えっと・・・どちら様ですか? あなたは・・・」

「まぁ、わたくしとした事がはしたない。申し遅れました、わたくし【白百合旅団】の副団長を務めます、【ミラルカ・ヴァン・アクエル】と申します。以後お見知り置きを、此度は貴女を我が【白百合旅団】へとお誘いに参りました。ですが、それは無理のようですわ、貴女は人に縛られる様な方ではありませんから」

「これはご丁寧に、セラ・トレントです。基本的に根無し草の自由人なので、旅団とかそう云った団体にはあまり肌に合いません。ご理解できたのなら幸いです」


 セラには、この少女から醸し出される云いようのない気配に警戒を強める。

 なぜかは知らないが、何か不吉なものを感じるのである。

 ミラルカはセラの手を握り、どこか恍惚した顔で迫る。


「冒険者とは思えないほど繊細な指、そしてなんてハリのある肌なんでしょう。しっとりとしていながらも、滑らかで肌理の細かい・・・素敵ですわ・・・」

「・・・・はぁ、どうも・・・」

「このような美しい方に出会えるなんて・・・なんて素晴らしい事でしょう、神に感謝を捧げたいくらいにですわ・・・」

「・・・・そんな大げさな・・・」

「大げさななものですか、あなたは一つの美の完成体、ご自分がどれだけ美しいのか御理解していないのですわね」

「・・・・・な、なんで胸を触っているんです?」

「同じ女同士です、このくらいのスキンシップ当たり前ではありませんか? あら、予想よりも大きいのですわね?」

「な、なんか身の危険を感じるんですけど・・・・」

「ふふっ、そんな事は御座いませんわ。なんて繊細な腰回り、予想以上に素晴らしい容姿をお持ちなのですわね・・・・」

「・・・・・すごい危険な予感がするんですけど・・・」

「そんなに怖がらなくても良いではありませんか・・・ただ身を預けるだけでよろしいのですわ・・・後はわたくしが・・・」

「何をするきぃ!? て、云うかやっぱり狙われてるぅぅぅぅぅっ!?」


 セラ緊急離脱!!

 不安定な体勢から信じられない速度でミラルカから離れる。

 警戒レベルを最大に引き上げ臨戦態勢に入る。

 このミラルカと云う少女は、セラにとって天敵に等しい存在と本能が告げていた。

 危なく百合の園に連行される所であった。

 心拍数は最大、この少女と対面するぐらいなら【龍王】と戦っていた方がましである。

 気を抜けば犯られる!! そう悟ったのである。


「残念ですわ、もっと親密になれると思いましたのに・・・」

「別の意味での親密だよねぇ!? 明らかに僕を押し倒す気だったよねぇ!?」

「まぁ、淑女がはしたないですわよ? ふふふっ」

「普通人前でする!? こんな事!!」

「それは其れで恥ずかしいですが、燃えますわ」

「予想以上に危険な人だったあああぁぁぁっ!!」


 事の成り行きを口出しせず見ていたレイル達も、流石に唖然としていた。

 まさか人前でそう云った不適切な行為に及ぼうとするなど、誰が予想できよう。

【白百合旅団】は想像を絶する魔窟のようである、色々な意味で・・・・・


「うわ~~~んっ!! 皆が僕をその道に引き込もうとするよぉぉっ!! 僕何も悪いことしていないのに!!」

「「「「「ええっ!?」」」」」


 レイル達が揃って驚きの声を上げる。


「おい、セラ!! お前、それ本気で言っているのか!?」

「悪い事していないって・・・よく言えるわね、あんた!!」

「かなり酷い事をしてますよ? セラさん」

「私、初めて会ったときにからかわれました・・・・・」

「あたし・・・お風呂場で・・・丹念に体を・・・凄かった・・・ぽっ」


  変態を薬漬けにしたり、魔法で吹き飛ばしたり、幼気な少女を弄んだり、丹念に少女の体を洗いまくったり、鍛冶師を【ディストラクション・バースト】で吹き飛ばそうとしたり、鬱な宿の主人に怪しげな薬を飲ませたりとかなりの前科があった。

 そこに否定できる要素もなく、完全に悪党である。


「否定できない・・・・・そうだね、僕は悪党・・・ふふふっ・・・」


 部屋の隅に膝を抱え落ち込む。

 そこにはどう考えても善人とは言えない確かな前科があった。


「まぁ、あのマイアさんがあんなに懐いて・・・どんな事をしたのか興味がありますわ」

「・・・・・聞かないでください・・・ふっ・・・これが若さか・・・」

「信じられません・・・団長すら拒絶した彼女があんな表情を・・・増々強敵だわ・・・」

「どうでもいいですけど、さっきから殺意を向けてくる人がいるんですが・・・なんだ、エルフか・・」


 セラの何気ないネタにエルカがキレる。


「随分上から目線ね、何も出来ない貧弱な【半神族】の分際で!! あなた達みたいな下等な種族に蔑まれたくないわ!!」

「そのネタファイさんで飽きたから、もっと他にないの? つまらないんだけど」

「ね、ネタですって!! 私たち偉大な種族に向かって、あなたのような愚劣な種族に私たちの崇高な理念がわかるわけないわ!?」

「はい、はい、世間知らずの堅物になに言われても説得力ないよ、なんで彼女を連れてきたんです?」

「彼女が志願したからですわ、最強の【半神族】がどんな方か直接会いたいと」

「じゃあ、目的達成ですね。このまま居ても険悪になるだけだから、御連れしてもらっていいですか?」

「そうですわね、彼女がいると濃密なお話ができそうにありませんもの」

「その濃密がベッドの中だったり、押し倒される事じゃなければいいんですけどね・・・」


 エルカをガン無視してミラルカと会話を進めるセラ。

 呆気に取られるエルカをファイは笑いを堪えて見ていた。

 本気で飽きたのだろう、一向にエルカに対応しないその態度に彼女は屈辱に身を震わせる。


「この・・・馬鹿にして・・・」

「別に馬鹿にしてなどいないわよ? あの子。本気で飽きたのよ、どうでもいいって事ね」

「馴れ馴れしく話しかけないで!! この裏切り者!!」

「・・・・・確かに飽きるわね、このパターン・・・」

「ファイ・・・貴女・・・!!」

「あたしに八つ当たりをしないでよ、迷惑よ? 人の家で。エルフの沽券に係わるわよ?」

「・・・・・・!!」   


 ファイも平常運転で軽くあしらう。

 何だかんだで、彼女も環境に適応したのであろう。

 逞しく成長していた。


「あの子にこちらの理屈を押し付けても意味はないわ、本当にどうでもいいみたいだから。本気になるだけ自分が馬鹿みたいになるわよ」

「・・・・・・」


 ファイの何もかもを諦めたような無表情が現実を語る。

 決して馬鹿にするでも、嘲笑う訳でも無い、何処か悟りを開いたような諦めの表情である。

 それが返って腹正しい。

 エルカは次期長老の候補として英才教育を受け育ってきた。

 そのエリート意識が強いために、他者との間に大きな隔たりがある事に気が付かない。

 何よりも自分の理屈が世界の中心と云う誤った認識が大きいのである。

 そんな彼女の行動は、自分に合わない物は排除すること以外にないのだった。

 実に短絡的なマニュアルエルフなのだ。

 

 幼い頃から英才教育を受けて、他人との接触があまり無い大学生が、いざ社会に出て就職するも巧く行かずに挫折するようなものと同じ理屈である。

 寧ろファイの方が巧く社会に適応していると言えよう。

 しかも自覚が無いのが質が悪いのである。

 エルフの里ではその理屈は通じるが、今いる場所が違う世界と云う事が頭から抜け落ちている。

 そんな状態で里に居る時と同じ振る舞いをしても、軋轢しか生み出さない事を学ぶべきなのだ。

 そんな事も知らない世間知らずのお嬢なのである。

 端的に言えば、親の教育が悪かった! だ。


「あなた達、何処までも人を馬鹿にしてぇ!!」

「別に馬鹿に等してないわよ! あんたの頭が固いだけでしょ!!」

「問答無用!!」 


 エルカはダガーを抜き放つとファイに斬りかかろうとする。

 その時テーブルに引っ掛かり、上に置かれた液体が毀れる。


「「「「「あっ!?」」」」」

「みんな伏せてええええええええぇぇぇぇぇっ!!」


 ――――チュドオオオオオオオオオォォォォォォォン!!


 安定していない【ハイマナ・ブロシア液】の爆発である。


「みんな無事か!? ケガをした奴はいるか!!」


 白煙と埃の舞う中、レイルは全員の安否を確認する。


「あたしは大丈夫よ! レイ」

「わたしもです、レイル」

「ふえぇ、びっくりしました」

「・・・・・この薬品・・・危険・・・コホッ!」

「白百合の方はどうだ!!」

「わたくしは大丈夫ですわ」

「私もですお姉様!」

「・・・・いったい何が・・・・」

「安定していない【ハイマナ・ブロシア液】が毀れた拍子に爆発したみたいですね。意外に威力が無いみたいですが」


 窓は衝撃で吹き飛び、風が流れ煙を押し流す。

 その時彼らが見たモノは・・・・・


「「「「「うわぁあああああああああぁぁぁぁぁおうぅ!!」」」」」


 アフロ姿のセラであった。

 しかも普段の髪よりはるかに増量したスーパーアフロである。

 どこぞのコントの如く、素晴らしくボリュームのあるアフロに一同騒然とした。

 しかもセラはいい笑顔をしていた。


「う、美しくありませんわ・・・あの髪型・・・」

「お姉さま!? 御気を確かに!!」

「おま、頭おかしいぞ!? なんでそんなことになってんだ!!」

「レイル・・・その言い方は別の意味にとれますから失礼ですよ!?」

「あんたなんでそんな頭になってんのよ!? 可笑しいでしょあたし達は何ともないのに!!」

「・・・・・姉さん、その髪形はないと思う・・・」

「ぷっ、な、なんか楽しい髪形ですねぇ、あははははははは・・・・!!」


 フィオだけがバカウケしていた。

 なんとなくステップを踏んで踊ってみると、フィオはいっそう笑い続け、床を叩いている。

 なんかのツボにハマったようだ。

 フィオの笑い続ける姿を満足げに確認すると、徐にアフロを外した。


「「「「「ヅラかよっ!!」」」」」

「なんでそんな無駄なことに意欲を燃やすんだ、お前は!!」

「笑いを取りに行かなくてもいいじゃない!! 何処まで抜け目がないのよあんたは!!」

「そこまで面白い事を追及するセラさんが、なぜか尊敬できます・・・何故なのでしょう?」

「・・・あは、あはは、はあ・・・あ~~可笑しかった・・・凄く笑わせてもらいました」

「フィオ・・・・あなた大丈夫・・・ひきつけ起こしていたけど・・・」


 セラの無駄な行動力に、正直どうでもいいムードが立ち込める。

 場を有耶無耶にする事に関しては関しては天才なのかもしれない。

 しかし空気に流されない人がここに一人いた。


「何処までも人をコケにして・・・許さないわあなた達・・・・・」

「そんなに気が短いと血管切れますよ? あっ、これ被ってみます?」

「ふざけないで!! 何よこんなモノっ!!」


 セラの手にしたアフロを叩き落とし、思いっきり踏みつけた。

 余程気が立っていたのだろう、彼女は許されざる過ちを犯した事に気づいていない。

 突然途轍もない殺気が部屋に充満する。

 

「なぁっ!?」

「・・・ふっ、ふふふふふ・・・こんなモノ? こんなモノと言いましたか・・・あなたは・・・」

「な、なに・・・」


 ――――ドゴンッ!!


 怖ろしく重い何かが床に落とされた音がリビングに響いた。

 セラの手には巨大な戦斧【暗黒神の轟戦斧 ダークネスシュテゥルム・レジェンド】の柄が握られていた。

 あまりにも禍々しい邪悪な意匠の戦斧で、超重量級の装備である。

 見た者に恐怖を与えるその気配に、エルカの顔は引き攣る。


「そのアフロは【踊る男の偉大な鬘】と言いまして、装備すれば素早さと幸運の祝福が与えられるレア装備ですよ? その効果確率は60%強、どんなカスな冒険者でも大概の攻撃を避け、更には魔物が落すレアアイテムのドロップ率を上げてくれるイカシタ装備です! 金額にすればその希少性から五百万ゴルダで売れる高額装備です。それをこんなモノと言いましたか? しかも足蹴にしましたね? あなたには死すら生ぬるい!! 生きたまま地獄を見てもらいます。ふふふふふ・・・・・」

「「「「「レジェンド級の武器で殺す気だああああああああっ!!」」」」」

「ひっ・・・ひいぃっ・・・・・」

「御祈りは済ませましたか? 言い残す事は? さぞかし甘やかされて生きてきたんでしょうねぇ、きっと死に顔は安らかでしょう・・・くくくくく・・・・・」


 アイテムコレクターにして、手に入れた装備をこよなく愛するセラにとって、エルカのした事は死刑宣告をするに値する許されざる大罪を犯したのだ。

 アフロを回収し、エルカに極上の笑みを向けるもその濃厚な殺意は濃くなる一方。

 エルカは甘く見ていた。

 たかが【半神族】と高を括っていた。

 だが対峙してははっきりと理解した。

 手を出すにしてもより計画的に綿密に、そして確実に倒せる算段がついて初めて戦うことが許される化け物である事を。

 例えそれで戦いを挑んでも、勝てる要素は皆無なのだ。

 覚醒を果たした【半神族】の真なる恐怖がこれから始まる。


「そう云えば【ハイマナ・ブロシア液】も無駄にしてくれましたよねぇ? さて如何してくれましょう・・・そうだ! これから僕は十数えます、その間に逃げてください。全力で逃げたほうがいいですよ? ゼロになったら僕が追いかけます、捕まったら・・・・・言わなくても分かりますよね?」


 最悪の鬼ごっこが今始まる。

 サーチ・アンド・デストロイ、今のセラは怒れる破壊神と化していた。

 選択権はエルカには無い。


「・・・それじゃ始めますよ、い~~ち、に~~い、さ~~ん・・・・」

「・・・・・・・!!」


 エルカは全力で逃走する。

 セラはそれを見て数を数えながら待ち続ける。

 誰もセラを止める事が出来ない。

 下手に刺激して飛び火すれば被害が大きくなるだけなのだから。

 触らぬ神に祟りなしであった。

 そして裁きの時が来る。


「きゅ~~う、じゅ~~うっ!! まてぇ~~~い、ル〇パ~~~ン!!」


 こうして命がけのケイドロが始まった。

 セラの速度は凄まじく、モノの数分でエルカを発見し交戦状態に突入した。

 時折魔法や剣戟の音が聞こえるが、その音は暫く続いていたと云う。


 エルカは殺されることはなかったが、酷く憔悴しセラの名を聞いただけでも恐慌状態に陥ったという。

 のちにこの出来事は【ロカス村の悪夢】としてエルフ達に語り継がれる事となる。

 それは【半神族】の恐ろしさを初めて知った出来事として記録されたのだった。


「HAHAHA、いいエルフは逃げたエルフだ!! 向かって来るエルフは良く訓練されたエルフだ!! ロカス村は地獄だぜぇ!! なんて、あははははははははははははは!!」

「うそ、魔法が通じない!! まさか【フォース・フィールド】!?」

「無駄無駄無駄無駄無断無駄無駄っ!! 打ち貫け氷の氷鎗!! 【コルド・ランス・レイン】!!」

「いやああああああああああああああっ!!」

「そらそらそらそら!! どうした若造!! 逃げるだけしか能がないのか!! あはははははは」

「きゃあああああああああっ!! ゆるしてえぇえええええぇぇぇぇっ!!」

「目で追をうとするな!! 感じろ!! なぁ~~んてね、 あははははははははははは」


 こうして一時間以上追い込まれ、徹底的に嬲られ、エルカは己の過ちを後悔したのであった。

 魔法では圧倒的な火力で負け、接近戦では戦斧で吹き飛ばされ、彼女はもはや逆らう気力すら圧し折られた。

 そこには脆弱な【半神族】は存在しなかった。


 エルカの悪夢は続く・・・・・


 本格バトルを書きたいなぁ・・・表現難しいけど・・・


 やっちまいますか・・・う~~~ん・・・

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